CULT映画ア・ラ・カルト!【17】薔薇の葬列

20240804 02
【プランタン銀座横の路上で買ったVHSビデオ】

SNAKEPIPE WROTE:

NHKのドキュランドで放映された「ジェナの世界 ロシア “恐怖”と闘うアーティスト」を観た。
原題は「Queendom」で2023年の作品だよ。
ロシアで独自のアート活動を続けるジェナのドキュメンタリー映画だった。
ジェナはノンバイナリー・ジェンダーであり、過激な衣装を身に着けてパフォーマンスを行うため、全く理解されないんだよね。
ロシアというお国柄のせいもあるけれど、2023年になっても迫害されてしまうことに衝撃を受けたよ。
LGBTQは世界的に容認されていると思ったからね。
ジェナの存在やロシアの現実を知ることができて、興味深い映画だったよ。
トレイラーがあったので載せておこう。

LGBTQで思い出したのが「薔薇の葬列 (1969年)」。
てっきり記事にしていると思い込んでいたけれど、書いていなかったことが判明!
2015年以来約9年ぶりに「CULT映画ア・ラ・カルト!」を更新しよう。
※ネタバレしていますので未鑑賞の方はご注意ください

「薔薇の葬列」は松本俊夫監督の作品で、主演は当時16歳だったピーター。
家出して働いていた六本木のクラブでスカウトされたというエピソードがWikipediaに載っているよ。
この映画がピーターのデビュー作だけど、新人とは思えない堂々とした演技を見せている。
あらすじを書いてみよう。

ゲイ・バー「ジュネ」のオーナー権田とナンバーワン、エディのめくるめく情事。
二人の密会を権田の愛人でもある「ジュネ」のママ、レダが見ていた。
ベッドの中で権田はエディにささやく。
「もう少しの辛抱だ。レダを必ず辞めさせる。そうしたらお前は『ジュネ』のママじゃないか」。
ベトナム戦争帰りの麻薬の売人トニーと一夜を共にするエディ。
フーテンのゲバラたちとのマリファナ、乱交パーティの世界に引き寄せられていくエディ。
1960年代末期の新宿、六本木、原宿を舞台に、ピーターとゲイボーイたちのドラマは血の惨劇へと変わっていく・・・。
(Amazonより)

続いてトレイラーを載せてみよう。
これは2020年にアップされたようなので、当時の予告編じゃないみたいね。

「薔薇の葬列」は、1967年に公開されたパゾリーニ監督の「アポロンの地獄(原題:Edipo Re)」をベースにした映画だという。
「アポロンの地獄」は父親を殺し、母親と結婚したソポクレスの「オイディプス王」を映画化していて、「薔薇の葬列」では、父親と母親を逆転させているところがポイント。
「薔薇の葬列」の中で、ピーターがもたれかかる壁に「アポロンの地獄」のポスターが出てくるシーンがある。
松本監督がインスパイアされた「アポロンの地獄」、SNAKEPIPEも観てみようかな?

「薔薇の葬列」では、突然関係のない映像が差し込まれることがある。
左は全裸の男性が後ろを向いて立っているシーンで、一人だけ白い薔薇をはさんでいるんだよね。
予告なしに度々挿入される映像だけど、一人だけ「薔薇の世界」の住人ということが良く分かる。
ほんの数秒だけのイメージだけど、強い印象を残すよ。

ゲイバー「ジュネ」で働く同僚達。
右の和服を着ているのが「ジュネ」のママ「レダ」で、どうやら本当にゲイバーで働いている方だったみたい。
映画の中でゲイの方にインタビューするドキュメンタリーも入り、演技とリアルの区別がつかなくなるところも斬新!
薬でラリってる人のインタビューもあって、本物に見えるんだけど実際はどうだったんだろう?

ゲイバーを舞台に悲劇が進行しているかと思いきや、笑いの要素もあるんだよね。
ピーターことエディとレダの喧嘩のシーン。
漫画みたいに吹き出しを入れた言葉での言い争いの後、取っ組み合いになる。
このシーンが早回しになって、非常にコミカルだよ。
スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ(原題:A Clockwork Orange 1971年)」に影響を与えたというのは、この早回しのシーンかな?
そしてエディもレダの喧嘩がプロレスみたいになっていて、これにも笑ってしまうよ。(笑)

エディの友人達はアングラ映画を作っていて、その映像が流れるシーンがある。
1分程度の短い実験映画なんだけど、この映像がとても面白いんだよね!
まるでサブリミナルのように、1秒に満たないほどの間にイメージ画像が何カットも挿入される。
その一部を画像にしてみたよ。
ゲバラと呼ばれるヒゲの男やルーベンスの「メデゥーサの首」、皮膚をツギハギにされた男など、不気味な画像が含まれる。
エディ(ピーター)の映像は、性と死なのかな。
インパクトのある前衛映画でSNAKEPIPEは大好き!(笑)
4畳半くらいの狭い一室に、7,8人の若者が集まって騒いでいるのは、いかにも60年代の雰囲気だよね。
この時20歳だったとしたら、現在75歳くらいかな。
みなさん、今は何をやってるんだろうね?

エディが通りすがりの男に言い寄られて、逃げたのが地下の画廊。
いくら男がしつこくても、地下までは追いかけてこない。
そこで開催されていた展覧会が「池田龍雄展」。
かなりアヴァンギャルドな作品なんだよね。
まるで妖怪の「百目」ように見えてしまうのは「巨人」という1956年の作品。
複数の目は、一個人のものなのか集合体として表現しているのか。
池田龍雄は岡本太郎や花田清輝らの「アヴァンギャルド芸術研究会」に参加していた経歴があるという。
カルト映画の中で紹介されるのに、ふさわしいアーティストだよ。
作品は国立近代美術館にも所蔵されているらしいので、目にしていたかもしれないね。

写真家の秋山庄太郎やデザイナーの粟津潔、映画評論家の淀川長治らがカメオ出演したり、映画の美術を担当したのが朝倉摂だったり、当時の最先端を行く著名人にも支持された映画だったことが分かる。
先にも書いたように、カットバックやフラッシュバックを多用する映像は実験的で、50年以上経った今でも新鮮に映る。
ゲイの世界を描く異色作というだけでも話題になるけれど、映画の一番の見どころはピーターの魅力だと思う。
様々な衣装や髪型で少女のようだったり妖艶なマダムのように見えるピーター。
ラストシーンの壮絶なシーンでも、まるで人形のような美しさなんだよね。

「薔薇の葬列」を一番最初に観たのは、2019年2月に書いた「ふたりのイエスタデイ chapter16 /The Monochrome set」にも登場したIさんに連れられて行った映画館。
場所はどこだったか覚えていない。
あれから何十年(?)経ったのか分からないけれど、何度観ても大好きな映画だよ。
まだ未鑑賞の方には、是非オススメだね!(笑)

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