好き好きアーツ!#24 Pedro Almodóvar part3

【特集した2本の映画のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

3回連続のペドロ・アルモドバル監督特集!
こんなに長く書き続けるのは珍しいかも?
すっかりお気に入りになってしまい、集中して鑑賞したため、自分が忘れないようにという備忘録的な意味もあるので、たまには良いか?(笑)
では早速いってみよう!

2009年の作品「抱擁のかけら」(原題:los abrazos rotos)。

14年前の事故で失明し過去を封印した脚本家のハリー・ケインは、かつてマテオ・ブランコという新進気鋭の映画監督だった。
ハリーは主演女優のレナと激しい恋に落ちるが、レナは権力のある、エルネスト・マルテルの愛人だった。
ある日、逃避行先の島で、二人を悲劇が襲う。
「抱擁のかけら」にはアルモドバル監督お得意の、映画の中で映画を撮影しているシーンが多く出てくる。
ペネロペ・クルス演じるレナは、その映画内映画「謎の鞄と女たち」の主役でもある。
いくつものウィッグを試し、カメラに向かってポーズを取るシーンが上の写真ね。
オードリー・ヘップバーン風にしたり、マダムっぽく決めたり。
まるでプロモーション・ビデオと言っても良いほど、様々なペネロペ・クルスの表情を鑑賞することができるんだよね!
ラ・ブーム」でソフィー・マルソーがデートに何を着ていこうかと、いろんな着せ替えやってたことを思い出す。
えっ、例えが古過ぎ?(笑)

映画内映画「謎の鞄と女たち」は、いかにもアルモドバル監督らしいブラック・コメディの作品でとても面白そうなんだよね。
その作品の中で恋人の元妻役でロッシ・デ・パルマも登場していたね!

14年前は映画監督マテオ・ブランコ、現在は脚本家ハリー・ケインと改名している役を演じるのはルイス・オマール
有名なスペイン人俳優で、実は書いていなかったけれど前回まとめた「バッド・エデュケーション」にも出演していたんだよね!
「バッド・エデュケーション」では元神父で、現在は出版社に勤める編集者で、愛に生きる役だった。
「抱擁のかけら」でも監督から脚本家になり、やっぱり愛に生きる役どころ。
映像世界では致命傷といえる失明というハンデを乗り越え、道を渡らせてくれた若い女性を家に連れて来るという離れ業まで身に付けているのはさすが!
杖をついて歩いていると、女性が近寄ってきて助けるシーンは他にも出てきたので、余程女性ウケが良い男性なんだろうね。(笑)

マテオ・ブランコ/ハリー・ケインを20年来公私共に支えているのがブランカ・ポルティーヨ演じるジュディット。
ブランカ・ポルティーヨは「ボルベール」で5分刈りの印象的な役で出演していたね!
「ボルベール」ではほとんど化粧っけのない女性だったけれど、「抱擁のかけら」では映画製作会社でバリバリ働く女性という役なので、バッチリ化粧をして別人のようになっていたよ。
14年間事実を封印し、ずっと心の中に重たい塊を抱えながら辛い時間を過ごしていたジュディットを上手に演じていた。
ブランカ・ポルティーヨの笑顔が素晴らしいんだよね。
他の出演作品も観てみたいな!

ジュディットの息子ディエゴ。
マテオ・ブランコ/ハリー・ケインの手伝いをしながら、夜はクラブでDJのバイトもしている。
母子家庭で育ち、母親思いの優しい性格である。
ハリーの脚本の手伝いをしているうちに、面白いストーリーを考え出し、ディエゴの作品として完成させて良いと許可される。
その時の脚本がB級のドラキュラ映画で、いかにもアルモドバル監督らしいコメディ要素満載なんだよね。(笑)
ハリーとやりとりしながらストーリーを決めていくシーンは、もしかしたらアルモドバル監督自身が実際に誰かと話ながら脚本を書いている過程と重なるのかもしれないね。
演じていたのはタマル・ノバス
最近はスペインのテレビで活躍しているようだ。
それにしてもディエゴ、出生の秘密を明かされて驚いてたけどさ。
もっと早く気付かないかね?(笑)

実業家エルネスト・マルテルの嫉妬深さと所有欲は、見ていてゾッとするほどである。
お金持ちなので、金に物を言わせて、なんでも自分の思い通りになると信じているのだろうか。
ビートルズじゃないけど「can’t buy me love」なんだよねえ!(笑)
ペネロペ・クルス演じるレナを秘書として雇っていた時から、きっと狙ってたんだろうなあ。
レナの父親を助け、恩を感じさせ利用し、愛人にしたのだろう。
その部分はキチンと描かれていなかったので、予想だけどね。
「おまえを抱けるなら死んでも良い」
なんて言われたレナが余計に引いちゃうのも納得だよね。(笑)
本物の愛に出会えないかわいそうな役を演じたのはホセ・ルイス・ゴメス
スペインのベテラン俳優のようで、いくつもの賞を受賞しているみたい。
初老の、嫌らしい役を成り切って演じていたのはさすがだね!

エルネスト・マルテルの息子エルネスト・マルテル・ジュニア。
金持ちの息子なのに、どうしてこんなにオタクっぽい雰囲気にしたんだろうね。(笑)
父親からの命令は絶対だったようで、映画撮影に行く愛人レナの様子を一部始終記録する役目である。
映画関係者から邪魔者扱いされながらも、全く気にすることなく撮影を続ける根性の持ち主。
14年後にはまるで別人になり、名前も変えて登場するんだけど、インパクトがあるのはこのオタク姿なので、こっちの写真だけ採用してみたよ!(笑)
演じていたのはスペインの俳優で監督でもあるルーベン・オチャンディアーノ
他の作品でのルーベンは知らないけれど、ここまで変態っぽい役はあんまりないんじゃないかな?
事故現場を発見した時の女の子っぽいしぐさが忘れられない。(笑)

スペイン版室井滋と呼びたいロラ・ドゥエニャスも「ボルベール」に引き続き出演していたよ!
エルネスト・マルテル・ジュニアが記録してきたフィルムは無音声映像だったため、何を喋っているのか解らない。
そのためエルネスト・マルテルは唇の動きから会話を再現するために、技術を持つ女性を自宅に招き愛人レナの状況を理解しようとするのである。
映像だけではなく、全てを掌握しておきたいという強い所有欲の表れだよね!
この読唇術を行う女性がロラ・ドゥエニャス。
レナと監督の会話をメモを元に映像に合わせて吹き替えるシーンは、会話が生々しいだけに非常に面白かった。
吹き替えながら隣で硬直するエルネスト・マルテルをチラチラ気にしながらも、再現していく場面はロラの演技力が光るね!

失明したハリー・ケインの現在と、14年前の映画監督だったマテオ・ブランコを2つの時代で描き、更に映画内映画のシーンも登場する時間軸が絡まった映画である。
14年前の情熱的な愛から現在の穏やかな愛への変化に安堵したのはSNAKEPIPEだけではないだろう。
ヘアメイクのオネエキャラや脚本を構想するシーン、「謎の鞄と女たち」などにアルモドバル色は充分出ていたけれど、鑑賞した中では毒があまり強くない映画だなと思った。
アルモドバル監督、ちょっと落ち着いたのかな?
すっかり油断していたためか、次の「私が、生きる肌」でまたもや仰天させられてしまったのである。

私が、生きる肌」(原題:La piel que habito)は2011年の映画である。

最愛の妻を亡くして以来、完璧な肌の開発研究に打ち込む天才形成外科医のロベル・レガルは、ある人物を監禁して禁断の実験に取り掛かる。
幽閉されているのは一体何者なのか?
どのような宿命のもとでロベルと巡り合ったのか…。

「私が、生きる肌」の主役である形成外科医のロベル・レガル。
広い邸宅はそのまま病院としても機能しているので、自宅で手術を行うことができる。
まるでブラックジャックだよね。(笑)
そして実際手掛けているのもブラックジャック並にびっくりするような高い技術力を要求される手術である。
遺伝子操作をする倫理的に問題がある実験も、目的のためには実施する。
禁断の実験に足を踏み入れるのに躊躇しないのも納得できてしまうね。

ロベル・レガルが学会で実験結果を発表するシーンで、学会の会長として登場していたのは、「抱擁のかけら」で実業家として出演していたホセ・ルイス・ゴメス。
やっぱり地位のある役柄が似合うなあ! (笑)

ロベル・レガルを演じていたのはアントニオ・バンデラス
一番初めにバンデラスを知ったのはロバート・ロドリゲス監督の「デスペラード」かな。
あの映画の馬鹿馬鹿しいアクションシーンが大好き!(笑)
バンデラスはペドロ・アルモドバル監督作品で俳優業をスタートさせ、初期のアルモドバル監督作品の常連だったことは今まで知らなかったよ。
バンデラスにとっては久しぶりに古巣に帰ったような気分という感じかな?

ロベル・レガル邸に幽閉されているベラ・クルス。
どうして監禁状態にあるのか、ベラ・クルスの正体は誰なのかということについては映画の核心部分なので、謎のままにしておこうね!
ベラ・クルスは白を基調とした広い部屋の中で、ヨガをしたり布を使った作品を作ったり、本を読んで一日を過ごしている。
作品を作るために参考にしていたのがルイーズ・ブルジョワの作品集だった。
何故この名前に聴き覚えがあるんだろうと調べてみると、六本木ヒルズにある巨大な蜘蛛の彫刻の作者だったんだね!
彼女の布を使った作品は、かなり不気味な雰囲気で興味あるな!

ベラ・クルスを演じていたのはエレナ・アナヤ
「トーク・トゥ・ハー」にも出演していたようだけど、どのシーンだったんだろう?
アルモドバル監督作品に出る女優は体当たりの演技が要求されることが多いけれど、エレナも本当に手術された人物のように見えたよ。
映画の中でのほとんどを全身タイツ姿でいるってすごいよね!(笑)
そしてこの全身タイツのデザインがジャン・ポール・ゴルチェだったとはびっくりだよね!

ロベル・レガル邸での家政婦、マリリア。
ロベルのことを赤ん坊の頃から育てているため、ほとんと家族と同じ扱いである。
マリリアの料理こそがロベルにとって、母の味といったところか。
ロベルのことを全て知り尽くしているので、使用人といえども忠告を与えることもある。
「女には注意しなさい」
ロベル、ちゃんと聞いておけば良かったのにね!

マリリアを演じていたのは、「オール・アバウト・マイ・マザー」ですっかりお馴染みのマリサ・パレデス
あの時は大女優の役だったのに、今回は家政婦!
お手伝いさんの制服もマリサ・パレデスが着るとファッショナブルに見えちゃうのは、さすがだよね!(笑)

家政婦マリリアの息子、セカ。
幼少の頃から悪事に染まり、強盗を働き警察に追われる身になっている。
カーニバルの衣装で変装し、正体を暴かれないようにして母親であるマリリアがいるロベル・レガル邸にやってくるのである。
警察に追われた身内が匿って欲しいと訪ねてくるシチュエーションは「キカ」にも出てきたよね!
その後の展開もほとんど同じ!(笑)
セカの登場により、平穏だったはずのロベル邸は変化してしまうのである。

セカを演じていたのはロベルト・アラモ
多くの映画に出演しているみたいだけど、トラの変装しか知らないと、他の作品でロベルトを発見するのは難しいかも?(笑)

ペドロ・アルモドバル監督特集part1に書いたけれど、一番初めに鑑賞したのが「私が、生きる肌」だったんだよね。
「なんだ、この話は?!」
と展開に仰天してしまったROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
これは本当に復讐なんだろうか?
ロベル・レガルのねじ曲がった倫理観は理解し難いなあ!

yahoo映画に載っているリンチ評論家滝本誠氏の解説によれば

原作を未読であれば幸い、これは観てから読むべき典型例だ。
ラストは小説の方がドス黒くキメている。

 

とのこと。
もしかしたら仰天するのは原作のほうなのかもしれないね?
フランス人作家ティエリー・ジョンケの「蜘蛛の微笑」 も読んでみたいね!(笑)

3回に分けて特集してきた7本のペドロ・アルモドバル監督の作品だけれど、やっぱりどうしても初期の作品も観たい!と熱望してしまう。
近所のレンタルDVD屋には見当たらないのが残念でならない。
と思っていたら、宅配レンタルの中に発見することができたんだよね!(笑)
5本レンタルして、すでに鑑賞済。
せっかくなので、鑑賞できた5本についても簡単にまとめてみたいと思う。
次回のアルモドバル監督特集もお楽しみに!

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