【作中に登場するエンジェル友清の作品をROCKHURRAHが再現!】
SNAKEPIPE WROTE:
今回のブログは、本格ミステリ大賞受賞作家である鳥飼否宇先生の著作を読み返して感想をまとめていくトリカイズム宣言!
以前読んでいても、再読して新しい発見をするSNAKEPIPE。
何度読んでも楽しいんだよね!(笑)
鳥飼先生の作品には、「観察者シリーズ」の他にもいくつかのシリーズがある。
綾鹿市(あやかし)という架空の地域で起こる事件シリーズ、その名もズバリ「綾鹿市シリーズ」も、鳥飼先生の代表作の一つだ。
今までトリカイズム宣言の中で、「綾鹿市シリーズ」の中から「太陽と戦慄」「痙攣的」「爆発的」「このどしゃぶりに日向小町は」について拙い感想を書かせて頂いている。
そして鳥飼先生ご自身から、コメントまで頂戴するファン冥利に尽きる体験をさせて頂いた。
鳥飼先生、いつもありがとうございます!
今回はその「綾鹿市シリーズ」から「逆説的」について書いてみよう。
「逆説的 十三人の申し分なき重罪人」は2005年に刊行された時には「逆説探偵 13人の申し分なき重罪人」だったらしい。
改題されて「逆説的」になったのね!
SNAKEPIPEの手元にあるのは「逆説的」だから改題後ということなんだね。
文庫版のあとがきで知ったけれど、「逆説的」は「小説推理」という月刊誌に毎月掲載されていた短編だったという。
それをまとめた13編それぞれに別の事件が起こる、連作短編集なのである。
今まで読んできた鳥飼先生の短編より短めな印象なのは、そのせいだったのね。(笑)
いつもは短編毎の感想を書く手法(というほどのものではないけど)だったけれど、「逆説的」に関しては1編が短いのでネタバレしないように書いていくのは難しいかもしれないな。
今回は主に「逆説的」の登場人物についてまとめてみよう。
鳥飼先生らしい、魅力的な人物が多かったからね!
「逆説的」は綾鹿署に勤務する、五龍神田(ごりゅうかんだ)の語りで進行する。
五龍神田の階級は巡査部長、年齢は43歳。
本人曰く「冴えない風貌の中年」という設定で、本人が語り部なので、あまり詳しい描写はない。
五龍神田の目で見た他の人物評には詳細な記述があるんだけどね。
鳥飼先生の著作「妄想女刑事」の主人公である宮藤希美のような妄想癖があるけれど、宮藤希美とは正反対の結果をもたらすのが特徴か。(笑)
それにしても五龍神田って名前、ものすごくインパクトあるよね?
鳥飼先生の創作なのかと思ったら、本当に存在する姓みたいだね。
うそっ?って思うような仰天名字って意外と多いことに驚くよ。
五龍神田巡査部長のことを「リュウの旦那」と呼んでいるのが、「たっちゃん」である。
「たっちゃん」こと田中辰也は、「逆説的」第1話冒頭から登場するホームレスだ。
西野中央公園を根城にして、およそ10年「公園の主」として君臨しているベテランのホームレスなのである。
「たっちゃん」はまるでギリシャの哲学者のような容姿で、五龍神田に様々な有益な情報をもたらしてくれる貴重な協力者なんだよね!
ギリシャの哲学者みたい、ということでエピクロス画像をチョイスしてみたよ!
この風貌ならスーツも似合いそうだもんね。(笑)
SNAKEPIPEが「逆説的」の中で一番興味を持ったのが「たっちゃん」かな。
「『太陽と戦慄』にも登場してるよ」
なんとROCKHURRAHから情報が!
SNAKEPIPEの貴重な情報源はROCKHURRAHだね。(笑)
鳥飼先生の著作「太陽と戦慄」も「 綾鹿市シリーズ」だから西野中央公園が登場して「たっちゃん」も出てきたわけね。
鳥飼ワールドには揺るぎない「綾鹿市」があって、地名や生活する人が確実に存在していることがよく分かる。
「 綾鹿市」のマップ欲しいなあ。(笑)
西野中央公園に出入りするようになった新入りホームレスが登場する。
「たっちゃん」の弟子みたいに行動を共にする、十(つなし)徳次郎、通称「じっとく」である。
それを聞いた五龍神田は、拾得(じっとく)を思い出す。
拾得とは中国、唐代の僧で普賢菩薩 の化身とされ、禅画にも描かれる人物だという。
右がその描かれた禅画で、左側のほうきを持っているのが拾得、右側が寒山(かんざん)という僧。
西野中央公園にいる「じっとく」は猫背で、もじゃもじゃの蓬髪をした薄汚れた男。
いわゆるホームレスらしい男だけれど、僧の拾得と同じように愚者のフリをしているだけなのだろうか?
「じっとく」の発する不思議な言葉が五龍神田にヒントを与えるところが面白いね!(笑)
五龍神田の同僚、綾鹿署に勤務する面々も他の鳥飼先生の著作に登場している。
五龍神田が主役として登場する「逆説的」は「綾鹿市シリーズ」のスピンオフ作品という認識で良いのかな?
五龍神田の上司である谷村警部補と南巡査部長のコンビはほとんどの「綾鹿市シリーズ」に登場している常連だからね。
谷村警部補はキューピー人形のような童顔なのに、ダミ声で下品、という特徴がある。
こんなギャップがある人、本当にいそうだよね!
あえて例えれば「Ted」みたいな感じかな?(笑)
そして南巡査部長は谷村警部補の腰巾着で、特徴は赤ら顔だという。
この2人組と五龍神田が競うように事件を解決していくのである。
もう一人、探偵として登場する星野万太郎についても書いておこうか。
星野万太郎も他の「綾鹿市シリーズ」でお馴染みの人物なんだよね。
黒縁メガネをかけた、特徴のない男とされる。
この特徴の無さが探偵にはもってこい、ということなんだけど…?(笑)
星野万太郎という名前は、元中日監督の星野仙一から来ているのでは?と推測。
仙を千として万に置き換え、一を太郎にして。(笑)
鳥飼先生の作品中に出てくる名前には、ヒネリがあることが多いので、勝手に深読みしちゃうよね!
「逆説的」にある13編はそれぞれ、非常に興味深い事件を扱っている短編なんだけど、その中でも特に印象に残った作品について書いてみよう。
SNAKEPIPEは鳥飼先生の作品中に現代アートが登場するのが大好き!
今回は「堕天使はペテン師」に現代アートが出てきたよ。
エンジェル友清というアーティスト名からして、「ちょっといかがわしい」雰囲気がよく表れているし、その作品も「いかにもありそう」で嬉しくなってしまった。(笑)
あやか市美術館(美術館もある!)の学芸員による「贋作/パロディ/オマージュ」に関する説明は、「痙攣的」の「闇の舞踏会」にもあった「盗用と流用」にも通じていて現代アートの核心に迫る話だよね!
そして結論は好き嫌いで良いのでは?で落ち着いていた。
これにはSNAKEPIPEも大賛成!
何回読んでも分からない難解な文章を理解せんでも、よかと!(笑)
己の直感で楽しめたらそれで良いもんね。
エンジェル友清の師匠である杉田悪鬼(すごい名前)が住んでいる双頂山は「本格的」「太陽と戦慄」にも出てきたよ、と再びROCKHURRAHからの指摘があったよ。(笑)
そしてROCKHURRAHがエンジェル友清の作品を動画にしてくれた。
TOP画像に載せてあるんだけど、こんな感じじゃないかな?
非常によく再現できているように思うよ!
「敬虔過ぎた狂信者」は、事件現場がまるで作品のようで、脳内に映像が再現できるようだった。
事件の現場はカトリック綾鹿教会、被害者がその教会の神父だという。
つい最近読んだ小栗虫太郎の「後光殺人事件」を思い出してしまったSNAKEPIPE。
宗教絡みだからね!
この短編の中で面白かったのは、教会に住む遊佐という軽度の知的障害がある男が「うう」としか喋らないのに、「じっとく」が通訳として完璧に遊佐の言葉を翻訳するところ。
しかも「じっとく」はそれまでは、ワンフレーズ程しか喋らなかったのに、通訳になった途端ペラペラ喋り出すんだよね。(笑)
谷村警部補が看破した謎も秀逸!
鳥飼先生らしいトリックだよね。
探偵の星野万太郎が初登場した「目立ちたがりなスリ師」は変わった動機を扱っていたね。
「虫が好かないテロリスト」は、これまでにないスケールの大きな作品で、まるで「相棒」や「踊る大捜査線」のような刑事ドラマみたいだった。
短編だけど、この映像化された作品を観たかったな!(笑)
前述したように月刊誌に連載されていたというだけあって、短編は5月から順番に月日の経過が共に描かれていた。
綾鹿市ではこんなに事件が起こるんだね。(笑)
毎回の構成として、「じっとく」がヒントをボソリと呟き、それを五龍神田が早とちりしてしまうところが「逆説的」というタイトルに絡んでいる部分なんだよね!
読んでいるこちらまで踊らされてしまわないように注意!(笑)
毎月締め切りが決まった中で、書き続けていくことの難しさが「あとがき」に記されていたけれど、鳥飼先生の作品には苦し紛れで完成させた感じは全くなかったね。
どの短編もとても楽しく読ませて頂いた。
「綾鹿市シリーズ」で、まだまとめていないのは「本格的」と「官能的」だね。
また再読してみよう!