ミケル・バルセロ展 鑑賞

20220313 top
【オペラシティアートギャラリー入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

2021年3月に「佐藤可士和展」を鑑賞した帰り、国立新美術館のチラシを置いてあるコーナーで、SNAKEPIPEの目に止まったのが「ミケル・バルセロ展」のフライヤーだった。
確認したところ「国立国際美術館」 が会場となっていて、なんと大阪!
こんな展覧会を東京でやってくれたらいいのに、というSNAKEPIPEの願いが通じたのか。
東京オペラシティギャラリーでの開催を知った時には小躍りしたよ。(笑)
展覧会は1月13日から始まっていたので、客入りが落ち着いたのか、予約なしで入場できるという。
SNAKEPIPEの誕生日記念第一弾として、ROCKHURRAHがバルセロ展をプレゼントしてくれたよ!
第二弾もあるらしいので、期待しちゃうね。(笑)

ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、天気予報の最高気温に騙されてしまった。
非常に寒い思いをしながら、初台に向かう。
春は風が強くて冷たいから油断禁物だよね。

オペラシティアートギャラリーのサイトを参照させてもらい、簡単にミケル・バルセロの経歴を書いておこうか。

1957 スペイン・マジョルカ島生まれ
1974-75 パルマ・デ・マジョルカ、バルセロナの美術学校に学ぶ
1976 この頃前衛芸術家のグループや自然保護団体とアナーキストのグループの行動に参加
1982 ドイツ、カッセルで開催の国際美術展「ドクメンタ7」に出品し、ヨーゼフ・ボイス、ジャン=ミシェル・バスキアらと出会う
1984 パリに拠点を置く。ヴェネツィア・ビエンナーレに参加
1985 この年から翌年にかけ初の大規模な個展がフランス、スペイン、アメリカの美術館を巡回
1986 マジョルカ島の古い狩猟館を住居兼アトリエにする。ニューヨーク、レオ・カステリ画廊で個展
1988 初めてアフリカを旅しサハラ砂漠を縦断。マリにアトリエを構え、以後繰り返し滞在し制作
1993 アルタミラ洞窟壁画を訪れる
1995 マリで陶作品の制作を始め、以後欧州各地で制作
1996 パリ、ジュ・ド・ポーム国立美術館とポンピドゥー・センターで回顧展

1957年生まれなので、現在65歳になるんだね。
80年代から大規模な個展が開催されているのに、SNAKEPIPEは全く知らなかったアーティストだよ。
そしてバルセロの活動は絵画にとどまらず、本の挿絵、彫刻、陶作品、パフォーマンス、舞台美術や礼拝堂の装飾だったり天井画なども手がけているという。
洞窟壁画への関心が高く、ショーヴェ洞窟のレプリカプロジェクトでは学術委員に名を連ねているんだとか。
ちなみにショーヴェ洞窟の壁画は、有名なラスコー洞窟より2万年以上前に描かれたと推測されているらしいね。
世界的に有名なミケル・バルセロ、日本初大規模展、期待しちゃうよ!(笑) 

予約なしで大丈夫というのは、会場に入って納得する。
お客さんが少ないため、ガラーンとしていてゆっくり観て回れるよ!
とても良い環境だね。
数枚を除いて撮影もオッケーなので、たくさん撮影できたよ。
それでは早速紹介していこう。

「こわいっ!」
観た瞬間から恐怖を覚えたのが、2019年の作品「下は熱い」。
海と魚が題材と聞けば、穏やかなイメージが浮かぶかもしれないんだけど。
バルセロの魚は、飛び出す絵本状態で、魚が立体的なんだよね。
タイトルの意味は不明だけど、SNAKEPIPEはこの絵を観て、筒井康隆の小説「魚」を思い出していた。
なんでもない日常風景が一変する、あの恐怖。
誰もが経験し得るような話だったから、余計に怖かったのかもしれない。
じわじわと忍び寄ってくる物言わぬ魚の群れ。
あの小説にピッタリの作品じゃないかな?
「下は熱い」の部分をアップで載せてみよう。
魚の頭部分が飛び出しているのが分かるかな?
バルセロ、すごい!
やや興奮気味に鑑賞を続ける。

この絵の前で動けなくなってしまったSNAKEPIPE。
遠目では「もやっ」とした印象しかないと思うけど、実物には、なんとも言えない「念」があるように感じるんだよね。
亡霊たちが船に乗って漂っているようなイメージ。
「不確かな旅」も2019年の作品とのこと。
色合いは落ち着いているし、海と船というシンプルな対象しか描いていないのに、戦慄させらてしまうよ。
バルセロ、恐るべし!

黄色いバックに赤い円。
禅の円相のようにも見えてくるけど、一体なんだろう?
どんどん近づくと、闘牛場を真上から描いていることがわかってくる。
ササッと筆を走らせたようにしか見えないのに、 真ん中の黒い部分は闘牛士と牛なんだね。
バルセロは闘牛が好きらしく、闘牛に関する絵が何枚か展示されていたよ。
載せた画像「イン・メディア・レス」は2019年の作品で、1990年「とどめの一突き」に呼応するような構図になっていたね。 
繰り返し同じような題材を似た構図で描くというのは、とても大事に思っている作品なんだろうね。

「亜鉛の白:弾丸の白」は1992年の作品。
キリストの磔刑図をアレンジしているという。
逆さ吊りのヤギの下には、頭蓋骨があり、ヤギの股付近には白いタコが描かれている。
意味は掴みきれないけれど、不穏な雰囲気は十分感じるよね。
海の悪魔とも呼ばれる白いタコが、逆さ吊りにされた黒いヤギを喰らっているようにも見えてくる。
バルセロはいくつもの題材を一枚の絵に描くことが少なくて、一つを大きくバーンと見せることが多いかも。
より一層インパクトが強くなるよね。

展覧会のポスターに使用されていたのが、1991年の作品「雉のいるテーブル」。
西アフリカの魔除け市(フェティッシュ・マーケット)で売られている、まじないや呪術で使用される動物たちのミイラに着想を得て描かれたものだという。
テーブルに並べられているのは、そうしたおどろおどろしい物品なんだね。
ところどころに見える赤い色がなんとも不吉で、詳細を観察していくほどに不気味さが増す。
年表にもあったように、バルセロはアフリカにもアトリエがあり、過酷な風土に魅せられたんだとか。
生を実感できる環境に身をおくことで、制作に幅が出たのかもしれないね。

アフリカや洞窟壁画に惹かれるバルセロ。
原始的な魂で制作したのがセラミックの作品群なんだよね。
画像の手前は「カサゴの群れ」という2020年の作品。
恐ろしい形相のカサゴが口を開けていて、今にも飛び出して人に襲いかかりそうな迫力!
ラフな作りと着色だからこそ、余計に怖いのかもしれない。
奥に見える作品も、素晴らしくて欲しくなったよ。(笑) 
洞窟壁画みたいな絵が描かれているプリミティブな作品も良かったね。

上のカサゴもそうだけど、バルセロの作品は作品集などの2次元媒体で観ても、分からないかもしれない。
わかりやすいように、キャンバスを横から撮影してみたのがこれ。
キャンバスが波打ってるのが分かるかな。
絵の具を塗り重ねて厚みを出すアーティストは多いけれど、バルセロはキャンバス自体に凹凸をつけて、立体感を出しているんだよね。
「青い作業着を着た自画像」とい撮影禁止だった作品は、その凹凸を利用して見る角度によって、バルセロの違う年代を表現していたよ。
こうした作品も、実物じゃないと分からない仕掛けだよね。

まるでネガフィルムのように見える作品。
これはブリーチ・ペインティングといって、絵の具を脱色しながら描く技法だという。
漂白剤に使われる次亜塩素酸塩水溶液を使用し、黒色の絵の具を脱色する。
時間が経たないとどれくらい脱色できたか分からない、手探り状態での制作だというから、実験的だよね。
フィルムを使って撮影した写真が、現像してから何が写っているのか確認できる行為に近い感じ。
ネガフィルムみたい、と思ったのは間違いではないかもね。(笑)

マリの女性を描いた作品で、タイトルは「内生する1人を含む4人」。
一番右の女性には、腹部に胎児がいるみたいだよね。
アフリカの人物を描いた作品は、色鮮やかで、滑らかに筆を走らせ、ほんの数分で仕上げたような即興性を感じた。
サラサラと描いたようにみえるのに、女性が4人いるとか、ターバン巻いた女性が歩いているところだとすぐに分かるんだよね。
アフリカのシリーズは、女性たちが生き生きと描かれている。
ゴーギャンはタヒチ、バルセロはマリ、といったところかな?

バルセロが行った実験的なパフォーマンス映像が、展覧会で鑑賞できた。
YouTubeで見つけたので、載せておこう。 

紙に水で描いた絵だという。 
即興で、何気なく動かしているように見えるのに、どんどんバルセロの世界が構築されていく様は圧巻!
水が蒸発していくと、徐々に絵が薄れていき、最後には消滅してしまう。 
その儚さも含めて、パフォーマンスなんだね。

日本ではほとんど紹介されていなかったスペインの巨匠、ミケル・バルセロ。
圧倒的な迫力に慄えてしまったSNAKEPIPE。
鑑賞できて本当に良かった展覧会だった。
招待してくれたROCKHURRAHに感謝だね!(笑) 

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