時に忘れられた人々【13】パワーポップ編1

【ポップなパワーを表現してみたが、意味不明】

ROCKHURRAH WROTE:

最近は女ロック特集ばっかりやってるが、忘れちゃならないのがこの「時に忘れられた人々」シリーズ、要するに今の時代にあまり語られる事がなくなった人々に焦点を当てたROCKHURRAHの主力記事というわけだ。 今回はヒネリもなく直球で行こうと先ほど決心した次第で、ズバリ単純明快にパワーポップの事を語ってみよう。 パワーポップと言ってもかなり曖昧なジャンルで、色んなところから色んなものがパワーポップ扱いされてる昨今だが、ROCKHURRAHはやっぱり70〜80年代英国をメインで書きたい。通常パワーポップと呼ばれている音楽とはかけ離れているかも知れないけど、解釈は人それぞれという事で。 直球勝負だから今回は妙に長くて言い訳がましい前置きもなしでさっさと始める事にしよう。

と思ったがそもそもパワーポップについて何も語ってなかった事に今気付いた。パワーポップとはズバリ、パワーがあってポップなロックの事だ。改めて解説するまでもなかったか(笑)。起源はザ・フーとの事だがそんな昔からの事を連綿と書き綴ってパワーポップ史を完成させるつもりはないから、これは省略しよう。 70年代パンクの後でニュー・ウェイブが始まり、その辺に湧き出てきたバンドの中で近い傾向のものが一緒くたに紹介されてた時代。パワーポップもその中のひとつのジャンルには違いないが、実は「俺たちはパワーポップに属する」などと自称していたバンドはほとんどいないかも。その存在自体に「?」マークがつく勝手なネーミングだが、割と一般的に使われるジャンル名だし誰でもわかる音楽だからまあいいか。 いやはや、やっぱり前置き長かったですか?

Bram Tchaikovsky / Girl Of My Dreams

1stアルバムの邦題がズバリ「パワーポップの仕掛け人」だから、誰が何と言っても代表選手なのは間違いないね。ブラム・チャイコフスキーなどと大仰な名前が付いているが単なるイギリス人。元々はパンクの時代くらいに活躍していたモーターズというバンドの出身だ。パンク直前に流行ったパブ・ロックの分野で人気だったダックス・デラックス、ここのニック・ガーヴェイが作ったのがモーターズだった、などと話すと長くなってしまうのでこれまた省略。 ブラム・チャイコフスキーはモーターズではあまり目立たなかったが、1978年にここを離れて自分のバンドを結成。それがBram Tchaikovsky’s Battle Axeだ。 年号苦手な人は「ソロの道、行くなや(1978)ブラム・チャイコフスキー」と覚えておくと良い。 しかし戦斧かあ、重くて使いづらいからあまり好きじゃないんだよね。ん?モンハンじゃないのか? シングルのジャケットがバイクにまたがったイラストだったし、勝手にバイク好きだと断定してたので、自分の暴走族(?)の名前をそのままバンド名にしたものだと推測していたものよ。日本で紹介された時にはバトル・アックスは名乗ってなく、個人名だけで3人組のバンドだったが、元ヘヴィメタル・キッズ(というヘヴィメタルじゃないバンド)のメンバーなどが脇を固めていて渋さこの上もない。

そう、ブラム・チャイコフスキーの事を語る時にROCKHURRAHが最も言いたいのがこの「渋み」なのだ。パワーポップなどと呼ばれてはいても彼の声や風貌、そして曲調にはどこか陰り、錆びのようなものを感じてしまう。我がオンライン・ショップで彼の事を紹介した時「暴走族で言えばナンバー2という感じ」と書いたが、言い得て妙。 さて、この彼の大傑作アルバムが冒頭で書いた「パワーポップの仕掛け人」だ。この後も少しアルバムを出すけど、1stが完璧にベスト盤。いまではさっぱり行かなくなったけど、80年代の文化屋雑貨店や宇宙百貨を思い出すようなキッチュ(死語?)なレコード・ジャケットも魅力的。前に当ブログ「春色ジャケット大特集(なわけない)」でも紹介したな。ギターのジャカジャーンというかき鳴らし方が絶妙のタイミングで入ってきて、しかも極上のポップ・センス。個人的にROCKHURRAHはブラム・チャイコフスキー登場以前からギターはジャカジャーンというダイナミックな奏法を得意としていたので、まるで自分がデビューしたかのような喜びで友人たちに紹介しまくっていたのを思い出す。 その彼の代表作がこの「Girl Of My Dreams」だろう。ザ・フーの「The Kids Are Alright」とか好きな人だったら必ず昇天間違い無しの名曲。赤白ボーダーのTシャツと言えばラフィン・ノーズのチャーミーか楳図かずおだろうが、これがノースリーブとなるとブラムのトレードマークとなる。しかしなんでこの人は歌う時に切ない、と言うよりは情けない苦しげな顔立ちになるんだろうね。もしかしてパワーポップのくせに体力ないのか?見た目はアレだけど、曲は最高なのでこれこそパワーポップと胸を張って言い切れる。

XTC / Radios In Motion

元々はプログレなどのレーベルだったがパンク直後の時代に元気なアーティストをたくさん抱えて、大躍進したのがヴァージン・レコードだろう。XTCはそのヴァージンの中でも筆頭という扱いでデビューしたバンドだ。オンライン・ショップやブログでも何度か書いたから、個人的にはいまさらなんだけど、初期のXTCの持つ圧倒的な勢いと演奏力は誰もが認めるものだった。アンディ・パートリッジの引っ掻くようなギターと素晴らしい声量のヴォーカル、時にはいびつでネジレまくったかのような曲調になるアヴァンギャルドな部分もあるけど、それでも余りある素晴らしいポップなセンス。そしてコリン・ムールディングの方はもっと正統派の曲を作る。XTCはこの2人によるバランス感覚が優れていて、新しい世代の大衆音楽として大活躍していた。ビートルズや10ccなどと同じようにポップと実験性が同居していたんだよね。 4作目の「Black Sea」くらいまでは素晴らしい勢いだったけど、残念な事にXTCはその後、ライブをやらない宣言をしてしまった。スタジオで音をコネコネするのは製作者にとっては楽しい出来事だろうけど、まとまりが良すぎて次第につまらない世界になってしまう(個人的感想。この後のXTCがいいという人も多数)。 「Radios In Motion」はそんなROCKHURRAHが一番好きなXTCの曲。デビュー曲じゃないしシングル曲でもないけど、1stアルバム「White Music」の1曲目。輸入盤を買い漁っていてデビュー当時から知ってるよ、というファン以外は普通この曲が最初に聴く曲となるだろう。性急なドラム、単調なベース、そしてウィルコ・ジョンソン直系かと思われるギターのストロークがかぶさったところで歓声をあげた人は多かろう。時代的にはまだパンクのヴァリエーションのひとつ、荒々しくパワーがあるのは当たり前とも言えるけど、このものすごい勢いとポップなセンスはまさしくニュー・ウェイブそのもの。パワーポップの殿堂入りは間違いなしの名曲だ。ちなみに輸入盤で買って歌詞カードもなかったバカ少年ROCKHURRAH(英語力皆無)は、この曲のカタカナ歌詞を「オゼザメッセンジャバチャイドー、アタタガリニチベイ・・・」などと勝手に作って友人と合唱していたものだ。今でも知力アップはしてないけど、ああ、バカな少年時代。

Buzzcocks – I Can’t Control Myself

バズコックスは誰もが知ってる通り初期パンクの重要なバンドだが、パワーポップの直接の元祖としても語られる事が多い。ポップでパワーのあるパンクはパワーポップでもあるというような曖昧だけど当たり前な境界線でいいわけだ。どんなにポップでもモヒカンだったらパワーポップとは言わないとか、アグレッシブな音楽や歌詞だったらパンクとか、その辺も聴く人次第で曖昧。 まあともかくバズコックス、マンチェスターを代表するパンク・バンドだったわけで、一番初期にはマガジンのハワード・デヴォートがヴォーカルだったというのも有名な話。1stアルバムの時にはもう脱退してたんだけど、デヴォート在籍時の珍しい映像がこの曲だ。聴いてわかる人はわかる「Wild Thing」で有名な60年代バンド、トロッグスのカヴァー曲をやっておる。デヴォートのグニュグニャなヴォーカル・スタイルは素晴らしいが、実は原曲の方が遥かにパワフル。こりゃいきなりパワーポップ失格か? デヴォートが抜けた後はギタリストのピート・シェリーが不束ながらもヴォーカルに昇格したわけだが、この腑抜けたヴォーカル・スタイルと艶もスター性も皆無なルックスでもなぜかバッチリとファンの心を鷲掴みにした。そういう点では奇跡のパンク・バンドだと言える。つまりそういう地味なルックスを抜きにして、純粋に歌の良さだけでバズコックスはヒットしたわけだ。確かに誰の耳にも残る素晴らしい名曲をいくつも残してるからね。ROCKHURRAHも貶してはいるがバズコックスの大ファンだ。ボックス・セットまで持ってるよ。

その作曲センスの良さを世間に知らしめたのが1st収録、4枚目のシングルだったこの曲「I Don’t Mind」だ。3rdシングル「What Do I Get?」と共に代表曲と言っても良い。安定感がなくて問題アリアリの演奏と素っ頓狂なシェリーのヴォーカル、この紙一重の危うさと絶妙な曲の良さがたまらない魅力だよ。

The Rezillos / Destination Venus

初期パワーポップの中でROCKHURRAHが即座に思い出すバンドばかりを書いてきたけど、このレジロスもパンク/パワーポップの狭間にあるバンドでパワーポップ好きの誰もが納得出来る名曲をたくさん残しているな。大好きで来日公演まで行ったのはウチのブログでも前に書いた通り(参照記事)。 スコットランド、エジンバラのバンドだと聞いても全然ピンとこないくらいに派手でギンギンに楽しいステージ、そしてグリッター的な衣装。まあ同時代のスコティッシュとして黄色原色のジャンプスーツとか平気で着てたスキッズがいるから、スコットランド=地味で田舎っぽいとは思ってないけど、アメリカのバンドだよと言われても普通に信じるくらいレジロスはスコティッシュっぽくない。レーベルもイギリスっぽくなくてサイアーだったしね。

このバンドの最大の魅力は縦横の縮尺が少し変なサングラス男ユージンと元気いっぱいで明るいフェイの男女ヴォーカルによる楽しげな掛け合いのステージだろう。特に短髪美女ヴォーカルの草分け、フェイは数年前に観たライブでもまだミニスカート着用で78年当時と比べても衰えた感じはしなかった。まさに女は不老不死。てなわけで初期XTCと同じく、勢いのある演奏に2人の声が絡むとレジロスのポップ・ワールドが炸裂する。 50〜60年代のポップ・カルチャーとレトロSF(と言うかSFコミック)などの要素がパンクのフィルターを通して見事に融合した世界。アメリカのB-52’sと似たような感じでさらにお手軽、わかりやすいのがレジロスの音楽だ。 レヴィロスと名前を変えて活動している時もあるけど、どちらもパンク、ロックンロール、ロカビリー、ガレージ、50’s、60’sという要素がごった煮で、もちろん今回書いたようにパワーポップのファンも大絶賛出来る内容、素晴らしい世界だ。

まあ今回のブログ全体に言える事だけど、拙いコメントなど不要だね。これらのバンドを知らない人はビデオを見れば単純明快にパワーポップを知る事になるだろう。音楽の好みは人によって違うだろうけど、こういうものを求めてる人にはドンピシャな内容なのは間違いない。

一回で終わるつもりで書きだしたけど案外長く書いた割にはまだ4バンド。ROCKHURRAHの一日の活動量を超えてしまったから(人としてどうか?と思えるほど低い活動量だな)、続きはまた近日に書く事にしよう。

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