篠田桃紅展 鑑賞

20220529 top
【毎度おなじみの構図で看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

毎週日曜日にNHKで放映されている「日曜美術館 アートシーン」は、15分という短い時間にも関わらず、展覧会情報を知るのに最適な番組なんだよね!
範囲は全国にまたがっているため、例えば山口県立美術館で開催されている展覧会に興味を持ったとしても、行くことは難しいけど。(笑)
全く知らなかったアーティストや文化について学べるので、楽しみにしているんだよね!
先日の放送された展覧会で、観た瞬間から「これ!行きたい!」と叫んだのが、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている「篠田桃紅展」だった。

SNAKEPIPEには初耳だったアーティストだけど、1950年代から有名な方のようで。
まずは篠田桃紅の略歴をまとめておこうか。(東京オペラシティアートギャラリーサイトより抜粋)

1913 中国大連に生まれ、翌年父の転勤で東京に移る
1940 銀座鳩居堂で初めての書の個展を開催するが、「根なし草」と酷評される
1947 この頃より文字に囚われない抽象的な作品を制作しはじめる
1954 サンパウロ市400年祭の日本政府館(設計・丹下健三)に壁書を制作
ニューヨーク近代美術館「日本の書」展に出品。
1955 ベルギーの画家ピエール・アレシンスキーの映画「日本の書」撮影のために制作を実演
1956 単身渡米
主にニューヨークを拠点に2年にわたり活動、全米各地およびパリで個展を開催
1958 帰国し大田区田園調布に住む
日本で制作して海外で精力的に発表しながら、独自の抽象表現に取り組んでいく
1965 国立京都国際会館(設計: 大谷幸夫)のためにレリーフと壁画を制作
ベティ・パーソンズ画廊(ニューヨーク)で個展(以後複数回開催)
1974 増上寺(東京)のために壁画と襖絵を制作
2003 関市立篠田桃紅美術空間開館
2021 東京都内で逝去

昨年107歳で亡くなっているんだね。
番組内では100歳を超えても、作品制作に取り組む様子が映し出されていた。
1956年に40歳を過ぎて単身渡米とは、勇気あるよ!
ちなみに草間彌生の渡米は1年後の1957年だったようなので、先輩にあたるんだね。
海外での評価も相当に高かったことが、年表からも分かる。
建築家とのコラボも多かったようで、もしかしたら知らないうちに篠田桃紅の作品を目にしていたのかもしれない。
パワフルな活動をしていた篠田桃紅だけれど、制作中も着物姿というのが、なんとも粋じゃないの!
日本女性の気高さや気丈さを体現していたように感じたよ。

アートシーンを観てから、およそ2週間後にROCKHURRAHとオペラシティギャラリーに行く。
前回オペラシティを訪れたのは2022年3月の「ミケル・バルセロ展」なので、つい2ヶ月前のこと。
あの時は服装を失敗して寒かった記憶があるけれど、出かけた日は25℃を超える夏日の予報。
冷房対策したほうが良い気温になってるよね。

オペラシティアートギャラリーは、予約の必要がなく、会場でチケットを購入するシステムを採用している。
万が一混雑した場合には待たされるというシンプルさ!
今まで何度か訪れた経験では、そこまで混み合うことがなく、ゆったり鑑賞できるギャラリーだという認識を持っていた。
開場時間である11時少し前に着くと、今までとは違う光景を目にして驚く。
チケット購入のために列ができているじゃないの!
およそ20名程度の後ろに並び、観客チェックを始める。
ROCKHURRAH RECORDSと同じようにアートシーン効果なのか、以前より篠田桃紅を知っていてやってきたのか?
どちらかというと年齢層高めの観客が多い印象だよ。

いよいよ開場。
通常と違っていたのは観客の多さだけではなく、撮影が禁止だったこと。
白髪一雄やミケル・バルセロの展覧会では、一部のみ撮影禁止はあったけれど、すべてダメというのは初めてだよ!
作品一覧に印をつけておくためのペンもなく、本当に鑑賞するだけになってしまったよ。
それでは感想をまとめていこう!

書家を目指していた篠田桃紅が、初個展で酷評されたのは、伝統にとらわれない自由な書を発表したためらしい。
確かに一般的な書道とは大きく違い、感情の吐露と激しさが伝わってくる作品だよ。
パンクな感じがして好きだけど、1940年代に女性がこの表現を見せたら驚かれただろうね。

続いても書の作品。
万葉集に収められた大津皇子が詠んだ歌が書かれている。
「あしひきの山のしづくに妹待つと 我立ち濡れぬ山のしづくに」
原稿用紙に似せた格子に、一文字ずつ書き連ね、最後の一枡に小さく「大津皇子」と書かれているんだよね!
これを観てROCKHURRAHがフフッと笑っている。
篠田桃紅の遊び心が伝わってくる作品だよね!
画像奥には、また別のパンクな書が見える。
上の作品、大津皇子の作品、奥のパンクの書と比べてみただけでも、桃紅フォントの違いが分かるよね。

会場を進んで行くと、書から次第に抽象絵画に展示が変化していく。
「カッコいい!」
構図と色彩とデザイン。
すべてがバシッと決まってるんだよね。
陳腐な言い方だけど「和モダン」の先駆者なんだろうな。
墨の濃淡と赤色という非常にシンプルな色だけを使用しているのも特徴のひとつ。
日本画における間の使い方に似た構図は、篠田桃紅の場合アメリカの抽象絵画に近いのかもしれないね?
経歴には、家庭環境や少女時代についての記述が少ないので、どうしてこのような表現が生まれてきたのか謎だよ。
1950年代の日本といえば、前述の白髪一雄も参加していた「具体美術協会」などの前衛芸術まっさかりだったことを思い出す。
その当時、篠田桃紅と「具体美術協会」の接点はなかったのかな?
想像すると面白いよね!

1960年代になって、フィラデルフィア美術館から来日した刷師のアーサー・フローリーの勧めにより、リトグラフ制作を始める篠田桃紅。
この時の年齢47歳くらい?
40歳を過ぎてから渡米できる女性なので、年に関係なく新しいことにチャレンジするんだね。
リトグラフの作品も素晴らしくて、ロシア構成主義やバウハウスっぽい雰囲気で、ROCKHURRAHとSNAKEPIPEはよだれがダラダラでたよ!(笑)
ジャポニズムミーツバウハウスだね。
とてもスタイリッシュだったよ。

まるで佐倉にある川村記念美術館のロスコルームか、といった部屋もあったよ。
真ん中に椅子が置いてあったので、座ってじっくり鑑賞してみる。
四面ある壁、それぞれに大型の作品が展示されていたんだよね。
これはもう桃紅ルームでしょ!(笑)
岐阜県関市や新潟県に篠田桃紅の美術館があるというので、是非この部屋を作って欲しいよ。
SNAKEPIPEが知らないだけで、もうすでに桃紅ルームあったりしてね?
およそ120点という相当な展示数を鑑賞できて、大満足の展覧会だった。

2階のフロアでは、篠田桃紅にちなんで「1960-80年代の抽象」が開催されていた。
こちらは撮影オッケー!
やったーと思ったのもつかの間、ガラスに反射してキレイに撮影できないよ。
写真の出来はいまいちだけど、一応載せてみようか。

韓国のユン・ヒョンクン(尹亨根/Yun Hyong-keun)の「Umber-blue ’77」。
ピンク・レディー「カルメン’77」の時代ってことね!(古い)
マーク・ロスコかバーネット・ニューマンか、といった感じだけど、実際70年代にニューヨークで触発されたらしい。
韓国の伝統的な水墨画を思わせる抽象絵画は、篠田桃紅の韓国版といったところかな。
黒色の濃淡や、ベージュの縁が淡くもやっとしているところにグッとくるよ。
最近は抽象絵画に心を惹かれるんだよね!(笑)
ユン・ヒョンクンも知らなかったので、記憶しておこう!

長年来の友人Mなら「あ!かずおちゃん!」と駆け寄るに違いない、白髪一雄の作品も展示されていたよ。
キャンパスからはみ出んばかりの迫力は、観間違わないね。
2020年2月に鑑賞した「白髪一雄 a retrospective展」でも観ているはずだけど、他のアーティストの作品と並んでいると、その特異性が際立つよ。
日本人離れした大胆さ、やっぱり最高だね!(笑)

「マーク・ロスコじゃないの?」
思わず声に出したSNAKEPIPEにタイトルを見るように促すROCKHURRAH。
「More Tragic! More Plangent!…More Purple! Rothko’s Chapel 1」 という作品名で、アーティストはなんとマイク・ケリー!
2018年4月にワタリウム美術館で鑑賞した「マイク・ケリー展 デイ・イズ・ダーン」は衝撃的で、今でもたまにあの時の映像が頭をよぎることもあるくらい。(笑)
画像が斜めで分かり辛いと思うけど、マイク・ケリー風のおふざけなのか、ロスコ風の作品を制作したんだろうね。
思わぬところで知った名前に出会えて嬉しかったよ!

100歳を超えても作品制作に取り組んでいたという篠田桃紅。
作品も素晴らしかったし、その生き様にも頭が下がる。
観客の年齢層高めだったのが、うなずけるかも。(笑)
2015年に出版された「一〇三歳になってわかったこと」がベストセラーになったという記事も見つけたので、いつか読んでみよう!

行って良かった展覧会だったけど、展覧会図録が手に入らなかったのが残念。
最近多いのは、図録完成が遅いこと。
鑑賞したら購入したいと思うのが普通なので、もっと早くショップに並べて欲しいよ。
どうかお願いします!

Anish Kapoor: Selected works 他 鑑賞

20220522 top
【ピラミデビルで撮影。ギラついた太陽で暑さが伝わるね!】

SNAKEPIPE WROTE:

長年来の友人Mと六本木に行く。
ミッドタウン近くを歩いていたら、写真展のポスターを発見。
フジフィスムスクエア写真家エリオット・アーウィット作品展「観察の美学 筋書きのない写真たち」が開催されているではないの!
エリオット・アーウィットなんて写真の教科書に出てくる大御所中の大御所。
1928年フランスに生まれ、1947年からニューヨークを拠点に約70年活躍してきたマグナム・フォトのメンバーだからね。
せっかくなので行ってみることにする。

銀座にある富士フィルムフォトサロンは何度も通ったけれど、フジフィルムスクエアに入るのは初めてだよ。
A4より少し大きさのある、四切の印画紙が並んでいる。
大々的に宣伝している割には、展示数は少なめだなと感じてしまう。
壁一面のみ、およそ30点だからね。(笑)
「あ!この写真知ってる!」
名前は知らなくても、作品は知っていた友人M。
1955年に撮影された「カリフォルニア」は、ROCKHURRAHも知っていたよ。
「フェアーグラウンド・アトラクションのジャケットに使われてたよね」
80年代に「パーフェクト」という1曲だけヒットしたアコースティック系のバンドはSNAKEPIPEも知ってるけど、ジャケット写真まで知ってるのは、さすが元レコード屋。(笑)

全く予期していなかった、エリオット・アーウィットのオリジナル・プリントを観ることができて良かった!
フジフィルムスクエアは写真歴史博物館なので、カメラの展示があったり、フィルムの歴史などを知ることができるんだよね。
館内にいた初老のお客さんが、係員をつかまえて自身の写真歴なのかカメラ歴なのかを滔々と語り続けていたのが印象的だった。
かつては写真撮影に休日のほとんどを費やしていたSNAKEPIPE、使用していた印画紙はフジだったことを思い出す。
デジタルカメラとは違う、一枚の重みを感じた展覧会だった。

続いて向かったのはピラミデビル。
ここには複数のギャラリーが入っていて、2015年11月に「Gerhard Richter Painting展」を鑑賞したワコウ・ワークス・オブ・アートもこの場所!
ピラミデビル自体がカッコ良い建物なので、行くだけでもワクワクするんだよね。(笑)
今回はワコウ・ワークス・オブ・アートSCAI PIRAMIDEを目当てに訪れたよ。 

最初にワコウ・ワークス・オブ・アートへ。
開催されていたのはドイツ人作家グレゴール・シュナイダーの展覧会だった。
写真作品が並んでいる。
説明を読まないで観るだけでは分からない種類の作品みたいだね。
まずは簡単にシュナイダーの経歴を書いておこう。
1969年ドイツ生まれのシュナイダーは、10代から制作を始めたという。
穴を掘るパフォーマンスをしていたという記述からも、難解なタイプのアーティストだと想像できるよね。(笑)
ヴェネチア・ビエンナーレでは金獅子賞を受賞という輝かしい経歴の持ち主なんだって。

今回はシュナイダーのシリーズが3つ展示されていたようだけど、これも帰宅後調べて分かったこと。
画像は「400 meter black dead end」という2006年の作品。
興味の対象が「閉ざされた空間」だというシュナイダーにとって、400mの暗い一方通行の道はテーマそのものなんだろうね。
訪問した人は手探りで歩き、閉塞感と無限に続くような一方通行の暗闇により、精神的な臨界点まで追い詰められたんだって。
SNAKEPIPEは、あまり体験したくないアートだよ。(笑)

次は2014年の「ゲッペルスの生家でのプロジェクト」。
ナチス・ドイツの国民啓蒙宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの名前は有名だよね。
村上龍の「愛と幻想のファシズム」にも、鈴原冬二がゼロに「おまえがゲッペルスをやれ」と言うセリフがあったように記憶しているよ。
そのゲッペルスの生家をシュナイダーが買取り、家財や目録を調べ上げた後に、建物の内部の一切を破壊して残骸を破棄するまでを一連の流れとしている作品だという。
並んだ写真観ただけじゃ分かりませんがな!(笑)
グレゴールといえば、ザムザと思ってしまうSNAKEPIPEだけど、シュナイダーの名前も覚えておこう。
いつか別の作品観ることがあるかもしれないからね!

続いて向かったのがSCAI PIRAMIDE。
谷中にあるSCAI THE BATHHOUSEを訪れたのは2019年6月の「横尾忠則 B29と原郷-幼年期からウォーホールまで」を観に行った時だったね。
2021年、SCAI THE BATHHOUSEが谷中、天王洲の続いて会場に選んだのが、ピラミデビルだという。
先に行ったワコウ・ワークス・オブ・アートの隣だよ!(笑)
開催されているのはインドのアーティスト、アニッシュ・カプーアの展覧会なんだよね。
アニッシュ・カプーアの作品を一番最初に観たのは、2008年6月の「ターナー賞の歩み展」だったよ。

「Void #3」という空中にぽっかりと浮かんだ球体の前で眩暈を起こしそうになった。

自分が何を観て、どこにいるのか一瞬分からなくなってしまったのだ。
本当は立体物なのに、闇が目の前に迫っているように感じてしまう。

圧倒的な迫力について感想を書いているSNAKEPIPE。
アニッシュ・カプーアの名前は鮮明に記憶しているんだよね。(笑)
残念ながら撮影が禁止だったので、感想だけをまとめておこう。
会場入ってすぐ、入り口に展示されていたのは、青い円形の作品だった。
磨き上げられたブルーのステンレスは、鏡のように鑑賞者や周りの景色を写し込み、1歩左右に動くたび、写った顔が歪む。
観ているうちに目眩が起き、立っているのがつらくなるほど。(笑)
先にあげた2つの円形の作品は、反射の具合で色味が変化し、いつまでも観ていたくなったよ。
天井近くに黒い三角形があるので見上げると、黒色に吸い込まれていきそうになる。
ターナー賞の時と同じ現象だよ!
どうやらカプーアは、99.965%の光を吸収する「地上で最も黒い黒」Vantablack(ベンタブラック)の芸術的用途における権利を買い取り、作品にさらなる強度をもたらしているという。
地球にいるのに、ブラックホールを体感している気分になるのは、そのせいなのかもね?
鑑賞できて本当に良かった。
カプーアの作品、お金あったら欲しいわあ!(笑)

今回は3つの無料ギャラリーを「はしご」してみたよ。
これで無料とは、申し訳ないほどだよね。(笑)
六本木にはたくさんのギャラリーあるので、また探して出かけよう!

パンとサーカス展 鑑賞

20220515 top
【ミヅマアートギャラリー外のポスターを撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

だんだん日が伸びてきたので、仕事帰りのウォーキングを再開することにした。
道中には、会田誠が所属しているミヅマアートギャラリーがあるので、ふらりと立ち寄ってみることにする。
パンとサーカス展」と書いてあるけれど、一体何を展示してるんだろう。
 
以前訪れた時、予約なしの場合には名前と電話番号などの記載を求められたことを思い出した。
「予約していませんが、観られますか?」
と尋ねるSNAKEPIPEに、怪訝そうな受付の男性。 
いいですけど、のような返答だったように記憶している。
名前書くんでしたよね?と重ねて訊くと
「別にどっちでもいいですけど」
と、書きたいなら書けばといった投げやりな態度に驚いてしまう。
前回訪れた「インディゲリラ Cosmic Waltz」の時にいた、感じの良い受付の男性とは大違い!
ミヅマアートギャラリーで、こんな対応をする受付がいて大丈夫なんだろうか、と心配になるほどだよ。
せっかく来たので、一応鑑賞しておこう、と気を取り直す。
撮影許可ももらったので、記事にまとめてみよう。

そもそも「パンとサーカス」って何だろう。
帰宅後ミヅマアートギャラリーのサイトで確認してみる。

島田雅彦氏による新聞連載小説「パンとサーカス」の挿画を担当した6名の作家によるアーティストユニット「コントラ・ムンディ」。
その全382回に及ぶ挿画の原画、および小説の世界観に着想を得た新作を一堂に集め展示いたします。
(ミヅマアートギャラリーより) 

新聞小説の挿絵を展示しているってことね。
ROCKHURRAH RECORDSでは新聞も読まないし、島田雅彦の小説も全く知らないよ。(笑)
今回挿絵を担当した6名のアーティストについての知識も皆無。
何も情報がない「フラットな状態」で鑑賞するのも面白いかもね?

感じの悪い受付から一番最初に展示されていた作品群。
本来が挿絵だったためなのか、アーティスト名の表示がされていない。
そのため帰宅後に調べてはみたものの、はっきりしないんだよね。(笑)
恐らく水野里奈のブースで良いはずだよ。
全体に作品が小さめなので、上のほうに展示されているものは良く見えないのが残念。
色彩が美しくて、女性的な雰囲気なんだよね。
毒気が強い作品が好みのSNAKEPIPEには、少し物足りなかったかも。
そして画像のように、ポストカード大の大きさの作品が反り返ってしまっていたのは「わざと」だったのかなあ。

6名のアーティストが1冊の本の挿絵を担当するというのは、あまり例がないんじゃないかな?
それぞれタッチがあるから、散漫な印象を受けてしまう恐れがありそうだし。
続いての金子富之の作品群は、最初に書いた水野里奈と、かなり違うよね。
なんと言っても目を引くのは、中央の怖い絵!
そして強い赤色が目立つんだよね。
邪悪そうな鳥と、まるで亡霊のような人の顔。
黒くて大きなマントによって、善良さが失われ、悪を伝染させるべく右往左往している人の群れなのか。
また勝手にお話作ってみたけど、陳腐かなあ。(笑)

観た瞬間に「こういうのは苦手」と思ってしまった。 
ものすごくキレイに描けているし、写実的だし。
誰に似てるかというと、クリスチャン・ラッセンかな。
ラッセンは人気のある作家なので、恐らく岡本瑛里を好む人も多いはず。 
SNAKEPIPEの個人的な好みの問題だね。(笑)
複数枚展示されている中で気に入ったのがこれ。
臓物をなびかせながら(?)背中に張り付く老人。
モノクロームだから穏やかな絵に見えるのかもしれない。
今際にいるような老人を背負う全裸の青年との間には、どんな物語があるんだろう?

ちょっとブレた感じで、中間色が美しい作品群。
先にも書いたようにアーティスト名が分からなかったので、てっきり男性の作品だと思っていたのに!
調べてみると荻野夕奈という知的な美人だと判明してびっくり。 
情報なしで観ると面白いのは、こういう点かもしれないね。
6名の作品の中で、一番挿絵らしいと感じたよ。
作品を鑑賞すると、SNAKEPIPEの陳腐な物語ができそうだったからね。(笑)
壺を使った計画殺人の後の絵、というのはどうだろう。
血しぶきを浴びても大丈夫なように全裸になっていて、壺についた指紋を拭き取ろうとしているシーンとか?
「パンとサーカス」知らないので、勝手に作ってるだけだからね!(笑)

全て同じ大きさの作品が63枚並んでいたよ。
妖怪が描かれていたり、パロディ風の物もある。
くっきりした線で、とても見やすいよ。
山本竜基の作品は、挿絵というより一枚で完結しているように見える。
手前のおじさんが何者なのか不明だけど、夜空をバックに歌川国芳のドクロや魑魅魍魎が夜な夜な夢の中で暴れているようだよね。
筒井康隆原作のアニメ映画「パプリカ」に通じる世界観が面白い。
もっと大きな作品が観たいと思ったよ。

最後は3コマ漫画のような作品だった。
縦に3枚の絵が並んでいるので、便宜的にそのような言い方をしたけれど、実際には3つのコマに関連性はみられない。
もしかしたら小説の内容にはリンクしてたのかもしれないけどね?
 独特の雰囲気があるので、今まで観てきた5人より年長の男性が描いているものだと思っていたら!
なんと熊澤未来子という1983年生まれの女性の作品だったよ。(笑) 
あまり女性らしさを感じなかったので、勘違いする人は多いはず。
武蔵野美術大学の日本画を専攻していた経歴を持つのに、作品は鉛筆画というのも変わっている。
今回鑑賞した中で一番好みだったかもしれない。

予備知識がないまま鑑賞することはほとんどないので、珍しい経験だったよ。
作者の名前も帰宅後知ったので、持っていた感想と実際が違う意外性も楽しめたしね!
ミヅマアートギャラリーは面白い企画があるので、また訪れてみたいと思う。
今度の受付は感じが良い人であることを祈って。(笑) 

空也上人と六波羅蜜寺 鑑賞

20220508 top
【五月晴れのもと、撮影した国立博物館本館】

SNAKEPIPE WROTE:

2022年4月に青山のスパイラルで「OKETA COLLECTION」を鑑賞した時のこと。
「良かったら使って!」
と手渡されたのが東京国立博物館で開催されている「空也上人と六波羅蜜寺」のチケットだった。
友人Mも知人から受け取ったらしく、日付が迫っているため鑑賞する機会がないとのこと。
ありがたく頂戴し、ROCKHURRAHと出かけることにしたのである。

かつて京都在住だったこともあるROCKHURRAHは、すでに六波羅蜜寺を訪問済。
そのため空也上人像も鑑賞しているという。
「六波羅蜜寺って小さい寺だったはずだけど」
遠い記憶を辿り、首をひねりながらROCKHURRAHが言う。
何故この時、 不可思議な表情を浮かべ、意味深な言葉を発したのか。
謎は近いうちに解き明かされるであろう。(大げさ)

せっかくなのでゴールデンウィーク中に出かけることに決め、天気が良い日を選んで上野へ。
かつてはミリタリー・グッズを求めて上野に馳せ参じていたROCKHURRAH RECORDSだったけれど、最近は少々趣向に変化が生じているかも。
前回上野に立ち寄ったのは2021年7月の「イサム・ノグチ 発見の道」なので、およそ1年ぶりのSNAKEPIPE。
ROCKHURRAHに至っては、2019年2月の「日本を変えた千の技術博」以来、約3年ぶりかも? (笑)

今回は招待券を手にしているため、通常行っているweb予約サイトでのチケット購入と時間指定をすることができず。
ひとまず会場に向かうことにしたのである。
国立博物館の前まで来ると、大行列が目に入る。
どうやら当日券を求める人の列のようで。
チケットがあり、入場の予約が必要な場合はどうしたら良いのかをインフォメーションで問い合わせる。
行列近くにいる係員に聞くように指示されたので、聞いてみると明確な答えがない!
大行列のほうにいる係員に再び聞いてみると、最後尾に並んで予約を取るように言われる。
国立博物館なのに、誘導するべき係員が正確な情報伝えられないのってどうなの?
チケット持っていても、結局は当日券組と同じ扱いになるのね。
30分ほど並んだところで10時半に入場できる予約券を入手。
若冲展ほどの混雑じゃなくて良かったよ。(笑)

10時半まで近くのベンチに座って時間を潰す。
5月晴れでも、風が強くて冷たい感じ。
少し体が冷えてきた頃、予約時間が迫ってきたので会場に向かう。
すると今度は会場前で大行列が!
何度も並ばされて、入場前からぐったりしちゃうね。

そしてようやく入場。
撮影は禁止だって。
会場入ってすぐに冒頭で書いたROCKHURRAHの「首をかしげる」意味が分かってしまった。
展示数が圧倒的に少ないのである。
ROCKHURRAHは、六波羅蜜寺は小さい寺なので展覧会を開催するほどの展示物があるんだろうか?と疑問に思ったらしい。
確かに、その予感は的中してるね。

そして展覧会の目玉である空也上人の像には人だかりが。
載せた画像よりも実際は薄暗く、人の頭の隙間から部分的に見えるにすぎない。
少しだけ待って近寄ってみても、一番肝心な口部分もよく分からない。
ROCKHURRAHから聞いていたけれど、空也上人の像は小さめだから尚更。
別の角度から見ると、影絵状態で口から出ている小さい物体が確認できた。
双眼鏡のような物で鑑賞している人がいたけれど、その方法が適してるかもね。

空也上人とは、平安時代中期の僧侶で、首から下げた鉦を叩きながら「南無阿弥陀仏」を唱えたと言われている。
その6文字を視覚化した「木造空也上人立像」が、今回展示されているんだよね。
東大寺金剛力士像などで有名な運慶の四男、康勝(こうしょう)の作。
言葉を立体で表すなんて、よく考えたよね!
想像を形にすることができる腕前もさすが。
こんなに不思議な木彫り彫刻が日本に存在していることに驚くよ。
他に類を観ない発想力に拍手だね!(笑)

他には中央に鎮座する薬師如来坐像、周りには四天王立像が並んでいる。
六波羅蜜寺ではどのように展示されているのか不明だけど、薄暗い空間の遠くに仏像などを見ることが多いように思う。
今回は間近で像を見ることができたので、足元まで詳細に観察することができたよ!
あれだけ並んで待ったのに、鑑賞時間はほんの10分程度。(笑)
ミュージアム・ショップでは「これでもか」というくらい空也をモチーフにしたグッズが並んでいたけれど、無理矢理な雰囲気が濃厚で笑ってしまったSNAKEPIPE。
目玉が空也しかないから仕方ないのかな。

これしか展示がなくて1,600円って高いよね?
ぶつくさ文句を言うSNAKEPIPEに、他の展示が観られることをROCKHURRAHが教えてくれる。
国立博物館には本館以外に平成館、東洋館など合計8つの館があるんだって。
今回のチケットでは「平常展」が観られるらしいけど、どこまでオッケーなのか分からないので本館の「日本美術の流れ」会場に行ってみる。
ここでは大好きな縄文土器などの展示から始まって、江戸時代までの美術・工芸品が鑑賞できるんだよね。
画像は縄文時代後期の「人形装飾付壺形土器」。
土器の色合いも素晴らしいし、人形(ひとがた)が人間っぽくないところに惹かれるよ。
やっぱり宇宙から誰か来てたに違いない、と想像させてくれる逸品だね!(笑)

仏教美術も興味がある分野なんだよね!
大きさのある曼荼羅図が複数展示されていて、熱心に鑑賞する。
十六羅漢の掛け軸などが並ぶ中、SNAKEPIPEがグッときたのは、画像の「阿字曼荼羅図」。
梵字が中央に描かれた斬新な構図で、日本画というよりはポスターっぽいんだよね。
グラフィックデザインというのか。
「密教では梵字の阿字を一切の言説・音声の根本として、更には一切仏法の根源として説きます。その阿字を本尊として向き合い、自分自身が物事の根源と一体化することをイメージする修行である阿字観に使われました。」(国立文化財機構所蔵品統合検索システムより)
全く読めなかったけれど、どうやら「阿吽」でいう「阿」の文字らしいね。
「阿字観」とは密教における瞑想法だとか。
その説明の中で「『蓮華』を描き、次に『月輪』を描き、その中に『阿字』を書いて軸装して目の前に掲げて、瞑想する」と書かれている。
SNAKEPIPEには珍しく見えたけれど、阿字観を実践していた当時の人々にとってはポピュラーな掛け軸だったのかもね?

江戸時代までやってきたよ!
ここで目を引いたのは「色絵桜樹図透鉢」という焼き物。
仁阿弥道八の作品だという。
器の内と外に桜が描かれ、ところどころに透かしが入ってるんだよね!
満開の桜が堪能できる作りになっていて、見事だよ。
素晴らしい出来にため息が出るほど。
こんな陶器を所持していたのは、誰なんだろうね?

江戸時代の着物にも目が釘付けだったよ。
和歌の文字を刺繍している「小袖 紫白染分縮緬地笠扇桜文字模様」。
あまり着物に詳しくないので、小袖というのがどういう時に着用するのか分からないんだよね。
艶やかで豪華な品だということは一目瞭然だよ!
江戸時代というのが、想像しているより遥かに進んだ文化だったことは、NHKの「浮世絵EDO-LIFE」などを通じて知ったけれど、女性が身に着けていた実物を見ると更に理解が深まるね。
男性が印籠を帯に引っ掛けるために使用した根付にも、驚くほどの高い技術力を見ることができたよ!

並び疲れてしまったこともあり、今回は「日本美術の流れ」だけを鑑賞して終了とした。
東洋館や法隆寺宝物館など、他にも面白そうな展示がたくさんあるので、また別の機会に訪れてみたいよ!