SNAKEPIPE WROTE:
大ファンであるミステリー作家・鳥飼否宇先生の作品を再読して、感想をまとめるシリーズの続きを書いてみよう。
今回は2006年に発表された「観察者シリーズ」の「樹霊」!
今までに書いた鳥飼先生の作品に関する記事をまとめたカテゴリー「トリカイズム宣言」を読んでもらうとご理解頂けるのだけれど。
簡単に説明させてもらうと「観察者シリーズ」とは、大学サークルの野生生物研究会に所属していた4人が、卒業して何年(何十年?)経っても連絡を取り合い、奇妙な事件に巻き込まれる話なのである。
自称「観察者(ウォッチャー)」、通称トビさんこと鳶山久志が「観察者シリーズ」での探偵役として活躍する。
事件となる題材を拾ってくるのは、植物写真家である通称ネコこと猫田夏海、野生生物研究会メンバーの中での紅一点である。
売れっ子イラストレーターで、佐賀県生まれなのにベタベタの博多弁を話すジンベーこと高階甚平。
そして西荻窪で親からの遺産を相続し、マンションのオーナー兼「ネオフォビア」というバーの経営者である神野良。
この「付かず離れず」の良い距離感を保った4人が、摩訶不思議な自然現象だと思われた事象や事件を解決していくのが「観察者シリーズ」なのである。
今回の舞台は北海道!
「でっかいどう、北海道」の北海道である。
ん?わざわざ言うほどのことじゃない?
しかも古過ぎ?(笑)
植物写真家のネコが、北海道にある巨木の撮影をしているところから物語が始まる。
撮影していたのは「ミズナラ」という樹木。
推定樹霊1200年以上という非常に長生きの「ミズナラ」だという。
本当は文中に登場した「最上のミズナラ」や「双葉のミズナラ」の画像を載せたかったんだけど、著作権の問題を考慮して同種の「ミズナラ」画像(左)にしてみたよ。
長寿の巨木というと、例えばゲーム「ゼルダの伝説」に登場するような「デクの樹」様みたいに、なんでも知っている穏やかな賢人(賢木?)という印象があるよね。
長寿の巨木を前にしたら、霊験あらたかな気分で、知らず知らずのうちに手を合わせてしまいそうだもん。
きっとネコも撮影しながら巨木と対話していたんだろうね。
撮影終了後、ネコは「ミズナラ」のある場所を案内してくれた役場の職員から「古冠のミズナラが動いた」話を聞くのである。
ここで、SNAKEPIPEの自慢できないコーナー!(パチパチ!)
以前にも何度かブログに書いたことがあるけれど、関東地方(東京近辺)からほとんど出たことのないSNAKEPIPE。
授業での地理も苦手だったっけ。
そのため(?)地名も致命的に知らないことだらけ。(ぷっ!)
フルカップ(ブラ?)、振るカップ(揺らしてどうする?)と、全く違う想像をしてしまうのである。
どこにあるんだろう、と検索してみたけれど占冠はあっても古冠は出てこないなあ。
文中に北海道の日高地方とあったので、それで良いことにしよう!
好奇心旺盛なネコが「木が移動した」なんて話に飛びつかないわけがないよね。(笑)
更なる情報を得るために古冠村役場に向かうのである。
ここから先のあらすじはAmazonの商品紹介から引用してみよう。
役場の青年の案内でネコが目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。
その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。
折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。
30メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、ネコは旧知の「観察者」に助けを求めるのだった。
「ミズナラ」に続いて「ナナカマド」(画像右)も移動するという謎を追いかけているうちに、失踪事件や殺人事件に巻き込まれ、古冠に足止めされてしまうネコ。
最初のうちはアイヌの方の自宅で手料理を頂いたり、アイヌの話を聞いたりして楽しそうだったのに。
もっと早く古冠を離れていれば良かったと後悔しているネコは、本当にかわいそうだった。
「樹霊」でのネコは今までにない「女性らしい」部分が表現されていて、ちょっとびっくりしちゃうんだよね。
そして長い付き合いだから分かるのか、ジンベーにあっさりと見抜かれていたところは、読んでいて微笑ましかった。
それにしても夜のホテルでネコとジンベーが2人きりになった時、ジンベーに強く腕を掴まれた瞬間、男女の関係を想像してしまった勘違いネコに笑ってしまったよ。(笑)
ジンベーとロマンチックなことが起こる確率は低いと思うけどね!
あらすじにある「30メートルもの高さの巨樹」というのが「ハルニレ」という樹木。
これもまた同種の画像を左に乗せてみたよ。
「フチ」と呼ばれている「ハルニレ」 だと文中にある。
「フチ」とはアイヌの言葉で「おばあさん」を意味するというから、これもまた長生きの樹木なんだろうね。
「樹霊」には植物の名前以外にアイヌの言葉がカタカナ表記されているので、植物の名前すら覚束ないSNAKEPIPEはたまに混乱することがあった。
もしかしたらSNAKEPIPEだけなのかも。(笑)
心細くなっているところへ、長い付き合いのトビさんやジンベーがかけつけてくれる。
トビさんは相変わらずトビさんらしい対応だったけれど、最終的には謎を解決しちゃうんだよね。
その語りは淀みなく、スラスラ読んでしまうんだけど、実は1回目に読んだ時にはトリックが難しくて理解し難かったことを告白しよう。
今回はその時の反省を活かして、脳内映像を混ぜながら注意深く読んでみたよ。
あれがこうなって、こうなるからと想像しながら読むと、なるほど!
そういうことだったのね! (笑)
トリックに関しては理解できたけれど、犯人の動機は難しかった。
理解や共感なんて簡単には言えない次元の話だと思うから。
そして他に方法はなかったんだろうか?とも考えてしまった。
非常に深刻で重いテーマだよね。
本当は誰もが考えなければいけない重要事項なんだと思う。
SNAKEPIPEには何ができるだろう?
「樹霊」では最後のほうにトビさんの珍しいシーンもあるんだよね。
飄々とした人間嫌いのトビさんらしからぬ、かなりレアな場面にも驚いてしまったSNAKEPIPE。
再読する度に新しい発見をして、嬉しいね!
いや、単なる物忘れ、とも言えるのか。(笑)
大好きなジンベーのファッションも素敵だったね!
レザーの上下にピンクのサングラスとは。
体型が小熊のジンベーなのに「好いとうもん、着とるだけっちゃ」の心意気が好きだよ。
このSNAKEPIPEが作った偽物の博多弁どうなの?(笑)
トビさんとネコが登場する「観察者シリーズ」は「中空」「非在」に続いての3作目になる。
読んでいる順番もまちまちで何度も読んでいる場合もあるので、SNAKEPIPEにとって「観察者シリーズ」の面々は旧知の仲のような存在。
そして鳥飼先生の著作から教えてもらうことが多いのも魅力なんだよね。
「樹霊」ではアイヌの文化や風習に関しての記述が興味深かった。
「カムイ」についての考え方は、例えばアメリカ先住民族であるインディアンが精霊に祈祷するのに近いように感じた。
森羅万象の全てに霊が宿っていて、その霊を敬い感謝することで共存していく、という解釈で良いのかな。
現代社会に生きていると難しいけれど、羨ましいと思ってしまう。
非常にシンプルだからね!
きっと鳥飼先生は奄美大島で、「カムイ」を体感なさっているのではないでしょうか。
次回のトリカイズム宣言は「昆虫探偵―シロコパκ氏の華麗なる推理」にしよう!
これもまた再読するのが楽しみ!(笑)