【今回特集した映画3本のポスター】
SNAKEPIPE WROTE:
先日「映画の殿 第3号」にも書いたように、週に3本程度の映画鑑賞をしているSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
最近は特に映画監督で選んで鑑賞していなかったけれど、ある1本の映画がきっかけでお気に入りになってしまった監督がいる。
友人Mも映画鑑賞が好きで、面白かった映画を薦めてくれることがある。
「『私が、生きる肌』を観て、どう思うか感想を教えて」
という連絡があったのはもう何ヶ月も前のことだ。
言われるままにレンタルしてきて、鑑賞し終わり、
「なんでそうなるの?」
という萩本欽一じゃないけれど、ヘンな感想を持った。
話の展開が普通じゃないのよ!(笑)
この映画の監督はスペイン人のペドロ・アルモドバル。
変わった映画を撮る監督だなあ、他の作品も観たいなあと思ったのである。
次に観たのは「キカ」。
これもまた不思議な展開の映画だった。
この頃にはもうペドロ・アルモドバルに興味津々になっていた。
調べてみると、話題になった「オール・アバウト・マイ・マザー」は当時映画館で鑑賞していたSNAKEPIPE。
でもすっかり内容を忘れてるんだよね!(笑)
観たことがないというROCKHURRAHと一緒にレンタルできるペドロ・アルモドバル監督の作品を全て鑑賞することにした。
今では2人共すっかり大ファンになってしまったのである。
そこでペドロ・アルモドバル監督について「好き好きアーツ!」で特集してみたいと思う。
今まで鑑賞したのは7本の映画なので、数回に分けてまとめていこうかな。
鑑賞した順番ではなく、作品の製作順に書いていこう!
※鑑賞していない方はネタバレしてますので、ご注意下さい。
「キカ」 (原題:Kika)は1993年のスペイン映画である。
簡単にあらすじを書いてみようか。
気だてがよく行動的な主人公キカはメイクアップ・アーティスト。
年下のハンサムで少し変わり者のカメラマン、ラモンが恋人である。
そこへ彼の義父の放浪作家が二人の前に現われる。
キカはこのちょっとだらしのない義父に魅かれてしまう。
更に“今日の最悪事件”なる報道番組を持つTVレポーターのアンドレアが絡んできて、匿名で送られたビデオなどからある事件の真相を暴いていく。
この文章だけでは内容がよくわからないし、この映画の奇天烈さを表現しているとは思えないんだけどね。(笑)
「キカ」の魅力はその登場人物のキャラクターが立っているところにあると思う。
主人公であるキカが左の写真。
恋愛を語る主演女優にしては、ちょっと年齢が上のような印象を持つ。
この写真からも判るように、うつみ宮土理に似てるんだよね。(笑)
チャキチャキ行動し、弾丸のように話し続けるところもソックリ!
まさかあんなシーンでも喋りまくるとはね!
陰惨なシーンになるはずなのに、笑ってしまうとは思わなかったな。(笑)
その明るさのおかげで(?)メイクアップアーティストとして成功しているようだ。
ショーをいくつもかけもち、メイクアップアーティスト養成講座の講師としても活躍しているキカ。
プライベートも順調で、年下の恋人と暮らしながらも、上の階に住んでいる恋人の父親とも二股の関係を持っているから驚いちゃうよね!
メイクアップアーティストという職業柄なのか、登場する度にヘアスタイルが変わっていたことにも注目!
キカ役はヴェロニカ・フォルケ、1955年マドリッド生まれ。
1984年のペドロ・アルモドバル監督作品「グロリアの憂鬱」にも出演しているらしい。
ということは、「キカ」の時に38歳くらい?
うーん、もっと年上に見えたのはSNAKEPIPEだけだろうか。(笑)
キカの家でメイドをしているフアナことロッシ・デ・パルマ。
一番初めに登場した時から
「ピカソみたいな顔!」
と大注目してしまった。
長い顔に曲がった鼻。
かなり個性的な面構えだから、役者としてはもってこいの風貌だよね。
羨ましいと感じる人も多いかもしれない。
ところがロッシ・デ・パルマは、元々女優志望じゃなかったみたいだね。
wikipediaによれば、カフェで歌っていたところをペドロ・アルモドバル監督に見出されたとのこと。
監督が一目惚れするのも納得だよね!
「口髭を生やす権利が女性にもある」
などと堂々と発言するレズビアンという役どころ。
顔だけじゃなくて、強烈な印象を残すおいしい役だったね、ロッシ!(笑)
ロッシ・デ・パルマは他にも何本ものペドロ・アルモドバル作品に登場しているよ!
ペドロ・アルモドバル監督の作品には劇中劇のような、テレビから流れてくる映像が取り入れられているパターンが多いんだけど、「キカ」の中に出てきたテレビ番組が「今日の最悪事件」という報道番組だった。
その司会、進行、取材全てを一人で請け負っているのが写真左のアンドレア。
アンドレアが着ていた衣装がジャン・ポール・ゴルチェのデザインによるもので、それも話題だったようだ。
ジャン・ポール・ゴルチェといえば、80年代に一世を風靡したデザイナーだよね!
SNAKEPIPEも小物類を手に入れて喜んでたっけ。(笑)
さすがはゴルチェ、アンドレアの衣装も驚くような奇抜さと美しさが同居した素晴らしいデザインだった。
アンドレアの番組は、残酷なシーンもノーカット、プライバシーを一切無視した作りになっていて、通常は放送禁止なはず。
もし本当にそんな番組があったら、一部に熱狂的なファンができそうだけどね?
SNAKEPIPE?
もちろん大ファンになると思うよ。(笑)
この役を演じているのがスペインの女優ビクトリア・アブリル。
公式HPではゴルフ場でゴロゴロしてるんだけど、どういう意味かね?(笑)
「キカ」は強烈なキャラクターの女優陣に加えて、ミステリー要素や愛憎劇などが入り混じった極彩色の映画だった。
この色彩をケバケバしいと感じるか、もっと強い毒を欲するかは個人の好みの問題だろうね。
SNAKEPIPEとROCKHUURAHは更なる毒を求めることにしたのである。
次は1999年の作品「オール・アバウト・マイ・マザー」(原題:Todo sobre mi madre)である。
前述したように、公開された時に映画館で鑑賞していたSNAKEPIPE。
アカデミー外国語映画賞を受賞したこともあり、当時は大変話題だったと思う。
ところがすっかり内容を忘れてしまっていたので、改めて鑑賞し直すことにした。
およそ13年ぶりに鑑賞したけれど、全然覚えてなかったんだよね!
記憶力の低下が激しいなあ。(笑)
もしかしたら「オール・アバウト・マイ・マザー」は、ある程度年齢がいってから観たほうが良い映画なのかもしれない。(言い訳)
また簡単なあらすじから書いてみようかな。
17年前に別れた夫に関して息子から問われた母マヌエラ。
長い間隠していた夫の秘密を話そうと覚悟を決めた矢先、彼女は息子を事故で失ってしまう。
息子が残した父への想いを伝えるため、マヌエラはかつて青春を過ごしたバルセロナへと旅立ち、そこで様々な女性たちと知り合うのである。
「オール・アバウト・マイ・マザー」の主役、マヌエラ。
あらすじにも書いたように、女手ひとつで息子を育てている。
職業は移植コーディネーター。
事故に遭った息子から臓器を提供するシーンは、観ていて辛くなるほどだった。
いつまでも息子の死から立ち直れないままのマヌエラだったけれど、ひょんなことから息子の事故の原因となった舞台女優の付き人になってしまう。
こんな偶然はそうそうないだろうけど、何故だかスペインだったらアリかもと思ってしまうのはSNAKEPIPEだけだろうか。
マヌエラは人助けが得意で、とても親切な女性だ。
どんな逆境にもめげず、そして人を許すことができる寛大さに勇気づけられる。
演じているのはアルゼンチン出身の女優セシリア・ロス。
アルモドバル監督作品の初期から出演している常連とのこと。
マヌエラのかつての仲間、整形手術を施したゲイのアグラード。
整形はしていても性転換手術はしていないという設定である。
ものすごく上手に演じていたので、てっきり本物のそちらの方なのかと思いきや、実際は女性だったと知った時には驚いた!
この女優さんもロッシ・デ・パルマと同じように鼻が曲がっていて、個性的な雰囲気なんだよね。
演じていたのはアントニア・サン・フアン。
公式HPはスペイン語での表記なので、はっきりは分からないけれど、もしかしたら絵も描いているのかも。
女優だけじゃなくて監督もしているらしいので、アーティスティックな方なのね!
マヌエラが付き人をやることになった舞台女優がウマ・ロッホ。
ウマとは煙のことでベティ・デイヴィスに憧れて始めたタバコの煙から芸名を付けたというほどのヘビースモーカーである。
ウマ・ロッホは共演している年下の女優に夢中になり、心をかき乱されている。
「キカ」にもレズビアン役が出てきたけれど、ここでも同性愛者が登場だね。
1960年代から活躍しているマリサ・パレデスは、この映画の時に53歳くらいだったのかな。
いかにも大物女優という雰囲気が似合っていて、とてもキレイだった。
シスター・ロサはお金持ちの家に生まれながらも、ボランティア活動にいそしむ女性である。
ところがその分け隔てのない行動が、ロサを不幸にしてしまうとは残念だ。
ロサの父親は認知症のようで、妻以外の区別がついていないようだ。
娘であるロサに会っても
「年齢は?身長は?」
という意味不明の質問をするところが印象的だった。
それを聞いてどうするつもりなんだ?って。(笑)
ロサ役を演じたのはペネロペ・クルス。
恐らく現在のスペイン人女優の中での知名度はナンバーワンなんじゃないかな?
スペインだけじゃなくて、ハリウッド映画にも出演してるし、次回のボンドガール候補なんて記事もあったしね!
その栄光のきっかけになったのが「オール・アバウト・マイ・マザー」でのロサだったみたい。
ペドロ・アルモドバル監督とは前作の「ライブ・フレッシュ」に出演していたようなので、「オール・アバウト・マイ・マザー」が2作目になるのかな。
それ以降もペドロ・アルモドバル監督作品の常連として、様々な役を演じているね。
それぞれの女性が何かしらの悩みを抱えながらも、たくましく生きている姿を描いた映画なんだよね。
登場人物がみんな個性的なので、単なる感動物語ではないところがポイントかなあ。
ペドロ・アルモドバル自身が同性愛者とのことなので、性差について作品を通して訴えているのかもしれない。
Wikipediaによると映画評論家のおすぎは「生涯のベスト1映画」にしているらしい。
共感できる部分が多かったからなのかもしれないね?
映画の最後に出てきた言葉を書き写してみよう。
ベティ・デイヴィス、ジーナ・ローランズ、ロミー・シュナイダー。
女優を演じた女優たち
すべての演じる女優たち
女になった男たち
母になりたい人々
そして私の母に捧げる
これらの言葉からも「女性」に向けて作られた映画だったことが解るよね。
そして「オール・アバウト・マイ・マザー」がペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作と呼ばれる1作目になったんだね。
続いては2002年の作品「トーク・トゥ・ハー」(原題:Hable con ella)。
また簡単にあらすじを書いてみようか。
交通事故のため昏睡状態のまま、病室のベッドに横たわる女性アリシア。
4年もの間、看護士のベニグノは彼女を世話し続け、応えてくれないことが判っていても、毎日アリシアに向かって語り続けていた。
一方、女闘牛士のリディアもまた競技中の事故で昏睡状態に陥っている。
彼女の恋人マルコは突然の事故に動転し悲嘆にくれていた。
そんなベニグノとマルコは同じクリニックで顔を合わすうちいつしか言葉を交わすようになり、互いの境遇を語り合う中で次第に友情を深めていくのだった。
「トーク・トゥ・ハー」での主役は、ペドロ・アルモドバル監督作品には珍しく男性である。
映画はパフォーマンスを鑑賞しているシーンから始まる。
これはピナ・バウシュというドイツ人バレエ・ダンサーの代表作「カフェ・ミュラー」で、ご本人が踊っていたらしい。
映画の最後のほうにもパフォーマンスの舞台が出てくるんだよね。
バレエやパフォーマンスに不慣れなSNAKEPIPEは難解だったなあ!
ところがそのパフォーマンスを鑑賞しながら涙を流していたのが、主役の一人であるマルコである。
非常に感受性が豊かで、過去の出来事と鑑賞しているアートを結びつけて悲しみにくれてしまう。
職業はジャーナリストで、海外旅行ガイドなども執筆して生計を立てているようだ。
「トーク・トゥ・ハー」の中で何回も泣いてしまう涙もろさ!
男性俳優でここまで泣く演技を観たのは「殺し屋1」以来かも?(笑)
演じていたのはアルゼンチンの俳優、ダリオ・グランディネッティ。
アルゼンチンでは有名な俳優だそうで、いくつもの賞を受賞している経歴の持ち主とのこと。
かなり頭髪が薄めの方なんだけど、東洋人と違って堂々としているせいか、とても知的に見えるんだよね!
もう一人の主役は介護士のベニグノ。
ややぽっちゃり気味の体型と、角度によっては二重顎になってしまう丸い顔は、主役にしては珍しいタイプかも?
それが逆に目立って、SNAKEPIPEは目が釘付けになってしまった。 (笑)
もしかしたらペドロ・アルモドバル監督がちょっと似た体型なので、自己投影させた分身的な意味での配役なのかもしれないね。
ベニグノは15年間ずっと母親の介護だけをして青春時代を過ごしてきた、ちょっと変わった経歴の持ち主。
その時に介護以外にも美容に関する技術を習得し、介護士として病院に勤務するのである。
演じていたのはハビエル・カマラ。
「トーク・トゥ・ハー」以外にもペドロ・アルモドバル監督作品には多く出演している。
最新作とされる「I’m So Excited」でもハビエル・カマラが主役なんだよね!
なんだかこっそり応援したくなるタイプの俳優だね。(笑)
ベニグノの熱心な介護を受けるアリシア。
精神科医の父親を持ち、バレエ教室に通う女性である。
このバレエ教室の教師がアリシアの母親代わりをしているというほど、2人の仲は親密だ。
この教師役を演じているのがなんとチャップリンの娘なんだって!
そう、あのチャールズ・チャップリンよ!
ジェラルディン・チャップリンはロイヤルバレエアカデミーで学んだ、なんて書いてあるから本当にバレエの人だったのね。
映画デビューは「ライムライト」って、なんだか映画の歴史を勉強している気分になっちゃう。(笑)
ジェラルディン・チャップリンの首の筋は「今いくよくるよ」に負けてないね!
アリシアを演じたレオノール・ワトリングも実際にバレエをやっていたというから、付け焼刃の演技じゃないんだね。
他にもペドロ・アルモドバル監督作品に出演しているね。
マルコの恋人で女闘牛士のリディア。
闘牛について詳しくないSNAKEPIPEなので、実際にどれだけの女性闘牛士がいるのか不明だけど、比率では男性が圧倒的に多いだろうね。
闘牛士と聞いて男性を思い浮かべる人が多いはずなので、この設定もペドロ・アルモドバル監督式の性差を表しているのかな。
試合に出る前に闘牛士の衣装を着るシーンがあり、とても一人では着られないほどフィットしていて、ボタンなどは誰かに手伝ってもらわないとはめられないことを知る。
刺繍や装飾が素晴らしかった。
帽子は手編みニットみたいに見えたのは気のせいか。
今度あんな形の帽子編んでみようかな。(笑)
リディアを演じていたのはロサリオ・フローレス。
引き締まった体型で、本当に闘牛士に見えてしまった。
ロサリオ・フローレスはギタリストのアントニオ・ゴンザレスを父親に、歌手で俳優だったロラ・フローレスを母親に持つ芸能一家出身とのこと。
映画デビューは6歳くらいなのかな。
闘牛士役が似合うのもなるほど、という感じだね!
「トーク・トゥ・ハー」にはまたもや劇中劇ならぬ劇中映画がある。
「縮みゆく男」というサイレント映画ということになってるんだけど、これは全くのオリジナルなんだよね。
科学者の彼女が開発した薬を飲んだ男の体が手のひらサイズにまで縮んでしまう話だった。
まるで手塚治虫の「ブラック・ジャック」に出てきた話みたいだけど、さすがはペドロ・アルモドバル監督!
映画の結末はかなり変わっていた。
そしてその映画を鑑賞したことがきっかけで、介護士ベニグノは犯罪行為に手を染めてしまうのである。
ベニグノがアリシアに、マルコがリディアに、そしてベニグノとマルコに芽生えた、それぞれの愛。
人によって基準は色々だから、もしかしたら不道徳とか不謹慎などと感じる人もいるかもしれない。
SNAKEPIPEも話の展開に「なんでそうなるの?」と、再び同じ感想を持ってしまったからね!(笑)
ただハッキリ言えるのは、そこに愛は存在していたということかな。
例えそれが一方的なものであったにしても、ね。
3本の作品についてペドロ・アルモドバル監督特集第1回目をまとめてみたよ。
SNAKEPIPEがとても気に入っているのは、作品中に登場する女性達のあけすけな会話のシーン。
確かに女同士だったら、特にスペインだったら(?)こんな会話をしてるだろうな、とニンマリしてしまうのだ。
ペドロ・アルモドバル監督は脚本も手掛けているので、自然な女の会話をよく知ってるよね!
本筋とは関係ないところで印象に残すのも、さすがだと思う。
次回の「好き好きアーツ!」もペドロ・アルモドバル監督作品特集の続きを書いてみるよ。
どうぞお楽しみに!