大竹伸朗展 鑑賞 #3

20221218 10
【「ダブ平&ニューシャネル」のステージ】

SNAKEPIPE WROTE:

一つの展覧会では異例の3回連続特集!
大竹伸朗について、今までほとんど知らなかったROCKHURRAH RECORDSは、今回の展覧会に感銘を受けたんだよね。
3回目は絵画作品と音楽について書いていきたいと思う。
音楽のほうはROCKHURRAHに担当してもらうことにして、まずはスクラップ・ブックから。

よくもここまで!と驚くほど大量のスクラップ・ブックが展示されている。
気になった画像や漫画、商品パッケージなど、ありとあらゆる物が雑多に貼り付けられいる。
既成の画像に色を塗ったりして、「レディ・メイド」になっている部分もある。
どれだけの年月をかけて収集されてきたんだろう。
スクラップ・ブックの各ページには、大竹伸朗の思い出があるんだろうね。
画像収集で思い出すのは、同じように大量のスクラップ・ブックを作成している、みうらじゅん!
みうらじゅんは大竹伸朗より3つ年下だけど、ボブ・ディラン好きなども共通しているよね。(笑)

整然と陳列されたスクラップ・ブック。
すべてをじっくり鑑賞したい欲求に駆られるけれど、そこまで時間もないし、後ろから他のお客さんも来るし。(笑)
ミュージアム・ショップで「スクラップ・ブック見開選」という、ミニチュアが販売されていて心が揺れる。
お値段19,800円!
気軽には手が出せない金額なので、断念したよ。

「Wallpaper」と題された1978-79年の作品は、まるでアンディ・ウォーホルのパロディみたいじゃない?
シルクスクリーンで作られてるから余計にそう感じるのかも。
正方形なので、もしかしたらレコード・ジャケットだった可能性もあるよね。
奇抜な色彩が印象に残ったよ。

SNAKEPIPE MUSEUMに所蔵したいと思った作品!
「網膜(落下する銀の記憶)」というタイトルも素晴らしい。
シルバー色が大好きなSNAKEPIPEは、光を反射して白く輝く銀色に強く惹かれたよ。
見た瞬間から好き!(笑)
近づいて観ると、たくさんの写真や素材が貼り付けられているんだよね。
何度も塗ったり貼ったりする細かい作業を繰り返して完成していることが分かるよ。
似た雰囲気の作品が他にもあったけど、SNAKEPIPEの一番はこれ!(笑)

「室内」と題された2作品は、まるで映画の一コマのようなストーリー性があるよね。
どちらもサスペンス仕立てで、不穏な空気が流れている。
市松模様の床は「イレイザー・ヘッド」、赤いカーテンは「ツイン・ピークス」を思い出すよね!(笑)

最後に登場したのが、NHKで放映された「21世紀のBUG男 画家・大竹伸朗」の中で制作していた「残景0」で2022年の作品。
「最終的にどうなるか分からない」と話しながら、メチャクチャに様々な素材を貼り付けたり、塗ったり垂らしたりしていたよ。
なんでも素材になるから捨てられないと話しながら、「私も物が捨てられなくて」という人とは違う、ときっぱり言い放つ。
製作途中を見ているため、最終的にはこの作品になったんだ、と妙に感慨深くなったよ。
重厚で存在感があって、カッコ良かった!
続いては音楽についてROCKHURRAHに書いてもらおう。
久しぶりの登場だね!(笑)

以下、ROCKHURRAH WROTE:

大竹伸朗は美術の世界で知られるようになる前、70年代後半から音楽の活動を始めていて、19/JUKEというバンドでレコードも出していた。
Wikipediaによるとブライアン・イーノがプロデュースした「No New York」というコンピーレーション・アルバムの影響を受けていたようだ。
1978年というとイギリスではパンク、初期ニュー・ウェイブ真っ只中だったが、アメリカの方ではすでにパンク以降のムーブメントが来ていて、そのひとつがノー・ウェイブと呼ばれるノイズや不協和音、金切り声などが支配する暴力的なパンクの一種。
「No New York」はジェームス・チャンス&コントーションズやアート・リンゼイ率いるDNA、リディア・ランチのティーンエイジ・ジーザス&ジャークス、マーズの4バンドが参加していた。
まさにノー・ウェイブの代名詞と言われるバンドが収録された、その筋の人たちには伝説的な名盤と言われるレコードだったな。
歌詞カードだったかクレジットだったか、スリーブ(内袋)の裏側に印刷されていて、破くか切らないと見えないという現代アートっぽいものだったが、雑誌の袋とじヌードの元祖とも言えるな。

19/JUKEが最初のレコードを自主制作で出したのが1980年、それの製作期間が何日だったのか何ヶ月だったのかは不明だが、「No New York」をリアルタイムで聴いて影響を受けたとしても、驚くべき早さで自己流の音響工作を作品化したと思える。
あまり大した資料ではないがROCKHURRAHが持っていた音楽雑誌「DOLL」の自主制作盤リストに19/JUKEも載っていたので写真を撮ってみたよ。

バンド結成前に渡英してラッセル・ミルズと交流していたという話をNHKのTV番組で見て、ROCKHURRAHはいきなり知った名前が出てきたのでビックリしたもんだ。
大好きだったバンド、スキッズの1stアルバムやシングル「Animation」のジャケットを手掛けていたので、その当時からROCKHURRAHはラッセル・ミルズを知っていたのだ。
このジャケットを見てもそういうアーティストだとは思わなかったけど、スキッズのベスト盤「Fanfare」や他にもジャパンやデヴィッド・シルヴィアン、ブライアン・イーノ、ワイヤー、BCギルバート&Gルイス(DOME)、ヤズー、ミニマル・コンパクト、ナイン・インチ・ネイルズなどなど、数多くのレコード・ジャケットを手掛けたことで知られている。
独特の鉱物的な色彩と質感を持った作品が多いね。
まだ無名の青年だった大竹伸朗はラッセル・ミルズとコンタクトを取り、言葉の壁を超えて親交を深めたというからすごい行動力、コミュニケーション能力に脱帽するよ。

その関係でなのか、元ワイヤーのブルース・ギルバート&グラハム・ルイスがやっていたDOMEというユニット+ラッセル・ミルズによるパフォーマンスにShinro Ohtake as the Blind Calligrapher、海外の記事では「日本人の助手」として参加している。
1980年のイギリスでDAFやワイヤーの半分と同じステージに立っていた日本人なんて、羨ましい限り。

大竹伸朗展の資料を読むと、19/JUKEを始めた頃に影響を受けたミュージシャンとしてディス・ヒートやペル・ユビュ、初期のDAFなども挙げられてて、この辺はROCKHURRAHも大いに通じるところがある。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンのミステリー作家、鳥飼否宇先生も同じ時代に同じようなものを聴いて好みが似ているので、ぜひ対談(音楽談義)していただきたいものだ。

そういうロンドンでのパフォーマンス体験を刺激として、帰国後に始めたのが19/JUKEというわけかな。
ノイズ、ジャンク系の音楽の大半が制作過程の種明かし、つまりどうやって音楽を作り上げてゆくのか不明の工程を経て作品を作り出しているんだが、これもまた大竹伸朗の絵画作品と同じように、乱雑で粗暴かと思えば細やかな神経の行き届いた偏執狂的な傑作。
A面B面合わせて45曲も収録された音の細切れのようなアルバムはアイデアの断片や様々な歌、コラージュのような音の積み重ねがうまい具合にカットバックしてきて、飽きさせないところが才能だと個人的には思うよ。
4人のメンバーによる実験音楽というから、大竹伸朗が一人で作ったわけではなくセッションやインプロビゼーションの要素が強いものだろうが、偶然出てきた音に面白みを感じて出来上がる過程(聴衆にはわからない部分)こそが興味深い。

何がノイズでノイズじゃないか人によって基準は様々だけど、ノイズ=耳障りな音だとすれば多数の人々から嫌われている。
そんな、聴衆を全く無視して作った退屈なノイズ・ミュージックが世の中にはたくさんあったが、19/JUKEはそういうのとは明らかに違うと感じた。
「うまくあるな きれいであるな 心地よくあるな」とはTAROMAN岡本太郎の言葉だが、まさにその心意気。
ノイズを作ろうとした結果じゃなく、ペインティングで色を重ねていったり異物を貼り付けていったり、スクラップ・ブックを作る時と同じような感覚なんだろうな。
うーむ、久しぶりに登場した割には歯切れの悪いコメントでありきたり。

パズル・パンクスは1996年頃にやっていた元ハナタラシ、ボアダムスの山塚アイ(ヤマタカEYE)と大竹伸朗によるユニットらしいが、この辺になると初期パンクや80年代のニュー・ウェイブばかりしか語らないROCKHURRAHにはコメントし辛いものがあるな。
音の方はその二人の音楽経歴を知る人には想像出来る範囲のもので、この時代になると目新しくはないのは承知の助。

目新しいとすればそのバックバンドという位置付けなのかどうかわからないが、ダブ平&ニューシャネルという遠隔操作の無人バンドによるライブ・パフォーマンスだろう。
ギターやベース、ドラムといった楽器に何やらモーターのようなもので動くアームを取り付けて物理的に演奏をするという、今どきのテクノロジーとは逆行するような昭和の臭いがプンプンするもので、そういうからくりやガラクタを知っている世代には受ける、面白いもの。
大昔、10ccのゴドレイ&クレームが作ったギターに取り付けるアタッチメント、ギズモというものがあったが、ダブ平&ニューシャネルはそれをもっと大掛かりに見世物小屋っぽく作ったところが大竹伸朗の面目躍如だね。

これは現在ではなく2006年に木場の現代美術館でやった「大竹伸朗 全景 1955-2006」の時の映像だと思うが、ご本人が実際にダブ平たちを操っている姿があって「おっさんが大真面目にバカバカしいことをやる」ということが大好きなROCKHURRAHとSNAKEPIPEにはすごく良くわかるシロモノ。
やっぱり大竹伸朗、素晴らしい。
ではROCKHURRAH、ここまで。

3回に渡って特集した「大竹伸朗展」、本当はまだ書き足りない気分だけど、ここで終わりにしよう。
大学を休学し、英語もできないのに22歳でロンドンに行く勇気。
「見る前に跳べ」のように、強いパッションだけで行動できる人なんだよね。
「BUG男」の命名者である藤原新也も同類と言えるはず。
その熱量は45年経った今も変わっていなくて、圧倒的なパワーを見せつけられたよ。
名前だけは以前から見聞きしていたけれど、大竹伸朗展で全貌を知ることができた。
エネルギーを分けてもらった気分。
鑑賞できて本当に良かった!(笑)

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