No Country , No Life!


【おかっぱ系?4名様大集合!(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

やっと話題の映画「No Country」を観た。
以前より劇場で鑑賞済みの友人2人から「おもしろいよ!」と薦められていた作品である。
ご存知コーエン兄弟が監督・脚本などを手がけている2007年(日本公開は2008年)の映画。
1996年の「ファーゴ」との比較や感想を軽くまとめてみたい。
(ネタバレの箇所がありますので、これから観ようと思う方はご注意を!)

静寂の風景からスタート。
開始からほんの数分で「おかっぱ頭」の男の犯行シーン。
それにしてもなんでこんなヘンな髪型なんだろ!(笑)
かなり迫力のある力任せの壮絶なコロシ。
ところが、事件はこれだけじゃないんだよね!
その後も無差別に「自分にとって都合が悪い相手」をバンバン殺す。
「おかっぱ頭」には彼独自の哲学(美学?)があって、その原理にのっとって行動しているらしいんだけれど。
粘着質の変質的なサイコキラーだ。
ハンニバル・レクター(「羊たちの沈黙」で有名な博士)に匹敵する犯罪者」
のような記事をいくつか発見したけど、SNAKEPIPEはそうは思わなかったな。
レクター博士は知的で芸術肌の犯罪者だからだ。(ヘンな表現だけど)
そしてレクター博士は武器を使わない。
この「おかっぱ頭」は屠殺用エアガンを使って犯行に及ぶのだ。

ここで余談であるが、先日ROCKHURRAHの薦めで観たトビー・フーパーの「悪魔のいけにえ」の中にも牛を殺す話が出てきたことを思い出す。
「昔はかなづちで頭を叩いたもんだけど、今はエアガンだってよ」
この映画の中では「かなづちこそが正当」とエアガンは邪道のような言い方がされていたけれど、これもまた犯罪者独特の美学なんだろう。

大金を手に入れたあたりから、ドラマチックになってくる。
逃げるカウボーイハット、追う「おかっぱ頭」。
追う、追われるの構図はいつでも手に汗握るほどスリリングで、できれば大金持ってうまく逃げて欲しいと心の中で念じてしまう。
ところがっ!
そうはうまくいかないのね。
それにしてもカウボーイハットが誰に撃たれたのかはっきりしない。
「おにいさん、ビール飲まない?」
なんて誘ってた女もグルだったのか?
よく分からない組織の手下の仕業だろうくらいの予想はつくけれど、通常だったら描かれるはずのドラマが突然終了している。
勝手に準主役だろうと思っていたカウボーイハットは意外とあっさり映画の中から消えてしまったのだ。

この「通常なら描かれるはずのドラマ」の部分を恐らく故意に排除したのが「No Country」でエンターテインメントに仕上げたのが「ファーゴ」かな、と思う。
「ファーゴ」では「あの後どうなったんだろう」と予想することはなく、すっきりエンディングを迎えることができた。
ところが今回の「No Country」は尻切れトンボだらけ!
いきなり死体だけが映っていて、その間のストーリーがない。
話が途中で終わることが多く、その後が分からない。
もどかしいのである。

しかしこれは毎日見聞きするニュース報道に近い感覚ではないか、と思う。
何かしらの事件が起きて、犯人が捕まっていない場合は証拠や証言から事件を想像するしかない。
語られない部分が多いのがほとんどだろう。
現実世界でも膨大な数の事件が一度は話題になったとしても、あやふやで尻つぼみの報道のために結末を知らないままになっていることが多い。
毎日の事件が多過ぎて、最後まで伝えてくれないからだ。
そして事件そのものも時と共に人の記憶から薄らいでいく。
その意味では「No Country」はリアリティあふれる映画、といえるのではないか。
犯人逃走中、のまま「おかっぱ頭」の話は終わる。
観終わった後のちょっと物足りない感じも、またリアリズムか。

ラストは唐突に始まるせいでとまどうけれど、警官が夢や希望に破れてリタイアしてしまった諦念と老いについて語っているシーンだ。
これも通常の事件モノだったら警官はいつまでも犯人を追い続ける、となるはずが
「時間があるから馬にでも乗るかな」
なんてすっかり定年後の会話になっていて、更に前述の夢の話だ。
このあたりも現実的なんだね。
それにしてもコーエン兄弟、「バーバー」でも中年男の悲哀を描いてたな。
そのくらいの年齢の人をターゲットにしてるということなのか、これから先の自分のことを想像しているのか分からないけど、そんな年でもないのにね?

「No Country」は40ぐらいの賞を受賞しているようでびっくり!
いやあ、そのー、どうしてこの作品が?と思ってしまって。(笑)
どっち、と聞かれたらSNAKEPIPEは迷わず「ファーゴ」に軍配を上げるな!
自分では気付いていなくても、エンターテインメント慣れしてるのかもね。

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