【画像では解り辛い!目の前に立つと吸い込まれそうになるAnish Kapoorの中が空洞の作品void】
SNAKEPIPE WROTE:
今まで何度読み返したのか覚えていない。
次に何を読もうか迷った時に、必ず手に取ってしまうのが鳥飼否宇先生の「中空」である。
この小説は先生の名前を世に知らしめるきっかけになった、2001年に横溝正史ミステリー賞優秀賞を獲得した鳥飼先生のデビュー作だ。
以前より何度も先生の著作について拙い感想を書かせて頂いている中に、「痙攣的」をまとめた記事もある。
その記事の中で、「中空」や「非在」も面白い、なんて書いておきながら感想をまとめていなかったんだよね!
「好き好きアーツ!#30 鳥飼否宇 part9–生け贄–」の最後で触れていたように、鳥飼先生の旧作を改めて再読し、感想を書いてみようと思ったのである。
「痙攣的」ですっかり先生の虜になったSNAKEPIPEは、「中空」でも魅力的な登場人物と出会うことになる。
先生の分身のような存在である(鳥飼先生ご自身は否定されているけれど)鳶山久志、通称トビさんを探偵役に据えた「観察者シリーズ」は、2015年の今年にも新刊が出た、現在も続く大人気シリーズである。
そしてトビさんに探偵役をさせるきっかけを作るのが猫田夏海、通称ネコである。
「中空」は、植物写真家であるネコが、屋久杉の撮影を終え、鹿児島在住のトビさんと待ち合わせ、居酒屋で飲んでいるところに耳寄り情報をもたらす人物と出会ったことから始まる。
行商人である旅庵から、滅多にお目にかかれない竹の花に関する話を聞くのである。
かつてSNAKEPIPEの祖母の家は茨城県にあり、農家だった。
昔話に出てくるような藁葺き屋根。
庭には柿の木やビワの木があって、木の下にはガチャコンと組み出す井戸があり、トイレは外の掘っ立て小屋だった。
トイレ、というよりは厠という呼び方のほうが適切だね。
いわゆるボットン式だったから。
夜、そこに行くのは大変な勇気が必要だったものだ。
もし今、またあの場所にいったとしても、あの厠はかなり怖いだろうな。
そして、裏庭は見事な竹林だった。
サワサワと風に揺れる竹の葉の音。
見上げると全く空が見えないほど高さのあった竹は、日差しを遮り涼しい空間を作っていた。
物心つく前の記憶だから全く当てにはならないけど、竹の花を見たことはないはずだ。
多分、そう、だと思う。
この一文を書くために、かなりの行数を費やしたね。(笑)
左の画像が竹の花らしいけど?
あんまり花って感じには見えないよね。
作中にもあったように、竹の花は60年から120年の周期で咲くと言われている。
見たことがないのも当たり前だね。
そのため開花を鑑賞できるのは、本当に稀なことなので、植物写真家のネコが話に食いつくのもうなずける。
ただし竹の花に関するもう一つの情報については知らなかったようだ。
開花が珍事だからか、不吉なことが起きるという噂のことである。
旅庵さんに教えてもらった道を行き、トビさんとネコは奥深い山道を延々と歩き、ようやく目的地である「竹茂村」に到着する。
架空の村という設定だけれど、鹿児島県の大隅半島の先端近くの田舎とのことで方言は鹿児島弁である。
文章として読んでいるから、理解できる範囲の方言だと感じるけれど、ネコが言っていたように、ヒアリングだけでは会話を成立させるのは難しそうだ。
SNAKEPIPEは「じゃっどん」がお気に入りで、ROCKHURRAH相手に使用することがある。
福岡や長崎でいうところの「ばってん」と同じだね。(笑)
会話に不自由を感じながらも、旅庵さんから村の住人を紹介してもらう。
「竹茂村」は7世帯が、共同生活を送っている自給自足の村だった。
桐野夏生の小説「ポリティコン」(2011年)ではトルストイの「イワンのばか」から命名した「唯腕村」という自給自足の村が舞台だったけれど、「竹茂村」では「老荘思想」の小国寡民の考えを実践した理想郷を目指してきたという。
孔子ならば多少は教科書にも載っていたので知っているけれど、老子や荘子、ましてその思想についての知識は皆無といって良いSNAKEPIPE。
ちなみに小国寡民とは「国土が小さくて、人口が少ないこと。老子が理想とした国家の姿」だという。
小国寡民には続きの漢文があり、その中で「足るを知る」ことや「穏やかに生活する」というようなことも書かれている。
村人以外の人との関係を築かないことも重要とされている。
自給自足といえば、かつてアメリカでヒッピー達がコミューンを作っていた話を読んだことがあるSNAKEPIPE。
良いな、と憧れたことがあったけれど、農作業やら家畜の世話、水を組んできたり、川で洗濯したり、藁でカゴを編んだり、干し芋を作ったり!
こう書いてるだけでも大変そうだよね。(笑)
桐野夏生の「唯腕村」では、目指していたはずの理想郷とは別の、ドロドロした人間臭い村に成り果てていたね。
恐らく最初はユートピア建設に向けて、村人全員が同じ方向を向いていただろうけど、やっぱり人間だもの。みつを。
桐野夏生は人のいや〜な部分を描くのが上手いよね!
一方、鳥飼先生の「竹茂村」は、創始者達が理想としたままの信念を貫いて生活をしているという。
完全に封鎖された村というわけにはいかないため、旅庵さんのような行商人が出入りすることになったというのである。
その説明を聞いて、トビさんが驚くのも無理はないよね!
20年前の事件だけは、理想郷に似つかわしくない、汚点とでもいうのだろうか。
現在は7世帯が住んでいる「竹茂村」は、8世帯だったという。
村人7名が惨殺され、1世帯がなくなってしまう大事件は、「八つ墓村」を思い出させるよね。
「8」の字と村人虐殺という点から、だろうね!
そんな忌まわしい過去があるにも関わらず、「竹茂村」は「老荘思想」を軸に存続し続けているという。
そして竹の花が咲いた時、また凶事が起きてしまうのである。
西荻窪にあるバー「ネオフォビア」には、トビさんとネコの行方を案じている2人がいた。
トビさんとネコと同じ大学で野生生物研究会のメンバーだった神野良、通称神野先輩と後輩の高階甚平、通称ジンベーである。
トビさんからの意味深なメールを受け取り、「竹取物語」を読んでいたという神野先輩。
「竹取物語の旅に出る」
というのがその内容なのである。
竹取物語といえば「かぐや姫」だよね!
確かに翁が竹を切ったら、中からかぐや姫が出てきたという話は有名だけど、「竹取物語」は読んだことないなあ。
離れた場所にいながらも、かつてのサークル仲間も竹に関して格闘している様が面白いね!
更に神野先輩の作詞作曲で弾き語りまで披露されるとは!
神野先輩は歌が上手いんだね。(笑)
「太陽と戦慄」の中でも鳥飼先生の作詞があったけれど、今回のかぐや姫の詩も良い感じ!
夢野久作の「白髪小僧」を思い出したSNAKEPIPEだよ。
そして「ネオフォビア」での選曲もファンには見逃せないシーンだよね。
ホークウィンド、ユーライア・ヒープ、キング・クリムゾン、スパークス。
SNAKEPIPEにはほとんど馴染みのないアーティストだけれど、ROCKHURRAHはさすがに知ってたよ。
「人が読んで分かる範囲の割とメジャーな選曲にしたのかな?」
とROCKHURRAHが言う。
その後の鳥飼先生の作品では、もっと一般的に馴染みのないアンダーグラウンドなアーティスト名がジャンジャン登場するから、というのが理由らしい。
デビュー作だからマニアックさを控えめにしていたのでは?と予想していた。
えー!メジャーなのー!知らなかった!(笑)
ほんとだ!ザ・ピーナッツまでカヴァーしてるし。(笑)
60年代から70年代のブリティッシュ・ロックだけを選曲しているという、神野先輩の趣味が全面に押し出された店「ネオフォビア」、実在してたら行ってみたいな。(笑)
「中空」は竹と荘子と「竹取物語」が混在し、「八つ墓村」のような残酷な事件があったかと思えば、スギ老人のボケぶりにプッと吹いてしまうシーンもある、非常に魅力的な小説であると再確認した。
ネコの大学時代のエピソードも、一見突き放したように見えるけれど、実は愛情を持って接してくれているトビさんの人柄も。
第4章の最後で「衝立に芭蕉の俳句が記されているのでは?」とネコが思う場面は、「獄門島」を指していることに気付いたよ。(笑)
やっぱり良いね!
何度読み返しても新しい発見があるもんね!
次は「非在」を読み返してみよう。
また何か発見がありそうだよね!
いつもいつも恐縮です。それはともかく、ザ・ピーナッツが「対自核」や「エピタフ」をカヴァーしているとは知りませんでした。貴重なものを教えていただき、ありがとうございます。
鳥飼先生、いつもコメント頂きありがとうございます!
とても嬉しいです!
ザ・ピーナッツ情報、喜んでもらえたようで良かったですよ。(笑)
当然ですが、ROCKHURRAHが調べてくれました。
「エピタフ」は西城秀樹やフォーリーブスのバージョンもあるみたいですね。
現在「非在」読んでます。
また感想を書かせて頂きますね!