【新宿シネマカリテ前のポスターより。あっち向いたジョニー】
ROCKHURRAH WROTE:
ジョニー・サンダースのドキュメンタリー映画が公開されるのを知ったのは定期的にチェックしているアートや映画の情報サイトで記事を見かけた時だった。
見つけた瞬間は「ああ、またか」という印象しかなく、大喜びで興奮したりというファンの心理とは程遠いものだった。
パンクやニュー・ウェイブ関係のこういったドキュメンタリー映画を今まで一体いくつ観てきただろうか?主要なものは大抵観てると思うけど、面白いと思えるものはほんのわずか。
それ以外は大体同じパターンで、予告を観た時点でほとんど内容がわかってしまうんだよね。
しかしジョニー・サンダースはROCKHURRAHの中でも特別な思い入れのあるミュージシャンなのは確か。例えドキュメンタリー映画として面白くはなくても一度は観ておきたいという心もある。期待を裏切られた時の落胆を想像しての「ああ、またか」という気持ちだったわけだ。
これはROCKHURRAHの好みだが、当時の関係者がそのミュージシャンやバンドについて語ってるばかりの形式はどれも大して興味深くない。
ひどいのになるとあまり関係あったとは思えない人間まで出てきてしたり顔で語る。
この手のパターンのドキュメンタリー映画を観ると映像や音楽もぶった切られてて、本当にこのバンドに対しての愛情があるのか?と疑うような構成のものが多いね。「これは貴重な資料だ!」などと思って観てる人もいるのだろうか?
話がそれるけどこの手のドキュメンタリーよりも面白かったのがどこまでが現実か虚構かわからないタイプのもの。ピストルズの「グレート・ロックンロール・スウィンドル」やジョイ・ディヴィジョンで有名なマンチェスターのファクトリー・レコードについて焦点を当てた「24アワー・パーティ・ピープル」、これなどは真面目に回顧するドキュメンタリーなんかよりずっと楽しめた作品だったよ。
まあそういうわけでこの映画の予想はたぶん苦手な方のタイプのドキュメンタリーだとは思ったけど、SNAKEPIPEに話したら「DVDになるかどうかわからないから行ってみよう」ということになって、まさかの公開初日、第一回目の上映に行くことになった。
「観に行ける場所にいて観る機会があるならやっぱり観た方がいい。面白いかどうかは観たから言える事だから」というのがSNAKEPIPEやこのブログにしょっちゅう登場してる友人Mの持論なのだ。言われてみれば確かにそうだ。こりゃ一本取られたよ。新宿まで電車一本で行けるんだから考えるまでもないね。
シネマカリテは新宿駅を出たすぐのところにある小さな映画館でアクセス的には最高の場所にある。実はここは初めて行くところだったが、さすがの怪しい二人(道に迷いやすい)でもすんなりたどり着いた。
かなり早い時間に着いたにも関わらず、すでに行列が出来ている。たぶんジョニー・サンダースの映画ではなく別の映画の観客なんだろうと思いはしたが、ウチは事前にネット予約しておいたからその点は安心だ。
ここでやる午前中の回を鑑賞したわけだが、入ってみると予想外、いやウスウスと予感してた通りの人種が集まってて意外と大盛況。
年齢層高くてしかもまだまだロック現役、といういでたちの客層が多いね。おそらく自称「下高井戸のジョニー」とか「阿佐ヶ谷のシルヴェイン」「新小岩のアーサー・ケイン」などなど、ここに集結していたのではなかろうか?
いかにも、ジョニー・サンダースの客層としては想像通りだよ。
ジョニー・サンダースはパンク好きの人なら知らぬ人はいないくらいの伝説のロックンローラー、死ぬまでドラッグ漬けを貫いたジャンキーなギタリストとして有名。
今ここでROCKHURRAHが語らなくても誰でも語るくらいのメジャーなアーティストだ。
映画はそのジョニーがトボトボと歩いてる映像から始まる。
1970年代初期、イギリスで流行していたグラムロックに対するアメリカからの回答、というような位置付けでデビューした異端バンドがニューヨーク・ドールズだった。
単なる化粧や女装というよりも一段と悪趣味にデフォルメされたドギツいルックスはこの当時のロックの中でもかなり異質なもの。
後の時代のドラァグ・クイーンやオカマ・バーなどで顕著なスタイルの元祖的存在かも知れない。
そしてこのニューヨーク・ドールズのギタリストがジョニー・サンダースだった。
映画の中で語られてるように「地毛であるとは思えない」ようなイビツに盛り上がった長髪でギターをかき鳴らして素晴らしくアクの強いロックンロールを奏でる。これがニューヨーク・ドールズの魅力だった。
しかしこのバンドはジョニー以外も全員クセモノ揃いで強烈なインパクトを観るものに与えていた。
「観る」などと軽々しく書いたけどその当時はビデオもDVDももちろんなく、動いてるドールズの姿を知ったのはずっと後になってからなんだけど。
※ちなみに今回採用したこれ以降の動画はどれも映画の方とは特に関係ない映像なので勘違いしないように。
ROCKHURRAHの言葉や説明なんか要らないと思えるけど、これが最も有名な全盛期メンバーの頃のライブ映像だ。デヴィッド・ヨハンセンの野太い声もジョニーのギター・プレイも最高。
そしてこの映像の一番左でフライングVのギターを弾いてるのが盟友、シルヴェイン・シルヴェイン、今回の映画でメインに回想するのが彼なのだ。
ずっとジョニー・サンダース関連を追い続けたわけじゃないから顔もその名前を聞くのも実に久しぶり、いやー太ったけどそこまで面影なくなってないね。
ニューヨーク・ドールズはセンセーショナルな話題性のあるバンドだったけどあまりに異端すぎて知名度ほどは売れなかった。メンバーのジョニー・サンダース、彼が死ぬ直前まで腐れ縁で付き合ってきたドラマーのジェリー・ノーランなど、ドラッグと深い関係にあるという問題だらけの危なさもマイナスのイメージだったようだ。そしてよくあるようにマネージメントやメンバー間の亀裂が元で解散してしまう。
ちなみに解散前の最後の時期に彼らをマネージメントしていたのがセックス・ピストルズやパンクの仕掛け人として有名なマルコム・マクラーレン。ドールズやニューヨーク・パンクの影響を受け、その後にロンドン・パンクが発生する。
ドールズの残した全部の曲が好きなわけじゃないが「Pills」や「Trash」などパンクに影響を与えた名曲は大好きで今でも愛聴している。個人的には一生古臭くない素晴らしいキワモノの世界だと思う。
ドールズと別れをつげたジョニーが次に関わったのがリチャード・ヘルとのハートブレイカーズだった。これまたニューヨーク・パンクの代名詞とも言える人物でトム・ヴァーラインとテレヴィジョン、ジョニー・サンダースとハートブレイカーズで短い間活動していた伝説のツワモノだ。自身のバンド、ヴォイドイスの「ブランク・ジェネレーション」などはパンクの世界で燦然と輝く名盤だったね。
そのヘルが去った後でジョニー・サンダースがギターとヴォーカルを務めたのが一般的に知られるハートブレイカーズというわけ。
今回の映画でも回想する役として出てくるもう一人のシンガー&ギタリスト、ウォルター・ルー、ビリー・ラス、それにジョニーとドールズ時代から一緒だったジェリー・ノーランによる最強バンド。ドールズよりもさらに薬物依存度を高めたこの危険な4人組は「L.A.M.F.」という大傑作アルバムをひっさげ、ロンドン・パンクにも影響を与えまくった不良の大御所みたいな存在だった。
ギブソンのレスポール・ジュニア、通称TVモデルと呼ばれる50年代のギターを愛用(「中國石」というステッカーが貼ってある)し、時に調子っぱずれのグニャグニャしたギター・ソロを弾く。その音色はうまいとかヘタとかを超越してジョニー・サンダースにしか弾けないような特徴を持ってて、一度ファンになった者にはたまらない魅力だった。そしてあのルックスとファッション・センス。彼の影響を受けてお手本にしたミュージシャンがいかに多いことか。
映画の中でハートブレイカーズの頃を回想するのは上の映像で左側に写っているウォルター・ルーだ。彼らの代表曲と言えば「Born To Lose」や「Chinese Rocks」が有名なんだが、この辺のライブ映像でジョニーよりもある意味で目立ってる男がウォルターだ。しかし映画の回想ではすっかり会社役員風のメガネ男になっててビックリしたぞ。マジメになったのか?
ベースのビリー・ラスはこの頃はリーゼントの老け顔でマフィアっぽかった風貌の男だったのに、回想ではパンクじじいみたいになっててこれまたビックリしたぞ。回想のインタビューは近年なのでみんな見る影もない。オンリー・ワンズのピーター・ペレットはまだマシだったがそこのギタリストとテレヴィジョンのリチャード・ロイドが二大デブおやじになってしまってるし、ああ見たくない世界。
ニューヨーク・ドールズ、ハートブレイカーズとパンクに影響を与えたジョニー・サンダースだったが70年代後半からはソロ活動も行っており、この時代はいわゆる珠玉の名曲なども残していて、ソングライターとしての才能も素晴らしかった。ボブ・ディランが「こんな曲を書きたかった」と言ったほどの名曲「You Can’t Put Your Arms Around A Memory」やシド・ヴィシャスに捧げられた「Sad Vacation」などの哀愁の曲も忘れられないね。
映画ではあまり回想されなかった(ような記憶)が、元スナッチのパティ・パラディンとジョニーの美男美女デュオによる「Crawfish」の気怠い雰囲気は個人的に大好きだった。二人で銃を撃つギャング映画風のプロモーション・ビデオも存在するんだが、画像が最低なのでここでは紹介しなかった。
そしてジョニー・サンダースは1991年に38歳で死んだ。
早すぎた死だと惜しむ声もあればドラッグまみれの人生にしては長生きだったという声もある。白血病にかかっていたという説もあるし暗殺されたという説もあるらしい。
ヘロイン漬けのジャンキーの死についてアメリカの警察はロクな調べもない、というのもリアルに聞こえるよ。そりゃそうだ。
しかし最後にシルヴェイン・シルヴェインが言ってた「アイツはその時が死ぬ時だったんだろう(うろ覚えだけどそんな感じのこと)」という言葉が最もふさわしいと思った。
その翌年、ドールズ時代からの名ドラマー、ジェリー・ノーランも死亡している。
映画は特にドラマティックなところもなく、割と淡々としたもので予想通り。しかしライブ映像なども少なくて一曲まるまる使われるシーンもなく、本当に当事者のインタビューの方がジョニー・サンダース本人の映像、特に歌ってギターを弾くシーンよりも重要という扱いがやっぱり気に食わない。「当時」などと言えばもう30年も前の映像しか残ってないのは確か。それはこの監督(スペインの監督らしい)の撮った映像ではないのが当たり前だが、もう少し音楽満載の内容であって欲しかった。
偉大なミュージシャンのドキュメンタリーは今後も同じパターンで作られ続けるだろうけど、観に来るファンは回想する人じゃなくて本人のファンなのだから、その辺をちゃんと考えた演出にして欲しいものだ。
ジョニー・サンダースの演奏は途中でフェイドアウトするくせに、エンドロールでジョニー・サンダースにまつわる別の人の歌だけはちゃんと流すというのもどうかと思うよ。
ここで元サブウェイ・セクトのヴィック・ゴダードによるそのものズバリ「Johnny Thunders」という曲がかかったのが個人的には嬉しかったのでまあいいか。ピストルズのアナーキー・ツアーでハートブレイカーズと共にドサ回りしたヘロヘロなヴォーカルの変人。
書きたい事がもっとあったはずなのに肝心な部分で何かが抜け落ちてるなあ。映画を観た当日に帰って来て感想を書くというのが初めての経験だから、不完全なのは仕方ない。
もうさすがに限界なので今日はこれで勘弁してね。
ではまた来週。