没後120年記念 月岡芳年展

20121007-top1【太田記念美術館正面入口の看板を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

現在原宿にある太田記念美術館で「没後120年 月岡芳年展」が開催されている。
今年1月に森アーツセンターギャラリーで鑑賞した「没後150年 歌川国芳展」であるが、その弟子にあたる人物が月岡芳年。
そして月岡芳年といえば無残絵、とすぐに連想されるように血みどろの浮世絵が有名なのである。

「おびただしい血が流れる残酷な場面を描いた芳年の血みどろ絵は、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、三島由紀夫など、大正・昭和に活躍した文学者たちにさまざまなインスピレーションを与えました。」

と、太田記念美術館のHPに紹介文も載っているね!
浮世絵の世界にほとんど触れたことがないSNAKEPIPEなので、当然のことながら芳年を鑑賞するのはこれが初めて。
とても楽しみにして原宿に向かったのである。

80年代にはほぼ毎週のように渋谷~原宿を歩いて、買い物したりオシャレな人達を観察したりしていたSNAKEPIPE。
空気を吸ってるだけで嬉しかったあの頃…。
ROCKHURRAHも同じだったようで、
「あの頃が懐かしいね」
「あの店まだあるんだ!」
などと語りながら美術館へと歩く。
原宿に浮世絵専門の美術館があることすら知らなかった。
「てっきり大田区にあるもんだと思ってたよ」
とROCKHURRAHが勘違いするのも無理はないよね。(笑)

ほんの数分で太田記念美術館に到着する。
入り口からはとても小さな美術館に見えるんだけど?
しかも「没後120年」で「東京では17年ぶりの大回顧展」と謳っている割には、看板は上の写真一つだけのあっさりした様子。
前回のブログ「ジェームス・アンソール展」の時みたいに美術館に騙された、なんてことにならないかな、と少しだけ不安になる。
ところが展示会場は地下、1階、2階と工夫がされて展示されていたので、不安は解消されたよ。
作品は前期・後期と期間を2回に分けて、芳年の全貌を伝える方法を採るとのこと。
あ、これも歌川国芳展の時と同じだね!(笑)
そしてROCKHURRAHとSNAKEPIPEが前期を鑑賞するところも同じだなあ。

展示は第1章から第5章までの括りに分けられていたので、国芳展の時と同じように今回のブログもそれぞれの章ごとに感想をまとめてみようと思う。

第1章 国芳一門としての若き日々
1850年、数え年で12歳の芳年は浮世絵師歌川国芳に弟子入りする。
15歳でいきなり3枚続の大判錦絵を制作するほどの才能の持ち主だったとは驚きだね!
そしてその絵の見事なこと。
早熟さが良く解るね。
第1章では12歳から27歳の芳年が独立するところまでの期間を展示していたよ。
その中で気になったのはこの浮世絵。
 
「岩見重太郎狒々退治の図」1865年の作品である。
豊臣秀吉に使えた戦国武将、岩見重太郎が邪神(狒々)を倒し、生贄になろうとしていた半裸の女性を助けた場面ということらしい。
上の絵では小さ過ぎてよく観えないと思うけれど、狒々の絵がすごいんだよね。
見目形の想像力、表情の豊かさったら!
そしてその対比となるような女体の妖艶さ。
この時代のポルノ画といっても良いんだろうね!
ただし、若干女性の縮尺(足のほう)が変なように思ったけど、どうだろう?

第2章 幕末の混迷と血みどろ絵の流行
おおっ、ついに第2章で「血みどろ絵」になったよ!
これは歌舞伎や講談の凄惨な刃傷場面を題材とした浮世絵で、やや過剰に血を描写している作品である。
確かにかなりのインパクト!
「すごい!」
「凄まじい!」
と言いながら鑑賞し、その迫力に圧倒される。
刀で斬り殺す様子、切腹の様子、逆さ吊りにした女から夥しい血がボタボタ垂れている様子など、非常に残酷な浮世絵が並んでいる。
1866年から1869年頃の作品で、この2年間の芳年は悪夢にうなされてなかったのかなと心配になっちゃうよね。
ホラー映画を続けて観た後のSNAKEPIPEは、必ず悪夢をみてたからね。(笑)

このチャプターの中で気になったのは血みどろじゃなくて、この浮世絵。
「清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎」という1868年の作品である。
全く同じタイトルの浮世絵が師匠である国芳にもあるけれど、国芳は横に3枚並んだタイプ。
芳年は竪3枚続という大胆な構図を採用している。
滝を背景に落下する人物を表現するためには、最適な方法だったといえるね。
上部の源義平が雷になって復讐する、という題材とのことだけど、まるで後光が差しているかのような放射線は、後の横尾忠則に影響を与えているような感じ。
120年以上前の作品で、こんなに斬新な作品を作っているとは驚きだね!

第3章 新たな活路―新聞と西南戦争
時代はすでに明治になっていて、新聞が発行されていたようである。
その新聞に錦絵を載せていたのが芳年とのこと。
報道写真ならぬ報道浮世絵とでもいうのかな。
当時の日常的な事件や戦争などを描いている。
これは実際に取材してから描いているわけではないと思うので、聞いた話を想像力を補って創作してたんだろうね。
やっぱり得意の(?)無残な事件に焦点を当てた浮世絵が多いね。
当時の人々がどんな事件に関心を持っていたかも分かって興味深い。
それにしても浮世絵がこんな形に進化していたとは知らなかったよ。
まさしく出版とか印刷の元祖なんだね。
この章で目を引いたのが、新橋や柳橋の芸者を取材して浮世絵にした「新柳二十四時」シリーズ。
タイトルの副題が「午前五時」とか「午後十一時」という時間になっているところにセンスを感じるね。(笑)
その時間に芸者は何をしているかという時系列のような仕上がりになっていて、これはもうフォトジャーナリズムだよ!
そして女の顔が師匠である国芳より、ずっと色っぽく見えるね。
浮世絵の中の女を鑑賞して美しいと思ったのは初めてかな。(笑)

第4章 新時代の歴史画―リアリズムと国民教化

西南戦争が終わった後に芳年が取り組んだのが歴史画と言われる、歴史上の人物を題材とした作品の発表だった。
これは天皇を中心とする政治体制を確立しようと考える明治政府にとっても、国民教化としての教育的な役割を担っていたというから驚いちゃうよね。
ジャーナリズムの次は教科書的な浮世絵とは!
そんなに大々的な仕事をしていた浮世絵師なのに、芳年の名前はあまり有名じゃないんだよね。
SNAKEPIPEも国芳を知ってから調べて知ったくらいだからね。(笑)

第5章 最後の浮世絵師―江戸への回帰
絵入自由新聞社に雇われ、毎日のように新聞に挿絵を描いていた芳年は、大人気作家だったとのこと。
いわゆる浮世絵師というのとは違うから、現代においての評価があまりなされていないのかね?
1892年、54歳で亡くなるまで約40年間、ずっと浮世絵にこだわり続け、「最後の浮世絵師」と呼ばれる芳年。
後年の作品は、その卓逸な構図やデッサン力が見事に花開いて、本当に素晴らしい作品が並んでいる。
この章では下絵と作品、といった2枚同時の展示がされていて、どんな下描きをして作品を仕上げていたのかが解るようになっている。
ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、仕上がった作品よりも下描きの素晴らしさに驚いた!
赤鉛筆(?)を使ったあとに、細いペンのような黒い線で下描きをしてるんだけど、これがまるで漫画とかアニメの下描きみたいなんだよね。
このまま動き出しそうなタッチに、芳年のデッサン力の確かさを感じる。
国芳展では恐らく下絵を見ていないと思うので、今回が初めての浮世絵の下絵鑑賞なのかな。
あんなに完成に近い形で下絵を描いていたとはね!

他にこの章で気になったのが「風俗三十二相」という女性ばかりを描いた作品。
何が気になったのかというと、副題である。
「いたさう」「あつさう」「じれつたそう」「みたそう」といった感じで痛そうな刺青を彫っている途中の女、熱そうにしているお灸中の女などの様子を描いている。
こんな副題と題材を使うなんて、笑いを取るためだったのか真剣だったのかと疑ってしまうほど面白いよね。(笑)

歌川国芳展は、宣伝効果もあったし、元々の知名度の高さもあって、鑑賞するのが大変なほどの観客数だった。
そのため所々は飛ばしたり、順路を変えて鑑賞し、少しでもストレスを感じないように工夫していたことを思い出した。
今回の芳年展は、そこまでの人出ではなかったし、順路を変える必要もなく気に入った絵の前には好きなだけ立ち止まっていられたのが良かった。
こじんまりした美術館だったけど、意外と作品数が多かったのも良かった。

言い換えれば、芳年の作品が全体的に小さかったんだよね。
大判三枚続とはいっても、A4サイズが3枚並んでいる程度の大きさだからね。
もしかしたらその作品のサイズが、せっかくの芳年の迫力を少し小さく見せている原因なのかもしれないね。

そして更に1872年頃には神経衰弱で倒れる、なんてこともあったようなので、精神的にも弱い人物だったのかもしれない。
思うように人気を得ることができなかったことが原因とのこと。
現代でいうところのメンタル的な病気ってことだろうからね。
生真面目な性格だったんだろうな。

月岡芳年は、師匠である歌川国芳や、同門である河鍋暁斎のような型破りな面はなかったけれど、構図の見事さと無残絵の迫力、そのインパクトは強烈である。
国芳のように鮮やかな色彩ではないため、ちょっと渋めのトーンに鮮血の赤がよく映える。
そういう効果的な演出も含めて、この時代の第一線の浮世絵師であり、恐らく後の時代のイラストや漫画に与えた影響は多大だろうね。

国芳、芳年と鑑賞して、今まで浮世絵の世界に益々興味を持ったSNAKEPIPE。
また機会があったら違う作家の作品も鑑賞していきたいね!

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