好き好きアーツ!#13 DAVID LYNCH—Crazy Clown Time

【リンチ作品のサントラ等を並べて撮影。鳥飼先生の時と同じパターン!(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

先週のブログ「SNAKEPIPE MUSEUM #13 Lauren E. Simonutti」の終わりに書いた、デヴィッド・リンチのフルアルバムについての記事。
まさか、と思っていたのに本当に出てたよ。(笑)
リンチアンなのに入手したのが少し遅いところが情けないけれど、今回はそのアルバムについての感想をまとめてみたいと思う。

処女作「イレイザーヘッド」から音響や作詞などを手がけ、「ブルーベルベット」では主人公であるジェフリー・ボーモントに草むらで耳を拾わせる。
リンチ=耳の監督という代名詞は昔から聞いていたので、今更音楽とリンチが密接に結びついていることに驚きはしないけれど。
ただ自らが歌い作詞や演奏まで手がけたフルアルバムのリリース、を知った時には正直驚いてしまった。
「ここまでやるか?」と思ったのである。
さすが、リンチ。なにをしでかすか判らない謎の人物だけあるね。(笑)
1曲ずつ簡単に感想を書いてみようかな。

1. Pinky’s Dream

「ピンキー」から想起するのは、もちろんピンキーとキラーズ、そしてファントムギフトピンキー青木だよね!(笑)
この歌の中のピンキーはどうやらトラックを運転しているところらしい。
ピンキーが紫のたばこの煙をくゆらせながら、オレンジ色のライトを照らしながら走っている。
これはどうやら夜のドライブみたい。
「ロスト・ハイウェイ」も連想できるし、「ブルーベルベット」の中での「ジョイライド」も思い出すね!
このオープニングがビートの効いたパンチのある曲(ぷっ)なので、これからどうなるのかワクワクしちゃう。

2. Good Day Today

すでに先行シングルとして発売されていた曲なので、聴き慣れた心地良さ。
好き好きアーツ!#11 デヴィッド・リンチ—PV—」でも特集して、その中でも
「なんだか『スターシップ・トゥルーパーズ』の『今日は死に日和』のようなタイトルだよね。(笑)」
と書いているんだけど、「Good Day Today」と「Good Day To Die」って本当に良く似ている。
クラブ系のビートに乗って気持ち良さそうに歌うリンチの頭の中では「TODAY」と「TO DIE」を交錯させていたかもしれないね。
歌詞を読んでも「○○にはうんざり」ということが散々書いてあり、「天使を送ってくれ」ともあるので余計にそう感じてしまう。
リズミカルでダンスも踊れそうなノリの良い曲なので、竹中直人の「笑顏で怒る人」みたいな不気味さがあるね。(笑)

3. So Glad

「お前がいなくなってくれて本当に嬉しい」としわがれた、全然嬉しそうじゃない声で歌うリンチ。(笑)
この曲を聴いているとリンチが描いたグレーと黒の、ダークな雰囲気の油絵を思い出す。
心の奥底を具象化したような、心象絵画。
リンチは50年代カルチャー部分を取り除くと、まるでアメリカ人とは思えないようなヨーロッパ的な要素を持っているけれど、この曲はまさにリンチの核を表現しているような雰囲気だと思う。
あれ、なんだか真面目に評論してるよ、SNAKEPIPEごときが。(笑)

4. Noah’s Ark

この曲、「ロスト・ハイウェイ」のサントラに入ってるような感じ。
リンチがささやき声でつぶやくスタイルのボーカルだから、「ミャウミャウ」とアリスが電話でささやいていたのを思い出したのかもしれない。
室内に突如現れる真っ暗な闇。
リンチの映画の中ではお馴染みの光景だけど、この曲はその「リンチ・ブラック」をより効果的に見せるために丁度良いBGMになりそう、とほくそ笑むSNAKEPIPE。
この曲を聴いていると、勝手にリンチ風の映像が脳内に流れるから不思議だ。
やっぱり音楽の力ってすごいなあ。

5. Football Game

「君が他の男といるのを目撃してしまった」という実体験なのか、夢で見たのか、はたまた創作なのか不明な歌詞。
「恋多き映画監督」として名高い(?)リンチなので、実体験だったとしてもおかしくはないけどね。(笑)
と、ここで川勝正幸氏による解説中にあるリンチ・インタビューを読むと
「このアルバムの中の何曲かには別人格が登場している。
その男はアメリカ南部の山の中に住む貧しい男。
ブーツにジーンズ、汚れたTシャツ。
ピックアップトラックを運転し、たばこで黄ばんだ指先、密造酒を飲む。
街の女2人に好意を寄せているが、彼女達は男のことを好きではない」
という設定とのこと。
なるほど。
見かけは「ツインピークス」のボブ、みたいな感じね。(笑)
そういう「へべれけ」状態の男を想定して、できている曲もあるってことだね。
きっとこの曲はその「南部男」を描いているんだろうね?
意外とリンチの実体験だったりして?(笑)

6. I Know

これも先行シングルとして発売されていたのですでに馴染みのある曲になっている。
何か自分に原因があって、そのせいで彼女が出て行ってしまう。
悪いのは自分だから、彼女を引き止めることができない。
本当は別れたくないけど、自分からは言い出せない辛い思い。
うーん、ドラマですなあ!
詩の中の「did that thing」が謎だけど、何やらかしたんだろうね?

7. Strange and Unproductive Thinking

「奇妙で不毛な思考」と題された、リンチの声がヴォコーダーで電子音に変化し、詩を朗読している曲。
リンチにぴったりの単語、ストレンジ!
「It’s a strange world, isn’t it?」というセリフがあった「ブルーベルベット」をまっさきに思い出すね。(笑)
朗読されている詩の内容は全く意味不明で、そこがまたリンチらしい。
本当にロボットが勝手に様々な単語を組み合わせて喋ってるような感じがするね。

8. The Night Bell With Lightning

インストゥルメンタルの曲。
いかにもリンチのサントラに入っていそうな感じの曲なんだよね。
作曲はアンジェロ・バダラメンティじゃないの?って思ってしまう。(笑)
かなり雰囲気があるので、これも是非リンチ風脳内映像を創作して楽しみたい一曲!

9. Stone’s Gone Up

この曲もリンチが設定した「南部男」をモデルにしているように思われる。
なんともやるせない感情を歌っているんだよね。
「石が迫ってきた」という表現が良く判らないんだけど、もしかしたら事故とか?
「白い光」というのもあるから事故死かも。
うーん、失恋の痛手を負って、暴走したあげく事故なのかなあ。
いや、もしかしたら彼女に手をかけた後に覚悟の上の事故、かもしれないな。
などと想像するSNAKEPIPE。
リンチ風にするなら、もっと違うストーリーにしても良いかもしれないね!(笑)

10. Crazy Clown Time

アルバムタイトルと同じ曲のタイトル。
ポーリー、スージー、ダニー、サリー、バディ、ピーティ、ティミーと男女混合7名がハチャメチャパーティをやっている様子である。
ゴダールの映画「気狂いピエロ」のラストは頭にダイナマイトだったけれど、この曲の中でもピーティが髪の毛を燃やしている。
「とても楽しかった」と歌うリンチだけど、楽しいかい?(笑)
曲調は不安を煽るような不思議な雰囲気で、タイトルとも詩ともよく合っていてリンチらしさ満点!
リンチのハイトーンヴォイスも聴けて、ファンには嬉しいね。(笑)

11. These Are My Friends

この曲はまるで「ツインピークス」の「ナイチンゲール」だよね?
ジュリー・クルーズが歌ってれば、全く同じなんじゃないかなあ。
サリーとピートとベティの3人がトラックに乗ってピクニックに行くのかな。
あらら、まるでこれはローラとドナとジェームスが3人でピクニックに行ったのと同じ設定じゃない?(笑)
うーん、なにもかもが「ツインピークス」を連想してしまうね。
メロディラインも50年代風だしね!

12. Speed Roadster

これもまた「南部男」を想定した曲なのかもしれないね。
彼女に去られ、ちょっと女々しく、未練がましく彼女のことを考える男。
やっぱりまだ忘れられない、とストーカーまがいの行為を想像する。
トラックからオープンタイプのスポーツカーに買い替え、彼女をもう一度振り向かせようとも考える。
最後の部分はちょっと怖いねえ。
だってリンチだからねえ。(笑)

13. Movin’ On

まるで80年代ニューウェイブのような雰囲気の曲。
ちょっと懐かしい感じがするんだよね。(笑)
詩は暗くて悲しい感じ。
人生って何、と考えさせられる。(うそ)

14. She Rise Up

おお、これもまたロボット声に変化させているねえ。
まるで「ロスト・ハイウェイ」の「This Magic Moment」が流れた瞬間を表現しているような詩の世界!
電撃的な出会いから付き合いが始まるけれど、映画と同じようにやっぱり彼女は去って行くのね。
ロボット声だから泣き言に聞こえないけど、なんでこうも失恋の歌詞が多いのかしら?
やっぱりこれも「南部男」が設定なのかも。(笑)

15. I Have a Radio [Bonus Track for Japan]

ささやき声で「I Have a Radio」とだけつぶやくリンチ。
バックの音はちょっとヒカシューっぽくてSNAKEPIPEには馴染み深い音だな。
この曲だけが「日本盤」に収録されているボーナストラックということになっているんだけど、とても良い曲なので通常版にも入っていれば良かったのにと思う。
豚の鳴き声みたいな「キーキー」音が入っているところが怖い。
この曲だけどうやらPVがあるようなんだけど、恐らくリンチ自身の手によるビデオのように見受けられる。
左右に手を振って動きを見せる2人。
バックの墨絵調がリンチらしいよね!

ROCKHURRAHはこのアルバムを聴いて、声質がなんとなくスロッビング・グリッスルのジェネシス・P・オリッジやスーサイドといった80年代初期の雰囲気みたい、だとのこと。

執拗につぶやく呪術的なスタイルがリンチとも共通しているらしい。
スロッビング・グリッスルの曲をyou tubeで観せてもらったけど、確かに雰囲気が似てるね!
どっちも変態系だしね!(笑)

リンチ的世界に慣れ親しんでいる人にとっては「リンチそのもの」を体感できる、素晴らしいアルバムだね!
そうか、媒体を音楽に変えただけの話。
これは「リンチの新作」なんだな、と改めて気付く。
映画、絵画、写真、そしてついに音楽の世界にまで進出した「稀代のアーティスト」、リンチ!
やっぱりSNAKEPIPEには絶対的な尊敬に値する人物だなあ。
いやはや、恐れ入りました!(笑)
ロバート・ロドリゲス監督が偽の予告編から「マチェーテ」を作ったように、是非ともリンチにも「サントラから映画」の企画をお願いしたいと本気で思う!
SNAKEPIPEはもちろんのこと、きっと待ち望んでるリンチファン、多いはずだからね!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です