【哀しい運命に翻弄されるジャンヌ】
SNAKEPIPE WROTE:
SNAKEPIPEが小学生だった頃、子供の寝る時間として決められていたのは確か夜の20時だったと思う。
最近の子供には信じられないかもしれないけれど、昔はそれが当たり前の習慣だったんだよね。
そしてSNAKEPIPEもその教え通りに、毎日20時には眠ってしまう良い子だった。(笑)
ところがある日のこと、テレビの音で起こされてしまう。
どうやら父親が深夜番組を鑑賞していたらしく、その物音で目覚めたようだ。
寝ぼけ眼に飛び込んできたのは極彩色のアニメーション。
その映像の面白さに引きこまれてしまい、ついには父親と最後まで鑑賞してしまった。
「夜中に起きてテレビを観たことは母親には内緒」
ということにしてね。(笑)
その時の衝撃的な映像というのが手塚治虫が原案・構成・監督を務めた「クレオパトラ」であった。
1970年代、「千夜一夜物語」「クレオパトラ」「哀しみのベラドンナ」の3部作が制作された大人向けアニメーション「アニメラマ」。
その洗礼を恐らく10歳くらいで受けてしまったSNAKEPIPE。
はっ、この文章だけ読むと1970年に10歳だった子供=現在52歳という年齢だと思われてしまうよっ!
違うからねっ!観たのはきっと再々々々々放送くらいだと思うよ。
決してリアルタイムではないので、勘違いしないでね!(笑)
確かに子供が観るには早すぎる内容が含まれていたと思うけれど、あの時の衝撃は今でも忘れられない。
そして「クレオパトラ」がDVDになっているのを知ったのは、今から5年程前のことである。
「ああっ、あの時のっ!」
と喜び勇んで早速注文し、再び鑑賞することができた時の喜び!
ただし、幼少時代に最も強く印象を残していたクレオパトラ整形部分の映像が見当たらなかったのが残念だった。(SNAKEPIPEの記憶違い?)
何かの薬を飲まされたクレオパトラの原型となる不美人女は、全身がくねくねの軟体動物にようになって眠らされている。
そこに整形師とでもいうのか、美容整形専門のジイさんがやってきて、「顔はこんな感じにして」とまるで印鑑を押すようにペッタンと顔型を押し付け美人にしてしまう。
「体はこんな感じが魅力的」と手で粘土をこねるようにグラマラスボディを作り上げていく様子がたまらなく面白かったのに。(笑)
これもまた手塚治虫の漫画・アニメ「ふしぎなメルモ」に出てくる、青いキャンディーと赤いキャンディーのどちらかを食べることで年齢を変化させることができるミラクルキャンディーと同じくらい魅力的な題材である。
あのクレオパトラのクネクネになる薬と、ミラクルキャンディーがあったらアンチエイジングなんて関係ないもんね。(笑)
「クレオパトラ」に関しては前述したように「もう一度鑑賞」する夢が叶ったけれど、「アニメラマ」の他2作品は鑑賞することができなかった。
と、ここでまた「探しモノなら俺に任せろ!」とROCKHURRAHが見つけてくれたのが、「哀しみのベラドンナ」である。
この作品は「アニメラマ」の最後の作品として制作され、手塚治虫自身は全くノータッチとのこと。
そのため手塚治虫が描くようなキャラクターではなく、イラストレーター・深井国による作画である。
ROCKHURRAHは昔から深井国のファンだったようで
「あの絵が動くと聞いただけでファンとして嬉しい」
と鑑賞前から目を輝かせワクワクしている様子。(笑)
どうやらROCKHURRAHの自宅に、SF好きのお兄さんが購入していた本があり、その挿絵を深井国が担当していたらしい。
SNAKEPIPEは深井国については全く知らなかったんだよね。
こんな対照的な二人であるが、「哀しみのベラドンナ」の鑑賞を始めたのである。
観てまず驚いたのはその色彩である。
アニメーションということで、ポスターカラーのような極彩色を想像していたけれど「哀しみのベラドンナ」は淡い色調や中間色を多用している作品であった。
長い巻物のような一枚の紙に右から左へと物語に沿って絵が描かれ、順に絵を追ってカメラを移動させるような手法も採用されており、いわゆる通常観慣れたアニメの作りとは大きく異なっているのも特徴的だ。
そしてまるで最盛期の浅丘ルリ子や加賀まりこのようなお目目パッチリ、まつげビンビンロングヘアーの女性キャラクターが登場する。
そう、この女性が主人公ジャンヌなのである。
簡単に「哀しみのベラドンナ」のあらすじを書いてみようか。
19世紀フランスの歴史家ジュール・ミシュレが書いた「魔女」が原作になっている。
時代は中世のフランス。
ジャンとジャンヌが結婚式を挙げる。
当時のフランスでは、領主に貢物をし結婚の許しを得る慣例があったようだ。
ところが貧乏なジャンは充分な貢物を贈ることができず、罰として新妻ジャンヌの貞操を領主に奪われてしまう。
結婚当初から不幸な目に遭ってしまうジャンとジャンヌ。
生活は苦しく、不幸はずっと続いたまま。
そんなジャンヌの前に悪魔が現れる。
悪魔に願い事を聞いてもらう代わりに、ジャンヌは身を捧げ続け、ついには魔女になってしまうのである。
中世のフランスの領主と教会、民衆の関係が良く解っていないSNAKEPIPEなので、「どうして結婚するために領主に貢物を捧げるのか」を理解するところから始めないとね。
Wikipediaで見つけた「初夜権」に答がありそうなので、ご参照下され。
実はこのアニメ映画を観始めてすぐにこのシーンが始まるんだけど
「貢物が充分じゃないと判っていながら、何故結婚するのか」
と思ってしまったSNAKEPIPE。
そもそも最初から間違ってなあい?(笑)
その間違った考えのせいで、新妻ジャンヌは領主やその家来達から陵辱を受け、心身共にボロボロになってしまうのだから。
うーん、もうこの時点で普通なら即離婚だよね?
ジャンヌの稼ぎに頼り切り、自分は酒浸りのジャンの情けない男ぶり。
ヒモで酒飲みとは。うーん、絶対離婚だよね?
そして追われる身になったジャンヌのことを助けることもできない不甲斐なさ。
ここまで来ると、ジャンに対して怒りを覚えるほどだよね。
なんだかひどい話だなあ。
ネタバレになるから最後までは語らないけど、ひどい話ですっかり呆れてしまったSNAKEPIPE。
「哀しみのベラドンナ」は物語についてではなく、その作画や色彩などのアート作品として鑑賞するのがベターだと思う。
深井国の絵は不協和音な色を組み合わせたサイケデリック調で、とても60年代的だった。
あの色合わせ感覚、是非とも見習いたい分野だなあ。
描いている絵の途中途中でフィルムを回していたようなコマ撮り、前述したようなカメラのパンによる撮影など、かなり実験的な手法が採り入れられていて面白かった。
現代のようにCG技術などなかった1970年代に、手間暇かけてここまでの実験性と耽美的な世界を実現したこと、そしてそれが日本人の作品だということに驚き!
「アニメラマ」の最初の作品「千夜一夜物語」を未だに鑑賞していないSNAKEPIPEなので、またROCKHURRAHにお願いして探してもらおーっと!(笑)