【キューブリック監督作品「シャイニング」にも流用されたダイアン・アーバスの代表作】
SNAKEPIPE WROTE:
毎週ブログの記事を考える時に、頭をよぎっていた女流写真家の名前がある。
いつか書いてみたいと思いながらも、どこから書き始めたら良いのか迷い封印してきてしまった。
ついに勇気を出して記事にしてみようと思う。
こんなに大げさな前置きは要らないかな?(笑)
「好き好きアーツ」14回目の特集はダイアン・アーバスである。
もしかしたらアメリカで最も有名な女流写真家かもしれない。
写真やアートに興味がある人なら、大抵は彼女の作品を目にしたことがあるはず。
上の双子の写真のように、オリジナルは知らなくてもキューブリック監督作品の中で流用されたイメージとして鑑賞した人も多いと思うしね。
ダイアン・アーバスの作品はとても人気があるようで、オークションにかけられると高値がついている模様。
ちなみに上の双子の写真は2004年に478,400ドル、日本円にしてな、なんと3700万円という金額が付いたらしい!
これ、今の円高で計算してるからね。
2004年だったらもっと高い数字になってるはずだよね。
SNAKEPIPEは、かつて熱心に写真の勉強をしている時にダイアン・アーバスを知った。
一番初めに観たのがどの写真だったのか思い出せないけれど、もっとたくさんアーバスの写真を観たいと思い探し求めた。
そして写真だけではなく、アーバス本人にも興味を持ったのである。
「炎のごとく―写真家ダイアン・アーバス」という分厚い本も読んだしね。(笑)
写真だけではなく、プライベートなことまで突っ込んで知ってしまったせいか、余計にブログの題材として重たい気がして書き出せなかったのかもしれないなあ。
まずはダイアン・アーバスの略歴をまとめてみようか。
ダイアン・アーバスは1923年、ニューヨーク生まれ。
ニューヨーク5番街にあったRussek’sという有名なデパート経営者である裕福な家庭で育っている。
1941年、18歳でアラン・アーバスと結婚。
1945年には第一子を、1954年には第二子を出産。
左の妊婦の写真は、ダイアン・アーバスが妊娠したよ、ということを夫であるアランに知らせるために撮ったセルフ・ポートレイト。
この時夫のアランは陸軍信号隊の写真家として従軍してたからね。
それにしても「あなた!できたわよ!」と手紙で知らせるのではなく、こんなヌード写真を戦地に送るとはさすがダイアン・アーバス。
きっと届いた写真を観てアランも驚いただろうね!(笑)
この妊婦写真のカヴァーを確か長島有里枝が撮ってたなあ。
きっと妊娠が発覚した時に「絶対アレをやったる!」って思ったんだろうな。
同じようにデカパンだったように記憶しているよ。(笑)
1946年にアランとダイアンは二人で商業写真スタジオを始め、ハーパース・バザールやヴォーグなどのファッション雑誌に写真を掲載する。
1956年にダイアンは商業写真を辞めて、以前もやっていた写真の勉強を再開する。
彼女を有名にした「あのスタイル」の始まりはこの時からである。
そしてまたエスクワイヤーやサンデー・タイムズマガジンなどの雑誌に写真を発表する。
1958年に夫と別居、1969年には離婚している。
1967年、近代美術館で「ニュードキュメント」展に参加。
1971年に薬を飲み、カミソリで手首を切り自殺。享年48歳だった。
SNAKEPIPEが何故ダイアン・アーバスの写真だけではなくて、本人にも興味を持ち伝記本まで読んだのか。
それはどうしてフリークスを撮影するに至ったか、何故自殺してしまったのかという謎を解きたかったからである。
実は「炎のごとく」を読んだのはかなり前のことなのではっきりした記憶ではないのだけれど、何人もの知的障害者と触れ合っているうちに
「私は彼らのように無垢な人間になれない」
と劣等感を持ってしまったみたいなんだよね。
言葉にするのが難しいんだけど、ダイアン・アーバスはフリークスに憧れ、聖なる存在のように考えていたようなのである。
ダイアン・アーバスは健常者だから、どうしても障害のある人と距離があるのは当たり前なんだけどね。
48歳で亡くなるとは、非常に残念でならない。
数年前にダイアン・アーバスを題材にした映画が公開される、という情報は知っていた。
邦題も知らず、日本公開されたのかどうかも不明のまま何年も経ってしまった。
偶然DVDを発見した時には飛び上がって喜んだにも関わらず、鑑賞したのはそれからまた更に1年程経過してから。(笑)
手に入ったことで満足しちゃうことってあるよね?
そして「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレート」(原題:Fur-an Imaginary Portrait of Diane Arbus 2006年)を鑑賞したのは、つい先日のことである。
「これは伝記映画ではありません」
と最初に断り書きがあった。
てっきりドキュメント風の映画だとばかり思っていたSNAKEPIPEなので、どんな話なのかさっぱり見当がつかないまま鑑賞する。
主演はニコール・キッドマン、多毛症のフリークス、ライオネル・スウィーニーを演じるのがロバート・ダウニー・Jrである。
1958年のニューヨーク、すでにアランと共に写真スタジオを始め、二人の娘も成長している。
前述した年表から1958年というのは夫と別居した年になっているため、その年に焦点を当てたんだろうね。
鑑賞を進めるうちに「伝記映画ではない」理由が判ってくる。
同じアパートメントに越してきた男・ライオネルの家を旦那に内緒で訪問するダイアン。
初めて見た時から怪しい男だと思っいたのに、何故か写真のモデルをお願いしに行く。
そして彼が世にも不思議な多毛症という病気であることを知り、益々ライオネルに惹かれていくのである。
ダイアン自身が秘密にしていたフリークスへの強い興味が、この時開花する。
家事や育児は放棄、朝帰りは当たり前という、母親でも妻でもない「女」という役割だけに専念するダイアン。
一応言い訳は「ご近所さんの写真を撮るため」だったんだけど、写真活動もほとんど行なっていないんだよね。
そしてライオネルの紹介で大勢のフリークス達と友達になるダイアン。
フリークス達を勝手に家に呼び込み、パーティを開いたりする。
これに夫が黙っているわけないよねー?
夫や子供達を裏切るような行為はいかがなものか?
あまりの身勝手さに別居も当然だろう、と思ってしまう
フィクションで良かったなあ。(笑)
それにしてもライオネル、外出する時には頭にマスクをかぶり怪しい人物この上なし!
家の中ではマスクを脱いで毛むくじゃらのままなんだけど、これが「スターウォーズ」のチューバッカそっくり!(笑)
部屋の装飾も不可思議なモノがたくさんあったり、フリークスの写真を写真立てに入れて飾っていたりする。
ちなみにライオネルが住んでいるのはアパートメントの最上階なんだけど、地下にも怪しい人物が住んでいる設定である。
自分が住んでるアパートメントがこんなに謎だらけってすごいよね。(笑)
恐らくこの映画の監督であるスティーヴン·シャインバーグは、デヴィッド・リンチにかなり影響を受けているように感じたね。
音の使い方と、小さな隙間をクローズアップしていく手法はまるで「イレイザー・ヘッド」でのラジエーターのシーンみたいだったからね!(笑)
映画の中でダイアンが
「5歳の時に顔に大きなアザがある男の子に出会って興味を持った」
「あの男の子はとてもキレイだった」
と後の嗜好に通じる話を語るシーンがあったのが印象的だった。
映画のところどころにダイアン・アーバスの写真を彷彿とさせるシーンを盛り込んだところも「なるほど」という感じ。
ライオネルを通じてフリークス達を知ることになる流れも、その後のダイアンの写真活動を解りやすくしたんだろうね。
小人、 巨人、性倒錯、ヌーディスト、サーカスパフォーマー、知的障害などの逸脱し規格外の人々を心から美しいと感じ、正面から向き合い、同化したいとまで願った女流写真家ダイアン・アーバス。
彼女と全く同じ気持ちになれる人は少ないのでは?
ただ被写体と撮影者の距離の近さがなければ表現できなかったであろう、写真としての力強さとインパクトの凄さは、SNAKEPIPEも存分に感じることができる。
フリークスと同じ目線で生きていきたいと願ったダイアン・アーバスの仕事は、恐らく誰もマネすることができない境地だろうね。
今まで一度もダイアン・アーバス展を鑑賞したことがないので、機会があったら是非行ってみたいものだ。