SNAKEPIPE MUSEUM #73 Germaine Luise Krull

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【エリ・ロタールが撮影したジェルメーヌ・クルルの肖像】

SNAKEPIPE WROTE:

今日から12月。
2024年も残すところ1ヶ月になったね。
月日の流れが速いなあ!(笑)

2024年6月のブログ「SNAKEPIPE MUSEUM #70 Eli Lotar」で特集した写真家エリ・ロタールは、女流写真家 Germaine Luise Krull (ジェルメーヌ・クルル)の助手だったんだよね。
今回は師匠であるジェルメーヌ・クルルについて書いてみたい。
まずは経歴を調べてみようか。

1897 ドイツ領ポーゼン(現在はポーランドのポズナン)に生まれる
1915-1917 ドイツ・ミュンヘンにある写真学校「Lehr- und Versuchsanstalt für Photographie」で学ぶ
1918 ミュンヘンで写真スタジオを開設し、著名人と親交を深める
1921 政治活動に従事し、逮捕され投獄される
1925 オランダの映画監督で共産主義者のヨリス・イヴェンスと結婚しオランダ国籍を取得
1928 写真集『Métal』を発表
1946-1966 タイのバンコクにあるオリエンタルホテルの共同経営者となる
1968 写真集『Tibetans in India』を発表する
1985 ドイツのヴェツラーで亡くなる

裕福な環境に生まれ、家族でヨーロッパ各地を巡っていたという。
父親から少年の服を着せられたことがあり、その経験が「女性の役割」に対して影響を及ぼしたのではないかと考えられているらしい。
この文章についての意味は後に明らかになるであろう。(預言者風)
ヨーロッパやアジアを股にかけて作品を発表していた女流写真家、ジェルメーヌ・クルルの作品を観ていこう!

デ・キリコ展」のブログでも書いていたけれど、2024年の当ブログに何回も登場したジャン・コクトー!
クルルは、コクトーの肖像写真を何枚も残しているんだよね。
載せた作品は、恐らく1930年頃に撮影されたみたい。
クルルはアンドレ・ケルテスやマン・レイと並び、優れた写真家として認められていたというから、著名人の撮影も多かったんだろうね。(笑)
何度も書いていることだけど、1920年代のパリを中心としたヨーロッパは憧れの時代。
政治活動も行っていたというクルルなので、かなりラディカルな一面を持った女性だったんだろうね。

観ているだけでワクワクする、SNAKEPIPEが大好物のモチーフ!(笑)
1928年に発表された写真集「メタル」は、エッフェル塔のような近代的な構造物や機械美をテーマにした、とても男性的な作品群なんだよね。
ここで「少年の服を着せられ」た話に戻るわけ。
1920年代に20代の女性が、夢中になってシャッターを切っていたとは信じられないよ。
これは余程のインダストリアル好きに違いない!
鋼鉄の鈍い輝き、直線や曲線のフォルム、影の形に魅力を感じていただろうことがよく解るよ。
クルルの写真集が1930年代に日本でも紹介されていたことに驚いたし、感銘を受けた堀野正雄の写真も気になるよ。

1910年代から活躍しているパリのイラストレーターであるポル・ラブの肖像写真を中央に配置したフォト・コラージュは、1930年の作品だという。
手と影だけなのに、印象的だよね!
ワンピースのニコ・ロビンを思い出してしまったのはSNAKEPIPEだけ?(笑)
クルルより先輩で、ラウル・ハウスマンと共にフォト・コラージュ(フォト・モンタージュ)を始めたハンナ・ヘッヒも、同時代に活躍していたはず。
女流アーティスト同士、交流はなかったのかな?
載せた作品に話を戻すと、モデルになっているポル・ラブは、この作品の3年後に早世してしまったとのこと。
宇野亞喜良の元祖みたいな作品や、1920年代のキャバレー風のイラストが残っていて興味深いよ。
まだまだ知らないアーティストがいっぱいいるね。

20世紀初頭に活躍した、フランスの伝説的なファッションデザイナーであるポール・ポワレ。
載せた作品は、1926年にクルルがポール・ポワレに作成したアイデアとのこと。
多重露光を使用して、アップの女性とドレスを着た3人(?)の女性を重ねている。
アップの顔にシワがより、美しさを際立たせるというよりは、ギョッとしてしまうよね。(笑)
この作品がポール・ポワレに採用されたかどうかは確認できなかったよ。
クルルは商業写真でも活躍していたんだね。

1928年の写真集「メタル」は、今鑑賞してもカッコ良さが伝わるよね!
SNAKEPIPEが目指していた方向性はまさに、これ。
こんな先人がいたことを知らなかったのは幸せだったのかもしれない。
もしクルルを知っていたら、あそこまで自分の世界に熱中できなかったはずだから。

経歴に書いていない部分を補足しておこう。
クルルはタイのホテル経営を終えてから、北インドに移住し、チベット仏教のサキャ派に改宗したんだとか。
サキャ派とは、チベット仏教4大宗派の一つ、と説明があったよ。
そして最後の写真集でダライ・ラマの肖像を撮影しているという。
写真学校を卒業してから50年以上、写真に携わってきたクルルの作品をもっと鑑賞してみたい。
「メタル」は復刻版が販売されていたようだけど、現在はソールド・アウト。
どちらにしてもお値段10万円超えだったようなので、まずは貯金から始めるか。(笑)

ROCKHURRAH紋章学 ペントアワード編4

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KIDSによりデザインされたRarasはゴールド賞受賞】

SNAKEPIPE WROTE

世界的に有名な国際的パッケージング・デザイン・コンペティションである「pentawards(ペントアワード)」。
以前「ROCKHURRAH紋章学」で、過去の受賞作について特集したことがあるんだよね!
今年で18回目になるコンペティションには、62ヶ国から2000件以上の応募があったらしい。
ペントアワードにはダイアモンド賞、プラチナ賞、ゴールド賞、シルバー賞とランク付けがあるんだよね。
すでに審査が完了し、受賞作品が発表されているよ。
早速見ていこう!

すべての応募作品の中からトップの座であるダイアモンド賞に選ばれたのは、イギリスの「OGT (ONE GOOD THING)」。
オート麦を主成分にしたヘルシーなスナックだという。
このパッケージ・デザインの特徴は、食べられる包装紙を使用しているためゴミが出ない点。
インクも食用なんだとか。
通販専用なため、他人の手に触れられることがなく清潔なんだね。
ロンドンのデザイン会社This Way Upによって開発されたサスティナブルなパッケージ、これから主流になっていくのかも。
このデザインが大賞と言われても、ピンとこなかったSNAKEPIPE。
そんな理由があったとは驚きだね!(笑)

「unHIDE」はアルメニアのメーカーで虫眼鏡のパッケージでプラチナ賞を受賞している。
とてもシンプルで、商品の特性を活かした探究心を刺激されるデザインとして高評価を得たという。
デザインもアルメニアのBackbone Branding Agencyが手掛けていて、サイトで確認するとペントアワードの常連なんだね。
アルメニアはアジアとヨーロッパの間にあるコーカサス山岳地帯にある国だと調べてしまったSNAKEPIPE。
デザイン先進国とは知らなかったよ!

まるで彫刻作品のようなパッケージは、なんとテキーラ!
Casa Obsidiana」は、火山性の土壌に恵まれたメキシコ・ハリスコ州で生産されているという。
パッケージは粘土で形作られた容器に黒曜石の装飾が施され、「場所の感覚」を反映したデザインになっているんだとか。
カリフォルニアに事務所を構えるMakers & Alliesは、デザインとコンセプトを両立させたところが評価されたんだね。
3本のテキーラを並べて飾っておきたくなるよね!
ちょっと埴輪っぽく見えて、欲しくなってしまったよ。(笑)

今回はプラチナ賞までの紹介をしているけれど、ゴールド賞は107作品、シルバー賞は146作品もあるんだよね。
受賞作品とデザイン担当を見ていると、中国のデザイナーが多く受賞していることに気付く。
「大中」や「文化屋雑貨店」のイメージのままではないのは当たり前か。(笑)
「Journey’s Matisse」という絵本にインスパイアされた、子ども向けのDIYオーナメントギフトボックスは、箱そのものが魔法のような「旅行用トランク」に変身する仕掛けが施されているんだとか。
中国のMint Brand Designのデザインは、創造性と楽しさを兼ね備えた体験をさせてくれるというから驚いちゃうね!
もう子供ではないSNAKEPIPEも、プレゼントされたら嬉しいな。(笑)

最後はこちら。
ドイツ・ミュンヘンを中心に事業を展開するテキスタイル企業AIZOMEが、繊維染色による工業廃水を利用して作った初のスキンケア製品「AIZOME WASTECARE」。
パッケージには、層状の再生段ボールを使用し、追加の梱包材なしで配送可能な設計となっているんだとか。
超音波波形と伝統的な明朝体を組み合わせたカスタム・フォントを植物由来のインクを使用して持続可能な染色に関するデータが印刷されているという。
化粧品とは思えないパッケージ・デザインも素敵だけど、工業排水からスキンケア商品を作るなんてびっくり。
動画があったので載せてみよう。

藍染には抗菌・抗炎症・抗酸化作用といった効果があるとは知らなかったよ。
日本の伝統的な染色方法が見直されているんだね。

今回はペントアワード2024の大賞であるダイアモンド賞と、プラチナ賞7作品の中から4点を紹介してみたよ。
コンセプトやストーリーがしっかりしたデザインであることはもちろんのこと、環境問題への取り組みが評価の基準になっていることがわかるね。
パッケージ・デザインを調べると勉強になるね。(笑)
来年はどんなデザインが受賞するのか、楽しみだよ!

映画の殿 第68号 韓国ドラマ編 part22

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【毎回出演者を集めてくれるROCKHURRAHに感謝だよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

今週は「映画の殿 韓国ドラマ編」を特集しよう。
新旧交えた4本の感想を書いていくよ!
いつもお伝えしているように、ROCKHURRAH RECORDSが鑑賞した順番で書いていて、制作年順ではないのでよろしくね。

誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる(原題:아무도 없는 숲속에서 2024年)」は、主要人物を演じるキム・ユンソク(画像左)が17年ぶりにドラマ出演するということで話題になっていた。
ROCKHURRAH RECORDSでは「最高の愛〜恋はドゥグンドゥグン〜」や「誘拐の日」でおなじみのユン・ゲサン(画像右)が気になっていたよ。
ゲサンが出演しているドラマに外れがないと思ったからね!
タイトルが非常に長い、このドラマのあらすじを書いてみよう。

2000年の夏、地方でモーテルを経営していたク・サンジュン。
2021年の夏、深い山の中でペンションを1人で運営しているチョン・ヨンハ。
異なる時代を生きる2人の男性は、同じ季節に同じような出来事に遭遇する。
平穏だった日々を揺るがす出来事に直面した2人だったが、選んだ行動はまるで正反対だった。
彼らがそれぞれに迎えた結末とは……。
(シネマトゥデイより)

トレイラーはこちら。

最初の頃、キム・ユンソクとユン・ゲサンの関係が分からず、読み取ることに神経を使ってしまった。
あらすじにあるように、2人共、宿泊施設を経営しているんだよね。
モーテルやペンションには、毎回初めてのお客さんが来て、同じ建物で夜を過ごすことになる。
お客さんの中には、犯罪につながる行為をする人もいるから怖いよね。
宿泊施設経営者側の視線が主軸となっていて、興味深かったよ。
Sweet Home -俺と世界の絶望-」や「智異山」で知っているコ・ミンシが、イカレた女を演じていた。
今まで観たことがある役どころとは、全く違っていたよ。
ドラマは、本当に起こりそうな話で現実味があったけれど、後半になるにつれ緊張感が薄まっていたかもしれない。
タイトルが目玉みたいになるフォントが素晴らしかったよ。

秘密の扉(原題:비밀의 문: 의궤 살인 사건)」は、今から10年前の2014年制作のドラマ。
朝鮮王朝の時代を舞台にしたドラマは何本か鑑賞しているので、衣装に馴染みがあるよ。
きらびやかで美しいんだよね!
シグナル」や「ムーブ・トゥ・ヘブン: 私は遺品整理士です」のイ・ジェフンが主役を務める。
あらすじはこちら。

1754年、英祖の息子で摂政を務めるイ・ソンはある日、唯一の親友である画員のシン・フンボクを連れて身分を隠して町に出かける。
そこで貸本業が違法な商売として取り締まられている実態を知り、独断で貸本業を許可すると宣言するが、政治の主導権を握る老論派の重臣たちだけでなく英祖からも反発を買ってしまう。
数日後、フンボクが先代の王景宗が眠る王陵の井戸から死体となって発見される。
だが、彼の死は自殺として早々に処理され、フンボクとその家族は逆賊とされてしまう。
これに疑問を持ったソンは、町で知り合った美しく聡明な貸本屋の娘ソ・ジダムに秘かに協力を仰ぎ、親友の死の真相を探る。
そしてその過程で、ソンはある連判状の存在を知るが、それは父・英祖が隠し通してきたある「秘密の扉」を開くことになるものであった。(Wikipediaより)

続いてトレイラーね。

太陽を抱く月」などで有名な「国民の妹」「時代劇の妖精」と呼ばれているキム・ユジョンが、利発な貸本屋の娘ソ・ジダム役で出演していた。
女流探偵小説家のため、探偵としても活躍するところがとても面白かった。
時が流れ、ソ・ジダムを別の女優が演じることになった頃には、ストーリーもSNAKEPIPEの興味も失速気味。
全24話が非常に長く感じたよ。
父親である王には、結局勝つことができなかった息子であるイ・ソンの表情が、後半はずっと暗いままで見ていて辛くなるほど。
荘献世子(もしくは思悼世子)であるイ・ソンは、ドラマや映画で題材になっている人物なんだね。
歴史を知っていたら、もう少し違った視点で鑑賞できたのかも。
SNAKEPIPEは、王の付き人である内侍府首長の顔芸が気になっていたよ。
必ず顔がアップになるのに、ほとんどセリフがない役どころを見事に演じたソン・ビョンホ、最高。(笑)
ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」で主役だったパク・ウンビンがイ・ソンの妻役で出演していたところも見どころだよ!

ROCKHURRAH RECORDSでは、NetflixとAmazonプライムの動画配信サービスを利用してきた。
どうしても観たいドラマがディズニープラスでのみ配信されていても、鑑賞できないと諦めていた。
今年の9月、ディズニープラスが年額39%オフの新規加入キャンペーンを行っていることをROCKHURRAHから教えてもらい、即決で加入を決める。
これでやっと「ムービング(原題:무빙 2023年)」を観ることができるようになったよ!(笑)
大ファンの俳優リュ・スンリョンが出演している話題作だったので、視聴を熱望していたんだよね。
あらすじから書いてみよう。

1990年代、韓国の国家安全企画部は、超能力者たちによるブラック・オプスチームを設立。
極秘任務の遂行を命じられたこのエリート部隊のメンバーは、超能力を使って国を守り、不可能なことも可能にする日々を過ごしていた。
しかしある日突然、部隊は姿を消し、国中に散り散りになった。
数十年後、歩くよりも先に宙に浮くことができた少年キム・ボンソクと、再生能力により自動車事故で無傷で生き残った少女チャン・ヒスは同じ学校に通うことになる。
やがて彼らは、互いに自らの秘密を打ち明け、世の中には自分たちのような人間がいることを知り、親しくなる。
そんな彼らの日常をよそに、フランクという謎の配達員がソウル市内で能力者たちを殺害し始める。
子供たちが能力者と暴かれる前に、フランクを止めることはできるのだろうか…。
(海外ドラマNAVIより)

トレイラーも載せてみよう。

制作費が約650億ウォン(約70億円)投じられているというのが、予告だけでも分かるよね。
リュ・スンリョンは映画「サイコキネシス -念力-」でも超能力者を演じているけれど、「ムービング」では怖さと笑いがミックスされている魅力的な役を演じていた。
50歳を超えているはずだけど、あれだけのアクション・シーンもこなすとはさすが!
役のために体重を30kg増やしたというイ・ジョンハの根性もすごい。
他のキャラクターも良い味出していて、「ムービング」が数々の賞を獲得しているのは納得。
親と子、どちらのストーリーも面白くて、20話をあっという間に鑑賞し終えてしまった。
シーズン2の予定があるのか不明だけど、あのまま終わるには惜しい気がするよ。
ただ「イカゲーム」や「地獄が呼んでいる」のように、数年後にシーズン2になったら内容忘れてしまいそう。
高校も卒業してるだろうね。(笑)

最後もディズニープラスで配信されている「暴君(原題:폭군)2024年」だよ!
料理が上手なチャおばさんこと、チャ・スンウォンが出演しているところに注目したROCKHURRAH RECORDS。
前回の「映画の殿」では「シティホール」について書いているので、チャ・スンウォン出演のドラマはよく観ているんだよね。
「暴君」は全4回という非常に短い話数だったけれど、壮大なスケールの内容だったよ。
ディズニープラスは健全な笑顔になる作品を配信しているものだとばかり勘違いしていたSNAKEPIPEは、完全に裏切られたね。(笑)
どんなストーリーなのか、あらすじを書いてみよう。

自国が外国勢力によって抑圧されるのを何年も見てきた。
韓国政府で働く不正な科学者たちが、自国を世界の強国と同じ土俵に立たせるためウイルスの開発に乗り出した。
「暴君」プログラムと呼ばれるこのウイルスは、人間の能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めているという。
しかしプロジェクトが秘密裏に進められたことに激怒したアメリカは、すべてのサンプルの引き渡しとプロジェクトの即時停止を要求する。
「暴君」プログラムを守るため、韓国政府はこの要求に対し非合法作戦で対抗する。
(ディズニープラスより)

トレイラーを観てみよう。

全体的に画面が暗いシーンが多い。
実際には26歳らしいけれど、あどけなさを残した女優が殺人マシーンのような的確さで大の男に立ち向かう。
映画「キル・ビル」のアニメ・シーンや「楽園の夜」を彷彿させるよ。
チャ・スンウォンの役どころは、笑顔で残酷なことを行う怖い人で、とても似合っていた。
アクション・シーンも良かったよ!
今までにないキャラクターを演じていたので、4回限りの話数ではもったいない感じがする。
開発されたウイルス「暴君」についても、はっきり語られていないので、シーズン2もあるのかな?

4本のドラマについて感想をまとめてみたよ。
これからはディズニープラスの配信も選択肢にあるので、鑑賞できる範囲が広がったよ。
楽しみが増えて嬉しい!(笑)

松谷武判展 鑑賞

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【松谷武判展覧会場入口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

2024年7月に訪れた「軽井沢現代美術館」についてのブログで、
「今年の10月から東京オペラシティアートギャラリーで個展が開催されるようなので、是非足を運びたい」
と書いているSNAKEPIPE。
松谷武判のボンドを使用したカッコ良い作品に強い感銘を受けたんだよね。

オペラシティアートギャラリーには、独自の視点を持ったキュレーターがいるに違いない。
今までに「白髪一雄展」「石元泰博写真展」「ミケル・バルセロ展」「篠田桃紅展」など、印象的な展覧会を企画してくれているからね!
そのギャラリーでの展覧会開催ということで、一層期待してしまうよ。

まずは松谷武判の経歴を調べよう。(展覧会のサイトより抜粋)

1937 大阪市阿倍野区生まれ
1951 結核を発病
大阪市立工芸高校を2年で中退
1959 結核が全快
1963 具体美術協会会員となり、グタイピナコテカで個展開催
1966 フランス政府留学生選抜第1回毎日美術コンクールで一席を得て渡仏
1970 モンパルナスのシルクスクリーンの版画工房に移る
2017 第57回ヴェネチア・ビエンナーレに出品
2019 パリ、ポンピドゥー・センターで回顧展

今年87歳の松谷武判、現役で活動中なんだよね。
「具体」から出発してフランスでも認められたアーティストだったとは!
ポンピドゥー・センターで回顧展まで開催しているなんて、素晴らしい経歴の持ち主だよ。
ROCKHURRAHとワクワクしながら初台に向かったのである。

東京オペラシティアートギャラリーには、2022年8月の「ライアン・ガンダー展」以来、約2年ぶりの訪問になるよ。
予約の必要がない美術館で、思い立った時に立ち寄れる気軽さも良いよね!
いつも通り全く並ぶことなく、すんなりチケットを購入し会場入口に向かう。
すべて撮影可能だって、良かった!(笑)
展覧会は制作年順に並んでいるようだけど、全くキャプションが提示されていない。
受付で渡された作品リストには詳細が載っているけれど、鑑賞しながら確認するのは難しいかも。
載せたのはタイトル「作品-18」で1961年の作品。
キャンパスに木材や取っ手のような物が配置されている。
真っ赤なバックが目を引くよね。
観た瞬間にデヴィッド・リンチの絵画作品を連想したSNAKEPIPEは、思わず駆け寄ってしまったほど。(笑)
とても好みの作品だよ!

仕切りを抜けて次の部屋に進むと、そこには奇妙な形が張り付いた作品が並んでいた。
嬉しくなり笑みがこぼれるSNAKEPIPE。
「盲獣だね」
ROCKHURRAHが言う。
江戸川乱歩の小説「盲獣」に登場する彫刻作品を連想するのも納得だよ。
これはボンドを使用した作品とのこと。
球体が弾けて中身が出てきたような不思議な造形が素晴らしい!
「盲獣」のように、触ってみたくなるよ。
1960年代に「具体」で活動していた頃に発表された作品だという。
制作風景が分かる動画を載せてみよう。

松谷武判が英語で作品について説明しているところに驚く。
これだけでも十分国際的だよね!
更に接着剤に息を吹き込んで膨らませ、立体作品にしていることにもびっくり。
「私はこれを1962年から続けている」
と動画の中で語っているけれど、その方法を思いついたこともwonderfulだよね。(急に英語入れてみた)
面白いアーティストだなあ!(笑)

1966年の「作品66-2」は中央のボンドが今にも垂れ落ちそう!
横から観察すると「こんもり」盛り上がっていて、何か産まれてきそうな雰囲気。
ピヨピヨとかわいい小鳥が出てくるというよりは、未知の生物が似合いそうだよ。
もしくは大量の昆虫とかね。(笑)
不気味さと緊張感と美しさが混在している、もぞもぞした感覚は初めてかも。
まだ2つ目の部屋なのに、松谷武判の作品に興奮してしまう。
続きも観たいけど、まだその場にとどまっていたい気持ちだよ!
この作品を制作した年に、松谷武判はフランスに渡っているんだね。

1970年代の作品。
松谷武判はあまりタイトルに意味を含ませていないようなので、はっきり分からなくても問題ないのかな。
花札の月みたいな構図に途切れた四角形が斜めに刺さっている。
シンプルで力強いよね!
フランク・ステラを思わせるミニマル・アート。
デッサンのような鉛筆画も展示されていて、試行錯誤したのかもしれない。
抽象絵画は、色、形、構図で決まると思うので、納得いくまで考えるのかな。

カラフルだったシルクスクリーン作品などを鑑賞した後、次の部屋に移ると、そこには漆黒の世界が待ち受けていた。
鉛筆の黒は、鈍い光を放っていてきれいだね。
黒色一色だけの作品だけが展示されていて、シックでオシャレ!
SNAKEPIPは黒色が好きなので、とても落ち着く空間だったよ。
「グラファイトにホワイトスピリットを使用した」と説明されているので、意味を調べておこう。
グラファイトとは「石墨(黒鉛)」のことで、炭素の仲間なんだとか。
ホワイトスピリットはお酒ではなく(笑)、低臭で環境面の影響が少ない溶剤とのこと。
鉛筆で描いた後、ホワイトスピリットを流しているみたいだよ。
ボンドやホワイトスピリットを作品に使用する発想力がすごいね!

2023年の作品「丸い丘」は、緑と紫が使用されているよ。
制作している動画が会場に流れていた。
助手(?)の女性が、松谷武判にお伺いを立てながらマスキングテープを貼ったり、キャンバスを傾けたりして手伝っている。
最初の動画で松谷武判が話していたように「偶然性」に重きを置いているようで、完成を思い描いて制作しているように見えなかったよ。
動画の中で「最初からこうなることを計算されていたのですか?」のような質問を受けても、はっきり「計算した」とは答えてなかったから。(笑)
感覚的に制作しているんだね!

3階から4階に上がる階段脇に展示されていた最新作「ichi」は、松谷武判のパフォーマンスを観ないと意味が分からないかも。
上に載せた動画は、今回の展覧会における「こけら落とし」の様子。
カツンカツンと杖をつきながら登場する松谷武判。
両サイドの脚立から布を持ち上げる女性2人に、布の上げ下げを指示する。
横に大きく「一」と描き、パンと手を叩き、パフォーマンス終了!
この動画を観て笑い転げてしまったSNAKEPIPEだよ。
さすが関西人、笑かしてくれるね!(笑)

松谷武判の全貌を紹介してくれた展覧会、作品数も多く、見応え十分だった。
60年代から一貫して抽象の作品を制作し続けている、ブレない姿勢にも感服したよ!
これからも制作を続けて欲しいね。
行って良かった展覧会だよ。(笑)