【「紅城奇譚」のイメージ画像をROCKHURRAHが作成。よくできてるなあ】
SNAKEPIPE WROTE:
よく夢を見て、それを記憶しているSNAKEPIPE。
先日の夢は疑似体験ができるゲームに参加している、というもの。
体験しているのは恐竜ティラノサウルス(実物大と思われる)から逃げる、というバーチャル・ゲームだった。
背後に気配を感じたので、目を合わせないように壁にへばりつき、じっと耐える。
荒い鼻息が聞こえてくる。
震えを抑えながらティラノサウルスが行き過ぎるのを待つ。
この時間の長いこと!
ゲームだと分かっていても、本当に怖かったよ。(笑)
なんでこんな夢を見たのか?と考えて、思い当たった。
大ファンの作家、鳥飼先生の新作をまとめさせて頂くことを考えていたため、前回の感想文を読み返したのが原因ではないかと思われる。
鳥飼否宇先生の作品を紹介していくシリーズである「トリカイズム宣言」で前回書いたのが「T-REX失踪」だったからではないだろうか。
夢は不思議なことが多いけど、チラッと思考を横切っただけの事柄がSNAKEPIPEの脳内で、おかしな物語を制作してしまったみたいだね。(笑)
前フリが長くなってしまった!
そう、鳥飼先生の新作なんだよ!(笑)
タイトルは「紅城奇譚」。
「紅城」と聞くとROCKHURRAHが大好きな国枝史郎の「神州纐纈城」 を連想してしまう。
纐纈城に出てくる纐纈布が真紅だからね。
もしくは「クリムゾン・キングの宮殿」からの連想かな?
「奇譚」と聞けば「パノラマ島」と、つい答えてしまうね。(笑)
こんな条件反射をしてしまうのはROCKHURRAH RECORDSだけかな?
鳥飼先生の新作「紅城奇譚」は、タイトルだけでも「おどろおどろしい」「凶々しい」イメージを感じてしまうね。
新作の紹介ページからあらすじを引用させて頂こう。
織田信長が天下統一をもくろみ、各地の戦国大名を次々と征伐していた16世紀中頃。
九州は大友、龍造寺、島津の三氏鼎立状態となっていた。
そんななか、三氏も手を出せない国ー勇猛果敢で「鬼」と恐れられた鷹生氏一族の支配地域があった。
その居城、血のように燃える色をした紅城で、次々と起こる摩訶不思議な事件。
消えた正室の首、忽然と現れた毒盃、殺戮を繰り返す悪魔の矢、そして天守の密室……。
眉目秀麗な、鷹生氏の腹心・弓削月之丞が真相解明に挑む!
なんと!鳥飼先生が今回舞台設定されたのは戦国時代とは!
戦国時代のミステリーなんて読んだことないよ。
SNAKEPIPEは時代小説ですら、吉川英治の「宮本武蔵」と「新書太閤記」、「三国志」や「水滸伝」くらいしか読んだことないんだよね。
ROCKHURRAHからの勧めで読んだ、前述の「神州纐纈城」は伝奇小説になるらしい。
どちらにしても古い時代を舞台にした小説だけど、ミステリーものは初めてだよ。
これは期待しちゃうね!(笑)
発売日当日、ROCKHURRAHが鳥飼先生の新作を入手してくれていた!
本屋に面出しされていた最後の1冊だったという。
手に入って良かった!(笑)
感想を担当するのはSNAKEPIPEなので、最初に読んで欲しいと言われる。
あらま、済みませんね、いつも。(笑)
読み進めようとするけれど、「序」でつまずく。
戦国時代の力関係は、相関図などで武将の名前、地理や地位などの位置を把握しないと、なかなか理解できないんだよね。
何度か読み返して、ある程度理解する。
最近好きで観ている番組がNHK BSプレミアムの「英雄たちの選択」 。
学校の歴史の授業では習っていない、今まで知らなかった歴史上の出来事を知り、驚いたり感心している。
その番組でも戦国時代の武将やら「○○の戦い」を深く掘り下げて考察するのを観たことがある。
そのおかげで、以前よりは多少歴史に対しての興味や想像力は持っているはずなんだけどね。(笑)
SNAKEPIPEみたいな「つまずく」人には、「紅城奇譚」の家系図あったら良いなあ。
そう話すと、ROCKHURRAHが作成してくれた。
さすが、ROCKHURRAH!やるなあ!(笑)
クリックで大きくなるので、見てみてね。
鳥飼先生の小説といえば、登場人物の名前に、何かしらの符号があることが多いよね?
今回はどうだろう。
龍政の側室である「雪」「月」「花」は、会田誠の「犬」シリーズに登場する美少女達の名前と同じかも!(笑)
かなり物議を醸した会田誠の作品だけど、この記事に画像を載せている。
鳥飼先生からのコメントも頂戴しているね。(笑)
他には何かないだろうか?
ROCKHURRAHが「利賀野」と「弓削」は「リガーノ」と「ユーゲン」と読めそうで、怪しいと言う。
そう聞けば「椎葉」も「シーヴァ」とか?
あっ、ヒンズー教のシヴァはどうだ!
などと勝手に想像しまくる始末。(笑)
急にヒンズー教が入ってくるわけないよねえ。
「鶴」「鳰」「鷹」「龍」「熊」「牛」と並べると生きものの名前だね。(「龍」は伝説上での生きものだけど)
何も符号や「もじり」が見いだせない!
こうして悶々としながら考えるのも、鳥飼先生の小説の楽しみ方なんだよね。(笑)
「紅城奇譚」はSNAKEPIPEがつまずいた「序」から始まり、4編から成る「破」、そして最後に「急」という章で構成されている。
「破」の章にある4編について、それぞれの感想を書いてみよう。
※ネタバレしないように書いているつもりですが、未読の方はご注意ください!
破の壱 妻妾の策略
紅城主である鷹生龍政の正室、鶴と三人の側室の間での確執が題材になっている。
鶴の首なし死体が発見された直後に、龍政の子を宿す側室である雪が櫓から落下して命を落としているところを発見されるのである。
正室、側室という呼び方では分かり辛いので、本妻と妾に置き換えたほうが良いかもね?
「大奥」と呼ばれる女だらけの場所が江戸城にあったことは、歴史に詳しくない人でも知っているよね。
戦国時代にも側室がいて、家系を絶やさないようにしていたんだね。
ハーレム状態で跡取りを作ることが目的と聞くと、まるで女性は子供を作るためのマシーンみたいだけど、当時の女性にとっては「選ばれし者」という感じでエリート意識があったのかもしれないね?
「紅城奇譚」の城主である龍政にも3人の妾がいて、そのうちの1人、雪が妊娠しているのである。
すでに龍政には、本妻・鶴との間に熊千代という息子がいるけれど、雪から生まれる子供に期待をよせている。
何故ならば熊千代は武芸よりも虫や花に興味を示す、優しい心の持ち主だったため、世継にしては頼りないと考えたからである。
ここでSNAKEPIPEは思い出す。
BSプレミアム「英雄たちの選択」で観た春日局の回のことを。
徳川家光の幼名は竹千代、幼い頃は病弱で内気だったため、世継候補からは外れていたという話を思い出したのである。
この設定はそのまま「紅城奇譚」の熊千代にもあてはまりそうじゃない?(笑)
本妻と妾1人がほとんど同時に死亡する不思議な事件は、「紅城奇譚」での探偵役となる龍政の家臣・弓削月之丞と龍政の妾である花を助手として解明されるのである。
弓削月之丞は椎葉氏の兵だったけれど、その美貌に惹かれた龍政が側近にすることを決めたという。
容姿端麗なだけではなく、月之丞は武芸にも秀で知恵者でもあったため、龍政から信頼されるようになった人物である。
この事件、タイトルは書けないけど、横溝正史の小説を思い出したよ! (笑)
破の弐 暴君の毒死
龍政には弟・龍貞がいる。
冷酷無比と恐れられている龍政が呆れてしまうほどの残忍さと、女と見ればすぐに手を出す獣のような男。
戦で負傷したせいで右半分は醜い傷跡があり、右目は潰れているというから、女は悲鳴を上げるに違いない。
そんな龍貞が宴会の席で酒を飲んだ途端、急死してしまうのである。
その宴で龍貞は、龍政の家臣である牛山武兵衛の妹にちょっかいを出し、龍政の娘・鳰(にお)を舌なめずりしながら見つめる。
鳰はまだ幼女だよ!
龍貞の好色ぶりには、読んでいるSNAKEPIPEまで腹が立ってしまった。
誰もが「こんなヤツいなくなれば良いのに」と思ってしまう龍貞の毒殺!
一体誰が起こした犯行だったのか?
いつの間にか探偵役になってしまった月之丞と、これまた側室でありながら助手の役割を果たしている花はここでも事件を解決する。
のだけれど…。
仰天の展開に「えっ、ちょっちょっと待って」 と誰に言うでもなく声を上げ、付いていかれないSNAKEPIPE。
もう少し整理しないと。
再び数ページ戻り、もう一度読み返す。
読みながら自分の体の「ある部分」をしっかり押さえていることに気付く。
うっ、痛い、、、。
戦国時代だからねえ。
どうなんだろう、「あり」だったのかなあ?
この話でギリシャ映画「籠の中の乙女」を思い出したSNAKEPIPE。
ある一部、似たところがあるんだよね。
あの映画、とても不思議だったなあ。
結局分からず仕舞だったっけ。(笑)
破の参 一族の非業
毎年紅城では「弓比べ」という行事があるという。
その「弓比べ」で自分の息子・熊千代が紅城の跡取りに相応しいことを見せつけたいと考える龍政。
ところが、そんな父親の期待に応えられそうにない熊千代。
熊千代は体育会系ではなく、勉学を得意とする文化系の子供だったからね。
それでも紅城主であり封建的な父親には逆らえないので、やるっきゃない!(笑)
ライバルとして龍政の家臣・利賀野玄水の息子・彦太夫があてがわれる。
熊千代と同い年の彦太夫は弓の腕前に優れていて、昨年は堂々と優勝しているほどである。
彦太夫に負けるな、という龍政の叱咤にも関わらず、散々な結果しか残せない熊千代。
龍政は自分の父親・龍久に弓術を伝授してもらうよう熊千代に命じる。
今ではすっかり隠居してしまった龍久だけれど、鷹生家を一代で築き上げたのはこの龍久。
武芸に秀でた息子の龍政ですら、弓術に関してだけは龍久には及ばなかったという。
その弓の達人に教えを乞うため、熊千代が龍久の元を訪れるのである。
熊千代の境遇には同情してしまうSNAKEPIPE。
それでもこの時代は、世継として生まれたなら学業よりも武芸だったんだろうね。
まあ、今でも世襲制を採っている職業や家筋はあるだろうけど。
そして「ふふん」とばかりに弓の腕前を披露するライバル・彦太夫が、少し憎らしく感じてしまったのも事実。
SNAKEPIPEが文化系だから余計かもしれないね。(笑)
この章では、龍久と熊千代が弓で射られて死亡する事件が発生してしまう。
「破の壱」に続いてのダブル殺人事件!
おお、これはタイトル通り一族の非業だよ。
だってもう鷹生家は…。
「破の参」の中で印象的だったのは、銀杏の葉が風に舞い、幻想的な光景を見せるシーン。
SNAKEPIPEは京極夏彦の「絡新婦の理」にある桜吹雪の場面を思い出したよ。
どちらも映像化されたら美しいだろうなあ!
ROCKHURRAHが「紅城奇譚」のイメージ画像を作成してくれるというので、銀杏の葉をリクエストした。
トップにあるのがその画像なんだけど、とてもキレイに仕上がっているよね!
破の肆 天守の密室
猛将と恐れられていた龍政が、その姿を想像できない程げっそりやつれている。
これまでの事件に加えて、龍政自身も寝込みを襲われたのである。
命の危険を感じた龍政は天守閣に立てこもる。
籠城戦に適していると言われる紅城の中で、最も安全な場所だからである。
ところが事件は起きてしまうのである。
密室殺人事件なんだよね!
なんともスケールが大きく、驚愕してしまった。
SNAKEPIPEの脳内には、完全に映像が映し出されている。
思いもよらない展開にはびっくり仰天!
まさか、そんな!ねえ?(笑)
それにしても一番驚いたのは、命の危険にさらされてげっそりしているのにも関わらず、妾の花に挑むいつもと変わらない龍政の精力旺盛なところ!
「甘い物は別腹」のような感覚だろうか。
そっちに気が回るなら、もっと別のこと考えれば良いのに。(笑)
この新作は、今まで読んでいた鳥飼先生のどの作品とも違っていた。
動植物に関する記述もなく、音楽的な要素もなく、プッと吹いてしまう笑いの要素もない。
鳥飼先生らしさが表れていたとすると、花のセリフかな。
ネコ(観察者シリーズ)にも宮藤希美(妄想女刑事)にも通じるタイプなんだよね。(笑)
側室だけあって、したたかさを秘めていながらも、少しボケが入るキャラクター。
あまりお色気ムンムンな雰囲気は感じなかったけれど、龍政からの寵愛を受けているんだよね。
花が妊娠することはなかったのかなあ?
そうしたら世継ができたかもしれないのにね。(笑)
鳥飼先生の新たな一面を見せてもらったように思う。
この小説、映像化して欲しい。
実写では難しいシーンがあると思うので、アニメでいかがでしょう!
もちろんリアルな絵柄で、大人っぽいアニメでね。
将来的に、また別の鳥飼先生の新しい引き出しが見られるんじゃないか、という期待と共に、今まで読み進めてきたいつも通りの「鳥飼節」も楽しみに待っていよう!
鳥飼先生、いつも応援しています!
わ、さっそくお読みいただき、ありがとうございます。
第二話のあの趣向や第四話のあの趣向を活かすには戦国時代しかなかろう、と慣れない時代小説に挑戦しました。果たして、その意図がうまく決まっていますかどうか。
雪月花はそう、会田画伯のあのシリーズです。さすがよくおわかりですね。それ以外は戦国時代っぽい名前を適当に考えました。深読み、ありがとうございます。
そして、系図! たしかに冒頭にこれをいれておくべきだったかも、ですね。
鳥飼先生、いつもコメントありがとうございます!とてもうれしいです。
犬シリーズ、当たってましたか!
鳥飼先生の作品では、本筋とは別の部分を楽しみ「一粒で二度おいしい」が醍醐味だと思っています。
「紅城奇譚」は、「太陽と戦慄」や「このどしゃぶりに日向小町は」の読後感に近い感じがしました。
鳥飼先生のdestroyな部分を体験させて頂きました!