【情熱あり過ぎ!アーモリー・ショウの元気ハツラツ・パフォーマンス】
ROCKHURRAH WROTE:
ミュージシャンにとっての表現方法は歌詞、楽曲、演奏、そしてパフォーマンスといった部類に大別出来るだろうが、1980年代に普及したプロモーション・ビデオによって、それらの魅力を余さず同時に伝える事が出来るようになった。
音楽を聴いて歌詞カード(あるいは訳詞)を読みながらミュージシャンが動いてる姿を想像する、といった70年代くらいまでの視聴方法と比べると格段にわかりやすい。ライブ映像を編集しただけのシンプルなものから映画、現代アートのようなものまで、進化をやめてしまった音楽(あくまで個人的感想)と反比例してプロモーション・ビデオの世界は新しい試みを次々と導入していった。
今回の企画はそういう前フリとは特に関係なく、簡単に言えばちょっと奇妙な情熱的表現方法に取り憑かれてしまった男達のヘンなプロモーション・ビデオ特集だ。このブログをご存知の方にとっては当然なんだが、相変わらず70〜80年代のパンク、ニュー・ウェイブ限定で、アナクロにやってゆこう。ものすごくヘンというほどの事はなくてたまたま観てて「変だ」とROCKHURRAHが思ったものだけを紹介するので、さほど期待しないで読んでつかあさい。
【迫る!】 Rich Kids / Marching Men
セックス・ピストルズの代表曲ほとんどを作曲したにも関わらず追い出されてしまったという不遇なベーシスト、そしてパンク界屈指のメロディメーカーであるグレン・マトロック。
彼がピストルズの後にに結成したのがスーパー・グループとも言えるリッチ・キッズだ。
- ミッジ・ユーロ(元スリック、元PVC2、後のウルトラヴォックス、後のヴィサージ)
- スティーブ・ニュー(ピストルズの2ndギタリスト他、パンク、ニュー・ウェイブの数々のバンドでプレイ)
- ラスティ・イーガン(後のスキッズ、後のヴィサージ)
これにマトロックを加えた四人組なんだがパンクやニュー・ウェイブに詳しい人ならばすごいメンバーだった事はよくわかるはず。
このバンドは日本ではアルバム一枚発表したっきり、すぐに解散してしまったんだけど、ポップで素晴らしい名曲も残していて、個人的には大好きだった。
特に代表曲「Ghosts Of Princes In Towers」などは今聴いても気分が高揚するし、たぶん一生好きだと断言出来る。
さて、この「Marching Men」はアルバムには入ってるけど特に代表曲という事はないと思う。リリースした頃はまだMTVなどもない時代でPVを作るバンドも少なかったはず。さすが大手EMIだし元セックス・ピストルズだし、お客様感謝デー大売出し火曜市というワケかね?
このビデオの意図は不明だが見て頂くとわかるように、とにかくフロントの3人の表情、迫り具合が尋常じゃない。何だかわからんが迫力満点。 ミッジ・ユーロ(中央のギター男)と言えばジョン・フォックス脱退後のウルトラヴォックス、そして80年代のニュー・ロマンティック・ブームを支えたダンディ男の代表だよ。そうなる数年前はただの白いTシャツでこんなことやってたとは驚き。
しかもこの人は歌うときの大仰なシャウトっぷりがかっこ良くも情けない。 左側の化粧男スティーブ・ニューも負けず劣らずの形相。この人はギター・プレイも鮮やかな美少年という印象があったけど、リッチ・キッズ以外で目立ったパーマネントなバンドをやってないのが残念。去年ガンで亡くなったのだがずっと化粧男のままだったんだね。
そしてこのバンドの主役、グレン・マトロックはと言えばいい意味でいつも通り。確かに迫ってはいるが横の二人ほどのインパクトはなく、ここでも主役は取れないのか?いい曲を書くんだけどねえ。
【なりきる!】 Tenpole Tudor / Wunderbar
エドワード・テューダーポールはパンク初期から活動していて、ピストルズの映画「グレート・ロックンロール・スウィンドル」に出演した(掃除機を持って歌う映画館のモギリ役)事により注目されたパンク・コメディアンとも言えるべき人。
彼が率いるバンドがこのテンポール・テューダーだ。
このバンドはロカビリーやテディ・ボーイ(テッズ)風の要素とパンク・ロック、そしてスコットランド民謡の壮大さを併せ持つ「ありそうでない組み合わせ」が新鮮で素晴らしかった。ビリーもパンクもアイリッシュも大好きなROCKHURRAHにとってはドンピシャの理想バンドだったのだ。
同時代には海賊ルックで大ヒットしたアダム&ジ・アンツや壮大な応援団風+スコットランド民謡風パンクの王者スキッズなどと共に、この手の音楽好きを唸らせる男気あるロックを展開した。
そんな彼らのこだわりはある意味でのコスプレ精神に表れている。レコード・ジャケットのメンバー写真は中世の騎士であったり海賊であったり三銃士だったり、そのなりきり衣装は見ているだけで楽しい。そしてテューダーポールの身軽で大げさ過ぎる身のこなし、ステージ・アクションとしても派手の極み。そりゃいくら何でもオーバー過ぎでしょう、というくらいのシロモノ。
この曲は「Swords Of A Thousand Men(メンバーが騎士団になって大暴れするPVも必見)」と並ぶ彼らの代表曲で壮大かつコミカルな曲調、サビの「ブンダバー」という合唱では思わず拳を振り上げる事必至の大傑作だ。
今回は海賊に扮してるんだね。というか格好違うだけでコンセプトは騎士の時とほぼ一緒。ちなみにWunderbarはワンダフルと同じような意味のドイツ語だそうな。 先にも書いたがまだPVというものがあまりないくらいの時代にこの大掛かりなロケ、いっそのことテンポール・テューダー主演で映画にでもなってくれたら素晴らしいものが出来上がっていたろうに。
【踊る!】 The Teardrop Explodes / Treason
何だかウチのブログでティアドロップ・エクスプローズ率がかなり高いな。
そこまで命をかけて追いかけたバンドではないのに、何度も書いてる気がするよ。 その昔、70年代後半にエコー&ザ・バニーメンのイアン・マカラック、ワー!のピート・ワイリーと共に活動していたのがジュリアン・コープだ。
三人はそれぞれ別のバンドを始めて独自の活躍をしてゆくのだが、自身の音楽性に磨きをかけて正統派ネオ・サイケの代表格になったエコー&ザ・バニーメン以外の二つのバンドは、やってる事もやりたい事もその時によって違っていたという印象。
特にこのティアドロップ・エクスプローズの主人公、ジュリアン・コープは一番の問題児でクセモノだったな。
いわゆる美形ではないのだが80年代少女漫画に出てくるようなルックスで人気があってもおかしくはない素養はあった。がしかしその才能を昇華する事なく、総合的に見て意味不明の部分を数多く持っていた。ファンにとってはこの不安定さが魅力だったんだが、一般的にはかっこいい変わり者という意見が多い事だろう。
さて、このビデオ、彼らの代表曲でネオ・サイケの名曲と言われている曲なんだが、顔や体に不可解なペインティングをしたジュリアン本人が、まるで土方巽のような暗黒舞踏で踊りまくる。
売る気があって作ったプロモーション・ビデオとは思えない出来にファンも苦笑。カッコイイのを通り越してカッコ悪くさえある。
この後ソロとなって一時期は人気絶頂な頃もあったんだが、なぜか古代巨石文明に関する著作や日本のアングラなロックに関する著作など、方向性不明の活動が目立つ鬼才。相変わらず不可解な面が多いなあ(笑)。
【くねる!】 Der Plan / Hey Baby Hop
DAFやデイ・クルップス、フェールファーベン、ホルガー・ヒラーなどと並ぶジャーマン・ニュー・ウェイブ(ノイエ・ドイッチェ・ヴェレ)の代表格がデア・プランだ。
ドイツの老舗インディーズ・レーベルであるアタタック・レーベルの中枢としても有名だな。他のドイツのバンド同様、シンセサイザーがメインの三人組で「ドイツのYMO」と評される事も多い。確かに当時のテクノ・ポップという分野ではYMOは世界的に著名だったからね。
しかしデア・プランは単なる音楽にとどまらず、シュールレアリスム的アートやパフォーマンスの一環として音楽活動をやっているというスタイルだったかな?違う?
そんな彼らの奇妙でチープなパフォーマンスがこのPVだ。
素人目にはショッカーの怪人(仮面ライダー)と何ら変わらないかぶりものとタイツ姿で、くねくね気持ち悪いダンスを気持ち良さそうに踊っている。
どうやらロケ地には日本も含まれているようで、そう言えば80年代半ばにこのアタタック・レーベルを西武グループのWAVEがお気に入りで、しきりに招聘していたのを思い出す。しかしわざわざ日本までやってきて小学生をビビらせてどうする?という意図不明なパフォーマンスだな。
【走る!】 Belfegore / All That I Wanted
ベルフェゴーレもデア・プランと同じくドイツのバンドで、幾分ゴシック要素のあるダークな曲調を得意としていた。
元デアKFC(豪快デジタル・パンクの第一人者、トミ・シュタンフがやっていた伝説のパンク・バンド)のメンバーが中心人物との事で、見た目もパンクっぽくてなかなかカッコイイし、メンバーに黒人がいた事もあってリズムも良い。
こんなベルフェゴーレの代表曲が本作。
とにかくメンバーを含む老若男女、さまざまな業種の人々が海辺で走りまくるというもの。革大好きマッチョ野郎どもだし、体力自慢のバンドなんだろうが、その運動量がすごい。ここまで健康的な躍動感に溢れたゴシック・バンドは他にないだろうと思える。
というわけで情熱溢れる(一部勘違いの)パフォーマンスを紹介してみた。
完全な変質者でもお笑いでもなくて、やってる本人たちは大マジメだったりカッコイイと思ってたりするのが今回のポイントだな。その中途半端な世界をROCKHURRAHは愛してゆきたいよ。