【映画ポスターを撮影】
SNAKEPIPE WROTE:
2016年に鑑賞したヴァニラ画廊での「シリアルキラー展」の時、映画の半券を提示すると割引料金でチケットを購入できます、と告知されていた。
それは「レジェンド 狂気の美学」で、1950年代にロンドンで暗躍したクレイ兄弟の伝記映画だった。
犯罪映画とタイアップして絵画展を企画しているのか、今年2019年にも同じような記事を発見した。
今回の映画はラース・フォン・トリアー監督の「ハウス・ジャック・ビルト」だという。
ラース・フォン・トリアー監督と言えば、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「ダンサー・イン・ザ・ダーク(原題:Dancer in the Dark 2000年)」が有名だよね。
「ニンフォマニアック(原題:Nymphomaniac 2013年)」など性に関する過激な映画もあり、話題に上りやすい監督と言えるのかな。
公開される映画について調べてみると、カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、途中で席を立つ観客が続出したという「いわくつき」の映画とのこと。
そう聞くと俄然興味が湧いてしまうのはSNAKEPIPEだけだろうか。
映画について検索すると、不思議なポーズを決めたポスター画像が何枚も出てきて、猟奇殺人の雰囲気が漂う。
これは是非とも鑑賞しなければ!(笑)
公開は6月14日とのこと。
翌日を鑑賞日に決め、新宿のバルト9に向かうROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
なんと、この日は土砂降りの雨!
さすが自他共に認める雨男のROCKHURRAHだよね。
統計は取ってないけど、かなりの確率で雨模様の外出になっているような?
SNAKEPIPEは長靴を履いて正解だったよ。
劇場に入る際、チケットもぎりの女性から手渡された物がある。
これは映画用ポスターのポストカード。
嬉しいプレゼントだけど、何故か2枚ともトリアー監督がポーズを決めたバージョン。
体が捻じ曲げられたポーズを取るポスターは全部で7種類はあったようだけど、なんで2枚ともトリアー監督なの?
よりによって一番人気がなさそうな(失礼!)カードを手にするとは、アンラッキーだなあ。(笑)
公開2日目で、観客の入りは約8割かな。
映画館でイヤな気分になることは避けたいので、大抵の場合は2人席を予約することにしている。
今回は前も後ろも静かな方で良かった!
それでは映画の感想をまとめていこうかな。
※ネタバレしていますので、未鑑賞の方はご注意ください。
まずは映画のトレイラーを載せておこうか。
主演がマット・ディロンなんだよね。
マット・ディロンと聞いて、少し懐かしい感じがするよ。
1980年代には「アウトサイダー(原題:The Outsiders 1983年)」や「ランブルフィッシュ(原題:Rumble Fish 1983年)」で一躍脚光を浴びた俳優だよね。
SNAKEPIPEはサントラを所持している「ドラッグストア・カウボーイ(原題:Drugstore Cowboy 1989年)」の印象が強いな。
ROCKHURRAH RECORDSでは相変わらず週に1、2本の映画を鑑賞する習慣が続いているけれど、ここ最近マット・ディロンの映画を観た記憶がないんだよ。
たまたま好みの映画に出演していないだけかもしれないんだけど。
そのためSNAKEPIPEは、2000年以前のマット・ディロンの顔しか知らないんだよね。
そんなマット・ディロンが主演のジャックを演じている。
えっ、本当にマット・ディロンなの、と思ってしまう。
確かに今年で55歳だから顔に変化があるのも当然ね。
血飛沫を顔に浴びながら、満足気に微笑む顔は、まさにシリアルキラーそのもの!
ちょっと反抗的な悪ガキのイメージから、本物の悪党になるとはさすがだよ。(笑)
ここで「ハウス・ジャック・ビルト」のあらすじを書こうかな。
1970年代の米ワシントン州。
建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャックはあるきっかけからアートを創作するかのように殺人に没頭する・・・。
彼の5つのエピソードを通じて明かされる、 “ジャックの家”を建てるまでのシリアルキラー12年間の軌跡。(公式HPより)
最初から殺人鬼だったわけではなく、あらすじにあるように「きっかけ」があったんだよね。
それが「1st INCIDENT」として語られる。
親切心から車の同乗を許したのに、高飛車な態度を取られたら、頭に来るのは当たり前じゃないかな。
裕福な家柄のマダムといった装いのユマ・サーマン、「キル・ビル(原題:Kill Bill 2003年)」の頃とはイメージが全く違うね。
高圧的で、まるでジャックの殺人欲(変な言葉だけど)を煽るような発言を繰り返す。
ここで踏みとどまるのが通常の心理状態だけど、ジャックは一線を越えてしまうんだよね。
「キル・ビル」の時に習得した必殺技を駆使すれば、最悪の事態は避けられたはずだけど、そううまくいくはずはないか。(笑)
これが最初の殺人のようだけど、ジャックには元々「人を殺したい」という欲望があったんだろうね。
真っ赤なワンボックスカーは、荷物(死体)を運ぶのに適している。
冷凍ピザ用の倉庫を買い取っている。
最初の殺人まで使用された形跡がないので、「その日が来る」のを待ち望み準備していたのでは、と想像する。
車の前で画用紙を次々をめくり、投げ捨てるシーンがはさまれる。
これってボブ・ディランのパロディだよね。
以前にも別のミュージシャンが、このパターンでビデオを撮っているのを観たことあったよ。
1965年にリリースされたという、50年以上も前のアイディアが未だに影響力を持っているとは驚き!
「ハウス・ジャック・ビルト」のあらすじにも書いてあったけれど、ジャックはアートに興味があるんだよね。
劇中にゴーギャンやバウハウスの建築など何枚もの絵画や、カナダのピアニストであるグレン・グールドの演奏シーンがはさまれる。
ジャックは建築家に憧れている建築技師、という設定なんだよね。
日本とアメリカでは基準が違うのかもしれないけど、Wikipediaによる違いはこんな感じ。
・建築士は、建築物の設計および工事監理を行う職業の資格、あるいはその資格を持った者
・建築家は、一般に建築における建物の設計や工事の監理などを職業とする専門家
似ているようだけど、建築家は建物のデザインや芸術性にこだわりを持っている、ということになるのかな。
ジャックは技師として、それなりの収入を得ているようで、前述したように車を所持し、冷凍倉庫を購入している。
更に自ら家を設計し建築するために土地まで購入するんだよね。
自分のための設計をしながらも、殺人は続いていく。
映画はジャックが誰かに己の犯罪について告白する体裁を取って進行していく。
「こんなことがあった」と語り、その時の再現が映像として流れるのである。
2番目に語った殺人事件も被害者は女性だったんだけど、この時のジャックは見るからに挙動不審者なんだよね。
突然ピンポンして訪ねた男が、最初は警察官と名乗り、会話の最中で「実は保険屋なんです」と態度を変える。
こんなジャックを信用して家に招き入れた女性にも非があるとは思うけど、後から来た本物の警察官もかなりずさんな対応だったよね。
あの時に勾留していたら、ジャック逮捕につながったのにね?
ジャックは「強迫性障害」という病気なんだよね。
潔癖症のため、掃除が行き届いていないと苦しくなるらしい。
2番目の殺人の後、この病気が起こり、何度も殺人現場に戻り、血の跡が残っていないかを確認する作業を繰り返す。
松尾スズキが出演していることから鑑賞した映画「イン・ザ・プール(2003年)」でも、強迫神経症の話があったことを思い出す。
2017年9月の「映画の殿 第26号 松尾スズキ part2」で、感想を書いているね。
何度も鍵をかけたか確認するため家に戻るような症状なんだけど、犯人が何度も現場に戻り、掃除をするというのはブラック・ジョークだよ。
思わず笑っちゃったもんね。(笑)
強迫性障害だったり、感情を表情に表すことが難しいジャックだけれど、心を奪われた女性がいるんだよね。
恐らくニックネームだと思うけど、「シンプル」と呼ばれていたよ。
「殺しよりも好き」とまで語っていたジャックだけれど、シンプルに対する態度は、とても愛する女性への接し方とは思えないほど横暴だったね。
シリアルキラーが「記念品」を欲しがる、という話を何かで読んだことあったけど、この時のジャックがまさにこの状態だったよ。
ジャックに愛されてしまったシンプルを演じたのはライリー・キーオ。
なんとエルビス・プレスリーの孫娘だったよ。
「ランナウェイズ(原題: The Runaways2010年)」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード(原題:Mad Max: Fury Road 2015年)」にも出演していたようだけど、あまり覚えがないなあ。
ジャックにとって人を殺すことには、どんな意味があったんだろう?
殺害後、ジャックは死体をモデルにした写真撮影を行っているんだよね。
まるで写真用のモデルが欲しくて、犯行に及んでいるかのよう。
デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン(原題:Seven 1995年)」やテレビ・ドラマ版「ハンニバル」では、まるで殺人アートと呼びたくなるような「絵になる殺人現場」が特徴的だったよね。
ジャックもそんな「作品」を手がけたかったのかもしれない。
額に見立てた地面の枠の中に、カラスの死骸と人間の死体を並べた様子は、 アーティストを気取っているようじゃない?
恐らくこの殺人のシーンが、アメリカではカットされたのではないかと推測するよ。
どのシーンがカットされていたのか、調べたけどよく分からなかったんだよね。
ついにジャックは家を創る。
ジャックにしか手にすることがでない素材を使い、自分のためだけの家が完成する。
これがジャックが建築家として建てた作品なんだよね。
素材集めのためにシリアルキラーになっていたのかなあ。
「ハンニバル」っぽい感じだよ。
家の床にはぽっかりと穴が空いていて、声に誘われるまま穴に落ちていくジャック。
声の主はブルーノ・ガンツ演じるウェルギなる謎の人物。
映画の冒頭から、このウェルギとジャックの会話形式により展開していたんだね。
後半になってやっとウェルギが登場し、ジャックの案内人であることが分かる。
ブルーノ・ガンツはヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩(原題:Der Himmel über Berlin 1987 年)」で天使役だったんだよね。
天使から、地獄の案内人まで演じるとは!
どうやら2019年に亡くなっているようで、本作が遺作になったのかもしれないね?
非常に印象的な船のシーン。
元ネタはドラクロワの「ダンテの小船 (地獄の町を囲む湖を横切るダンテとウェルギリウス)」のようだね。
ダンテの「神曲 地獄篇第8歌」のシーンを描いているという。
赤い頭巾のダンテと案内人であるウェルギリウスが小舟に乗り、地獄の川を下っていく。
小舟にしがみつき、這い上がろうとする死者達の姿が生々しく、恐ろしい表情を見せているところが印象的な作品だよね。
「神曲」は読んだことがないんだけど、様々な分野に影響を与えた作品のようで、永井豪の作品もあるらしいよ。
ダンテも永井豪も、どちらも読んでみたいね!(笑)
「神曲」同様、ジャックもウェルギに先導され、地獄めぐりをしていく。
60人くらい殺したかな、などと淡々と語りながら歩くジャック。
あらすじに「シリアルキラー歴12年間の軌跡」と書かれているので、割り算だと1年間に5人を殺害した計算だね。
殺しを重ねていくうちに強迫性障害が良くなっていった、というのもブラック・ジョークか?
自分にはツキがある、と信じていたジャック。
Wikipediaによると「神曲」では、ダンテが永遠の淑女ベアトリーチェに導かれ、天界へ昇天するらしい。
ジャックはどうだろう?
運をつかむことができるのだろうか。
と、未鑑賞の方のためにボカしておこう。(笑)
劇中に何度も流れたのが、デヴィッド・ボウイの「FAME」なんだよね。
どうしてこの曲だったのかは不明だけど、強く印象に残ったよ。
「ハウス・ジャック・ビルト」という題名は、一節ごとに歌詞が長くふくらんでいくマザーグースの積み上げ歌『This is The House That Jack Built』から付けられている
この文章を読んだ時にピンと来たSNAKEPIPE。
デヴィッド・リンチの「ワイルド・アット・ハート(原題:Wild at Heart 1990年)」では、「オズの魔法使い」のオマージュが登場していたんだよね。
「マザーグース」も「オズの魔法使い」も児童向けの書物であり、「オズの魔法使い」の作者であるライマン・フランク・ボームは、マザー・グースの韻文を散文の小説に直した短編集を刊行しているという。
そしてリンチの「ロスト・ハイウェイ(原題:Lost Highway 1997年)」 のオープニング・テーマはデヴィッド・ボウイの「I’m Deranged」だったよね!
前述したように殺人をアート作品にしてしまう先駆的作品を監督したのがデヴィッド・フィンチャー!
おお!見事に3人のデヴィッドが揃い踏み!(笑)
もしかしたらラース・フォン・トリアーは、3人のデヴィッドからインスパイアされて、「ハウス・ジャック・ビルト」を制作したのかもしれないね?
我らが鳥飼否宇先生の「痙攣的」に、伴鰤人がサインを書いたことで「殺人アート」が成立したミステリーがあったよね。
他にも「爆発的」や「逆説的」など、鳥飼先生は現代アートや音楽をミステリーと結びつけた作品を発表されているのである。
本物の死骸や死体を素材にした写真を制作していたのは、ジョエル=ピーター・ウィトキン。
こちらもジャックの先駆者ということになるのかな。
「ハウス・ジャック・ビルト」は、こういう傾向の作品が好みの方に、お勧めの映画ってことだね!(笑)