CULT映画ア・ラ・カルト!【14】Santa Sangre

【サンタ・サングレのポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

CULT映画ア・ラ・カルト!」で特集してきたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の3部作も今回でついに最終回を迎えることになった。
ホドロフスキー監督が「初めて商業映画を意識して制作した」という「サンタ・サングレ」である。
「サンタ・サングレ」(原題:Santa Sangre)は1989年制作のイタリア・メキシコ合作映画で、前作「ホーリー・マウンテン」から16年の時を経て完成した映画である。
その間に「Tusk」という映画を撮っているけれど、ホドロフスキー監督が自らの作品として認めているのは「CULT映画ア・ラ・カルト!」で特集している3本らしいので、この言い方で良いと思っている。
では早速「サンタ・サングレ」についてまとめてみようか。
※鑑賞していない方はネタバレしてますので、ご注意下さい。

物語は主人公フェニックスの少年時代と青年時代の2部構成になっている。
まずは少年時代について記述しよう。

フェニックスはグリンゴ・サーカスという名前のサーカスを率いる両親の元に生まれ育つ。
フェニックス自身も「小さな魔術師」というニックネームを持ち、マジシャンとして活躍している。
感受性豊かな優しい性格のため、泣いているシーンが多い。
そのため父親から「男にしてやる」という名目で、胸にその名の通りのフェニックス(不死鳥)の刺青をされる。
このシーンは父親がナイフの先で傷を付けることで刺青を仕上げていたため、フェニックスの胸は血だらけ!
本当に痛そうに泣き叫んでいたので、SNAKEPIPEも自分の胸をさすってしまったほど!

フェニックスの父親、オルゴはアメリカ人。
前述したようにグリンゴ・サーカスの団長である。
どうしてアメリカに帰らずメキシコにいるのかは「アメリカで女を殺したせい」と噂されるような暴力的な人物である。
酒飲みで女好き、といういわゆるだらしのない男なのに、団長なのが不思議だよね?(笑)
かなりの太っちょだけれど、スパンコールギラギラの衣装を着け、同じくスパンコールのカウボーイハットまでかぶっている。
そしてフェニックスに施したのと全く同じ刺青を胸に入れている。

フェニックスの母親、コンチャ。
「テラノ兄弟に両腕を切断され、強姦された挙句血の海に置き去りにされた少女リリオ」を聖女として祀る宗教団体の熱狂的な信者である。
その狂信ぶりはイカれてる雰囲気さえ漂う。
目がすごいんだよね!
そして聖女として祀られている少女リリオの像もかなり怖い!
何故だか髪をおさげにして、セーラー服着てるの!
メキシコにも似た制服あるのかしら?

コンチャもサーカスの一員として、髪の毛を使った空中吊りで演技をする。
コンチャはヒステリーで非常に嫉妬深い妻だ。
夫であるオルゴが他の女と一緒にいるとナイフをかざして脅しをかける。
演目の途中であっても激しい嫉妬心を抑えることはできず、夫と女を追いかけてしまうほど。

サーカス団に全身刺青の女が新しく加わることになる。
肉体美をアピールするのがこの女の得意な芸当。
その他に玉乗りするとか空中ブランコやるとか、そういう芸は持っていないみたい。
そのためなのか、団長であるオルゴを得意の肉体攻撃で魅了しようとする。
オルゴの芸はナイフ投げ。
全身刺青女を的の前に立たせ、ナイフを投げていく。
まるでそれが性行為の代替であるかのように、刺青女はナイフが1本、また1本と投げられる度に身をよじるのである。

全身刺青女が一緒に連れてきたアルマという少女も、サーカス団で火縄を渡る芸の特訓中である。
アルマは聾唖者で口をきくことができない。
恐らくそのため両親から見捨てられ、全身刺青女の手に渡ったものと思われる。
サーカスと聞くとちょっと物悲しく感傷的な気分になってしまうのは、こういう事情がたまに透けて見えるからだろう。
全身刺青女からイジメられても、アルマは強く清らかな精神のままサーカス団に溶け込んでいる。
そしてそんなアルマに心惹かれているのがフェニックスだ。

ついに団長と全身刺青女は一線を越えようとする。
その2人の後を追ったコンチャは嫉妬と怒りで気も狂わんばかり。
硫酸を手に2人のいる場所に向かうと、夫オルゴの局部に硫酸を降りかけるのである。
怒ったオルゴはコンチャをナイフ投げの的へ連れて行き、その場で両腕を切断する。
あのナイフがそんなに切れ味良かったとは!
その姿はコンチャが狂信していた聖女リリオそのものだ。
そしてオルゴは最後にグリンゴ・サーカスを目に収めた後、首を切って自害するのである。
全裸で局部を抑えながら少し歩いた後自害するシーンは「エル・トポ」の中にも登場したね。
その様子を泣き叫びながら見ていたフェニックス。
フェニックスはコンチャにトレイラーに閉じ込められていたせいで、行動できなかったのだ。
全身刺青女はアルマを連れて車で逃走してしまう。
車の後ろの窓から悲しそうにフェニックスを見つめるアルマ。
ここまでで少年時代のお話終了!
こんな惨劇が目の前で繰り広げられてしまったら、少年はどうなってしまうんだろうね?

青年になったフェニックスは障害者施設にいた。
言葉を喋らず、胸の刺青のように自分を鳥だと思っているらしい。
人間用の食事には見向きもせず、生の魚を見ると奇声を発し、ガツガツとむさぼるように食べ始める。
このシーン、どうみても本当に生のまま食べてるように見えるんだよね!
役のためとはいえ、大変だっただろうねえ。

ある日フェニックスは障害者達と共に映画「ロビンソン・クルーソー」を観に外出することになる。
そこに客引きの男が現れ、映画より楽しいことをしよう、と障害者達を誘う。
コカインを吸わされ、障害者達が連れて行かれたのは相撲取り並の体格の年配娼婦の前だった。
5人の障害者まとめて全員で20ドルという娼婦に、俺の取り分は15ドルだと主張して交渉成立。
アコギな商売してるよね、客引きの男!
この客引きの男の名前がテオ・ホドロフスキーなんだよね。
監督との血縁関係については不明!(笑)
他の4人は娼婦に連れられて行き、フェニックスは仲間に加わらず町をさまよう。
通りは客を待っている娼婦たちであふれている。
フェニックスがふと目をやった先に、先程の客引きと陽気にサンパを踊る女がいる。
なんとその女はグリンゴ・サーカスにいた全身刺青女だった。

全身刺青女はグリンゴ・サーカスの時もそうだったように、その肉体とお色気だけをウリにしているので、サーカス団から逃げた後は娼婦になっていたようだ。
律儀にも(?)あの聾唖者のアルマの面倒もみているようで、同居している。
2人の軍人を客に取り、そのうちの一人をアルマに相手させようとする。
この軍人、恐らく巨人症だと思われる。
その巨人相手に格闘し、窓から逃げて難を逃れたアルマ。
なんとか夜露がしのげる場所を確保し、朝にようやく家に帰る。
そこで全身刺青女の亡骸を発見するのだった。
全身刺青女の殺害シーンはまるでアルフレッド・ヒッチコック監督の「サイコ」を思わせる演出がされている。
カーテンごしにナイフで上から下へと斬りつけるのである。
殺人者の姿は見えず、ただ赤いマニキュアをした女の手だけがヒントである。
一人ぼっちになってしまったアルマの心の拠り所は、グリンゴ・サーカスで生き別れたフェニックスだった。

映画「ロビンソン・クルーソー」の翌日、フェニックスは両腕のないコンチャの呼びかけに応じて、障害者用施設を抜け出す。
そしてコンチャと一緒に「コンチャと魔法の手」という演目を劇場で披露している。
これはフェニックスがコンチャの手の代わりに、二人羽織状態で後ろから動きを付けている出し物である。
フェニックスの爪には赤いマニキュアが塗られている。
本物の女性の指のようなきめ細やかな動きに感心してしまうね!
二人羽織は演目だけではなく、家の中でもコンチャの手の代わりを務めるのである。

この劇場の他の演目に「制服の処女ルビー」というストリップショーがあるんだけど、このルビーちゃんがすごいインパクト!
メキシコ人は、もしかしたら老けて見えるのかもしれないけど、どうみてもルビーちゃんは40代に思えるよ!
黒板と机を配置した教室を演出したステージに、セーラー服に髪をおさげにして登場!
まずはこのアンバランスさがなんとも言えずシュールな感じがする。
ちょっと昭和レトロな雰囲気もあるよね?(笑)
コンチャが崇拝し、聖女リリオとして祀っていたのもセーラー服とおさげ髪だったので、ホドロフスキー監督は余程気に入っていたに違いない。(笑)
観客のおじさん達もやんややんやの大歓声で、ルビーちゃん大人気だし!
このストリッパー、ルビーちゃんから「あたしと組まない?」と誘いを受けるフェニックス。
いつの間にか父親譲りのナイフ投げの技を身に付けているフェニックスは、ルビーちゃんをナイフ投げの的の前に立たせるのだった。
この時フェニックスの脳裏をよぎるのは、かつて父親の前で身をくねらせて的の前に立っていた全身刺青女。
強烈な記憶は今でも色鮮やかにフェニックスに影響を及ぼしているようだ。
そこにやってきた母親、コンチャ。
父親にしていたのと同じように、フェニックスが自分以外の女と接触していると、強い反発心と嫉妬心で怒りに打ち震えるのだ。
「その女を殺しなさいっ!」
そうコンチャから命令されると、自分の意志とは関係なくコンチャの指示通りに手が動いてしまう。
ルビーちゃんの腹部めがけてナイフを投げてしまうフェニックス。
コンチャの命令は絶対である。
逆らうことなんてできないんだ。

ルビーちゃんの死体を自宅に運び、庭に埋める。

今までにも大勢の女性を手にかけ、同じように庭に埋めてきたんだろう。
大勢の埋められていた女性たちが花嫁のベールをかぶり、ワラワラと土から出てくるシーンがある。
ここだけ見ているとまるでホラー映画のようで、かなり不気味だった。
タイトルつけるなら「brides of the living dead」って感じか?(笑)
不気味といえば、フェニックスが自宅に招いた史上最強の女子プロレスラーは、どこからみても男性にしか見えないんだよね!(笑)
上の写真がその女子プロレスラーなんだけど、身長の高さ、体つきのゴツさ、顎のラインなど全てが男!
コンチャと力の強い彼女(?)を対決させようと企てていたようだ。
それなのに、なんとも残念なことにコンチャの命令のほうが勝っていたんだねえ。
「彼女を殺すのよ!」
コンチャ、本気で女だと思ってたのかなあ?(笑)

「コンチャと魔法の手」を上演している劇場を手掛かりに、アルマはフェニックスの住所を探し出す。
家の中の様子から、恐らく全ての察しがついたんだろう。
フェニックスの目を開かせ、真実と向き合わせようとする。
全ての真実を受け入れたフェニックスは、やっと本来の自分自身と自分の手を取り戻すことができるのだった。

急に最後の部分だけかなりぼやかして書いてみたよ。
そこが核心に触れる部分なので、ネタバレし過ぎはヤボかな、と。(笑)
母親に支配される息子の主題は、前述したヒッチコック監督の「サイコ」でお馴染みだと思う。
ただしホドロフスキー監督はメキシコで実際に起きた連続殺人事件を元にこの映画の構想を練ったらしい。
20人以上の女性を殺し、自宅の庭に埋めていたホルヘ・カルドナという犯人にも直接インタビューまでしていたというから驚きだよね!
そのホルヘ・カルドナが母親からの支配を受けていたのかどうか、その事件そのものについての調べがつかなかったのではっきりしたことは不明。
構想から7年の月日が経ってからの映画化ということだから、どうしても撮りたかった作品なんだね。

冒頭に書いた「商業映画を意識した作品」という意味については、
・ストーリー展開がはっきりしていたこと
・他2作に比べるとグロいシーンが少なかったこと
・ラテン音楽の多用とダンスのシーンなどから陽気な雰囲気を感じたこと
という3つがパッと思いついたことかな。
いかにもホドロフスキー監督らしい、と思える演出のほうがはるかに多かったので、「エル・トポ」と「ホーリー・マウンテン」に比べてみれば、という前置きが必要かもしれない。

「サンタ・サングレ」を英語に訳した「ホーリー・ブラッド」と叫んでいたのが少女リリオを祀っていた教会でのコンチャだった。
少女が流した血は聖なる血だ、というのだ。
根拠は不明だけどね!
両腕を切断された、で思い出すのがデビッド・リンチの娘であるジェニファー・リンチの処女作「ボクシング・ヘレナ」(原題:Boxing Helena 1993年)である。
この映画は主演女優の降板騒ぎや、最低映画賞といわれるラジー賞を獲ったという悪評で有名な映画になってしまっている。
最終的に主役に収まったのは、「ツイン・ピークス」でオードリー役を演じていたシェリリン・フェン
少女リリオのように両腕のみならず、両足までも切断され椅子に腰掛けているのが、左の写真。
元々自分勝手で奔放な性格という設定だったせいもあり、とても聖女とは呼べないタカビー(死語)な女性だったよ。
改めて鑑賞しなおしてみたけど、ラジー賞に納得してしまったSNAKEPIPE。
エロと猟奇と狂気が中途半端なんだよね。
どうせやるならどれか一つを突出させても良かった気がする残念な作品だった。
「サンタ・サングレ」と同じジャンルに分類されるオチの付け方なのに、「ボクシング・ヘレナ」には非難の言葉が多いのも中途半端さが原因かな、と思われる。

ホドロフスキー監督についてもう少し調べてみよう。
「サンタ・サングレ」で演じられた少年時代と青年時代のフェニックスは2人共、ホドロフスキーの実の息子!
ん?ここで疑問が。
一体ホドロフスキー監督には何人の息子がいるんだろうね?(笑)

「エル・トポ」に出ていた、あの裸の少年。
ブロンティス・ホドロフスキーは1962年メキシコ生まれの長男。
wikipediaのページがフランス語なので、はっきりしたことは不明だけど、どうやら俳優や演出家をやっている模様。
ホドロフスキー監督の最新作「リアリティのダンス」ではアレハンドロ・ホドロフスキーの父親役、つまりブロンティスからみるとおじいちゃんを演じているらしい。
自伝的小説「リアリティのダンス」に中にブロンティスに関する記述がある。
どうやらブロンティスは6歳まで母親とアフリカにいたらしい。
そしてその後フランスにいるアレハンドロ・ホドロフスキーの元に来たというのだ。
そのため6歳までは父親不在の生活を送っていたとのこと。
「エル・トポ」は1970年の制作なので、ブロンティスは父親の元に行ったばかりで撮影してたんだね!
「ホーリー・マウンテン」にも「サンタ・サングレ」にも出演していたようだけど、どの役だったのかは不明。

アクセル・ホドロフスキーは「サンタ・サングレ」の中でフェニックスの青年時代を演じた。
映画に関する記述ではアクセルだけど、小説「リアリティのダンス」の中にヒントがあった。
アクセル・クリストバル・ホドロフスキー!
クリストバル・ホドロフスキーは1965年生まれの次男坊。
詩人、画家、作家、映画監督の他にサイコ・マジックも手がけているらしい。
サイコ・マジックとはアレハンドロ・ホドロフスキーも行なっていたサイコセラピーの一種で、依頼人の悩みを家系図を元に作成した系統樹や依頼人が見た夢などを利用して、根本となる問題点を導き出し、問題解決にあたるものである。
実際にどのような方法を用いて問題解決をしたのか、という実例については小説「リアリティのダンス」の中に事例があるので参照して下され!
詩人やサイコ・マジックを手がけているということで、もしかしたらクリストバルが一番ホドロフスキー監督の影響を受けているのかもしれないね?
それらは父親であるアレハンドロが行なってきたことを伝承しているみたいだからね。
クリストバルのHPがスペイン語で書かれているので、読解できないのがもどかしいね!
何の役なのかは不明だけど、映画「リアリティのダンス」にも出演している模様。

アダン・ホドロフスキーは「サンタ・サングレ」でフェニックスの少年時代を演じた。
1979年生まれというから、長男と17歳も差がある三男坊!
ホドロフスキーが50歳の時に生まれた、と書いてあったよ。
「サンタ・サングレ」撮影時は9歳くらいだった計算だよね。
このアダンは、現在Adanowskyという名でミュージシャンになっている。
wikipediaによると、どうやら一番初めにアダンにギターを教えてくれたのは、あのジョージ・ハリスンだったらしい!
アレハンドロ・ホドロフスキーが友達だったから、というのが理由らしいけど、ビートルズ・ファンには垂涎の的だろうね。(笑)
アダンもアナーキストの役で「リアリティのダンス」に出演しているみたい。

恐らく息子はこの3人だと思われるんだけどね?
どうやらそれぞれの母親は別らしい。
それなのにホドロフスキー色が濃く出ているところがすごいよね。(笑)
実は他にも映画の中にホドロフスキーって名前があるのを発見したんだけど、それが息子なのか親戚なのかはよく分からなかった。
娘も一人いるらしいんだけど、この方は映画とは無縁だったのかな。

来年日本公開予定の「リアリティのダンス」の前に、ホドロフスキー監督の3部作についてまとめてみたよ。
これで復習は完了だね!
そして小説「リアリティのダンス」も読了し、3人の息子達についても調べたので予習もできたかな。(笑)
来年の公開が本当に待ち遠しい!

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