【タイトルに因んだ映像。音が出るよ!】
SNAKEPIPE WROTE:
「ゔぁっ!」
何やら言葉にならない声でROCKHURRAHが叫ぶ。
一体どうしたの?何があったの?
「鳥飼先生の新作が出るよっ!」
「ええーっ!」
きちんとした言葉で大反応するのはSNAKEPIPE。
いつも同じパターンだけど、ROCKHURRAH RECORDS内での事実なんだよね。(笑)
大ファンの作家・鳥飼否宇先生の新作とは、なんというビッグ・ニュース!
2018年に刊行された「隠蔽人類」以来の作品になるんだね。
およそ1年間、待ち望んでいた鳥飼先生の新作とご対面できるとは嬉しい限り!(笑)
明日にでも本屋に行くか、と鼻息を荒くしたSNAKEPIPEだったけれど、今の御時世、通信販売が一番早いよね。
その日の注文で、翌日には新作を手にすることができたよ!
今回のタイトルは「天災は忘れる前にやってくる」だという。
天災って自然災害のことだよね?
光文社の紹介ページからあらすじを紹介させて頂こう。
眉唾の噂やホラばなしをネット配信して生計を立てている「特ダネ ゴーダニュース」の目玉企画は、社長の郷田とバイトの智己の災害現場への突撃ルポだ。
しかし、二人の行くところ、なぜかいつも災害の陰に怪しい事件が待っている!
ブラックなギャグとダークな欲望が軽快に展開し、意表を突くトリックと鋭い推理もたっぷり盛り込んだ、サービス満点の傑作。
有料会員向けのネット配信だけで生計を立てる人物が主人公とは、今どきだよね。(笑)
「眉唾の噂やホラばなし」とは、例えば「目から鱗、夜尿症にはナマズエキスが効く!」や「不忍池に半魚人が出現!!」といった類のものらしい。
「絶対うそでしょ」と思ってしまうヘッドラインだけど、お金払っても読む人がいるみたいなんだよね。
この手の会員費って月額いくらなんだろう。
例えば月額100円で3万人の会員なら月収300万円!
「特ダネ ゴーダニュース」には、それくらいの読者が存在しているとの記述があるので、そこまで違った数字ではないよね。
取材費とアルバイト代を支払ったとしても、良い収入になりそうだよ。
よし、これから当ブログも有料にしてみるか。(笑)
冗談はさておき、鳥飼先生の新作に話を戻そう。
「特ダネ ゴーダニュース」の社長である郷田俊男とアルバイトの三田村智己が、災害地域を取材中、事件に遭遇する。
それらの事件を連作短編にした小説が、「天災は忘れる前にやってくる」なんだよね!
さて、彼らはどんな事件に遭遇したのか?
小説の順番通りに感想をまとめていこう。
※ネタバレしないように書いているつもりですが、未読の方はご注意ください!
天網恢々疎にして漏らさず
いきなり難しい文章から始まったけど、「天災は忘れる前にやってくる」では、タイトルに名言や格言が採用されている。
最初のタイトルは中国の思想家である老子の言葉だという。
天網は目があらいようだが、悪人を漏らさず捕らえる。
天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある。
こんな意味だったんだね。
恥ずかしながらSNAKEPIPEは初めて知った言葉だよ。
鳥飼先生のデビュー作「中空」でも老子や莊子の思想について触れられているので、特に違和感もなくすんなり本文を読み進めることができた。
画像は牛に乗った老子だよ。(笑)
第1インシデントは地震!
震度7の地震が発生、死者・行方不明者合わせて約2,300人、負傷者は7,000人以上の甚大な被害が報告されたのである。
そんな被災地にネタ探しに乗り込む「郷田プロダクション」の郷田とアルバイトのトモミ。
ボランティアとして活動するため、ではないんだよね。
あくまでも「特ダネ ゴーダニュース」のネタを探すため、ジャーナリストとしての使命だ、と主張する郷田だけれど、実態は行き当たりばったり。
眉唾もののフェイク・ニュースで、読者の興味を煽る文章を捏造するのが得意な郷田は、地震からどんなニュースを創り出すんだろうね?
胡散臭い人物だけれど、何万人もの人が食いつく記事を書くことができるというのは、やっぱり才能だろうなあ。(笑)
2人が足として使用しているのは「ジムニー」だという。
SUZUKIのジムニーって名前は聞いたことあるけど、どんな車だったかな?
おお、改めて検索してみると、とってもカワイイじゃない!(笑)
色によっては軍用車両にも見えそうで、ちょっとジープっぽい感じ。
ミリタリー好きのROCKHURRAH RECORDSでは大好評だよ!
ただし大の男2人、しかも少し太り気味の郷田が隣では、窮屈になるかもしれないね。
郷田の年齢は50代のようだけど、トモミはいくつなんだろう。
郷田にコキ使われているアルバイトなので、20代から30代だと思われる。
南国生まれで、現在は一人暮らしをしているとのことだから、アルバイトでもそれなりの収入を得ているんだろうね。
こんなデコボココンビだけど、一応「阿吽の呼吸」で行動しているみたいだよ。
郷田の小さな「気付き」から犯人が割れる。
タイトルの「天網恢々疎にして漏らさず」と絡んで、見事にまとまったよ!
それにしても郷田が探偵役とはね?
己の欲を優先させる、いかにも人間臭い人物で、今までの鳥飼先生の著作では見かけなかったタイプなんだよね。
大山鳴動して鼠一匹
事前の騒ぎばかりが大きくて、実際の結果が小さいこと
これよくあるよね!
鳴り物入りで登場したけど、結果はまるでダメダメっていう話ね。
ラテン語のことわざが元になっているようだけど、この文言も初めて知ったSNAKEPIPE。
こんなところで無知を自慢してどうする。(笑)
ROCKHURRAHが「ことわざ」を分かりやすく画像にしてくれたよ。
あの山からこのネズミが!
なんてキュートなんでしょ。(笑)
第2インシデントは浅間山の噴火!
浅間山と聞いて連想するのは「浅間山荘事件」だね。
1972年2月、長野県北佐久郡軽井沢町にある河合楽器の保養所「浅間山荘」において連合赤軍が人質をとって立てこもった事件(Wikipediaより)である。
あまり事件について詳しくないSNAKEPIPEは、だいぶ前にROCKHURRAHと一緒に「光の雨(2001年)」という映画を観て、連合赤軍について少し知ったくらい。
私刑による支配での団結は難しいこと、そして人間の残酷さを見たことを覚えている。
そんな浅間山が噴火し、その現場にネタ探し目的で訪れる郷田とトモミ。
命の危険を顧みず、よく頑張るよね。(笑)
郷田は一応(?)ジャーナリストなので、ドキュメンタリー映画も観ているんだね。
感銘を受けた映画としてヴェルナー・ヘルツォークの「ラ・スフリュール(原題:La Soufrière 1977年)を挙げる。
ヘルツォークといえば、2019年5月に「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国展 鑑賞」の中で、「狂気の行方(原題: My Son, My Son, What Have Ye Done (2009年)」の感想をまとめたっけ。
デヴィッド・リンチが製作総指揮だったために鑑賞したんだけどね。(笑)
記事にも「そんなに詳しくない監督」と書いているヘルツォークなので、「ラ・スフリュール」も知らなかったよ。
映像があったので、載せておこうか。(29分)
郷田とトモミ以外にも、命知らずの登山家がいる。
台風で波が大荒れの時にサーフィンやるような人がいるけど、似た感じかな?
そこで事件が起きるのである。
まさかそんな動機だったとは!
あっさり郷田が解き明かしたのは、年の功か?
そしてあんな結末とは、ね。
それにしても特に女性にとって、1歳の年齢間違いは大問題よねっ!(笑)
我が物と思えば軽し笠の雪
自分の利益になることならば、苦労を苦労と思わない。
これは松尾芭蕉に弟子入りした其角の句「わが雪と思へば軽し笠の上」からできた「ことわざ」だという。
この画像が其角のようだけど、ほとんど漫画だね。(笑)
酒豪だったという俳人だけれど、芭蕉からも才能を認められていたという。
なんだかドラマの主人公になりそうなタイプじゃない?
第3のインシデントは豪雪!
雪で閉ざされた地域での事件といえば、やっぱり映画「シャイニング」を思い出してしまうね。
建物に取り憑いている霊的な存在もさることながら、精神に変調をきたしたジャック・ニコルソンが怖くて!
あ、ジャック・ニコルソンの演技が素晴らしくて、に変えないとおかしな文章になってしまうね。(笑)
新年早々、豪雪地帯に取材に行く郷田とトモミ。
孤立した集落を目指して、雪道を車で移動する。
いわゆるジャーナリズムの精神を持つ人であれば、「眼の前にある現実」を報道したい、いやしなければならないという正義感が原動力になり、どんなに危険な場所にでも赴くだろう。
郷田の場合は動機が不純で、災害をネタにした記事を書き、会員数を増やし利益アップを狙っているにもかかわらず、目的地は正統派ジャーナリストと同じように危険な地域、というところにギャップを感じるんだよね。
ガセネタを書くなら、そこまでやらなくても良いような?(笑)
「我が物と思えば軽し笠の雪」は、またもや郷田が犯人を特定し、事件としての決着はついているけれど。
犯人の心境が腑に落ちないんだよね。
珍しく「おあとがよろしくなかった」作品かな。
善人なおもて往生をとぐ
善人でさえ救われるのだから、悪人はなおさら救われる。
親鸞の「歎異抄」に出てきた、非常に解釈が難しい言葉なんだよね。
タイトルでは「善人なおもって往生を遂ぐ」までだけれど、親鸞は「いわんや悪人をや。」と続ける。
意味を調べると「逆じゃない?」と感じてしまう不思議な言葉、どうやら「善人」と「悪人」の定義から勉強したほうが良さそうね。
しっかり文章にする力がSNAKEPIPEにはなさそうなので、親鸞について詳しい方のサイトをご参照くだされ!(笑)
第4のインシデントは離島での台風と火事。
郷田とトモミの当初の目的は、島で目撃されたジュゴンを撮影する、というものだった。
ジュゴンは人魚のモデルとされているので、眉唾もののニュースを発信している「特ダネ ゴーダニュース」では、格好のネタだろうと容易に推測できるよね。
ところが予想に反して、ジュゴンは現れず、郷田とトモミは火事の現場を撮影することに成功するのである。
臨場感あふれる動画をアップロードすると、たちまちアクセス数が増える。
「特ダネ ゴーダニュース」のフェイクではないニュースも人気があるんだね。(笑)
現場にいたからこその成果だけど、災害と聞くと「ほいきた!」とばかりに喜ぶ郷田は、非人道的とも言える。
そしてまた事件に遭遇するのである。
人それぞれに理由があるので、コメントが難しい事件だったね。
なんともやりきれない気分になってしまったよ。
株を守りて兎を待つ
古い習慣にとらわれて、時の変化に適応しないこと。
また、偶然の幸運を当てにする愚かさ。
中国春秋時代、ひとりの農夫が目前で木の切り株にぶつかって死んだウサギを手に入れ、それから毎日その切り株のところで見張りをしたという故事からできた中国のことわざみたいだね。
こういうタイプの人、今でもいるだろうな。
そんな話をしていると、急にROCKHURRAHが歌い出すではないの!
北原白秋作詞、山田耕筰作曲の歌だったとは!
静止画像がうさぎになってるし。
それにしても子供の頃の記憶により、ROCKHURRAHが2番まで歌い続けることに驚いたよ。(笑)
SNAKEPIPEは習った全く覚えがないんだけど、九州地方とは音楽の教科書が違ってたのかもね。
第5のインシデントは豪雨による川の氾濫である。
災害を取材し、有料サイトの会員数を増やすことで収入をアップさせた実績を持つ郷田は、新たな災害ネタを求めて水害に見舞われた地域に赴いていた。
自然災害が利益を生み出すことってあるんだけど、これを特需と言ってはバチが当たるよね。
郷田のような「人の不幸をネタにした記事を書く」タイプは気にしないどころか「ラッキー」くらいに思っているんだろうけど。
人間的には疑問を感じることが多い郷田だけど、推理力はあるんだよね。(笑)
かなり複雑なシチュエーションだったのに、今回の事件も見事に解決!
郷田はここまででいくら稼いだんだろう?
前門の虎、後門の狼
一つの災いを逃れても別の災いにあうたとえ。
中国の元代の学者である趙弼が記した書「評史」に書かれている「ことわざ」だという。
「ことわざ」に因んだ画像をROCKHURRAHが用意してくれたんだけど、なんてカワイイんでしょ!(笑)
こんな虎と狼だったら、大歓迎じゃない?
子供の頃から一緒にいたら、ずっと仲良しのままなのかな。
なんでこんなにカワイイ画像を選ぶか、ROCKHURRAH?(笑)
第6のインシデントは竜巻!
銀行強盗事件を取材するために訪れたのに、竜巻に遭遇する郷田とトモミ。
竜巻を間近で撮影した緊迫の動画だったら、かなりのアクセス数を稼げるだろうね。(笑)
郷田とトモミが乗っているジムニーまで、竜巻で車体が浮くほどの威力だったというから、自然の力は本当に恐ろしいよ。
この章では、なんと猟奇殺人を連想させる死体が登場する。
現場を想像すると、かなり怖い状態だよ。
郷田とトモミは平然と観察しているようなので、肝が据わってるのかな。
郷田の推理により、いくつかのパーツがカチッとはまりパズルが解けた。
人は土壇場になると、思いもよらない大胆な行動に出るのかもしれないね。
SNAKEPIPEにはできないだろうな。(笑)
同じ穴の狢
一見関係がないようでも実は同類・仲間であることのたとえ。
多くは悪事を働く者についていう。
さすがにこの「ことわざ」は聞いたことも、使ったこともあるよ。
「ことわざ」は知っていても、ムジナってどんな動物なの?
どうやらアナグマのことをいうんだね。
画像で見る限りでは、ハクビシンと区別がつかないよ。
「ことわざ」に動物が入っていることが多くて、今回の記事の画像だけみると何の記事を書いているのか不思議に思うかもね。(笑)
第7のインシデントは台風。
丁度この記事を書いている頃、台風6号が関東地方を直撃すると予想されていた。
現在では熱帯低気圧に変わったため、局地的な大雨に警戒する必要があるという。
ほとんど東京近辺から出たことがないSNAKEPIPEは、台風による被害という経験がないんだよね。
もちろん台風直撃で電車が動かない、ということはあるけれど、家の屋根が飛んだり窓ガラスが割れるというレベルの被害はないね。
北九州出身のROCKHURRAHも、ほとんど被害に遭ったことがないという。
小説本文中の台風は猛威を振るっていて、傘が全く役に立たないほどの大雨と暴風の中、撮影に挑む郷田とトモミ。
「郷田が歩けば二次災害が起きる」じゃないけれど、 土砂崩れまで経験することになる。
これをまた好機と考え、取材を開始する郷田の根性は見上げたものだよ。
スクープを物にするために危険と隣合わせの行動をするジャーナリストといえば、戦場カメラマンなども同じだろうね。
SNAKEPIPEも写真の勉強をしている頃、その手の本を読んで刺激を受けたことがあるので、気持ちは分かる。
実際に行動に移すことができるかどうかが、ジャーナリストとしての資格だろうから、郷田は合格だね。(笑)
ペットのヨークシャーテリアが機動隊員によって助け出されるシーンがある。
ヨークシャーテリアといえば、鳥飼先生の「人事系シンジケート―T-REX失踪」 にも社長夫人のペットとして登場しているね。
「好き好きアーツ!#44 鳥飼否宇 part18−激走&T-REX失踪−」 として感想をまとめているので、ご参照あれ!
まさかそんな展開になるとは!
そして「同じ穴の狢」がそういう意味で使われることになるとは思ってもみなかったよ。
「そんな」とか「そういう」といった「濁した」物言いしかできないのが歯痒いけど、仕方ないね。(笑)
鳥飼先生の新作は、今までの先生の著作である「逆説的」、「ブッポウソウは忘れない」や「激走」と上にも登場した「人事系シンジケート―T-REX失踪」などと同様、「実際に起こり得る状況」を背景にした小説だったね。
語り部であるトモミに関する記述があまりなかったので、特徴を捉えることが難しかったかな。
ROCKHURRAH RECORDSが得意としている、マニアックなミュージシャンから名付けた登場人物当てや、アート系の話題を見つけることができなかったのは残念。
天災をキーワードにした小説とはどんな感じだろう、と少し不安を感じながら読み進めた。
どうして不安だったかというと日本で実際に起こっている災害なので、被害状況を生々しく感じてしまうのではないか、と想像したからなんだよね。
郷田の視点が、有料会員獲得に向けスクープを狙っているという、ヒューマニズム寄りではないのは前にも書いたよね。
それが冷静なカメラのレンズ的な役割を果たしていたようで、被害が甚大であっても重たい文章になっていなかったように感じる。
読むのが辛い小説になっていなかったのは、さすがに鳥飼先生だよね!
最近の鳥飼先生の著作は「〜シリーズ」ではないので、また懐かしい登場人物に再会したいと思ってしまうのはSNAKEPIPEだけかな?(笑)