【レアンドロ・エルリッヒ展のトレイラー】
SNAKEPIPE WROTE:
展覧会情報をチェックする際に、必ず確認する美術館がある。
例えば現在リニューアル中の東京都現代美術館や森美術館である。
ん?「必ず確認」と書いておきながら、森美術館で何の展覧会が開催されているのか覚えていない!
調べてみると「レアンドロ・エルリッヒ展」とのこと。
いやあ、失態だなあ。
昨年の11月から開催されていたというのに、全く確認していなかったようだ。
会期は終了間際なので、遅ればせながら春分の日に出かけることにしたのである。
春分の日は32年ぶりの大雪の予報だった。
それならば逆に外出を控える人が増えて、美術館が空くかも!と期待してROCKHURRAHと六本木に向かう。
10時の開館に間に合うように到着すると、森美術館入り口付近に人だかりがある。
同時開催されている「ジャンプ展」目当ての観客だろう、と列に近付いてみると、、、。
「レアンドロ・エルリッヒ展チケットお求めの方はこちらにお並びください」
係員が叫んでいる。
なんと!
行列を作っているのは「エルリッヒ展」で、「ジャンプ展」のチケット購入は待つ必要がない!
「エルリッヒ展」のチケットを買うための行列ができていたんだよね。
これには非常に驚いてしまった。
もしかしたらSNAKEPIPEの「雪で空いてるかも」という考えと、同じような思考パターンの人が多かったのか?
並んで待っている間に周りの会話が聞こえてきて、少しずつ状況が分かってくる。
春分の日が水曜日だったため、月火を連休にして東京観光に来ている人がいた模様。
そのスケジュールの1つが「エルリッヒ展」だったみたいだね。
学生が春休みに入っていたのも混雑の原因になっているようだった。
更に「エルリッヒ展」は2月末に観客動員数が40万人を超える大人気展覧会だった、ということ。
撮影が可能で、いわゆる「インスタ映え」する写真が撮れるというのが人気の秘密のようで。
これは益々、昨年中に鑑賞しておくべき展覧会だったなあ、と後悔するSNAKEPIPE。
本来ならば大人気企画には、できるだけ近寄らないことにしているけれど、今回は鑑賞することに決定。
ROCKHURRAHも快く付き合ってくれたよ!
結局チケットを購入するまで35分経過。
入場できるまでに2時間半待った2016年の「若冲展」に比べればカワイイものか?(笑)
あれだけ多くの人がチケット購入に並んでいたので、会場は押し合い圧し合いの大混雑だろうな、と覚悟する。
ところが、会場の内部はそこまで混雑していなかったんだよね。
これは嬉しい誤算だけど、あの人達は一体どこに行ったんだろうか。
展覧会の感想を書く前に、まずは簡単なレアンドロ・エルリッヒのプロフィールを紹介しよう。
1973年アルゼンチンのブエノスアイレス生まれで、現在45歳。
公用語はスペイン語だね。
南米のアート・シーンには驚かされることが多いので、今回も期待が高まるね。
1998年から1999年までテキサス州ヒューストンのアーティスト・イン・レジデンス・プログラムであるコア・プログラムに参加。
その後ニューヨークに移りニューヨークの商業ギャラリーで初めての展覧会を開催。
2000年にホイットニー・ビエンナーレに参加。
2001年には第49回ヴェネチア・ビエンナーレにアルゼンチン代表として参加。
それからも世界各国で2年に一度開催される美術展覧会である、ビエンナーレにはコンスタントに参加しているようだね。
20年以上に渡って世界的に活躍しているアーティストだけど、作品観たことあるかな?
2014年の「驚くべきリアル展鑑賞」は東京都現代美術館で開催されたスペインや中南米のアーティストの展覧会だったね。
今回のレアンドロ・エルリッヒ展の副題「見ることのリアル」と非常に似ているタイトルだけど、エルリッヒの作品も展示されていたのかな?
あまり記憶に残っていないんだよね。(笑)
エルリッヒの最も有名な作品は、金沢21世紀美術館にある「スイミング・プール」だって。
それはテレビで観たことある!(笑)
作品が大型のインスタレーションが多いためか、なかなか現物を鑑賞するのは難しいのかも?
今回はどんな展示になっているのかな?
作品は全て撮影オッケー!
森美術館のHPに記載されている「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」の記載を忘れず、早速感想を書いてみようか。
「足元が暗いのでお気を付けください」と注意書きがされた会場は、本当にかなりの暗さだった。
中央には波止場(?)のような空間が広がり、何艘もの船が浮かんでいる。
浮かんでる?
暗さに目が慣れてきて、じっくり船を観察する。
これはどうやら水面に写った船影の部分まで作り込んでいる作品なんだね。
まるで水面を漂っている船のように見える錯覚を起こさせている。
撮影を続けるSNAKEPIPEに、
「真っ暗で何も映らない」
と嘆くROCKHURRAH。
何か設定がおかしいのか、せっかく撮影オッケーなのに残念なことになっている。
もう少し明るいところで設定を確認してみよう。
レアンドロ・エルリッヒの作品はトリックアートなんだね!
次の作品からは「どんなトリックが仕掛けられているか」心して鑑賞することに決める。
10枚程度のアクリル板を重ねて、雲の形を国に見せる作品。
一枚一枚のアクリルはどんな状態だったんだろう?
重ねて正面から見ると立体的な雲に見えるから、あら不思議!(笑)
やっぱりこれもトリックアートなんだよね。
日本人には一番馴染みがある日本の雲を載せてみたけど、国は他にフランスやイギリスもあったよ。
ネットで検索すると、室内にぽっかり浮かんだ雲、という作品を発見した。
画像だけなので詳しくは分からないけど、同じ仕掛けなんだろうか。
アクリル板が見えないと、奇妙な印象が強くなるよね。
この雲に動きが出たら、もっと楽しいかも?
技術的には不可能ではない気がするよ。
ここでROCKHURRAHは設定ミスに気付いたようだ。
なんと「自撮りモード」にしてたらしい!
それでは作品を撮影できるはずないよね。(笑)
SNAKEPIPEが一番最初に海外旅行に行ったのは、かなり昔のことだ。
場所はニューヨーク!
長年来の友人Mと一緒に行き、ニューヨーカー気分を味わえるように、コンドミニアムを選択したのだった。
キッチンがついていたけれど、実際には食材を買って調理することはできなかった。
オーブンとか使い方が分からなかったからね。(笑)
寒い時期に旅したので散歩や買い物に出る以外は、窓辺に座って町並みを見ていることが多かった。
そこで気付いたのは、海外の人ってカーテンやブラインドを閉めないってこと。
室内が丸見えなのに、無頓着なんだよね。
エルリッヒの「眺め」という作品は、丁度そのニューヨークで見た景色とダブって見え感慨深かった。
あの時感じた疎外感や世界的に有名な都会で暮らす人々への羨望、どんな暮らしぶりなのか知りたい欲望などが蘇ってくる。
ニューヨークでは考えもしなかったけど、こちらから見えるってことは、あっちからも見えてるんだよね。(笑)
作品には、あっちから覗く人はいなかったのかな?
「見る/見られる」を考えさせられる作品だったね。
この作品は、どうしても他のお客さんが映り込んでしまうため森美術館のHPからの画像を載せさせて頂くことにした。
SNAKEPIPEは撮影しなかったからね。
手前の教室にはリアルな存在が、そして奥にはまるで亡霊になったような薄い自分を発見する。
たまに電車やビルのガラスに、薄ぼんやりとした人影を見つけてギョッとすることがあるけれど、似た感覚だよね。
行ったことないけど、もしかしたら「おばけ屋敷」にも同じようなアトラクションありそうな気がするよ。
この作品も上述の「教室」と同じ理由で、SNAKEPIPEは撮影しなかった。
あり得ない場所に複数の自分を見る。
例えば左の画像では右側と左前方に同じ男性が見えるよね。
簡単な鏡のトリックなんだけど、驚きと共にゾッとする感覚がある。
鏡を使ったアート作品で思い出すのは、2017年正月に鑑賞した柳幸典の「ワンダリング・ポジション展鑑賞」での「Icarus Cell」だね。
同じように鏡の角度を変化させることにより、自分の姿を確認できなかったり、思わぬ場所に自分が映っていた。
「Icarus Cell」は薄暗い照明の中が迷路になっていたので、より一層不安な気分になったっけ。
「異次元に迷い込んだよう」と表現していたSNAKEPIPEだよ。
柳幸典の「Icarus Cell」の迷路に似ていたのが、「試着室」だったよ。
いくつもの同じ仕様の試着室が並ぶ中を、自由に行き来することができる。
どれが鏡で、どこまでが空間なのか判断が怪しくなってくる。
手をかざして空間の広がりがあるのかどうか、目の前に自分の姿が映っているのかを確認しないと前に進むことができない。
ここから本当に抜け出せるのか?と不安になってしまうのである。
最終的には出口にたどり着けるけれど、方向音痴のSNAKEPIPEにとっては恐怖体験だったよ。(笑)
ブラックユーモアの作品もあるんだよね。
これは根っこが生えた実物大の家をクレーンで吊った作品の模型ということになるのかな。
実物の作品はさすがにここにはなくて写真展示のみだったので、模型を撮影したよ。
「家シリーズ」は他にも「溶ける家」や「ファニチャーリフト」という空に向かう長い階段がある家など「んなバカな!」と笑ってしまうような作品があった。
鏡を利用して覗いている人が映る仕掛けの建造物も面白かったね。
実際に体験しないと、写真や模型では面白さは半減だろうな。
以前より、現代アートに言葉は要らないと思っているSNAKEPIPEなので、観て解る作品は大賛成だね。
この作品の実物大を観てみたいよね。
今回の展覧会で一番人気だった作品「建物」の模型ね。
レアンドロ・エルリッヒ展のポスターになっている作品は、仕掛けを知らないで見ると重力に逆らっている瞬間を撮影したものかと勘違いしてしまう。
SNAKEPIPEはポスターだけでは意味が分からなかった。
その全貌を知ることができるのは、床と斜めに掲げられた鏡を見てから!
寝転んでいる人を鏡に写すと、まるで窓に張り付いているように見えてしまう。
この視覚効果が展覧会入場者数を増やした原因で、自分が寝転び作品の中に入り込んだ写真を撮り、SNSにアップするのが目的だったみたいで。
これは森美術館の作戦勝ちかな。(笑)
それにしても、肖像権がどうのとうるさいことを言う人が多い昨今なのに、こういう時に他人の写真に映り込むのはオッケーなんだ?と少し冷めて見ていたSNAKEPIPEだよ。
「覗き」や「鏡」というと連想するのは江戸川乱歩!
延々と連なる鏡の中の鏡の世界は正に無限の鏡地獄。
覗く、という行為からは「押絵と旅する男」を思い出す。
双眼鏡で覗き見るシーンがあるからね。(笑)
SNAKEPIPEが独自のエルリッヒと乱歩の共通項などを喋りながら美術館を出ると、外は吹雪になっていた!
横殴りの雪が体にまとわりつく。
東京タワーの先端が霞んで見えなくなっているのが印象的だった。
こんな悪天候の日だったけど、鑑賞して良かったね。
南米のアートは、期待通り面白かったよ!(笑)
森美術館キュレーターが「レアンドロ・エルリッヒの現代アートとトリックアートの違い」について語っているインタビュー記事を読んだ。
「仕掛けを全部見せるかどうか」
が決めてで、その違いによりエルリッヒの作品は現代アートなんだって。
SNAKEPIPEはトリックアートを集めた美術館に行ったことがないので、どこまで仕掛けが見えているのかどうかを知らない。
そのためそのキュレーターの言葉がいまいちピンとこないんだけどね?
エッシャーやアルチンボルドのだまし絵はアートで、トリックアート美術館は不思議体験ができるアトラクションとして扱われているのかな。
その違いについてはよく分からないなあ。
自分が作品に入り込み、それを撮影することができる参加型・体験型の展覧会だったエルリッヒ展。
SNAKEPIPEやROCKHURRAHは、自分が写った写真をアップすることに興味がないし、今回のブログにもその手の写真は載せていない。
そもそも撮ってないからね。(笑)
自分が写りこんだ写真を撮ることに熱心な人がいかに多いことか。
これは世界的に同じ傾向なんだろうね。
自己愛の強さなのかな?
大勢の人がアートに関心を寄せて鑑賞するのは良いことだと思う。
ただ、鑑賞にはルールがあることを知らない人も多かったように感じた。
模型を触ろうとする何人もの人が、係員に注意されていたのを目撃したからね。
寝転び撮影する「建物」では「譲り合ってください」と何度もアナウンスが聞こえてきた。
自分が納得する写真を撮ることに夢中になり、他の人が順番を待っていることにはお構いなしなんだろうね。
最低限のルールやマナーを守れない人は、本来は入場してはいけないように思うけど、どうだろうか。
2時間半並んだ「若冲展」について書いたブログの最後に載せていた文章がこれ。
「展覧会は早めに行くこと!」
ああっ、この教訓胸に刻むべし!(笑)