【「Riding Death in My Sleep」2002年の作品】
SNAKEPIPE WROTE:
今回のSNAKEPIPE MUSEUMはアフリカのケニア出身のアーティストをご紹介してみよう。
アフリカ系といえば「SNAKEPIPE MUSEUM #19 Kendell Geers」で特集したのが南アフリカのケンデル・ギアーズがいたっけ。
恐らく日本で開催される現代アート展では、アフリカ大陸からの作品を目にすることは少ないと思う。
そして自分の好みのアーティストに出会える確率も非常に小さいよね。
Wangechi Mutuの作品に出会った瞬間、ハッとした。
色使いも構図もモチーフも、とても新鮮に感じたのである。
調べてから初めて、ケニア出身の女性だと解り驚いた。
ワンゲチ・ムトゥは1972年ケニアのナイロビ生まれ。
現在はニューヨークのブルックリンに住んでいるという。
どうしてもケニアと聞くと、広大なサバンナと野生動物を思い浮かべてしまうけれど、ナイロビのロレト修道院で教育を受けた後にはウェールズのユナイテッド・ワールド・カレッジで学んだというから、10代でイギリスに渡ってるのね。
1990年代にはニューヨークに移り、エール大学を卒業したのが2000年とのこと。
ずっと社会研究やアートと科学について勉強していたというから、最初に書いた「広大なサバンナ」のイメージとは大きく異なっているようだね。
作品もアメリカ、イギリス、ドイツ、モスクワなど、世界各国で展示されているようで、どうやら2006年には森美術館で「アフリカ・リミックス展」として開催された展覧会にも参加していたことを今更ながら知ったSNAKEPIPE。
さすが、森美術館は早いね!(笑)
ワンゲチ・ムトゥがどんな女性なのか気になって画像検索してみたら、あらまびっくり!
ファッショナブルで知的な美女だったの!
ダイアナ・ロス(左)に似てると思ったんだけど。
右がワンゲチ・ムトゥなのね。
どお?似てない?(笑)
ワンゲチ・ムトゥの作品は、ネット上で見ていると判り辛いんだけど、描いている部分に写真を組み合わせたコラージュがほとんどなんだよね。
SNAKEPIPEも現物を見ていないのでハッキリ言い切れないんだけど、拡大して見ると明らかに写真が使われているのが判る。
左は「Family Tree」(2012年)というコラージュ作品。
例えば手だったり、目の部分に写真が使用されているよね。
「SNAKEPIPE MUSEUM #22 Hannah Höch」で特集したダダの女流アーティストであるハンナ・ヘッヒもフォト・モンタージュで素晴らしい作品を完成させていたよね!
フォト・モンタージュをマネして作ってみようと
思った場合、今だったらフォトショップなどを使用して、
レイヤーを部分的に消したり、重ねたりすれば
なんとなくそれらしいものは作れるだろう。
表面的な技法を取り入れることは可能なんだけれど、
ハンナ・ヘッヒが作っていたような作品とは
まるで違うものになってしまうのがオチだ。
とSNAKEPIPEは書いている。
その時代の空気感を纏い、情熱の持ち方が作品に反映され、重要なエッセンスになっていたのではないか、とも続けて書いていて、もうあんな作品を作ることなんて不可能だろうと思っていたんだよね。
ところが、ワンゲチ・ムトゥは最近の雑誌から切り抜いた写真を使用して、上のような作品を制作しているというから驚いちゃうよね!
ワンゲチ・ムトゥにはダダの影響もあるのかもね?
ケニア・ナイロビをあえて前面に打ち出しているような作品もある。
「Misguided Little Unforgivable Hierarchies」
(2005年)は直訳すると「小さな許しがたい階層の間違った指導」になるのかな?
訳が難しいんだけど、なんとなく言いたいことは判るよね?
人種問題、性差別問題、奴隷制の問題など、恐らくワンゲチ・ムトゥは差別についての問題を作品に含ませているんだろうね。
モチーフに女性を多様していることからも、自らが女性であり、アフリカ系であるということで訴えたいことがあるんだろうなと予想する。
ただしSNAKEPIPEは、 そういった主義主張について理解したいわけではなくて、作品を観て「好き!」と思った、ということを一番に考えているので、あんまり作品やタイトルについて調べなくても良いのかもしれないなあ。
アフリカっぽさだけじゃなくて、アジアを感じる作品もあるんだよね。
「The Bride Who Married a Camel’s Head」(2009年) は「駱駝頭と結婚した花嫁」と訳して良いのかしら?
花嫁といっても、ちっとも晴々しくなくて、手には何やら血飛沫が上がった物体があるし、花嫁の肌色もどす黒いし、髪の毛は蛇だし。
グロテスクで禍々しい雰囲気が素晴らしい!
背景の空間の使い方が秀逸で惹かれてしまうね。
パッと観た時にはヒンドゥー教の絵なのかと思ってしまったSNAKEPIPE。
他に思い出したのはワヤン・クリッ(Wayang Kulit) の人形かな。
ワヤン・クリッとはインドネシアのジャワ島やバリ島で行われる、人形を用いた伝統的な影絵芝居のこと。
そこで使われている人形に上の作品が似ているように感じたけれど、どうだろう?
ワンゲチ・ムトゥは、コラージュ作品だけではなく、彫刻やビデオ作品も手がけている。
「The End of eating Everything」(2013年)を観ることができるので載せてみようか。
現代アートのビデオ作品には、意味不明のものが多いので敬遠しがちだけど、この作品は時間も長くなくてストーリーもあって判り易かった。
ちなみに出演している女性はワンゲチ・ムトゥ本人ではないみたいよ。
ワンゲチ・ムトゥの特徴であり最大の魅力は異種混同。
それは人間と動物のハイブリッドだったり、機械と人の融合や土着的な題材と現代的な題材のミクスチャーだったり。
大陸や人種、宗教までもミックスされている面白さがある。
だからこそ国や人種の違いを超えて、どこかに懐かしさを感じるのかもしれないね。
観たことがあるような、初めて観るアート。
また森美術館でワンゲチ・ムトゥ展、企画してくれないかしら?(笑)
アフリカ大陸はまだまだ未知なので、これからも探索してみたいよね。
他の国のアーティストももっと調べていきたいな!