SNAKEPIPE MUSEUM #75 Mona Hatoum

20250413 04
【2012〜2013年に制作された《Cellules(セルール)》】

SNAKEPIPE WROTE:

今回の「SNAKEPIPE MUSEUM」はMona Hatoumを特集しよう。
ネット検索で気になる作品を目にしたんだよね!
今まで知らなかったアーティストのはずなので、最初にモナ・ハトゥムの経歴から調べてみようかな!

1952 レバノンのベイルートに生まれる
1970?〜 レバノンにあるレバノン・アメリカン大学(LAU) で2年間グラフィックデザインを専攻した後、広告代理店で働く
1975 ロンドン滞在中にレバノン内戦が勃発し、事実上の亡命状態となる
1975〜1981 ロンドンのバイアム・ショー美術学校とスレード美術学校で学ぶ
1982~ セントラル・セント・マーチンズ大学で非常勤講師として勤務
1984 作品がポンピドゥー・センターのキュレーターの目に留まり、ポンピドゥーの支援を受ける
1989〜1992 カーディフ高等教育機関に勤務しながら作品制作に取り組む
1995 映像作品《コールプス・エトランジェ》でターナー賞にノミネートされる
第46回ヴェネツィア・ビエンナーレに参加
初の個展《Rites of Passage: Art for the End of the Century》をテート・ギャラリーで開催
1996 エルサレムのアナディエル・ギャラリーから招待され、初めてイスラエル・パレスチナ地域を訪問
2012 ジェリー・コリンズと結婚
2016 テート・モダンで35年間の活動を振り返る大規模な回顧展が開催される

モナ・ハトゥムが23歳の頃、レバノン内戦のためにロンドンに亡命したんだね。
講師として生計を立てながら作品制作していたと聞くと、親近感が湧くよ。(笑)
ポンピドゥー・センターのキュレーターに見出され支援を受けるなんて、シンデレラ・ストーリーだよね!
モナ・ハトゥムは、政治的な背景を持ったアーティストなので、メッセージ性の強い作品が多いだろうな、という勝手な予想をするSNAKEPIPE。
作品を1点1点掘り下げていったら、観念的な解釈があるに違いないけれど、SNAKEPIPE独自の感想をまとめたいと思う。
だって現代アートだもの。(笑)

最初に惹きつけられたのは、この作品。
インダストリアルな建造物、光と影にグッとくるSNAKEPIPE。
こんな写真を撮りたくて、工業地帯を歩き回ったものよ。(遠い目)
モナ・ハトゥムが1992年に制作した「Light Sentence(軽い刑罰)」で、素材はワイヤーメッシュ製ロッカー、ゆっくりと動く電動電球だって。
光が動く仕掛けなんだね?
どんなふうに影が変化するのか観てみたいなあ!
198 × 185 × 490 cmというから、大型のインスタレーションだね。
ポンピドゥー・センター所蔵とのこと。
これはもうパリに行くしかないか。(笑)
他の作品も気になってくるよ。

この作品も非常にシンプル!
長いヒモが等間隔に直立してますがな。
画像では判り辛いけど、ヒモではなくて有刺鉄線だって!
3m四方の立方体になるように、有刺鉄線が吊るされている2009年の作品で、タイトルは「Impenetrable(侵入不可能)」。
実際に作品を眼の前にしたら、痛そうなトゲトゲが迫力満点なんだろうな。
画像では美しく見えてしまうから不思議。
ニュース映像やネット上での画像と、現実は違うよといった、モナ・ハトゥムのメッセージかも。
深読みし過ぎか?(笑)
鑑賞したい時には、ニューヨークのグッゲンハイム美術館に行ってみよう!

鉄製の屏風?
これは巨大化させたチーズおろし器だって。
2002年の「Grater Divide(おろし金の分割)」も、恐らく近寄ると凶器になる作品なんだろうね。
SNAKEPIPEが想像しやすいとしたら、「大根おろし」が1.8mになったような感じ?(笑)
通常なら美味しい食事のために使用される器具を、不気味に思わせるとは。
聖母マリアをかたどった拷問器具「鉄の処女」を連想したSNAKEPIPEだよ!

規則的にモノが並んでいるシンメトリーに惹かれるSNAKEPIPE。
これはキッチリした真面目な性格のせいかもしれないね。(笑)
2019年の「Remains to be Seen(まだ見られていない)」も、前に紹介した「侵入不可能」のように、吊るされている作品だよ。
5mほどの高さから等間隔にコンクリートの塊が並ぶ。
この中に入って写真を撮っている人の画像もあって、羨ましい。
このインスタレーションも欲しいよ!
SNAKEPIPE MUSEUMに所蔵したいね。

モノクロームから一転、赤い作品を紹介しよう。
2008年の「Undercurrent (red)(底流(赤))」は、赤い電気コードが血管のようで生命力を感じる。
2019年7月に国立新美術館で開催された「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」で鑑賞した「黄昏(2015年)」は、展示室が暗かったせいもあり死を強く感じさせる作品だったことを思い出す。
2つの作品を対比させたら、完全に生と死になりそうじゃない?
モナ・ハトゥムの「底流(赤)」にある赤い布(カーペット?)はなんだろう。
この作品は2021年に広島市現代美術館で開催された「モナ・ハトゥム展」で展示されたみたい。
広島まで行って鑑賞するべきだったね!

最後はこちら。
地球の大陸を繊細な赤いネオンで描き出した、2006年の作品「Hot Spot(ホット・スポット)」。
燃えるような真っ赤な地球というだけで圧倒されてしまうよね。
「ホット・スポット」という言葉には様々な意味があるようだけど、モナ・ハトゥムが意図しているのは「政治的、軍事的、内政的に不安定な地域で、通常は危険とみなされる紛争地域」のことなのかな。
全世界が危険だよ、という警告なのかもしれない。
アーティスト本人が作品解説をしている動画があったので、載せてみよう。

2016年にフィンランドで開催された展覧会用のビデオらしいので、モナ・ハトゥムは英語で話し、字幕はフィンランド語なので、詳細は不明だよ。(笑)
作品の大きさやネオンの動きなどが分かるだけでも嬉しい。

モナ・ハトゥムは2017年に第10回ヒロシマ賞、2019年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞し、日本にも馴染みがあるアーティストのようだね。
SNAKEPIPEはモナ・ハトゥムを知らなかったので、今回特集してみたよ!
国際的に有名なアーティストなので、所蔵作品は世界に散らばっている。
いつの日か、日本で大回顧展が開催されることを望むよ。
一同に会した代表作を観てみたいね!(笑)

SNAKEPIPE MUSEUM #74 Stuart Pearson Wright

20250105 05
【Halfboy and Halfsisterは2018年の作品】

SNAKEPIPE WROTE:

2025年最初のブログだね!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
元旦にROCKHURRAHが書いた記事にもあったように、SNAKEPIPEは病み上がりなんだよね。
言葉通りの寝正月になってしまい、計画していたことができなかったのが残念。
ほとんどが大掃除に関することなので、これから気長が進めていこう。
年末だけが掃除のチャンスじゃないしね?(笑)

まだ正月だけど、ROCKHURRAH RECORDSでは普段同様の記事を書いていくよ。
今回は「SNAKEPIPE MUSEUM」として、Stuart Pearson Wrightを紹介したい。
読み方はスチュアート・ピアソン・ライトで良いのかな。
作品の前に経歴を調べてみよう。

1975 イングランド中東部のノーサンプトンに生まれる
1999 ロンドン大学 スレード美術学校 美術学士 (優等学位)
2003 ロイヤル・ドローイング・スクール「ドローイング・イヤー」
2014 妻と2人の子供と共にイングランド東部サフォークの田舎にある城に移住

情報が少ないので、わかっているのはこれくらい。
本人のサイトには「2004年王立芸術協会の依頼で制作したエディンバラ公爵の肖像画」についても記載されていて、上半身裸の王子に青いハエが描かれていたため、受取を拒否されたという。
個展の開催や数々の賞を受賞していて華々しい経歴だけど、上に書いたようなパンク要素を併せ持ったアーティストだと分かるね。
どんな作品なのか、早速観ていこう!

ピアソン・ライトの作品で一番最初に目に留まったのがこの作品。
「Middlesbrough」は1998年に制作された油絵なんだよね。
「Middlesbrough(ミドルズブラ)」 は、イングランド北東部に位置する都市の名前だという。
2人の子供を抱き、ベンチに座る母親。
目には光がなく、絶望や悲嘆といった単語がよく似合うよ。
子供に目をやると、なんとも不気味な顔立ちにゾッとする。
おじいさんみたいな顔をした膝に乗っている子供も、泣き出しそうな左の女の子も、通行人から頭を撫でられたりお世辞を言われることがないほどの醜悪さ。
これを描いたピアソン・ライトは23歳?
まだロンドン大学在学中だったんだね。

「The Ventriloquist(腹話術師)」は2001年の作品。
自分とそっくりの人形と対峙するのってどんな気分だろうね?
腹話術師というのは、紀元前にまで遡る歴史があるんだとか。
日本で有名なのは「いっこく堂」かな。
全く唇を動かさず、人形のセリフを吹き替える芸に驚いたことがあるよ。
ピアソン・ライトの腹話術師はどうだろう。
まず見た目のインパクトが強いので、座っているだけで面白い。
どんな掛け合いが行われるのか、観てみたいよね。(笑)

「Gallus gallus with Still Life and Presidents」は、ピアソン・ライトが2001年にBPポートレート賞で1位を受賞した作品だという。
「Gallus gallus」とはニワトリを表すラテン語で、弱さや臆病さ、あるいは田舎的で素朴なシンボルだという。
テーブルの真ん中に死んだニワトリがいるのが分かるね。
「Still Life(静物画)」と「Presidents(大統領たち)」を組み合わせることで、風刺やブラックジョーク的な意味合いがあるみたいだよ。
そうした意味を知った上で大統領たちの顔を確認すると、どこかしょぼくれて見えてくる。
ピアソン・ライトは、ちょっとヒネった表現が得意みたいだね。

「The Tragedy of Maurice and Tabitha」(モーリスとタビサの悲劇)は、2000年の作品。
背景には、まるでユトリロのような白い建造物が描かれ、薄曇りの空も美しい。
手前にいる人物に目をやると、なんだか様子がおかしいよね。
バラバラに切断されたタビサ(?)の頭部を愛おしそうに抱きかかえるモーリス。
マネキン人形みたいに、体のパーツを組み立てられるようなので、人間ではないのかも。
モーリスの様子をじっと見つめている、左の男性も意味不明。
ピアソン・ライトには「なんか変」と思わせる作品が多くて、とても好みだよ!

ピアソン・ライトは自画像をよく手掛けていて、左は「I’ll never stop lovin’ you」という2010年の作品なんだよね。
西部開拓時代をテーマにしているようで、カウボーイ姿になっている。
隣の女性は「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラみたいだし。(笑)
他にも中世の騎士に扮した自画像や動画もあったよ。
先日のキリコ展で、キリコも様々なコスプレで自画像を描いていたっけ。
自画像を描く人っていうのは、やっぱり自己愛が強い人なのかなあ?
それにしてもピアソン・ライトの画筆の素晴らしさ、伝わるよね。

「Wanderer」は2014年の作品。
意味を調べてみると「放浪者、さすらい人」といった旅人みたいな訳になったよ。
SNAKEPIPEには、ホラー映画のワンシーンに見えてしまったんだけどね。(笑)
湖で作業を行って帰るところ、月明かりにふと目をやった犯人と想像したよ。
手には何も持っていないから、すべて湖に投げ捨て、証拠隠滅を図ったに違いない。
静寂に包まれた絵画なのに、不穏な空気を感じることができて素晴らしいよ。
何気ない一枚なのに、物語が浮かぶのは楽しいからね!
スペインのアーティストであるエンリケ・マルティを彷彿させるよ。
これからもピアソン・ライトに注目していこう!

SNAKEPIPE MUSEUM #73 Germaine Luise Krull

20241201 top
【エリ・ロタールが撮影したジェルメーヌ・クルルの肖像】

SNAKEPIPE WROTE:

今日から12月。
2024年も残すところ1ヶ月になったね。
月日の流れが速いなあ!(笑)

2024年6月のブログ「SNAKEPIPE MUSEUM #70 Eli Lotar」で特集した写真家エリ・ロタールは、女流写真家 Germaine Luise Krull (ジェルメーヌ・クルル)の助手だったんだよね。
今回は師匠であるジェルメーヌ・クルルについて書いてみたい。
まずは経歴を調べてみようか。

1897 ドイツ領ポーゼン(現在はポーランドのポズナン)に生まれる
1915-1917 ドイツ・ミュンヘンにある写真学校「Lehr- und Versuchsanstalt für Photographie」で学ぶ
1918 ミュンヘンで写真スタジオを開設し、著名人と親交を深める
1921 政治活動に従事し、逮捕され投獄される
1925 オランダの映画監督で共産主義者のヨリス・イヴェンスと結婚しオランダ国籍を取得
1928 写真集『Métal』を発表
1946-1966 タイのバンコクにあるオリエンタルホテルの共同経営者となる
1968 写真集『Tibetans in India』を発表する
1985 ドイツのヴェツラーで亡くなる

裕福な環境に生まれ、家族でヨーロッパ各地を巡っていたという。
父親から少年の服を着せられたことがあり、その経験が「女性の役割」に対して影響を及ぼしたのではないかと考えられているらしい。
この文章についての意味は後に明らかになるであろう。(預言者風)
ヨーロッパやアジアを股にかけて作品を発表していた女流写真家、ジェルメーヌ・クルルの作品を観ていこう!

デ・キリコ展」のブログでも書いていたけれど、2024年の当ブログに何回も登場したジャン・コクトー!
クルルは、コクトーの肖像写真を何枚も残しているんだよね。
載せた作品は、恐らく1930年頃に撮影されたみたい。
クルルはアンドレ・ケルテスやマン・レイと並び、優れた写真家として認められていたというから、著名人の撮影も多かったんだろうね。(笑)
何度も書いていることだけど、1920年代のパリを中心としたヨーロッパは憧れの時代。
政治活動も行っていたというクルルなので、かなりラディカルな一面を持った女性だったんだろうね。

観ているだけでワクワクする、SNAKEPIPEが大好物のモチーフ!(笑)
1928年に発表された写真集「メタル」は、エッフェル塔のような近代的な構造物や機械美をテーマにした、とても男性的な作品群なんだよね。
ここで「少年の服を着せられ」た話に戻るわけ。
1920年代に20代の女性が、夢中になってシャッターを切っていたとは信じられないよ。
これは余程のインダストリアル好きに違いない!
鋼鉄の鈍い輝き、直線や曲線のフォルム、影の形に魅力を感じていただろうことがよく解るよ。
クルルの写真集が1930年代に日本でも紹介されていたことに驚いたし、感銘を受けた堀野正雄の写真も気になるよ。

1910年代から活躍しているパリのイラストレーターであるポル・ラブの肖像写真を中央に配置したフォト・コラージュは、1930年の作品だという。
手と影だけなのに、印象的だよね!
ワンピースのニコ・ロビンを思い出してしまったのはSNAKEPIPEだけ?(笑)
クルルより先輩で、ラウル・ハウスマンと共にフォト・コラージュ(フォト・モンタージュ)を始めたハンナ・ヘッヒも、同時代に活躍していたはず。
女流アーティスト同士、交流はなかったのかな?
載せた作品に話を戻すと、モデルになっているポル・ラブは、この作品の3年後に早世してしまったとのこと。
宇野亞喜良の元祖みたいな作品や、1920年代のキャバレー風のイラストが残っていて興味深いよ。
まだまだ知らないアーティストがいっぱいいるね。

20世紀初頭に活躍した、フランスの伝説的なファッションデザイナーであるポール・ポワレ。
載せた作品は、1926年にクルルがポール・ポワレに作成したアイデアとのこと。
多重露光を使用して、アップの女性とドレスを着た3人(?)の女性を重ねている。
アップの顔にシワがより、美しさを際立たせるというよりは、ギョッとしてしまうよね。(笑)
この作品がポール・ポワレに採用されたかどうかは確認できなかったよ。
クルルは商業写真でも活躍していたんだね。

1928年の写真集「メタル」は、今鑑賞してもカッコ良さが伝わるよね!
SNAKEPIPEが目指していた方向性はまさに、これ。
こんな先人がいたことを知らなかったのは幸せだったのかもしれない。
もしクルルを知っていたら、あそこまで自分の世界に熱中できなかったはずだから。

経歴に書いていない部分を補足しておこう。
クルルはタイのホテル経営を終えてから、北インドに移住し、チベット仏教のサキャ派に改宗したんだとか。
サキャ派とは、チベット仏教4大宗派の一つ、と説明があったよ。
そして最後の写真集でダライ・ラマの肖像を撮影しているという。
写真学校を卒業してから50年以上、写真に携わってきたクルルの作品をもっと鑑賞してみたい。
「メタル」は復刻版が販売されていたようだけど、現在はソールド・アウト。
どちらにしてもお値段10万円超えだったようなので、まずは貯金から始めるか。(笑)

SNAKEPIPE MUSEUM #72 Marissa Anca Sira

20241006 10
【キャンパスとして使用されている頭蓋骨】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のSNAKEPIPE MUSEUMは、アメリカの女流アーティストを特集してみよう。
長年に渡り、多種多様なアート作品を鑑賞してきたSNAKEPIPEだけど、この素材は初めてかも?
アーティストの名前はMarissa Anca Sira、読み方はマリッサ・アンカ・シラで良いのかな。
まずはマリッサの経歴を調べてみようか。

1982 ニューヨーク市立芸術デザイン高校卒業
1986 ニューヨーク市立美術学校 美術学士
2016 デスタギャラリーにて個展を開催

全米で2名しか選出されない美術奨学生に選出され、ニューヨーク市立美術学校で学んだというから素晴らしい才能の持ち主なんだね。
年表には書いていないけれど、美術界の巨匠マックス・ギンズバーグとアーウィン・グリーンバーグの弟子だったことも経歴に入っている。
SNAKEPIPEが最も驚いたのは、メトロポリタン美術館の模写画家として5年間勤務していたこと!
ニューヨークにある、あのメトロポリタン美術館だからね。
模写画家としての役割がはっきり分からないけど、特別な職業であることは間違いないよね。

マリッサは、「アーティスト / 鍼灸師 /錬金術師」と自身のサイトに自己紹介している。
アーティストは分かるけど、鍼灸師の資格も持ってるのかなあ。
錬金術師って名乗る人には初めてお目にかかったかも。(笑)
SNAKEPIPEは、錬金術と聞いて真っ先に連想するのがアレハンドロ・ホドロフスキー監督の「ホーリー・マウンテン(原題:The Holy Mountain 1973年)」だよ!
マリッサは、カバラ、エジプトの秘教的な文献、薔薇十字団の神秘、ヘルメス主義の文献、神智学の書物、ルドルフ・シュタイナーの人智学などの研究に没頭してオカルト科学の論理を吸収したんだとか。
研究の結果、頭蓋骨は生と死の境界を超えた無意識の使者であり、直感と想像力の領域を象徴するものとして考えるようになったという。
それが頭蓋骨を作品に使用する理由なんだって。
マリッサの作品を観ていこうか。

載せたのはバイソンの頭蓋骨にアクリル絵の具とリキッド・インクで図柄が描かれた「Binah」という作品。
本物の骨を素材として使用していると聞くと、おどろおどろしい感じがしそうだよね?
頭蓋骨を加工する物といえば髑髏杯を思い浮かべるよ。
髑髏杯について調べてみると「敵の頭骨を使って盃にした」のように血塗られた復讐話が多い。
メキシコの「死者の日」でも装飾を施した頭蓋骨(を模した砂糖菓子らしい)が飾られるよね。
死者を偲び、思い出を語り合い、生きている喜びを分かち合うお祭りなので、マリッサの作品はメキシコに近い印象かな?
美しく彩色されたマリッサの作品は、2016年に展覧会を開催した時に、全作品が完売したという逸話が載っていたよ。
この作品を飾るのには、どんな部屋が似合うだろうね。

マリッサの作品にはキャプションが付いていないため、一体何の動物の骨なのか分からないんだよね。
高校生だったSNAKEPIPEが、美術の授業で骨のデッサンした遠い記憶が蘇ってきたよ!
あれは確か牛の頭骨だったはず。
何も不思議に思わず描き、水彩絵具で仕上げたっけ。
本物の骨だったのか、模造品だったのか覚えてないなあ。
マリッサの黒一色だけで描かれている作品は、模様のせいもあるけどトライバル調だよね。
呪術や祭祀などの単語が浮かんでくるよ。

立派な角が目を引く作品。
これも牛の頭蓋骨なのかな。
赤、白、黒の3色が美しいね。
こうした素材はどこから手に入れているのか気になるよ。
写真家のジョエル=ピーター・ウィトキンが、ドキュメンタリー映像の中で、死んだ動物の連絡を受けると引き取って素材にしていたことを思い出したよ。
マリッサも何か「つて」があるのかもしれないね?

一番最初に載せたバイソンとは図柄が違うタイプの作品。
真ん中に円形が描かれていて宇宙を思わせるよ。
マリッサのサイトには「情熱こそが真の不死鳥である」というゲーテの言葉が載っている。
生と死、再生という永遠の循環について探求するマリッサに、強く響く言葉になっているという。
NHK「世界ふれあい街歩き」のワイマール編で、街中にゲーテの言葉があふれている様子を観たことがある。
たくさんの人に影響を与え続けているゲーテの偉大さを改めて認識したよ!
情熱を絶やさないことをSNAKEPIPEも心がけよう。(笑)

骨を素材にしたアートと聞くと、道徳や倫理を持ち出し、眉をひそめる人もいるかもしれない。
アーティスト側にはタブー視する批評を逆手に取り、宣伝に利用する輩がいてもおかしくない世の中。
今回紹介したマリッサ・アンカ・シラは、独自の哲学を基に作品を制作しているようで、大々的に手広く商売としているタイプではないみたい。
2016年の個展以降、目立った活動はしていないのかもしれない。
模写画家、鍼灸師、錬金術師といった経歴を持つ女性が、今は何をしているのか気になるよ。
続報も調べてみよう!