アイ・オー・レッツゴー

【MacとUbuntu、柄物同士の共存】

ROCKHURRAH WROTE:

先日のSNAKEPIPEによる「Win族大移動」事件の後日談というわけじゃないが、パソコンというのはいつ何時壊れるかわかったもんじゃないという事を今更ながら痛感した無防備な二人。
そこで今回はROCKHURRAHも「いい機会だから」と便乗して、新しいハードディスクを増設してみた。
と言うかROCKHURRAHのパソコンはiMacで、内部に新たなハードディスクを搭載するのは無理なんで、外付けのを買ってきてUSBに接続しただけ、終わり・・・。
ん?これじゃ話にならない?もう少し話を増設してみるか。

買ってきたのはアイ・オー・データ製の大人気激安500GBのヤツ。
ウチのブログではおなじみのY電機にてポイント使用したおかげもあるけど、今時は1万しない金額で買えてしまう。SNAKEPIPEの買った内蔵よりも安いよ。すでにテラバイト超える機種が主流になってる(?)のか、メモリもハードディスクも実に安くなったもんだ。
前にバッファローのFirewire接続のを使ってたけど、実はアイ・オー・データのは初めて。何とMacの外付け起動ディスクとしても使える優れものなのにこの安さ。
早速現在のシステムごと完全にバックアップしてみる。

使ったのはMac用バックアップ・ソフトでCarbon Copy Clonerというもの。ハードディスクに付属のソフトは見当たらず、オフィシャル・ページで探してもMac用のそういうソフトがどうしてもダウンロード出来なかったが、逆にこのCarbon Copy Clonerの方が(たぶん)使いやすかった。これでフリーとは素晴らしい。このブログでも称賛してつかわそう。
それから待つ事しばし、バックアップが終わったのでドキドキしながら再起動。
ちなみにMacの場合はOptionボタン押しながら再起動すると起動するシステムが選べる。BootCampでもおなじみ。
うん、ちゃんとめでたく(日本語変か?)内蔵からでも外付けからでも起動出来てる。内蔵ハードディスクから起動出来なかったら恐ろしいけど。
出来ると書いていた機種を買ったのだから出来て当たり前の事だが、昔はブータブル(そこからシステムを起動出来る)の外付けハードディスクはあまりなかったので、こんな事でも感動してしまう。
要するにひとつのディスプレイで2つのMac OSが起動出来るという環境だ。

完全な同期をさせてイザという時のクローン、とも考えたが、それじゃあまり面白くない。新たな外付けの方は今までやらなかったような事に使ってみたいと考えて、やってみたのはいわゆるヴァーチャル・マシンというようなものをMac環境でやってみようという試み。

このヴァーチャル・マシンと呼ばれるような技術はMacでもおなじみ、Boot CampとかParallels DesktopとかCrossOverとかVM Ware Fusionとか、さまざまな選択肢が現在ではある。どうでもいいが全体的に名前どうにかならないかね?。
ROCKHURRAHはこういう技術には疎いんだがやりたい事だけは明確で、要するにMacの中でウィンドウズやLinuxといった他のOS(で動くソフト)を動かしてみようというもの。
実は昔むかし、そういう事に興味あった時期にはまだ実用化にはほど遠い環境しかなくてがっかりしていた技術だが、今はもう完全に実用化されていて、ハードディスクの空き容量もメモリーもそこそこあるからという事で今回実験してみたのだ。

Parallels Desktopが最も評判良いようだが、ROCKHURRAHが試してみたのはこの中で最も金がかからなさそうな3つ(笑)。

まずはCrossOver Macなるもの(の体験版)。
これはMacの中にウィンドウズをインストールするのではなくて、ウィンドウズ用のアプリケーションをそのままMacで使おうという技術で、詳しくは・・・わからん。
ただウィンドウズOSが不要という手軽さへの興味から試してみたが、使えるアプリケーションがまだまだ少ないなという印象。ものによっては「予期せぬ理由で終了しました」というのもあり、使えるか使えないかはほとんどバクチ。特にMacではほとんど発達してないジャンルのフリーソフトとか。ROCKHURRAHがどうしても使いたかった某ウィンドウズ専用のフリーソフトは運良く完璧に使えたが、うーん、それだけのために買うかどうかは微妙なところ。博打好きな方はどーぞ。

次も似たようなものだがMikuInstallerなるもの。これはいかにも個人っぽいアプリケーションなので(?)上記のCross Overよりもさらに冒険なんだが、タダで使えるのでチャレンジしてみた。これまた何だかよくわからない代物だが、Macの中でウィンドウズの実行環境が得られるというWineというものを簡単に組み込む事が出来るらしい。何じゃそりゃ?と思ってる初心者でもたぶん全然大丈夫。理由はわからなくてもちゃんと仕事はしてくれる。Mac OSのインストールDVDに付属するデベロッパ・ツールとかX11とか、他にもインストールしなければならないもの(初期状態ではインストールされてない)があるが、それさえ事前に済ませておけばこのWineを組み込む事は(たぶん)簡単。
X11はフォトショップに匹敵するフリーソフト、GIMPとかを使うのにも必要なものだから興味ある人は事前にインストールしておくと良い。
このMikuInstaller、画面はしょぼいが結果としてCross Overとほぼ同じ。
出来ないアプリケーションはやっぱりインストール出来ないところまで一緒だけど、ROCKHURRAH環境ではやはり使いたいアプリケーションが一応使えた。運試しがしたい方はどーぞ。

上記のふたつはあくまでMacの中でウィンドウズのソフトをそのまま動かす、という少し強引なものだったが、次にROCKHURRAHが試したのがMacの中にヴァーチャルなウィンドウズ領域を作り、そこでウィンドウズそのものを動かすというもの。使ったのは無料で試せる太っ腹なVirtualboxなるもの。

かつて期間限定版として使った事あるVM Ware Fusionとだいたい同じようなものだが、むしろこっちの方が実用的ですっかり気に入ってしまった。現在はJAVAやMySQLなどでおなじみSun Microsystemsが買収したようだが、ちゃんと日本語だしわかりやすい。
これで無料とは素晴らしい出来。ウィンドウズOSは必要だがMacでウィンドウズや他のOSを動かしてみたい人にはオススメ出来るものだ。

Virtualbox本体のMac版をインストールし、新規ゲストOSをインストールする設定が出来たらもうOK。新しいパソコンにウィンドウズをインストールするのと同じ要領でいとも簡単にヴァーチャル・マシンは完成する。ウチの場合はXP持ってなかったのでウィンドウズ2000をインストールしてみる。
つまずいたのは最初にCD/DVDドライブをマウントしてなかったためにインストール画面が出て来なかった事。
・・・まあ説明読みながらやってれば問題なくわかるのでROCKHURRAHが愚かだっただけの事。
変な部分で手間取ったが無事にインストール成功、がしかし、画面は640×480、16色とひどいものでこのままじゃ使い物にならん。

どうやらゲスト・アディションなるものをインストールしないと設定変えられないらしい。そこで必死で公式ページとか探してみてもどこにもそんなもの見当たらない。一体どこにあるのか?気付くと上のメニューにちゃんと項目があるしイメージ・ファイルとしてマウント出来るようにもなってる。あっ、本体に付属してたのか。ファイルをダウンロードしてインストールするものだと思っていた。これまたROCKHURRAHの注意力のなさが原因だな。

このゲスト・アディションをインストールすればちゃんとフルカラーで大画面表示が出来るようになる。さらにMacの中で動いてるウィンドウズとその外側にあるMacの間で自由にマウスカーソルの移動が出来るようになる。この段階でMacのウィンドウズの中にウィンドウズのデスクトップ画面(の中にウィンドウズのアプリケーション)が表示されるという、ひと昔前には考えられない出来事が実現した。使ってるMacとゲストOSのメモリーとかで色々バランスを考えないと動作がもたついたりするが、バランスが良かった場合はかなり快適に動いてくれてなかなか良い状態。現在売られているiMacくらいならば余裕で使えるレベルだ。

この後、怒濤のようにWindowsアップデートを繰り返さないとならないのが時間もかかって難儀だったが、なぜか途中から再起動が出来なくて、妙な縦のスジみたいなもんが入った画面で固まってしまう。バグなのか設定がおかしいのかアップデートのせいなのかわからんけど、この問題は書いてる今もまだ解決してない。
ウィンドウを閉じようとすると「ゲストOSのシャットダウン」みたいな項目が選べるので毎回それで終了しているありさまだ。

まあおかしくなってもメインOSではなくてヴァーチャル・マシンだからそこまで痛手ではない、というところがヴァーチャル・マシンのいいところだな。本気でウィンドウズやりたければウィンドウズ機を買うだろうし、その辺の使い分けは個人の勝手。ROCKHURRAHは極端なMac信者であり、ウィンドウズを入れてやりたかった事はそんなに多くなかったから、無料でこれだけの事が出来たVirtualboxに大変満足している。

ウィンドウズ2000で調子に乗って、今度は巷で評判のLinux系完全フリーのOS、Ubuntuまでインストールしてみた。これはさらに簡単で、Ubuntuのページに最初からVirtualbox用の仮想ハードディスク・イメージがある。Virtualbox起動後、新規でUbuntu用の設定を作る。このハードディスクを設定する際にあらかじめダウンロードした上記のディスク・イメージを選択すればインストールさえいらないという手軽さ。
見た目は渋い和柄のXPという感じだが、かなりクセが強いOSという感じ。
この方面に対する知識がないから使いこなすのはまだまだ先だろうが、最初から多数の無料アプリケーションが入ってるからかなり楽しげな予感がしている。

Virtualbox+Ubuntuの場合は完全に無料で楽しめるから、興味ある人はやってみてくんなまし(死語)。

好き好きアーツ!#05 ツインピークス

【理想の上司像?リンチ扮する耳の遠いゴードン・コール】

SNAKEPIPE WROTE:

かつて熱狂していたのは1990年から1991年のことだった。    
振り返ってみるともうすでに18年の時が過ぎていた、とは驚きである。    
その時に生まれた子供は高校卒業している計算か!    
ぐわっ!考えると恐ろしい!(笑)

今回「好き好きアーツ」として取り上げるのは崇拝する映画監督、デヴィッド・リンチが手がけたTVシリーズ「ツインピークス」である。    
世界中を謎解きに巻き込み、大ブームになった番組である。    
SNAKEPIPEと同じように熱狂した方も多いと思う。    
18年の歳月を経て、もう一度初心に帰って鑑賞するとどうなるのか。    
しっかり記憶している部分もあるけれど、大方は忘れてるしね!    
そして一度も観たことがないROCKHURRAHにも興味を持ってもらいたい、と思ったのである。

最初に「ツインピークス」体験をしたのは、まだそれがTVシリーズになるとの情報が全く入っていない段階での「パイロット版」からだった。    
一体パイロット版を何回観たことだろう?    
何回観ても難解で(笑)その時から謎解きの虜になってしまった。    
後から考えればこの時点での謎の究明は不可能だけれど、なんとも言えない不安で不吉な雰囲気、ラストの25年後の世界(日本版だけ収録されていたらしい)などに魅了された。    
そしてツインピークスがTVシリーズである情報がやっと入ってきたのである。

TVシリーズの第1話から第7話までを観たのは、「日本初公開」として抽選で選ばれた人だけが入場できる渋谷パルコでの企画であった。    
初公開、というだけあって、まだビデオ発売前、当然のことながらWOWWOWでの放映よりも前のことである。    
抽選に当たった時は、まるで宝くじ3億円が当たったのと同じくらい嬉しかった!    
1話から7話ということはおよそ7時間、そしてその間に「リンチ評論家」滝本誠氏と川勝正幸氏のトークイベントも入り、およそ10時間近くを会場で過ごした。    
それでも疲れず、「次は、次は?」と熱狂していたSNAKEPIPE。    
若かったから、か?(笑)
     
7話まで、というのがミソで観た方は記憶にあると思うけれど、クーパー捜査官がドアを開けた瞬間にピストルで撃たれるシーンまで、である。    
会場中から「えーーーっ!」という悲鳴に近い声が発せられた。    
もちろんSNAKEPIPEも叫んでしまった。(笑)    
以前「かもめはかもめ、リンチはリンチ」の時にも書いたけれど、7話以降を観るためにWOWWOWにも加入。    
必死の思いで追いかけたツインピークスである。    
今は第1話から最終の29話までと映画版「ローラ・パーマー最期の7日間」を連続して観られるようになったので、幸せな限りである。(観たことがない方は簡単なあらすじがWikipediaに載っているので、そちらをご参照下さい。)

ドーナツとコーヒーを片手に、改めて鑑賞して一番初めに持った感想は    
「その後のリンチの集大成だな」    
である。    
異界、異形、夢、が多用されているからだ。

ロストハイウェイ」以降、頻発する「ここではない場所」の原型は、遡れば「イレイザーヘッド」にもすでに現れていたけれど、映画の核を成すものではなかった。    
「異界」として重要な役割を持つ出現はツインピークスからだったんだ!    
ホワイトロッジ、ブラックロッジとして表現される空間は仏教的に言い換えれば、金剛界曼荼羅と胎蔵曼荼羅のようなものではないだろうか。    
そう、ツインピークスの中には(広い意味での)東洋思想がちりばめられているのだ。    
チベット、チベット死者の書からの引用、瞑想、ヨガなど。    
盆栽や尺八など、日本的な小道具も使われていたし。    
元々リンチ自身が瞑想を好み、夢のお告げ(?)から映画のヒントを得る監督なので、非常に色濃くリンチ表現主義(とでも言おうか)が反映されているようだ。    
「魂はどこから来て、どこへ行くのか」    
というセリフをウィンダム・アールに言わせ、死に行く間際のリーランドに向かい    
「光を見つけて。光の中へ。光の中へお行きなさい」    
とクーパーが誘導する。    
アメリカのTVドラマでチベット死者の書とは!(笑)    
   
恐らくTVの放送コードというものは、ここ最近では日本でもかなり変わってきていると思うが、世界的に見ると最も厳しく設定しているのはアメリカではないだろうか。    
いくら18年前とはいっても、よくこれでOKが出たものだ、と感心してしまうほどの異形オンパレード!    
パイロット版で度肝を抜かれた「小人ダンス」はもちろんであるが、 巨人、片腕、片目などが登場する。    
異形の人、というのは強いインパクトを持っているので、印象に残るシーンを作るには欠かせないとリンチが考えているのではないだろうか。    
その後のリンチ作品にも異形は数多く登場する。    
そして異形を発見すると「ああ、リンチだ」と安堵してしまうのである。    
それほどまでに異形とリンチはマッチしている。    
そしてツインピークスと同じ年、「羊たちの沈黙」も公開されていることに気付く。    
異形や猟奇、精神病理的な「以前であれば触れてはならない」とされていた領域への開眼年が1991年と言えるのかもしれない。

ツインピークスは大きく分けるならば、第1部はローラ・パーマー事件、第2部はウィンダム・アールとブラックロッジの2部構成になっている。    
ほとんどの人が第1部のローラの事件が(一応の)解決をしたあたりで、トーンダウンして、第2部のウィンダムアールの話のほうは忘れているのではないだろうか。    
かくいうSNAKEPIPEも同様で、途中からは初めて観るお話のような気がしてならなかった。    
覚えがなかったせいもあるのだろうが、第2部もかなり面白かったのである。    
少しオカルトの要素が混ざり、より精神世界に深く入り込んでいく後半は、やっぱりアメリカ人には相容れない内容だったのだろうか。    
恐らくリンチはもっと語りたかったはずである。    
がっ、視聴率低迷のため打ち切られることになってしまったとは誠に残念!    
そのためやや強引なラストになったのかな。    
ま、一応は解決になってるけどね!

そしてTVシリーズ後に制作されたのが「ローラ・パーマー最期の7日間」である。    
これも一応は後付けながら、謎の究明に役立つ物語と言えるだろうけど、実際には観終わった後で首をかしげてしまった。    
より謎が深まったように感じたのはSNAKEPIPEだけだろうか?    
「ここではない場所」ブラックロッジが絡んでくると、一体今がいつのことなのか、誰が生きていて誰が死んでいるのか、などだんだん分からなくなってくる。    
あの赤いカーテンと幾何学模様のジュータンの、なんとも魅惑的な不思議な空間。    
行ってみたいような、怖いような。

18年の時を経ても、全く色あせていない謎だらけのツインピークス。    
一度も観たことのない方はもちろん、体験したことのある方ももう一度鑑賞してみてはいかがでしょう?    
全部を観るのには約33時間かかるけどね!    
お約束は、ドーナツとコーヒー。    
絶対食べたくなるもんね!(笑)

大人社会科見学—産業科学館—


【鉄を溶かすベッセマー転炉の複製。まるで現代アートだよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

9月の三連休はどこかにお出かけしようと計画していたROCKHURRAHとSNAKEPIPE。
いつも行っている例えば古着屋や材料屋では面白くないので、せっかくならば今まで一度も行ったことのない場所にしよう、ということになった。
3日3晩考え続け、出たアイデアが「千葉県立産業科学館」!
面白いかどうかは行ってみてからのお楽しみ。
ワクワク・ドキドキしながらのお出かけである。

予想していたよりも大きく立派な建物だな、が第一の感想。
しかも「県立」だったとは!
入場料を払うより前に「サイエンスドームギャラリー」というブースで「不思議な視覚の世界」が開催されていた。
ここではホログラムやだまし絵、凹凸を利用した錯覚など、様々な視覚の実験作品があり、結構面白い。
えっ、ここまでは無料で入れるの?
さすが、やるね!千葉県!(笑)

少し歩くとチケット販売カウンターがあり、聞いてびっくり入場料は300円!
再入場も可、というなんとも親切な科学館である。
2階からどうぞ、の案内の前にドドーンと巨大な鉄の塊がっ!
どうやら千葉県内で実際に使われていた水力発電の装置らしい。
こんなカッコいい鉄が展示してあるなんて、と期待で胸がいっぱいになるSNAKEPIPE。
そして2階の「現代産業の歴史」のコーナーに向かう。

まずはその入り口のオブジェが素晴らしい!
鉄、ステンレス(?)、ボルトやナットなどを使った現代アートである。
色彩も鮮やかで、ウチに持って帰ってドアにしたい逸品!
どうして美術館じゃなくて産業科学館にあるんだろう?

「現代産業の歴史」は発電所やコンビナート、鉄や石油について詳しく説明されているブースで、SNAKEPIPEがよだれを垂らしそうになるほど大好きなジャンルである。
こんな三連休中にわざわざ産業科学館に出向く人も少なかったらしく、なんと会場にいるのはROCKHURAHとSNAKEPIPEの二人だけ!
係員もいないし、まさにここはパラダイス!(笑)
「ひー、カッコいい!」
「鉄の塊、欲しい!」
などと奇声を発しながら思う存分鑑賞することができたのである。

例えば「ご家庭に電気が届くまで」のような詳しい、本当の意味で勉強になるような説明ももちろん興味深かったけれど、やっぱり目を引くのは完璧な縮尺で複製された鉄を加工するための機械や送電線の断面(実物)など。
断面図にいたってはまるでマンデルブロ集合の図のよう!
これってほとんどアートの領域!
科学と数学と美術の融合ねっ!
先日の「ターナー賞の歩み展」に行った時よりもグッと迫ってくるものがあるのはやっぱりインダストリアル好きだから?(笑)
できればそのままずっとこの空間で過ごしたい、とまで思ったSNAKEPIPEであったが、まだ1階の展示があるのよね。

1階のブースは「先端技術について」と「科学を体験する」コーナー。
科学の体験、とはいっても子供向けの内容なので磁力や圧力を使ってこんなことができますよ、みたいな内容。
印象に残っているのは「無限の部屋」という仕切りを下からくぐって入る三角形の空間。
これはいわゆる乱歩の「鏡地獄」状態で、鏡の中の鏡、と永遠に続く世界。
この鏡のインスタレーションは草間彌生の展覧会でも何度か経験したことがあるけれど、いつでも不思議な感覚にさせられる。
今回はROCKHURRAHと二人だけで体験できたので、
「こんな角度から自分を見たのは初めて!」
「どこまでも続いてて面白ーい!」
などと口々に感想を言いながら楽しんだ。
二人共すっかり子供に戻ったようである。(笑)

300円でこんなにお得感を持つのも珍しい。
二人とも大満足である。
インダストリアル好き、工場系、鋼鉄系が好きな方には是非お勧め!
また社会科見学しようね、と約束したROCKHURRAHとSNAKEPIPEであった。

マルワランド・ドライブ


【今回の話を元にSNAKEPIPEが制作、廃墟遊園地写真】

ROCKHURRAH WROTE:

暑い夏もようやく終わり過ごしやすい季節に、と思った八月後半だったが、やっぱり今年もしぶとく蒸し暑さが残ってるね。

夏生まれのROCKHURRAHだが、暑さには滅法弱く、一番辛い季節が真夏なのだ。
とは言っても単純に暑さだけの問題じゃなく、今までの夏を回想すると何だかひどい事ばかりがすぐに思い出される=夏嫌いという回路になってるのかも知れない。
今回はそういう過去について書いてみよう。
年代は敢えて明らかにしないがちょっと前から昔々のお話。

福岡に住んでいたある夏の事、ROCKHURRAHは「縁日などで屋台を運営する事を生業にしている一家」に連れられて九州の夏祭り巡業ツアーに参加した事がある。
委細面談、即決、高時給という言葉に惹かれ面接場所のドアを開けたとたんに見えてしまったトラの毛皮の敷物。まあ上記のような稼業をしている事務所ではありがちだな・・・と思って初日は福岡の東の方にある神社の夏祭りでデビューした次第。
ここでは最初ビールなど冷やしドリンク担当となった。これは簡単で氷水の中から取り出して売る程度だったからちょろいもんだ。

ところが翌日からの巡業について全く説明がなかったため、また同じ場所でやるのかと勘違いしてとてつもない軽装で気軽に出かけたのが運の尽き。
トラックの助手席から見る風景が違う、などと思っていたらいつの間にか車は高速に入って、着いた先は名も知れぬ山の中のとある村。ここで今夜の村祭りの屋台設営をするのじゃ、という指令とともに初めて今回のツアーの日程が明らかになった。何と福岡から山間部を巡業しながら最終的には大分県の夏祭りまで、約一週間もの間をこの一家と共に過ごすというプランだった。
ちょっと待ってよ、まさか出張とは思ってもいなかったROCKHURRAH。着替えもなく汚れてもいいどうでもいい格好のまま、ロクに金も持たずに完全な手ぶらでこの巡業に参加してしまったのだ。金を持たずに、というのはここから逃げ出してバスや電車に乗って家に帰る事も出来ないという事だ。これじゃどうしようもない、もう一週間この一団のメンバーとして過ごすしかない運命。

こういう職種の経験がある人はそんなに多くはないだろうし、ROCKHURRAHが経験した例が一般的かどうかは全然わからないのだが、主に下っ端は食べ物関係で偉くなるとくじやお面といった設営や下準備があまりいらない商材を扱う事が出来るようだ。当然ながらROCKHURRAHも主にたこ焼きやソフトクリームなどの食べ物屋台で雑用をやらされた。水がない場所という現場もあって、その時は70リットルのポリバケツ一杯の水を台車もない状態で屋台まで何とか持って帰るというとんでもない苦行も経験した。出来るわけないでしょうという状況。たまたまこの時のバイトは一人のみで(他のバイトは全て逃走)、同じ境遇の仲間もまるっきりいないから余計に辛かったんだろう。
食事は車でファミレスとか弁当とか、最低限の保障はしてくれたし、別府のスーパー温泉みたいなところにも連れて行ってくれた。宿はビジネスホテルのツインの部屋で数人雑魚寝という高待遇(笑)。んがしかし、着替え持ってないんだよね。一週間同じパンツだよ。

たこ焼きは多少のコツ覚えて焼けるようになったが少し客が混んでくると売り子と作り手を同時に出来る程の技能がないもんだから、すぐに焦がしてしまうありさま。ソフトクリームに至ってはどうしてもうまくクルクル巻きに出来ず、曲がったままの不安定極まりない作品を平気で売るような低レベル。
これじゃいかんと思ったのかリーダー格の夫婦が最終日近くには自分の屋台のアシスタントとして抜擢してくれて、少しは気楽な仕事が出来るようになった。
やったのはいわゆるベビーカステラというような代物でその屋台では「東京ケーキ」などという名前がついていた。ボロは着ててもサングラスにサイコ刈りという(この時代のこの地方では)特異な風貌は逆に受け、リーダーの読みは当たったらしい。
「東京から来たの?」などと純朴な質問をするお客さん。この時実際に東京からの出戻りだったROCKHURRAH、まさか大分県の山奥で東京ケーキの呼び込みをやるとは。

予想してたような怖い出来事もなく、無事に一週間の仕事を終えて真夜中、帰りの夜道で交通事故直後の車に出くわしたり、かなりインパクトの強い体験ではあった。二度とやりたくはないけど。

別のある年の夏。またしても実家のある北九州で帰省中の出来事も書いておこう。
他の地域の人にはあまり馴染みがないかも知れないがここには平尾台というカルスト台地があり、山口県の秋吉台に秋芳洞があるように鍾乳洞がある。日本三大カルストのひとつらしいが、鍾乳洞の方は三大の中に入ってないからそこまでの規模ではないのかも知れない。
北九州からだと秋芳洞もそんなに遠くないという事もあって、幼少の頃より、他の地域の人よりは鍾乳洞に慣れ親しんでいたものだ。
ほとんどは遠足とかそういう行事で訪れていたんだが、たぶんこの時は久生十蘭の「地底獣国」とか小栗虫太郎の「人外魔境」とかそういう小説の影響か何かで洞窟探検大好き、という心情だったのだろう。

秋芳洞は規模も大きいためにエレベーターなどの施設もあり観光客も多く、スケールの大きな鍾乳洞が満喫出来るのは去年の「SNAKEPIPEの九州旅行記」にも書いてある通り。それに比べ平尾台の鍾乳洞はまだ、というか整備する気も費用もないのか入るには多少の覚悟がいる鍾乳洞だ。入洞する時は靴を脱いでサンダル、というかぞうりに履き替えないとならない。これは地下を流れる川の中に入っていかないと先に進めないためだ。まだ未開の立ち入り禁止部分や照明ないような場所もあり、道に迷ったらかなりデンジャラス。

しかし今回書きたいのはその洞窟の中での出来事ではなくて帰りの恐怖体験なのだ。
福岡の山奥で生まれ北九州で育ったROCKHURRAHもすっかり東京の時間感覚に慣れてしまって、洞窟を出たのは17時を少し過ぎたくらいの、夏場ではまだ明るい時間。今はどうか知らないが、この時点ですでに最終バスは出た後という事態に気付いて慌ててしまった。田舎で本数も少ないし最終も驚くほど早いんだよね。

そしてどう判断を間違ったものか、この平尾台を歩いてふもとまで(少なくともバスの通ってる場所まで)降りるという、あってはならない決断をしてしまう。行きに車で送ってもらった時にはそんな距離に感じなかった、という乗らない人特有の錯覚なんだろう。
まあほんの気軽な散歩という気持ちで歩き始めた。まだ携帯電話のない時代でこんな道路には店もコンビニも公衆電話もなかった。タクシーなんかもまるっきり通らない。だから歩く以外に帰る手段はなかった。
そのうち、今までの人生で一度も出会った事がないような濃霧がいつのまにか発生していて、2メートル先は全く見えないくらいの薄暮時の山道で歩道もないというところを歩く羽目に。これはヘタしたら遭難deathという大変危険な状況で一時間以上は歩いただろうか。

この時の状況を思い返すならば、異界と世界をつなぐ道からの帰還、というようなもので、もし冷静に周りを見渡す事が出来ていたら、絵的にはかなり素晴らしかったのではなかろうか(大げさ)。

ちなみにタイトルにあるマルワランドというのは平尾台に実在した遊園地で、すでに大昔からかなり寂れていたか潰れて廃墟化していたような記憶がある。北九州付近には丸和というスーパーのチェーン店があるから、もしかしたらそのスーパーの経営だったのかも知れない。
マルワランドは今ではすっかりなくなったらしいが、今回の話をSNAKEPIPEにしたら想像の中での風景を写真で作ってくれた。

この話のオチは大した事ないが本人にとっては劇的で、帰りの遅いROCKHURRAHを案じた兄が濃霧の中、車で探しに来てくれて無事に帰還する事が出来た、というもの。この時そのマルワランドがまだ存在していたのか見えたのかは全く記憶に無いが、まさにタイトルそのまんま。

デヴィッド・リンチ・ファンならばニヤリとしてくれるだろうか?