【海外では4冊に分かれて出版されたんだね】
SNAKEPIPE WROTE:
まさにホドロフスキー・イヤーだった2014年。
23年ぶりに映画監督としてホドロフスキーの自伝小説「リアリティのダンス」を題材にした映画「リアリティのダンス」が公開され、ホドロフスキーの来日もあった。
製作が途中で頓挫してしまった幻の映画「DUNE」についてのドキュメンタリー映画の公開もあった。
更に秋にはホドロフスキーの妻パスカルとの共作「2人のホドロフスキー展」があったよね。
それらの全てを鑑賞することができて大満足だったSNAKEPIPE!
2014年7月の記事「「リアリティのダンス」鑑賞」の最後に
「フアン・ソロ」(原題:Juan Solo)というホドロフスキー監督が原作で、1995年からシリーズとして刊行されたバンド・デシネを原作としたアクション映画を計画しているという。
底辺の中にいる一人の人間が犯罪に巻き込まれながら、自分が人間であることを発見していく物語とのこと。
日本でも「フアン・ソロ」は今秋出版予定とのことなので、それも楽しみ!(笑)
と書いていたんだよね。
ホドロフスキーが23年ぶりに映画監督として復活した時、様々なメディアで取り上げられたのが、次回作についてだった。
そのインタビューで答えていたのが「フアン・ソロ」!
ホドロフスキーは、バンド・デシネと呼ばれるベルギーやフランスの漫画の原作者としても有名なんだよね。
ホドロフスキーと漫画との関わりは1960年代からで、ホドロフスキー自身が描いていたこともあるし。
新聞に掲載されていた「Fabulas pánicas」は、2014年9月の「二人のホドロフスキー 愛の結晶展 鑑賞」で鑑賞済み!
モチーフも構図も色彩も独創的で、とても興味深かったことを思い出す。
ホドロフスキー自身が描いていたのは恐らくその時だけで、それ以降はバンド・デシネの原作者として活躍している。
有名な「アンカル」(原題:L’Incal )は1981年に刊行されているんだね。
「アンカル」はホドロフスキー原作、作画をメビウスが担当しているバンド・デシネで、日本でも大友克洋や寺田克也など名だたるマンガ家たちにも影響を与えた作品なんだよね。
上にも書いたけれど、次回作とされている「フアン・ソロ」は1995年から始まったホドロフスキーが原作の4部作で、日本では発売されていなかったんだよね。
ところが「フアン・ソロ」の発売予定があることが分かり、心待ちにしていたのである。
1995年に発売されてから約20年も経って、日本に入ってくるとは!
それも、もしかしたら2014年がホドロフスキー・イヤーだったせいかもしれないね?
バンド・デシネに詳しいサイトを定期的にチェックして、「フアン・ソロ」の発売を心待ちにする。
当初は2014年11月予定とされていた発売日を過ぎても、全く店頭に並ぶ気配はなし!
そのうち2015年になってしまい、SNAKEPIPEが発売日をチェックする回数も減っていた。
更に「フアン・ソロ」がホドロフスキーの次回作である、という情報が飛び交っていたはずなのに、いつの間にか「リアリティのダンス」の続編の情報が入ってくるようになっていた。
次回作は「エンドレス・ポエトリー 」って、はっきり出てるもんね!
「リアリティのダンス」の小説の中でも、最も面白かった部分がホドロフスキーの青年期の話だったので、それももちろん楽しみ!(笑)
つい最近、ふと「そういえばフアン・ソロはどうなったんだろう?」と思い出した。
検索してみると、驚いたことに既に発売されてたんだよね!(笑)
2015年の12月に!
最初に知った発売日よりも1年遅れとは。
ホドロフスキーの次回作でなくても良い。
楽しみにしていたホドロフスキー原作のバンド・デシネだもん。
慌てて本屋に走ったのである。
軍事政権下のメキシコ、ウアトゥルコ・シティ。
この町で娼婦として働くおかまの小人が、ある日、ゴミ箱に捨てられた尻尾の生えた赤ん坊を発見する。
フアンと名づけられた赤ん坊は、やがて育ての親であるおかまの小人と別れる時がくる。
フアンは形見としてもらった拳銃を手に、裏社会でのしあがっていく。
しかし、彼を待ち受けていたのは、思いもよらぬ運命のいたずらだった。
簡単なあらすじを書いてみたけれど、これだけではもちろん良く分からないよね。(笑)
ネタバレになるようには書かないけれど、もう少しだけ詳しく書いてみようか。
上の赤ん坊を抱いた画像は、「おちょこ」という名前の「娼婦」で「おかま」で「小人」が赤ん坊を見つけたところ。
犬の餌にくれてやろうとするけれど、尻尾が生えていることに気付き、自分の息子として育てることを決意するところが面白い。
「異形」という点に共感を覚えたんだろうね。
ホドロフスキーの映画には今までにもたくさんの「異形」いわゆるフリークスが出演しているよね。
「異形は自然の想像力が生んだ遺伝子の想像力だ」と言い切っているホドロフスキーにとって、フリークスは特別な存在だからね!
フリークスのフアンはいじめの対象になるが、力でねじ伏せる。
盗むことでやっと生きていかれるような世界。
他の子供達も似たような「食うか食われるか」という境遇なんだろうね。
人のことなんか構っていられるか!って感じね。
物は盗む、女は犯す。
今が楽しくて自分勝手に生きていかれれば良い、というまさに「その日暮らし」のフアン。
子分を従えてやりたい邦題。
言い方悪いけど、いかにもメキシコ!って感じなんだよね。(笑)
ロバート・ロドリゲス監督の映画のワンシーンみたいな雰囲気。
ホドロフスキーが映像にしたら違っていたのかな?
それにしても「フアン・ソロ」って名前、まるでスター・ウォーズの「ハン・ソロ」みたいじゃない?
人によってはスペイン語読みにした「ハン・ソロ」の話なのかと勘違いしそうだもんね。(笑)
調べてみたけど、「ハン・ソロ」はジョージ・ルーカスのオリジナルで、特にルーツがある名前ではないみたい。
「フアン・ソロ」の「フアン」はJuanなんだけど、これはプレイボーイの代名詞として有名な「ドン・ファン」と同じスペル。
「ソロ」の由来はバンド・デシネ中に出てきたように「天涯孤独」の意味だというから「独りぼっちのフアン」という名前ということになるね。
ということで「ハン・ソロ」の話ではないので、お間違いのないように!
フアンは勉強したことないはずなんだけど、悪知恵が働くというのか。
悪事にかけては天才的だったので、すぐに「その道」のプロになり金持ちの用心棒として頭角を現す。
ついにはメキシコ首相の身辺警護まで請負うことになり、首相の自宅に配属されるのである。
首相夫人と息子がいる邸宅に住み込むフアン。
首相夫人の部屋にあるキリスト像。
「いかにもホドロフスキー」だよね!
「ホーリー・マウンテン」を思い出すね。
この邸宅であらすじにあった「思いもよらぬ運命のいたずら」を知ることになるフアン。
テーマになり易い話だけど、まさかそんなことだったとは!
自らの意思ではなく、「運命のいたずら」から開放されたフアンは、また別の「運命」へと導かれていく。
あらゆる蛮行を尽くしたフアンを、聖者として崇める村に辿り着いたのである。
この村でフアンは今までの自分と決別する。
残忍で身勝手だったフアンが他人のために思いやる気持ちを持つのである。
村人の勘違いから聖者とみなされていたけれど、今までの悪行を悔い改め村人のために祈りを捧げる。
その姿はまさにキリスト!
ホドロフスキーの代表作である「エル・トポ」で主人公エル・トポは「砂漠にいる4人の銃の達人」を卑怯な方法で殺害した後、絶望し死んでしまう。
その後フリークスの村で聖者として蘇る、その話をそっくり同じなんだよね。
俗物が聖者になる、という極端な話の展開。
「フアン・ソロ」の転換は唐突で、「なんで急に?」と思ってしまったSNAKEPIPEだったよ。
前述したように「フアン・ソロ」は1995年から始まった、今から約20年前に刊行されたバンド・デシネ。
この20年の間で映画はかなり変わったと思う。
タランティーノ以降、暴力表現は、それ以前より過激になったからね。
「レザボア・ドッグス」が1992年とのことなので、それが境目ということになるのかな。
そのため暴力的な表現にそれほど驚かなくなってしまっているんだよね。
「エル・トポ」は1970年の作品。
暴力的な表現の残酷さと映像の美しさのアンビバレントが秀逸なので、「フアン・ソロ」がソフトに感じてしまうのかもしれない。
ぷっ!アンビバレントだって。(笑)
もし「フアン・ソロ」が映画化されたとしたら、どんな映像になっていたんだろう。
バンド・デシネとしてみるのと違う感想になっていたかもしれないね?
バンド・デシネの紹介文に「主演俳優の死によってお蔵入りとなった、ホドロフスキーによる映画シナリオ」と書かれているんだけど。
ほとんど皆コピペして文章にしてるみたいで、それ以上突っ込んだ情報は皆無みたい。
ここでSNAKEPIPEの予想を書いてみようかな。
1995年にホドロフスキーの3男であるテオ・ホドロフスキーが交通事故のため24歳という若さで他界してるんだよね。
テオ・ホドロフスキーは「サンタ・サングレ」でチンピラ役でチラッと出演していたので、記憶している人もいると思う。
あの雰囲気だったら「フアン・ソロ」役はピッタリだったかも!と勝手に想像してしまった。
そのためホドロフスキーが息子のために書いたシナリオかも、と思ったんだよね。
ホドロフスキーの映画の主役は、息子達が演じているし。
1995年以前 ホドロフスキーが「フアン・ソロ」のシナリオ執筆
1995年 テオ・ホドロフスキー他界
1995年 バンド・デシネとして「フアン・ソロ」刊行される
2014年「リアリティのダンス」の次回作として「フアン・ソロ」が挙がる
時系列にするとこうなるんだけど、1995年以前に一度断念した映画化をもう一度構想したのが2014年なんじゃないかな、と思ったけど。
勝手な想像なので気にしないで。(笑)
それにしてもテオは24歳で亡くなってしまうなんて、早過ぎるよね。
今回のバンド・デシネ「フアン・ソロ」は作画担当のジョルジュ・ベスも素晴らしかった。
1コマ1コマが、まるでポストカードになりそうな出来栄え。
色使いも構図もバッチリで、まるで映画用の絵コンテみたい。
「フアン・ソロ」以外にもホドロフスキー☓ベスの「バンド・デシネ」があるようなので、また日本で発売して欲しいよね!
SNAKEPIPEが触れたホドロフスキー原作のバンド・デシネは、「アンカル」「メタバロンの一族」(原題:La Caste des Méta-Barons)に続いて3作目になる。
本当は他にもいっぱい原作として出版されているのあるんだよね。
全部集めて読みたいな!
そしてホドロフスキーの新作映画「エンドレス・ポエトリー」も楽しみだ!
情報検索を忘れないようにしないと。(笑)