SNAKEPIPE MUSEUM #30 David Altmejd

【どの角度から観ても面白い!独特の美学を感じる作品】

SNAKEPIPE WROTE:

興味を感じるような展覧会情報を調べていたけれど、特に何もない時にはお決まりのアート検索。
美術館に行かなくても、ネットで作品を鑑賞するのも楽しいからね!
日本で開催される展覧会は、世界中のアーティストのほんの一部を紹介しているだけだろうし?
まだまだ未知の、ワクワクさせてくれるようなアーティストがいるはず!
今回こんなSNAKEPIPEの期待に応えてくれたのは、カナダ出身のDavid Altmejdだった。

デヴィッドは読めるけど、Altmejdは?
どうやらアルトメジョと読むらしいね。
デイビット・アルトメジョ、と書いてある記事を見つけたので、表記をこれで統一してみようか。
デヴィッド、も違ってたみたいだし。(笑)

デイビット・アルトメジョは1974年カナダのケベック州生まれ。
ケベック州だけは公用語がフランス語なんだよね。
そのためデイビット・アルトメジョに関する記事もほとんどがフランス語で書いてあって読めないの。(笑)
現在フランス語を勉強中の、長年来の友人Mに翻訳頼もうかと思ったくらいだよ!
少ない情報の中から分かったのは、ケベック大学モントリオール校とコロンビア大学を卒業していること。
2003年にイスタンブール・ビエンナーレ
2004年にホイットニー・バイエニアル
2007年にはカナダ代表としてベニス・ビエンナーレに出品したことくらいかな?(笑)

デイビット・アルトメジョは下着、プラスチック製の花、安物アクセサリーなどの様々なアイテムを使用して彫刻作品を制作する。
その寄せ集めた素材も要因なのかもしれないけれど、アルトメジョの作品は、まるで異常者が犯行の戦利品を自慢気に飾っているような雰囲気を持っているように感じてしまうんだよね。
その独特の美学に惹かれてしまうSNAKEPIPEだよ!(笑)

毎週末毎に楽しみに鑑賞していた「ブレイキング・バッド」を鑑賞し終えてしまったので、次に鑑賞しているのがドラマ「ハンニバル」である。
上のアルトメジョの作品(The Vessel 2011年)が、まさに「ハンニバル」で観たばかりの殺人現場に似ていてびっくり!
もちろんアルトメジョのほうが早いんだけど、アート作品と殺人現場が「似て蝶」っていうのもすごい話だよね?
そんなところからも前述したような「犯行の戦利品」と感じてしまったのかもしれないよね。

左の画像は「Untitled 3 (Rabbit Holes)  」2013年の作品である。
どうして「Rabbit Holes」というタイトルにしているのかは調べられなかったよ。
直訳すると「うさぎの穴」だよね?
人間の頭部だけが転がされ、顔面部分にはぽっかりと穴が開いている。
もし、これが美術館の中ではなくて、散歩中に出会った光景だったら?
かなり怖いだろうね!
「Rabbit Holes」はシリーズ化されていて、アルトメジョはたくさん作品を制作しているんだよね。
テーブルの上に乗っているのは「Untitled 6 (Rabbit Holes)  」で、こちらも2013年の作品とのこと。
顔面部分がくりぬかれた頭部と、完全に真っ二つになった断面だね。
この作品を観て思い出したのが、東京国際フォーラムで観た「人体の不思議展」。
あれは本物の人体が展示してあったけど、グロテスクには感じなかった。アルトメジョの作品のほうが生々しくみえてしまうよ。

顔付きの作品もあるんだよね。
左の画像は「Untitled」は 2011年の作品である。
人間の頭部が逆さになっている…おや?
逆さにも見えるし、そのままでも顔になっているんじゃない?
子供の頃に人の顔を逆さから見て、別人の顔に見えて大笑いしたことを思い出す。
この作品はそんな他愛もないアイデアから生まれた物なのか?
はたまた異常犯罪者っぽく、頭をこんな感じで飾ってみたあとからオマケみたいに白い粘土を貼り付けて遊んでみたのか。
アルトメジョの作品は、鑑賞する側のイマジネーションも沸かせてくれるね。


アルトメジョは素材に鏡や鉄を使用することも多いようで、上の作品「The  Eyes」は先に紹介した「人体の不思議展」のような異常者系作品とはまるで違う性質の作品に見えるよね。
「The  Eyes」は2008年の作品だというので、こちらの制作時期のほうが早いんだね。
この作品は11☓18フィートとのことなので、約3.35m☓5.48mの大型作品なんだね。
金属的な冷たい光が反射する、インダストリアルな作品も素晴らしいよね!
金属と人体系のコラボ作品もあるようで、アルトメジョの世界を実際に観てみたいなあ。

2014年10月10日〜2015年2月1日の会期でパリ市立近代美術館でアルトメジョの回顧展を開催していた模様。
その後3月〜5月にルクセンブルクのMUDAM美術館、6月〜9月にモントリオールのMACM美術館で公開されるとの情報が!
10月からは森美術館で開催、なんてことになったら嬉しいのになあ!

好き好きアーツ!#29鳥飼否宇 part7–死と砂時計–

【ROCKHURRAHがジャリーミスタン刑務所を盗撮か?!】

SNAKEPIPE WROTE:

ベストオブ2014の記事でも予告していたように、今年に入ってすぐに嬉しいニュースがあった。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンの作家、鳥飼否宇先生の新刊が出版されたのである。
タイトルは「死と砂時計」。
タイトルだけでもワクワクしちゃうよね、と「好き好きアーツ!#27 鳥飼否宇 part6–迷走女刑事–」で書いていたことを思い出す。

発売日とされていたのは1月10日。
もしかしたらフライングで前日に店頭に並んでいるかもしれない、と新宿の紀伊国屋書店で探してみた。
見当たらない!
検索機で調べてみても「死と砂時計」の情報は出てこなかった。
うーん、残念!
やっぱり10日が発売日なんだね、と当日地元の本屋へ。
ここは割と広い本屋で、種類も豊富に揃っているため、探すのが大変!
ところがさすがは元本屋のROCKHURRAH、なんなく見つけ出してくれたのである。
こうして鳥飼先生の新刊を入手!
通常は先にSNAKEPIPEが読み、その後ROCKHURRAHが読むという順番だけれど、今回はROCKHURRAHが先陣を切った。
読み進めているROCKHURRAHは、面白い!面白いよ!を連発する。
まだ読んでいないSNAKEPIPEには、拷問のような時間だった。
今までROCKHURRAHも、後から読んでたから同じような心境だったんだろうな、と反省。
相手の立場になって初めて解ることって多いよね。

ついにSNAKEPIPEの順番になり、読み始めることとなった。
なんと!今回の作品は鳥飼先生には珍しく、外国が舞台になっているじゃないの!
ジャリーミスタン首長国という架空の国が舞台である。
具体的な場所は記されていないけれど、中東にある小国らしい。
周りは砂漠で、その砂漠にぽつんと死刑囚専用の刑務所が建っている。
何人か脱獄に挑戦した囚人がいたらしいけれど、1人の成功以外は全て未遂に終わっているという。
ほぼ脱獄不可能な刑務所、ということで良いかな?
もし脱獄に成功しても、囚人には身体のどこかにチップが埋め込まれているため、GPSで所在の確認ができてしまう仕組み。
身体のどこにチップが埋め込まれているのかが不明なので、自分で取り出すこともできないのである。

ジャリーミスタン首長国は人権擁護を叫び、死刑を良しとしない国が増えていることに目を付けた。
死刑は廃止したいけれど、凶悪犯は排除したい。
最高刑を終身刑にした場合、その囚人を死ぬまで刑務所内で養っていかなければならないことになる。
その経費は国が賄うことになるわけだよね。
なんならウチで囚人引き取って、死刑やりましょか、ダンナ?と持ちかけ、商売にしたのがジャリーミスタン首長国なのである。
死ぬまでかかる経費よりも、引き取り料金のほうが安上がり、更に凶悪犯を国外に移送できるという一粒で二度美味しい話に飛びつく国が跡を絶たないのは想像に難くない。
なるほど、人が嫌がる仕事を引き受け、喜ばれながら金儲けするとは、なかなかジャリーミスタン首長国は商売上手だよね!(笑)
この設定が非常に面白いよね。
本当にありそうな話なんだもん。

刑務所の中にいる囚人は全員が死刑囚のため、一定の就労とジャリーミスタン語の習得の義務以外には、ある程度の自由が与えられているというのも特殊な状態なんだよね。
ジャリーミスタン首長国の首長である、サリフ・アリ・ファヒールの一存で執行日が決定するまでは、という期限付きだけど。
名前を呼ばれてしまうと、4日後には死刑執行。
執行前には15分だけ広場で告解の時間を与えられ、好きなことを喋って良いことになっている。
当然だけれどジャリーミスタン語でね!
鳥飼先生の新作は、その刑務所の中で起こる事件を、同じ刑務所内の囚人が解決していく前代未聞の連作短編なのである。
それぞれの短編ごとに感想を書いていこうかな!

1: 魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室 

死刑が確定した囚人は、執行までの4日間は独房に入れられることになっているのも、ジャリーミスタン刑務所のルールである。
その独房にいる2人の死刑囚が死刑執行の前日に殺されてしまう、という事件が発生する。
困った刑務官はある囚人の元に相談しに行くのである。
ここで探偵となる囚人の紹介をしようか。

ドイツ系ルーマニア人で、刑務所内での最長老とされるトリスタン・シュルツである。
シュルツはジャリーミスタン刑務所の第二収容棟の棟長で、齡80を越えているように見えるのにも関わらず、足腰が丈夫で頭脳明晰なため、何か起こると頼りにされる存在なのである。
シュルツは事件解決のために、助手として新入りのアラン・イシダを指名する。
アラン・イシダは日系アメリカ人。
30歳くらいの、線が細く知性的な、ジャリーミスタン刑務所では珍しいタイプの囚人とのこと。
こうして探偵と助手のコンビが結成される。
そしてシュルツはあっさりと事件を解決してしまうのである。

後から聞いたところでは、ROCKHURRAHは読んでいる途中でトリックに気付いたらしい。
もちろん事件の真相までは分からなかったはずだけど!(笑)
SNAKEPIPEは全然トリックにも気付かなかったよ。
まさかあんな話だったとはね!(笑)

SNAKEPIPEは第1話で登場した、スグル・ナンジョウという日本人が怖かったなあ!
ナンジョウもジャリーミスタン刑務所の囚人で、その刑務所にいるのが当然だと誰もが感じる、正真正銘のサイコパスなんだよね。
犯罪者に関する本をかなり多く読んでいたSNAKEPIPEだけど、ナンジョウは日本人には珍しいタイプ!
この種類は白人男性が多い、と読んだ記憶があるけれど、最近は少し変わってきてるかもしれないね?

第1話の登場人物の中で、少し気になる名前があったね。
アメリカ人のクリス・コベインという囚人は、もしかしたらニルヴァーナのカート・コバーンとクリス・ノヴォセリックの名前を使用しているのでは?
コバーンとコベインだからカタカナ表記に違いはあるけど、スペルがCobainだとしたら同じかな、と。
鳥飼先生の著作には、名前遊び(といったら良いのか)があるので、勘ぐってしまうね。(笑)

第1話からグイグイ内容に引き込まれる。
刑務所内の情景がはっきり脳内で映像化されているのである。
ROCKHURRAHじゃないけど、面白い!面白いよ!だね、ほんとに!

2: 英雄チェン・ウェイツの失踪

唯一ジャリーミスタン刑務所から脱獄に成功した、チェン・ウェイツという囚人を捜索することを命じられるシュルツとアラン。
今回は看守長直々のご指名を受けるのである。
シュルツの賢さが刑務所全体に知れ渡っている証拠だよね!
ジャリーミスタン刑務所では刑務官と囚人との垣根が低いと感じてしまうのは、シュルツが関係している場合に限るのかもしれないな。

調査に際して度肝を抜かれるのが、捜索のために外出を許可されること!
いくら手枷足枷されているにしても、死刑囚が塀の外に出るなんて聞いたことないよね!
チップが埋め込まれているのも、安心材料なんだろうけど。
様々なことが常識外れのジャリーミスタン刑務所、と改めて思うね。

この話の途中で、今度はSNAKEPIPEももしかしたら?と予想をしていた。
そしてその予想は当っていたけれど、もちろん動機や方法は分からなかった!(笑)

シュルツはここでも難なく課題をクリア!
事件があったらシュルツに頼もうと考える人が増えるのも納得だよね。

この話で国枝史郎の「神州纐纈城」の中のエピソードを思い出したSNAKEPIPE。
伴源之丞と園女が月子の元を訪れる、あのシーンね!

3: 監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦

刑務所内の治安を守るために監察官がいるらしい。
何か困ったことはないか?と聞いてくれるのは、死刑囚にとって有難い存在だろうね。
ジャリーミスタン刑務所では、監察官が調査のために囚人から話を聞く期間が決まっているという。
今回は監察官が囚人に話を聞いている期間に起きた事件の話である。

ジャリーミスタン刑務所は、死刑囚しかいないので、囚人も看守も、全ての人が荒れた人種なのかと思うと、意外にも道徳的で常識があり驚いてしまう。
なんで死刑囚になってしまったのか。
運命の悪戯としか言いようがないような、やむにやまれぬ理由があるんだろうね。
ジャリーミスタンでは死刑囚=凶悪犯として整合しない場合もあるようだね。

またしてもシュルツとアランのコンビは事件を解決してしまうのである。
この話ではなんとも言えない気持ちにさせられたSNAKEPIPE。
ここまでしなくても、と思ってしまうのはSNAKEPIPEがワーカホリックじゃないせいかな?(笑)

4: 墓守ラクパ・ギャルポの誉れ

ジャリーミスタン刑務所では一定の就労とジャリーミスタン語の習得だけが義務である、と冒頭でも書いたよね。
ジャリーミスタン語だけが世界各国から集められた死刑囚の共通言語であり、通達を知るためにも自分の意志を伝えるためにもジャリーミスタン語は必要不可欠だからね!
ただしアラビア語に近い言語のため、人によっては全く覚えることができないという。
学校で英語の授業を6年間習っているはずの一般的な日本人のほとんどが、英語をマスターしていないくらいだから。(笑)
アラビア語に近い言語では、更に難易度アップだろうね!

この話の主人公であるチベット人、ラクパ・ギャルポは6年もの間収監されていたのにも関わらず、一言もジャリーミスタン語を話していないという。
刑務所内での共通語であるジャリーミスタン語を話さなくても、生活できていたところは驚嘆してしまうね!
今回は、そのラクパ・ギャルポにかけられた、ある疑惑に関する調査をする話である。

ラクパ・ギャルポ本人から話を聞きたいと思っても、ジャリーミスタン語を話さないので無理なんだよね。
このもどかしさったら!
それなのにシュルツはまたしても謎を解いてしまうのである。
シュルツの話を聞けば大いに納得!
人それぞれ慣例や考え方があるからね。
理解するしないは別として、様々な思想が存在することは事実だもんね!

5: 女囚マリア・スコフォールドの懐胎

今まで出てきていなかったけれど、ジャリーミスタン刑務所には女囚専門の居住区があるらしい。
その女囚居住区に13ヶ月間収容されている女囚が妊娠した、という。
その謎を解くべくシュルツとアランが女囚居住区に向かうのである。

「女囚」と聞くと、続けて出てくる単語は「さそり」になってしまうね。(笑)
そして女囚居住区の担当医であるライラを、「イルザ」のダイアン・ソーンに見立ててしまったSNAKEPIPE。
うーん、勝手に想像しまっくてるね!(笑)

そんな想像に拍車をかけるような、マリア・スコフォールドの驚くような秘密!
えっ、マリアって「そういう」人だったの?
「そういう」人だと「そういう」ことができるの?
などと「そういう」を3回も書いてしまったけれど、かなり衝撃的なお話なんだよね。
「そういう」人が実際に存在していることは知っているけれど、詳細は良く知らないからなあ。
果たしてシュルツはこの難問を解くことができるのだろうか?

SNAKEPIPEの心配をよそに、シュルツはちゃーんと説明してくれていたので安心した。
そしてまさかの展開がっ!
本当にこれで良いのか、アラン?

6: 確定囚アラン・イシダの真実

今までシュルツの助手として活躍してきたアラン・イシダに、死刑執行の日が確定してしまう。
執行日が確定するとアランは独房に入れられ、残された時間は4日のみとなる。
この期間を人生の振り返りにしてはどうか、と面会に来たシュルツから勧められたアランは、ジャリーミスタン刑務所に来ることになった親殺しの事件を語り始めるのである。

アラン・イシダの母親マーガレットは遺伝子工学を、アランは生物学を学び、進化生態学を志したと書かれている。
進化生態学って聞いたことのない言葉だよ。

生物の生態や行動を、進化の結果として形成され
維持されてきた秩序であると考え、
その過程における自然淘汰の働き方を考察することで
解明しようとする学問

ネットで調べてみたらこんな説明がされていた。
最適制御理論、統計的決定理論、ゲーム理論などに基づいて解析されると説明が続いているので、数学にも強くないとダメみたいね。
更に野外での実験や観察データによって検証されるということは、体も動かしてデータの収集も行うってことだよね。
アランの話は、もしかしたら鳥飼先生そのものなのでは?(笑)

ハーバード大学の大学院で学んでいたアランに悲劇が起こってしまう。
偶然が重なるとこんなことになってしまうのか、とアランを気の毒に思ってしまうよね。
容疑者となり、警察で取り調べを受けるアラン。
クリーブランド市警察のスコット・マイモーン警部とデヴィッド・ハーマン刑事がアランを担当している。
この箇所を読んでいたROCKHURRAHが
「あっ!判った!」
と叫んでいたことを思い出す。
あの時の叫びはなんだったの?と聞いてみた。
ペル・ユビュに間違いないんだよ!」
ん?一体何の話なの?

ペル・ユビュの初期のメンバー名が
・デヴィッド・トーマス
・トム・ハーマン
・スコット・クラウス
・トニー・マイモーン
・アレン・ラヴィンスティン
だと教えてくれた。
確かに、名前を入れ替えると警部と刑事の名前になるよね!これに気付いたROCKHURRAHが大興奮してたってわけか。
鳥飼先生の小説のファンの中でも、こんなところに気付いて叫ぶのはマニアックなROCKHURRAHくらいじゃないかね?(笑)

マニアックと言えば、アランの死刑執行の日が3月6日で、この日は鳥飼先生の誕生日だということに気付いた人、いるかな?
SNAKEPIPEはすぐに分かったんだよね!(笑)

独房で面会に来てくれるシュルツに、今までの人生を語っていたアランは、幼い頃から疑問に感じていた問題を解決する糸口を見つける。
シュルツのくれたヒントで全てのピースがカチッと収まったアランは、告解の場で解決した問題と、今までの人生について語り始めるのである。

ここからはびっくり仰天のオンパレード!
アランの推理もさることながら、それから続く展開はスピード感満載!
早く次のページを読みたくて、焦って一気に読んでしまった。
もしかしたら息をしていなかったかもしれない。(笑)
ラストまでの約10ページは、またもやSNAKEPIPEの脳内で完全に映像が出来上がっていて、その情景を目の当たりにしているようだった。

読了して、大満足!(笑)
なんて魅力的な人物設定と舞台背景!
架空の国ではないのかも、と真剣にGoogleで検索してしまったほどである。
「死と砂時計」の続きがあったら読んでみたいよね!

鳥飼先生は2014年11月に「迷走女刑事」を発売し、2015年1月に「死と砂時計」が刊行されているよね。
この期間の短さに驚いていたROCKHURRAH RECORDSだったけれど、なんと2015年2月26日には「絶望的――寄生クラブ」が発売されるという!
そしてなんとこの物語は…SNAKEPIPEが大好きな増田米尊が主人公!
わーい、やったー!増田米尊だー!(笑)
と喜んでいると
「あれ?あれれれ?」
ROCKHURRAHが驚いた顔をしている。
なんと!2015年3月5日には観察者シリーズ「生け贄」が発売されるというのである!
えーーーーっ!
鳥飼先生の新作が毎月刊行されるなんて、ビッグサプライズだよ!
2014年はホドロフスキーYEARだったけれど、2015年は鳥飼先生YEARになりそうだね!

そうそう。
ホドロフスキーといえば、「リアリティのダンス」の続編の製作が発表されたことも書いておきたいな!
ホドロフスキーの青年時代を映画化する「エンドレス・ポエトリー」は2016年2月完成予定とのこと!

待ち遠しいニュースがたくさんあって、ウキウキしちゃうよね!
まずは増田米尊との再会を楽しみにしていよう。(笑)

ふたりのイエスタデイ chapter07 / Duran Duran

【いかにも80年代!なシングルレコードジャケット】

SNAKEPIPE WROTE:

自宅で何かしらの作業をする時にかけるのがインターネットラジオだ。
以前はオリジナルパンク専門チャンネルにしていたけれど、選曲に偏りがあるのと連日聴いていると同じ曲がかかることが多いため、違うチャンネルを探すことにした。
やっぱり聴いていて安心するのは80年代!(笑)
そこでニューウェーブ専門チャンネルを聴くことにしたのである。
次々と知っている曲が流れ、イントロだけで曲名とアーティスト名を思い出す。
最近では人名や、例えば映画のタイトルをど忘れすることが多くなっているのに、この差は一体何だろう?
SNAKEPIPEの青春時代、心をときめかせながら熱心に聴いていた曲だからだろうね。
それほどまでに熱中していたニューウェーブ、今日はその中から一つのグループを選んで書いてみようか。

いつから洋楽を聴くようになっていたのか思い出せないけれど、恐らく英語の勉強が始まった頃には洋楽ばかり選んで聴いていた。
まだ子供だったSNAKEPIPEがどのようにして情報収集を行ったか?
貪るように週に一度の音楽番組を見ることと、FMラジオのエアチェック。
最初は聴き流していただけだったけれど、次第に録音を始める。
そのうちFM番組の情報誌を買って、エアチェックをするようになった。
この時代は当然のようにカセットテープ!
お気に入りの曲を録音できた!と喜んだ後で、テープが残り少なくなっているのに気付き、慌ててフェイドアウトするように録音する技で乗り切ったものだ。
現代のようにたくさんの情報を容易く入手できなかったからこそ、一生懸命自分の力で集めていくしかなかったのである。
SNAKEPIPEと同世代、もしくは上の世代の方なら大きく頷いてくれるはずだ。(笑)

もう一つの情報源であるテレビは、火曜日だったか水曜日の夜7時から始まるローカル番組だった。
SNAKEPIPEの実家では、家族が揃って夕食をとるのが習慣だったので、その音楽番組を見ながら食事をしていたのである。
外国のアーティストのミュージックビデオを見られる、唯一の番組を食事をおろそかにしながら食い入るように見ていたものだ。
その番組は全米トップ40などのランキングを紹介するものではなく、番組独自のセレクトやリクエストを応じてビデオを流すタイプだった。
そのため女性に人気があるアーティストの曲がかかることが多かった。

チープトリックジャパンデヴィッド・ボウイ、そして時代が変わるといつしかニューウェーブ系のバンドの紹介ばかりになっていたのである。
中でも人気だったのはデュラン・デュラン
ちなみにこのバンド名は、フランスのSFコミックで大人向けのバンド・デシネとして出版された「バーバレラ」の中に登場するキャラクターから名付けられているそうだ。
デュラン・デュランは音楽的にもビジュアル的にも注目の的だった。
もちろんSNAKEPIPEも熱心に音を集め、ビデオを録画したものだ。
デュラン・デュランは最初からプロモーションビデオ作りに熱心で、映像にも力を入れていたね。
アイドルグループという枠を完全に超えていたと思う。
その最たる例が「Girls on film」のビデオではないだろうか。

家族で夕食を食べている時に、セミヌードの女性が登場するこのビデオは、思春期を迎えていたSNAKEPIPEには居心地が悪かったことを覚えている。(笑)
最近は年齢によって視聴を制限しているので、このビデオはyoutubeでは観ることができないようだ。
そんなビデオがお茶の間で流れるというシーンを想像してみて欲しい。
気まずい空気になることが解って頂けるかな?(笑)

周りの友人達も皆デュラン・デュランに夢中で、一緒にフィルムコンサートに行ったこともある。
スクリーンにメンバーが登場すると、黄色い悲鳴が聞こえていたっけ。
コンサート会場さながらの雰囲気だったね。(笑)
そして実はライブにも行ってるんだよね!
特にメンバーのうちの誰のファンだったということはなかったけれど、写真やビデオ見ていたのとは違い、ボーカルのサイモン・ル・ボンが一番カッコ良く見えたのが意外だった。
確か本国イギリスでも、一番人気はサイモンだったはずだ。
SNAKEPIPEの友人達は皆ベースのジョン・テイラーのファンだったので、何故サイモンが人気なの?と言い合っていたものだ。
ところがどっこい、実物をみて納得した。
あとから考えれば、他のメンバーは楽器を演奏しているため、ほとんど定位置から動かない。
ボーカルだけは自由に動き回っていたので、それだけでも充分有利だからね!

2010年10月にROCKHURRAHが書いた「痛くて怖い物語」の中で映画「28週後」についての感想がある。
その中で登場人物であるジェレミー・レナーを説明している文章が
「デュラン・デュランのサイモン・ル・ボンをふくよかにしたような顔」とのこと!
あれ?そう言っているのはSNAKEPIPE、とも書いてあるね。(笑)
どれどれ、実際並べて比べてみようじゃないの!
どお?左がサイモン、右がジェレミーだけど、似てない?(笑)

デビュー曲である「Planet Earth」を演奏しているライブ映像をROCKHURRAHが見つけてくれた。
お客さんの服装や化粧から当時のニューロマンティクスを感じ取ることができるよね。
この時代のロンドン、スティーブ・ストレンジが経営していたクラブ「ブリッツ」に行ってみたかったなあ!(笑)

一大ムーブメントだったニューロマンティクスは次第に終息していき、時代がさかのぼるけれど、SNAKEPIPEの個人的な興味は次第にパンクへ移っていった。
そのためデュラン・デュランのシングルカットされた曲を調べたところ、本当に初期の一部しか知らないことが判明したよ。
そう、実はデュラン・デュランは現在も活動中!
メンバーはSNAKEPIPEが知っていた時代の4人が健在とはびっくりだね!
そして更に驚くことに、デュラン・デュランのライブ映像を敬愛する映画監督デヴィッド・リンチが監督したというじゃないの!

米マヤシアターでの2011年の公演を「Duran Duran: Unstaged」として映画化し、日本公開は4月17日とのこと!
トレイラーにはリンチ自身も登場しているけど、本編ではどうなんだろう?
かつて熱狂したバンドとリンチのコラボ。
デュラン・デュランはどれだけぶり?(笑)
劇場でのリンチの映像も「インランド・エンパイア」以来となるんだね。
とても楽しみだ!

映画の殿 第13号 ジェイコブス・ラダー

【ジェイコブの悪夢はいつ消えるのだろうか?】

SNAKEPIPE WROTE:

「ベーコンさんっぽい映像の映画があるの、知ってる?」
と食事をしている時に長年来の友人Mが聞く。
友人Mは何故だかいつでもフランシス・ベーコンのことをベーコンさん、とまるで知人のように話す。
ベーコンっぽい映像の映画って何だろう?
教えてもらったのが、「ジェイコブス・ラダー」(原題:Jacob’s Ladder 1990年)だった。
25年も前の映画とは!
ベーコンっぽい映像だったら興味を持っていて不思議じゃないのに、どうして当時観ていなかったんだろう?
その頃はパソコンも持っていなかったから、今のように簡単にインターネットで情報を得ることはできなかったのも要因かもしれないね?

簡単にあらすじを書いてみようかな。

ニューヨークの郵便局員であるジェイコブは最近夢と現実の区別がつかなくなるほど奇妙な出来事に遭遇していた。
疾走する地下鉄に乗る得体の知れない人々。
掛かりつけの医者の死亡。
自分を轢き殺そうとした車に乗る異様な人物。
そしてベトナムの悪夢や幻覚までもが見え始める。
そんな時、ベトナム時代の戦友から電話がかかってくる……。

悪夢、奇妙、異様、幻覚という魅惑的な単語が並んでいるよね!(笑)
フランシス・ベーコンっぽい映像ってことは、敬愛する映画監督であるデヴィッド・リンチっぽい映画と言い換えても良いと思う。
リンチの雰囲気を表すのに最適な単語が上の4つに集約されていると言っても過言ではないはず!(笑)
これは期待しちゃうよね!

「ジェイコブス・ラダー」の監督はエイドリアン・ライン
ほとんど聞いたことないなあ?と調べてみると「フラッシュ・ダンス」「危険な情事」「ナインハーフ」と1980年代話題になった映画がズラリと並んでいる!
ヒットメーカーと言えるけど、 リンチっぽい映像かと問われたら「?」になってしまうよね?

主役は「ショーシャンクの空に」や「ザ・プレイヤー」でお馴染みのティム・ロビンス
タイトルにあるジェイコブという名前の役である。
大ファンのスペイン人俳優ハビエル・カマラ目当てで観た「あなたになら言える秘密のこと」にも出演していたっけ。
「ジェイコブス・ラダー」では30歳くらいの、若いティム・ロビンスを観ることができるね。
とは言ってもかなり童顔なので、とても3人の子供がいる父親には見えなかったけどね。(笑)

ちなみに「ジェイコブス・ラダー」とは「ヤコブの梯子」のこと。
旧約聖書の創世記28章12節でヤコブが夢に見た、天使が上り下りしている天から地まで至る梯子あるいは階段のことを指すらしい。
左の画像はウィリアム・ブレイクの作品「Jacob’s Dream」(1805年)である。
ヤコブは天国に上る階段の夢を見て、自分の子孫が偉大な民族になるという神の約束を受ける、ということになっているらしいよ。
毎日のように夢をみるSNAKEPIPEも梯子の夢を見ないとね!(笑)

今回の「映画の殿」は映画の内容の紹介というより、リンチっぽい映像に焦点を当てていこう!
映画開始から10分程で気になる人物が登場!
主人公ジェイコブがニューヨークの地下鉄で出会う女性なんだけど、英語圏の人ではないためなのか、ジェイコブの問いかけに一切答えようとしない。
そればかりか一度も瞬きをしないんだよね!
カッと見開かれた目でじーーっとジェイコブを見つめるだけ。
通り過ぎるまでずっと見つめられ続けるのは怖いなあ!
リンチの映画に出てきそうな女性だったね。


外側から電車の中にいる人を見ているジェイコブ。
その流れていく映像を画像にして、ROCKHURRAHに3枚並べて作ってもらった。
これはもうフランシス・ベーコンだよね!(笑)
歪んだ口やブレた輪郭。
うーん、確かにベーコンさんっぽい映画だ!(笑)

あらすじにもあった「自分を轢き殺そうとした車に乗る異様な人物」というのがこれ!
追いかけてくる車を運転しているのは、普通の人間だったのは確認できた。
正面から見た時には後部座席の人影しか見えないんだけど、通り過ぎる時に窓から顔をのぞかせる。
いきなりこんな人がいたら怖いよねー!
更に通り過ぎた後、後方から車をみると、スキンヘッドの異形だったはずの人物がまた別の異形になっている!
隣にはこれもフランシス・ベーコンの絵から抜けだしてきたような、顔がぼんやりした異形がいる!
これらのシーン、時間にすると短かかったので、まさかこんな顔が隠れていたなんて知らなかったよー!
じわじわ怖いって感じてたけど、やっぱり怖い映像がミックスされてたんだね。

パーティ会場で冷蔵庫を開けると入っていたのがこれ!
人の家の冷蔵庫だから、何が入っているのか分からないのは当然だけどね。
牛か羊か分からないけど、動物の頭には違いないよ。
アントニオ・デ・ラ・トレ主演の「カニバル」では冷蔵庫に人肉入ってたけど、切り分けられてたからグロテスクじゃなかったんだよね。
やっぱり「頭部そのまま」っていうのが怖いんだろうな。

恋人の顔が急に変貌しているように見えるのも恐怖だよね。
悪魔に関する本を読んでいる途中で声をかけられ、生返事したら恋人が怒り出す。
よくある状況だけど、こんな顔で怒鳴られたら逃げ出してしまうよね。(笑)
この画像も一瞬だったからはっきり確認できなかったんだけど、目も鼻も口(歯)の全てに手が加えられてるね。
リンチの「ロスト・ハイウェイ」の中でも、隣に寝ている妻の顔がミステリーマンの顔に変わっていた怖いシーンがあったのを思い出す。
知っている人、愛している人の顔だから余計に恐怖するんだよね。

怪我をしたジェイコブが連れて行かれる病院がすごかった!
ただの外科で良いはずなのに、担架で運ばれていったのは精神病院のようだ。
床に横たわる女性、窓に頭をぶつけ続け血を流す男性(嶋田久作似)、逆立った毛髪でじっと一点を見つめる男性(フランシス・ベーコン似)、網になった天井を這い回る小人など、夢野久作の「ドグラ・マグラ」を思い起こしてしまうね!
まさに「狂人の開放治療」といえる映像化は見応え充分。
松本俊夫監督の「ドグラ・マグラ」(1988年)も映画館で観たSNAKEPIPEだけど、「ジェイコブス・ラダー」の精神病棟も負けてないね!

リンチの「ロスト・ハイウェイ」で印象的だった、顔が左右にブンブン揺れて痙攣しているように見える映像は「ジェイコブス・ラダー」が元ネタだったようだね。
「ジェイコブス・ラダー」は1990年、「ロスト・ハイウェイ」は1997年だから。
こんなに興味がありそうな映画を、どうして当時観ていなかったのか本当に不思議でならない、と再び思ってしまう。
「フラッシュ・ダンス」と「ナインハーフ」の監督だからなって思っちゃったのかもしれないね?(笑)
監督で作品を判断することが多いSNAKEPIPEなので、「ジェイコブス・ラダー」のような例もあることを覚えておかないとね!