80年代世界一周 亜爾然丁編

【予想外に豊富だった80年代亜爾然丁ロッカーの面々】

ROCKHURRAH WROTE:

以前に南米の80年代パンク、ニューウェイブ特集をしようと思ったら、予想外に層が厚かったからブラジルのみしか出来なかった。
それで今度は残りの南米について書いてみようか。
南米の音楽事情について全然詳しいわけでもなく、人から見たら何で書きたいのかがわからないというくらいのシロモノになるのは間違いないが、大体いつも割といいかげんに書いてるブログなので細かい事は気にしないで。

一口に南米と言っても相当な国がひしめいてて、地理や歴史に詳しくない人は国名を全部言えないのではないかと思う。
ROCKUHURRAHもスリナムとかガイアナなどはこれまでの人生で一度も話題にした事ない国名だったよ。
ブラジル以外の南米主要国はほとんどがスペイン語圏だから、国によって音楽のニュアンスが大きく変わる事はないような気がするな。
どうせその国の80年代がどうだったか?なんて知りもしないから、テキトーな順番で矢継ぎ早に書いてゆこう。

まず今回はブラジル以外の南米の国では一番メジャーそうな国、領土も南米二位という大国アルゼンチンから。
漢字で書くとタイトルのように亜爾然丁となる。爾がルで丁がチンなんだね。

この国に対するROCKUHURRAHのイメージは貧困で(どの国でもそうなんだが)アルゼンチン・タンゴとかガウチョとかフォークランド紛争(古い)とか、その辺の月並みなものしか思い浮かばないよ。
去年観に行った「永遠に僕のもの」や結構ヒットした「人生スイッチ」もアルゼンチン映画だったな。
その両方のプロデューサーだったペドロ・アルモドバル監督作品の常連、セシリア・ロスもアルゼンチン人だし、スペインとアルゼンチンは結構密接に関係してるという印象を勝手に持ってるよ。
ブエノスアイレスは南米のパリと呼ばれてるそうだし、旅番組とかで見てもたぶん好きな感じの国だと思った。
この国の80年代がどうだったかなんて知らないが、前回特集したブラジルと同じく、意外とパンク、ニューウェイブも発達してたのかな。

アルゼンチンのパンクとして真っ先に名前が挙がる大御所がこのLos Violadoresだ。スペイン語で「違反者」を意味するバンド名だがカタカナ表記したサイトが見つけられず、イマイチ読み方がわかってない。
そのまま読んでヴィオラドレスなどと書いて検索したら舞踏会か結婚式で着るようなすごいドレスが出てきたからきっと違うんだろうな。

1981年にブエノスアイレスで結成した4人組で最初の頃は割とガラの悪い見た目だったが、人気が出た頃にはニューヨーク・ドールズとハノイ・ロックスとダムドが合わさったようなルックスになっていた模様。ヴォーカルのPil Trafaは確かに南米を感じさせないルックスでロックスターになるのもよくわかるよ。
途中で何度か活動休止期間もあったようだが、1983年から現在までコンスタントにレコードも出していて、本国ではたぶん最も成功したパンク・バンドなんだろう。

ビデオの曲は1985年に出た2ndアルバムに収録でシングルにもなった代表曲「Uno Dos Ultraviolento」。
勝手に直訳すれば「ワン、ツー、超暴力」で何だかよくわからないタイトルだが、 血気盛んなラテン民族には大好評だったに違いない。
ベートーベンの「歓喜の歌」をイントロに使ったポップでパンクな曲調は日本で言えばラフィンノーズの「聖者が街にやってくる」とか思い出してしまったが、ちょうど同じ年の曲なんだよね。
曲の構成とかサビのハモリとか妙にラフィンノーズっぽいノリを感じるけど、こっちの方が軽いな。
どっちも影響を受けたものは違うかも知れないけど、日本もアルゼンチンも発想は同じようなものだと確認出来て良かった良かった。

ビデオでは「時計じかけのオレンジ」を模したヴォーカリスト、この辺もパンクの世界では世界共通に影響を受けてるというのがわかるね。こりゃ確かに「ワン、ツー、超暴力」だわ。

似てると言えばもう一つ思い出していいかな。
ギタリストはこの手のバンドには珍しくギブソン・エクスプローラー(コピーモデルかも知れないが)という珍妙な形のギターを持ってて、高校の時に先輩から借りて持ち帰ったのを思い出したよ。
当時は誰が使ってたか思い出せないが(おそらくフュージョン系)B.C. リッチとかアレンビックとかあまり伝統なさそうなギターが流行ってたから、色んなギターを弾いてみたいという欲求が強かったんだろう。
何行も書いたくせに、見た目の割には弾きにくくはないという感想くらいしかない。
大体同じようなフォルムのギブソンのファイヤーバードはヴィンテージ感があってカッコいいのに、この違いは何だろう?

アルゼンチンと言えば忘れちゃならない、80年代で最も知られたバンドがこのSoda Stereoだろう。
Sodaは単体ではソーダなんだろうがなぜかこのバンドはソダ・ステレオと呼ばれているそだ。
いや、スペイン語でもソーダでいいだろうに、などとどうでもいい感想をまず持ってしまうが、1982年に結成された3人組。
1984年に出た1stアルバムは驚くほどたくさん南米各国で再発を含めリリースされまくってるが、南米以外ではアメリカで随分後になって出たくらい。どうやら南米だけで大人気のバンドらしい。
などと無責任に書いたがラテンアメリカで初めて100万枚を超えたバンドらしく、全世界(大半は南米だと思うが)で700万枚も売れたレジェンド級の活躍をしたらしい。ここまで書いて気付いたが訂正するくらいなら書き直せば良かった。

そのアルゼンチンの伝説、Soda Stereoは1982年にブエノスアイレスで結成、1997年に解散するまでコンスタントにレコードを出して大成功を収めたという。1枚のレコードにつき30〜50くらいの各国盤がリリースされてるようなので、それはものすごい人気だったんだろう。
パンク的な要素はあまりないけどロックとラテン、レゲエ、スカなどが実にうまくミックスされていて、この辺はずっと後の時代のマノ・ネグラあたりに通じる痛快なノリの良さ、勢いを感じる。

ビデオはアルバム・デビューより前の1983年の映像だが「Te Hacen Falta Vitaminas」(自動翻訳による勝手な邦題「あなたはビタミンが必要です」)はデビュー曲で1stアルバムにも収録されている、ヤンチャで元気のいい様子が伝わる名曲。
個人的にニュー・ウェイブに関しては後進国だと思っていた認識が大きな間違いだと反省したよ。

しかしヴォーカルのグスタボ・セラティは2010年(バンド解散後)にライブ後、脳卒中で4年間も昏睡状態となり2014年に55歳で死去している。
うーん、大成功したロックスターの死としてはやりきれないが、前回のブラジル編で書いた、国民的スターだったヘナート・フッソも30代だったな。
大スターであろうとなかろうと、何か自覚症状があった時は深酒とかのせいにせずに早めの検診を、としか言いようがないよ。

有名なバンドが続いた後で一気に情けなくなってしまうが、このTrixy y Los Maniáticosも1981年に結成したアルゼンチン・パンクの先駆者のようだ。はっきりは読めん、だがトリクシー&ロス・マニアティコスでいいのかな。
後にソロとなったトリクシー嬢(おばちゃんっぽいが)は最初に書いたLos Violadoresのバッキング・ヴォーカルなどもやってたみたいだから、その辺の縁でアルゼンチンのパンク・シーンが出てきたのかな。
何しろレコードのような音源も出してなくてずっと後にカセットが出たのみ、主要な曲はトリクシーのソロ曲とかぶってるし、とにかく情報がなさ過ぎて困ってしまうようなバンドだ。

なのにYouTubeにはTV出演の映像とか残ってるし何曲も聴けたりする。一体どうなってるんだ?
映像は悪いし上の2つのバンドと比べると明らかにクオリティは低いが、ラテンでも立派にロックンロールしてるぞという堂々とした姿勢が心を打つ(大げさ)。

レコード・リリースさえないインディーズ中のインディーズ・バンドが晴れてTV出演したという貴重な映像には違いない。
「ウチらはライブ・バンドやけんスタジオ盤なんか出さんっちゃ(なぜか突然方言)」などと言ったのかどうか、これこそがパンクの生き方なのかどうかは知らんが、そういうバンドを見つけるのこそが80年代世界一周の目指すところだよ。

長身でこの髪型やルックスは「フジヤマママ」で知られる女性ロッカー、パール・ハーバー(一時期クラッシュのポール・シムノンの奥さんだった)をちょっと思い出す。その辺を意識してるのかな?

で、また情報が少ないバンドその2、Alerta Rojaもアルゼンチンの最も初期パンク・バンド、Los Psicópatasが名前を変えたという3人組だ。
Los Psicópatasは1979年の結成で、その後Estado de Sitioと改名した後、三度目の正直でレコード・デビューした時にはAlerta Rojaになったらしい。全部読めん。日本語に訳すと「非常警報」というバンド名でいかにもだな。
一番上に書いたLos Violadoresよりも早い1982年にシングルを出し、83年と86年にアルバムも出してるようだがたぶん相当入手困難、忘れた頃の2013年にやっとこれまでの活動全曲入りのCDが出た。

そんな零細バンドなのになぜかちゃんとした映像が残ってて、これまた不思議の国アルゼンチン。
ビデオは1983年に出た1stアルバム収録の曲「Atrincherado(塹壕)」だ。
曲はLos Violadoresなどと比べるとラウドで荒々しく暗い雰囲気、あまり南米っぽくは感じないね。
このバンド、荒削りなパンクの1stも独特なダークさを展開した2ndもすごく良いので、中古盤屋でその全曲入りCD見つけたらぜひ買って欲しいくらいだよ。
ヴォーカルがちょっと垢抜けない(という言葉の方が垢抜けないが)しギターはベイ・シティ・ローラーズみたいなチェック・マフラーだし、見た目はともかく曲作りは相当のレベル、おそるべしアルゼンチン。

どこかの空き地みたいなところでビデオカメラさえあればタダで撮れるだろうけど、後ろの建物の壁に「BERLIN PUNX」と書いてあるように見えるからさらに意味不明。わざわざベルリンに撮りに行ったのか、ベルリンのパンクがアルゼンチンで落書きしたのか、どうでもいい事ばかり気になるよ。

割とストレートなノリのある音楽を好むのかは知らないが、アルゼンチンではイギリスの80年代のような暗い傾向のものはあまり見つからなかった。知識もないし探し方が悪かっただけかも知れないけどね。
ちょっといいなと思うと静止画だけのビデオで退屈だから不採用というのが多かったよ。
そんな中で無理矢理見つけたのがこれ、Los Pillosというバンド。

Pillosという言葉をGoogle翻訳してみたらラスカルズになって意味不明、日本語に翻訳してラスカルズって何だよ?
律儀に辞書で調べてみたらずる賢い奴、悪党、悪人、不良、ちんぴらなどなど、ラスカルズという語感でこんなの(写真)を思い浮かべてたのにガッカリだよ。
さて、そんなゴロツキどもは1984年にブエノスアイレスで結成、アルバム1枚だけ出して88年にはもう解散した短命のバンドだ。

長髪長身でダブルのライダース着て仁王立ち、という姿はラモーンズを意識してるのかはわからないけど、情感こめて歌う姿がちょっと気持ち悪い男。やってるのは全然違うタイプの内向的な線の細い音楽で、バンド名とのギャップを感じるよな。
しゃがんでて後に立つギタリストの、曲調に合ってるのか合ってないのかわからんグニャグニャしたフレーズだけが耳に残る。これだけが聴かせたかったかのようなプレイ。この全体的なアンバランス加減が理解されなかったんだろうかね。

見た目だけは欧米に負けてないぞ、というルックス重視だったのがVirusというバンド。
現在の状況を考えるとシャレにならないバンド名だが、80年代とかには何も考えず気軽に色んな名称にも使ってた言葉で、Discogsという音楽データベース・サイトで検索するとVirus (29)などと出てきて、ジャンルを問わず多くのバンドがVirusを名乗っていた事がわかる。このバンド名で29番目に登録されたというわけね。29どころかたぶんもっといっぱいあるに違いない。
韓国の女子ゴルファーで同姓同名が6人もいて、イ・ジョンウン6とか5とかいたのを思い出してしまったよ。

Virusは結成も1979年と早く、アルゼンチンのパンク・バンドが結成後にレコード・デビューするまで随分手間取ってるのを尻目に、1981年には早々とメジャーレーベルから1stアルバムを出してるやり手バンドでもある。
まあやってる音楽が違っててこちらは大衆受けのするポップなバンドで、TV出演映像とかもたくさん残ってるから比較のしようもないけどね。
この曲は1981年に出た初期のシングル「Wadu-Wadu」でたぶん大ヒットした代表曲。
ライブはたぶん86年くらいの映像かな(推測)。
ラテン歌謡をロックバンドがやるとこういう風になるんだろうな。ドラムやギターはもう少し違った傾向のものをやりたいのに無理してこういう路線にさせられてるように感じてしまうよ。全体的にはニュー・ウェイブというよりはもっと耳障りの良い、ROCKHURRAH的にはどうでもいい類いのシロモノ。
ヴォーカルが長髪美青年みたいなルックスでティーンの人気をさらってたのだろうと勝手に推測する。
別の時代の映像はポジパンみたいな化粧してる姿もあったので余計に見た目と音楽性のギャップがすごい。

このVirusの快進撃は続いて、デビューから1987年までは毎年アルバムが出ていたんだが、88年にヴォーカルのフェデリコ・モウラがエイズで死去、その後は弟が後を継いでヴォーカルとなったという。
まるで「タッチ」の逆みたいな感じだが、デヴィッド・ボウイの前座なども務めた事があるというからアルゼンチンではSoda Stereoと双璧をなすバンドだったんだろう。
Soda Stereoの場合は解散後だったけど、メインのヴォーカリストがいなくなった後に残されたバンドの継続というのもかなり難しい問題だろうね。
これから忘年会シーズン、年末年始を控えてるのでバンドのヴォーカリストの方は特に健康に気をつけてご自愛を。

ではまた、テゥパナンチス カマ(ケチュア語で「さようなら」) 

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