ゼロ・ダーク・サーティ鑑賞

【ゼロ・ダーク・サーティのポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

かなり前から「ハート・ロッカー」を監督した、キャスリン・ビグローの新作情報は知っていた。
2011年5月1日のウサーマ・ビン・ラーディン殺害に関する映画だという。
最近よく見かける「Based on a true story」(事実に基づいた話)とのこと。
ミリタリー系映画で、しかも事実に基づいているとは!(笑)
全面協力したCIAによる国家機密の漏洩が問題視される、なんて聞いただけでもワクワクしちゃうよ。
公開日を心待ちにしていたSNAKEPIPEである。

公開されてすぐに出かけたSNAKEPIPEとROCKFURRAHは、映画館の選択に失敗した。
この日は非常に風が強く、飛ばされそうになりながらやっとの思いで映画館に到着。
土曜日の初回だったため、それほどお客さんは入っていないのに…。
何故だかSNAKEPIPEとROCKHURRAHが予約した座席周辺だけ満員状態!
前日に座席予約状況を確認した時には、まばらだったはずなのに。
その周辺以外はガラ空きなのに、何故?
映画はゆっくり、広々した場所で鑑賞したかったなあ。
しかも初めて行ったその映画館は、通路が狭く出入り口は一箇所のみ。
万が一の災害や火災の時、退路が確保できるとは思えない構造だった。
どことは言わないけれど、2度と行かない映画館に決定!(笑)

※ネタバレしていますので、鑑賞前の方はご注意下さい。
長い長い新作映画の予告がやっと終わり、ようやく本編の上映が始まる。
映画の冒頭は9.11同時多発テロの音声を再現していた。
「ママ、助けて」や「怖い」といった生々しい声を暗闇の中で聞くのである。
SNAKEPIPEは幸いにも、9.11で友人や知人を失っていない。
ニュースでしか知らないのにも関わらず辛くなってしまうのだから、実際にテロを経験した人や大切な人を失った人はどう感じただろうか。
経験の有無や、国際情勢に明るいか、など人によって捉え方が違うと思うけれど、2011年にウサーマ・ビン・ラーディンが殺害されたニュースを聞いた時にも、 「ずっと捜索を続けていたんだ!」
という驚きがあったのは、SNAKEPIPEだけだろうか。
「ゼロ・ダーク・サーティ」は10年にも及ぶ、ウサーマ・ビン・ラーディン捜索、捕獲作戦と殺害を描いた作品である。

主人公は20代半ばのCIA女性分析官、マヤ。
アメリカ人女性の中では、かなり華奢な体格。
イメージするCIAとは、かけ離れた外見である。
「高校の時にリクルートで」と、何故CIAになったのかを問われたマヤが話していた言葉。
高校生?リクルート?
そもそもCIAって?(笑)
CIAとは、アメリカ中央情報局(Central Intelligence Agencyの略)で、対外諜報活動を行うアメリカ合衆国の情報機関とのこと。
活動内容は、情報収集、情報操作なんて書いてあるけど、難しいよね?
アメリカのCIAと並んでロシアのKGBなどは、国のために秘密裏に工作活動をしている機関という認識で良しとするか。(笑)
それにしてもCIAの「I」がインテリジェンスの略だとは知らなかったな。
当然だろうけど、優秀な人が就ける職業だよね!

どうやったらCIAの一員になれるんだろう?
検索して出てきた答えが本当のことなのか検証できないけれど、一応情報として載せてみようか。
運転免許証を持ち、視力、聴力、健康状態が良好で、世界中にあるCIA海外支局での勤務が可能な、23歳から35歳までの米国市民なら、誰でもCIAに応募できるとのこと。
ただし、やはりインテリジェンスな集団なだけあって、IQが通常の人間よりもかなり高い人が採用されるらしい。
応募資格だけならクリアできても、IQレベルのクリアに加えて採用試験の合格、そして厳しい訓練に参加して心身鍛錬をする。
身元を隠して任務を遂行することが多いため、外国に派遣された人が逮捕をされてもCIA本部が助けてくれるとは限らない、なんてこともあるみたいだよ。
かなり過酷な任務が待っているというのに、CIAには毎年多くの人が応募するとのこと。
採用されても、「CIAに合格したよ!」と自慢もできないのにね。(笑)
愛国主義者が多い国民性ということなのかな?
そしてきっと主人公マヤは、高校時代に実施されたIQテストで興味深い結果を出して、青田買いされたのではなかろうか?
これ、ただのSNAKEPIPEの予想だから当てにしないでね。(笑)

頼りなさそうに見える、今回の主人公マヤは、その優秀なCIAの中でも更に抜きん出た才能を持つ分析官。
何年経っても、ウサーマ・ビン・ラーディンの居場所どころか、情報すら掴みきれていないパキスタン・イスラマバードのCIA秘密基地にマヤが送り込まれるのである。
着任早々、ウサーマ・ビン・ラーディンを守る傭兵のフォーメーションについての指摘をしたり、アラブ系の名前についての知識の深さを知らしめる。
ははあ、これがマヤが抜擢された理由なんだな、と解り始めるのだ。
アメリカで議論がされたという、拷問のシーンでも最初は目をそむけていたのに、徐々に慣れたのか男性に拷問させながら、平然とした顔で質問を繰り返す。
華奢とか頼りないって言って、ごめんなさいっ!

ひたすら顔写真とにらめっこ、拷問シーン、拷問ビデオの検証などの地道な似たような時間の長いこと!
CIAによる捕えたイスラム教徒への拷問は、かなり強烈。
あれを見て、マネをする人がいないかとヒヤヒヤしちゃったSNAKEPIPE。
すごーく苦しそうだったからね。
拷問を行なっていたCIAの男性が
「もう嫌だ。アメリカに帰る。100人以上拷問してるよ。」
と言った時はホッとしてしまった。
拷問の最中は、ちっとも嫌そうな顔してなかったから。
ああ、この人も普通の良識を持った人なんだって思ったからね。
そして、それだけの人数を捕えて口を割らせようとしても、ウサーマ・ビン・ラーディンの居場所が分からないんだ、ということも同時に知ることになる。
これ、単なるイメージだけど、イスラム圏の方って結束が堅い感じするよね?
絶対裏切らない、それこそ死んでも喋らない。

やっと「第2の人生をやり直すことができる」程の金額と引き換えに、ビン・ラーディンの情報提供をしてくれる医師とコンタクトを取ることに成功する。
CIA基地内で医師を出迎えるCIA職員。
「ようこそいらっしゃいました」
歩み寄った矢先、爆発が起きる。
情報提供者である医師は情報ではなく、爆弾を運んできたのだった。
CIA職員も多数犠牲となり、情報も得られないという最悪の状態である。

外部と接触すればテロの可能性があり、捕虜の拷問による自白もままならない。
自ら外出しても襲撃されてしまう。
そんな八方塞がりの状況下で、マヤは今まで集めた写真や映像などの資料を再点検し、あることに気付く。
かつて死亡した、と伝えられていた重要人物が別人ではないか、と言い出すのだ。
これ、確かにものすごく重要なポイントね。
何故なら、アラブ系の方の顔を区別するのって難しいと思うから。
上の写真は「ゼロ・ダーク・サーティ」の中で使用されていた、壁に貼られたテロリストの顔写真一覧である。
ターバン巻いて口髭や顎髭はやして、全体に白っぽいユルユルの服装だと誰が誰だか判断し辛いよね?
アラブ系の事情に詳しいマヤは、顔の判別も得意だったのね。
再調査してみると、本物の(?)重要人物はまだ生きていて、その人物こそがビン・ラーディンの連絡係だ、と判明する。

ここから一気に話が進んで行く。
連絡係の足取りを追い、その棲家を特定。
衛星写真で家を撮影すると、女性3名と男性2名の存在が浮かぶ。
何かしらのセンサーにより、それらの人物が全て成人している男女であることが判明。
「女性が3名いるならば、3組の夫婦と思われるため、男性がもう1名いるはず」
とマヤが推測する。
男性もう1名は本当にいるのか?
男性がいると仮定した場合、それが標的であるビン・ラーディンなのか?
ビン・ラーディンが衛生写真で確認できたのならば、話は簡単だったけれど、その確認ができないまま月日だけが流れていく。

マヤは「なんで突入しないのよっ!」とイライラしていたけれど、確証もないのにアメリカ軍が突然民家に押し入るわけにはいかないもんね?
万が一ビン・ラーディンがいなかったら、と考えると及び腰になってしまうのもうなずける。
それなのに何故だかマヤは「100%この家にいる」と断言するのだ。
この自信、どこから来るんだろう?
もちろん状況から判断して、ということになるんだろうけど、SNAKEPIPEは「単なる勘」だと思った。
そしてその「マヤの勘」に賭けて、突入にGOサインを出したアメリカ政府はすごいな!

ついに捕獲作戦が幕を開ける。
舞台となるのは、アフガニスタンとの国境から100マイル離れた、パキスタンの郊外アポッターバードにあった、広さ38000平方フィート(3530m2)のビン・ラーディンの3階建ての隠れ家である。
公開されている情報と設計図を元に、ヨルダンにこの隠れ家を完全再現しちゃったというから驚きだね!
確かに写真などで確認できる建物と、区別ができない程の出来栄えだったよ。
そして作戦決行の日と同じような、月のない暗い夜を選んで撮影したとのこと。
実際の作戦を再現する映像だから、このあたりからの画面が暗いんだよね!
それでも暗闇の中で何が行われているのか、手に汗握るような緊張感を持って食い入るように画面を見つめてしまう。
上の写真は、シールズ隊員が装着している赤外線スコープから見た映像を再現した様子である。

ああ!赤外線スコープ!(笑)
SNAKEPIPEが一番初めにスコープから覗いた映像を観たのは恐らく「羊たちの沈黙」だろう。
バッファロー・ビルがFBI訓練生であるクラリス・スターリングを覗き見するシーンである。
見る/見られるという立場の違いは、見られる側に弱者であることを認識させ、見る側にはより強力な優位性を与えていた。
加えて「覗き」という行為の変態性も露呈してくれた、秀逸な演出だったよね!
何度観ても、あのシーンはドキドキするSNAKEPIPE。
そのため赤外線スコープとか暗視スコープという言葉を聞くだけで、ドキドキする、という条件反射が起きてしまうのだ。
どちらにしても赤外線スコープを使う時というのは、相手には知られないように秘密に行動する時。
「ゼロ・ダーク・サーティ」の突入シーンも当然ながら、気付かれないように侵入する状況である。

ゼロ・ダーク・サーティ(深夜0:30)、作戦決行の時間である。
「あのUBLの捕獲だって!?」
作戦内容を聞いた時に驚き、ウサーマ・ビン・ラーディンの頭文字からUBLと呼んでいたネイビーシールズ対テロ特殊部隊「DEVGRU」がステルス型UH-60ブラックホークヘリコプター2機に分乗する。
建物の敷地内にロープをつたって降下、建物を急襲する。
約40分後には邸宅を制圧してしまう。
そして屋内に隠れていたビン・ラーディンも殺害するのである。
とても意外だったのが、本当に本物のビン・ラーディンが潜んでいたのに、警護する人員が建物内に配属されていなかったこと。
SNAKEPIPEは、あれほどの重要人物だったら、24時間・360度をギッチリ重厚な隙のない警備体制を敷いているはずだと勝手に思い込んでいたよ。
映画の中では一人だけビン・ラーディン側の男性が発砲していたけれど、あっさりシールズにやられていて、その後応戦する気配すらなかった。
建物を制圧した後は証拠品として、殺害したビン・ラーディンの遺体やハードディスク関連を押収し、ヘリコプターで運び込み、作戦は終了するのである。

ここでSNAKEPIPEにはちょっと疑問が。
アメリカ側からすれば「9.11同時多発テロ首謀者であるビン・ラーディンを殺害するための作戦」ということだけど…。
パキスタンから見ると、領土内に不法侵入され、民家を襲撃、発砲、殺人、更には略奪行為をされたということになるのでは?
Wikipediaによれば、やっぱりパキスタン側から主権侵害であると非難があったとのこと。
世界的には歓迎の声が多かったようだけど、立場を変えてみると違う感想を持つこともあるよね。

「100%この家にいる」と断言したマヤの勘は大当たりだった。
ヘリコプターで運ばれたビン・ラーディンと思われる遺体と対面したマヤは無言でうなずく。
間違いない、ビン・ラーディンだ、と。
マヤの確認が決め手となり、ついにアメリカ大統領の、あの発言「Justice has been done」を聞くことになる。
こうして10年に及んだマヤの追跡は終わるのである。
全く表には出てこない、匿名のまま任務を終えるCIA職員の活動が良く解る映画だった。
今でも世界のどこかで、この映画のモデルとなった女性CIA分析官が活躍してるんだよねえ。




20XX年X月X日に何があった、また違う日にはこんなことがあった、というように実に淡々と映画が進んでいくため、ドキュメンタリー映画を観ている気分にさせられた。
前作のアカデミー賞を総なめにした「ハート・ロッカー」も戦争映画だったし、今回も「女流監督」というイメージとはかけ離れたクールな視線で撮られた作品である。
男女同権を謳っているアメリカ社会に属している主人公マヤが、性差別を感じさせる場面に直面したシーンを採り入れている辺りに、女性の目線を読み取ることができるかもしれない。
そしてこの感想は同性だから感じることなのかもしれないけどね?

この映画を監督したキャスリン・ビグローとはどんな女性なんだろう?
上の写真は演技指導中の(?)キャスリン・ビグロー監督である。
一番右に写ってる女性なんだけど、スラリとした長身で、監督ご本人がこの映画の主役でも良かったと思ってしまうほど決まってるよね?
サングラスを外したお姿がその次の写真。
OH~ッ!ビューチホーーーッ!(笑)
1951年生まれの61歳?見えない、見えないっ!
こんなに素敵な、美貌の女性が監督していたなんてビックリ!
「ターミネーター」や「エイリアン2」でお馴染みの、ジェームズ・キャメロン監督は5回結婚しているらしいんだけど、キャスリン・ビグローはその3回目の時のお相手なんだって。
第82回アカデミー賞を元夫婦で争い、主要部門は元妻が勝ち取ることになるとは。(笑)
SNAKEPIPEは「アバター」を観たことがないし、「タイタニック」もこれから先鑑賞することはない映画と断定できるので、キャメロン監督作品よりずっとキャスリン・ビグロー監督作品が好み。
キャスリン・ビグロー監督の次回作はどんな映画になるんだろう?
「ハート・ロッカー」の冒頭で
War is a drug(戦争は麻薬だ)
という言葉があったけれど、ビグロー監督自身が中毒になっていたとしたら、次もまた戦争を題材にした映画になるんだろうか?
楽しみに待ちたいと思う。

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