【江之浦測候所入口を撮影】
SNAKEPIPE WROTE:
写真家で現代アーティストの杉本博司が、2017年に竣工した「江之浦測候所」については、以前より知っていた。
蜜柑畑だった11,500坪の広大な敷地に、ギャラリーや野外舞台、茶室、庭園などが配された複合アート施設だという。
正式名称が「小田原文化財団 江之浦測候所」で、場所が小田原なんだよね。
遠い場所だから行くのは難しいと思っていた。
ところが昨年、ROCKHURRAH RECORDSの事務所移転で神奈川県民になったので話が違ってくる。
小田原がそんなに遠くなくなったんだよね。(笑)
「江之浦測候所」は2ヶ月前から予約受付を開始しているので、8月の間に10月訪問の予約をする。
野外を歩くことになるので、季節の良い時期を選んだんだよね!
そしてついに予約当日になった。
いつ雨が降ってもおかしくないような「どんより」した空模様。
「雨男」と呼ばれなくなって久しいROCKHURRAHと共に、根府川駅に向かったのである。
根府川駅は東海道線で小田原から2つ目の無人駅。
江之浦測候所行きの始発バスを予約していたので、そんな早い時間に人がいるわけないと想像していたSNAKEPIPEは目を見張る。
改札を抜けた先に約20名ほどの行列ができているじゃないの!
江之浦測候所ってそんなに人気なのか!と驚いていると、大型のバスが駅前に到着。
バスには「ヒルトン小田原リゾート&スパ」と書かれていて、お客さんや従業員らしき人が続々と乗り込んでいく。
根府川駅から無料送迎バスが出ているんだね。
ヒルトンより小型の江之浦測候所行きのバスも到着し、ROCKHURRAHと乗り込む。
定員20名ほどのバスは、いつの間にか満席になっていた。
江之浦測候所は安全性を考慮し、乳幼児を含む中学生未満の入場を禁止している。
子供がいない代わりに、高齢者の姿が多い。
60代から70代の女性3人組が車内で雑談を始め、騒々しい。
海外からのお客さんもバスに乗っている。
バスのドライバーも高齢に見えたけれど、ハンドルに握った瞬間F1ドライバーに変身したようだ。
くねくねとした坂道を猛スピードで駆け抜け、スリルを楽しんでもらおうとしているよう。
車に弱いSNAKEPIPEは目をつぶり、景色を観ないことにする。
気分が悪くならないようにね!
10分もかからずに到着し、バスから開放される。
ここからは徒歩になるよ。
駐車場から受付まで細い山道を上ったり下ったりしながら参道を進み受付を目指す。
「歩きやすい服装、靴でのご来館をおすすめします」とサイトに注意されているのも納得だね。
事前に購入していたチケットを受付に見せると、入館を示すシールを服に貼るよう指示され、パンフレットを手渡される。
受付から一番近い建造物が「夏至光遥拝ギャラリー」で、杉本博司の代表作である「海景」が展示されている。
美術館で観るのとは違う印象で、「あるべき場所におさまって」いて素晴らしかったよ!
アート作品は背景や空気も一体となって完成することに改めて気付かされたね。
100m先まで歩いていくと、眼の前に相模湾が広がっている。
海外の豪邸に足を踏み入れたみたいだよ。(笑)
こんな風景を独り占めできたら素晴らしいだろうなあ。
続いて向かったのは「冬至光遥拝隧道」の上部。
冬至の日に光が差し込むように設計されているトンネルは、70m相模湾側に突き出ている。
「止め石」という「立入禁止」を示す石まで歩き、前方を眺める。
SNAKEPIPEもROCKHURRAHも高所恐怖症だけれど、眼前に広がる景色に胸がすく。
くもり空だったことも幸いしていたかもしれないね。
眩しさもなかったので、しばらく海を見ていたよ。
「冬至光遥拝隧道」横にある「光学硝子舞台」と呼ばれるカメラレンズに使用される光学硝子で作られた舞台は、光を反射することなく単なる台にしか見えなかったのは残念だったかも。
「冬至光遥拝隧道」の中を歩く。
「止め石」から先の風景がこちら!
ここに冬至の光が差し込んだら美しいだろうね。
今年は12月21日に「冬至光遥拝の会」が開催されるらしい。
パンフレットにその時の写真が載っていて、神々しいよ。
1年に2回だけ光が差し込むエジプトのアブ・シンベル神殿やマヤ文明のククルカン・ピラミッドなど、太陽光を計算して作られた建造物と同じだよね。
「古代人の意識」をテーマにしている江之浦測候所らしい建造物だと思ったよ。
相模湾と逆の出口に向かう。
70mの間には天井から光を取り込む空間があった。
真ん中にある井戸には、硝子が入っていて光を反射していたよ。
荘厳な雰囲気に酔いしれるはずのROCKHURRAHとSNAKEPIPEに邪魔が入る。
バスで一緒だった高齢の3人組女性達が、はしゃぎながら同じ空間に入ってきてしまったのだ。
嫌な予感が的中してしまい、非常に不快になる。
場所をわきまえない会話をしたり、行動を律することができない人は、入場制限すべきではないだろうか。
何のために江之浦測候所を訪れたのか、目的が不明だよ。
あんな連中に出くわしてしまったのが不幸だね。
トンネルを抜けた先には、円形石舞台があった。
真ん中の石に立ってみる。
イメージは邪馬台国の卑弥呼だよ。(笑)
古代人が祭祀で歌い踊る姿が想像できる。
杉本博司は石に対してこだわりがある話を、以前テレビで見たことがあったよ。
選びぬかれた石が配置されているんだね。
他の場所も探索してみよう。
入室ができない茶室「雨聴天」を見たり、広大な「みかん畑」を進んでいく。
最初にマップをもらっているけれど、方向音痴のSNAKEPIPEには意味がないものだよ。(笑)
歩道になっている道を歩いていくと、建物が見えてきた。
坂を下ると小屋の前にスタッフの姿も見える。
ここは杉本博司の化石コレクション展示場だったんだよね。
手前にある大きな岩(?)は4億年以上前のウミユリの化石で、後ろの棚に並んでいるのはアンモナイトなど2億年前の化石だという。
古美術商としての経歴を持つ杉本博司なので、化石もコレクションしているんだね。
博物館以外でここまで多くの化石を観たのは初めてかも。
「竹林ルート」を通って山道を歩く。
風景に溶け込むように、杉本博司の彫刻作品「数理模型」が展示されている。
2023年7月に森美術館で開催された「ワールド・クラスルーム」で、杉本博司の三次関数の数式を立体化する「観念の形」シリーズを鑑賞しているROCKHURRAH RECORDS。
自然の中にシルバー色の彫刻が配置されているのも素敵だったよ!
道なりに沿って歩いていくと「甘橘山 春日社」が見えてきた。
複数の石灯籠が見事に配置されていて、圧巻の風景だったよ。
「甘橘山 春日社」は海をバックにしていて、朱色がより一層鮮やかに見えた。
まるでアート作品のようだったよ!
ROCKHURRAHがマップを確認し、まだ見学していないエリアを特定してくれた。
2時間程度歩き通しだったので、石庭のベンチで一休み。
中央の石は平安時代の東大寺七重塔礎石だったものらしい。
枯山水の中央に置かれて、存在感があった。
外国人観光客は、江之浦測候所で存分に「ザ・日本」を感じることができるんじゃないかな。
SNAKEPIPEも改めて日本の美意識を認識したよ。
特別な空間を見学できて良かった。
杉本博司の「海景」を真似て撮った一枚がこれ。
どんよりした雲がたれこめて、良い写真だね。(笑)
杉本博司は映画の最初から最後まで露光した「劇場」シリーズや古代人が見たであろう海を撮影した「海景」シリーズなど、「時」をテーマにした作品を多く手掛けているアーティスト。
江之浦測候所も「古代人の意識に立ち返る」ために創設され、今後1万年は存在し続けることを想定した施設であるという。
古代から未来に向けた壮大なスケールで構想を練った杉本博司の頭の中を知りたくなるよ。(笑)
日常から離れたショート・トリップで心身が蘇った感じ。
帰りに小田原でいただいた「魚フライ定食」も絶品で、とても美味しかった。
ROCKHURRAH、ごちそうさまでした!
またどこか鑑賞に行きましょう。