SNAKEPIPE MUSEUM #71 Fortunato Depero

20240825 08
【1927年初版のデペーロ作品集。ボルト留めにグッと来るよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

画像検索している時に、偶然目にした一枚の絵を観て驚きのあまりROCKHURRAHに声をかける。
「この絵がすごくカッコ良い!」
興奮しているSNAKEPIPEに冷たい視線を送るROCKHURRAH。
「もう何年も前に、そのアーティストについて知らせたよ」
ROCKHURRAHから教えてもらっていたのに、SNAKEPIPEが無反応だったというではないの。
人の話はちゃんと聞かないとダメだよね。(笑)

アーティストの名前はFortunato Depero、カタカナにするとフォルトゥナート・デペーロになるのかな。
イタリア未来派の画家でデザイナーだという。
帽子が似合う伊達男がデペーロご本人!
そういえば2024年元旦のROCKHURRAH制作のポストカードが、未来派を意識した作品だったことを思い出したよ。
SNAKEPIPEは詳しくないので、まずは未来派について調べてみようか。

未来派とは、フトゥリズモ(伊: Futurismo、フューチャリズム、英: Futurism)とも呼ばれ、過去の芸術の徹底破壊と、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。
この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開された。
1920年代からは、イタリア・ファシズムに受け入れられ、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」として賛美した。
1909年、イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティによって「未来派宣言」が起草されたことが発端である。
(Wikipediaより抜粋)

1924年にアンドレ・ブルトンが「シュルレアリスム宣言」を発表する15年前に「未来派宣言」があったとは!
音楽や建築にまで範囲が及んでいたことにも驚いてしまう。
ノイズ・ミュージックの元祖といえる「騒音芸術」が誕生したり、「新都市」という建築デザインが発表されるなど、未来派も面白そうだね!
戦争礼賛に結びついてしまった点は共感できないけれど、作品には興味あるよ。
続いて、今回特集するフォルトゥナート・デペーロの経歴を調べてみよう。

1892 トレンティーノ生まれ(当時はオーストリア)
1910 大理石職人の見習いとして働く
1911 社会的リアリズムと象徴主義のデッサンを展示する
1913 散文、詩や象徴主義のデッサンが収められた小冊子「Spezzature: Impressioni – Segni – Ritmi」を出版
1914 ローマを訪れ未来派芸術家に出会う
1915 「Ricostruzione Futurista dell’Universo(未来派宇宙再建宣言)」に署名
1917 バレエのコスチューム・デザインを手掛ける
1923 未来派の家を再装飾し、「未来派の夜会」(Veglie Futuriste)を開催
1925 パリで開催された「国際装飾工業芸術展」に参加
1927 20世紀の印刷の歴史における傑作とされる「Depero Futurista(デペロ・フューチュリスタ)」を出版
1934 ミラノで開催された第5回トリエンナーレに未来派グループと共に参加
1936 第20回ヴェネツィア・ビエンナーレに作品を出展
1959 イタリアのロヴェレート市に「デペロ美術館」がオープン
1960 死去

冒頭に載せたのが、1927年に出版された「Depero Futurista」で、革新的なタイポグラフィのレイアウトを見ることができるという。
2017年に完全復刻版が販売されていたようで、古本屋で確認すると11万円だったよ。
この金額では手が届かないね。(笑)
年表に話を戻すと、トリエンナーレやビエンナーレには複数回参加していて、亡くなる前年まで個展の開催も行っているんだよね。
どんな作品を手掛けていたのか、紹介していこう。

1920年に制作された「La Casa del mago(The House of the Magician 魔術師の家)」は、油彩画だという。
とてもビビッドな色使いで、ポスターのようだよね。
5人の魔術師(?)が腕を磨くために練習しているように見えるよ。
室内の様子がレトロ・フューチャーとでもいうのか、昔のSF小説の挿絵にありそうな雰囲気だね!

次はデペーロが手がけた「カンパリ」のポスターと瓶の画像を載せてみよう。
「カンパリ」は苦みのあるリキュールで、ソーダやオレンジ・ジュースで割って飲むことが多いんだとか。
SNAKEPIPEは飲んだことがないかもしれないな。
イタリアでは古くから親しまれているアルコールのようで、広告にも力が入っているみたい。
1928年に制作されたデペーロのポスターは、背景が黒というのが憎い演出だよね。
カンパリ・ソーダの瓶もデペーロのデザインだって。
円錐形でオシャレなだけではなく、上下と交互に積むことができるため、輸送コスト削減にもなったという。
まさに機能性とデザイン性を兼ね備えた逸品!
瓶のデザインは1931年とのこと。
その当時、国際的パッケージング・デザイン・コンペティション「pentawards」があったら、確実にダイヤモンド賞獲得できるデザインだよね。(笑)

広告デザインでも、こちらの提案は会社から却下されたものらしい。
ピレリのガスマスク広告だって。
左のポスター上部に鉛筆書き(?)されているのは「ピレリのマスクは誰にでもフィットする」で、右のポスターには「落ち着いて!ガス防護は簡単だ」とコピーがあるみたい。
このポスターが制作されたのは1938〜1939年らしいので、不穏な時代だよね。
シンプルな構図と色味で強いインパクトを感じるデザインだよ。

1927年12月に刊行された「Emporium magazine」のカバー・デザイン。
黄色、オレンジ、黒という3色だけを使用したタイポグラフィが見事!
まるで曼荼羅のように9分割した正方形に、「Emporium」のアルファベットを45℃の角度に配置しているセンスの良さには脱帽だよ。
このデザインはROCKHURRAHが気に入っていて、自作でTシャツ作っていたほど。
Tシャツ持ってることはSNAKEPIPEも知っていたけれど、デペーロのデザインとは知らなかった。
それにしても、確か先週も「悪魔のいけにえ」について書いている時「ROCKHURRAH自作のTシャツ」というフレーズ使ったね。(笑)

今日も発行されている「ニューヨーク・デイリーニュース」の前身である「THE NEWS: NEW YORK’S PICTURE NEWSPAPER」から1930年に発行された「NEWS AUTO ATLAS OF THE UNITED STATES & CANADA AND METROPOLITAN NEW YORK」のカバー・デザイン。
リトグラフで制作された作品、色合いがとても美しいよね。
これは「アメリカ、カナダ、ニューヨークの自動車向けの地図」ということになるのかな。
デペーロは1928年から1930年までニューヨークに滞在していたようなので、デザインを発注されたんだね。
アメリカにもデペーロの名声が轟いていたことが分かるよ。
現代のようにカー・ナビがない時代、一家に一冊、この地図持ってたんだろうね。(笑)

最後はこちら!
なんとも可愛らしい木製の作品だよ。
これは1918年にデペーロが手がけた「Balli Plastici(プラスティック・バレエ)」という機械や人形を使った舞台作品で使用されたマリオネットとのこと。
どんなストーリー展開だったんだろう。
人形が動いて、誰かが吹き替えしてたのかなど、気になるよね!(笑)

デペーロの作品は、鑑賞していてとても楽しかったよ。
絵画、グラフィック・デザイン、インダストリアル・デザイン、舞台やコスチュームなどありとあらゆる作品を残しているんだよね。
検索していて「これはROCKHURRAH紋章学で特集したい!」と思うシリーズも発見したので、デペーロについてはまた別の機会に特集を続けるつもりだよ。
どうぞ次回もお楽しみに!

映画の殿 第66号 X・Pearl

20240818 top
【「X」と「Pearl」の主演女優ミア・ゴス。化粧や髪型で雰囲気変わるよね】

SNAKEPIPE WROTE:

お盆休みが今日で終わりという方が多いんじゃないかな?
ROCKHURRAH RECORDSでは、お盆休みというほどの休みは取っていなくて山の日を絡めた4連休だけ。
特にどこかに出かけることもなく、家に引きこもっていたよ。
今年は「危険な暑さ」の夏だから尚更のこと、食材を買うために近所のスーパーに出るくらい。
家の中にいるのが一番安全だからね。(笑)
時間に余裕があるので、映画鑑賞していたよ。

今回は2022年に公開された「X エックス(原題:X)」とその続編である「Pearl パール(原題:Pearl)」を特集してみよう。
実は、ROCKHURRAH RECORDSでは、続編の「Pearl」から観てしまったんだけど、制作年順に「X_から書いていくことにする。
まずはあらすじから。
※ネタバレしている可能性がありますので未鑑賞の方はご注意ください

1979年、テキサス。
女優のマキシーンとそのマネージャーで敏腕プロデューサーのウェイン、ブロンド女優のボビー・リンとベトナム帰還兵で俳優のジャクソン、そして自主映画監督の学生RJと、その彼女で録音担当の学生ロレインの3組のカップルは、映画撮影のために借りた田舎の農場へ向かう。
彼らが撮影する映画のタイトルは「農場の娘たち」。
この映画でドル箱を狙う――。
6人の野心はむきだしだ。
そんな彼らを農場で待ち受けたのは、みすぼらしい老人のハワードだった。
彼らを宿泊場所として提供した納屋へ案内する。
一方、マキシーンは、母屋の窓ガラスからこちらを見つめるハワードの妻である老婆パールと目があってしまう……。
そう、3組のカップルが踏み入れたのは、史上最高齢の殺人夫婦が棲む家だった。
(公式サイトより)

あらすじだけでも十分怖いよね。
トレイラーも観てみよう。

6人が田舎に車で向かい、ポルノ映画を撮る計画をしているんだよね。
あらすじやトレイラーからも分かるように、「X」はホラー映画!
舞台が70年代というのも、「いかにも」な雰囲気がプンプンするよね。(笑)
どうやら「X」は1974年に公開されたトビー・フーパー監督の「悪魔のいけにえ(原題:The Texas Chain Saw Massacre)」へのオマージュ作品みたい。
「悪魔のいけにえ」といえば、自作でTシャツを作っていたほどROCKHURRAHが大好きな映画だよ。
せっかくなので、「悪魔のいけにえ」も鑑賞してみることに。

舞台は1973年のテキサス。
若い男女5人がバンに乗って里帰りする、という特段変わったことがないシーンからスタートする。
ド田舎に行くのに、ガス欠の心配がある点がポイント!
ガソリンを分けてもらおうと立ち寄った家で惨劇が起きる。
有名な「レザー・フェイス」の登場だね!
何の前触れもなく現れて凶行する、危ないタイプ。
それでもお爺さんを大事にしていたり、父親のお仕置きを恐れていたところに人間味があるよ。(笑)
50年前に公開された映画だけど、今観ても非常に怖くて、ホラー映画の金字塔であることが分かるね。
「こんな映画を撮ってみたい」と憧れる人が多かったことも想像できる。
「悪魔のいけにえ」のトレイラーも載せておこう!

「X」の監督も「悪魔のいけにえ」に羨望のまなざしを送っていたに違いない。
同様のシチュエーションを演出し、周りを見渡してもあるのは老夫婦が住んでいる家だけ、という田舎を設定している。
大きく違っているのは、レザーフェイスのような大男ではなく、やせ細った老婆を狂気の人物に据えた点だね。
「若いもんには負けん!」みたいな元気な老人が出てくる映画について、2017年5月に「映画の殿 第24号 ハッスル老人」として記事にしたことがあったっけ。
ハッスルという言葉が死語がどうかは抜きにして(笑)、どちらかというと応援したくなるタイプの老人が主人公だったよ。
今回の「X」に関しては、不気味で醜悪な老婆に共感する部分は見つからなかったSNAKEPIPE。

ここで思い出したのが「レクイエム・フォー・ドリーム(原題:Requiem for a Dream 2000年)」に登場した主人公の母親のこと。
若かった頃のように痩せて美しくなりたいという願望を持ち、ドラッグ中毒になってしまうんだよね。
藤原新也の著作「アメリカ」の中だったと思うけれど、歴史あるものを大事にするヨーローッパに対し、ブランニューなものを喜ぶアメリカのような文章を読んだ記憶がある。
若さと美しさを求める気持ちは誰もが持っていると思うけれど、強すぎるのは問題だよね。
張りのある肌を持つ若い女性への羨望と衰えない性欲を持った「X」の老婆パールは、殺人によって自らを慰めていたみたいだよ。
載せた画像は「裸にオーバーオール」のマキシーン。
この服装はデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの「カモン・アイリーン」のMVと同じなんだよね。
この意味分かってくれると良いんだけど。(笑)

「悪魔のいけにえ」以外にも、斧で破られたドアの隙間から叫ぶシーンでは「シャイニング(原題:The Shining 1980年)」、ソバカスいっぱいの顔からは「キャリー(原題:Carrie 1976年)」の影響を受けているように感じた「X」。
続編は「X」で老婆だったパールの若い頃の話になる。

「Pearl」のあらすじを書いてみよう。

スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳格な母親と病気の父親と人里離れた農場で暮らしている。
若くして結婚した夫は戦争へ出征中で、父親の世話と家畜たちの餌やりの毎日に鬱屈とした気持ちを抱えていた。
ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、ますます外の世界へのあこがれを強めていく。
そして、母親から「お前は一生農場から出られない」といさめられたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発する。(映画.comより)

トレイラーはこちら。

1979年の「X」より約60年前の1918年を舞台にした「Pearl」でも、ミア・ゴスが主演なんだよね。
ドイツ移民で、何事にも厳しい母親の抑圧ぶりが凄まじい。
父親は自分で体が動かせない障害を持っていて、パールが面倒を見ている。
「X」でもヌードを披露していたパールだけど、「Pearl」でもお風呂のシーンがあり、すっぽんぽんに抵抗がない女優なんだね。
ホラーにエロチック要素が加わっているところも、ファンが多い理由かもしれない。

1910年代のアメリカでは、何歳から結婚できたんだろう。
パールはすでに結婚していて、夫が従軍しているんだよね。
家にいると農場の仕事や父親の世話に追われ、楽しい時間がないパールが唯一楽しみにしていたのが映画鑑賞。
映画技師と知り合い、人妻でありながら浮気してしまうパールは「どこかに連れて行ってくれる人」が欲しかったんだろうね。
裏切られたと知ったら悔しさのあまり、感情を爆発させてしまう。

パールに親切に接しているブロンドの女性は、夫の妹。
夫の実家は少し裕福なようで、身なりが整っている。
食料を分け与えてくれたのに「施しを受け、侮蔑されている」として、決して口にしないパールの母親は頑固過ぎかも。
ただ、夫の実家側も「与えている」として優位さをアピールしているように見えたので、お互い様の関係なのかもしれない。
ブロンドの妹が、凶行に遭うシーンはすごかった!
画面を2分割する「デ・パルマ・カット」で、残酷なシーンを映し出していたからね。
最初からパールの様子がおかしかったことに気付かなかった妹は、ホラー映画でお約束のように犠牲者になるタイプ。
鑑賞者の期待を裏切らず(?)まんまとパールにやられたね。(笑)

「X」の殺人老婆パールの来歴が明らかになる「Pearl」。
外的要因が引き金になったにしても、元来残酷な一面を持っていたことが分かる。
主演のミア・ゴスは「X」と「Pearl」でホラー映画界の女王として君臨したみたいだね。
次作は「X」の6年後、1985年を舞台にした「MaXXXine」で、アメリカではすでに公開されているようだね。
ROCKHURRAH RECORDSでは、またいつか観られる時を楽しみに待っていよう!

ROCKHURRAH RECORDS残暑見舞い2024

Summer2024

 

 


【相変わらずあまり夏を感じないROCKHURRAH作のポストカード】

ROCKHURRAH WROTE:

とてもお久しぶり、のROCKHURRAHが登場。
ブログをずっと書いてなかったなと思ったら、案の定、今年の元旦に書いたっきりだったな。
しかもその前は去年の残暑見舞い・・・もはや本気で盆と正月にしか出てこない人物となってるようだ。

近況と言えるほどのトピックは特にないが、SNAKEPIPEがブログ書いてる時は大体横にいて画像担当したり、展覧会などに行った記事を書いた時は文中に出て来なくても大抵は横にいると思ってもらえばいい。
とっても静かなので黒子にはうってつけ。

去年の夏からずっと家のリノベーションに明け暮れていて、引っ越してからもチマチマと改良を加えて、ようやく完成形に近づいてきたのが嬉しいよ。
シロウトがDIYの真似事をして作ったような内装だから自己満足の世界だけど、不具合のひとつひとつにも「あの時はこれが失敗だったな」などという思い出が詰まってて、愛着のある家になってるからね。

家の方が何とか住みやすくなって2人とも少しは心に余裕が出来た、というのもあって今年は早春に箱根、夏には軽井沢で遊んできた。
例年よりは少しは行動してる方かな。
どちらも誕生日記念の小旅行で関東地方に住んでる人なら簡単に行けるような場所だったが、どんなに近くても日常のルーティンを離れて過ごすひとときというのはかなりのリフレッシュにはなるね。
東京も横浜も人が多すぎ、うるさすぎ、というのがよくわかるよ。

毎年ブログで書いてるように相変わらず夏の暑さは大の苦手とするROCKHURRAH RECORDSだが、今年の暑さも尋常じゃないね。外に出るだけで過酷だよ。
SNAKEPIPEがブログ書いてる横で「いいかげんブログにも参加しなきゃな」という思いで残暑見舞いのポストカードを作ってみた。
テーマも構図も何もないところから始めて、色をつけたあたりからちょっとオリンピックを意識し始めたたのでこういう色合いになったのだ。
特にフランスっぽくはないようだが、インスタントに作った割には何となく雰囲気を出す、これぞROCKHURRAHのお家芸だな(自画自賛)。

作ってる時に頭の中を流れてたのがWireの曲「Map Ref. 41°N 93°W」だった。

単に画像がちょっと地図っぽく見えたから連想しただけで特に意味はなし。
YouTubeのタイトル、何か座標おかしくないか?
この曲はMy Bloody Valentineもカヴァーしているがやっぱりオリジナルこそが最高。
コリン・ニューマンの声は大好きだよ。

オリンピックは個人的にはゴルフ以外は注目してなかったが、松山選手が悲願の銅メダルを手にすることが出来て良かった。近年の絶対的な王者、シェフラーにあと2打だったのが実に惜しかったな。
誰でもいいからあの巨大熊みたいな勝ちすぎシェフラーをギャフンと言わせて欲しいよ。

久しぶりに登場した割には大した事も書けなくて情けないが、ブログにROCKHURRAHの名前が付いてるからにはもう少し奮起しないと。
ゆっくり書けるような時間の余裕が一番欲しいな。

では!à bientôt(フランス語で「またね」)

CULT映画ア・ラ・カルト!【17】薔薇の葬列

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【プランタン銀座横の路上で買ったVHSビデオ】

SNAKEPIPE WROTE:

NHKのドキュランドで放映された「ジェナの世界 ロシア “恐怖”と闘うアーティスト」を観た。
原題は「Queendom」で2023年の作品だよ。
ロシアで独自のアート活動を続けるジェナのドキュメンタリー映画だった。
ジェナはノンバイナリー・ジェンダーであり、過激な衣装を身に着けてパフォーマンスを行うため、全く理解されないんだよね。
ロシアというお国柄のせいもあるけれど、2023年になっても迫害されてしまうことに衝撃を受けたよ。
LGBTQは世界的に容認されていると思ったからね。
ジェナの存在やロシアの現実を知ることができて、興味深い映画だったよ。
トレイラーがあったので載せておこう。

LGBTQで思い出したのが「薔薇の葬列 (1969年)」。
てっきり記事にしていると思い込んでいたけれど、書いていなかったことが判明!
2015年以来約9年ぶりに「CULT映画ア・ラ・カルト!」を更新しよう。
※ネタバレしていますので未鑑賞の方はご注意ください

「薔薇の葬列」は松本俊夫監督の作品で、主演は当時16歳だったピーター。
家出して働いていた六本木のクラブでスカウトされたというエピソードがWikipediaに載っているよ。
この映画がピーターのデビュー作だけど、新人とは思えない堂々とした演技を見せている。
あらすじを書いてみよう。

ゲイ・バー「ジュネ」のオーナー権田とナンバーワン、エディのめくるめく情事。
二人の密会を権田の愛人でもある「ジュネ」のママ、レダが見ていた。
ベッドの中で権田はエディにささやく。
「もう少しの辛抱だ。レダを必ず辞めさせる。そうしたらお前は『ジュネ』のママじゃないか」。
ベトナム戦争帰りの麻薬の売人トニーと一夜を共にするエディ。
フーテンのゲバラたちとのマリファナ、乱交パーティの世界に引き寄せられていくエディ。
1960年代末期の新宿、六本木、原宿を舞台に、ピーターとゲイボーイたちのドラマは血の惨劇へと変わっていく・・・。
(Amazonより)

続いてトレイラーを載せてみよう。
これは2020年にアップされたようなので、当時の予告編じゃないみたいね。

「薔薇の葬列」は、1967年に公開されたパゾリーニ監督の「アポロンの地獄(原題:Edipo Re)」をベースにした映画だという。
「アポロンの地獄」は父親を殺し、母親と結婚したソポクレスの「オイディプス王」を映画化していて、「薔薇の葬列」では、父親と母親を逆転させているところがポイント。
「薔薇の葬列」の中で、ピーターがもたれかかる壁に「アポロンの地獄」のポスターが出てくるシーンがある。
松本監督がインスパイアされた「アポロンの地獄」、SNAKEPIPEも観てみようかな?

「薔薇の葬列」では、突然関係のない映像が差し込まれることがある。
左は全裸の男性が後ろを向いて立っているシーンで、一人だけ白い薔薇をはさんでいるんだよね。
予告なしに度々挿入される映像だけど、一人だけ「薔薇の世界」の住人ということが良く分かる。
ほんの数秒だけのイメージだけど、強い印象を残すよ。

ゲイバー「ジュネ」で働く同僚達。
右の和服を着ているのが「ジュネ」のママ「レダ」で、どうやら本当にゲイバーで働いている方だったみたい。
映画の中でゲイの方にインタビューするドキュメンタリーも入り、演技とリアルの区別がつかなくなるところも斬新!
薬でラリってる人のインタビューもあって、本物に見えるんだけど実際はどうだったんだろう?

ゲイバーを舞台に悲劇が進行しているかと思いきや、笑いの要素もあるんだよね。
ピーターことエディとレダの喧嘩のシーン。
漫画みたいに吹き出しを入れた言葉での言い争いの後、取っ組み合いになる。
このシーンが早回しになって、非常にコミカルだよ。
スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ(原題:A Clockwork Orange 1971年)」に影響を与えたというのは、この早回しのシーンかな?
そしてエディもレダの喧嘩がプロレスみたいになっていて、これにも笑ってしまうよ。(笑)

エディの友人達はアングラ映画を作っていて、その映像が流れるシーンがある。
1分程度の短い実験映画なんだけど、この映像がとても面白いんだよね!
まるでサブリミナルのように、1秒に満たないほどの間にイメージ画像が何カットも挿入される。
その一部を画像にしてみたよ。
ゲバラと呼ばれるヒゲの男やルーベンスの「メデゥーサの首」、皮膚をツギハギにされた男など、不気味な画像が含まれる。
エディ(ピーター)の映像は、性と死なのかな。
インパクトのある前衛映画でSNAKEPIPEは大好き!(笑)
4畳半くらいの狭い一室に、7,8人の若者が集まって騒いでいるのは、いかにも60年代の雰囲気だよね。
この時20歳だったとしたら、現在75歳くらいかな。
みなさん、今は何をやってるんだろうね?

エディが通りすがりの男に言い寄られて、逃げたのが地下の画廊。
いくら男がしつこくても、地下までは追いかけてこない。
そこで開催されていた展覧会が「池田龍雄展」。
かなりアヴァンギャルドな作品なんだよね。
まるで妖怪の「百目」ように見えてしまうのは「巨人」という1956年の作品。
複数の目は、一個人のものなのか集合体として表現しているのか。
池田龍雄は岡本太郎や花田清輝らの「アヴァンギャルド芸術研究会」に参加していた経歴があるという。
カルト映画の中で紹介されるのに、ふさわしいアーティストだよ。
作品は国立近代美術館にも所蔵されているらしいので、目にしていたかもしれないね。

写真家の秋山庄太郎やデザイナーの粟津潔、映画評論家の淀川長治らがカメオ出演したり、映画の美術を担当したのが朝倉摂だったり、当時の最先端を行く著名人にも支持された映画だったことが分かる。
先にも書いたように、カットバックやフラッシュバックを多用する映像は実験的で、50年以上経った今でも新鮮に映る。
ゲイの世界を描く異色作というだけでも話題になるけれど、映画の一番の見どころはピーターの魅力だと思う。
様々な衣装や髪型で少女のようだったり妖艶なマダムのように見えるピーター。
ラストシーンの壮絶なシーンでも、まるで人形のような美しさなんだよね。

「薔薇の葬列」を一番最初に観たのは、2019年2月に書いた「ふたりのイエスタデイ chapter16 /The Monochrome set」にも登場したIさんに連れられて行った映画館。
場所はどこだったか覚えていない。
あれから何十年(?)経ったのか分からないけれど、何度観ても大好きな映画だよ。
まだ未鑑賞の方には、是非オススメだね!(笑)