映画の殿 第10号 ウィル・フェレル02

【「主人公は僕だった」は一味違うウィル・フェレルが堪能できるね】

SNAKEPIPE WROTE:

映画の殿 第8号」でも特集したウィル・フェレル
amazonのDVD販売ページには

ハリウッドのトップ・コメディアンでありながら、
日本ではなぜか知名度が上がらないウィル・フェレル

と書かれちゃってるよ!(笑)
まあ、確かに好き嫌いのハッキリするタイプの芸風だろうね。

ウィル・フェレルと同じように世界的にはヒットしているのに、日本での知名度がイマイチといえば、「トレンテ ハゲ!デブ!大酒飲みの女好き!超・肉食系スーパーコップ」(原題:Torrente, el brazo tonto de la ley 1998年)サンティアゴ・セグーラ とかね?
すでに「トレンテ5」まで製作されていて、「トレンテ6」まで2018年公開予定になっているほど人気シリーズなのにもかかわらず、日本では「トレンテ2」すらDVDになっていない!
もちろんROCKHURRAHとSNAKEPIPEはウィル・フェレルもサンティアゴ・セグーラも大ファン!
「トレンテ2」以降のDVD化を強く願っているよ!

全てではないにしても、ウィル・フェレルの映画は手に入るので、その後も鑑賞し続け、ますますその魅力の虜になっているところである。
かなりの本数になってきたので、ウィル・フェレル特集としてまとめておきたいと思う。
「映画の殿 第8号」の時と同じように、製作された順番ではなくて鑑賞した順番で書いていこう!

 1本目は「映画の殿 第8号」でも楽しみにしていた「俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク」(原題:Anchorman 2: The Legend Continues 2013年)からにしようか。
「俺たちニュースキャスター」の4人のキャスター達と再会できるとは嬉しい限り!
約10年ぶりになるのに、4人共ほとんど変わってないのにはびっくりした。
ロン・バーガンディ、健在である!(笑)

地元サンディエゴのTV局で愛妻のヴェロニカと看板キャスターを務めてきたロンだったが、ある日、上司からクビにされてしまう。
NYにある24時間放送の 深夜枠を担当することになったロンは、かつての仲間を集めて新天地に渡る。
そこでは超強力なスターキャスター・ジャックとの熾烈な視聴率競争が待ち受けていた。

「俺たちニュースキャスター」をリアルタイムで鑑賞した場合は、以前の話を忘れてしまった人もいるかもしれないよね。
SNAKEPIPEとROCKHURRAHはウィル・フェレル・デビューが割と最近だったので、それほどブランクなしで鑑賞できたのは良かった。
おかげで4人のキャスターの性格や特徴を知った上で観ることができたから。

ウィル・フェレルの映画には、どん底まで落ちてから這い上がりライバルに勝つという黄金パターンがあるんだけど、今回もまさにそれ!(笑)
あらすじにも登場したスターキャスター・ジャックとの視聴率勝負になるのである。
深夜枠だからこそ面白くしよう、と次々にアイデアを出していくロン。
時代はまたもや70年代。
その当時は本当に深夜枠は実験の場だったんだろうね。
もし実際にそんなテレビ番組があったら、人気出ただろうな。
ウィル・フェレル得意の70年代ファッションも堪能できるよ!(笑)

そして「俺たちニュースキャスター」でも登場した各局とのケンカのシーンも健在。
いかにも作り物のミノタウロスや南北戦争の時の将軍の亡霊まで参戦してるんだよね。
前回よりもスケールアップしたハチャメチャなおバカぶりには大笑い!

「俺たちニュースキャスター3」の予定はないのかな?
あったとしてもまた10年後だったりして?(笑)

続いては「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」(原題:The Other Guys 2010年)ね!
今回は元マーキー・マークことマーク・ウォールバーグとタッグを組んでいるよ!

ニューヨーク市警のアレンとテリーはその性格が災いし、いつもヒーロー刑事の活躍を恨めしくながめるだけの「アザー・ガイズ=その他大勢」。
上司からは見放され、手渡された拳銃は木のオモチャ。
移動は日本製のエコカー。
そんな2人が無謀にも、市民を食い物にしてきた、金融業界に巣食う国家レベルの「巨悪」に立ち向かっていく!

ウィル・フェレルは街へ出て捜査するよりもデスクワークを好む会計員アレン・ギャンブル、マーク・ウォールバーグは熱血だけどいつも空回りしてしまう刑事のテリー・ホイツという役どころ。
両極端な性格の刑事がコンビになるというのはよくあるパターンだけど、ちゃんとウィル・フェレル色があるんだよね!
今回のウィル・フェレルは普段はおとなしいのに、昔ワルだった頃の凶暴性が突然出てきてキレるのが特徴である。
更に何故だか不思議なほど女性からモテモテなのも面白い。

SNAKEPIPEが一番気に入っているシーンは、酒場でアレンとテリーが飲みながら今後について打ち合わせをしているシーン。
後ろにいた老人に肩を叩かれ、立ち上がるアレンは、その場にいた老人達と歌い出すのだ。

この愛を捧げたエリン
僕に忠誠を誓ってくれた
だが戦場から戻ってみると
なんと5人のイギリス兵士と
枕をともにしていた
合意の上で寝たそうだ
父親たちは絞首刑
子供たちは急性結膜炎
ハリー・ポッターの本が
めらめらと燃やされる

曲調はスコットランド民謡といった感じだろうか。
歌詞を知らないで聞いていたら、宗教的な雰囲気の歌にしか思えない!
ところが、なんでしょこの歌詞!(笑)
この場面では大笑いしてしまったSNAKEPIPE。
本当にウィル・フェレルは歌が上手だよね!

笑いあり、ド派手なアクションあり、腐敗した金融業界の裏側に迫る内容あり、と見どころ満載な映画だった。
体の大きさの違いもあってか、ウィル・フェレルに比べるとマーク・ウォールバーグが小粒に見えてしまったのは仕方ないのかな。
監督がアダム・マッケイなので、コンビ歴が長いウィル・フェレルが伸び伸びしていたのは間違いないからね?

今回最後にご紹介するのは、「主人公は僕だった」 (原題:Stranger Than Fiction 2006年)というウィル・フェレル主演なのにコメディではない映画ね。
どこにでもいる冴えない男、ハロルド・クリックを演じるなんて、大丈夫なのか心配になっちゃうよね。

過去12年間、平日は毎朝76回歯を磨き、342歩でバス停へ行き、会社で平均7.134件の書類を調べ、45.7分間のランチタイムを過ごし、帰宅すると夕食は1人で済ませ、毎晩きっかり11時13分に寝る。
それが税庁の会計検査官ハロルド・クリックの毎日だった。
ところがその朝突然、ハロルドの人生に女性の声が割り込んできた。
ナレーションのように、彼の頭に浮かんだ想いと、今まさにとっている行動を、アカデミックな言葉遣いで語り始めたのだ。
ハロルドの人生は、悲劇作家が執筆中の小説だった。
しかも結末は、主人公の死!
果たして彼は、人生のストーリーを書き直すことができるのか?

声が聞こえ始めてからのハロルドは、今までの規則正しい生活とは少しずつ違う時を過ごし始める。
税金未払いのために訪れた先で出会うのがクッキー屋の店主、アナ・パスカルである。
この役を演じているのが、マギー・ジレンホール
この顔はどこかで…。
そうそう、ジョン・ウォーターズ監督の「セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ」(原題:Cecil B. Demented 2000年)で悪魔崇拝のレイヴンという役だった女優さんだね!
「ダークナイト」でもヒロイン役を演じていたし、今回もウィル・フェレル演じるハロルドと恋に落ちる設定なんだよね。
SNAKEPIPEには、どうしても山下久美子にしか見えなくて。
えっ、古い?(笑)

他の共演者として注目なのが、 ヒルバート教授役のダスティン・ホフマン
ダスティン・ホフマンと聞いて、懐かしいと感じてしまうのは、きっとある程度の年齢がいった人だろうね。(笑)
「主人公は僕だった」と同じ2006年に「パフューム」にも出演しているみたいなんだけど、どのシーンだったのか思い出せないよ。
ダスティン・ホフマンも年を取って、渋い役が似合ってるよね!

もう一人変わり種としては、女性ラッパーのクィーン・ラティファが女流作家のアシスタントとして登場していた点かな。
鑑賞後にやっとクィーン・ラティファだと判ったよ。
女優もやっていたとはね!
調べてみると、スパイク・リーの「ジャングル・フィーバー」(原題:Jungle Fever 1991年) で女優デビューしているというから、SNAKEPIPEも観ているはずなのに、覚えてなかったなあ。(笑)
さすがにラッパーなだけあって、声質と発声が素晴らしいよね!

「主人公は僕だった」でウィル・フェレルは、全くコメディ要素のない役を見事に演じていたと思う。
「俺たちシリーズ」とは全く無縁な人が観ても、楽しめるはず。
ただしこの映画だけを観ても、ウィル・フェレル本人の魅力には迫れないんだけどね。(笑)

今回は3本のウィル・フェレル主演作品を紹介してみたよ!
実はまだ他にもたくさんあるので第3弾、第4弾と続けていく予定。
皆様乞うご期待!(笑)

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」鑑賞

【美術館前の作品を撮影】 

SNAKEPIPE WROTE:

今年の7月に書いた「好き好きアーツ!#26 DAVID LYNCH –「鬼才デヴィッド・リンチの新作版画/写真展」と「イメージメーカー展」」の時に、長年来の友人Mと
「次は竹橋の美術館に行こう!」
と約束をしていたのが今回鑑賞した「 現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」である。
なんとも奇抜なポスターと風変わりなタイトルに、ふざけた内容を想像してしまったのはSNAKEPIPEだけではないと思う。
ウケを狙ってのことだろうけど、成功したのかな?(笑)

この展覧会は台湾資本の大手電子部品メーカー、ヤゲオ・コーポレーションのCEOを務めるピエール・チェンと家族、そしてヤゲオ・コーポレーションからの寄付金によって創立された非営利の組織であるヤゲオ財団が所有する美術コレクションの展示だという。
ヤゲオ財団なんて名前は初めて聞くし、台湾に現代美術の収集に力を注いでいる企業があることも知らなかった。
例えばそれは、SNAKEPIPEとROCKHURRAHが気に入っている、佐倉にある川村記念美術館のようなものか?
あの美術館はDIC株式会社がその関連グループ会社とともに収集した美術品を公開するために設立してるからね。
世界的に有名なソロモン・R・グッゲンハイム財団により運営されているグッゲンハイム美術館も同じ形態ってことになるんだろうね。
国が運営する国立系の美術館ではなくて、個人や団体がコレクションできるのは、余程の目利きで、更に購入できるだけの資金がある場合に限られるだろうから、好きなだけでは難しいね。(笑)

そんなSNAKEPIPEの心の声に応えるように、今回のヤゲオ財団コレクションには「サザビーズ」や「クリスティーズ」のオークションでの落札金額についての文章が記載されている。
実際に展示されている作品がいくらだったかということではなくて、同じタイプの作品の金額が提示されているのね。
いやはや、なんとも!
億超えなんて当たり前!(笑)
初めは入り口で手渡された小冊子を読まないで鑑賞していたけれど、途中で読んでしまったらもう大変!
友人MとROCKHURRAHとの3人で
「12億超えるって〜!」
「ひ〜!」
などと通常の美術展館賞の途中で話す内容とは違い、お金にまつわる生々しい会話になってしまうのである。
心なしか目つきまで変わってくるような?(笑)
そして金額の高低(低いとは言っても億超えだけど!)の違いを考えてしまったりして、やっぱりこの点も通常の鑑賞とは大きく異なっていたところ。
小冊子にも書いてあったけれど、単なる鑑賞者としてではなく、コレクターとして購入する側に立って観るというのは初めての経験だったと思う。
金額が書いてある=裕福さの誇示、ということではないんだよね。
その趣旨を理解した上で鑑賞に臨もうね!(笑)

東京国立近代美術館は2013年3月のフランシス・ベーコン展以来になるんだね。
展覧会開催が終わる直前の土曜日は、薄い雲が広がり、いつ雨が降ってもおかしくない天気だった。
この時期にしては気温は低め。
夏のお出かけには最適な日だったね!
東京メトロ東西線竹橋駅を下車して、ほんの数分で美術館に到着。
この近さはとても良いよね!
そしてチケット売り場に行く前に、目に飛び込んできたのがトップの画像にある立体作品。
マーク・クインの「スフィンクス」はスーパーモデルのケイト・モスがヨガのポーズを取っている作品である。
展覧会のポスターで使用されていた金ピカの彫刻も、同じくケイト・モスをモデルにしたヨガのポーズのタイプ。
立っていた警備員に撮影しても良いのかを尋ね、オッケーが出たので撮影する。
その後友人MとROCKHURRAHと3人共ケイト・モスと同じヨガのポーズを取り、作品の前で記念撮影。
良い年した大人がやることじゃないよね!
しかもSNAKEPIPEとROCKHURRAHはヨロける始末!
ずっと様子を見ていた警備員も笑っていたに違いない。(笑)

チケットを購入し、いざ会場へ。
一番最初に展示されていたのはマン・レイの油絵だった。
かなり漫画風に描かれた作品で
「トップからマン・レイの作品とは」
と少し驚く。
マン・レイと結婚し晩年を共にしたジュリエットの肖像である。
2010年8月に「マン・レイ展」に行ってるけど、油絵の印象はほとんどないなあ。
今回鑑賞できて良かったね!

それからも有名アーティストの作品のオンパレード!
フランシス・ベーコン、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、マーク・ロスコなどなど。
40作家、75点の作品が展示されているのは圧巻!
そして日本ではなかなかお目にかかれない、中国や台湾のアーティストの作品の展示もさすがに台湾の財団だからだね。
中では蘇旺伸(Su Wongshen)という台湾のアーティストの「川の桟橋」という作品が気に入ったな!

展示されている作品の中でとても衝撃的だったアーティストが2人。
1人はドイツのゲルハルト・リヒター
恐らくリヒターの作品は今までにも数点は鑑賞しているはずだけれど、これだけのまとまった数を観られるのは嬉しいね!
写真がブレたように見えるフォト・ペインティングを観るのは初めてかもしれない。
左の画像で抱かれているのはリヒター本人という「 叔母マリアンヌ」は1965年の作品。
インターネットの画像検索などでも簡単に作品を観ることはできるけれど、やっぱり実物を自分の目で観るのとはわけが違うよね!

リヒターの作品は他にも抽象絵画が展示されていた。
小冊子の説明にあったけれど、リヒターは現存する作家の中での最高落札価格を記録したとのこと。
Wikipediaにもエリック・クラプトンが所有していたリヒターの抽象絵画が約26億9000万円で落札されたなんて書いてあるしね。(笑)
金額を聞くと驚いてしまうけれど、実物を観ると確かに部屋に飾りたいなと思ってしまうね!
いつ買えるんだろう?(笑)

鑑賞できて嬉しかったもう1人のアーティストはロン・ミュエク
実はロン・ミュエクの作品は写真集でしか観たことなかったんだよね。(笑)
左の「若者」は、まるで黒人青年のポートレートのように見えるけれど、実はハイパーでスーパーでリアルな彫刻なんだよね!
そして更に驚くのは、この作品は高さが65cmしかないこと!
まるでミニチュアサイズの人間が、台の上に立っているかのような不思議な感覚に襲われてしまう。
Tシャツやジーンズまで、ここまで小さく精巧に作れるのか?
あまりの出来に3人でじーーーっと近付いて観ていたら、
「もう少し離れて頂けますか」
と係員から注意されてしまった。(笑)
ロン・ミュエクはもう1点「若いカップル」という、こちらもミニチュアサイズの若い男女の作品も素晴らしかったな!

展覧会ではヤゲオ財団のCEOであるピエール・チェンの自宅の様子も展示されていた。
惜しげも無く飾られている現代アート!
バスルームやリビングに、世界的に有名な彫刻や絵画があるのってどんな感じだろうね?
SNAKEPIPEもブログの企画としてSNAKEPIPE MUSEUMをやっていて、自分で美術館を持って展示するなら買い取りたいなという作品紹介をやっている。
それが現実になったらすごいことだよねー!
SNAKEPIPEが知らないだけで、きっと世界には大金持ちが道楽でコレクションしてる人いるんだろうなあ。
またどこかで企画して作品みせて欲しいよね!

SNAKEPIPE MUSEUM #28 Aitch

【こんな学術書があったら欲しいな!】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のSNAKEPIPE MUSEUMはルーマニアのイラストレーター、 Aitchをご紹介してみたいと思う。
一体なんと読めば良いのかな?
どうやら彼女の名前がHelianaというらしく、恐らくそのイニシャルから「エイチ」というアーティスト名にしているみたいね。
詳しくは書いてなかったけど、多分そうだと思う。(笑)

Aitchはルーマニア西部トランシルヴァニア地方の都市、ティミショアラの美術大学でグラフィックやイラストを学んでいたらしい。
そしてその在学中に「weird chubby fantastic creatures(不思議なまるまる太っている空想的な創造物) 」を描き始める。
この当時の絵がどんなものだったのかはサイトに載っていないけれど、 Aitchの作風を決定したんだろうなと想像する。
自分の作風についてAitchは

ピンク色でかわいくて上品な
ぞっとするするような半宗教的奇人が
シュルレアリスムの世界でミックスされている感じ

と表現しているらしい。
SNAKEPIPEの訳し方がおかしいためか、ちょっと意味不明だよね。(笑)
言いたいことはなんとなく解るから、良しとするか。
相反する物が混在する、と言いたいんだろうね。(笑)
確かにAitchの絵はかわいいけど、残酷な雰囲気があってそこが気に入ったからね!

ブログのトップ画像と同じ「Beautiful Us」シリーズから「Blood」という作品。
ちなみにトップ画像のタイトルは「Skeleton」ね。
書いてあるから分かるか。(笑)

この絵を見て思い出したのがメキシコの女流画家フリーダ・カーロ。
「2人のフリーダ」は、心臓と、そこから伸びている血管がインパクトのある絵だよね。
Aitchの「Blood」も、フリーダ・カーロと同じように血管が伸びているけど、心臓だと思われる部分は松ぼっくりに見えるよね。
赤い血管が走り顔にはお花がいっぱいで綺麗だけど、やっぱり少しグロテスクなところがとても素敵!(笑)
「Skelton」も周りに植物が描かれていて、それがAitchの特徴なのかも。
そこでもう一人思い出したのが、アンリ・ルソー。
左の「蛇使いの女」だけではなくて、ルソーの絵には木が生い茂ったジャングルが描かれていることが多いからかもしれないね。
そして人物が逆光のためなのか、黒いシルエットになり、目だけが光っている点も魔術的で惹かれる。
夜のジャングルに行ったら、是非ともこんな場面に遭遇してみたいと思わせる静謐さと危険さを併せ持った幻想的な美しい絵だよね!
フリーダ・カーロも、アンリ・ルソーも少し漫画っぽいタッチなので、その点でも共通点を感じてしまうのかな?
もちろん2人共、SNAKEPIPEは大好きなアーティストなんだよね!

「The Garden of Good and Evil」という別のシリーズからチョイスしたのは、魚をモチーフにした作品。
魚の形を枠にして、中に様々なモチーフが所狭しと描かれているね。
この絵から、2013年10月に「コレクション♪リコレクション VOL. 2色彩のラプソディー展鑑賞」で鑑賞したエーリヒ・ブラウアーを思い出したSNAKEPIPE。
エーリヒ・ブラウアーはウィーン幻想派を代表する画家として有名と説明されているので、グロテスクで不思議な世界観がAitchとつながるように感じるのかもしれないね。
エーリヒ・ブラウアーの左の作品「Sternpuppe」はスクリーンプリントによるもの。
Aitchはすべての作品を水彩で描いているというので、油絵の厚みがないところも共通しているのかもしれないね。
ちょっと強引過ぎる説明か?(笑)

Aitchは自身のサイトで作品をモチーフにしたiphoneケースやトートバッグなどの小物の販売も行っている。
ちゃんとドルで表示させて、しかも「日本への配送可能です」まで書いてあるから恐れ入る。(笑)
近頃の若いアーティストはメディアを活用して、マルチに頑張るなあ!
SNAKEPIPEは「Beautiful Us」のポスターあったら購入してみたい。
日本へもポスター郵送してくれるかしら?(笑)

ふたりのイエスタデイ chapter05 / Orchestre Rouge

【ジャケ買いで中身も良かった、大好きな青春の一枚。】

ROCKHURRAH WROTE:

2014年正月から始めた新企画がこの「ふたりのイエスタデイ」シリーズなんだが、これはROCKHURRAH RECORDSの二人の運営者(大げさ)が思い出深い一枚のレコードや写真などを選んで、それにまつわるエピソードを書いてゆくという内容の記事だ。
いくつか連続でウチのブログを読んでいただければすぐにわかるんだが、とにかく70〜80年代の音楽ネタが満載のブログなので、このシリーズだけが特別にノスタルジックなわけではない。
メニューのところに「シリーズ記事」などと書いてて細かく分かれてる割にはそこまで細分化する必要もないんだが、まあ書いてる方の側の気分ということで使い分けてるだけ。

お盆休み真っ最中でも帰省するわけでもなくて、アクティブに出かけてるわけでもないROCKHURRAHとSNAKEPIPEなんだが、そもそもこのどんより具合の天気は何?というくらいに全然お盆っぽくない湿度満点の空模様。これじゃイヤになってしまうよね。

さて、久々にこの記事を書くに当たって選んだのが上のレコード・ジャケットだ。
ジャケットというのは絵画や写真だけの作品とは違って完全に正方形の中で展開するアートで、ほとんどの場合は絵や写真だけでなくアーティスト名やタイトルまでを含めたトータルなグラフィック・デザインだ。
ROCKHURRAHに限らず、古今東西でこのジャケット・アートワークに魅了された人は数多く存在しているに違いない。
もしかしたら中の音楽そのものには全然興味なくてジャケットの良し悪しだけでレコードを集めてるような人もいるかも知れないね。もし、美麗なレコード・ジャケットを集めた展覧会があったらぜひ行きたいものだが、過去にそういう企画はどこかであったのだろうか?実はそんなのはありきたりで、常に美術関連の事を考えているわけじゃないから知らないだけかも。
もしも世界のどこかレコード・ジャケット美術館みたいなのがあってキュレーター募集してたら立候補したいくらいだよ。
ん?わずか数行の間に3回も「もし」という言葉が入ってるぞ。ひどいもんだな。

話がそれたがそういうアートワークとしてのジャケットの好き嫌いという点では、このジャケットは大好きな類いになる。いかにも80年代のヘタウマみたいなプリミティブな絵柄なのに題材はグロテスクで好みにピッタリ。
描いているのはRicardo Mosnerというアーティストで(この人の事は今回特に書かないが・・・)、この素敵なジャケットのバンドが今回語りたいオルケストル・ルージュなのだ。
本当は個人的にはずっとこのバンドの事をオーケストラ・ルージュと呼んできてそれでも間違いというわけではないんだろうが、フランス読みにするとたいていはオルケストルと読んでる人が多いので仕方なくこう書くよ。うむ、しょっぱなから何か敗北感。屈辱的。

1970年代の最後を飾った音楽の大きな流れはパンク、そしてニュー・ウェイブへと続いていった。初期ニュー・ウェイブの頃は特に細かいジャンル分けもなかったんだが、そのうち登場するバンドたちの数が膨れ上がってさまざまな音楽スタイルが乱立するようになった。
紛らわしいのは当時と今とで同じ音楽を指すのに違うジャンル名があったり、欧米と日本で違うジャンル名になっていたり、この手の話は特に文献もないし、当時を知る人と現在ウィキペディアなどで情報を集めた人の話が食い違うのは当然という気がする。
おや?話が随分脱線してしまったが、こんな面倒な時に有効な便利な言葉があったよ、ポスト・パンク。80年代初期の大半のバンドについて語る時に「これはポスト・パンクのバンドで・・・」と言っておけば大体間違いないはず。このオルケストル・ルージュもおそらくポスト・パンクのバンドと言っておけば間違いないな。

80年代初期の表のムーブメントではエレクトロニクス・ポップ(テクノ・ポップ)やニュー・ロマンティック、2トーン・スカやファンカ・ラティーナなどがヒットチャートを賑わせていたが、それと同時期にイギリスではネオ・サイケ、ダーク・サイケ、ポジティブ・パンクと呼ばれる暗くて重苦しいシリアス路線の音楽が裏では着実に若者の心を掴んでいた。まれにヒットチャートの上位になったりもするが、この手のバンドの活動拠点はどちらかというとインディーズの小さな市場向きだったな。万人に受け入れられる音楽じゃなかったのは確かだからね。
そういう新しいバンド達に影響を与えた先駆者として必ず名前が挙がってくるのがスージー&ザ・バンシーズ、バウハウス、キリング・ジョークにエコー&ザ・バニーメン、ジョイ・ディヴィジョンなど。全て70年代後半にデビューしているが、これらの名前がメジャーなところだった。
ROCKHURRAHも御多分にもれずこれらのバンドに傾倒していって、特にジョイ・ディヴィジョンについては熱心に聴きまくったものだ。
イアン・カーティスの押し殺した声と素晴らしい楽曲の数々は今でも毎日のように聴いているほど。
遠く離れたイギリスで活動してるバンドだしイアン・カーティスがどんな人だったかも当時は知らない。だから彼が首吊り自殺をしたという記事を音楽雑誌で読んでも泣いたり悲しんだりは出来なかったが、大きな喪失感があった事だけは確か。

その後もROCKHURRAHはジョイ・ディヴィジョンっぽいという噂の別のバンドをどこからか探してきていくつも買ってみたが、そのほとんどは小粒で「これこそ探し求めていたもの」という域には達してないものばかり。
オルケストル・ルージュを知ったのもそのくらいの時期で、この頃は下北沢の有名なビデオ・レンタル屋のレコード・レンタル部門(支店)で働いていた名物店員だったな。休みや仕事をしてない時はほとんどどこかの輸入レコード屋に入り浸っているくらいのマニアだった時期だ。
このバンドを知った肝心な経緯は覚えてないんだがたぶん「フールズ・メイト」という音楽雑誌で「フランスのジョイ・ディビジョンと名高い」などと書かれていたから探していたんだろう。
当時は色んな方面のレコードを同時に探していたからすぐに出会えたわけではないんだが、全然関係ないような時に下北沢のレコファンで運命の出会いをした(大げさ)。当時住んでた部屋から最も近いレコード屋で見つけるとは。しかも中古で500円くらいで買ったな。

これがオルケストル・ルージュとの最初の出会いだ。一番上の写真にある「More Passion Fodder」というのが1983年に出た彼らの2ndアルバムになる。中古屋で買ったものだからもちろんリアルタイムではないにしろ、嬉しさに違いはない。
ずっと探していたものだったから小躍りして買い求め、大急ぎで家に帰って針を落とした。そして出てきた音はまさにドンピシャの理想のものだった。

このバンドは1981年くらいから84年くらいの短い期間にフランスで活動していたネオ・サイケのバンドでフランスのRCAからわずか2枚のアルバムを残して解散してしまった。もちろん日本盤などもなく、どこでも入手出来るほどの知名度はなかったため、運が悪ければ何年も手に入らなかったろう。もし見つかったら別に高額なわけでもないんだけどね。
日本語に訳せば「赤いオーケストラ」というこのバンド名、インターネット検索すれば今では一発で由来もわかるだろうが、そんなものない時代だから無知なROCKHURRAHは勝手に口紅楽団などと思っていたよ。まあそれでも別におかしくはないんだろうが。

ナチス・ドイツ占領下のヨーロッパに存在した、
ソビエト連邦に情報を流していたコミュニストの
スパイ網に対してゲシュタポが名付けた名称。

というのがオルケストル・ルージュの由来だそうだが、この辺もナチの強制収容所慰安婦施設から名前を取ったというジョイ・ディヴィジョンと似通ってるのかな?

このバンドのリーダーでヴォーカリストのテオ・ハコラはフランス人ではなく、アメリカ出身、しかもフィンランド人とスウェーデン人のハーフらしい。若くしてグアテマラ、スペイン、ロンドンとさまざまな職業をしながら放浪して、1980年にパリでオルケストル・ルージュを結成する。というのが略歴なんだが、一体いくつの国が出てきた?もう生まれついての国際人だね。

かなりのインテリなのは間違いないしその歌の内容も詩と言うよりは政治的なアジテーションとか演説の類いに近いもので過激。教師をしていた経歴もあるそうだから、言ってる内容もたぶんプロっぽいのか?
政治も海外の歴史も疎いROCKHURRAHなどは単に曲の良し悪しだけで音楽を判断するしかないが、意味がわかる人にとっては全然違う見解になるのかもね。

家に帰って針を落としたところから進んでなかったから話を戻すが、この2ndアルバムは数あるネオ・サイケの中でもROCKHURRAHが一番好きな大傑作。
特に1曲目「Seconds Grate」から「Where Family Happens」「Chief Joseph Heinmot Tooyalaket」まで切れ間なく続くこの3曲はいつ聴いても最高。曲の好みは人それぞれだから誰にもオススメはしないが、個人的にはパーフェクトなネオ・サイケが展開する。
ジョイ・ディヴィジョンに似ている部分はあるけど、完全なフォロワーとは全然違っていてオルケストル・ルージュならではの魅力が詰まっている。デビュー当時から現在に至るまでずっとヴァイオリンの音色を愛し続ける姿勢も本家ジョイ・ディヴィジョンにはないからね。

テオ・ハコラの歌い方にはかなり特色があって、カントリー&ウェスタンやロカビリーなどでするしゃっくりのような歌い方、ヒーカップ唱法に近いものがある。声質はイアン・カーティスというよりはバースデイ・パーティのニック・ケイブに近いものがあるな。

このバンドの1stアルバム「Yellow Laughter」はマンチェスターで録音、しかもプロデューサーはジョイ・ディヴィジョンで有名なマーティン・ハネットがやっている。このことからも「フランスのジョイ・ディヴィジョン」云々と言われてきたんだろうけど、こちらの方は端正にまとまった曲が多く、ROCKHURRAHとしてはよりエモーショナルな2nd、つまり今回特集した方が好みだった。
聴いた順番は1stの方が後だったのでややインパクトが薄かったせいもあるんだろうな。
しかしジャケットはこっちの方が有名で、上のYouTube(1stと2ndがカップリングされたCDらしい)でも「Yellow Laughter」のジャケットが使われている。

ある日、このバンドのライブ盤をレコード屋で見つけて買った夢を見たんだが、その日行った新宿のレコード屋で本当にライブ盤を見つけるという、まさに正夢な経験をしたこともある。ちゃんとした3rdアルバムではなくてどうやら自主制作盤のようで、出回ってる数も少ないはずだから本当に縁があったと思いたいよ。テレヴィジョンやジョイ・ディヴィジョンのカヴァーも入った、ファンならば絶対に聴いておきたい一枚だ。

オルケストル・ルージュが解散した後、テオ・ハコラはパッション・フォダーというバンドを結成したが、これは何とも形容がしがたい地味な音楽でサイケデリックとカントリー風味、トーキング・ヘッズっぽさがちょっとだけ見え隠れするけど、イマイチ理解しにくい代物。何曲か好きな曲はあるんだけど、この人の歌い方がどの曲も基本的に同じような字余りで、区別がつきにくい曲を量産していたという印象がある。 たぶんオルケストル・ルージュでいい曲を書いてた人がいなくなったのが原因だろうと推測する。
テオ・ハコラの確立されたスタイルがマンネリ化してしまうという最大の弱点ばかり強調されてしまった感じ。
4作目までは耐えて買ったがその後はあまりロックを聴かなくなった時期にかかってしまったので、ここでリタイアしたよ。

結局パッション・フォダーは長く続けた割には地味で時代に埋もれてしまったが、オルケストル・ルージュの方は今でも風化することなく(あくまで個人的にだが)輝いている。

今回のブログも長く書いた割には特に人々の興味を惹く部分がなくて、いよいよ文章もスランプ気味だなあ。夏だから仕方ない。涼しくなって来たらもう少しはマシになる予定。
ではまたオ・ルヴォワール。