CULT映画ア・ラ・カルト!【10】少女椿

【ワンダー正光とみどりちゃん。お願い!みどりちゃん、幸せになって!】

SNAKEPIPE WROTE:

選択を間違えて手放してしまった本やレコードを思い返し、何度後悔したことだろう。
懐具合の問題で、欲しくても買えなかったこともあるしね。
若かりし頃の、最も多感だったSNAKEPIPEを熱狂させた数々の本や映画は、たまに復刻版で入手可能なこともある。
残念ながら、全く復刻されていないことも多いけどね。
運良く入手することができた映画をもう一度観たり、大好きだった音楽を改めて鑑賞したりする今日この頃。
「懐古趣味」「今更?」と言われようが、復刻でも再び手に入れることができた時の喜びったら!
青春時代にこんな傑作に出会えて幸せだったなあ、と感慨深い気持ちになる。
大人になってからはそれほど衝撃的なアートに出会っていないということなのか。
それともSNAKEPIPEの感受性が弱まったせいなのかもしれないね?(笑)

今回のCULT映画ア・ラ・カルト!は学生時代のSNAKEPIPEが大ファンだった漫画家・丸尾末広原作の「少女椿」のアニメ映画版について書いてみようと思う。
「少女椿」がアニメ映画になっていることを全く知らなかったSNAKEPIPE。
だって、そもそも「少女椿」を読んだのって…学生の時だから…ま、いっか!(笑)
それほど昔の、遠い遠い記憶のかなたのことなのである。
丸尾末広の絵のキレイさに圧倒され、ストーリーの奇抜さ、残酷さなど、その全てに強く惹かれたのである。
夢野久作や江戸川乱歩を読み、その毒に魅了されていたのも要因の一つだろう。
時代的には戸川純がいたバンド「ゲルニカ」が流行り、昭和初期の雰囲気に新鮮さを感じていたせいもあっただろう。
雑誌「ビックリハウス」や毎週のように通っていた「文化屋雑貨店」なども、レトロな感じだったしね。
80年代初頭は、もしかしたら昭和初期への憧れのような文化だったのかもしれないね?
などと、同じく80年代の申し子であるROCKHURRAHと懐かしい話で盛り上がってしまった。(笑)
ROCKHURRAHはその時代に現役古本屋だったため、80年代サブカル系(本当はサブカルって言い方嫌いなんだけど)漫画も当然ながら大得意なんだよね。
今回「少女椿」アニメ映画版を見つけてくれたのも、いつものようにROCKHURRAHだしね!(笑)

SNAKEPIPEの持つ丸尾末広に関するエピソードといえば、やっぱり「東京グランギニョル」かな。
「マーキュロ」のチラシを丸尾末広が描いていて、それをずっと自宅の部屋に飾っていたっけ。
Wikipediaで調べてみると、「東京グランギニョル」が上演したのは4作品らしい。
「らしい」というのは、恐らく全てを鑑賞しているSNAKEPIPEだけれど、各々については朧げにしか覚えていないからね。
どの作品だったか覚えていないけれど、丸尾末広が出演したことがあったな。
「マルキ・ド・丸尾です!」
と言いながら、シルクハットに素敵なステッキを手にした丸尾末広が登場。(ぷっ)
その時に初めてお顔を拝見したSNAKEPIPEだったなあ。
「この人があの漫画を描いてるんだ!」
と感激したのを覚えている。
「東京グランギニョル」の芝居も、丸尾末広の漫画さながらの雰囲気だった。
詰襟学生服に白塗りの役者、立花ハジメ「太陽さん」などを使用した耳をつんざくような大音響、そして暗転。
暗転の後に何が起こるんだろう?という期待と不安。
ひゃー!書いてるうちのあの時の気分になってしまったSNAKEPIPE。
これ、もしかしたら若返り効果アリかも?(笑)

などと80年代の思い出について書いていたらすっかり長くなってしまったね。
では本題の「少女椿」アニメ映画版について。
この作品は1992年に公開されたみたいなんだけど、当時は劇場ではなく神社の境内で上映されたらしい。
今から20年も前に制作され、限定上映されていたとは全く知らなかったなあ。
そして映像は日本国内でほとんど流通されなかったようで、現在鑑賞することができるのはフランス版でタイトルは「MIDORI」。
日本では様々な理由から上映が禁止されているみたい。
このブログでは映倫の基準や差別用語の問題などについて語るつもりはない。
ただ「表現の自由」という点から考えると、上映禁止の処分は悲しいなと思うのである。
この作品に限らず、他にも上映禁止処分を受けた名作がたくさんあって、恐らくSNAKEPIPEと同じように鑑賞する機会を待ってる人が大勢いるだろうと思うからである。

アニメ映画版「少女椿」は、SNAKEPIPEの薄くなった記憶と照らし合わせながらの鑑賞となったけれど、漫画にかなり忠実に映像化されていたと思う。
映像化、とは言っても動いている部分のほうが少ない、紙芝居風の仕上がりになっているのも効果的で丸尾末広の雰囲気を損ねていない。
簡単にあらすじを書いてみようかな。

扉絵:みどりちゃん 見世物小屋へゆく
寝たきりの母親の代わりに花を売って生計を立てている少女みどりちゃん。
なかなか売れない花を全部買ってくれた親切なおじさんに出会う。
お金が手に入り、喜びながら帰宅するみどりちゃんが目にしたのは無残にも骸となってしまった母親だった。
天涯孤独の身となってしまったみどりちゃんは、
「いつでも頼っておいで」
と言ってくれた花を買ってくれたおじさんの元に行くしかなかった。
ところが親切なおじさんの正体は見世物小屋の親方だったのだ。
みどりちゃんは見世物小屋で下働きをすることになる。

第一歌:忍耐と服従
特別な芸があるわけではなく、特異な体で生まれたわけではないみどりちゃんは、芸人達の召使的存在になる。
皆からいじめられ、こき使われる毎日。
それでも他に行くところないみどりちゃんは、耐え忍ぶしかなかった。

第二歌:侏儒が夜来る
そんな時、新しい芸人が入ることになった。
ワンダー正光という名で、小さな瓶に全身すっぽり入ることができる芸を披露する。
この芸が受け、傾きかけていた小屋の経営も順調になる。
ワンダー正光はみどりちゃんを非常にかわいがり、二人はいつしか恋仲になっていく。
観客の発したある一言がワンダー正光を激怒させ、観客に向かい暴言を放ち、幻術で観客に復讐する。
この騒動がきっかけで親方は金を持ち逃げ、小屋は運営できなくなってしまう。
芸人たちはそれぞれの道を行くことになる。

終幕歌:桜の花の満開の下
「一緒に来てくれるね」
というワンダー正光の言葉に、コクンとうなずくみどりちゃん。
これは夢じゃない、これからやっと幸せになれるんだ!と頬をピンク色に染めるみどりちゃんの運命は…?

と、あらすじを書いてみたけれど、これだけ読むと「なんで上映禁止なの?」って感じだよね。
SNAKEPIPEが言葉を選んで書いたせいもあるけれど、読むのと観るのでは大違いかも。
現代におけるタブーの要素は全編に繰り広げられてるからね。
ただ、これは「現代におけるタブー」であって、時代が違うと何の問題もないとも言えるんだよね。
江戸川乱歩の作品や、寺山修司の演劇や映画などに触れたことがある人にとっては、倫理を問う行為自体がナンセンスだと思うし、疑問を感じるはずだけど?

大好きだった作品をもう一度目にすることができて、本当に嬉しかった。
背中がゾクゾクするいかがわしい魅力。
怖いもの見たさとでも言うのだろうか。
この快感を再び味わうことができるなんて夢のよう!(大げさかな)
丸尾末広はまた活動を始め、江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」や「芋虫」をコミック化している。
「パノラマ島奇譚」しか読んでいないので、「芋虫」も入手して読まないとね!(笑)

誰がCOVERやねん2

【テレヴィジョンの名曲をカヴァー。映像がなかったので自分で作ってみました】

ROCKHURRAH WROTE:

6週連続でSNAKEPIPEにブログを書いてもらっても、その間に何も出て来ないほどネタ不足になってしまったROCKHURRAH。
暑くて頭も回らないけど、苦し紛れに考えたのが過去の記事の続編にしてみようか、という試み。

それで思いついたのが実に久々、というかもう3年も前の記事になる「誰がCOVERやねん」。この記事の第二弾にしてみよう。

これはロックの世界で誰もが試みるカヴァー・ヴァージョンについて語ってゆくという記事だったんだけど、今回も70〜80年代パンク、ニュー・ウェイブ界の偏屈なヤツ中心で書くから「元歌もわかりません」状態がいくつかあるのは仕方ないね。
誰でも知ってる曲を有名バンドがカヴァーしても王道すぎて面白くないし、それについてROCKHURRAHが書けないからね。

そこで今回は誰でも知ってる曲以外は元歌も一緒に載せておくという親切方針にしてみたから、検索するの面倒くさいって人でも安心。目の付けどころがヒューマン・セントリックでインスパイアー・ザ・ネクストを目指してるからね。 さて、さっさと始めてすぐに終わらせるか。

※註:<元歌はこちら>と書かれたリンク文字は全て映像と音が出ます。

Mutilators / Thriller

元歌は誰でも知ってるマイケル・ジャクソンの世界的大ヒット曲。長いプロモーション・ビデオも有名すぎるな。
ここまでは王道だが、果敢にもこのような有名曲に挑戦したのがアメリカのサイコビリー・バンド、ミューティレーターズだ。

ブログで何度もサイコビリーの事を書いてるROCKHURRAHだが、アメリカ物と最近ビリーについては全然詳しくないので、このバンドも名前程度しか知らない。

画像や映像を見る限りでは白地に鮮血といったシチュエーションのルックスが好みのよう。
一見センセーショナルだが、あーた、こんなのはMad Masatoがいた日本のグレイトなサイコビリー・バンド、マッド・モンゴルズが既に20年くらい前にやってたスタイルだよ。
しかも包帯から片目だけ出してウッド・ベース弾いてたMad Masatoの方がずっと病的で迫力あったし。

何度も書いたようにサイコビリーはカヴァー・ヴァージョンが大好きという傾向にある音楽で、どんな曲でもカヴァーしてしまう節操のなさと貪欲さは他のジャンルのバンドも見習うべきだと思う。
そういうサイコビリー・バンドにかかればマイケル・ジャクソンなどは片手で充分、アレンジしやすいレベルなのかもね。
サイコビリーの原則に忠実なカヴァーだしコーラスなどもうまいんだけど、何だかメジャーな香りがプンプンするね。というかもっと破綻してドロドロなのを期待してたROCKHURRAHには全然物足りないなあ。この辺がヨーロッパとアメリカのロック・ビジネスの違いなのかもね。
うーん、毎回だけど好きじゃないなら書くなよ!とファンから怒られてしまいそう。

Pop Will Eat Itself – Love Missile F1 – 11

原曲は元ジェネレーションXのトニー・ジェイムスによる勘違い未来派ロックンロール・バンドだったジグ・ジグ・スパトニックの名曲。
<元歌はこちら>

70年代パンクの人気バンドだったジェネレーションXは3rdアルバムでディスコっぽく大変身してしまい、ファンをがっかりさせてしまったが、後のビリー・アイドルやトニー・ジェイムスを見る限り、その方向性は間違ってはいなかったと思える。
特にこのジグ・ジグ・スパトニックのド派手なファッションとサイバーパンクな世界観は「キワモノ」と言われながらも後の世代に多くの影響を与えているしROCKHURRAHも大好きだ。

我々が少年の頃「これこそが21世紀だ」と信じていたような世界を具体化したのが彼らだった。残念ながら現実の21世紀は一向に面白くも何ともない世界だけどね。

さて、それをカヴァーしたのはイギリスはバーミンガム出身のこのバンド、ポップ・ウィル・イート・イットセルフだ。
バンド名長いし言い辛いなあ(以下PWEI)。

彼らもいち早くデジタルへの依存度を高くしていたバンドで、簡単に言うなら80年代後半にテクノロジーが進化したおかげでようやくビンボーな若者でも何とか揃えられるようになったデジタル音響機材を駆使して作ったデジタル・ロックの元祖的存在というわけだ。
センテンス長いなあ(笑)。

この後の時代には手動で全楽器やってるようなバンドでもコンピューターやデジタル機材は必須の存在となるのは皆さんも御存知の通り。
こういうのはテクノやエレポップという特定の音楽の専売特許というわけではなくなったのが80年代後半なのだ。
などと書いたがこの曲に限って言えばカヴァーしたPWEIよりもオリジナルのジグ・ジグ・ヴァージョンの方が数段も未来的だ。
やはりTVにもバンバン出て稼いだ大物バンドの財力(機材を揃える力)にはビンボー若者は勝てないの図、なのか?

このPWEIは他にも好みのカヴァーをやっていて派手じゃないから最初に紹介しなかったのが以下の曲。

これはマイティ・レモン・ドロップスというバンドがやっていた80年代ネオ・サイケの曲「Like An Angel」のカヴァーだ。マイティ・ワー!とティアドロップ・エクスプローズからバンド名の一部を拝借して曲の方はエコー&ザ・バニーメンそっくりという、リヴァプール御三家大好きな奴らがやってたのがこのバンド。というかこの原曲からしてエコー&ザ・バニーメンの「Crocodiles」のパクリなんじゃないか?と思えるほど酷似しているのが苦笑もの。
<元歌はこちら>
PWEIはさらにこの曲にティアドロップ・エクスプローズの「When I Dream」の一節を無理やりくっつけて、リヴァプール・マニアなら思わずニヤリとする出来に仕上げたのが流石。
2011年の現在にこんな話題言っても誰もわかってはくれないだろうな。

Spizzenergi – Virginia Plain

原曲はロキシー・ミュージック初期の名曲。ポップな曲なのにシンセサイザーやサックスの不協和音が心地よくも変態的でブライアン・フェリーの歌い方も粘着質、70年代前半にはチト先鋭的すぎたとも言える。
<元歌はこちら>

これを比較的忠実にカヴァーしてるのは70年代後半のパンク・バンド、スピッツ・エナジーだ。このバンドは大昔にも書いたけどバンド名をコロコロと変える事で有名だった。スピッツオイル、スピッツエナジー、アスレティコ・スピッツ80、スピッツ・オービットなどなど。要するに中心人物がスピッツという人で、メンバー・チェンジが激しかったからこういう風になったのだろうか?
ちなみに上のPWEIのところで書いたリヴァプールのワー!も同様に改名が大好きなバンドで、ワー!ヒート、ワー!、シャンベコ・セイ・ワー!、J.F.ワー!、マイティ・ワー!などという変遷をたどっていた。
どちらもハッキリ言ってどうでもいいと思えるが、やってる本人は大マジメなんだろうな。易や姓名判断とかハマってるのかな?
ロキシー・ミュージックの数あるヒット曲の中でも敢えて難しいと思えるこの曲を選ぶ偏屈さ、こういうものをROCKHURRAHは尊く思えるよ。

La Muerte / Lucifer Sam

原曲はピンク・フロイド初期の曲でシド・バレットの魅力全開なサイケデリック・ナンバー。
バンド名は知っててもこの初期は知らない人も多かろうから、一応原曲のリンクも貼っておくか。
<元歌はこちら>

で、これをカヴァーしてるのはベルギーはブリュッセルのバンド、ラ・ムエルテ(ムエルトとも言うらしい)だ。
80年代に何だかわからんが非常に所持率(初期のはほぼ全て持っていた)が高かったバンドなんだが、実のところ詳細は知らないのだ。
この時期にベルギーのサウンドワークスというレーベルに凝ってて、オーストラリアのサイエンティスツとか聴き狂っていた。

何だかわからないがこのレーベルのレコードが好きで出るたびに買いまくってた覚えがある。
中でもこのバンドは鬱屈した暴力的なエネルギーに満ち溢れた感じが好きだったものよ(稚拙な表現だな)。

ベルギーと言えばニュー・ウェイブ初期にはファクトリー・ベネルクスなどからも色々リリースされていた、とおぼろげに記憶するヨーロッパのニュー・ウェイブ先進国。
どちらかと言えば繊細なもやしっ子(死語)鍵っ子(死語)系バンドが多い印象だけど、こういう豪快なのもいるんだね。

同時代には決して見る事が出来なかったラ・ムエルテの映像だが、ずっと後になってYouTubeで見たのはカウボーイ・ハットにサングラス、そして覆面をつけた意外とカッコ良いルックスだった。
こんな見た目であのワイルドな歌声とはお見事。 現代の全然選ばれてない男たちが歌う凡庸なロックとは大違いだな。

Peter Murphy / Final Solution

最後を飾るのはやはり80年代どっぷりのよかにせ(鹿児島弁でいい男という意味)代表格、元バウハウスのピーター・マーフィーだ。

原曲は知る人ぞ知るアメリカ、クリーブランドの大御所、ペル・ユビュの最も初期の曲。このブログにも何度も登場してるが少年時代のROCKHURRAHがパンク以降に衝撃を受けた最初のバンドなのだ。
何がそこまでROCKHURRAHを惹きつけるのかはウチのオンライン・ショップでもコメント書いてるのでそちらを参照して欲しい。

簡単に言えば前衛的な曲調に工業的ノイズを散りばめて調子っぱずれに歌うデブなヴォーカリストのいるバンドで、ずっと後の世代のアメリカでオルタナ系(この当時はオルタネイティブという言葉で表現していた)などと言われたバンドたちの元祖的存在がペル・ユビュだったわけ。
<元歌はこちら>

バウハウスは80年代ニュー・ウェイブの中でも人気、実力、ルックスと三拍子揃ったバンドでダーク・サイケなどと当時は騒がれていた音楽の最重要バンドだった。
特にヴォーカルのピーター・マーフィーの声や存在感は圧倒的で、彼に人生を捧げた婦女子たちも数多くいた事だろう。今は全員おばちゃんになっているだろうが。
デヴィッド・ボウイやイーノ、Tレックスなどをカヴァーして、その並々ならぬセンスに誰もが脱帽したもんだが、解散後のソロでもやってくれるじゃありませんか。

同じ系列の声を持つ先輩バンド、マガジンの曲やこのペル・ユビュのカヴァーも素晴らしく、ピーター・マーフィー本人のオリジナル曲は全く印象にないほど・・・。これでいいのか?

バウハウス時代と比べると髪型もさっぱり健康的、何だか不明だが宙吊りになったビデオもすごい。石井輝男監督の「徳川女刑罰史」みたいだね。

大した事書いてないのに案外長くなってしまったから今回はこの辺でやめておくか。まだまだ隠し玉はあるんだけどな、続きは第三弾で紹介・・・するかな?。 では三年後の夏にまた会いましょう(ウソ)。

好き好きアーツ!#11 デヴィッド・リンチ—PV—

【ビデオの公募を呼びかけるリンチ。映像はまるでロスト・ハイウェイだね】

SNAKEPIPE WROTE:

今年のSNAKEPIPEの誕生日に友人Mがプレゼントしてくれたのが、デヴィッド・リンチのCDだった。
なんとリンチ、60歳を過ぎてからCDデビューを果たしたのである。
ジャンルはエレクトロ・ポップ!
ナウいというか、若いというか。
なんにでも興味を持つ好奇心の強さはさすが自称19歳!(笑)
リンチらしさも良く出ていて、なかなかの出来。
さすがはリンチだね!リンチは「Good Day Today」と「I Know」という両A面のシングル曲をリリース。
なんと、元ネタ2曲なのにリミックスバージョンを含んで10曲入りCDになってるんだよね!
ちょっとお得な感じ?(笑)

CDを所持するところまではファンとしては当たり前のことだろうけど、そのプロモーションビデオについては全く知識がなかったSNAKEPIPE。
you tubeでビデオは観ていたけれど、てっきりリンチが撮影したものだと思っていた。
ところが!つい先日、リンチがプロモーションビデオの公募を呼びかけていたことを知ったのである。
この情報…なんと2010年11月30日のもの。
そして2010年12月22日に公募締切、2011年1月3日にはオフィシャルビデオが決定していたらしい。
うーむ、リンチファンを名乗っているSNAKEPIPE、既に半年以上も前の情報を今頃手にするとはなんとも情けない!

この企画はイギリスのgenero.tvという映像コンペティションのサイトが主催していた模様。
アーティストのプロモーションビデオを公募し、最優秀作品を公式なプロモーションビデオとして採用する、というもの。
見てみるといろんなアーティストが参加してるんだよね。
デュラン・デュランとかアリシア・キーズなどの有名どころも入っててびっくり!
賞金として2000ポンドも授与されるとのこと。
日本円にして約25万円。
いや、これはお金の問題じゃないよね!
映像作家を目指している人にとっては登竜門みたいな感じになるのかな。
おおっ、先週のトマー・ハヌカの記事ではアメリカにおけるイラストの登竜門の話を書いたばかりだけど、イギリスでは映像だって!
世界にはいろんな企画があって楽しいね!(笑)
そしてこのサイトを観て、以前you tubeで観たリンチのプロモーションビデオが最終選考10作品の中から選ばれたグランプリ作品だったことを知ったのである。
ビデオはシングル曲「Good Day Today」と「I Know」の2曲別で公募されたため、それぞれにグランプリが決定している。
最終選考に残った10作品を鑑賞していると
「グランプリより好きかも」と思う作品もあって、好みの問題だから仕方ないんだけどね。(笑)
今日は最終選考に残ったSNAKEPIPEの琴線に触れた作品について書いてみたいと思う。

まずは「Good Day Today」から。
なんだか「スターシップ・トゥルーパーズ」の「今日は死に日和」のようなタイトルだよね。(笑)
こちらはグランプリを獲得した作品がやっぱり一番だと思った。

フランスの22歳の学生adodが制作した、というビデオ。
なかなか良くできてるよね!
光と影の表現がリンチらしくて、SNAKEPIPEはてっきりリンチが撮ったんだと勘違いしちゃったんだよね!(笑)
目玉のシークエンスだけがちょっと単純な気がして残念だったかな。

もう一本「これもなかなか素晴らしい」と思ったのがこちら。


Balthazarという、こちらもフランス人の作品ね。
少年が主人公というのも同じ。
グランプリには毒があるけど、こちらは「少年の日の思い出」的な雰囲気だよね。
少年にしたのは、リンチの幼少時代として設定したからなのかな?

「I Know」のプロモーションビデオは、グランプリを獲得した作品よりも他の作品が気になったSNAKEPIPE。
このブログではグランプリは割愛させてもらっちゃおう!

まず気になったのはwyattdennyという、作家も俳優も監督もこなしているというアメリカ人の作品。


この方、恐らくリンチの大ファンなんじゃなかろうか?
作品はまるで「マルホランド・ドライブ」のワンシーンのような雰囲気。
ブルネットと金髪の女性二人という設定、青い光を放つ箱を開ける、などよく研究されてるよね。(笑)
赤いカーテン、内緒話のしぐさなどは「ツインピークス」だし。
妙な儀式めいた化粧は「ワイルド・アット・ハート」か。(笑)
などとリンチファンがニヤニヤしながら鑑賞できるのが楽しかった。
オリジナリティと言われてしまうと弱いけどね!

続いてはこちら。


ルクセンブルクのVitùcという方の作品。
モノクロームが似合うヨーロッパの風景。
なんとなくイーライ・ロス監督の映画「ホステル」のスロバキアを思い出してしまうのはSNAKEPIPEだけか?(笑)
そう考えるとちょっと怖い感じもして、リンチのプロモとしては良い効果かもね。
恐らくこの方もリンチのファンなのか、フィルムの逆回転の多用に影響を感じるよね。

続いてはパロディっぽいこちらの作品。


Meatheadというアメリカ人アーティストのアニメーション、なかなか面白いよね!
リンチが似てるし。(笑)
日本語の字幕はメチャクチャで全く意味不明だけど、日本人以外の人が見たらエキゾチックな感じがするのかもしれないね?
リンチがコーヒーとタバコ好きというのがちゃんと研究されていて、アニメに反映されているのが良かった。
それにしてもコーヒー3杯は飲み過ぎじゃない?(笑)

CDデビューではびっくり仰天ハプニングで楽しませてもらい、今回のプロモーションビデオの企画も面白かった。
リンチのフォロワー、まだまだ続けようと志を新たにしたSNAKEPIPE。(大げさ)
それにしても世界中に映像作家や作家志望の人がいっぱいいるんだねえ!
そして今回の最終選考作品を鑑賞して思ったのは、
「リンチが大好き!」
と思ってる人がこんなにたくさんいるんだな、ということ。
同じくリンチファンのSNAKEPIPEには、同志のような気がしてとても嬉しかった。
そして恐らくそんなリンチファン(リンチアン)達は、皆同じことを思っているに違いないはず。
「リンチの新作はいつ?」
ほーんと、待ち焦がれちゃうよね!(笑)

SNAKEPIPE MUSEUM #11 Tomer Hanuka

【雑誌プレイボーイに掲載された小説用のイラスト】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のSNAKEPIPE MUSEUMはイラストレーター、トマー・ハヌカを取り上げてみたい。
何気なくトマー・ハヌカと書いたけれど、実は正式な読み方がはっきりしないんだよね。
何故なら、彼はイスラエル人。
ヘブライ語とかアラビア語がイスラエルの公用語みたいなので、この読み方で許してもらおうかな。(笑)
イスラエル人アーティスト、と聞いてパッと思い浮かぶのはオフラ・ハザくらいでSNAKEPIPEにとって、イスラエルってあまり馴染みがない国なんだよね。

トマー・ハヌカのことを書きたいのにそれではあまりにも知識が無さ過ぎ、と思って少しだけイスラエルについて調べてみた。
SNAKEPIPEにとって意外だったのは、イスラエル国防軍がアメリカ軍並の世界的トップレベルの軍隊だということ。
そして科学研究の水準も高く、インターネット普及率も高いんだって。
あらら、SNAKEPIPEが想像していた国とちょっと違うのかもしれないね?(笑)
皆様は御存知でしたかな?

トマー・ハヌカは双子の弟アサッフと1974年、テルアビブに生まれた。
弟のアサッフ・ハヌカもテルアビブを活動拠点に置いているイラストレーターである。
高校を卒業すると3年間兵役に就き(イスラエルでは兵役が義務化されているらしい)、その後渡米。
ニューヨークにあるスクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業後、すぐにイラストレーターの道を歩むことになる。
日本でも聞いたことがあるような「Time Magazine」「The New Yorker」「The New York Times」「Rolling Stone」など有名な新聞や雑誌に寄稿しているよう。
Society of Illustratorsというアメリカのイラストレーションの金メダルや銀メダルを何度も受賞したり、アニメーション映画「Waltz with Bashir」の美術でオスカー賞にノミネートされている。
現在はニューヨークで活動している新進気鋭のイラストレーターなのである。
調べていたら、次回のSociety of Illustratorsの公募ポスターをトマー・ハヌカが描いてた。
未発表、既出に関係なく「700ピクセル以内、解像度72で送るように」と細かく応募に関する指示が出されている。
webでエントリーできるのはいいね!
きっとトマー・ハヌカもこうした登竜門をくぐってプロになったんだろうね!

SNAKEPIPEがトマー・ハヌカを知ったのは偶然だった。
あの時はマルキ・ド・サドについて調べていて、たまたま画像検索で目にしたのがブックカバーに使用されたトマー・ハヌカのイラスト。
斬新な構図に強い色彩、精緻なデッサンに加えて、なんといっても「いかにもマルキ・ド・サド」的なモチーフ!
一目観て大ファンになってしまったのである。
こんなマルキ・ド・サドの本があったら即買いしちゃうね!(笑)

トマーとアサッフのハヌカ・ブラザーズの公式サイトには、惜しげも無く彼らのイラストや漫画が多数掲載されている。
どれも「あるワンシーン」を切り取って描かれていて、鑑賞者のイメージを膨らませる。
小説の挿絵や表紙に使用されているようなので、その試みは成功しているよね。

幼少の頃に見たアメリカン・コミックに痺れるような魅力を感じ、その時の強い印象に憧れ渡米したトマー・ハヌカ。
いや、憧れだけでは、こんなイラスト描けないよね凡人には。(笑)
イスラエル人が描くアメコミ、という違和感は、彼らの色彩感覚によって中和されてるように思う。
そんなにアメコミに詳しくないSNAKEPIPEだけど、ハヌカ・ブラザーズは中間色を多く取り入れた独特の雰囲気があるんだよね。
それがハヌカ・ブラザーズの特徴であり、オシャレ度をアップしているように感じる。

WEBからイラストの購入ができるようなので、全部コレクションしたくなっちゃう。
これからもどんどん新作をアップして、エロ・グロ・ハイセンスな素晴らしい作品を見せて欲しいね!