CULT映画ア・ラ・カルト!【01】邦画編

【「盲獣」での緑魔子写真展作品より。アングラ最高!(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

以前の記事で、週に2、3本の映画を観ていると書いたことがあるが、それはいつの間にか習慣になってしまった。
「不況の影響のため自宅でDVD鑑賞する家庭が増えている」なんて記事を読んだので、世の中全体の傾向なのかもしれない。
毎週観たことがない好みの映画を見つけるのは意外と大変な作業である。
好みの、という部分がポイントだからだ。
二人が着手してこなかったのが日本映画、その中でもB級モノはほとんど知らない。
面白そうな映画はないかと調べ、入手してくれるROCKHURRAHの苦労のお陰で、なんとかその難題もクリア。(笑)
日本映画にもカルトと呼べるような作品があるのね!
そこで今回はシリーズ1回目として3本の作品について書いてみたい。(シリーズ化するのか?)

地獄最初は中川信夫監督1960年の作品「地獄」。
主演は我が家のアイドル天知茂
天知茂の学生服姿にびっくり!若いっ!(笑)
知らなかった、天知茂ってSNAKEPIPEと同じ誕生日!
やったー!うれしい!(笑)
調べてみたら当時28歳くらいか。
ちょっと学生役には無理がある?
あの「苦みばしったダンディーさん」とは違う雰囲気の役どころ。
共演者に三ツ矢歌子と来れば、これは「美女シリーズ」の元祖か、と期待してしまう。
がっ!内容は想像していたのとは大きく違っていた。

前半は何故地獄に行くことになってしまったのか、が延々と語られる。
この部分が非常に長い。
交通事故で死んだヤクザの身内の話。
天知茂をしつこく付け狙う死んだ友人の描写。
恋人だった三ツ矢歌子の気が違ってしまった両親のくどくどしさ。
あまり意味がない異常なまでに長い宴会シーン。
関わり合った人々は不慮の事故、他殺もしくは自殺などで全員が亡くなってしまう。
「これでもか」という程嫌な雰囲気が続き、現世こそが地獄のようである。
それにしてもあまりにも単調で二人共映画途中で眠くなってしまった。

そしてついにお待ちかね(?)の地獄行き。
生前に犯した罪によって様々な責め苦を与えられる。
「地獄」という言葉から容易に連想できる三途の川、閻魔大王などが登場。
前半で語られた話に登場した人々全員に地獄で再会。
恋人だった三ツ矢歌子もいる!
ところが後半はもうストーリーがメチャクチャ。
ラストも意味不明で観ているこっちが地獄の責め苦を味わったような気分。(笑)

天使の恍惚続いては若松孝二監督の1972年の作品「天使の恍惚」。
若松孝二というと「ピンク映画の監督」というイメージを持っていたし、タイトルからも「そっち系」かと思いきや内容は全然違っていた。
日本で革命を計画している過激派テロリストの話だったのである。

米軍基地から武器を略奪するところから話は始まる。
ところが米兵に見つかり、仲間が射殺されたり、リーダーが失明したりと大失態。
このあたりから仲間を季節、月、曜日などのコードネームで呼び合ってることに気付く。
「10月はもうダメだ。ここから先は冬が動く」
「水曜日、大丈夫か?」
などと言われても意味不明。(笑)
なーんかこれって「ワンピース」の中に出てきた「バロック・ワークス」みたい。

冒頭や途中で入るのがクラブでの歌。
後から知ったけれど、歌っていたのは「新宿泥棒日記」でヒロインを演じた横山リエ
あるようなないようなよく分からないメロディに字余りの歌詞。
「ここは静かな最前線」
などとこれまた革命に関する内容を無表情で淡々と歌い続けるシーンが長い!
横山リエ演じる「金曜日」は、仲間を裏切らず決して口を割らない強固な信念を持ち、最後には国会議事堂に突っ込む幻想をしながら自爆する。
女だてらにすごいテロリストだ!

調べてみると監督の若松孝二という人は「警官を殺す映画を作ってやる」という動機から映画監督になったという筋金入りの反体制派らしい。
この映画の中でも警察に爆弾を投げ込む、という無差別テロを決行してたな。
映画で復讐、というわけか。(笑)
監督の経歴を読んでいたら「プロデューサーを殴り倒し解雇」なんていうのもあって、かなり過激な人なんだな、とニンマリしてしまった。

映画自体は時代背景を知らないとストーリーが解り辛いし、特別映像美に優れているというわけでもない。
ただその時代を真剣に生きた若者群像、文化、風俗のような雰囲気はよく出ていて興味深い。
カルトな映画というわけではないけれど、横山リエの歌と存在感はなかなかB級度高いね。(笑)

盲獣ラストを飾るのは「盲獣」、増村保造監督1969年の作品である。
原作はご存知我等が江戸川乱歩!(笑)
いつの頃からか乱歩原作の作品を映画化するのがブームになり、一応念のため鑑賞はするものの「やっぱり思った通りイマイチだった」と感想を持つことが多かった。
ところがっ!
増村監督の「盲獣」は違っていた。

盲獣役が若かりし船越英二!
えっ、あの温和な校長先生役などで有名なのに盲獣って。(笑)
そして盲獣に狙われるモデル役に緑魔子
名前だけは知ってても実際に演じてるところを観るのはこの映画が初めて。
そして盲獣の母親役として千石規子
なんとこの映画の中の登場人物は上に書いた3人のみ。
まるで舞台みたいだね!

なんといっても素晴らしいのは美術。
映画冒頭で緑魔子をモデルにしたヌード写真展が開催されている様子が出てくるのだが、この写真がいい!
いかにも60年代後半というアングラでアンニュイなエロティシズムにあふれた作品群。
このポスターがあったら欲しいくらいである。
そして盲獣のアトリエ。
乱歩の原作をそのまま忠実に再現したかのような出来に、ROCKHURRAHと共に「すごい!」と声をあげてしまった。
69年の作品でここまでやってくれるとは!(笑)
触感芸術、なる「触ることで感じる芸術」を提唱する盲獣のアトリエは、今まで触ったことがある女性の様々なパーツから構成されている。
大小の目、耳、手、足、などパーツの群生が所狭しと並ぶ。
いやあ、よく作ったよねえ。(笑)

原作をなぞった部分もあるかと思えば、原作には全くなかった設定が母親の存在である。
上述したように母親役として千石規子がキャスティングされていて、盲目の息子を産んでしまった罪悪感から息子の言うことは何でもきく。
モデル緑魔子誘拐や監禁生活を手伝ったりする。
割烹着姿の千石規子はいかにも「おっかさん」で現実的な感じだ。
この「現実」であった母親が不在になることで、映画は非現実的な方向に向かってしまうのだ。

ネタバレになるから詳細は割愛するけれど、船越英二と緑魔子の「二人だけの世界」には限界が訪れる。
やっぱり人は同じことを続けていると飽きるのね。
進化なのか退化になるのか分からないけれど、二人はエスカレートし過ぎてしまった。
そして衝撃のラストになるのだけれど、SNAKEPIPEは痛いのダメなので途中から映画を放棄!(笑)
ここまでいったらこうなるだろう、という予想通りの結末に落ち着いていた。
うーん、もっと二人でいい道探して欲しかったなあ。

上述したように設定にない母親がいたり、原作とは違った方向に話が飛んでいたりしたけれど、映画としての見ごたえは充分!
そしてとてもチャーミングな緑魔子の魅力がいっぱい。
機会があったら是非どうぞ、とお薦めしたい一本である。

今回紹介した3本のうち本当にカルトといえるのは「盲獣」だけで、残りの2本は「変わった映画」という感じか。(笑)
まだまだこれからもB級映画を探して観ていきたいと思う。
面白そうなのがあったらまた紹介しましょ!

好き好きアーツ!#07 横尾忠則

【ROCKHURRAH RECORDSのポスターを横尾忠則風に制作。なんか中途半端。(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

今回は好き好きアーツの7回目として、画家横尾忠則氏について書いてみたいと思う。
画家、と言ってみたけれど元々はグラフィックデザイナーであり俳優業や著作も数多くマルチな活躍をしている横尾氏。
何回か回数に分けて書かないと横尾忠則の全貌については語り尽くせないので、SNAKEPIPEの気になったことを書いていきたいと思う。

恐らくSNAKEPIPEが一番初めに横尾作品を目にしたのはTVドラマ「ムー」のタイトルバックであろう。
子供だったので、当時はそれが横尾作品とは知らずに観てたけど。(笑)
今では「You Tube」でも観られるので、改めて鑑賞してみた。
ものすごく斬新!
続編の「ムー一族」のタイトルも横尾氏によるもので、これも面白い。
70年代は実験的なことをやってたんだなと感心してしまう。
続いては横尾忠則の出発点であるポスターについて書いてみようか。

ポスター制作をしていたのは60年代後半から70年代にかけての、いわゆるアングラ文化、今だとカウンターカルチャーというジャンルになるのかな。
映画、写真、演劇の告知ポスターが有名である。
残念ながらリアルタイムで観ていたわけではないため、氏の展覧会で鑑賞しポストカードになった物を入手した次第である。
一目見ただけで氏の作品と判る特徴的な色づかいや構成に影響を受けた人も多いだろう。
題材となっている写真、映画、演劇もかなり特徴があるので、相乗効果で更に迫力がある。
時代、と言ってしまえば簡単だけど、当時を知らないSNAKEPIPEから見ると、まさに激動の時、これから何か始まるぞ、というザワザワしたエネルギーを感じる時代だったのではないかと想像する。
経験していない者にとっては憧れの時代なのである。
その時代に18歳くらいで新宿近辺をうろついてみたかった!
それじゃただのフーテンか。(笑)

その時代、1969年に横尾氏主演の映画、「新宿泥棒日記」が公開されている。
監督は大島渚
唐十朗もゲスト出演していて、まさに横尾氏のポスター通りである。
新宿紀伊國屋で本を万引きして、店員に咎められるところから始まる映画で、横尾が岡ノ上鳥男というふざけた名前で登場。
映画の内容はあまりよく覚えてないけれど、途中から劇中劇のような展開でハチャメチャだったように記憶している。
その辺りも時代っぽい感じなのかな。

横尾氏は著作の中で三島由紀夫氏、ビートルズからの影響について語っているが、その結果がインドへの興味になったようだ。
著作の中で横尾氏は
「君はもうインドに行ってもいいようだ」
と三島由紀夫氏に言われたと書いていたが、それはインドという大きな存在を受け止める精神力に合格点が出た、という解釈でイイのかな。
横尾氏の「なんでも受け入れる」ような姿勢はインドからの影響なのかもしれない。
あっちの世界と交信ができる、UFOを呼ぶことができる、など聞く人によっては笑うか疑うような話をたくさん書いている横尾氏だからね。

夢の中での話も非常に多く、絵画の題材を夢から取ることもあるようだ。
横尾氏は「夢日記」を書いていて、かなり赤裸々に綴られた内容に読み手が赤面してしまうこともある。
以前何かのインタビューで「何故だか何日も連続で夢の中に滝が出てきたから、滝シリーズを描いた」と語っていた横尾氏。
横尾氏にとって夢は啓示や暗示と考え、非常に重要な要素として捉えているようだ。
ん?これって敬愛する映画監督デヴィッド・リンチと一緒じゃん!(笑)
そういえばリンチも横尾氏も少年時代に好きだったものをずっと思い続けてるし。
書いているうちに共通点を発見するとは!
今頃気付くSNAKEPIPEが鈍いのか?(笑)
リンチは還暦過ぎても「気分はまだ19才のまま」と語っているけれど、恐らく横尾氏も同じような心境ではないだろうか。

リンチと横尾氏、ということで大きく違っているのは結婚観か。
横尾氏は仕事の関係で知り合い、会って3日目にはプロポーズ!
仲睦まじい様子はHPで確認することができるように、「一人の女性をずっと愛し続けていく」タイプである。
3日目に結婚を決意できるほど「この女性しかいない」と確信が持てた、直感に優れている、ということになるのか。
一方リンチはと言うと3回の結婚と離婚を経験、お付き合いしていた有名人にイザベラ・ロッセリーニがいたり、現在の恋人と噂されているのはナスターシャ・キンスキーとのことでこの手の話題に尽きないほどのプレイボーイぶり。(笑)
この点に関しては全く二人のタイプは違ってるんだね。
ってまるでワイドショーみたいだからこのくらいでやめるか。(笑)

かつては「横尾」という文字があると書籍でも雑誌でも画集でも、なんでも手に入れないと気が済まないほどに熱中し、展覧会にも足を運んでいたSNAKEPIPEだったけれど、横尾氏の露出度が高過ぎてだんだん追いつかなくなってしまった。
SNAEKPIPEが最後に観たのは2002年の「横尾忠則 森羅万象」展での「Y字路」シリーズまで。
そのため最近の活動については詳しくない。
確か去年だったか手にした雑誌がまたもや「横尾忠則特集」をやっていて、今までの作品の紹介に加えて現在描いているテーマについても載っているのを見かけた。
現在は「温泉」をテーマにしているそうで。
久しぶりにHPを観たら金沢21世紀美術館で公開制作が開催されていた模様。
いや~、金沢じゃ簡単に行かれないよね。(笑)
また近場で展覧会が開催されたら行きたいと思う。

小谷元彦「SP4」と「万華鏡の視覚」展

【Paul Pfeifferのマイケルに対抗できるのはロッキーホラーショーだけ?SNAKEPIPE制作】

SNAKEPIPE WROTE:

久しぶりに長年来の友人Mから
「面白そうな展示を観に行かない?」
と誘いの電話があった。
この友人Mは松井冬子展やターナー賞の歩み展などに一緒に行く、アートや映画を一緒に鑑賞する仲なのである。
そして非常に情報収集能力に長けているため、誘いの電話をかけてくるのは専らMの役割になっているのである。

今回誘われたのは「山本現代」というギャラリーで開催されている「小谷元彦」というアーティストの彫刻展。
恥ずかしながらSNAKEPIPE、小谷元彦という名前は初耳で一体どんな作品を制作しているのか全く知らなかった。
そうは言ってもSNAKEPIPEの好みを熟知している友人Mのことだから、的外れの誘いでないことは間違いない。(笑)
一応「山本現代」のホームーページで数点の作品を観ることができたので、なんとなくの雰囲気はつかむことができた。

そしていざ「山本現代」へ。
今回のタイトルは「SP4」で、どうやらSPECTERシリーズの4回目、ということになるらしい。スペクターって…。
デイヴ・スペクター?(笑)それとも007シリーズ?(笑)あ、暴走族!(笑)
と、ふざけてる場合じゃないか。
今回の展示は恐らく実物大の馬の上で刀を持った筋っぽい骸骨(人体の不思議展を思い出した!)、これまた実物大の心臓を手にした裸婦像、頭蓋骨、海綿(スポンジみたいな)をかたどったような壁掛けタイプの黒いスクエア型彫刻が数点、とちょっと品数が少なめ。
「うそ!これだけ?」
とびっくりするSNAKEPIPEに
「きっと奥に別会場があるんだよ」
と返したMも唖然。別会場はなかった。(笑)
白を基調とした空間にそれらの彫刻が割と無造作に置いてあるだけ。
触らないで下さい、などと注意をする係員もいない。
ほんの数点しか展示品がないし、なにせ今回が初めてなので感想を言うことが難しいなあ。
「山本現代」のホームページの中で「キーワードはゾンビ」なんて書いてあったけれど、最近ゾンビ映画を観ているSNAKEPIPEにはピンと来なかった。
今までの作品全ての展示があったら是非観てみたいし、それから感想をまとめたいなと思った。

この日は「小谷元彦」だけでは物足りなくなってしまい、もっと何か観たくなってしまった。
「そういえば森美術館で面白そうなのやってるよ。確か万華鏡がどうのって」
と急に思い出したように言うM。
万華鏡!まるで乱歩じゃん!
俄然元気が出てきたSNAKEPIPE。
行こ、行こ!六本木!(笑)

さて森美術館では「万華鏡の視覚」と題した、ウィーンにあるティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションからセレクトされた現代美術展が開催されていた。
うん、うん。なかなか面白そうな感じ。
わくわくしながら会場へ。
おや、目玉の作品として大きく写真で扱われてるCarsten Höllerのぐるぐる電球いっぱいの作品、まるで今年のウチの年賀状
ドイツのアーティストと感覚が似てるなんて非常にウレシイ!(笑)
作品の中を歩ける仕掛けになっているので、体験してみた。
感想は「サーカスの火の輪をくぐる動物になった気分」である。
個人的には作品の周りが全部鏡だったら、もっと視覚の幻惑や空間の広がりにとまどいを覚えたりして不思議感覚が味わえたのに、と少し物足りなさを感じた。
電球ももっとピカピカに明るいほうがクラクラして楽しかっただろうし。(笑)

以前「ターナー賞の歩み展」の時にも書いた、
"現代アートというと前述したように、理念や思想のような「難しい」と感じてしまう要素が多いけれど、SNAKEPIPE流の鑑賞法としては「かっこいい!」「ウチに持って帰りたい」などの感覚的なものでいいかな、と思っている"
の精神そのままに今回も鑑賞したSNAKEPIPE。
今回のSNAKEPIPEの一番はLos Carpinterosというキューバのアーティストの作品。
崩壊したブロック塀、飛び散ったブロックをテグスで空中に吊り、時間の停止した様子を立体で作っちゃいました、という作品。
まるで畠山直哉の「BLAST」の実物版という感じで最高に好みである。(笑)
「カッコイイ!」と作品の前に立つSNAKEPIPEに
「1人1本テグスを切っていい、とかだったらもっと面白いのにね!」
と感想を言ってたM。
それじゃあ「時間の停止」にならなくなっちゃうじゃん。(笑)

印象に残ったのはPaul Pfeifferというハワイのアーティストが「Live Evil 」という頭のない踊るマイケル・ジャクソンを鏡で左右に映したビデオ作品。
頭がなくてもマイケルと分かるところもすごいけれど、マイケルの映像をこんな形で使っていいんだろうか、とヘンな心配をしてしまった。
ほら、肖像権とかね。(笑)

他はいかにも現代アート風というか、観念と理屈と言葉が必要な作品が多かったように思えた。
そういう作品はさらっと流して観ることが多いので、会場を回っている時間は非常に短かったかな。(笑)
また「ウチに持って帰りたい」ような作品にめぐり合いたいものである。

ビハインド・ザ・マスク

【蟹江敬三が天知茂に早変わり!んなバカな!】

ROCKHURRAH WROTE:

あまり旬な話題もなく単に自分たちの中の好みだけをさまざまな切り口で紹介しているこのROCKHURRAH WEBLOGだが、今回書きたいのはたぶん誰でも知ってる有名な作家、江戸川乱歩について。
と思ったがこの偉大な作家をたかがブログ程度の文章量で語るのは大変すぎる。そこで乱歩の作品についてはまた別の機会という事にして今回は70〜80年代に人気だった「江戸川乱歩の美女シリーズ」という一連のTVドラマについて書いてみよう。

そもそも江戸川乱歩は探偵小説の世界で日本を代表するメジャーな作家である事は誰にも異存はないはず。そして乱歩が創り上げた明智小五郎は金田一耕助と並んで誰でも知ってる名探偵なのも確かだろう。
大正13年「D坂の殺人事件」で登場して以来、現代でもこの名前を知らない大人は限りなく少ないと思える。ただし作者や探偵の知名度の高さとは裏腹に、熱心に乱歩作品を読み漁っている現代人は案外少ないのかも知れない。少年探偵団世代は遠い昔の話、映像化された乱歩の映画も一部を除いてロクなものがないしなあ。
そう言って嘆く人にオススメ出来るかどうかは抜きにしてROCKHURRAHとSNAKEPIPEが週末の楽しみにしていたのがこのTV版乱歩シリーズ。いや、単にDVDレンタル屋のサービス・デーに一気に借りてきて休みの間に観てただけなんだけどね。
大昔には確かに人気作家で大衆に読まれていたに違いないが、実際に読まずに知ったつもりになってる世代にも広く乱歩とは明智小五郎とは、という事を知らしめたのが70年代のこのシリーズだろう。

知ってる人はとうに知ってるだろうがこれは77年からテレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」でやってた天知茂主演のTVドラマだ。天知茂が主演を務めた8年間で何と25作も作られていて乱歩の主要長編のうち映像化可能な作品はほとんど網羅されてる。
ウチの場合は正月くらいから週末限定で18作目くらいまでまとめて観たけどリアルタイムのファンにとっては「次はいつ?」と待ち焦がれる作品だったろうな。この辺は京極堂シリーズのファンも同じようなもんだろうか。

さて、このシリーズをそれぞれ少年少女時代に観ていたROCKHURRAHとSNAKEPIPEは近所のレンタル屋で見つけ大喜び、あやふやな記憶をもとに順序もメチャクチャにこれを観始める。 昔は原題ではなく「○○の美女」などというタイトルがついたこれらのドラマ、単に入浴シーンとか子供っぽい荒唐無稽な部分ばかり記憶に残っていて「バカらしいけど観るか」程度で借りてみたんだが、改めて得た感想は「やっぱりすんごく面白い」と一致したわけだ。
子供っぽい荒唐無稽な部分は乱歩の作品ではむしろ作者が好んで仕掛けるエッセンスで読者もそれを楽しむわけだから、全然マイナス要素じゃなかったという事だね。

このシリーズは大まかに言えば「黄金仮面」「黒蜥蜴」「地獄の道化師」「魔術師」「緑衣の鬼」など原作でもお馴染みの派手な怪人物が明智小五郎に挑戦して戦ってゆくというもの、あまりこけおどしの部分がなく一般的な殺人事件とその解決というもの、そういうふたつのパターンがあってそのどちらにも違った面白さがある。この辺はいわゆる通俗物と呼ばれた大人向け明智シリーズの原作と同じだね。

この手のTVドラマとしては意外なことに原作に割と忠実に作ってる部分も多く、どちらかと言うと原作至上主義のROCKHURRAHでも納得出来る範囲の脚色、割愛がされていて非常に高得点。たまに原作とはまるで違うものもあるけど乱歩の個性や作風をヘタに曲解してなくて、その辺に好感が持てる。
原作では明智小五郎が出てこない作品もTVシリーズでは無理やり明智の事件として扱われているというような強引な力技もなぜか許せてしまう。
そういう良い脚本もあるけど、このドラマに関しては明智小五郎役をやっている天知茂の素晴らしさに尽きる。

原作としては明智小五郎が活躍したのは大正末期から昭和30年までなんだが、この「美女シリーズ」は放映していたのと同時期、つまり昭和50年代という舞台設定に置き換えている。その現代(昭和50年代当時の)に活躍する明智小五郎=天知茂とは・・・。
眉毛の間の深いシワに代表されるニヒルさと当時のダンディな中年を誇張し過ぎたキザな部分だけを見れば、この名優に馴染みのない世代の人は「何じゃこのオッサンは?」と思えるかも知れないが、これが一般的に考えられる名探偵の理路整然とした推理、というイメージを軽く超越してしまってるところがすごい。
たまに007並のアクションもこなして我々もビックリの大活躍をする。事件を解決するためには常識人が恥ずかしいと思えるような事も平気でする。要するにかなり常識外れな部分も併せ持った超探偵なのだ。
極め付けは毎回恒例となっているラスト近くの明智による変装。真犯人が明智を陥れ勝利の凱歌をあげているような時に最も効果的に犯人を告発するため?なのかどうかはわからないが、ここ一番で明智は巧妙な変装を解き、真犯人だけが「あっと驚く」という仕掛け。
ほとんどの場合、見ている人には明智が誰に化けているかは事前にわかってるのにね。

ちなみに変装以外でも天知茂版明智は住み込みの庭師とか工事人夫とか、天知茂本来のイメージからはかけ離れた人物になりすまして犯人を探るといったような傾向にある。このあたりの部分は明智役の天知茂自身が楽しんでやってるとしか思えないバカばかしさに溢れていて大笑い出来る。
文章でこの面白さを伝えるのは難しいのでまだこのシリーズを観た事ない人は是非ご覧になって頂きたい。

あと、天知茂の70年代ファッションも毎回凄過ぎる。派手な水玉のスーツに水玉のネクタイなどが代表的明智スタイル、襟はきわめて大きく裾はナチュラルに広がっている。正式名称はよくわからないが関西とかで70年代のヤンキーたちに人気だったニュートラ(本来のニュートラとは別もの)と呼ばれていたものと酷似している。オフの時はこういったスーツにキャプテン帽(それじゃ横山やすしでしょう)を合わせたり、もう毎回目が釘付けとなる事まちがいなし。
もしかしたら和製アラン・ドロンといった線を狙ってたつもりなのかも知れないが、このシリーズの天知茂も作者の江戸川乱歩同様に暴走しまくってるよ。

こういうわけで天知茂はウチのアイドルとなったわけだが共演もなかなか味があってよろしい。

まずは明智の相棒役、波越警部を演じる荒井注の独特なとぼけた味。原作ではあんまり出て来なかったような気がしたが石坂浩二版金田一耕助シリーズにおける間抜けな警部役、加藤武みたいなもんだろう。

そして原作では明智夫人となる文代。本当は「魔術師」の娘として登場するんだがこのシリーズでは最初から明智探偵事務所の助手として登場する。この役を「ムー」や「さかなちゃん」で人気あった五十嵐めぐみがやっている。
明智に憧れ、美女になぜかいつもモテてしまう明智に焼きもち、という役柄。この五十嵐めぐみと天知茂のやり取りも毎回の楽しみのひとつだ。

明智小五郎と言えば忘れちゃならないのが少年探偵団という別シリーズでも活躍する小林少年。何とこの役を第一回「吸血鬼」では大和田獏、それ以降はよく知らないんだが柏原貴なる人がやってる。原作ではよく「りんごのようなほっぺ」の少年として出てくるが、このTV版の配役はどう見ても少年じゃないだろ、とツッ込んだ人も多いだろう。

明智を含めたこの4人が犯人に対するのが黄金パターンなんだが「○○の美女」とタイトルにあるように毎回必ず美女役が出てきてこれもなかなか豪華。
※ここまで律義にリンク付けてたがもう面倒なので以後省略。
由美かおる、小川真由美、ジュディ・オング、古手川祐子、岡田奈々に片平なぎさなどなど、思いっきり70年代を満喫出来る。
ほとんどの作品では入浴シーンがあるんだが、ほぼ全て吹き替え。わざわざ体だけ別の人間が吹き替えして多くの人にスタイルが良くないとか誤解されるくらいなら本人がそのままやった方がいいんじゃないの?とも思ってしまうが。

ある意味かなりカルトな作品もあるしウソっぽいけど猟奇的描写もお色気もある。幅広い層が楽しめるエンタティンメント要素を凝縮したシリーズで人気があったのも頷ける。
何しろ25作もあるから全部の感想を書いていたらキリがないし、まとめの要約と言っても「みんな大体似たようなパターンで面白い」としか書きようがなくて結構難しいんだけど、食わず嫌いでこのシリーズを素通りしていた乱歩ファンも観たら目からウロコが堕ちる事間違いなし。

実は近所のレンタル屋ではなぜかシリーズのうち最後の数本だけ置いてなくてこの「美女シリーズ」を二人ともコンプリート出来てない状況で、それが残念。いつごろDVD化されたのかは全然知らないけど、あと少しなんだから何とか入荷してもらえないものかね。