CULT映画ア・ラ・カルト!【06】JOHN WATERS part2

【Cecil B Demented Are Go!(音が出ますので注意)】

SNAKEPIPE WROTE:

さて今回はジョン・ウォーターズ監督の第2弾!
CULT映画ア・ラ・カルト!JOHN WATERS part1」でも書いたけれど、ジョン・ウォーターズの映画を入手しようと思ってもなかなか難しい昨今。
今回も仕方なく紹介する3本のうち2本は字幕なしの状態で鑑賞。
以前観たのは随分昔だから記憶はあやふや。
しかもSNAKEPIPEのヒアリングに問題があるため完全に理解したとは言い難いまま書いてみようと思っている。
かなり無謀かな?(笑)

クライ・ベイビー」(原題:Cry-Baby)1990年。
ジョニー・デップ演じるクライベイビー率いる不良チーム「ドレイプス」といい子ちゃんチームの「スクエアズ」の対立と恋を描いたミュージカル映画。
実はSNAKEPIPEは観たことないんだけど、恐らく「ウエストサイド物語」に近いみたいね。
それをパロディ化してるのかもしれない。
途中で出てくる「肝試しレース」は「理由なき反抗」にあった「チキンレース」みたいな感じだったしね。
ヘアスプレー」と似た雰囲気で、結局ジョン・ウォーターズもデヴィッド・リンチと同じく50年代が大好きなんだろうね。(笑)
ストーリーはどーってことないし結末も予想通りだけれど、俳優の個性がイカしてる。
なんとジョニー・デップの(多分)おじいさん役がイギー・ポップ
途中でウサギの着ぐるみ姿で登場するシーンもあり、あのパンクの帝王が!と笑ってしまう。

クライベイビーはロカビリーバンドをやっていて、ジョニー・デップが裏声使いまくりで(ヒーカップね)歌うのはさすがにミュージシャン!
聴かせてくれます!
ウッドベース担当してる俳優さんがストレイ・キャッツの人によく似てること!
当然違う人だけどね。(笑)
バンドのメンバーとしてトレイシー・ローズがいたけど、彼女も本当にサイコビリーの女性版みたいでかなりきまってていい感じだった。

脇はしっかり個性派でまとめているのに、何故かヒロイン役が凡庸な女優。
これだけが納得いかなかったな。

セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ」(原題:Cecil B. Demented)2000年。
この映画だけは字幕ありで鑑賞したため完全に理解できている一本。(笑)
アングラ映画を撮ることを誓い合ったチーム「スプロケット・ホールズ」が命がけで映画を完成させる物語。
今回はヒロインとしてハリウッド女優のメラニー・グリフィス
シリアル・ママ」のキャサリン・ターナーの時もびっくりしたけど、メラニーもよくウォーターズ作品の出演を決心したものだ。
やっぱりこれも「経験」とか「幅を広げる」ためだったのかな?
映画の中でもハリウッド女優役で初めはとても性格の悪いタカビー(死語?)だったけれど、「スプロケット・ホールズ」に誘拐されて無理矢理アングラ映画に出演させられていくうちに女優魂に火が点く。
よーやるわ、と思うほど弾けまくってたメラニーもやっぱりウォーターズ・マジックにかかっていたのかな?(笑)

一番笑ったのは「スプロケット・ホールズ」のメンバー紹介のシーン。
アングラ映画をこよなく愛する彼らは崇拝する映画監督の名前を刺青しているのである。
監督:セシル・B・ディメンテッドはオットー・プレミンジャーの刺青
俳優:チェリッシュはアンディ・ウォーホールの刺青
俳優:ライルはハーシェル・ゴードン・ルイスの刺青
撮影:パムはサム・ペキンパーの刺青
録音:シャルドネはスパイク・リー刺青
美術:ルイスはデヴィッド・リンチの刺青
衣装:フィジットはウィリアム・キャッスルの刺青
メイク:レイヴンはケネス・アンガーの刺青
ヘア:ロドニーはペドロ・アルモドバルの刺青
運転手:ピーティはライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの刺青
プロデューサー:ダイナはサム・フラーの刺青
刺青を見せながら一人一人が名前と役割を自己紹介の形で語る。
その時にバックに流れる音楽がそれぞれの監督の作品で使用された音楽になっているところが凝った演出かな。
SNAKEPIPEも敬愛するデヴィッド・リンチの紹介の時にはツイン・ピークスの音楽が流れていた。
そしてデヴィッド・リンチの名前が彫られている箇所は指だったのだけれど、DAVID LYNCHと5文字ずつあるため一本の指にIDとCHが小さく彫られているのが笑える。
よく見かけるようなLOVEとHATEだったら4文字だからおさまりがいいんだけどね!(笑)

この映画の中ではジョン・ウォーターズには珍しく(?)強烈なハリウッド批判や映画のマナーに関するメッセージなどが盛り込まれていた。
そのためか撮影はヨーロッパで行われたとか。
あら、今回はボルチモアじゃなかったんだね。(笑)
「映画の最中に喋るなんて」
「映画が始まってから入場するとは」
という実は当たり前のことなのに、実際にはまだまだマナー違反の人がいっぱいいる現状に腹を立てる「スプロケット・ホールズ」の面々。
ま、これはジョン・ウォーターズを代弁してるんだろうけど。
ほんとに映画館で不快な思いをすることって多いもんね。
SNAKEPIPEも大きくうなずいちゃったよ!

この映画ではウォーターズの映画の嗜好がよく分かる。
「良質なファミリー映画」はダメだけど「アクション映画」や「ポルノ映画」はオッケー。
パゾリーニ映画祭にお客さんが一人も来ないなんて!」
というセリフもあって笑ってしまった。
完全に「フォレスト・ガンプ」を馬鹿にしたシーンまで出てきて、痛烈に批判。
ただし、SNAKEPIPEもROCKHURRAHもその手のハリウッド映画ってほとんど観ないからパロディなのかどうかが分からなかったけど。(笑)

テーマが明確で脇の俳優の個性がはっきりしていて、とても面白い映画である。
音楽も毎度のウォーターズの好みとはかなり違っていて、ヒップホップやハードコアな音を取り入れていたところも斬新だった。
テロリズムにスウィートな50年代風ポップスは合わないか!(笑)

ア・ダーティ・シェイム」(原題:A Dirty Shame)2004年。
この映画、なんと日本未公開作品!
実はSNAKEPIPEもジョン・ウォーターズについて調べていた時に初めて知ったのである。
もう6年も前の新作を知らなかったとはSNAKEPIPE、ウォーターズファン失格だよ!
それにしても今までウォーターズ作品が日本で公開されなかったことがないので、未公開とはとても不思議だ。
ということでこの作品も字幕なしで鑑賞。
主演がなんと「ブレイクアウェイ」でブレイクしたトレイシー・ウルマン
「ヘアスプレー」の主人公もトレイシー。
「クライベイビー」に出演したトレイシー・ローズ。
これで3人目のトレイシーである。
余程ウォーターズが気に入ってる名前なのかもしれないね。(笑)

トレイシー・ウルマン演じる主人公シルヴィアが突発的な事故で頭を強打。
その事故がきっかけで貞淑な妻から一転、淫乱女になり町中の人を巻き込んでいく話である。
トレイシー・ウルマンの変貌ぶりが見事で、「よーやるわ!」と感心してしまうほどノリノリの演技に笑わされる。
トレイシー・ウルマンはコメディが得意みたいだから、この程度の弾け具合はへっちゃらだったのかもしれないね。
トレイシー・ウルマンとウォーターズのコンビネーションは全く想像できなかったけれど、ここまでやる気マンマンのトレイシーなら第二のディバインも夢じゃないかも?(笑)

なんともチープな作りで、ストーリーにひねりもなく
「Let’s Go Sexy!」
を合言葉に町中の人々が官能の世界に行くこの映画が新作とは!
1964年から始まるウォーターズの映画人生40年、未だにこのジャンルの作品を作り続けるその精神力!
SNAKEPIPEとしてはさすがウォーターズ、と拍手したい気分である。(笑)
一般ウケはしないと思うので、日本未公開だったのもうなずけるけどね。

どうやらウォーターズの新作は2010年「Fruitcake」のようなので、今からとても楽しみだ。

CULT映画ア・ラ・カルト!【06】JOHN WATERS part1

【ジョン・ウォーターズ監督をROCKHURRAHがアニメ化。a-haのPVみたいね!】

SNAKEPIPE WROTE:

ついにこの「CULT映画ア・ラ・カルト!」にカルト映画の大御所、ジョン・ウォーターズが登場!
本当は「カルト」なんてジャンルができるよりずっと前から活動している監督だけどね!
ジョン・ウォーターズには非常に思い入れが強いSNAKEKPIPEなので、何回かに分けて書いていきたいと思う。

まずはジョン・ウォーターズについて簡単に説明してみようかな。
ジョン・ウォーターズはアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア出身の1946年生まれの映画監督。
この出身地ボルチモアをこれほど愛している映画監督は他にいないはず。(笑)
映画の舞台はほとんどボルチモアだからである。
ジョン・ウォーターズの名前を世に知らしめたのは「ピンクフラミンゴ」だと思うけれど、これはかなり好き嫌いがはっきりする映画だろう。
この映画を評する時に使われるのが「至上最低の悪趣味映画」だからである。
いつの間かこの「悪趣味」というのを「バッドテイスト」と読み替えて、宣伝文句に使われるようになっているけれど。
その「悪趣味」で「下品」で「最低」の三拍子を揃えた元祖がジョン・ウォーターズ、ということになるのかな。
ぷぷぷ!そのウォーターズに思い入れが強いSNAKEPIPEとはね。(笑)
ブラック過ぎるジョークが大好きだからね!
今回はそのジョン・ウォーターズの映画の中でも割と毒が薄い(?)3本についてまとめてみようかな。
思いつくままに書くつもりなので年代などは無視してるけど許してね。

1本目は「ヘアスプレー」(原題:Hairspray)1988年。
この映画2002年にはミュージカルになり2007年にはそのミュージカルを映画化したものがあって(監督はアダム・シャンクマン)、最近ではなかなかオリジナルを手に入れることが少ないと思う。
オリジナル版は調べてみると中古で安くても8500円!(2010年2月現在)
ぎょっ、そんなに高いとはびっくり!
ジョン・ウォーターズの映画って今は手に入りにくくなっているみたいね。
それでもどうしても観たかったので、仕方なく字幕なしバージョンで鑑賞。

ヘアスプレーのオリジナル版にこだわりたかったのは、この映画がディバイン最後のウォーターズ作品だからである。
ウォーターズ作品の核とも言うべきディバインは、圧倒的な印象だったためその後の不在はとても残念だ。
そのディバインは主人公トレイシーの母親役で登場。
太めトレイシーと並ぶと本当に親子みたいに見えてしまう。
その後のウォーターズ作品の常連になるこのトレイシーを演じたリッキー・レイクはリズム感が良く上手いダンスを披露。
ヘアスプレーは映画の1/3がダンスシーンといってもいいほど、いつでも踊りまくりなのだ。
1960年代初頭に流行ったダンスを良く知ることができる寸法!
とても楽しそうなのでSNAKEPIPEも参加したくなっちゃう。(笑)

かつてダンスの女王だったというベルマ役をブロンディのデビー・ハリーが演じていて、かなりいい味出している。
他にはカーズリック・オケイセック(ボルチモア出身!)もビートニク・キャットという名前で出演。
ヘンな画家という役どころで面白かった。
ジョン・ウォーターズの映画にはちょっとしたゲストが出ることがあって、見つける楽しみがあるね。
出演したいと名乗りをあげる人、多いんじゃないかな?
この映画にはウォーターズ自身も精神科の医師の役で出演してた。
先生が一番怪しげだったけど。(笑)

映画はダンス以外に差別問題(人種や体型など)なども入っていて、教育指導的要素もある。
さすがにメジャー作品だけあるね。
毒気は少なかったけど、最後に「あー面白かった」とすっきりできる映画。
いつの日か2007年版も観てみるかな。

続いては「シリアルママ」(原題:Serial Mom)1994年。
後にシリアルママ(連続殺人ママ)として有名になる主婦ベヴァリーをキャサリン・ターナーが熱演。
キャサリン・ターナーがよくこの役を引き受けたもんだ、と当時はびっくりしたものだった。
改めて今回鑑賞してみたけど、やっぱりキャサリン「はまり役」ね!
俳優という職業は「演じることができる役の幅」で勝負が決まるだろうから、こういう経験は大事だろうね。(笑)

映画はその主婦ベヴァリーの持つ基準にそぐわない、ルール違反をしたと思う人物を次々と殺していく話である。
それは自分の子供たちを守るためだったり、「勤労感謝の日」を過ぎているのに白い靴を履いているからだったり、と理由は様々。
どうやらこれは夏物と冬物の区別を示しているみたいだけど、アメリカでの昔ながらの習慣なのかもしれないね。
ベヴァリーのルールに反していない人とはとても良い人間関係を持つところが面白かった。
ベヴァリーは極端過ぎだったかもしれないけど、言いたいことはとてもよく理解できるね。
外に出ればいくらでも似たような出来事に遭遇するし、ルール違反を指摘したくなることって多いからね。
ベヴァリーが人気者になっていくのもうなずける。(笑)

この映画ではアメリカのお騒がせ女性ロックバンド「L7」が登場。
ライブ会場にシリアルママが来るという設定ね。
この時のL7のメンバーが穿いていた白いパンツのデザインがすごい。
多分売ってないよね、特注かな?
そしてこのバンドを選んだウォーターズはさすが、だね。(笑)

映画の中でシリアルママの無実を訴えるためにバッジやらTシャツを裁判所前で販売してるシーンに目が釘付け。
あまりデザインがよく見えなかったけど、もし実際売ってたら欲しかったな!(笑)

最後まで「気に障ったらシリアルママに殺されるかも」というドキドキ感が持続されていたのが良かった。
にっこりしていた次の瞬間には武器を手にしているママの変貌ぶりは最高だったよ!


3本目は「I Love ペッカー」(原題:Pecker)1998年。
主役は「ターミネーター2」で子役だったエドワード・ファーロング
ここでもまた有名俳優を起用してるウォーターズ監督だけれど、ウォーターズ・マジックとでも言うのかやっぱり溶け込ませちゃってるんだよね。
エドワード・ファーロングがちょっとヘンな人に見えてくるから不思議。(笑)

このエドワード・ファーロング演じるペッカーは写真を撮るのが大好きな役どころ。
いつでもどこでもパシャパシャシャッターを切っている。
知らない人のことも平気で撮影。
相手も全然嫌がっていないところがすごいんだけど!
最近の傾向としては「肖像権」の問題があるため、相手の承諾なく勝手に撮影(撮影した写真の発表も)してはいけないことになってるからね。
ちょっと羨ましい環境のペッカー。
とても生き生きとした人々の表情が撮られていて、映画の中といえどもさすがだよね。

ペッカーの家族や周りだけでも相当な数の個性派がいる。
知り合いの写真を撮るだけでも充分なネタになっちゃうんだよね。
ペッカーのおばあちゃんのバレバレの腹話術。
ペッカーのお姉さんが働くゲイバーでの撮影。
砂糖中毒の妹がねぼけたところ。(最後には野菜中毒に変化)
ペッカーのガールフレンド(クリスチーナ・リッチ)の写真、などなど。
ボルチモアにはこんなにたくさん個性的な人がいるのかな?(笑)

あれよあれよという間に有名アーティストになってしまうペッカーだけれど、自分が都会に出て行かないで「我がボルチモアにようこそ」とアート関係者を地元に呼ぶところが面白かった。
そうそう、そのアート関係者の中に本物のシンディ・シャーマンが本名で出演してるんだよね。
シンディ・シャーマンはスチール写真のようなセルフポートレイトで有名になったアメリカの女流写真家ね。
シンディ・シャーマンだったらウォーターズ映画のファンだろうな。(笑)

記憶があやふやだけどこの映画には「ファインダーを通すと全てが素晴らしいんだ!」みたいなキャッチコピーが付けられていたはず。
確かに撮影シーンがとても楽しそうでSNAKEPIPEも一眼レフで撮影したくなっちゃったよ!
ウォーターズ監督の自伝的映画なんて書いてあるから、きっと楽しい少年時代を過ごしてたんだろうね。
この映画もあまり毒気が強くないし、ほのぼのしたサクセスストーリーなので写真好きの人にお薦めかな!

軽く3本をまとめてみたけれど、ウォーターズ監督作品についてはまだまだ書き足りないSNAKEPIPE。
また近いうちに違う映画も特集してみたい。

時に忘れられた人々【06】ヴィンテージ漫画篇2

【愛読してた割には愛のない文章でごめん】

ROCKHURRAH WROTE:

前回はひどい風邪で高熱もあり、不調真っ只中でのブログだったがその後は何とか回復してとりあえずはメデタシ。
さて、今回もその続きで過去に愛読していた漫画への個人的な思い入れを書いてゆこう。解説でも考察でも紹介でもなくて単なる回想だからディープな話は全くない。
これを書いているのが深夜で早く眠りたいため、いつものような長い前フリはなしでね。

「虹を呼ぶ拳/つのだじろう」
絵的には全く好みじゃないはずなんだが「うしろの百太郎」「恐怖新聞」「空手バカ一代」は読んでて当然。かなりカルトな作品とも言える「メギドの火」までも愛読していた(キャンサー白鳥ファン)ので「全然ファンじゃありません」とは言い難い漫画家。
運動が全くダメでガリ勉タイプの団地のモヤシっ子(死語)が強盗に襲われて、それを救ったのがクラスの劣等生。強さの秘密は空手だと言う。これをきっかけに空手の道にのめりこんでゆくという話なんだが、前半がやたらリアルというかせせこましい生活感にあふれた描写。いちいち細かくは言及しないが中学生が月謝払うために新聞配達するとか、空手道場の経営が厳しいとかその辺の話。インチキが横行する空手界で本当に猛者を決めるという格闘技世界一のようなイベントは成功するが、それに理解をしない両親がイヤになり、主人公は家出して、あっという間に騙されて北海道網走のタコ部屋の俘虜となる。ここで鍛えられてなぜか一年ほどで殺気立った野生児に変貌した主人公、ついにはタコ部屋で暴動を起こし、元プロレスラーの用心棒を倒すまでに強くなる。それからライバルとなる天才空手家との出会い、野獣に生まれ変わったとか言いながらも妙に理屈っぽく鬱陶しい主人公なんだよね。そして最後はムエタイの神様と戦うというすごい飛躍となる。
本作は梶原一騎原作のいわゆるスポ根漫画なんだろうが、後半は予想外の展開続きで王道とはかけ離れている。色々批判されたりはしたがこの時代の梶原一騎のようなストーリーはなかなか発想出来るもんじゃないと思える。何てったって少年漫画でタコ部屋という展開は並みじゃないよ。

「エスの解放/倉多江美」
タイトル書いたものの実は現物も手元になく、ストーリーも全然記憶にない、だったら書くなよと言われても仕方ない。ただ当時の少女漫画とはまるっきり違う難解で形而上的な作風、深井国(SFの挿し絵などで有名なイラストレーター)を思わせるスタイリッシュな絵柄など素晴らしい魅力に富んだ漫画家で、恋愛とコメディとファッションが主流だったような70年代少女漫画界にもこんな人材がいるんだ、とROCKHURRAHを唸らせた。ただそのことが書きたかっただけ。他の作品も素晴らしいので探して読んでみてね。

「あかつき戦闘隊/園田光慶」
第2次大戦中、南方のパゴス島なる孤島を基地とする海軍の荒くれ集団、あかつき戦闘隊に赴任(と言うのか?)してきた新米隊長。素行は悪いが戦闘機に乗らせれば米軍もビビる程の強者たちを相手に実戦経験のないこの隊長がガッツと愛国精神でリーダーシップを発揮してゆくという戦記ドラマが本作だ。今ではほとんどないと言っても良いジャンルの戦争漫画だが、この時代には結構たくさんあって、この「あかつき戦闘隊」もヒットした部類なのではなかろうか?ただマイナーな出版社が出していたのでコミックスが入手し辛くて、ずいぶん後になって古本屋で手に入れた記憶がある。過去に持っていた漫画をほとんど手放してしまったROCKHURRAHだが、なぜか今でもこの本は所有しているのが不思議。絵柄もストーリーも家宝にするまで愛着のあるものではないのに。引越しの際に処分するモノと残しておくモノの判断をいつも間違ってしまうんだろうね。
本作に関しては主人公よりも周りのあかつき戦闘隊の面々がなかなかいい味出していて、特に酒飲みの軍医くずれ(というか心得があるだけ?)の左近が個人的には好きだった。

「釣りキチ三平/矢口高雄」
こうやって色々と過去の漫画について回想してみると、現在のROCKHURRAHの趣味嗜好とはかけ離れた世界が見え隠れする。漫画を主に読んでいたのがパンクになる前だから仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、このROCKHURRAHの風貌を見てまさか「釣りキチ三平」の話が出来る人間とは誰も思うまい(笑)。話が出来るどころかほぼ全巻持っていたのも意外だと自分でも思える。アニメにもなったし有名な作品だからあらすじなどは書かないが、中学生の時に釣り好きの友達がいて、この漫画に影響を受けたような遊びをやっていたのを思い出す。スピニング・リールの釣り竿、テグスの先に大きなオモリをつけて投げ釣りにおける遠投の練習を裏の畑でやっていたのだ。名付けて「シロギスの涙ごっこ」。人に当たれば間違いなく即死だろうし、随分危ない遊びをやっていたもんだ。実際に釣りの腕前の方はさっぱりだったが、なぜかこの時代には「釣り人」などという月刊雑誌まで読んでいたのが恐ろしい。
ゲーム「どうぶつの森」や「モンスターハンター」で釣りばっかりやってた都会っ子のSNAKEPIPEとそのうちどこか釣りに行ったり・・・とかはまずないと思えるが、そういう趣味に対する憧憬はいつまでも心の中にある。キメキメ(死語)の服装でライブ行って、というメインの趣味がどうしても都会じゃないと出来ない事なので関東に住んではいるが、本当は都会なんか全然好きじゃないもう一人の自分がいる事も自覚している。話がすっかりそれてしまったが漫画の方は「カルデラの青鮒」とか「三日月湖の野鯉」とか現実離れした怪魚への興味でワクワクして読んでいたものだ。子供の頃からUMAとか好きだったものなあ。

「子供の王国/諸星大二郎」
前にSNAKEPIPEと諸星大二郎原作という「壁男」なる映画を観て非常につまらなかった事を思い出す。諸星大二郎はROCKHURRAHの好きな漫画家だったので「本当はもっと面白い漫画家なんだよ」と言い訳しながら観た次第なんだが、この「子供の王国」などは好みの作品と言える。
薄汚い大人に成長する事を止めて子供の姿のまま大人になってしまった人間が多数という未来社会の流行を描いた作品。大人の姿である主人公は異端児であり下層階級というわけだが、恋人までも子供(の大人)にとられてしまう。その理不尽な社会に怒り子供の王国に潜入した主人公は・・・というようなストーリーだ。
逆「ブリキの太鼓」と言えなくもないがなぜか筒井康隆の「こぶ天才」を思い出してしまった。え、全然違う?
独特の頼りなげな絵柄も含めてやっぱり個性的な漫画家だと思う。

なぜか熱にうかされて書いた初回の方が筆が速く、文字通り熱のこもった文章だったが、いくら書いてもキリがないのでこの辺でやめておく事にする。
そう言えば過去に通ったレコード屋についての続きも書いてなかったが、きっとまた書きますので今年もよろしく。←年頭の挨拶遅過ぎ。

医学と芸術展 MEDICINE AND ART

【タイトルにちなんでROCKHURRAHが制作。なんだかよく分かんない。(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

現在六本木ヒルズ内にある森美術館で開催されている「医学と芸術」展に行ってきた。
これは去年の夏頃、長年来の友人Mから「11月に森美術館ね」と誘われていた展覧会。
松井冬子の大ファンのMはその展覧会に新作が出品される情報をキャッチしていたらしいのである。
11月、12月となかなかお互いの予定がつかず、年が明けてようやく約束することができた。
Mの目当ては松井冬子だけれど、科学の実験で使う例えばビーカーのような器具が大好きなSNAKEPIPEは、「医学とアートの融合」である今回の展示をとても楽しみにしていたのである。

会場は4つのブースに分かれていた。
第1部は「身体の発見」。
ここではレオナルド・ダ・ヴィンチに代表されるような「科学と芸術」に焦点を当てた展示がされていた。
どうやら目玉は本邦初公開のダ・ヴィンチの解剖図のよう。
ものすごく精緻で学術書に載せる、というよりはやっぱりアート。
1500年頃の作品って一体今から何年前よ?と計算がパッとできない。(笑)
さらさらっと描いたように見えるけど、さすがダ・ヴィンチね!

第1部の中でSNAKEPIPEとMが「ひー」「かわいい」「欲しい」と口々に叫んだのは、17、18世紀頃にドイツあたりで制作された象牙製の解剖模型。
体長約15cmくらいから25cmくらいのものなど、様々なサイズの人体模型が並んでいる。
男女ペアでベッドに寝かされているような模型もあり、とてもかわいい。
しかも枕もしてるし。(笑)
お腹の部分がパコッと外れるようになっていて、中に臓器パーツがバラバラに入っている。
これは医学生用なのか子供用なのか不明だけど、大雑把であまり精巧に出来すぎてないところがまた素晴らしい!
象牙じゃなくてプラスチックでも構わないからレプリカが欲しかった。
ほんと、今からでも作ってくれないかしら?(笑)

1500年頃からの人体をモデルにした絵画は、アートというよりは解剖学や医学のためのものが多かったのかな。
「解剖学シアター」での模様を描いた作品もあり、ヨーロッパでは学術としての解剖とちょっと見世物的な意味合いの解剖があったのかな、と推測。
今よりも死(死体)や解剖などが割とオープンだったのかもしれないね。

SNAKEPIPEが是非とも現物を観たいと思っていた河鍋暁斎のちょっとコミカルなドクロや円山応挙の座禅するドクロもあり、これだけでも満足するほどの作品の量と質。
やっぱり森美術館、いいね!(笑)

第2部は「病と死との戦い」。
解説の中に「メメント・モリ(死を想え)」の言葉があり、宗教的な意味と医学としての死という意味との捉え方がされた展示になっている。
美術の教科書に載っているレンブラントゴッホゴヤなどの画家がズラリと並び、豪華な感じ。
同時にエジプトのミイラまであったし。(笑)

そしてここで一番興味深かったのが、実用的に作られている義手や義足などの展示。
そのため作者の名前ではなく「××社製」などと紹介されている。
SNAKEPIPEはあまり詳しくないのだけれど、1900年頃から義手や義足の制作が始まったのだろうか。
その当時の木製の義手や義足は非常に美しく、まるで四谷シモンの人形のようである。

手術用の器具の展示もあった。
丁寧に装飾までされている美しい切断用ノコギリってどうよ!
まるでオブジェなのに、目的は切断よ、切断!(笑)
このミスマッチが余計に怖い!
この展示はデヴィッド・クローネンバーグ監督の「戦慄の絆」みたいだった。
あの映画、また観たくなったな。

実用として制作された義眼の展示もあった。
様々な眼球の色に対応できるようにとの配慮だと思うけど、タイトルがなんと「ガラス製眼球50個セット」。
「なんかジャパネットたかたみたいじゃない?」
と二人で大笑いしてしまった。
「はいっ、本日はどんな瞳の色にも対応できる眼球50個セットのご紹介です!」
みたいな感じ?
隣で観ていた外国の方も、日本語が解るようで一緒に大笑い。
国際交流してしまった。(笑)

第3部は「永遠の生と愛に向かって」。
最近の生命科学、遺伝子学や脳科学などをテーマにした展示がされている。

二人の少年がゲームボーイに熱中している作品が印象的だった。
これはパトリシア・ピッチニーニの作品で、どうやらシリコンで作られた人形のよう。
写真で観るとその精巧な作りが伝わりにくいと思うけど、実際の少年たちはまるで生きているかのように今にも動き出しそう。
作者はメッセージをこめて作品に仕上げたと思うけど、意図が解らなくても産毛まで生えたリアルさだけで怖いほどの迫力がある。
近くにいるだけでゾッとするアートというのも珍しいね。(笑)

もう一つ衝撃的だったのはイ・ビョンホというアーティストの作品。
あれ?イ・ビョンホって韓国のスターの名前と違う?近いだけか。(笑)
美術室などに置いてあるような胸像をじっと見つめていると、急激にその胸像が老人の顔に変わっていくアート。
しかけを聞けばなんとも簡単、シリコン製胸像の空気を抜いてるだけらしい。
見つめて下さいと書いてあるので数秒間見ても「全然変わらないじゃん」と思いきや、見続けていくとどんどん顔が変わっていくのは非常に怖かった。
「ひ~、怖いっ!」
と叫んでしまったSNAKEPIPEの隣で笑う外人女性が。
うわっ、あの「眼球50個セット」の時の方。
またもや国際交流だね!(笑)

最後にMの目当て松井冬子登場!
「無償の標本」と題された2009年の作品は、以前のような怨み路線とは違う気がした。
積年のドロドロした黒い塊を体内から少しずつ吐き出しながら、苦しんで描いていたような雰囲気が消えかかっているような。
作品の解説にはまるで「ドグラ・マグラ」のようなことが書かれているけれど、SNAEKPIPEにはこじつけとしか考えられなかった。
松井冬子が前向きで明るい性格になり、「今までの怨みは全部忘れたわ」と視線が過去から未来に向かう日が来たら一体どんな作品になるんだろう?

どうしてそうなったのかはわからないけれど、松井冬子の隣に展示されていたのがフランシス・ベーコンの作品「横たわる人物」。
ぐんにゃり曲がったピンク色の男が尻を見せながら横たわっている。
鏡なのか、男の後姿が見える。
フランシス・ベーコンの性癖を知っているため、題材がすぐに解っちゃうんだよね。(笑)
大好きなベーコンまで展示されているとは知らなかったので、とても嬉しかった。
第4部はビデオ作品だったため、割愛。(笑)

「医学と芸術」展は、時代や国、アートと医学など様々な垣根を外した企画でとても大掛かりだったのが良かった。
ダ・ヴィンチからデミアン・ハーストまでを一度に観られる展覧会なんてあまりないよね?
欲しくなっちゃう作品もたくさんあって、大満足。
恐らくこの展覧会のために作ったのかなと思うような現代アート作品よりも、学術書や実用のために作られた作品のほうに興味を持ったSNAKEPIPE。
実用品のほうがより芸術的で、アートに勝ってると思った。
アートと呼ばせるためのアート作品を作る自称アーティストって多いように思うから。

Mさん、また面白そうな企画あったら是非ご一緒しましょ!