野又穫 展 「Ghost」浮遊する都市の残像 鑑賞

【展覧会告知ポスターを撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

かつて新宿で働いていた時、週に1度は必ず青山ブックセンターに立ち寄り、日本の写真家や読み方も分からないような外国のアーティストの画集や写真集を鑑賞していたSNAKEPIPE。
どうしても自分の物にしたい時には、値段に関係なく購入することにしていた。
食事よりも写真集が大事だったんだよね!
ある時、ふと目に止まったのが左の画集。
表紙に全く日本語が書かれていないので、恐らく外国のアーティストだと勘違いして観ていたはずだ。
ページをめくるうちに手が震え、心臓がバクバクしてきたことを覚えている。
何故なら、その画集にはSNAKEPIPEが撮りたいと思っている景色や建築物がそのまま表現されていたから!
最後のページまで鑑賞し、その作者が日本人と判り驚いた。
よくよく見れば、「のまた」と書いてあるじゃないの。(笑)
もう居ても立ってもいられない!
値段もちゃんと確認しないままレジに向かい、画集を購入したのである。
自分でもどうしてなのか分からないけど、ものすごく急いで帰宅し、慌ててもう一度鑑賞したっけ。
画集や写真集を購入したからといって、作品が自分の物になるわけじゃないけど、いつでも手に取って鑑賞できる安心感が重要だったんだね。

そんな衝撃的な出会いをしたアーティストの展覧会が「二人のホドロフスキー 愛の結晶展 鑑賞」で初めて行ったアツコバルーで開催されている。
野又穫 展 「Ghost」浮遊する都市の残像をとても楽しみにしていたSNAKEPIPE。
友人Mと待ち合わせ、ROCKHURRAHも加わった例の怪しい3人組、再びアツコバルーに参上である。(笑)
前回お邪魔した際に、写真撮影やブログへの掲載も快く承諾して頂いたアツコバルーの美人さんと入り口でバッタリ!
美人さん、相変わらずキュート、お会いできて嬉しいわ。
怪しい3人組を覚えていてくれたようで良かった。(笑)

ここで簡単に野又穣氏のプロフィールをご紹介してみようか。

1955年  目黒区の染物屋に生まれる
1975年  東京芸術大学美術学部入学。形成デザインを専攻
1978年  安宅賞受賞
1979年  東京芸術大学美術学部デザイン科卒業 マッキャンエリクソン博報堂へ入社
1984年  マッキャンエリクソン博報堂を退職し独立
1995年  第45回(平成6年度)芸術選奨新人賞美術部門受賞(文化庁)
2007年  第17回(平成18年度)タカシマヤ美術賞受賞
2014年  女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科ヴィジュアルデザイン      専攻教授

なんとも華々しい経歴だよね!
芸大から広告業界にいたとは知らなかった。
やっぱりその辺りが日本人離れしたセンスの良さと関係あるんだろうね。

「Ghost 浮遊する都市の残像」展会場に入ると、先客が数人いたけれど、ゆっくり自分の好きなペースで観ることができた。
アツコバルーの室内は天井にパイプが這っているインダストリアルな雰囲気なので、野又穣氏の作品を展示するのにピッタリね!
作品に近付いてみると、筆の跡がわかる。
でも少し離れてみると、スーパーリアリズムのように精緻な作品にみえるところが不思議!
印刷物になると更に「まるで写真」にみえてしまうんだよね。(笑)

野又穣氏の作品は、どれも「行ってみたい」とか「目の前に立ってみたい」と思ってしまう建築物が描かれている。
非常に気になる階段や、小さな窓やドア。
SNAKEPIPE MUSEUM #3 Giorgio de Chirico」で書いた大好きな画家、デ・キリコに通じるシンメトリー構図。

 一体何のための塔なんだろう。
中で何が行われてるんだろう、
と想像するだけでワクワクする。

デ・キリコの建物に対しての感想を書いているけれど、野又穣氏の作品にも同じ感想を持ってしまうね。

ひと通り鑑賞し、飲み物を頂きながら野又穣氏の画集を観て談笑していると、アツコバルーの美人さんが話しかけてくれた。
そして教えてもらったのが、今回の展覧会の作品はほとんどが2014年制作だということ。
30点以上の作品が今年描かれているとは、そのスピードに驚いてしまうね!
更にテーマが渋谷だということも教えて頂いた。
もちろん渋谷そのものを描いているのではなくて、野又穣氏の空想としての渋谷という意味でね!
SNAKEPIPEが疑問に感じていた「動物」についても簡潔に答えて頂いて、大笑いしてしまったよ!
まさかそんな意味だったとはね!(笑)

今まではアクリル絵の具を使っていたけれど、「Ghost」では油絵だったというのも教えて頂いた。
「油絵、良いねえ」
と芸大出身の野又穣氏が言っていたというからビックリだよね。(笑)
展示作品はどれもカッコ良くて美しかったけれど、SNAKEPIPEが非常に気になったのは、野又穣氏が朝日新聞に連載しているというドローイング!
上の画像は今回の展覧会にはなかった作品だけど、鉛筆で描かれてるんだよね。
色鉛筆で着色されている作品もあって、身近な道具でこんなに素敵な絵を生み出せるなんて!
嫉妬してしまうよね、この才能!(笑)

 帰宅後、かつて写真撮影に夢中になっていた頃の自分の写真を引っ張りだしてみた。
左の写真は写真学校に通っていた頃に撮った一枚で、モノクロームのフィルムを使っていた写真をデジタル化したもの。
現像も焼き付けも自分でやっていた。
フィルムの魅力はたくさんあるけれど、現像してみないと何が写っているのか分からないドキドキ感があったことが一番かな。
左の写真は撮影している時から興奮していたけれど、現像して焼き付けてからも嬉しかった記憶がある。
この写真、ちょっと野又穣氏の作品っぽいよね?(笑)
こんな風景を追い求めて休日の度に撮影していたあの頃。
SNAKEPIPEも若かったねえ。(笑)

アツコバルーの美人さんが教えてくれた情報に、野又穣氏が震災によって意識が変化した話がある。
震災前は建築物というのがどっしり構えていて揺るぎないものと思っていたけれど、震災によって認識が変わったというのだ。
地震による津波で今まであった物全てが簡単に流され、崩壊してしまったことは日本人なら誰もが知っている事実だからね。
そのため「Ghost」では、モヤがかかっているように浮遊しているのだという。
確かにSNAKEPIPEが観てきた野又穣氏の作品は、全ての建物がしっかり地に建っていたから、その違いは大きいよね。

2012年に大好きな写真家畠山直哉氏の写真展「Natural Stories」を鑑賞したけれど、畠山直哉氏自身が震災に遭っているために、観ていて辛くなる写真が並んでいたことを思い出す。
鑑賞した写真展や展覧会は記録の意味もあって、ブログに残すことにしているSNAKEPIPEが「書けない」と感じてしまった唯一の展覧会なんだよね。
崩壊の美学とでも言ったら良いのか。
畠山直哉氏の写真も日本人離れした感性と抜群の色や構図で、SNAKEPIPEを魅了した作品を数多く発表してきた写真家だったのに、震災の影響でその感性に変化が生じたようで非常に残念に思っている。
そして実はSNAKEPIPEも、崩れていく様や廃墟に魅了されていたのに、震災後にその美を疑うようになってしまったのである。
今でも大好きな崩壊や廃墟だけど、 同時にあの時の映像や記憶が蘇ってきてしまう。
自分の身内も友人の誰一人も被害に遭っていないのに、である。

SNAKEPIPEには3月11日が誕生日の友人がいて、毎年「おめでとう」を言うのが習慣になっている。
2012年に「おめでとう」を言うと
「この日のおめでとうは言いづらいでしょ?でもね、私は再生の日と考えることにしたから、ありがとうと言うね」
と答えてくれた。

野又穣氏は認識の揺らぎを見事に昇華し、表現しているんだと感じた。
きっとSNAKEPIPEの友人と同じように、自分の中で震災の折り合いがついているんだろうね。
画集でしか観ていなかったアーティストの作品を肉眼で観ることができて、本当に嬉しかったな!
アツコバルー、面白そうな企画がこれからもあるので、また行ってみたいと思う。
今回もまた撮影許可して頂いてありがとうございました!
アート談義、とても楽しかったです。(笑)

二人のホドロフスキー 愛の結晶展 鑑賞

【会場内を撮影させて頂いた1枚】

SNAKEPIPE WROTE:

ホドロフスキー新聞やキネマ旬報での記事、インターネット上などで以前から知っていたホドロフスキー夫妻による絵画展。
かなり長い期間開催されていると思い、いつかチャンスがあったら行こうとボンヤリ考えていた。
長年来の友人MやROCKHURRAHからも、絵画展の情報知ってる?などと聞かれたこともある。
先日ふと思い出し、もう1度絵画展について調べると会期は9月21日まで!
まだまだ大丈夫、なんて悠長に構えていられないほど迫ってるじゃないの!
これは早速計画しなければ!

9月には2回連休があるので、どちらかの日程で調整しようとROCKHURRAHと相談する。
友人Mにも声をかけると是非一緒に行きたいとのこと。
怪しい3人組、今回は渋谷に参上である。

会場となっているアツコバルーに行くのは今回が初めて。
サイトに表示されているマップによれば、Bunkamuraのすぐ近くとのこと。
最近全然Bunkamura方面行ってないなあ!
かつては仕事の関係で月に1度は通っていた渋谷区松濤だったのに、すっかりご無沙汰。
いつの間にかドン・キホーテまでできてるよ!(笑)

友人Mとは109前で待ち合わせ。
方向感覚に優れている友人Mが一緒だと、初めて行く場所も安心ね!
バルーといえば、かつて一世を風靡したサラヴァ・レーベルの主催がピエール・バルーだから、アツコバルーと関係あるんじゃないの?とROCKHURRAHが話す。
さすがはレコード屋、良く知ってるね!
ピエール・バルー!
ルールールーシャバダバダシャバダバダ~
あの有名な「男と女」の俳優、そしてあの主題歌!
そうなのかな?関係あるのかな?

などと話しているうちに、目的の場所アツコバルーのビルに到着する。
ホドロフスキー夫妻絵画展のボスターが貼ってあったので分かり易かった。
5階へ向かう。
エレベーターを降りるとすぐに会場になっている。
靴を脱いでお上り下さい、と声をかけられる。
展覧会で靴を脱ぐのは初めてかも!
チケットはドリンク付きで500円。
しかもドリンクはコーヒーや紅茶だけではなくて、カクテルやワインなどのアルコール類も選べることになっていてびっくり!
飲み物を持ったまま鑑賞してもOKとのこと。
何もかもが初めてづくし、少しだけ戸惑いながら鑑賞することにしたのである。

実はドリンク付きで500円の情報を知った時に、恐らく展示作品数が少ないんだろうなと勝手に予想していたSNAKEPIPE。
ところがその予想は大きく裏切られ、展示作品数の多いこと!
総展示数52点とは、びっくりだね。
1枚ずつじっくり鑑賞していく。

ホドロフスキーは1967-1973年の間
メキシコの新聞「EL Heraldo」 誌の週末増刊号に、
カフカ的実存主義に支配されたナンセンス・ストーリーから
次第に自身が影響を受けた禅の悟りに関する
「ファブラス・パニコス(素敵なパニック)」を
合計284ページにわたり連載し、プロの漫画家として
活躍していた(webより引用)

そしてホドロフスキーのデッサンを観た奥様、パスカル・ホドロフスキーが 絵を描くことをホドロフスキーに勧めたことから、ドローイングを共作するスタイルになったという。
バンド・デシネ(ベルギーやフランスを中心とした地域の漫画)の原作者としてのホドロフスキーは知っていたけれど、ホドロフスキー自身も描いていたとは全く知らなかったよ!
ペン画をホドロフスキーが、水彩で色を付けるのが奥様という共作スタイルだって。
さすがにプロの漫画家だった程の腕前、構図も題材も素敵、そして色合いのバランスが素晴らしい!
結婚して10年というホドロフスキー夫妻の仲睦まじさ、関係の深さがにじみ出てると思う。
上の画像は「虎のタンゴ」という2014年の作品とのこと。
2014年って今年なんだよね!
「リアリティのダンス」と「DUNE」のプロモーションで忙しかっただろうに、精力的に活動してるよね。

映画監督でもあり、絵も描くと言えばSNAKEPIPEが敬愛しているデヴィッド・リンチがいるよね!
恐らく「カルト映画」として同じジャンルで括られてしまう2人だけど、絵を鑑賞すると全くタイプが違うことが判るね。
リンチの絵に感じた暴力性がホドロフスキーには感じられない。
リンチの異常性もホドロフスキー夫妻には見受けられなかったね。
タイトルに「愛の結晶」と謳われているのが良く解る。(笑)
ホドロフスキー夫妻の絵には残酷な題材もあるんだけど、コミカルな雰囲気なんだよね。
ROCKHURRAHいわく「日本語にしたら’ひょうきん’」だって。
確かに観ていて怖くなるリンチの作品にはなかった表現だよね!

8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryで鑑賞した「好き好きアーツ!#26 DAVID LYNCH –「鬼才デヴィッド・リンチの新作版画/写真展」と「イメージメーカー展」」の時も今回のアツコバルーも、どちらも展示販売の形式だったけれど、どちらの展示会にも購入者がいるんだよね!
今回のホドロフスキー夫妻のドローイングは原画ではなくジクレー版画で販売しているとのこと。
ジクレー版画って一体なんだろう?

リトグラフやシルクスクリーン版画と違い、
版を用いずに刷り上げるのが特徴で、
デジタルデータを上質なキャンバスや版画用紙、
高級写真用紙や和紙などの最高級の素材に、
150~250年規模の高い保存性を誇る、
ミュージアム・クオリティの顔料プリントのこと。
ポスター印刷との最も大きな違いは、
作家自身が監修を行いプリント工房(グラフィック)と
共同で作り上げる「作品」という点にある。

と説明されている。
より原画に近い形で再現されていて、お手頃価格で購入できる点がファンには嬉しいってことだよね!(笑)
いや、いくらお手頃とはいってもSNAKEPIPEにはちょっと難しい…。
画集があったら欲しいなあ!

ひと通り鑑賞が終わったところで、飲み物を頂きながらホドロフスキーのインタビュー映像を観ることにする。
入り口でチケット販売をしていた女性をハッキリ見ていなかったSNAKEPIPEは、ドリンクカウンターにいる彼女を見てビックリ!
なんて美しいんでしょー!(笑)
思わず、綺麗ですね!と声に出してしまったほど。
そしてその女性の後ろにある「うちわ」に目が止まる。
「ほどろふ」「すきっ」と書かれた、ホドロフスキーうちわ!(笑)
アツコバルーの関係者である美大生が制作されたとか。
友人MとROCKHURRAHに持ってもらい、撮影した画像!
快く撮影OKさせて頂き、ありがとうございました!
作品1枚ずつの接写以外なら、会場内の撮影も快諾して頂きとても嬉しかった。(※上の作品画像はネットからの引用です。念のため)

ホドロフスキーの映像は「リアリティのダンス」と「DUNE」のトレイラーに加え、先日ホドロフスキーが来日した際のインタビューが入っていた。
若さの秘訣について聞かれると「若い妻を得ること」などとユーモアを混ぜて答えている。
日本との関わりについても、「リアリティのダンス」にも登場した日本人の床屋の話などをしていたね。
顔の色艶も良くて、とてもパワフルなホドロフスキーだったよ!

帰り間際にチケット販売の美人さんが名刺をくれた。
ブログに書いた際には連絡して欲しいとのこと。
ってことで今回のブログはご了承頂いた上で書かせてもらいました!
そして11月に開催される「世界のCMフェスティバル」にも足を運んでね!とフライヤーを渡してくれた。
美人さんの関係者が主催しているとのこと。
「好きなことしかやらないんです」
って羨ましい環境だねー!(笑)
いつかそんな言葉を言ってみたいな。

会場に入る前に疑問だった「バルー」についても教えて頂いた。
アツコバルーのアツコさんは、ピエール・バルーの奥様とのこと!
関係あるどころじゃなかったね。(笑)

2014年はすっかりホドロフスキー・イヤーになったね。
次回作「フアン・ソロ」も楽しみだ!
そしてアツコバルーの次回の展覧会「野又穫 展 「Ghost」 浮遊する都市の残像」とのこと。
野又穫は一目惚れで画集を購入した大好きなアーティストなので、また行ってみたいと思う。

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」鑑賞

【美術館前の作品を撮影】 

SNAKEPIPE WROTE:

今年の7月に書いた「好き好きアーツ!#26 DAVID LYNCH –「鬼才デヴィッド・リンチの新作版画/写真展」と「イメージメーカー展」」の時に、長年来の友人Mと
「次は竹橋の美術館に行こう!」
と約束をしていたのが今回鑑賞した「 現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展」である。
なんとも奇抜なポスターと風変わりなタイトルに、ふざけた内容を想像してしまったのはSNAKEPIPEだけではないと思う。
ウケを狙ってのことだろうけど、成功したのかな?(笑)

この展覧会は台湾資本の大手電子部品メーカー、ヤゲオ・コーポレーションのCEOを務めるピエール・チェンと家族、そしてヤゲオ・コーポレーションからの寄付金によって創立された非営利の組織であるヤゲオ財団が所有する美術コレクションの展示だという。
ヤゲオ財団なんて名前は初めて聞くし、台湾に現代美術の収集に力を注いでいる企業があることも知らなかった。
例えばそれは、SNAKEPIPEとROCKHURRAHが気に入っている、佐倉にある川村記念美術館のようなものか?
あの美術館はDIC株式会社がその関連グループ会社とともに収集した美術品を公開するために設立してるからね。
世界的に有名なソロモン・R・グッゲンハイム財団により運営されているグッゲンハイム美術館も同じ形態ってことになるんだろうね。
国が運営する国立系の美術館ではなくて、個人や団体がコレクションできるのは、余程の目利きで、更に購入できるだけの資金がある場合に限られるだろうから、好きなだけでは難しいね。(笑)

そんなSNAKEPIPEの心の声に応えるように、今回のヤゲオ財団コレクションには「サザビーズ」や「クリスティーズ」のオークションでの落札金額についての文章が記載されている。
実際に展示されている作品がいくらだったかということではなくて、同じタイプの作品の金額が提示されているのね。
いやはや、なんとも!
億超えなんて当たり前!(笑)
初めは入り口で手渡された小冊子を読まないで鑑賞していたけれど、途中で読んでしまったらもう大変!
友人MとROCKHURRAHとの3人で
「12億超えるって〜!」
「ひ〜!」
などと通常の美術展館賞の途中で話す内容とは違い、お金にまつわる生々しい会話になってしまうのである。
心なしか目つきまで変わってくるような?(笑)
そして金額の高低(低いとは言っても億超えだけど!)の違いを考えてしまったりして、やっぱりこの点も通常の鑑賞とは大きく異なっていたところ。
小冊子にも書いてあったけれど、単なる鑑賞者としてではなく、コレクターとして購入する側に立って観るというのは初めての経験だったと思う。
金額が書いてある=裕福さの誇示、ということではないんだよね。
その趣旨を理解した上で鑑賞に臨もうね!(笑)

東京国立近代美術館は2013年3月のフランシス・ベーコン展以来になるんだね。
展覧会開催が終わる直前の土曜日は、薄い雲が広がり、いつ雨が降ってもおかしくない天気だった。
この時期にしては気温は低め。
夏のお出かけには最適な日だったね!
東京メトロ東西線竹橋駅を下車して、ほんの数分で美術館に到着。
この近さはとても良いよね!
そしてチケット売り場に行く前に、目に飛び込んできたのがトップの画像にある立体作品。
マーク・クインの「スフィンクス」はスーパーモデルのケイト・モスがヨガのポーズを取っている作品である。
展覧会のポスターで使用されていた金ピカの彫刻も、同じくケイト・モスをモデルにしたヨガのポーズのタイプ。
立っていた警備員に撮影しても良いのかを尋ね、オッケーが出たので撮影する。
その後友人MとROCKHURRAHと3人共ケイト・モスと同じヨガのポーズを取り、作品の前で記念撮影。
良い年した大人がやることじゃないよね!
しかもSNAKEPIPEとROCKHURRAHはヨロける始末!
ずっと様子を見ていた警備員も笑っていたに違いない。(笑)

チケットを購入し、いざ会場へ。
一番最初に展示されていたのはマン・レイの油絵だった。
かなり漫画風に描かれた作品で
「トップからマン・レイの作品とは」
と少し驚く。
マン・レイと結婚し晩年を共にしたジュリエットの肖像である。
2010年8月に「マン・レイ展」に行ってるけど、油絵の印象はほとんどないなあ。
今回鑑賞できて良かったね!

それからも有名アーティストの作品のオンパレード!
フランシス・ベーコン、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタイン、マーク・ロスコなどなど。
40作家、75点の作品が展示されているのは圧巻!
そして日本ではなかなかお目にかかれない、中国や台湾のアーティストの作品の展示もさすがに台湾の財団だからだね。
中では蘇旺伸(Su Wongshen)という台湾のアーティストの「川の桟橋」という作品が気に入ったな!

展示されている作品の中でとても衝撃的だったアーティストが2人。
1人はドイツのゲルハルト・リヒター
恐らくリヒターの作品は今までにも数点は鑑賞しているはずだけれど、これだけのまとまった数を観られるのは嬉しいね!
写真がブレたように見えるフォト・ペインティングを観るのは初めてかもしれない。
左の画像で抱かれているのはリヒター本人という「 叔母マリアンヌ」は1965年の作品。
インターネットの画像検索などでも簡単に作品を観ることはできるけれど、やっぱり実物を自分の目で観るのとはわけが違うよね!

リヒターの作品は他にも抽象絵画が展示されていた。
小冊子の説明にあったけれど、リヒターは現存する作家の中での最高落札価格を記録したとのこと。
Wikipediaにもエリック・クラプトンが所有していたリヒターの抽象絵画が約26億9000万円で落札されたなんて書いてあるしね。(笑)
金額を聞くと驚いてしまうけれど、実物を観ると確かに部屋に飾りたいなと思ってしまうね!
いつ買えるんだろう?(笑)

鑑賞できて嬉しかったもう1人のアーティストはロン・ミュエク
実はロン・ミュエクの作品は写真集でしか観たことなかったんだよね。(笑)
左の「若者」は、まるで黒人青年のポートレートのように見えるけれど、実はハイパーでスーパーでリアルな彫刻なんだよね!
そして更に驚くのは、この作品は高さが65cmしかないこと!
まるでミニチュアサイズの人間が、台の上に立っているかのような不思議な感覚に襲われてしまう。
Tシャツやジーンズまで、ここまで小さく精巧に作れるのか?
あまりの出来に3人でじーーーっと近付いて観ていたら、
「もう少し離れて頂けますか」
と係員から注意されてしまった。(笑)
ロン・ミュエクはもう1点「若いカップル」という、こちらもミニチュアサイズの若い男女の作品も素晴らしかったな!

展覧会ではヤゲオ財団のCEOであるピエール・チェンの自宅の様子も展示されていた。
惜しげも無く飾られている現代アート!
バスルームやリビングに、世界的に有名な彫刻や絵画があるのってどんな感じだろうね?
SNAKEPIPEもブログの企画としてSNAKEPIPE MUSEUMをやっていて、自分で美術館を持って展示するなら買い取りたいなという作品紹介をやっている。
それが現実になったらすごいことだよねー!
SNAKEPIPEが知らないだけで、きっと世界には大金持ちが道楽でコレクションしてる人いるんだろうなあ。
またどこかで企画して作品みせて欲しいよね!

好き好きアーツ!#26 DAVID LYNCH -「鬼才デヴィッド・リンチの新作版画/写真展」と「イメージメーカー展」

【ヒカリエで開催された版画展のポスターを撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

2012年7月にも渋谷ヒカリエ内にある「8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery」にてデヴィッド・リンチの「Hand of Dreams」展を鑑賞した話は「好き好きアーツ!#16 DAVID LYNCH—Hand of Dreams」に書いているね。
あれから丁度2年が経過し、またもや同じギャラリーでデヴィッド・リンチ展が開催される情報をもたらしてくれたのは、前回と同じROCKHURRAHだった!
この話を長年来の友人Mにも伝えたところ、前回は行かれなかったので是非とも今回は参加したいとの返信があった。
展覧会終了間際の土曜日、怪しい3人組は渋谷で合流したのである。

いくら方向音痴のSNAKEPIPEであっても、一度行ったことがある場所であれば多少は学習しているもの。
今回はすんなりヒカリエに着くことができた。
あとから友人Mも到着し、 早速ギャラリーへ。
さすがに土曜日の昼ごろだけあって、数人のお客さんが入場していた。

「8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery」に行くのは今回が2回目なので、毎回同じスタイルを採っているのか不明だけれど、リンチ展の時にはいわゆる展示販売なんだよね。
だからこそ(?)の入場無料なんだと思うけど、ファンにとってはリンチの作品を鑑賞できる嬉しいチャンス!
ゆっくりと一枚一枚観ることにした。

展示作品は前回と同様、ほとんどがリトグラフ版画で、もうすでにお馴染みになっている独特の世界が繰り広げられている。
太くて強い黒い線、ROCKHURRAH RECORDSで勝手にリンチ・フォントと名付けた文字が踊り、稚拙そうに見えるけれど残酷な雰囲気。
これぞまさにリンチ・ワールド!(笑)
リトグラフ版画、一枚25万円くらいだったかな。
お金持ちになったら是非とも購入して、壁一面リンチの世界にしてみたいもんだね!

前回は展示されていなかった写真群が素晴らしかった。
工房の版画の機械と裸婦をモチーフに撮影した写真シリーズ「NUDE – ATELIER IDEM 2012」 はSNAKEPIPEが大好きなインダストリアルな背景に、まるで体外離脱したかのように見える女性が写っている作品だ。
硬質な機械と、まるで魂のような不確かな淡さを融合させた、非常に魅力的な写真だった。
お値段もリトグラフ版画よりも高めだったけど、納得しちゃうね!

リトグラフ版画を堪能した後は、昼食!
久しぶりに3人揃ったので、たまには寿司を食べようと入ったのが、ヒカリエ6階にある「恵み 渋谷ヒカリエ店」という回転寿司である。
滅多に回転寿司屋さんには行かないので、最近のハイテク寿司屋は初めての経験!(笑)
友人Mも初めてとのこと、3人でワクワクしながらタッチパネルを操作して楽しんだのである。

ここで友人Mから提案があった。
渋谷から六本木に向かい、開催されたばかりの「イメージメーカー展」に行こうと言う。
実はその展覧会にもリンチの作品が展示されていることは、ROCKHURRAHからの情報により事前に知っていたSNAKEPIPE。
せっかくだから今日はリンチ・デイにしてしまおう!
怪しい3人組、今度は六本木に参上である。

東京ミッドタウン・ガーデン内にある21_21 DESIGN SIGHT に来たのは初めてである。
ミッドタウンには何度も足を運んでいるのに、こんなに素晴らしい庭があることは知らなかった。
友人Mは六本木がテリトリーなので、庭の中にあるレストランの存在も、当然のように21_21 DESIGN SIGHTのことも知っていたとのこと。
ただし中に入るのは3人共初体験である。

21_21 DESIGN SIGHTは建築家安藤忠雄が設計したと知って、大いに納得してしまった。
外観だけでもインパクトのある建物なんだけど、中に入るともっと驚いてしまうのだ。
地下が広い!
ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、地下室に憧れがあるので、余計に興奮してしまったのかもしれない。
見かけと中身のギャップは、新鮮な驚きを感じさせてくれるね!
更に驚いたのは、展示作品の撮影が許可されていること。
撮影不可の作品もあるそうだけど、それ以外は撮って良いなんてとっても素敵!(ぷっ)
リンチの作品は撮影オッケーなのかな?

「イメージメーカー展」はジャン=ポール・グード、三宅 純、ロバート・ウィルソン、 デヴィッド・ リンチ、舘鼻則孝、フォトグラファーハルらの作品が展示されていた。
お目当てのリンチは順路に従って進んですぐに見つかった。
つい今しがた渋谷で観てきたばかりのリトグラフ版画が、豪華に並んでいる。
撮影不可とは記載されていない!
やったー!
壁に張り付くように一枚一枚を撮影したけれど、背丈より高い位置に展示してあるから思うようには上手く撮れないなあ。
それでも自分でリンチの作品を撮影できるなんて感激だよね!

順路を進んで行くと、黒い壁にカラーが浮き上がっている空間に出る。
イメージをファッションや広告として扱っているアーティスト達のコーナーだった。
なんとも80年代を感じさせてくれる空間で、懐かしさと安堵感を持ってしまったよ。(笑)
中でも目を引いたのが、真ん中でくるくる回るマネキンと、その周囲を回るマネキン。
「イメージメーカー展」のHPにはもっとピントが合った写真が掲載されているけれど、回っている臨場感はSNAKEPIPE撮影の上の画像のほうが分かり易いかもしれないね?
SNAKEPIPEは写真として収めたけれど、なんとROCKHURRAHは得意の動画で撮影を敢行していたという。
ところがその様子を係員に咎められてしまった!
「あの、動画撮影はご遠慮頂きたいのですが…」
という係員の声が入って撮影終了!
禁止されているとは知らなかったので、ご勘弁を。(笑)

美術館のハシゴという珍しい体験をしてしまったけれど、一日リンチ・デイになったのは嬉しかった。
リンチの作品が同時期に2箇所で展示されるってこと自体が、そうそうないからね!
音楽や絵画、写真と個人作業に没頭しているリンチ、ホドロフスキーみたいに映画製作は23年後なんてことにならないと良いけど?(笑)