好き好きアーツ!#14 貴志祐介 part1

【貴志祐介の作品「黒い家」にちなんで作ってみたよ。黒過ぎ?(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

特に選んでいたわけではないのに、作品一覧を見て初めてその作家のほとんどの作品を読破していることに気付く。
えっ、こんなに読んでたの?と自分で驚いてしまったSNAKEPIPE。
それはきっと好みの作家、ということになるんだろうね?
今回の好き好きアーツはそんな作家、貴志祐介について書いてみたい。

初めて手にしたのは、貴志祐介の処女作「十三番目の人格 ISOLA」(1996年4月 角川ホラー文庫 / 1999年12月 角川書店)である。
ダニエル・キイスの著作「24人のビリー・ミリガン」などでお馴染みの(?)多重人格を扱っているというのはタイトルからも一目瞭然!
そして気になる「ISOLA」という単語。
Wikipediaにも謎解きに関する記述があるので、今更ネタバレにはならないと思うから書いてしまうけれど、上田秋成作「雨月物語」に登場する怨霊・磯良と幽体離脱実験で使用する「ISOLATION TANK」の最初の5文字の両方にかけた単語なのである。
江戸時代の怪異小説である「雨月物語」そして「幽体離脱」更に「多重人格」とくれば、面白そうだと思うよね?(笑)
当時は鈴木光司の「らせん」や「リング」が人気で、ちょっとしたオカルト・ホラー系小説ブームのような現象が起きていたように記憶している。
SNAKEPIPEも鈴木光司の小説は良く読んでたなあ。(笑)
そのため、この頃は貴志祐介と鈴木光司の区別がはっきりしていなかったと思う。
二人共作品が映画化されているあたりも似てるんだよね。
映画「ISOLA 多重人格少女」は、実はつい最近鑑賞した。
小説を読んだのがかなり前のことだったので、詳細についてはすっかり忘れていたSNAKEPIPE。

確かこんな話だったよな、と思いながら鑑賞。
以前「好き好きアーツ!#10 Fernando Meirelles」の「BLINDNESS」の時にも「それにしてももう少し演技力のある俳優はいなかったのか、と日本人俳優のキャスティングに少し不満を感じた」と書いたけれど、どうも木村佳乃の演技がイマイチなんだよね。
もう少し違うキャスティングがされていたら、映画の印象も変わったかもしれないね?

次に読んだのは「黒い家」(1997年6月 角川書店 / 1998年12月 角川ホラー文庫 / 1999年11月 【映画版】角川ホラー文庫)である。
生命保険会社の営業マンがお客さんの家に呼ばれて行くと、その家の子供の首吊り死体を発見してしまうところから物語は始まる。
その子供には多額の保険金が掛けられており、自殺とも他殺とも言い切れない不自然な状態から、その自殺した子供の両親である夫婦についての調査が始まる。
保険金殺人の疑惑アリとされたその夫婦の正体とは…?
読んでいながら映像が目に浮かんでくる、とても現実的にありそうな話だから余計に怖いんだよね!
この小説で第4回日本ホラー小説大賞受賞っていうのは大いに納得!
映画化もされて、またこの映画が全く小説の印象を損ねることがない秀逸な作品だった。

夫婦役の大竹しのぶと西村雅彦が見事!
特に西村雅彦が少し知的に障害を持ち、同じ言葉を何度も繰り返し、相手が弱ってしまう粘着質な役を本当に嫌らしく演じきっている。
ROCKHURRAHは観ながら「西村雅彦、こわい」と何度も繰り返し呟いていたよ。(笑)
あとから調べて分かったけれど、貴志祐介は実際に生命保険会社に勤務していた経験があるんだね。
きっと小説と同じような「ちょっと怪しい」出来事が日常茶飯事だったんじゃないかと推測。

そして西村雅彦みたいな粘着質タイプのお客さんも実際にいたんじゃないのかな?
あ、西村雅彦本人が粘着質みたいに書いてしまった!(笑)
映画の中の人物って意味ね!
そういう人間の裏側というか、いやらしい部分を存分に体験したからこそ出来上がったリアリティにあふれた小説のような気がするよね。

天使の囀り」(1998年6月 角川書店 / 2000年12月 角川ホラー文庫)は、アマゾン探検隊に参加したあと人格が変貌、ついには自殺してしまった恋人の死の真相を探るべく調査を開始した精神科医が主人公の小説である。
アマゾン探検隊の話、「地球の子供たち」という自己啓発セミナーのHPとセミナーに集う人達の話、精神科医が勤める病院の話など様々な場所が舞台になっている。
最終的にそれぞれの話は繋がるんだけど、舞台ごとの話だけで捉えてもなかなか興味深い。
アマゾンではカミナワ族の民話に関する部分が興味深かった。
まるで「ドグラマグラ」のチャカポコの部分みたいに、実際に人が喋ってるように記述されてるんだよね。
素朴な語り口なのに、内容を読む進めていくと、とても恐ろしい話になっていく。
その民話が謎を解く鍵になっていて、民話を挿入したのは効果的だね!
「地球の子供たち」というセミナーには、不安やストレスを抱えたどこにでもいるタイプの人達が参加していて、この部分が一番リアリティがあったかな。
HPから入って、チャットに参加、そしてオフ会に行くなんていうのは2000年以前にインターネットやってた人にとっては「よくある話」だと思うし?
実際SNAKEPIPEも写真関連の「オフ会」とか「オフミーティング」には行ったしね。
「地球」に「ガイア」をルビを振るあたりも、「いかにも」で良い感じ。(笑)
どうしてもパソコン関連の記述があると、年代を感じてしまうことが多いのは仕方ないのかな。
例えばハードディスクの容量や記録媒体とかね。(笑)
小説に明確な時代設定をしないのであれば、もしかしたら作家の方は記述方法考えたほうが良いかもね?(余計なお世話か)
結局、恋人自殺の真相について解決はするんだけど…。
いろんな人が感想やレビューに「気持ち悪い」って書いているように、この手のバイオホラー系は想像するだけでもゾッとすることが多いよね。
一般的には良く知られていない研究を「まことしやか」に語られるから余計に怖いんだよね。

クリムゾンの迷宮」(1999年4月 角川ホラー文庫 / 2003年2月 角川書店)は前作の「天使の囀り」に出てきたゲームオタクの部分を拡張させたような小説で、バーチャルではなく現実的に主人公がゲーム世界の中に登場させられているのである。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた、というところからスタートする。
「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された。無事に迷宮を出て賞金を勝ち取れ」
というゲーム機に映し出されたメッセージにより、強制的にプレイヤーにさせられる主人公。
小型のゲーム機を手に、生きるか死ぬかの極限状態で同じようにプレイヤーにさせられた他8名とのゼロサム・ゲームが始まるのだ。
全く状況が把握できないまま、デスゲームに強制参加させられてしまうところも怖いけれど、一番怖かったのは人間の変貌ぶり。
極限状態における心理の変化や生きることへの執着で、今までには考えられなかったような人間であることを放棄するような行動に走る人々。
SNAKEPIPEは、ゲームの主催者や関係者の非情さよりも、その点が一番怖かったな。
この小説を読んでいる時にはよく悪夢にうなされたものよ。(笑)
「バトル・ロワイヤルに似ている」
「映画SAWに似ている」
と、多くの人が感想に書いているよね。
確かにそうなんだけど、「クリムゾンの迷宮」のほうが、戦時下に近いようなリアリティを感じるんだよね。
ラスト部分はオチとして必要だったのかもしれないけれど、もしかしたら最終章はなくても良かったのかもしれないね。
でもなかったら「オチがないのが不満」って言うんだろうけど。(笑)

4冊分の簡単な感想と考えて書き連ねていたら結構な長さになっちゃったね。
次回に「貴志祐介part2」を書くことにしようかな。
それでは皆様来週をお楽しみに!(笑)

好き好きアーツ!#13 DAVID LYNCH—Crazy Clown Time

【リンチ作品のサントラ等を並べて撮影。鳥飼先生の時と同じパターン!(笑)】

SNAKEPIPE WROTE:

先週のブログ「SNAKEPIPE MUSEUM #13 Lauren E. Simonutti」の終わりに書いた、デヴィッド・リンチのフルアルバムについての記事。
まさか、と思っていたのに本当に出てたよ。(笑)
リンチアンなのに入手したのが少し遅いところが情けないけれど、今回はそのアルバムについての感想をまとめてみたいと思う。

処女作「イレイザーヘッド」から音響や作詞などを手がけ、「ブルーベルベット」では主人公であるジェフリー・ボーモントに草むらで耳を拾わせる。
リンチ=耳の監督という代名詞は昔から聞いていたので、今更音楽とリンチが密接に結びついていることに驚きはしないけれど。
ただ自らが歌い作詞や演奏まで手がけたフルアルバムのリリース、を知った時には正直驚いてしまった。
「ここまでやるか?」と思ったのである。
さすが、リンチ。なにをしでかすか判らない謎の人物だけあるね。(笑)
1曲ずつ簡単に感想を書いてみようかな。

1. Pinky’s Dream

「ピンキー」から想起するのは、もちろんピンキーとキラーズ、そしてファントムギフトピンキー青木だよね!(笑)
この歌の中のピンキーはどうやらトラックを運転しているところらしい。
ピンキーが紫のたばこの煙をくゆらせながら、オレンジ色のライトを照らしながら走っている。
これはどうやら夜のドライブみたい。
「ロスト・ハイウェイ」も連想できるし、「ブルーベルベット」の中での「ジョイライド」も思い出すね!
このオープニングがビートの効いたパンチのある曲(ぷっ)なので、これからどうなるのかワクワクしちゃう。

2. Good Day Today

すでに先行シングルとして発売されていた曲なので、聴き慣れた心地良さ。
好き好きアーツ!#11 デヴィッド・リンチ—PV—」でも特集して、その中でも
「なんだか『スターシップ・トゥルーパーズ』の『今日は死に日和』のようなタイトルだよね。(笑)」
と書いているんだけど、「Good Day Today」と「Good Day To Die」って本当に良く似ている。
クラブ系のビートに乗って気持ち良さそうに歌うリンチの頭の中では「TODAY」と「TO DIE」を交錯させていたかもしれないね。
歌詞を読んでも「○○にはうんざり」ということが散々書いてあり、「天使を送ってくれ」ともあるので余計にそう感じてしまう。
リズミカルでダンスも踊れそうなノリの良い曲なので、竹中直人の「笑顏で怒る人」みたいな不気味さがあるね。(笑)

3. So Glad

「お前がいなくなってくれて本当に嬉しい」としわがれた、全然嬉しそうじゃない声で歌うリンチ。(笑)
この曲を聴いているとリンチが描いたグレーと黒の、ダークな雰囲気の油絵を思い出す。
心の奥底を具象化したような、心象絵画。
リンチは50年代カルチャー部分を取り除くと、まるでアメリカ人とは思えないようなヨーロッパ的な要素を持っているけれど、この曲はまさにリンチの核を表現しているような雰囲気だと思う。
あれ、なんだか真面目に評論してるよ、SNAKEPIPEごときが。(笑)

4. Noah’s Ark

この曲、「ロスト・ハイウェイ」のサントラに入ってるような感じ。
リンチがささやき声でつぶやくスタイルのボーカルだから、「ミャウミャウ」とアリスが電話でささやいていたのを思い出したのかもしれない。
室内に突如現れる真っ暗な闇。
リンチの映画の中ではお馴染みの光景だけど、この曲はその「リンチ・ブラック」をより効果的に見せるために丁度良いBGMになりそう、とほくそ笑むSNAKEPIPE。
この曲を聴いていると、勝手にリンチ風の映像が脳内に流れるから不思議だ。
やっぱり音楽の力ってすごいなあ。

5. Football Game

「君が他の男といるのを目撃してしまった」という実体験なのか、夢で見たのか、はたまた創作なのか不明な歌詞。
「恋多き映画監督」として名高い(?)リンチなので、実体験だったとしてもおかしくはないけどね。(笑)
と、ここで川勝正幸氏による解説中にあるリンチ・インタビューを読むと
「このアルバムの中の何曲かには別人格が登場している。
その男はアメリカ南部の山の中に住む貧しい男。
ブーツにジーンズ、汚れたTシャツ。
ピックアップトラックを運転し、たばこで黄ばんだ指先、密造酒を飲む。
街の女2人に好意を寄せているが、彼女達は男のことを好きではない」
という設定とのこと。
なるほど。
見かけは「ツインピークス」のボブ、みたいな感じね。(笑)
そういう「へべれけ」状態の男を想定して、できている曲もあるってことだね。
きっとこの曲はその「南部男」を描いているんだろうね?
意外とリンチの実体験だったりして?(笑)

6. I Know

これも先行シングルとして発売されていたのですでに馴染みのある曲になっている。
何か自分に原因があって、そのせいで彼女が出て行ってしまう。
悪いのは自分だから、彼女を引き止めることができない。
本当は別れたくないけど、自分からは言い出せない辛い思い。
うーん、ドラマですなあ!
詩の中の「did that thing」が謎だけど、何やらかしたんだろうね?

7. Strange and Unproductive Thinking

「奇妙で不毛な思考」と題された、リンチの声がヴォコーダーで電子音に変化し、詩を朗読している曲。
リンチにぴったりの単語、ストレンジ!
「It’s a strange world, isn’t it?」というセリフがあった「ブルーベルベット」をまっさきに思い出すね。(笑)
朗読されている詩の内容は全く意味不明で、そこがまたリンチらしい。
本当にロボットが勝手に様々な単語を組み合わせて喋ってるような感じがするね。

8. The Night Bell With Lightning

インストゥルメンタルの曲。
いかにもリンチのサントラに入っていそうな感じの曲なんだよね。
作曲はアンジェロ・バダラメンティじゃないの?って思ってしまう。(笑)
かなり雰囲気があるので、これも是非リンチ風脳内映像を創作して楽しみたい一曲!

9. Stone’s Gone Up

この曲もリンチが設定した「南部男」をモデルにしているように思われる。
なんともやるせない感情を歌っているんだよね。
「石が迫ってきた」という表現が良く判らないんだけど、もしかしたら事故とか?
「白い光」というのもあるから事故死かも。
うーん、失恋の痛手を負って、暴走したあげく事故なのかなあ。
いや、もしかしたら彼女に手をかけた後に覚悟の上の事故、かもしれないな。
などと想像するSNAKEPIPE。
リンチ風にするなら、もっと違うストーリーにしても良いかもしれないね!(笑)

10. Crazy Clown Time

アルバムタイトルと同じ曲のタイトル。
ポーリー、スージー、ダニー、サリー、バディ、ピーティ、ティミーと男女混合7名がハチャメチャパーティをやっている様子である。
ゴダールの映画「気狂いピエロ」のラストは頭にダイナマイトだったけれど、この曲の中でもピーティが髪の毛を燃やしている。
「とても楽しかった」と歌うリンチだけど、楽しいかい?(笑)
曲調は不安を煽るような不思議な雰囲気で、タイトルとも詩ともよく合っていてリンチらしさ満点!
リンチのハイトーンヴォイスも聴けて、ファンには嬉しいね。(笑)

11. These Are My Friends

この曲はまるで「ツインピークス」の「ナイチンゲール」だよね?
ジュリー・クルーズが歌ってれば、全く同じなんじゃないかなあ。
サリーとピートとベティの3人がトラックに乗ってピクニックに行くのかな。
あらら、まるでこれはローラとドナとジェームスが3人でピクニックに行ったのと同じ設定じゃない?(笑)
うーん、なにもかもが「ツインピークス」を連想してしまうね。
メロディラインも50年代風だしね!

12. Speed Roadster

これもまた「南部男」を想定した曲なのかもしれないね。
彼女に去られ、ちょっと女々しく、未練がましく彼女のことを考える男。
やっぱりまだ忘れられない、とストーカーまがいの行為を想像する。
トラックからオープンタイプのスポーツカーに買い替え、彼女をもう一度振り向かせようとも考える。
最後の部分はちょっと怖いねえ。
だってリンチだからねえ。(笑)

13. Movin’ On

まるで80年代ニューウェイブのような雰囲気の曲。
ちょっと懐かしい感じがするんだよね。(笑)
詩は暗くて悲しい感じ。
人生って何、と考えさせられる。(うそ)

14. She Rise Up

おお、これもまたロボット声に変化させているねえ。
まるで「ロスト・ハイウェイ」の「This Magic Moment」が流れた瞬間を表現しているような詩の世界!
電撃的な出会いから付き合いが始まるけれど、映画と同じようにやっぱり彼女は去って行くのね。
ロボット声だから泣き言に聞こえないけど、なんでこうも失恋の歌詞が多いのかしら?
やっぱりこれも「南部男」が設定なのかも。(笑)

15. I Have a Radio [Bonus Track for Japan]

ささやき声で「I Have a Radio」とだけつぶやくリンチ。
バックの音はちょっとヒカシューっぽくてSNAKEPIPEには馴染み深い音だな。
この曲だけが「日本盤」に収録されているボーナストラックということになっているんだけど、とても良い曲なので通常版にも入っていれば良かったのにと思う。
豚の鳴き声みたいな「キーキー」音が入っているところが怖い。
この曲だけどうやらPVがあるようなんだけど、恐らくリンチ自身の手によるビデオのように見受けられる。
左右に手を振って動きを見せる2人。
バックの墨絵調がリンチらしいよね!

ROCKHURRAHはこのアルバムを聴いて、声質がなんとなくスロッビング・グリッスルのジェネシス・P・オリッジやスーサイドといった80年代初期の雰囲気みたい、だとのこと。

執拗につぶやく呪術的なスタイルがリンチとも共通しているらしい。
スロッビング・グリッスルの曲をyou tubeで観せてもらったけど、確かに雰囲気が似てるね!
どっちも変態系だしね!(笑)

リンチ的世界に慣れ親しんでいる人にとっては「リンチそのもの」を体感できる、素晴らしいアルバムだね!
そうか、媒体を音楽に変えただけの話。
これは「リンチの新作」なんだな、と改めて気付く。
映画、絵画、写真、そしてついに音楽の世界にまで進出した「稀代のアーティスト」、リンチ!
やっぱりSNAKEPIPEには絶対的な尊敬に値する人物だなあ。
いやはや、恐れ入りました!(笑)
ロバート・ロドリゲス監督が偽の予告編から「マチェーテ」を作ったように、是非ともリンチにも「サントラから映画」の企画をお願いしたいと本気で思う!
SNAKEPIPEはもちろんのこと、きっと待ち望んでるリンチファン、多いはずだからね!

好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–

【観察者シリーズを並べて撮影!圧巻ですな!】

SNAKEPIPE WROTE:

今回のブログは「好き好きアーツ!#8 鳥飼否宇 part3」!
大ファンの作家、鳥飼先生の新作「物の怪」出版記念として第3弾を書いてみたいと思う。
「物の怪」は鳥飼先生の「観察者シリーズ」に分類される最新刊。
鳥飼先生は「~シリーズ」と、幾つかのシリーズを持っているのである。
今まで刊行されている「観察者シリーズ」については、また別の機会に特集してみたい。
今回は「物の怪」に焦点を当てた記事にしようと思っている。

ここで簡単な「観察者シリーズ」についてのご説明をしてみよう。
「観察者シリーズ」は大学の野生生物研究会というサークルに所属していたことが縁で、学校を卒業してからも15年以上(最新作ではすでに20年くらいになってるのかも)の付き合いがある4人が登場するシリーズである。
人里離れた場所でこのメンバーが遭遇する事件、というパターンがほとんど。
彼らの活躍する物語は、上の写真にある著作で知ることができる。

1人目は現在、植物写真家として活躍するネコこと猫田夏海。
メンバーの紅一点。
ただしあまり女性として扱われていない様子で、恐らく猫田自身もちょっと不満に感じているように見受けられる。
猫田の目線で物語が進むことが多く、その女性心理に共感するSNAKEPIPE。
男性作家が女性を描く場合、「んな女、いるわけないじゃん」とツッコミを入れたくなることが多い中、猫田のキャラクター設定はとても良く理解できる。
すぐに旅立てる身軽さを持つ活動的な猫田。
3人の男性との良い友人関係も羨ましいね。

2人目は猫田の大学時代の3学年上の先輩、現在は自称「観察者(ウォッチャー)」の鳶さんこと鳶山久志。
鳥や虫、植物など人間以外の生物全般に幅広い知識を持つ「生物オタク」である。
「観察者シリーズ」の由来はこの鳶さんから来てるんだよね。
このシリーズで(最終的に)謎解きをするのは、いつも鳶さん。
鋭い観察力と洞察力、豊富な知識から結論を導き出すのが得意。
生物に関する薀蓄を語り出すと止まらず、珍しい生物を観るためには一切を厭わないほどの熱中ぶりには驚かされる。
それで生活が成り立つのが羨ましいね。(笑)
猫田にはちょっと厳しい気がするのはSNAKEPIPEだけだろうか。
自分と同じくらい知識豊富になってくれよ、という先輩からの叱咤なのかもね?
「鳶さんのキャラクターは鳥飼否宇の分身かな、と勝手に想像するSNAKEPIPE。ひょうきんでちょっととぼけたインテリで、いい味出してるんだよね。」
と以前ブログに書いたことがあるが、実際鳶さんと鳥飼先生には共通点が多いのである。
東京の出版社に10年以上も勤務した後、鹿児島に移住。
移住後は野鳥や昆虫観察をしている。
ビール好き。
3月生まれ。
などなど。
あんまり羅列すると「ミザリー」みたいになるから、ここらへんでやめておくか。(笑)
恐らく同じような感想を持つ人が多かったためか、「物の怪」の表紙・折り返し部分に
「鳶山久志は分身ではない」
という趣旨の文言が書かれていて笑ってしまった。(笑)

3人目は猫田と同学年だった、現在はイラストレーター、ジンベーこと高階甚平。
昆虫や爬虫類を描くのが得意で、個展を開くと絵が完売するほど売れっ子という設定である。
このジンベーはスキンヘッドで小太り、けれどいつも奇抜なカラフルファッション、というかなり特徴のある風貌!
毎回ジンベーのファッションについては楽しみにしているSNAKEPIPE。
今回はスキンヘッド部分にサソリのタトゥー、蛍光グリーンのボアコートという出で立ち!(笑)
「観察者シリーズ」の中で、SNAKEPIPEが一番お友達になりたいのがジンベーなんだよね!
本当は佐賀県生まれなのに、何故だかベタベタの博多弁を使うところも気に入っている。
ジンベーの喋ってる箇所を声に出して読み
「博多弁ってこんな感じなの?」
と九州出身のROCKHURRAHに尋ねても
「博多弁のことはよく知らない」
と標準語で言われてしまった。(笑)

4人目は鳶さんと同学年、ということでネコやジンベーより3学年上の先輩であり、現在は西荻窪で「ネオフォビア」というバーを経営している神野先輩こと神野良。
資産家だった父親の遺産を相続し、賃貸マンション経営のかたわら趣味のバーも経営している、この人もまた羨ましいご身分の方。
バーの経営は損得勘定抜きの、完全なる趣味の世界を展開している。
置いてある酒はシングルモルトのスコッチだけ。
BGMは70年代ブリティッシュ・ロックを大音響で流すという、ほとんど神野良本人の居心地の良さだけを追求したバーなのである。
これで「ネオフォビア」(新奇恐怖)の意味が少し解った気がするね。
神野先輩の好きな世界についてはほとんど良く知らないSNAKEPIPEだけれど、そんな隠れ家的なバーにはとても興味があるなあ。
前述した元サークル仲間がバーに集まってくるのもうなずけるよね。
神野先輩だけは、事件に直接関わることがなくバー「ネオフォビア」を拠点とした連絡係のような役割を担っているようだ。
そういう意味ではもしかしたら神野先輩こそが「観察者」とも言えるよね。(笑)
そして鳥飼先生の新作「物の怪」はバー「ネオフォビア」から始まるのである。

※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

「物の怪」には3つの短編が収録されている。
SNAKEPIPEの非常に個人的な感想をそれぞれのお話ごとに書いていこうかな!

1:眼の池
第1話に登場する物の怪は河童である。
バー「ネオフォビア」に見かけぬ客が来店し、その客が話した内容から河童に絡んだ事件について考察する話である。
河童の正体は一体何か、という鳶さんの解説が大変面白い。
そしてその博識を利用して30年前の謎もスルスルと簡単に解いてしまう。
とは言っても、その謎解きに必要な材料集めをネコにやらせる鳶さん。
突然翌日に山口県に行くことができるネコもすごいけどね!
たまにネコを褒めてくれる鳶さんの言葉があると、SNAKEPIPEまで嬉しくなってしまう。
やっぱりネコに感情移入してるのかもしれないね。(笑)
鳥飼先生の小説には自然を破壊する人間の行動や人間自体に対する怒りや悲しみを含んでいることがあるが(激しく同意!)、「眼の池」にも身勝手な人間に対する警告のような内容が入っていた。
「責任持てないならペットを飼うな!動植物はオモチャじゃないんだ!」
というメッセージを強く感じたSNAKEPIPEである。
それにしても豚って怖い動物なんだね?
トマス・ハリスの著作やパゾリーニ監督の「豚小屋」を思い出してしまったよ。(笑)

2:天の狗
第2話の舞台は立山連峰。
鳶さんとネコが天狗の謎を追う話である。
「天狗の高鼻」と呼ばれる、ロッククライミング界では有名な岩登りに挑戦しようとする大学生と、登るのをやめさせようとする山小屋主人と修験者の会話を聞くところから話が始まる。
「天狗の高鼻」には天狗がいるから危険、と聞いて鳶さんが興味を示すのだ。
修験者の持ち物についての説明が興味深い。
役行者についての本を読んだことがあったけれど、詳しくは覚えていない!(笑)
また読み返してみようかな。
この話の中でSNAKEPIPEが一番驚いたのが「タカとワシには明確な区別がない」というところ。
イーグルとホークなのに、体の大きさで呼び方が変わっていたとは知らなかった。
勉強になりました!(笑)
そしてまたトマス・ハリスを思い出してしまったよ。
ううっ、怖い!
SNAKEPIPEには犯人の動機がイマイチ解らなかったなあ。
やっぱりそういうことでいいのかしら?(←この言い回しが更に謎かも)

3:洞の鬼
第3話は瀬戸内海の小島・悪餌(おえ)島が舞台である。
悪餌島にある悪餌神社に伝わる追儺式—節分祭についての取材に訪れたネコに、やっとお待ちかねのジンベーと鳶さんが同行する。
節分、ということで今回登場する物の怪は鬼!
この小島の廃墟にアーティストが住み着いている、という本当にありそうな設定が面白い。
そしてそのアーティストの一人が行っているパフォーマンスアートについての説明の中に飴屋法水の名前を発見!
先々週のブログで丸尾末広を特集し、その中で「東京グランギニョル」について書いたSNAKEPIPEには嬉しい驚きだった。
飴屋法水が「東京グランギニョル」の主催者だったからね!
遠い過去の記憶に基づいて書いた記事と鳥飼先生の小説がリンクしているみたいだもんね!
それにしてもその手のパフォーマンスアートは非常に解り辛い。
結局は行為そのものよりも、思想を理解しないといけないアートだからね。
アーティスト本人、もしくは評論家みたいな誰かに説明を受けないと解らないアートって難しいよね。
説明聞いてもさっぱり理解できないことも多いし。(笑)
そうは言ってもアートとミステリーを融合させる鳥飼先生の小説は大好きなので、「洞の鬼」はとてもお気に入り!
小説内にSNAKEPIPEの敬愛する映画監督であるデヴィッド・リンチ監督の名前があったことも嬉しかった。
そうだ、あの映画ももう一度鑑賞し直そう!(笑)
「純真無垢」というのが良い結果を生むわけではない、という今回もまた怖いお話だった。

「物の怪」や「妖怪」と呼ばれる伝説上の生き物について、鳶さんが理論的に説明を付け解読していく3つの小説は読みごたえ充分!
「なるほど」と感心しきりで一気に読み切ってしまった。
鳶さんから、もっといろんな妖怪に対する解釈を聞いてみたい、とも思う。
でも伝説のままのほうが良いのかもしれない、とも思うし。(笑)
それにしても3つのお話共、一番怖いのは××(あえて書かないけどね)なんだなと思ったSNAKEPIPEである。

「観察者シリーズ」に登場する、前述した4人はそれぞれキャラクターが立っているので、なんだかもう知り合いのような感覚なんだよね。(笑)
また4人に会える時を楽しみに待っていようと思う。
「観察者シリーズ」ではないけれど、キャラクターが立ってる、と言えば増田米尊もいるよね!(ぷっ)
鳥飼先生、これからもずっと応援してます!

好き好きアーツ!#11 デヴィッド・リンチ—PV—

【ビデオの公募を呼びかけるリンチ。映像はまるでロスト・ハイウェイだね】

SNAKEPIPE WROTE:

今年のSNAKEPIPEの誕生日に友人Mがプレゼントしてくれたのが、デヴィッド・リンチのCDだった。
なんとリンチ、60歳を過ぎてからCDデビューを果たしたのである。
ジャンルはエレクトロ・ポップ!
ナウいというか、若いというか。
なんにでも興味を持つ好奇心の強さはさすが自称19歳!(笑)
リンチらしさも良く出ていて、なかなかの出来。
さすがはリンチだね!リンチは「Good Day Today」と「I Know」という両A面のシングル曲をリリース。
なんと、元ネタ2曲なのにリミックスバージョンを含んで10曲入りCDになってるんだよね!
ちょっとお得な感じ?(笑)

CDを所持するところまではファンとしては当たり前のことだろうけど、そのプロモーションビデオについては全く知識がなかったSNAKEPIPE。
you tubeでビデオは観ていたけれど、てっきりリンチが撮影したものだと思っていた。
ところが!つい先日、リンチがプロモーションビデオの公募を呼びかけていたことを知ったのである。
この情報…なんと2010年11月30日のもの。
そして2010年12月22日に公募締切、2011年1月3日にはオフィシャルビデオが決定していたらしい。
うーむ、リンチファンを名乗っているSNAKEPIPE、既に半年以上も前の情報を今頃手にするとはなんとも情けない!

この企画はイギリスのgenero.tvという映像コンペティションのサイトが主催していた模様。
アーティストのプロモーションビデオを公募し、最優秀作品を公式なプロモーションビデオとして採用する、というもの。
見てみるといろんなアーティストが参加してるんだよね。
デュラン・デュランとかアリシア・キーズなどの有名どころも入っててびっくり!
賞金として2000ポンドも授与されるとのこと。
日本円にして約25万円。
いや、これはお金の問題じゃないよね!
映像作家を目指している人にとっては登竜門みたいな感じになるのかな。
おおっ、先週のトマー・ハヌカの記事ではアメリカにおけるイラストの登竜門の話を書いたばかりだけど、イギリスでは映像だって!
世界にはいろんな企画があって楽しいね!(笑)
そしてこのサイトを観て、以前you tubeで観たリンチのプロモーションビデオが最終選考10作品の中から選ばれたグランプリ作品だったことを知ったのである。
ビデオはシングル曲「Good Day Today」と「I Know」の2曲別で公募されたため、それぞれにグランプリが決定している。
最終選考に残った10作品を鑑賞していると
「グランプリより好きかも」と思う作品もあって、好みの問題だから仕方ないんだけどね。(笑)
今日は最終選考に残ったSNAKEPIPEの琴線に触れた作品について書いてみたいと思う。

まずは「Good Day Today」から。
なんだか「スターシップ・トゥルーパーズ」の「今日は死に日和」のようなタイトルだよね。(笑)
こちらはグランプリを獲得した作品がやっぱり一番だと思った。

フランスの22歳の学生adodが制作した、というビデオ。
なかなか良くできてるよね!
光と影の表現がリンチらしくて、SNAKEPIPEはてっきりリンチが撮ったんだと勘違いしちゃったんだよね!(笑)
目玉のシークエンスだけがちょっと単純な気がして残念だったかな。

もう一本「これもなかなか素晴らしい」と思ったのがこちら。


Balthazarという、こちらもフランス人の作品ね。
少年が主人公というのも同じ。
グランプリには毒があるけど、こちらは「少年の日の思い出」的な雰囲気だよね。
少年にしたのは、リンチの幼少時代として設定したからなのかな?

「I Know」のプロモーションビデオは、グランプリを獲得した作品よりも他の作品が気になったSNAKEPIPE。
このブログではグランプリは割愛させてもらっちゃおう!

まず気になったのはwyattdennyという、作家も俳優も監督もこなしているというアメリカ人の作品。


この方、恐らくリンチの大ファンなんじゃなかろうか?
作品はまるで「マルホランド・ドライブ」のワンシーンのような雰囲気。
ブルネットと金髪の女性二人という設定、青い光を放つ箱を開ける、などよく研究されてるよね。(笑)
赤いカーテン、内緒話のしぐさなどは「ツインピークス」だし。
妙な儀式めいた化粧は「ワイルド・アット・ハート」か。(笑)
などとリンチファンがニヤニヤしながら鑑賞できるのが楽しかった。
オリジナリティと言われてしまうと弱いけどね!

続いてはこちら。


ルクセンブルクのVitùcという方の作品。
モノクロームが似合うヨーロッパの風景。
なんとなくイーライ・ロス監督の映画「ホステル」のスロバキアを思い出してしまうのはSNAKEPIPEだけか?(笑)
そう考えるとちょっと怖い感じもして、リンチのプロモとしては良い効果かもね。
恐らくこの方もリンチのファンなのか、フィルムの逆回転の多用に影響を感じるよね。

続いてはパロディっぽいこちらの作品。


Meatheadというアメリカ人アーティストのアニメーション、なかなか面白いよね!
リンチが似てるし。(笑)
日本語の字幕はメチャクチャで全く意味不明だけど、日本人以外の人が見たらエキゾチックな感じがするのかもしれないね?
リンチがコーヒーとタバコ好きというのがちゃんと研究されていて、アニメに反映されているのが良かった。
それにしてもコーヒー3杯は飲み過ぎじゃない?(笑)

CDデビューではびっくり仰天ハプニングで楽しませてもらい、今回のプロモーションビデオの企画も面白かった。
リンチのフォロワー、まだまだ続けようと志を新たにしたSNAKEPIPE。(大げさ)
それにしても世界中に映像作家や作家志望の人がいっぱいいるんだねえ!
そして今回の最終選考作品を鑑賞して思ったのは、
「リンチが大好き!」
と思ってる人がこんなにたくさんいるんだな、ということ。
同じくリンチファンのSNAKEPIPEには、同志のような気がしてとても嬉しかった。
そして恐らくそんなリンチファン(リンチアン)達は、皆同じことを思っているに違いないはず。
「リンチの新作はいつ?」
ほーんと、待ち焦がれちゃうよね!(笑)