映画の殿 第19号 ジャック・ブラック01

【ジャック・ブラック、3つの顔】

SNAKEPIPE WROTE:

アメリカの有名なコメディ俳優、ウィル・フェレルについての特集を4回連続で書いたのは去年のことだ。
ほとんどコメディ映画を観たことがないSNAKEPIPEとROCKHURRAHが、かなりドギツい毒のあるジョークに夢中になってしまった。
いわゆるアメリカンジョークとされる、日本人には意味が分からない類いではないのでお腹を抱えて笑ってしまう。
毒気と下品な部分には賛否両論あるとは思うけどね?(笑)

ウィル・フェレルのおかげで(?)すっかりコメディ映画に目覚めてしまったので、他のコメディ俳優にも注目してみる。
ウィル・フェレルの出身は「サタデー・ナイト・ライブ」という、1975年スタートのバラエティーコメディテレビ番組なので、そこに出演していた人をチェックしてみた。
ブルース・ブラザーズ、エディ・マーフィー、ジム・キャリーなど、日本でも知られているような有名人が多数輩出されているんだよね。
今から思えば、80年代に高視聴率を獲得していた「俺たちひょうきん族」は「サタデー・ナイト・ライブ」を目指していたんだろうな。
モノマネあり、コントあり、寸劇ありという「笑い」を追求した番組構成は、様々な分野に影響を与えたに違いない。
2015年から、また「サタデー・ナイト・ライブ」の41シーズンがスタートしているというから、今でも人気のある長寿番組なんだろうね。
「サタデー・ナイト・ライブ」出身のジム・キャリーが出演している映画も数本観たけれど、ウィル・フェレルの毒が回った身体には、刺激が弱い。(笑)
慣れって怖いよね。

映画のジャンルによって、DVD最初に必ず強制的に見させられる「新作案内」が違うんだよね。
ホラーの時、サスペンスの時、アクションの時。
それぞれ似たジャンルの映画の新作案内になってるので、恐らくウィル・フェレルの何かを観た時の紹介で「面白そう!」と思ったように記憶している。
それが今回特集するジャック・ブラックだった。

小太りで丸顔、いかにも厚かましそうな顔立ち。
はっきり言って第一印象は最悪である。
なんでこんな男が主演?と思ってしまう。
ところがその新作案内(とはいってもかなり古い情報だったけど)で見る限りでは、かなり好きなタイプのコメディ映画。
借りて観てみよう、ということになった。
そして一番初めに観たのが「 テネイシャスD 運命のピックをさがせ!」(原題: Tenacious D in The Pick of Destiny 2006年)である。

トレイラーが英語版なので、映像だけ観てなんとなく分かってもらえたら良いかな?
アクション多めのバカっぽいロック系コメディ映画なんだよね。(笑)

ロックをこよなく愛するJBは故郷の田舎町を飛び出して、一路ロックの聖地ハリウッドへ。
そこでKGと出会った彼は、その天才的ギタープレイに惚れ込み、彼を口説き落として“テネイシャスD”を結成する。
ビッグになることを誓い合った2人だったが、デビューライブは惨憺たる結果。
2人はビートルズ、ストーンズ、ジミヘンらを成功へ導いた、あるピックの存在を発見する。
悪魔の歯から作られたというその伝説のピックを手に入れるため、300マイル離れたロックンロール博物館に向かう。

JBがジャック・ブラック、KGがカイル・ガスなんだよね。
この2人、本当に「テネイシャスD」というバンドをやっているのに、映画で初めて結成したようなストーリーになってるね。
こんな太めの2人組なのに、びっくりするほど動きが機敏!
ライブ・パフォーマンスもなかなか!
毒のあるジョークで笑わせるライブは大人気というのもうなずける。
それにしても、この左の画像。
太めの男2人の尻出しってどうなの?(笑)

ジャック・ブラックもカイル・ガスもティム・ロビンスの劇団の出身らしい。
そこで出会ってテネイシャスDを結成したというから、ティム・ロビンスがカメオ出演するのも納得だね。
かわいい劇団員のためなら、というところかな。
まるでホームレスのような風貌での登場だったけれど、こんなに長身のホームレスはあんまりいないよね?

「幻のピック」があるという情報を与えてくれるのがギターショップの店員。
この顔を見て誰だかすぐにわかったアナタは、コメディ映画通に違いない。(笑)
そう、ベン・スティラーなんだよね。
ジャック・ブラックはその後「トロピック・サンダー」に出演しているよね。
コメディの方々は映画で共演すること多いので、つながりがあるんだろうね。
ベン・スティラー、良い味出してたね!

悪魔役で出演していたのが、元ニルヴァーナのドラムで現在はフー・ファイターズのデイヴ・グロール。
本物のミュージシャンも出演しているとは!
しかも本人だと分からないくらいの特殊メイクで。(笑)
他にもミートローフがJBの父親役で出ていたりして、ロックファンは楽しめる要素がたくさんあるよね!

映画の予告で観てやっぱり予想通り面白かったので、次もまたジャック・ブラック関連を探してみる。

続いて観たのが「 スクール・オブ・ロック」(原題:School of Rock 2003年)である。
映画の製作順じゃなくて、ROCKHURRAH RECORDSが鑑賞した順番なのでよろしくね!

バンドをクビになった男がひょんなことから
エリート小学校の教員となり、
管理教育に漬かりきった生徒たちに
「ロックの精神」をたたき込む
痛快ロックンロール・コメディ。

あらすじがワンフレーズで終わってしまっている!(笑)
非常に簡単だけど、決して間違っていないからまあいいか。

映画が始まり、キャストの名前を見せるための工夫がなかなか良いセンスなの。
ライブハウスに貼ってあるポスターなどを利用してるんだよね。
これは文章で表すのが難しいので、是非とも観て確認して欲しいね!

この映画でジャック・ブラックの幅を感じることができるんだよね。
偽物の教育者という役どころだったけれど、本物の教育者に勝るような心に響くセリフをいくつも残している。
生徒1人1人の特性を見抜いて、良い所を伸ばしていくという姿勢も素晴らしかった。
こんな先生に出会っていれば、その後の人生は変わるだろうなと予感させる。
ロックを教科書にしているところが、ロック・ファンにはより魅力的だけれど、ロックを知らない人が観ても充分面白いんじゃないかな?

生徒役を演じていたのは、全員がちゃんと演奏ができる子役だったという。
全員の個性を活かした配役はさすがだよね。
10年後にバンドを再結成している映像がYouTubeにあったけれど、みんな大人になっていたね。(笑)
ほとんどが音楽関係の仕事をしているようなので、やっぱり映画に出演したことが将来を決定付けたんだろうね。

バンドは白人、黒人、黄色人種をミックスさせ、更に男女も混合させている。
バンドで世界平和も訴えていたんだね。
破天荒な先生が主人公の映画は多いだろうけど、ロックの教義をする先生が主人公の映画はこれくらいじゃないかな?
ファミリーで観ても全く問題がないというのも珍しい。
ジャック・ブラックすごいな!(笑)

最後に「バーニー/みんなが愛した殺人者」(原題: Bernie 2011年 )を紹介しよう。

この映画は最近流行りの「Based On A True Story」いわゆる本当にあった事件の映画化なんだよね。

テキサス州の片田舎で葬儀屋に勤めるバーニーは、誠実な人柄で町の誰からも愛されていた。
やがて彼は、金持ちの未亡人マージョリーと仲良くなり、
いつしか銀行口座の管理を任されるほど信頼されるようになる。
しかし、ふとしたことで彼女を殺害してしまったバーニーは、その後もマージョリーが生きているかのように振る舞うのだった。

映画は町の人々のインタビューで構成されているので、最初は戸惑ってしまう。
観ていくうちにバーニーという男について話していることが分かる。
バーニーを演じたのがジャック・ブラック。
基本的に体型が同じで髪型も横分けなので「年をとったなあ」という感じはまるでしない。
もしかしたら太め体型の人のほうが若く見えるのかな?(笑)

そしてあらすじにあった金持ちの未亡人マージョリー役をシャーリー・マクレーンが演じている。
シャーリー・マクレーンといえば、「アウト・オン・ア・リム」のイメージが強いんだよね。
その映画まで観ちゃったし。(笑)
そのシャーリー・マクレーンが町中の人から嫌われる役を演じているというのが、面白いよね。
あんなにスピリチュアルな人なのに!

映画の中ではバーニーを完全に支配し、手中に収めようと躍起になっているマージョリーに対して殺意を感じたということは理解できたけど、その後のバーニーの行動が不可解だったんだよね。
あらすじにある「殺害後も普段通りに生活する」って部分。
嫌われていたマージョリーとは正反対に、町中の人から愛されていたバーニーも、町の人達とずっと一緒にいたかったのかな。
もしそうなら、もっとうまいやり方があっただろうにね?

マシュー・マコノヒーが地方検事役で出演していた。
テキサスという場所柄なのか、いつでもウエスタンハットにブーツ姿だったね。
町中の人が殺人者であるバーニーの味方であることに不信感を抱き、ある作戦にでるところが裁判のポイント。
実際の事件でも同じことが起こったのかどうか?
観ているうちに鑑賞する側もバーニーの味方になってしまい、地方検事が嫌なヤツにみえてくるのが不思議だった。

「バーニー」でのジャック・ブラックは今までのコメディ俳優から、本格的な役者としての地位を確立したように思う。
ミュージシャンなのでギターを弾いたり、自慢の喉を披露するシーンは観てきたけれど、「バーニー」では聖歌を歌ったり、ミュージカルの俳優としての演技もしていたもんね。
最初に書いた「 小太りで丸顔、いかにも厚かましそうな顔立ち」の男なのに、非常に芸達者なんだと改めて知ることになったね!

今回特集した 3本はジャック・ブラックが主演した映画についてだったけれど、実は脇役として出演している映画は他にも観ている。
これからも注目して鑑賞していきたいと思う。

映画の殿 第18号 小さな悪の華+乙女の祈り

【4人の美少女(?)達!】

SNAKEPIPE WROTE:

映画のタイトルバックが終わった後、本編が始まる直前に、「Based on a true story」(この話は真実に基づく) という文言を見かけることが多い今日この頃。
例えばキャスリン・ビグロー監督の「ゼロ・ダーク・サーティ」や昨年日本で公開された「フォックスキャッチャー」なども、実話に元に制作された映画である。
「事実は小説よりも奇なり」ということなのか、映画関係者のネタ切れなのかは不明だけれど、よく見かけるフレーズなんだよね。
70年代には、どれくらいの作品が事実を元に制作されていたんだろう?
今日ご紹介する「小さな悪の華」(原題:Mais ne nous délivrez pas du mal )は1954年に実際にあった事件を16年後である1970年に映画化した作品なんだよね。

黒髪のアンヌとブロンドのロールは15歳。
寄宿学校に通う2人はバカンスを利用し、盗みや放火、また牧童を誘惑したり庭番の小鳥を殺害したり、悪魔崇拝儀式を取り行うなどの残酷な行為を繰り返していた。
やがて2人の行為はエスカレートし、死の危険を孕んだ破滅的な終局へ向かっていく。

反宗教的で淫靡な内容のため、製作国であるフランスではもちろんのこと、世界中で上映禁止になり、アメリカと日本でのみ上映されたという「いわくつき」の作品なんだよね。
そのため本国フランスでのトレイラーは存在せず、日本版のトレイラーをみつけたよ。(笑)
元になった事件というのがニュージーランドで起こった15歳の少女2人による母親殺害なので、「小さな悪の華」は15歳の少女2人が悪事に手を染める設定だけ類似させているんだね。
事件そのものとの接点はほとんどないと言って良いみたい。

1970年の作品のためなのか、少し画面が暗い。
2人の少女、と聞くと明るく清潔で希望に満ちた未来に心をときめかせている、バラ色の頬に屈託のない笑顔というイメージを持つけれど(えっ、持たない?)アンヌとロールにその少女像は通用しないようだ。
あらすじにもあるように盗み、放火、動物虐待と殺害、大人の男を誘っては逃げるなどのハレンチな行為(!)を繰り返す。
当時はキリスト教を冒涜し、悪魔崇拝の儀式を行うところが一番の問題だったのかもしれないけれど、現在ならば児童ポルノと言われてしまうようなシーンのほうに眉をひそめ、倫理がどうのと言う人が多いかもしれないね?

大人の男を誘っては、相手がその気になった途端に「これはお遊びよ!」とからかって逃げる2人。
「私の魅力に屈しないはずはない」という充分な自信を持っていたからこそできた「遊び」だと思うんだけど、SNAKEPIPEには彼女達の魅力が伝わってこなかったんだよね。(笑)
予告のトレイラーにも「黒髪とブロンドの美しい少女」って書いてあるんだけど、残念ながら賛成することができないんだな。
こんな単純な誘いに乗る大人の男もなあ、という感想を持ったけど、実際にロリコンはいっぱいいるからね。
SNAKEPIPEには理解し辛い部分だったね!

「小さな悪の華」の中でSNAKEPIPEが一番印象的だと感じたのは、2人の少女が並んで詩の朗読をするシーンかな。

若者は家に帰ると頭を抱えた
学問の詰まった豊かな脳みそ
狂気が流れる
防壁が必要
穴を掘れ
防壁が必要
穴を掘れ

全く意味不明の、さすがフランス、とも言えるようなポエム!
どうやらジュール・ラフォルグの詩やボードレールの詩を混ぜたものみたい。
「小さな悪の華」というタイトルもボードレールの「悪の華」から引用されていることはすぐに分かるもんね。
Digue dondaine,digue dondaine,
Digue dondaine, digue dondon!
フランス語を知らないので「ディガディガディン、ディガディガドン」と聞こえてしまう、この音の響きが特に耳に残り、時々真似をしてしまうSNAKEPIPE。(笑)
ここが「穴を掘れ」になってたんだけど、原語と訳では意味合い違うんだろうね?

少女2人が笑いながら悪事を行うところがポイントかな。
罪の意識を持って敢えて悪いことをする、という点が怖いんだよね。
悪いことと知らなかったから笑って悪事をしていた、のほうが一般的な気がするからね。(この表現は変だけど)
国によって残酷の基準や倫理、マナーや宗教が違うけれど、もう今は「小さな悪の華」を上映禁止にする国はほとんどないんじゃないかな?
様々なジャンルの映画が公開されている昨今ならば、もうフランスでも上映解禁されているかもしれないね。

続いて紹介するのも、同じ事件を題材にした「乙女の祈り」(原題:Heavenly Creatures 1994年)である。

クライストチャーチの女子高に通う内気な少女ポーリンと、イギリスからの転校生ジュリエット。
2人は親友同士になり、秘密の世界を作り上げる。
少女たちの絆があまりに強いため、周囲の大人は同性愛と見なし引き離そうとする。
2人は一緒にいるために作戦を考えるのだが…。

「乙女の祈り」は1954年に起きた事件をそのまま忠実に再現したストーリー展開をしている作品のようである。
監督は「ロード・オブ・ザ・リング」で有名なピーター・ジャクソン
ニュージーランドで起きた事件だから、同じ出身の監督が起用されたのかな?
ファンタジー色が強い人、と思っているとROCKHURRAHからは「バッド・テイスト」の監督というイメージだと言われる。
スプラッター・ホラーだって!
それが初監督作品だというから、ファンタジーとはかけ離れてるよね?
ただし「乙女の祈り」にもクリーチャーを使用しているので、そこがピーター・ジャクソンらしさになるんだろうね。
主人公であるポーリンとジュリエットが創作した小説世界を映像化した場面は、粘土細工の人型が動くという不思議な世界。
このシーンはなかなか面白かったね!

主人公ジュリエットを演じたのが、これがデビュー作となるケイト・ウィンスレット
「乙女の祈り」の時に18歳か19歳だと思うんだけど、非常に醜悪で驚いてしまう。
はっきり言って全く「乙女」に見えないんだよね。(笑)
もしこれが役作りだとしたら、大成功かも!
ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」でヒロインを演じて、世界的に有名な俳優になるとは思えないくらいの酷さ!
そう書いてはみたものの、SNAKEPIPEの「一生観ない映画」リストに「タイタニック」が入っているので、実際にヒロインだったかどうかは知らないんだけど!(笑)

もう一人の主人公であるポーリンを演じたのがメラニー・リンスキー
ぽっちゃりした体型に加えて、 何事も思い通りにならない青春時代の鬱屈した状態が表情に出ているので、こちらもかなりの醜悪ぶり!
2人の美少女が、とはキャッチフレーズできないなー! (笑)

現代では同性の恋愛について寛容になっているし、実際に結婚を認めている国もあるよね。
1954年のニュージーランドでは、まるで精神的に異常で、病気であるかのような扱いを受けてしまう2人。
時代が違っていたら、事件を起こすこともなく、ずっと2人で仲良く生きていかれたのにね。

「小さな悪の華」も「乙女の祈り」も同じ事件を題材にしているとのことだけど、印象はまるで違う。
前述したように事件そのものを再現しているのは「乙女の祈り」なので、事件について知りたい人にはお勧めかも。
SNAKEPIPEは事件そのものよりも、映画としての完成度としてみるならば「小さな悪の華」に軍配を上げる。
少女2人の秘密めいた雰囲気と残酷さがよく出ていると思うからね!

1954年の事件の犯人であるジュリエットはアン・ペリーと改名し、 ベストセラーの推理小説家になっているというオチがつく。
実際に事件の当事者が作家になるというケースは、そう多くないよね。
ましてや世間を騒がせた殺人犯人がベストセラー作家になるとは!
ジャン・ジュネや安部譲二を思い出すけれど、殺人犯人ではないからね。

同じ事件を題材に2つも映画が制作されるというのも稀だよね。
事件にも人を惹きつける魅力があったということなのか。
アン・ペリーの作品も読んでみようかな。

映画の殿 第17号 映画の中のニュー・ウェイブ03

【表紙の写真の関連性が不可解な組み合わせだな

ROCKHURRAH WROTE:

ずっと前に、続きを書くのをすっかり忘れてた企画があったのを急に思い出してしまった。「映画に使われた70年代、80年代の曲特集」という内容。
もちろんROCKHURRAHが書く記事だからパンクやニュー・ウェイブの音楽だけに限って集めてみたよ。
SNAKEPIPEが書く「映画の殿」の記事とは少し趣向が違ってて、映画の内容にはあまり肉迫しないのが特徴。

さて、今回集めてみたのはこんな3本だよ。

まずはこれ、1991年の「羊たちの沈黙」。
近年の海外TVドラマ「ハンニバル」シリーズの元祖、そして今では巷に溢れているサイコ・サスペンスと呼ばれるジャンルの元祖的な映画がこれだから、時代は古くてもこの手の映画ファンならば誰でも知ってるような作品だ。
TVシリーズではマッツ・ミケルセンが演じたハンニバル・レクター博士だが、オリジナルの映画版の方ではアンソニー・ホプキンスが強烈な印象で演じ、ハンニバルの代名詞と言えばやっぱりこちらの方だと思う。
特に拘束衣、拘束マスク(?)をつけたあのヴィジュアルは大のお気に入りで、SNAKEPIPEが時折、物マネをするほど(笑)。
アンソニー・ホプキンスは調べてみたらハンニバル以外でもケロッグ博士、ニクソン大統領、ピカソ、ヒッチコック、ハイネケン(ビール会社の社長)、プトレマイオス1世など様々な偉人を演じてる模様。ピカソはかなり似てると思うが、映画は未見。

ハンニバル・レクターが登場する映画は何作かシリーズになっているが、ROCKHURRAHはリアルタイムでは全然観てなくて、後にSNAKEPIPEの勧めで全部観ただけ。原作まで全部読んでるSNAKEPIPEとは大違いだな。

この映画で使われたらしいのがコリン・ニューマンの1stアルバム「A-Z」に収録の「Alone」という曲なんだが・・・。実はどのシーンで使われてたのか全く記憶にないんだよね。
YouTubeで探してみたが、たぶんこんなシーンでは使われてなかったような気がする。しかも途中でぶち切れ、あまり良いクリップが見つからなかったので我慢してね。ジョディ・フォスターが若い!

コリン・ニューマンは1970年代パンクの時代に活躍したワイアーのヴォーカリストだった人。大多数の人がワイヤーと表記しててたぶんそっちの方が正しいんだろうけど、ROCKHURRAHはなぜかずっとワイアーと読んでたよ。今日から急に改める気もないからこのままワイアーと呼ばせて。

ワイアーはパンクっぽい曲もあるけど、より知的でアーティスティック、ポップな面と実験的な面を併せ持った音楽性で、一味違う新しいものを求めていた若者に支持された。
それより少し後の時代に誕生したニュー・ウェイブ、ポスト・パンクへの橋渡しをしたバンドとして評価が高いね。
基本的にはワン・アイデアだけで一曲を完成させる簡素なスタイルが多かったけれど、数多くの他のミュージシャンがその音楽の切れ端からヒントを得た。alternative( 別の可能性、取って代わるもの)な音楽が誕生して発展したきっかけになったようなバンドだと思う。

分裂した後で再結成したり、後の時代も活動を続けるワイアーだが、ウチらの世代で言うとやはり初期の3枚の傑作アルバムに集約されているな。時代が目の前で変わってゆく空気感がビリビリと伝わるような音楽。
ワイアーが分裂状態になった後、80年代初頭にソロ活動を始めたコリン・ニューマンはこれまた元ワイアーの名に恥じない名曲をいくつも書いて、個人的にはとても好きなアーティストだった。
格別に特徴のあるスタイルや個性ではないけど、いそうで滅多にいないタイプの声や歌い方、これが素晴らしい。
歌詞が出てこなかったのかどうか不明だが、単に「あーーー!」という叫び声だけがメインの名曲「B」や「あーあーあー」というハミングだけで一曲モノにした傑作「Fish 1」など、今聴いても色褪せないな。文章だけだと何だか「うめき声マニア」みたいだが(笑)。

さて、次は2001年の映画「ドニー・ダーコ」だ。
これは80年代ニュー・ウェイブが効果的に使われた映画の成功例だから知ってる人も多かろう。
タイトルはヘンな響きだがそれが主人公の名前だ。
高校生ドニーを演じるのは暗い目つきのジェイク・ギレンホール、あまりさわやかさとか可愛げのない役どころだったから意外とピッタリだったのかもね。実の姉、マギー・ギレンホールが映画でも姉役で出ているな。

ドニーはある日、可愛げのない不気味なウサギ、フランクのお告げにより「世界の終わりまでの時間」を知る。
翌日、変な場所で目覚めた彼が家に戻ると、不在の間に近所で飛行機が墜落、そのエンジンが自室の屋根を突き破るというありえないような大惨事が起こっていた。ウサギに誘われて家を出なければ間違いなく死んでただろうという事態。
その後はウサギの言うがままに様々な騒動を起こしたり、転校生と恋に落ちたり、普通じゃないけど一応青春と呼べなくはない展開が色々あって、物語は世界の終わりの時まで進んでゆく・・・。
「わかりにくい」「不可解」という前評判があったが、勝手に想像したような不条理映画ではなかったな。

この映画の冒頭、主人公ドニーが自転車で峠道みたいなところを走るシーンで使われているのがエコー&ザ・バニーメンの「The Killing Moon」だ。
今の時代、このバンドについて言ってる人はあまりいないとは思うが、当時はエコバニではなくてバニーズと「通」ぶった略し方をしていたな。
1980年代に湯水のように出てきたリヴァプール発のバンドの代表格が彼らだった。これまた今では死語に近い「ネオ・サイケデリア」と呼ばれた音楽の中で最も成功したバンドのひとつでもある。

ヒネクレ者で王道嫌いなROCKHURRAHは同じリヴァプールの中では日本での人気がイマイチなティアドロップ・エクスプローズやワー!などを好んで聴いているフリをしていたが、実はバニーズにもどっぷり漬かっていた。しかし人に聞かれたらやっぱり誰も知らないようなマニアックなバンドを挙げたりする。この辺の素直になれない心理もずっと成長してないなあ。

ちなみにこの映画はバニーズのこの曲以外にもジョイ・ディヴィジョンやオーストラリアのチャーチ(多作で有名)、ティアーズ・フォー・フィアーズなど80年代音楽が使われているが、使い方のポイントがイマイチだと個人的には思う。

最後はこれ、2006年の「マリー・アントワネット」。
父親が偉大な監督、娘は七光りのように言われるのは仕方ないがフランシス・コッポラの娘、ソフィア・コッポラが監督の作品だ。

世界史に明るくない人間でも名前くらいは知ってるであろう、政略結婚でオーストリアからフランスに嫁いだマリー・アントワネットをキルスティン・ダンストが演じる。 しかしこれは歴史映画などではなく、王女になってしまった気さくな女の子が宮廷を舞台に奔放な生き様を見せるような映画で、試みとしては異色なのかも。
この手の映画としては会話も少なく、当時の最先端の宮廷ファッションや乱痴気騒ぎのパーティ・シーン、部屋でスイーツ食べながらダラダラしてるようなシーンの連続で実にライトな出来となっている。

監督の好みなのか何なのかは分からないが、この映画もパンクやニュー・ウェイブがふんだんに使われていて、しかも割とハッキリとした音量で流れるので、ROCKHURRAHにとっては音楽の部分だけは高評価だった。
せっかくの名曲なのに数秒しか使われなかったり会話でぶち切れになったり、そういう使われ方の映画が多いからね。単なるBGMでも敬意を払ってない監督が多すぎ。
上の仮面舞踏会のシーンではスージー&ザ・バンシーズの「Hong Kong Garden」がストリングスのアレンジで使われているな。他にもバウ・ワウ・ワウやアダム&ジ・アンツ、ギャング・オブ・フォーなどもまあまあ効果的に使われていて、80年代ファンならば納得出来る。

以上、タイトル画像の表紙がよくわからなかった人でも、ここまで読めば関連性が理解出来ただろう。

今回の記事には関係ないけど。
一番最後になってしまったが先週、突然世界中が悲しみにつつまれたデヴィッド・ボウイの訃報。これだけ「70年代、80年代のパンクやニュー・ウェイブ」ばかりを扱ったサイトなのにボウイについて何も思い出がないはずがない。パンクやニュー・ウェイブの誕生に最も影響を与えた一人かも知れない。
しかし本人の言葉通り、彼の音楽はいつまでも輝き続けるだろうし、知り合いのような追悼の言葉は出て来ない。
これからもROCKHURRAH RECORDSはデヴィッド・ボウイの影響を受けた一人として活動してゆくつもりだ。まるで音楽をやってる者のような語り口で偉そうだが、これがウチなりの追悼。
ではまた来週。

映画の殿 第16号 タルコフスキーのストーカー

【印象的な黒い犬とゾーンの建物を合成してみたよ】

SNAKEPIPE WROTE:

かつては写真を撮ることや観ることに意欲的だったSNAKEPIPEは、写真集を片っ端から見たり、芸術関連の本を読んで勉強していた。
勉強していたつもりだった、というのが正確な表現かもしれない。(笑)
映画に関係する本を読むことも好きで、評論文だけを読んで興味を持った作品も数多い。
気になった映画を実際に観ることもあれば、縁がないまま鑑賞せず、それでも頭の片隅にタイトルや監督の名前が残っている場合もある。
アンドレイ・タルコフスキーの名前はその「縁がないまま」鑑賞しなかったけれど、名前を記憶しているほうに分類されていた。
スチール写真と共に載っていた「タルコフスキーの映像美」という文章はよく覚えている。
余程の映画通以外、そもそもロシア映画自体あまり観る機会ないよね。
観たことがあるのはエイゼンシュタインの「戦艦ポチョムキン」と「ストライキ」、セルゲイ・パラジャーノフの何か(覚えていない)を観たくらいだもんね。

レンタルDVDショップであるTSUTAYAには「発掘良品」という、今では手に入らなくなってしまったような過去の作品をDVD化する企画がある。
そのコーナーは懐かしさや、観たかったのに機会を逃してしまった作品が数多く並んでいることが多いので、なるべくチェックすることにしている。
そしてそこでタルコフスキーの作品が面出しされていることに気付いたのである。
ストーカー」(原題:Сталкер 1979年)ノスタルジア」(原題:Nostalghia 1983年)「サクリファイス」(原題:Offret 1986年)は、前述した映画の評論文の中ではお馴染みの、観たことがないのに知っているタイトルである。
この手のアート系の映画は、大抵の場合眠くなりそうな作品が多いというのも予想できたので、まずは1本だけ借りてみることにした。
今回選んだのは「ストーカー」。
気力と体力が充実している健康な日に鑑賞することにした。
寝不足気味で鑑賞すると眠ってしまうかもしれないからね! (笑)

簡単に「ストーカー」のあらすじを書いてみようか。

「ゾーン」と呼ばれる立ち入り禁止空間。
その奥にはすべての望みを叶える部屋があるという。
「作家」と「物理学者」は、「ゾーン」の案内人
「ストーカー」に導かれ、「ゾーン」に侵入する

ほんの数行しか書いていない、本当に簡単なあらすじだね。(笑)
実はこの映画はSF映画ということになってるんだけど、SF的な要素はほとんどない。
そして原作を読んでいないことにも加えて、SNAKEPIPEからするとストーリーはどうでも良い感じなんだよね。
「ストーカー」の魅力は違う部分にあると思うから。

写真家シンディ・シャーマンのことを書いた「SNAKEPIPE MUSEUM #4 Cindy Sherman」の記事の中で、ジム・ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」について言及している部分がある。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」は、全てのシーンが一枚写真として完成している、言うなれば連続スチール写真映画だったんだ!

「ストーカー」も「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と同じで、写真集を観る感覚の映画だと感じたSNAKEPIPE。
しかもそれは廃墟写真集なんだよね!(笑)
おおっ、これが「タルコフスキーの映像美」であり「美学」なのか?
映画の評論のほうはその道のプロの方にお任せして!
SNAKEPIPEは「ストーカー」を写真的に観て素敵だと思ったシーンについてまとめたいと思う。

「ストーカー」はモノクローム(セピア調)のパートとカラーのパートがあり、「ゾーン」の中と外みたいな区別になっているのかもしれないけど、解釈はどうでも良いか。(笑)
モノクロからカラーに変化した時に出てくる、上のシーン。
1970年代のソビエト連邦って、こんなに荒涼とした風景だったのかな。
もしかしたら場所によっては今でも変わらないのかもしれないよね?
寂しい感じがする色味が最高!

昔はそこに人がいた、という根拠を示す人工物が朽ち果てている状態が写っているのが廃墟写真だと思う。
こんなにゴロゴロそこらに物が散乱しているのは素晴らしい風景だよ!
SNAKEPIPEからみると宝の山ね。(笑)

グッとくるよね、これも!
この鉄の箱みたいなのは一体なんだろうか?
錆び具合と草の伸び方がたまらない!
あー、気になる、気になる!

こんなブツに遭遇したら、フィルム1本くらい撮影してたな、絶対!
雑草の色といい、鉄の曲がり方といい。
待ち受け画像にしたいくらい惚れ惚れするわあ!(笑)


うっひょー!(笑)
上から垂れてるのはSNAKEPIPEのヨダレじゃないからね!
いや、本当にヨダレ垂らしながら観てたシーンがここ!
「なにここ!なにここ!」
とかなり興奮して叫びながら観ていたSNAKEPIPE。
素晴らしい廃墟写真だよね!
ここ行ってみたいよー!

「タルコフスキーは水を使った表現をする」というのも評論文の中によく出てきてたんだよね。
今回鑑賞してその意味がよく解った。
上の写真は井戸なのかタライなのか分からないけど、そこに入っている水が流動している様を写した映像を4枚並べたもの。
この説明を読まないで写真だけでみると、まるで月か地球の衛星写真か、と思ってしまうよね?
こんな映像が何の脈略もなく、ポンと挿入されるんだよね。
かなり実験的な映像で、目が釘付け!
タルコフスキー、やるなあ!(笑)

これも水の映像なんだよね。
鯉みたいな魚が泳いでいるんだけど、血みたいな赤色の液体から重油みたいなドス黒い液体が魚を覆い尽くしてしまうシーン。
何を表しているとか、そんなことどうでも良くなっちゃうよね。
タルコフスキー独自の美的センスがよく解ったよ!

人それぞれ好みがあるし、映画の鑑賞法も、映画に求めるものも違いがあるのは当然だよね。
「ストーカー」は誰にでもお勧めの映画とは言えないけれど、廃墟写真が好きな人は絶対好きだと断言できるね!(笑)
タルコフスキーの他の作品も鑑賞してみよう。
体力と気力のある健康な時に、ね!