大竹伸朗展 鑑賞 #3

20221218 10
【「ダブ平&ニューシャネル」のステージ】

SNAKEPIPE WROTE:

一つの展覧会では異例の3回連続特集!
大竹伸朗について、今までほとんど知らなかったROCKHURRAH RECORDSは、今回の展覧会に感銘を受けたんだよね。
3回目は絵画作品と音楽について書いていきたいと思う。
音楽のほうはROCKHURRAHに担当してもらうことにして、まずはスクラップ・ブックから。

よくもここまで!と驚くほど大量のスクラップ・ブックが展示されている。
気になった画像や漫画、商品パッケージなど、ありとあらゆる物が雑多に貼り付けられいる。
既成の画像に色を塗ったりして、「レディ・メイド」になっている部分もある。
どれだけの年月をかけて収集されてきたんだろう。
スクラップ・ブックの各ページには、大竹伸朗の思い出があるんだろうね。
画像収集で思い出すのは、同じように大量のスクラップ・ブックを作成している、みうらじゅん!
みうらじゅんは大竹伸朗より3つ年下だけど、ボブ・ディラン好きなども共通しているよね。(笑)

整然と陳列されたスクラップ・ブック。
すべてをじっくり鑑賞したい欲求に駆られるけれど、そこまで時間もないし、後ろから他のお客さんも来るし。(笑)
ミュージアム・ショップで「スクラップ・ブック見開選」という、ミニチュアが販売されていて心が揺れる。
お値段19,800円!
気軽には手が出せない金額なので、断念したよ。

「Wallpaper」と題された1978-79年の作品は、まるでアンディ・ウォーホルのパロディみたいじゃない?
シルクスクリーンで作られてるから余計にそう感じるのかも。
正方形なので、もしかしたらレコード・ジャケットだった可能性もあるよね。
奇抜な色彩が印象に残ったよ。

SNAKEPIPE MUSEUMに所蔵したいと思った作品!
「網膜(落下する銀の記憶)」というタイトルも素晴らしい。
シルバー色が大好きなSNAKEPIPEは、光を反射して白く輝く銀色に強く惹かれたよ。
見た瞬間から好き!(笑)
近づいて観ると、たくさんの写真や素材が貼り付けられているんだよね。
何度も塗ったり貼ったりする細かい作業を繰り返して完成していることが分かるよ。
似た雰囲気の作品が他にもあったけど、SNAKEPIPEの一番はこれ!(笑)

「室内」と題された2作品は、まるで映画の一コマのようなストーリー性があるよね。
どちらもサスペンス仕立てで、不穏な空気が流れている。
市松模様の床は「イレイザー・ヘッド」、赤いカーテンは「ツイン・ピークス」を思い出すよね!(笑)

最後に登場したのが、NHKで放映された「21世紀のBUG男 画家・大竹伸朗」の中で制作していた「残景0」で2022年の作品。
「最終的にどうなるか分からない」と話しながら、メチャクチャに様々な素材を貼り付けたり、塗ったり垂らしたりしていたよ。
なんでも素材になるから捨てられないと話しながら、「私も物が捨てられなくて」という人とは違う、ときっぱり言い放つ。
製作途中を見ているため、最終的にはこの作品になったんだ、と妙に感慨深くなったよ。
重厚で存在感があって、カッコ良かった!
続いては音楽についてROCKHURRAHに書いてもらおう。
久しぶりの登場だね!(笑)

以下、ROCKHURRAH WROTE:

大竹伸朗は美術の世界で知られるようになる前、70年代後半から音楽の活動を始めていて、19/JUKEというバンドでレコードも出していた。
Wikipediaによるとブライアン・イーノがプロデュースした「No New York」というコンピーレーション・アルバムの影響を受けていたようだ。
1978年というとイギリスではパンク、初期ニュー・ウェイブ真っ只中だったが、アメリカの方ではすでにパンク以降のムーブメントが来ていて、そのひとつがノー・ウェイブと呼ばれるノイズや不協和音、金切り声などが支配する暴力的なパンクの一種。
「No New York」はジェームス・チャンス&コントーションズやアート・リンゼイ率いるDNA、リディア・ランチのティーンエイジ・ジーザス&ジャークス、マーズの4バンドが参加していた。
まさにノー・ウェイブの代名詞と言われるバンドが収録された、その筋の人たちには伝説的な名盤と言われるレコードだったな。
歌詞カードだったかクレジットだったか、スリーブ(内袋)の裏側に印刷されていて、破くか切らないと見えないという現代アートっぽいものだったが、雑誌の袋とじヌードの元祖とも言えるな。

19/JUKEが最初のレコードを自主制作で出したのが1980年、それの製作期間が何日だったのか何ヶ月だったのかは不明だが、「No New York」をリアルタイムで聴いて影響を受けたとしても、驚くべき早さで自己流の音響工作を作品化したと思える。
あまり大した資料ではないがROCKHURRAHが持っていた音楽雑誌「DOLL」の自主制作盤リストに19/JUKEも載っていたので写真を撮ってみたよ。

バンド結成前に渡英してラッセル・ミルズと交流していたという話をNHKのTV番組で見て、ROCKHURRAHはいきなり知った名前が出てきたのでビックリしたもんだ。
大好きだったバンド、スキッズの1stアルバムやシングル「Animation」のジャケットを手掛けていたので、その当時からROCKHURRAHはラッセル・ミルズを知っていたのだ。
このジャケットを見てもそういうアーティストだとは思わなかったけど、スキッズのベスト盤「Fanfare」や他にもジャパンやデヴィッド・シルヴィアン、ブライアン・イーノ、ワイヤー、BCギルバート&Gルイス(DOME)、ヤズー、ミニマル・コンパクト、ナイン・インチ・ネイルズなどなど、数多くのレコード・ジャケットを手掛けたことで知られている。
独特の鉱物的な色彩と質感を持った作品が多いね。
まだ無名の青年だった大竹伸朗はラッセル・ミルズとコンタクトを取り、言葉の壁を超えて親交を深めたというからすごい行動力、コミュニケーション能力に脱帽するよ。

その関係でなのか、元ワイヤーのブルース・ギルバート&グラハム・ルイスがやっていたDOMEというユニット+ラッセル・ミルズによるパフォーマンスにShinro Ohtake as the Blind Calligrapher、海外の記事では「日本人の助手」として参加している。
1980年のイギリスでDAFやワイヤーの半分と同じステージに立っていた日本人なんて、羨ましい限り。

大竹伸朗展の資料を読むと、19/JUKEを始めた頃に影響を受けたミュージシャンとしてディス・ヒートやペル・ユビュ、初期のDAFなども挙げられてて、この辺はROCKHURRAHも大いに通じるところがある。
ROCKHURRAH RECORDSが大ファンのミステリー作家、鳥飼否宇先生も同じ時代に同じようなものを聴いて好みが似ているので、ぜひ対談(音楽談義)していただきたいものだ。

そういうロンドンでのパフォーマンス体験を刺激として、帰国後に始めたのが19/JUKEというわけかな。
ノイズ、ジャンク系の音楽の大半が制作過程の種明かし、つまりどうやって音楽を作り上げてゆくのか不明の工程を経て作品を作り出しているんだが、これもまた大竹伸朗の絵画作品と同じように、乱雑で粗暴かと思えば細やかな神経の行き届いた偏執狂的な傑作。
A面B面合わせて45曲も収録された音の細切れのようなアルバムはアイデアの断片や様々な歌、コラージュのような音の積み重ねがうまい具合にカットバックしてきて、飽きさせないところが才能だと個人的には思うよ。
4人のメンバーによる実験音楽というから、大竹伸朗が一人で作ったわけではなくセッションやインプロビゼーションの要素が強いものだろうが、偶然出てきた音に面白みを感じて出来上がる過程(聴衆にはわからない部分)こそが興味深い。

何がノイズでノイズじゃないか人によって基準は様々だけど、ノイズ=耳障りな音だとすれば多数の人々から嫌われている。
そんな、聴衆を全く無視して作った退屈なノイズ・ミュージックが世の中にはたくさんあったが、19/JUKEはそういうのとは明らかに違うと感じた。
「うまくあるな きれいであるな 心地よくあるな」とはTAROMAN岡本太郎の言葉だが、まさにその心意気。
ノイズを作ろうとした結果じゃなく、ペインティングで色を重ねていったり異物を貼り付けていったり、スクラップ・ブックを作る時と同じような感覚なんだろうな。
うーむ、久しぶりに登場した割には歯切れの悪いコメントでありきたり。

パズル・パンクスは1996年頃にやっていた元ハナタラシ、ボアダムスの山塚アイ(ヤマタカEYE)と大竹伸朗によるユニットらしいが、この辺になると初期パンクや80年代のニュー・ウェイブばかりしか語らないROCKHURRAHにはコメントし辛いものがあるな。
音の方はその二人の音楽経歴を知る人には想像出来る範囲のもので、この時代になると目新しくはないのは承知の助。

目新しいとすればそのバックバンドという位置付けなのかどうかわからないが、ダブ平&ニューシャネルという遠隔操作の無人バンドによるライブ・パフォーマンスだろう。
ギターやベース、ドラムといった楽器に何やらモーターのようなもので動くアームを取り付けて物理的に演奏をするという、今どきのテクノロジーとは逆行するような昭和の臭いがプンプンするもので、そういうからくりやガラクタを知っている世代には受ける、面白いもの。
大昔、10ccのゴドレイ&クレームが作ったギターに取り付けるアタッチメント、ギズモというものがあったが、ダブ平&ニューシャネルはそれをもっと大掛かりに見世物小屋っぽく作ったところが大竹伸朗の面目躍如だね。

これは現在ではなく2006年に木場の現代美術館でやった「大竹伸朗 全景 1955-2006」の時の映像だと思うが、ご本人が実際にダブ平たちを操っている姿があって「おっさんが大真面目にバカバカしいことをやる」ということが大好きなROCKHURRAHとSNAKEPIPEにはすごく良くわかるシロモノ。
やっぱり大竹伸朗、素晴らしい。
ではROCKHURRAH、ここまで。

3回に渡って特集した「大竹伸朗展」、本当はまだ書き足りない気分だけど、ここで終わりにしよう。
大学を休学し、英語もできないのに22歳でロンドンに行く勇気。
「見る前に跳べ」のように、強いパッションだけで行動できる人なんだよね。
「BUG男」の命名者である藤原新也も同類と言えるはず。
その熱量は45年経った今も変わっていなくて、圧倒的なパワーを見せつけられたよ。
名前だけは以前から見聞きしていたけれど、大竹伸朗展で全貌を知ることができた。
エネルギーを分けてもらった気分。
鑑賞できて本当に良かった!(笑)

大竹伸朗展 鑑賞 #2

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【「東京-京都スクラップ・イメージ」の部分。細かく描きこまれてるね!】

SNAKEPIPE WROTE:

先週に引き続き「大竹伸朗展」の感想をまとめていこう。

立体作品「モンシェリー」を抜けると、壁一面に作品が展示されている。
大型作品「東京-京都スクラップ・イメージ」は、どこからどこまでが範囲なんだろうね?(笑)
一番左は、観れば観るほど細かい部分が気になってくる作品。
フォト・コラージュの上に更に描きこまれていて、楽しい発見をすると笑いがこみ上げてくる。
ちょっと不気味な写真やピカソの顔も見つけたよ!(笑)

写真が貼り付けられているように見えるのに、描かれている部分もあって、2014年3月「驚くべきリアル」で鑑賞したエンリケ・マルティを思い出す。
小さめの作品が寄せ集められていて、じっくり観るほどに面白さを感じるところに共通点があるかも。
右上の滝は横尾忠則、右下はゲルハルト・リヒターのパロディのように見えてしまうね。

横尾忠則の「赤い絵画」シリーズのパロディなのか、「青い絵画」シリーズが続く。
これを観た瞬間に大笑いしたSNAKEPIPEは、傍から見れば変な人だよ。(笑)
大竹伸朗が横尾忠則を意識していたかどうかは不明だけど、作品を観て笑う経験はあまりないよね。
貴重な体験をさせてもらったよ。(笑)

「エコー・オブ・サンダー」は、まるで祭壇のように見える荘厳さだった。
いくつかのパーツが組み合わされているため、太めの十字架みたいなフォルムだからかも。
意味が分からないけれど、なんだか重要そうなモチーフが興味深いね。
もう少し暗い場所に配置されたほうが似合ったような?
ROCKHURRAHも気に入ったと言っていたよ!

「pond II」は、もしかしたらデヴィッド・ホックニーへのオマージュかなと思ったSNAKEPIPE。
先週書いた年表の中に、大竹伸朗がデヴィッド・ホックニーのスタジオに通っていた件があったし。
ホックニーといえばプール、そしてプールサイドに立っている人物を描いた絵が有名だよね。
タイトルは「池」で、水着姿の女性の時間差肖像が描かれているので、全く同じ主題ではないけれど、観た瞬間に感じたよ。
女性のバックが黒なのに対して、池は明るい対比が想像力をかき立てるね。

作品のタイトルは「Explorer」だって。
ドラキュラが入っているような形の棺に、縛られた状態の人物が恐怖の表情を浮かべている。
どんな状況なのか分からないけれど、ホラーな雰囲気なのは間違いないね。
タイトルを意訳すると「探索する」や「詳しく調べる」なので、そこからも意図を汲むことは難しそう。
先週のフランケンシュタインもそうだけど、大竹伸朗はホラーが好きなのかもね?

「モンシェリー」に引き続き、昭和な香りがプンプンする「ニューシャネル」!
極彩色の光が反射するミラーボール、化繊素材のスケスケな下着やドレス、キツいパーマをあてたホステスさんなど、60年代後半から70年代のイメージが頭をよぎる。
以前さびれた温泉街で「トレンディ」という名前の喫茶店に遭遇した時にも、似た感覚があったっけ。(笑)
この作品は、70年代の空気を知っている、ある程度年齢を重ねた人に理解されやすいんじゃないかな?
SNAKEPIPEも、おもわず「ニューシャネル」のロゴが入ったトートバッグを購入してしまったよ!

露光に失敗したポラロイド写真を素材にした「網膜シリーズ」。
大竹伸朗も横尾忠則のように夢日記をつけているという。
夢なのか真実なのか、そんな曖昧な領域が表現されているような作品群が素晴らしかった。
おぼろげな形、うっすらとした影にSNAKEPIPEが魅力を感じるようになったのは、マーク・ロスコやリヒターなどの抽象絵画が好きになってからかもしれない。
大竹伸朗が色々な実験をしていて、益々興味が湧くよ。

「網膜(左眼)」と「網膜(右眼)」という高さが3mを超える大型作品。
まるでどす黒い血が飛び散っているような色合い。
真ん中には大量の写真が連なっている。
目を閉じた時、脳の記録装置からフラッシュバックされる、かつて自分が見た光景という解釈になるのかな。
圧倒的な存在感で引き込まれたよ!
SNAKEPIPE MUSEUMに展示したい作品だね!

大竹伸朗展、第2回目はここまで。
素晴らしい作品が多すぎて、厳選できないんだよね。
次週の続きを待て!(笑)

大竹伸朗展 鑑賞 #1

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【大竹伸朗展の看板と宇和島駅ネオンサインのコラボ】

SNAKEPIPE WROTE:

ROCKHURRAH RECORDSでは、面白そうな番組をROCKHURRAHがピックアップし、録画予約してくれる。
SNAKEPIPEは録画された番組を観るまで、一体何がセレクトされたのかを知らない。
今から約半年前、2022年6月のある夕食時、録画一覧からROCKHURRAHが選んだのが、NHKBSで放映された「21世紀のBUG男 画家・大竹伸朗」だった。
大竹伸朗って名前だけは以前から知っているけれど、作品については覚えがないかも。
東京都現代美術館のミュージアム・ショップにもグッズが置いてあるのは横目で見ていたけれど。

番組を観ていると、大竹伸朗について語る人物の中に藤原新也が登場する。
そして番組タイトルになっている「BUG男」、と発言していたよ。
命名者は藤原新也だったんだね!
大竹伸朗の作品を80年代から観ていたらしい。

そして大竹伸朗本人がインタビューに答えるシーンに、ROCKHURRAHと共に目が釘付けになる。
とてもアーティストには思えないような喋り方!
話し方も話す内容も面白くて、一瞬でファンになってしまった。(笑)
そして話しながら、作品制作を続ける。
何も考えず、無作為で投げやりに見えてしまうような制作状況が映し出される。
一体どんなアート作品を作っているのか、非常に気になった。
いつか大竹伸朗展、観てみたいなと思っていた矢先、展覧会情報が入る。
それは2022年7月に鑑賞した「ゲルハルト・リヒター展」で手にしたチラシだった。
11月1日から大竹伸朗展と知り、狂喜するROCKHURRAHとSNAKEPIPE!
NHKBSの番組中制作していた作品がチラシに使用されているよ。
リヒターの次に大竹伸朗を企画するとは、東京国立近代美術館もやるねえ!(笑)

ここで簡単に大竹伸朗の略歴を調べておこう。

1955 東京都目黒区に生まれる
1974 武蔵野美術大学造形学部油絵学科入学。
入学後すぐに休学し、北海道の牧場で働く
1975 東京に戻り復学する
1977 大学を休学し、ロンドンに滞在する。
ラッセル・ミルズ、デヴィッド・ホックニーと親交する
1978 帰国し、復学する。
音楽活動を始める。
1980 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。
再びロンドンに滞在し、デヴィッド・ホックニーのスタジオに通う。
ノイズ・ユニット「JUKE/19.」結成。
1981 「JUKE/19.」としてシングル1枚、アルバム2枚を発表。
1982 東京ギャルリーワタリにて初個展開催
1983 ニューヨーク、香港、ロンドン、ナイロビなどに滞在
1988 妻の実家が所有している、愛媛県宇和島市にある倉庫をアトリエとして使う
1989 前年に開催された個展「キャンヴァシズム 夢と細胞」のカタログが、ニューヨークのADC第3回国際展で優秀賞を受賞

「21世紀のBUG男」の番組内で、大竹伸朗自身が生い立ちから現在に至るまでの思い出話を語っていたので、番組を観た人は分かる略歴だよね。
東京藝術大学に入りたかったのに不合格となり、不本意ながらムサビに入学。
休学して北海道やロンドンに行く話も番組内で聞いている。
1977年にロンドンにいたということは、パンクの始まりを目撃していたかもしれないんだよね!
これはとても羨ましい。(笑)
そして奥様と結婚した時の話にも大笑いしてしまった。
小銭しか持ってない男って、まるでベルベット・アンダー・グラウンドの「I’m Waiting for the Man」に出てくる歌詞みたいだよね。

大竹伸朗展は11月1日から始まっていたけれど、混雑を警戒し、少し時期をズラして鑑賞することにする。
そして1ヶ月経った風の冷たい日、リヒター展以来約5ヶ月ぶりに竹橋に向かったのである。
予想通り、恐らく大竹伸朗展は一段落ついたようで、お客さんはそこまで多くない。
一人で鑑賞している人が半数近くいたので、話し声が気になったり、人の頭で作品が観辛いこともなくスムーズだったのは良かったよ!

今回の展覧会は東京で開催される個展としては16年ぶりとのこと。
そのため展示されている作品数は500点だという。
大竹伸朗の個展はもちろん、作品に触れるのも初めてのROCKHURRAH RECORDS。
今回の展覧会についての感想を一度のブログにまとめるのは難しいと判断したので、複数回に分けていこうと思う。
まずは一回目、会場入ってすぐのエリアから順に紹介していこう。

「いらっしゃい」とばかりに出迎えてくれたのは、立体作品「男」だった。
この時には何者なのか分からなかったけれど、どうやらボブ・ディランがモデルみたいだね。
作成されたのは1975年というので、大竹伸朗が20歳の時。
当時はボブ・ディランを聴いていたのかもしれないね?
一番右に配置されているのが、奥様を描いた作品。
今の俺があるのはミチコのおかげ、って言ってたっけ。

フランケンシュタインにROCKHURRAHが反応する。
大のホラー好きだからね!(笑)
初期の作品かと思いきや、図録で確認すると2000年の制作だという。
上段左から2番目は「静物、マティスにならって」というパロディ物!
次週以降に紹介する予定の作品にも、パロディが多く含まれているんだよね。
大竹伸朗が様々な先人達の作品に触れていた形跡が確認できるよ。

「紅茶を運ぶ黄色い天使」と題された1982年の作品。
ヒョウ柄のファーがキャンバスに貼り付けられているところに、白髪一雄の影響を感じたのはSNAKEPIPEだけかな?
そしてそのファーに温泉マークのような湯気が、まるでいたずらのように書かれている。
これが紅茶なんだろうね?(笑)
赤、青、黄色という原色を使用した、不思議な作品。

年表にあった、ムサビを休学して北海道やロンドンに向かった時のスナップ写真が展示されていた。
何気なく撮影されたんだろうけど、やっぱりさすがなんだよね。(笑)
ガラスケースに平置きされていたので、じっくり鑑賞できなかったのが残念だったけれど、図録に載っていて良かったよ。
アーティストは、どんな手段であっても表現できるんだなと改めて感じる。

「残景 14」は、2020年の作品。
今から2年前というと、最近制作されたんだね。
平らだったキャンバスに、今となっては何が貼り付けられているのか不明なほど、厚みがある。
古くて錆びた機械のようにも見える。
SNAKEPIPEは、この色合いが大好き!
意味とか解釈を抜きにして、飾っておきたくなる作品だよ。

今回紹介している作品の中で、SNAKEPIPEが一番気に入ったのはこれ。
幅386mmという大型作品である「サンティアーゴ」は1986年の制作だという。
細かく描きこまれているので、じっくり鑑賞していると様々なモチーフに気付くんだよね。
この画像では分かり辛いけれど、左下方に「DADA」の文字があったり、中央下方にある枠組みだけでできた立方体はゲルハルト・リヒターの作品に似ていたり。
観れば観るほど、新しい発見があって嬉しくなったよ!(笑)

「ナイロビ II」はキャンバスを分割した構成になっている。
1984年の制作だというので、1983年にナイロビを旅した後に描かれていることが分かるよ。
青い扉部分は木材を使用し、立体的に作られていて、多様な素材を貼り付けていくスタイルの原型のように感じられた。
色合いの美しさと構図の面白さが際立った作品だね!

大量の釘が刺さった作品を最初に観た時、強いインパクトを感じたSNAKEPIPE。
巡礼だったり犠牲だったりというような、宗教的な意味か、もしくは強制的に連行された過去を嘆く心を表現しているのかと想像する。
ただ大竹伸朗の、ここまで観てきた作品とは違い、メッセージ性の強さがあるんだよね。
タイトルの「Nail Fetish」を検索すると「Nkondi(ンコンディ)」という言葉が出てくる。
どうやらコンゴ族によって作られた、釘がたくさん刺さった小像のことだという。
村や他の場所を魔女や悪者から守ったりするために使用されたらしい。
元になっているコンゴ族のンコンディ、画像で観ただけでも迫力あるよ。
恐らくその像にインスパイアされた作品なんだろうね。

大竹伸朗展のブログ、第一回目の最後は、2012年の「モンシェリー/自画像としてのスクラップ小屋」。
スクラップというだけあって、小屋の中は雑多な物で溢れていた。
何か音が鳴っていたようだったよ。
「モンシェリー」という看板が掲げられている小屋であれば、壁に何が貼られていても、小屋の内部に何が置かれていても良い仕様なんだろうね。
昭和な雰囲気を感じた作品だったよ!

大竹伸朗展は、すべての作品の撮影オッケー!
SNAKEPIPEもROCKHURRAHも撮りまくり、帰りにはスマートフォンの電池残量が危なくなるほどだったよ。(笑)
次週の続きをお楽しみに!

高木由利子 カオスコスモス 壱 氷結過程 鑑賞

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【ジャイル・ギャラリーの入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

表参道のジャイル・ギャラリーで開催されている「高木由利子写真展 カオスコスモス 壱 氷結過程」が非常に気になったSNAKEPIPE。
友人Mを誘って行ってみることにする。

高木由利子ってどこかで聞いたことあるような?
自宅にある写真集などをひっくり返してみると、1990年6月に発行された「NHK趣味百科 近未来写真術」に名前があるじゃないの!
この雑誌については2021年11月に鑑賞した「M式『海の幸』ー森村泰昌 ワタシガタリの神話」の中でも書いていたっけ。
この時掲載された高木由利子の作品は「ラフたち」という外国人をモデルにしたファッション・フォトのような作り込み写真だよ。
高木由利子とは、どんな人物なのか調べてみよう。

1951 東京生まれ
1969 武蔵野美術大学商業デザイン科に入学
1972 ポルトガルに渡る
1973 イギリスのTrent Polytechnicにてファッションデザインを学ぶ
1976 フリーランスのファッションデザイナーとして、8年間ロンドン、パリを中心に、モロッコ、イタリアなどを飛び回る。
モロッコにて写真に興味をもちはじめる
1985 現代アーティスト、クリストの作品Surrounding Island(Miami)などの撮影に参加。
ロンドン、パリ、インドネシア、東京にて、アーティストである友人や親しい人々のヌードを、彼らの生活空間で撮影しはじめる。
1990 オリエンタリズムのプロジェクトで東京をはじめとしてバルセロナ、イスタンブール、ロンドン、パリへの撮影旅行をする
1993-1996 ケニア、タイ、トルコ、インド撮影旅行
1996 三宅一生のプリーツ100着をインドに持ち込み2ヶ月間に渡り撮影する
1997-1999 三宅一生のプリーツ100着をKENYA、中国、モロッコに持ち込み撮影旅行をする。

ヨーガン・レールのテキスタイルを、日本、インドネシアで1年間かけて撮りおろし、作品集「ころも」が出版される。
1998-2006 「混乱する引力」ヌードのプロジェクトを、インドネシア、ハワイ島、南米、南アフリカ、日本、中国、インドで行う。

1951年生まれということは、今年71歳!
ムサビ入学後にロンドンでデザインを勉強し、デザイナーとして海外で活動していたとは驚き!
ファッションと写真が結びついた作品を作っているのは納得だよね。
SNAKEPIPEが所持している雑誌に載っているのもヌードなので、ジャイル・ギャラリーで展示されている作品とは雰囲気が全然違うよ。

では今回の展覧会をまとめてみよう。
ジャイル・ギャラリーは撮影オッケーなので嬉しいね!
撮影した写真と共に感想を書いていこうか。

「始まり」と題された作品からスタート。
高木由利子本人の文章が載っているんだけど、どうやら寒冷地で氷を作ったらしい。
「始まり」は四角い箱のような氷の中に、凍った葉(のように見える)が入っている作品。
凍っていても、葉は生きているんだろうね。
これこそ生命力!
だから始まりなのか!(陳腐)

「地上絵」と第された横幅420cmの大型作品。
年表の中に現代アーティスト、クリストの名前があったよね?
クリストの作品は、島をまるごとラッピングするような環境アートなので、俯瞰で撮影された画像で作品を知ることになる。
地上絵も同様に、遥か上空からでないと作品の全貌を知ることが出来ない点が共通してるよね。
「地上絵」のお値段、500万円だって!
オシャレなビルに飾ってあったら、より高級感が増しそう。

次の会場に入った瞬間、友人Mと同時に声がでる。
「カッコいいーーー!」
「標本箱」と第された作品群が並んでいる。
写真なのにアブストラクト、しかもモノクロームというのが斬新で。
氷の形状に加え、氷に当たる光の反射が漆黒に近い黒色に映える。
額縁もオシャレで、「標本箱」シリーズ全体をSNAKEPIPE MUSEUMに保管したくなるね。

「標本箱」全体を写したところ。
壁一面に横幅150cmの大型写真が展示され、下には高さがマチマチの立方体の上に幅38cmの小型写真が配置されている。
なんともいえない重厚さ!
大型2枚と小型3枚だとバランス良いかも。
このセットだと約200万円!(笑)
額縁も素敵だったので、全部合わせて欲しくなったよ!

「脳内過程」というタイトルのリトグラフ作品もあった。
恐らく同一図版を使用した作品に見えたけど、黒色の濃淡で印象が全く違って面白かった。
こうして並べて見せるのが良いんだろうね。
写真製版を外国人から提案された、といった文章が展示されていたよ。
高木由利子は国際派だから、様々な国の人と交流があるんだろうね。

アクリルで作られているような月に見える球体。
この素材を使って写真撮影していたんだろうね。
横から見ると、球体だと思っていた形が平面に見えてくる。
不思議な造形だよね!
先日の皆既月食に限らず、月を見上げるのが好きなSNAKEPIPEにとっては、この立体は垂涎物!
これが部屋にあったら、ずっと眺めているだろうなあ。(笑)

「すごく良かったね」と感想を言いながら、ギャラリーをあとにする。
MOMAショップをうろついて、面白い箸置きを興奮気味に買ってからエスカレーターに向かう。
吹き抜け部分に高木由利子の作品が吊るされていた。
上を見上げるように撮影。
だってほら、月は見上げるものでしょ?(笑)

観念的で難解な解説を好むジャイル・ギャラリーだけど、好みの展示が多いんだよね。
マメにチェックして、また出かけよう!