好き好きアーツ!#21 DAVID LYNCH—Mulholland Drive

【マルホランド・ドライブのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

SNAKEPIPEは毎日夢を見る。
そして夢を断片的にでも朝まで覚えている。
一体どこからの発想なのかも分からないほど奇想天外なストーリーや意味不明の単語まで登場して、翌日ROCKHURRAHに聞いてもらう度に不思議がられるのだ。
「夢日記を付けてみたら?」
と何度も勧められている程、ユニークな夢が多いようだ。
通常の場合、自分の夢は人に話しても退屈させるだけだと思うけれど、ROCKHURRAHが面白がってくれるので、ちょっといい気になってしまうね。(笑)

今回の「好き好きアーツ!」はデヴィッド・リンチ監督迷宮系3部作(?)の第2弾として「マルホランド・ドライブ」を特集してみたいと思う。
どうして冒頭にSNAKEPIPEの夢について語ったのか。
それはいずれ明らかになるであろう!(予言)

「マルホランド・ドライブ」(原題:Mulholland Drive)は2001年に制作されたシュール・ネオ・ノワール映画と書かれているね。
誰がこんな言葉を考えたんだろうか。(笑)
サイコロジカル・スリラーという分類もされているらしい。
文章だけ読んでいるとサッパリ訳が分からなくなりそう!
「マルホランド・ドライブ」の前のリンチの作品は「ストレイト・ストーリー」という、感動で涙が溢るヒューマンドラマで、配給会社がなんとディズニー(!)だったんだよね。
リンチがディズニー?とびっくりしたのは1999年のこと。
リンチアンなので当然のように「ストレイト・ストーリー」は劇場で観たけれど、
「リンチ、大丈夫かな?もうこっちには戻らないんじゃ…」
と不安を感じていたところに次回作として発表されたのが「マルホランド・ドライブ」だったのである。
恐らく同じように危惧していたファンはたくさんいただろうなあ。
「マルホランド・ドライブ」を鑑賞し終わって、ホッと一安心。
やっぱりリンチはリンチ、だったんだよね。(笑)

では早速「マルホランド・ドライブ」について書き進めてみようか。
「マルホランド・ドライブ」は時系列に物語が進行しないし、同じようなシーンがまた別のシチュエーションで登場したり、同じセリフが複数の人物によって語られたりする、いくつものエピソードで構成されている映画である。
そのためさっぱり意味が分からないと思う人が多いだろうし、SNAKEPIPEも実際に映画館で一番初めに鑑賞した時には首をかしげてしまった。
個人個人の好きな感じ方で良いと思っているから、謎解きをしようとは思わないので、それらを期待して読んでいる方を裏切ってしまうだろうね。(笑)

リンチによって提示された10のヒントがあるので、参考までにご紹介しようか。

  • 1
  • Pay particular attention in the beginning of the film: At least two clues are revealed before the credits.
    映画の冒頭に、特に注意を払うように。
    少なくとも2つの手がかりが、クレジットの前に現れている。
  • 2
  • Notice appearances of the red lampshade.
    赤いランプに注目せよ。
  • 3
  • Can you hear the title of the film that Adam Kesher is auditioning actresses for? Is it mentioned again?
    アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは?
    そのタイトルは再度誰かが言及するか?
  • 4
  • An accident is a terrible event — notice the location of the accident.
    事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ。
  • 5
  • Who gives a key, and why?
    誰が鍵をくれたのか? なぜ?
  • 6
  • Notice the robe, the ashtray, the coffee cup.
    バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ。
  • 7
  • What is felt, realized and gathered at the Club Silencio?
    クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?
  • 8
  • Did talent alone help Camilla?
    カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?
  • 9
  • Note the occurrences surrounding the man behind Winkie’s.
    Winkiesの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ。
  • 10
  • Where is Aunt Ruth?
    ルース叔母さんはどこにいる?

これらのヒントに即答できるのは、「マルホランド・ドライブ」を何回も鑑賞されている方だろうね。
そして当然ながら熱狂的なリンチアンだと思う。
SNAKEPIPEは2つ、すぐに答えられない問いがあるけれど、あまり気にしないな。
このヒントによって謎解きができるとも思えないしね。(笑)
ではあらすじに感想を加えながら書いていこう。
※毎度のことながらネタバレしていると思いますので、鑑賞前の方はご注意下さい。

男性2人と共に車に乗っていた黒髪の女性は、突然同乗者からピストルを向けられ、殺されそうになったところを前方からの暴走車両の激突により命を救われる。
同乗者の男性2名は即死だったようで、生き残っていたのは黒髪の女性だけ。
足がカクカク、フラフラしながらも逃げる。
旅行に出かけるため家を留守にするという女性の空き家に侵入することに成功。 その家で身を隠すことにする。

ここで突然場所が変わる。
ウィンキーズというダイナーで自分が見た夢について語る男と聞く男。
この男2人の関係については謎。
語っている男(写真上)の顔がものすごくインパクトあるんだよね!
眉の太さ、額の狭さ、笑っても全然笑ってない目とか全てがヘン!
きっとリンチはこの役者の顔が気に入ってキャスティングしたに違いない。(笑)
夢を見た男は、その夢が悪夢だったので正夢ではないことを確かめたいと言う。
見た夢に沿って行動する2人。
すると夢は正夢で、悪夢通りウィンキーズ裏手には「恐ろしい顔」の男がいた!
それを目にした途端、夢を見た男は恐怖のあまりに失神してしまう。

空き家で眠り続ける黒髪の女。
「女はまだ見つからないのか?」
謎の人物から人物へ、謎の通話が数回繰り返される。
どうやら黒髪の女性の行方を追っているようだ。
この一連の通話の中で、一番の大物だと思われるのが上の写真の人物!
そうです!「ツイン・ピークス」ファンなら誰もが知っている、あのダンスする小人であるマイケル・J・アンダーソンの登場!
リンチがずっと映画化しようと進めてきたプロジェクトである「ロニーロケット」でも アンダーソンを起用する予定だった話をどこかで読んだことがあるよ。
「ツイン・ピークス」以外でも是非出演してもらいたいって思ったんだろうねえ。

女優を夢見てハリウッドを目指してきたベティ。
隣にいる白髪の女性はたまたま飛行機で乗り合わせて意気投合した人。
ベティは叔母が留守にしている間、叔母の家で居候することになっている。
しかしそこには、自動車事故に遭い、こっそり侵入した黒髪の女性がいた!
てっきり叔母の知り合いだと勘違いしたベティは、何者かも分からない黒髪の女性を歓迎する。
名前を尋ねると「リタ」と答える黒髪の女性。
たまたま壁に貼ってあったリタ・ヘイワースのポスターから借用した名前だ。
具合が悪そうにしたリタをベッドに眠らせるベティ。

場面が変わり、ライアン・エンターテイメントのビルの一室。
監督やプロデューサーらが映画の打ち合わせを行なっている。
そこに後から登場するのがカスティリアーニ兄弟という映画界の黒幕。
この兄弟は「This is the girl」(まさにこの子だ!)とカミーラ・ローズという女優を推薦するために会合に来たのである。
「This is the girl」とフレーズが似ている「This is it」は、「ブルーベルベット」の中に出てきた店の名前だったなあ。
このフレーズがリンチの好みなんだろうね。(笑)

エスプレッソを注文した兄弟のうちの一人。
エスプレッソが気に入らなかったらしく、白いナプキンに含んだコーヒーをケローンと吐き出してしまう。
おや?なんとこのおかしな役を演じているのは、リンチ作品には欠かせない作曲家のアンジェロ・バダラメンティじゃないの!(笑)
セリフはほとんどなかったけれど、非常に印象的なおいしい役どころ!
役者としても活躍していたとは驚きだね。 (笑)

監督にはキャスティングの権利が一切なくて、黒幕が暗躍して映画やスターが作られてるんだよ、という業界裏話のような逸話。
このエピソードが、リンチが描きたかった「ハリウッドの闇」の一つなのかもね?

次のエピソードは、ハリウッド有名人の電話番号を記録してあるノートを奪うために、殺人を犯す男の話。
1人だけを殺すはずが、ひょんなことから3人を殺すハメになってしまう。
殺人なのに笑いが出てしまうという、ブラックユーモアに溢れたシーン。
これもリンチ得意の「ハッピー・バイオレンス」なんだろうね。

出張先の叔母と電話をしていたベティは、リタが叔母とは全く関係のない女性だということを知る。
実は事故のために記憶がない、というリタ。
リタのバッグに何かヒントがあるかも、とバッグを開けてみる。
そこにはたくさんの札束と謎の青い鍵が入っていた。
リタが一つだけ思い出した単語は「マルホランド通り」。
恐らくそこに行く途中で事故に遭遇したはずだ、というリタの言葉を確かめるために警察に電話をし、本当にマルホランド通りで事故があったことを知る。
コーヒーを飲みに入ったウィンキーズのウエイトレスの名前から、ダイアン・セルウィンという名前を突然思い出すリタ。
電話帳で調べてみると、ダイアン・セルウィンが実在していることが判明。
もしかしたら記憶を蘇らせる手掛かりになるのでは、とベティとリタはダイアン・セルウィンの住所を訪ねるのである。

映画が自分の思い通りにならないことに怒り狂った監督アダム・ケシャーは、カスティリアーニ兄弟の車をボコボコにした後、自宅へ。
そこで妻の浮気現場を目撃、腕っ節の強い浮気相手に反撃され追い出されてしまう。
いつの間にかクレジットカードは凍結、資産もゼロになっている。

秘書から「カウボーイ」に会うように指示を出され、ビーチウッド・キャニオンという夜中の牧場に会いに行く。
「カウボーイ」は、本当にカウボーイの格好をした謎の人物だった!
ほとんど表情がなく、目に光もなくてまるで蝋人形のような顔立ち。
「マルホランド・ドライブ」は至るところに「ハリウッド映画」へのオマージュが散りばめられているので、もしかしたらこの「カウボーイ」はジョン・ウエインを意図してるのではないかと感じるのはSNAKEPIPEだけかな?
だから死んだような目をして、喋り終わった途端に一瞬で消えたんじゃなかろうか?
カウボーイはみんな同じ格好だからSNAKEPIPEの思い過ごし?(笑)

「カミーラ・ローズを見たら、彼女だ!と言うこと」
カスティリアーニ兄弟の意見が絶対だったようで、従わなければ監督生命も奪われかねないようだ。
それにしても「カウボーイ」のセリフ「人の態度はその人の人生を左右する」はなかなかの名言だよね!(笑)

オーディションに向かうベティ。
これは父親の親友との恋愛を描いた作品で、相手役の俳優が若い女を相手にするためなのか、やる気満々の「いかにも」な男なんだよね。(笑)
それに応え、着衣のままだけれどエロティックな雰囲気を醸し出し迫真の演技をするベティ。
その場にいた人達はすごい新人が現れた、と喜ぶ。

別のスタジオではアダム・ケシャーがカウボーイの指示通りに自身の映画のためのオーディションをしている。
しかし、これは出来レース。

カミーラ・ローズ(写真上)が出てきた瞬間、アダム・ケシャーはまるで自分が決めたかのように
「This is the girl」
と言うのである。
「カウボーイ」の言いつけ通りにしたアダム・ケシャーは、これで安泰といったとことか。(笑)
このアダム・ケシャーのオーディションは、すっかりリンチ・ワールドになっていてフィフティーズ全開なんだよね!(笑)
この時のオーディションの映画のタイトルが、リンチ・ヒントの3番めだよ!

タクシーに乗り、記憶を蘇らせる手掛かりを求めて、ダイアン・セルウィンのアパートに向かうベティとリタ。
アパート周辺にはサングラスをかけた怪しげな人物が何人もいる。
裏口から入り、なんとかダイアン・セルウィンの部屋までたどり着く。
ノックをしても出ないので、窓から侵入してしまう。
部屋の中で見たのは、ダイアン・セルウィンと思われる女性の死体だった!
このシーンはまるでホラー映画みたいで、本当に怖いんだよね。
部屋に入った時から鼻に手をやり、臭いを防ぐような仕草を見せていたので、予想はしていたものの、かなり本格的な死顔メイク(というのか)。
慌てて逃げ出す2人。
その後、身の危険を感じたリタは黒髪を切り、金髪のウィッグで変装するのである。
この後、ベティとリタのラブシーン!
えっ、なんで急にこうなるの?とびっくりな展開に戸惑ってしまうね。(笑)
身の危険を共有したことで、まるで吊り橋効果のように恋愛感情に発展してしまったのかもしれない。

一緒のベッドで手をつないで眠る2人。
リタが寝言で「Silencio」と繰り返す。
これはスペイン語で「お静かに」という意味らしい。
何度も声に出しているので、ベティが起きだす。
「一緒に行ってもらいたいところがあるの。今すぐに!」
急に何かを思い出したようなリタに従い、夜中の2時に2人は揃って「クラブ・シレンシオ」という怪しげな劇場へと向かう。
そこでは「バンドがいない、全てが録音された音」という摩訶不思議なステージが繰り広げられている。

ステージで歌うのはロスアンゼルスの泣き女、レベッカ・デル・リオ
言語はやっぱりスペイン語で、曲のタイトルは「Llorando」という。
迫力満点の見事なアカペラを披露してくれる泣き女。
歌詞がとても重要だと思われるので、字幕から拾って載せてみよう。

しばらくは元気だったの
笑顔でいられたわ
でもゆうべあなたに会ってあなたの声を聞いた時、私は取り乱さなかったわ
だからあなたには分からなかったのね
あなたを慕って泣いていることに
あなたを思って泣いているのよ
あなたはさよならを言って私を置き去りにした
私は一人で泣いている
なぜなのかしら
あなたに会っただけで また私は涙にくれる
あなたを忘れたと思っていたわ
でもこれは本当のこと
以前にも増してあなたを愛してる
でも私に何ができるの
あなたの愛は冷めてしまった
だから私は永遠にあなたを慕って泣き続けるだけ
あなたを思って泣き続けるだけ

なんとも悲痛な心の叫びを表現して、泣き女は失神してしまう。
あれ?映画の中で失神者は2人目だね!
そして録音されているだけあって、失神した後も歌声は続いているよ。(笑)
歌声を聴いていたベティとリタも肩を寄せ合い泣きじゃくっている。
泣き女節が伝染したのか、それとも何か思うところがあるのか?
このシーンがリンチの7番目のヒントの箇所だね。
SNAKEPIPEは前述したように、歌詞がポイントだと思うな!

失神してしまった泣き女を見届け、涙を拭こうとバッグを開けた時、ベティはバッグの中に青い箱を発見する。
リタのバッグに入っていた謎の青い鍵がピタリと符合しそうな、三角形の穴も見える。
きっとこれが鍵穴に違いないね!
自宅に戻り、いよいよ青い箱を鍵で開けようとする時、何故だかベティの姿が見えない。
ドキドキしながら一人で鍵を差し込むリタ。
箱を開けると中には暗闇が広がっている。
その闇に吸い込まれるように画面が黒くなり、次のシーンでは床に転がる青い箱だけが映し出される。
うーん、なんとも暗示的なシーンなんだよね。
ベティがいなくなったこと、青い箱の中身とか、ね。(笑)

青い箱が開いてから、映画は更にショート・シークエンスの連続になってくる。
一応映画の進行通りに書き進めていくけど、文章だけ読むと意味不明かもしれないね。(笑)

赤い髪の女が部屋にいる。
ベティの叔母でカナダに行っていたはずでは?
何もなかったわよね、と室内を点検。
床に転がっていたはずの青い箱は見当たらない。

ダイアン・セルウィンと全く同じポーズでベッドに横になっている黒髪の女性。
「へい、かわい子ちゃん、起きる時間だよ」
ドアを開けて入ってきたのは「カウボーイ」だ。

また同じ姿勢でベッドに横になっている女性。
今度は金髪の女性に変化している。
誰かがドアをノックしている。
起き上がったのはベティだったはずの女性。
訪ねてきたのは部屋を交換した、以前の住人。
金髪の女性がダイアン・セルウィンということになるのかな。
「刑事2人があなたを捜してたわよ」
聞いた途端に動揺するダイアン・セルウィン。
「カミーラ、帰ってきたのね」
リタだったはずの黒髪の女性に笑いかけながら、次第に泣き始める。
ダイアンの妄想とか幻覚が映像化されているようだ。

またしてもカミーラとダイアンのラブシーン。
「もうやめましょう」
カミーラから一方的に別れを切り出されるダイアン。
「原因は彼ね?」
カミーラもダイアンも女優で、カミーラは映画監督のアダム・ケシャーと恋仲になっていたのだった。
この場面は実際にあった記憶だと思われる。

着飾ったダイアンの元にカミーラから電話がある。
カミーラがダイアンをパーティに誘っているようだ。
ここで映画冒頭の車のシーンと全く同じマルホランド通りを走る車の映像。
車に乗っているのはダイアンだ。
途中で迎えに来たカミーラに案内されて向かったのはアダム・ケシャーの家だった。

パーティの席で、映画界で働く叔母の遺産が入ったためカナダの田舎町からハリウッドを夢見て上京したこと、カミーラの口利きで女優を続けていられるという話をするダイアン。
聞いているとかわいそうになってしまうような惨めな状態のダイアンである。
そんなダイアンを横目で見ながら、カミーラは意地悪く他の女とイチャついて見せたり、挙げ句の果てにアダム・ケシャーと結婚することも発表し、ダイアンをイジメ抜くのである。
「カウボーイ」が室内を横切る。
悔し涙を流すダイアン。
そんなダイアンの視線を充分に感じていながらも、カミーラは知らん顔である。
んまあ、なんて嫌な女なんでしょ!
恋人関係にあった相手に対してそこまで意地悪できるとは、相当性格悪いよね。 それでもダイアンは、執着心とか嫉妬心を飼い馴らせなかったみたいね。

場面が変わって、またウィンキーズ店内である。
ダイアンが男に会っている。
これはドジを踏んで3人を殺すハメになった男じゃないか?
「This is the girl」
そう言ってダイアンが男に写真を渡す。
この写真はカミーラだね。
自分を捨てて監督との結婚を決めたカミーラへの復讐として、お金で殺しの依頼をしているようだ。
「片付いたらこの鍵を置く」
男が見せたのは青い鍵!
何の鍵かと尋ねると、男はただ笑うだけである。
またここでも「This is the girl」 という同じセリフが登場し、青い鍵も出てきたね。

赤いライト。
ウィンキーズの裏手だ。
映画の初めに登場した「悪夢を見た男」が遭遇した「恐ろしい顔の男」が青い箱を手に座っている。
「恐ろしい顔の男」が青い箱を袋に入れた後、小さな初老の男女が笑いながら袋から出てくる。
この初老の男女は、ベティが飛行機で乗り合わせた人達じゃないか?

テーブルに乗っている青い鍵。
殺し屋の男の仕事が片付いたのだろうか。
その鍵をじっと見つめるダイアン。
ドアをノックする音。
ドアの隙間から侵入する小さな初老の男女はゲラゲラ笑っている。
笑い声はいつの間にか悲鳴に変わり、ノックの音が強くなってくる。
小さかったはずの初老の男女は、いつの間にか等身大に変化し、笑いながらダイアンを追い回す。
錯乱状態になったダイアンはピストルを自らの口に当て、引き金を引く。
「恐ろしい男の顔」と「クラブ・シレンシオ」のオーバーラップ。
笑い合うベティと金髪のリタが薄ぼんやりと映し出される。
背景はハイウッドの夜景である。
このシーンはダイアンの人生回顧(ライフレビュー)なのではなかろうか。
愛にも夢にも絶望してしまったダイアンの最期である。

クラブ・シレンシオ。
青いライトの中、ステージには誰もいない。
青いライトが徐々に消えていく様子を見やっていた青い髪の観客の女性が一言。
「Silencio」

青い髪の女性は、ベティとリタが「クラブ・シレンシオ」を訪れた時にも座っていたんだよね。
この女性だけが残っていて、更に青い髪、というのもポイントなんだろうな。
「マルホランド・ドライブ」には青色がたくさん出てくるよね。
青い箱、青い鍵、青い髪、青い光。
それらの関係を考えると謎解きになるのかもしれないね?

ひ~!
軽くまとめるつもりがこんなに長くなってしまった!
「マルホランド・ドライブ」は複雑だから簡単に、なんて無理だよね。(笑)
迷宮系3部作の1作目である「ロスト・ハイウェイ」にも出てきた、同じ俳優が演じる複数の役柄というのが「マルホランド・ドライブ」にも採用されているね。
ベティ/ダイアン、リタ/カミーラという2人の女性。
恐らく本当はダイアンとカミーラなんだろうな。
その2人以外にもたくさんの人物の本当の姿が釈然としないよね。
どの時系列が正しいのか、現実にあった事と妄想や夢との違いの分かりにくさに加えて青い箱と鍵やら「クラブ・シレンシオ」のような怪しげな場所が混在しているので、何回観ても難解なんだよね。(ぷっ!)

「マルホランド・ドライブ」の解釈については、様々出ているようだ。
青い箱を開ける前までを前半でダイアンの妄想(もしくは夢)として、箱が開いた後がダイアンの現実とする意見が大多数みたい。
確かに青い箱のシーンから後の部分というのは、細かいエピソードが連続しているので混乱してしまうよね。

時系列に直して鑑賞しても良し。
リンチによって提示されたそのままを、解釈などせずに受け入れるも良し。
SNAKEPIPEは「謎は謎のままで良い」というリンチの言葉通り、後者でいこうと思う。

このブログの冒頭で書いた夢の話の続きを書いてみよう。
夢の中では、テレビでしか見たことがない人と会話していたり、行ったことがない場所にいたりする。
つながるはずのないAとBが混在したり、Cの場所からいきなりDの地点に移動していることもある。
脈略のないストーリーが展開されることも多いよね。
そういった夢ではお馴染みの手法を採用したのが、「マルホランド・ドライブ」なんだろうね。
自分の夢でも整理して説明できないんだから、他人の夢を見させられたら困惑するに違いない。
理不尽で整合性がないのは当たり前!
わからなくたって いいじゃないか ゆめだもの みつを

好き好きアーツ!#20 鳥飼否宇 part5–憑き物–

【いくつかの画像をアレンジして作ってみたよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンの作家、鳥飼否宇先生の「観察者シリーズ」「物の怪」が発売されたのは2011年9月のこと。
興奮しながら読み、拙い感想は「好き好きアーツ!#12 鳥飼否宇 part3 –物の怪–」としてまとめさせて頂いている。
「観察者シリーズ」とは何かということに関しても、説明させて頂いているので、ご存知ない方はご参照下さいませ!
この時にも鳥飼先生から直々にコメントを頂戴してるんだよね。(笑)
鳥飼先生、いつも当ブログを読んで頂きありがとうございます!

待ちに待った「観察者シリーズ」次回作の刊行を知り、早速予約注文をしたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
そして鳥飼先生の最新作「憑き物」は無事に到着!
タイトルのおどろおどろしさが気になるね。
京極夏彦坂東眞砂子の小説にも出てきた題材だけど、まずは初めに≪憑き物≫の意味について調べてみようか。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。
これに取りつかれると,精神に変調をきたすといわれる。
狐憑き・犬神(狗神)憑き。物の怪。(大辞林より)

≪憑き物≫は家系によって起こるとされ、その一家は≪憑き物筋≫と呼ばれたそうだ。
≪憑き物筋≫は憑いた霊を使役し呪う能力があると恐れられ敬遠されながらも、他人に憑いた霊を払い落とすことができるという評判もあり、民間宗教として成立していたという。
「狐憑き」に関する最古の記述が「今昔物語」にあるというから驚いちゃうよね!
憑依する動物はキツネの他にも「人狐(にんこ)」、「クダ」、「ヤコ(野狐)」、「ゲドウ(外道)」、「犬神(狗神)」、「オサキ」、「イヅナ(飯綱)」など、聞いたことがない名前もたくさん登場してバラエティ豊富!(笑)
それらの伝承は日本各地に残っているようだ。

動物霊が憑く以外に、トランス状態に入って「霊」との交信をするシャーマニズムも≪憑き物≫といえるよね。
パッと思いつくのは青森のイタコや、 映画で観たブードゥー教の儀式で卒倒するような憑依シーン、他には映画「エクソシスト」で悪魔に取り憑かれた少女も有名だよね。
死者の言葉や神霊・精霊の代弁者としての役割を果たす霊媒師。
シャーマニズムにも種類がたくさんあって、世界中で行われ認知されている宗教現象ということがわかる。
どのタイプの≪憑き物≫にしても、信じる信じないを個人に託すような、ちょっと胡散臭いオカルト的な存在と言っていいのかもしれない。
付け焼刃で説明文を書いたので、もっと詳しい説明が必要な方は専門書を読んでね。(笑)

調べたら余計におどろおどろしさが増してしまった≪憑き物≫という言葉。
鳥飼先生は一体どんなお話を展開されているんだろう?
さあ、勇気を出してページをめくってみようか。(笑)
「憑き物」は4つの短編で構成されている。
いつもと同じようにそれぞれについて感想を書き進めてみようかな!
※細心の注意を払って書いているつもりですが、万が一ネタバレになるような記載があった場合はお許し下さい。特に未読の方は注意願います。

1:幽き声

植物写真家のネコこと猫田夏海が登場!
なんだか旧友に会ったような気分でホッとしてしまう。
「久しぶり~!元気?」
って感じかな。(笑)
写真好きな女性というだけでもネコとは共通点があるけれど、やっぱりネコも人が多いのが苦手だったとは!
ネコとは仲良くなれると思う。(笑)
そのネコが岩手県の早池峰山に行くところから話が始まる。
山麓最奥部のひっそりとした民宿に泊まり、そこで偶然惨劇に遭遇するのである。
美少女の出現。
地元限定のシャーマニズム。
物理的・地理的な密室状態。
怪しげな要素満載ね。(笑)
事件のあらましについて、神野先輩の店「ネオフォビア」で語るネコの横で話を聞いてきたのが「観察者」(ウォッチャー)鳶さんこと鳶山久志。
読んでいた「逆光」を閉じる、と書いてある。
確か「中空」の時には「重力の虹」だったよね。(笑)

それにしても鳶さん、またネコに厳し過ぎ!
上の画像の動物達についての違いが判る人ってあんまりいないよね?(笑)
鳶さんが羅列した動物達を並べてみたんだけど、顔のアップだけだと余計に難しいかも。
「嘆かわしい」とまで言われてしまって、ネコがかわいそうになってしまう。
生物に関しての妥協は一切許さないけれど、ネコが遭遇した事件に興味を持った鳶さんは、ネコと謎解きの旅に出るのである。
あれよ、あれよという間に謎を解いてしまった鳶さん。
なるほど、そういうことだったのねえ。

年齢を重ねると、聞き分けることのできる周波数に変化が生じることを知ってびっくり!
気付かないうちに蚊に刺されていたのは加齢のせいだったのね。(笑)
大変勉強になりました!

2:呻き淵

中国地方・大山での撮影を終えたネコは、山間部の農村でしばらくオフタイムを過ごすことにした。
たまたま知り合った土地の有力者の家に居候するのである。
仕事のためとはいえ、日本全国を飛び回り、時間的にかなりの余裕のあるネコの暮らしぶりは羨ましいね。
毎日の通勤ラッシュなんて無縁だろうからね。(笑)
散歩しながら写真を撮り、ゆったりした時間を過ごすネコ。
そしてある日ネコは、見るはずのないものを見てしまうのだった・・・。

この「呻き淵」が「憑き物」の中で一番怖かった!
昔から伝わる伝承。
集落から離れた廃屋。
そして怪奇現象。
ネコが体験したシーンは、SNAKEPIPEの頭の中で完璧に映像化され、ぞわぞわと恐怖が全身を包み込む!
もうこれはホラーだよっ!
生物系オタク・ミステリーホラー!(意味不明)
昔よく一人で撮影に行き、無人の場所を歩いた経験があるSNAKEPIPEには想像しやすかったのかもしれないね。
またもや合流した鳶さんの出現で、謎は一気に解明されていく。
ははあ、なるほどねえ。

「呻き淵」の中でとても気になったのは、土地の有力者の奥さん。
この奥さん、語尾を濁して喋るクセがあるんだよね。
濁していながら、意外と重要な事を言ってるところが面白かった。(笑)
きっとモヤモヤさせられるんだろうなー!
本当にこういう人、いそうだよね。

3:冥き森

3つめのお話の舞台は鳥飼先生がお住まいの奄美大島である。
絶滅危惧種の野生ランを撮影をするためにネコが訪れた奄美大島には、ネコの高校時代のクラスメイトが嫁いでいたのだった。
しばらくぶりの再会シーンは、読んでる妙齢の女性にはキツいなあ。
「全然変わってないねー!」
はSNAKEPIPEも使う言葉だし、よく聞く言葉でもある。
何割かはサービスだったのか。(しょぼーん)
相手に本気で言ってもらえるように努力しないと。(笑)

女同士の近況報告というのは、とりとめもなく長時間続くものだ。
話があちこちに飛んだり、また戻ったりしながら、なんとなく自分なりに話を解釈し、納得することも多い。
元クラスメイトとネコも、明るいうちから酒を飲みながら、そんな時間を過ごしていたのだろう。
その話の流れの中に霊媒師の話が登場する。
病気の夫を占ってもらうために、霊媒師を呼ぶのだという。
そしてその祈祷の席にネコと、たまたまその家に立ち寄った鳶さんも同席することになるのである。

この霊媒師のインパクトがすごい!
白装束で車椅子に乗った、100歳を越えているようなヨボヨボの老人。
勾玉のネックレスを首から下げ、枯れた樹の皮で編んだ冠をかぶっているなんて、まさに宗教的な正装って感じ。
SNAKEPIPEには、この霊媒師の姿が草間彌生と重なっちゃうんだよね。(笑)
草間彌生が本の中で、離人症だったことや幻覚や幻聴に襲われた経験について語っていたことや、村上龍原作・監督の映画「トパーズ」で占い師役を演じていたことも由来しているのかもしれない。
そういえば、CMでオカッパのヅラをかぶった樹木希林を草間彌生と間違えてしまったんだけど、似てると思った人も多いと思う。
SNAKEPIPEは、霊媒師のイメージを草間彌生(もしくは樹木希林)に固定したまま読み進めてしまったよ。 (笑)

「冥き森」は「観察者シリーズ」の中でも特殊な部類に入る物語じゃないかな。
鳶さんが謎解きをして事件を解決する、という基本的な流れは同じなんだけど、○○が×××××××××じゃないこと、△△△が○○を××していなかったこと、などが特殊だと感じた理由なんだよね。
詳しく語れないから山口百恵の「美・サイレント」風に記述してみたよ。(笑)
鳶さんの博識と考察力や観察力による種明かしは、毎度のことながらスッキリするね!

ところが!
最後のページで再び疑問が湧いてしまう。
鳶さんの顔が蒼白になった?
えー!意味が解らないよー!

4:憑き物

そうだった。
もう一つ話が残っているんだった、と安堵するSNAKEPIPE。
4つ目のお話は、奄美大島での事件から3ヶ月が経過し、事件について神野先輩の店「ネオフォビア」でネコが語るシーンから始まる。
時系列になっていることから、「冥き森」のラストの意味も解明されるのではと期待しちゃうね。(笑)
神野先輩とネコに、自分に憑き物が憑いている、と言い出す鳶さん。
その憑き物の正体を暴くべく、再びネコと一緒に謎解きの旅に出るのである。

「冥き森」と「憑き物」は、映画での題材にもなっているし、実際にニュースにもなっているような問題が扱われている。
核心に触れる部分なので詳しくは語らないけれど、毎年のように新たな脅威が発見されるのは、とても怖いと思う。

最後の謎解きも完了して、鳶さんに憑いていた物も落ちたようだ。
その代わりまた、最後のネコの言葉に謎を感じてしまったSNAKEPIPE。
でももしかしたらそれは、鳶さんに限ったことじゃないのでは?(笑)

約1年半ぶりの「観察者シリーズ」である「憑き物」を、短時間で一気に読み切ってしまった。
ページをめくるのがもどかしいほどのスピード。(笑)
とても面白くて、大満足だった!
ひとつだけSNAKEPIPEが物足りなさを感じたのは、ジンベーが登場しなかったことかな。
きっと個展の準備で忙しかったんだったんだろう、と勝手に想像する。(笑)

それにしてもネコの事件遭遇率の高いこと!
「こういう場面には比較的慣れてます」
と発言した場面では笑ってしまった。
そして待ち合わせてもいないのに鳶さんとバッタリ出くわすのは、やっぱり縁があるんだろうね。
憎まれ口を叩きながらも、仲の良いネコと鳶さんコンビは微笑ましい。
今度はどんな事件に遭遇するんだろう?
次回作も楽しみにお待ちしております! (笑)

好き好きアーツ!#19 DAVID LYNCH—LOST HIGHWAY

【ロスト・ハイウェイのトレイラー】

SNAKEPIPE WROTE:

2000年より前のこと、自分でHPを制作し、例えば写真作品を発表したり、観た映画の感想を書き連ねていたことがある。
あの頃はまだホームページビルダーを使ってたりして、恥ずかしいページだったんだよね。(笑)
もうどこにも残っていないことを望むなあ。
その時にも当然のように敬愛するデヴィッド・リンチ監督の映画について書いた。 「ブルーベルベット」について、かなり真剣に感想をまとめたっけ。(遠い目)
ROCKHURRAH RECORDSのブログを開始してから、リンチの様々な話題を取り上げているけれど、映画についてはほとんど書いていないことに気付いたよ!
こんなに長い間リンチの作品に触れていながら、なんたる失態!
これから少しずつ、リンチ作品を振り返って紹介していきたいと思う。

ロスト・ハイウェイ」(原題:Lost Highway 1997年)
マルホランド・ドライブ」(原題:Mulholland Drive 2001年)
インランド・エンパイア」(原題:Inland Empire 2006年)

上記の3本は「こっち」と「あっち」というような複数の世界を行き来する映画だ。
リンチは「イレイザーヘッド」より前から夢想シーンを織り交ぜた映像作りをしているし、シュールな映画は特にこの3本だけということはないけれど、ここ最近の3部作として扱っていきたいと思う。
今回は3部作の1番目「ロスト・ハイウェイ」について書いていくことにする。
1997年というと16年前になるんだねー。
割と最近観たと思ってたのに。(トホホ)

「ロスト・ハイウェイ」についてのあらすじは必要ないだろう。
妻の浮気を疑った夫が、挙句の果てに妻を殺す、という話だからね。
えっ、乱暴過ぎ?(笑)
Wikipediaに冒頭部分などの記載があるので、そちらを参考にされるとよろしい。
SNAKEPIPEは気になった部分だけを紹介していくつもり。
自分のためのメモみたいな感じかな。
それでもネタバレになることもあるので、観てない方は注意して下さい


リンチの映画には必ずといって良い程登場するのが異形の役者。
「ロスト・ハイウェイ」ではロバート・ブレイクがミステリーマンを演じている。
白塗りメイクでまばたきしないまま話をする、かなり不気味な存在!(写真左)
そのままでも充分異形なのに、逆光で見えない妻・レネエの顔が、いつの間にかミステリーマンになっているシーンがあるんだよね!
右の写真なんだけど、ロン毛のヅラを被って、女装よ!
旦那であるフレッドが「ヒィッ!」と声を上げるんだけど、これはかなり怖いよね。
どう、こんな人が隣に寝てたら?(笑)

ミステリーマンの正体は、人によって解釈があると思うけれど、やっぱりフレッドの妄想とか想像の産物ということで良いように思う。
ラスト近くでミステリーマンがフレッドに何やらゴニョゴニョと耳打ちする。
この耳打ちっていうのは、リンチファンにはお馴染みだよね。
ツイン・ピークス」でローラ・パーマーがクーパー捜査官に耳打ちする、あのシーンね。
今、Wikipedia読んで初めて知ったけど、クーパー捜査官のフルネームって
「デイル・バーソロミュー・クーパー」っていうんだね?
バーソロミューといえば、バーソロミュー・くま!
もしかしてクーパー捜査官の名前をもじったのかな?
話が脱線してしまった。(笑)

ミステリーマンは耳打ちしたあと、すっかり画面から消えちゃうんだよね。
直前まで持ってたピストルも、いつの間にかフレッドの手に渡ってるし。
それ以降は登場しない。(この表現で良いのかは疑問だけど)
「自分なりの解釈で記憶する」と話していた、フレッドの記憶にはもう出てこない、ということで良いのかしらね。


解釈が人それぞれ違ってくるだろうと思われる、もう一つはビデオテープ。
何者かによって届けられる謎のビデオ・テープは、最初はフレッド宅の外観だけを写した「不動産屋よ、きっと」レベルの軽いものだった。
一番最後に出てきたのは、上の画像のような凄惨な殺害現場。
サブリミナルのように、パッパッと画像が移り変わるので、何度も静止させながら確認すると、完全に上半身と下半身を真っ二つにされ、手足がバラバラに切断された現場を観ることができる。
カメラに向かって泣きながら大声を上げる血まみれのフレッド。
どうあがいても、このビデオが証拠で有罪判決間違いないでしょう。
ところで、このビデオテープは本当に実在してたんだろうか?


SNAKEPIPEが大好きなシーンは、ミスター・エディことディック・ロラントが交通ルールを守らないヤツをコテンパンにやっつけるところ。
後ろから来た車が煽ってきた、というのが怒りの理由。
更に追い越して行く時に、中指立てるポーズで挑発してきたところで、キレ・モードにスイッチオン!
スピード上げて前の車を追いかけ、後ろから追突すること数回。
銃を突きつけ、運転手を引きずり出し、殴る蹴るの暴行を加える。
これだけなら普通なんだけど、ここで説教するのが面白い。
「おまえみたいなバカのせいで昨年は5万人事故で死んでるんだ!」
なんて非常にマトモな演説を、強面の人が言うパラドックス的な感覚。
ここらへんがリンチの言う「ハッピー・バイオレンス」なのかもしれないね?
キレるキャラクターは、「ブルーベルベット」のフランク・ブースこと、デニス・ホッパーが秀逸だったよね。
ディック・ロラント役のロバート・ロッジアも、かなり良い味出してたね。


フレッドの妻であるレネエ(もしくはアリス)は、ポルノ女優だった!
そのポルノ映像が上の写真なんだけど、ここだけカットしてみると、マドンナに見えてしまうのはSNAKEPIPEだけかしら?
ディック・ロラントと、いかにも不健全な商売してます風の男・アンディは、ポルノ映画やスナッフ系のビデオを制作・販売していたようだ。
そこにレネエも加わり、結婚後も彼らとの関係を断ち切らなかった。
クラブで演奏をするのが生業の夫が外出すると、レネエはかつての男達に会いに出かける。
レネエの本来の姿は、フレッドの妻ではなかったのかもしれないね。
夫婦間の冷めた会話や態度、視線の動かし方は、全然フレッドを愛してるようには見えないからね。
どうしてフレッドとレネエが結婚したのか、馴れ初めを聞いてみたいよね!(笑)


ディック・ロラントとアンディが制作していたビデオを、皆で酒を飲みながら鑑賞しているシーンがある。
そのビデオは、今だったらR指定がされてしまうような内容なんだけど、その中にマリリン・マンソンが出てるんだよね。
それが上の写真!
マリリン・マンソンはこの映画のサントラにも「I Put A Spell On You」で参加していて、「アイラブユーーー」とヒステリックに叫んでる。
そんな風に愛してると言われたら、相手は逃げるわ!って感じね。(笑)
多分これはスナッフ系のビデオだと思うので、リンチファンからみると羨ましい限り!
リンチの映画に死体で出られる、もしくは殺される役をやるっていうのは憧れだもんね。(←解ってくれる人はいると思う)


上はラスト近く、フレッドが逃走を図ってる時の映像の静止画像。
流して観てる時には、フレッドの顔がカクカクしてたり、歪んでいたり、目が素早くあらぬ方向を見たりして精神や肉体が崩壊していく様を見ている気分になる。
実際、その時のフレッドは妻殺しのみならず、他に2人を殺し追われている身だから、壊れていくのは仕方ないのかもしれない。
静止画にして気になったのは、上の写真の口と、またまた登場のフランシス・ベーコン!
左の絵は口だけの部分なんだけど、良く似てるよね。
「ツイン・ピークス」の時にも、叫ぶ口を映像として取り入れていたリンチだけど、今回は歯がガタガタになってるよね。
これはもうフレッドではない、他の何者か、だね。
「Who are you?」ってミステリーマンにも尋ねられてたもんね、フレッド。

フレッド/ピート、レネエ/アリスの入れ替わりや、「ドグラ・マグラ形式」の作り、そしてミステリーマンやビデオテープの存在については、例えばリンチ評論家の滝本誠氏などが詳しく論じてくれてるから、SNAKEPIPEみたいな素人が発言することもないだろう。
「謎は謎のままでいい」
というリンチの言葉通り、シークエンスの羅列として楽しめば良いと思っている。
2007年5月の記事「かもめはかもめ、リンチはリンチ」に、少しだけ「ロスト・ハイウェイ」について書いていたSNAKEPIPE。

リンチは実際に瞑想をしているし、夢と現実の境がないような映像が得意なので、支離滅裂で筋が通ってないストーリーでも何の問題もなく提示してくる。
リンチの夢想の世界をすべて理解なんてできないのは当然だろう。

すでに6年前、なんとも簡潔に感想を要約して書いてたね。(笑)
それをもう少し掘り下げて書くことができて、良かった。
また日を改めて「好き好きアーツ!」の特集として、リンチの迷宮系3部作第2弾「マルホランド・ドライブ」を書く予定である。
今からとても楽しみだ。

好き好きアーツ!#18 DAVID LYNCH —CHAOS THEORY OF VIOLENCE AND SILENCE

20121118-top【ラフォーレの垂れ幕にリンチの名前がっ!交差点手前から撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

2012年11月10日よりラフォーレ原宿にあるラフォーレミュージアムにて、「デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス」が開催されている。
この情報を教えてくれたのは、またもやROCKHURRAHだった。
それはもう今から2ヶ月くらい前のことになるのかな。
心待ちにして、展覧会の初日に鑑賞してきたSNAKEPIPEとROCKHURRAH。
2012年7月に鑑賞した渋谷ヒカリエで開催された「Hand Of Dreams」の記事に

「リンチは平面の作品だけじゃなくて、立体作品も制作しているのを海外のサイトで知った。
その作品もまた稚拙な雰囲気だけど怖いんだよね。(笑)
そんな作品群も鑑賞できたらいいなあ。 」

と書いていたのだけれど、今回の展覧会でその希望が叶うことになった。
なんて幸運なんでしょ!(笑)
1991年今はなき東高現代美術館での個展、1996年渋谷パルコギャラリーでの写真展「Dreams」、今年7月ヒカリエにおけるリトグラフ展に引き続いての鑑賞。
どうやら2010年に大阪でも個展を開催していたようだけれど、全然知らなかったよー!
その時に情報を入手していたら、初の大阪入りができたかもしれないのにね。(今まで一度も大阪に行ったことがないSNAKEPIPE)
今回は絵、写真、映像に加えミクストメディアの展示ということでリンチの世界を堪能できる企画になっているようだ。
ワクワクしながら原宿に向かう。

ラフォーレミュージアムという名前は聞いたことがあったけれど、そもそも原宿大好きだった少女時代(ぷっ)から、ほとんどラフォーレ原宿にすら足を踏み入れたことのないSNAKEPIPE。
聞いてみるとROCKHURRAHも同じく、ラフォーレ原宿には思い出がないと言う。
フロアの天井が低く、細かく店舗が分かれているため、買い物がし辛い印象があったんだけど?
やっぱり今回も同じように感じてしまった。
店内を物色することもなく、最上階にあるラフォーレミュージアムへ。

チケット売り場の前にはリンチの「ようこそ」的な映像が流れている。
なんだかこれって…夏に開催されたヒカリエの時とほとんど同じ。(笑)
前回は「愛・平和」の漢字を空中に書いていたリンチが、今回は日本語を喋っていること、モノクロからカラーに変わったこと以外は似た映像だね。

チケット売り場の横には物販店があった。
ポストカードと、リンチの絵をプリントしたTシャツや関連書籍などを販売している。
おや?お目当ての図録がないよ?
どうやらこれは完全予約制での受付となっているようで、11月下旬発送予定で受付だけ行なっているとのこと。
帰りに予約することにして、逸る気持ちを抑えながら会場へ。

20121118-01
最初は写真作品の展示からである。
ポーランドの廃工場を撮影した作品群が並ぶ。
イレイザーヘッドの舞台にもなっている、フィラデルフィアのリンチ撮影の写真を観たことあるけど、やっぱりそれらも工場地帯の写真だったんだよね。
工場にある魅力はSNAKEPIPEもよーく解る。(笑)
きっと今回のポーランドの工場なんて、目の前にしたらヨダレが出るだろうな。
クレジットを確認すると、今年の撮影ってことみたいね。
2012年にもまだこんな工場があるとは、ポーランド恐るべし!(笑)
他にも写真作品が続き、男女のヌードのクローズアップシリーズ、snowmenという雪だるまシリーズ、と全てモノクロームである。

ヌードのクローズアップの写真群には「その手があったか」と唸ってしまった。
クローズアップにすることで、体のどのパーツを写してるのか判らなくなるんだよね。
そして明らかに、通常ならば服や下着で隠れている部分を露出させた写真(まわりくどい言い方だけど)と並べて展示されることで、謎のパーツ写真が想像によってエロティックな方向に進んでしまうから不思議だ。
もしかしたらそれは肘を曲げたり、首のしわだったりするような、普段から目にしている部分かもしれないのにね?
この、ちょっとトリックめいたシリーズは興味深く感じたよ。

短編映像作品3作品を鑑賞する。
2009年、2011年、2012年の作品、というかなり最近の作品なんだけどね。
映像作品ガイドで確認しないと「最近の?」と思ってしまう映像作品。
だってリンチの初期映像作品との違いがはっきりしないんだもん。(笑)
1968年制作ですよ、と言われても何の疑いも持たないかもしれないなあ。
途中で出てきたゴッホは、やっぱり「耳つながり」ということでOKかしら?

続いては夏に鑑賞したリトグラフと同じ系列の、和紙への「にじみ」を活用したような絵画が並ぶ。
これらの絵画は、ヒカリエで鑑賞したリトグラフのような黒っぽさ、線の太さはなくて、強烈なインパクトは残さなかった。

またもや映像作品2作品。
リンチ自身が出演していて、まるでツインピークスのゴードン・コール並に声を張り上げて喋り、おかしい。(笑)
17分と13分、という合わせて30分の映像のため、全部を鑑賞するのを諦めることにする。
字幕もなかったので、さっぱり意味が解らなかったし。(笑)

20121118-02
次は油絵の登場である。
1991年に鑑賞した時のリンチの油絵は、色彩や題材がいかにもリンチらしく暗いもので、あの時には確かバンドエイドが貼り付けられてる作品もあったはず。
それでもほとんど「平面」の作品ってことになるよね。
今回は油絵、といっても単なる絵画ではなくて、油絵の具と粘土のような物を組み合わせたり、立体物がキャンパスに貼り付けられているような作品であった。

上は「I see my Love」と、そのまんま絵にタイトルが書かれてる作品である。
リンチの作品にはこのようにタイトル記載が多いんだよね。
以前も言ったことだけど、その字がまた「リンチ・フォント」とでも名付けたら良いような独特の風合を持ったアルファベットで、それだけでもアートになってしまう。
色彩の暗さは相変わらずだけど、立体になっている部分が新しいね。
そして貼り付けられているのは…じっと見ていると、もしかして歯?
ぎゃーっ、怖いっ!
目から飛び出してるのも嫌だけど、なんだか歯が本物っぽいんだよね。
ひー、顔が顔として写実的じゃないところが余計に不気味!
ROCKHURRAHは「レザーフェイスみたい」と言う。
リンチの娘であるジェニファー・リンチが監督した「サベイランス」にも、似たお面が出てきたことを思い出す。
世界一カルトな親子の作品!Surveillance鑑賞」 に画像を載せているので、ご参照くだされ。

20121118-03
いよいよ大詰め!ミクストメディアの登場である。
今回の展覧会で一番観たかったのがこのシリーズ。
立体油絵(変な造語だけど)だけでもかなりのインパクトがあったけれど、ミクストメディアはまずその大きさに驚いてしまう。
「Boy Lights Fire」という作品は208.3cm x  330.2cmという巨大さ!
下地になっているのはどうやらダンボールのよう。
そこに「にじみ」を加え、更に立体を貼りつけたり、マッチ部分が光るように細工がされていたり、と実験的な要素が満載である。
このタイプと同系統の「Bob’s Second Dream」などを含めた巨大ミクストメディアが全部で4点展示されている。
川村記念美術館の「ロスコ・ルーム」ならぬ、「リンチ・ルーム」といった感じだろうか。
ゾワゾワと背中から寒気が襲ってくるような恐怖感。
それでもずっとその場に留まっていたいと思う相反する心情。
「怖いもの見たさ」なんて簡単な言葉では説明し切れない摩訶不思議な引力のある空間だった。
あの感覚はやっぱりあの場で体験・体感しないと解らない類のものだろうね。
行って良かった、鑑賞できて幸せだった、と心から思ったSNAKEPIPEである。

以上で展覧会の概要のまとめは終わりなんだけど、出口近くに設けられたスペースに、何やらゴージャス感漂うガラスケースがいくつか置かれている。
なんとそれはフランスのシャンパンであるドン・ペリニヨン
なんでリンチの個展にドンペリなの?

どうやらリンチがドン・ペリニヨンのボトルとパッケージデザインをした、ということらしい。
リンチアンを名乗って長いSNAKEPIPEがそんなことも知らないとは!(笑)
お詫びにドンペリ購入させて頂きますっ!
ではお値段を調べてって…えーっ!
「ドンペリニヨンヴィンテージ 2003」が2万1000円、「ドンペリニヨン ロゼ ヴィンテージ 2000」が4万3050円だって。
2本購入なら6万4050円だよー!
ドンペリってやっぱり高額品なんだね。
小さいことだけど、最後の50円ってところがものすごく気になるなあ。(笑)
2本買うから6万ちょっきりでどおだ?と言いたくなるよね!
いや、スミマセン、買えません。(涙)
カリフォルニアのスタジオで2日間かけて撮影されたのは、光や煙の中に浮かび上がるドンペリのマーク。
キラキラしていてとてもキレイ。
リンチらしいのかどうかは不明だけど、ドンペリのイメージには良く合ってるように思うね。

リンチの絵の怖さについてずっと考察していたら、結局行き着いたのは「境界」という言葉かな。
夢なのか、現実なのか。
正常なのか、異常なのか。
リンチの絵はまるで、知的障害者や精神障害のある人が、勢いに乗って制作しましたという雰囲気がある。
何も考えず、ただその欲求に駆られ、想いのまま筆を動かしたような。
子供が描いたようにも見えてくる。
その稚拙そうに見える部分が余計に怖いのだ。
例えば小説などで犯人が子供時代に描いた、心理検査として使用されるような絵、もしくは犯罪を目撃してしまった後、ショックで喋ることができなくなった子供が現場を描いたような絵、と説明したら解ってもらえるだろうか。
何かを内に秘めた人物の絵。
それは凶暴性だったり残酷性なのかもしれない。
展覧会のタイトル通り「静寂と暴力が棲むカオス」だね。(笑)
きっとそのカオスを、SNAKEPIPEの頭でも心でもなく、皮膚が反応していたようである。
背中がゾワゾワしたのはそのせいね、きっと。
図録の到着が楽しみである。

2012年は「Crazy Clown Time」のCDデビューに始まり、ヒカリエでの個展、そして今回のラフォーレミュージアムにおける個展と続きリンチ大活躍、ブログに登場することも多かった。
リンチアンには幸せな年だったね!
そしてリンチに、また子供ができたらしい。
「リンチ、66歳で再びパパに!」なんて記事も発見。
そんな精力的なリンチに、これからも期待しちゃおうね!