好き好きアーツ!#52 鳥飼否宇 part21−天災は忘れる前にやってくる-

【タイトルに因んだ映像。音が出るよ!】

SNAKEPIPE WROTE:

「ゔぁっ!」
何やら言葉にならない声でROCKHURRAHが叫ぶ。
一体どうしたの?何があったの?
「鳥飼先生の新作が出るよっ!」
「ええーっ!」
きちんとした言葉で大反応するのはSNAKEPIPE。
いつも同じパターンだけど、ROCKHURRAH RECORDS内での事実なんだよね。(笑)

大ファンの作家・鳥飼否宇先生の新作とは、なんというビッグ・ニュース!
2018年に刊行された「隠蔽人類」以来の作品になるんだね。
およそ1年間、待ち望んでいた鳥飼先生の新作とご対面できるとは嬉しい限り!(笑)
明日にでも本屋に行くか、と鼻息を荒くしたSNAKEPIPEだったけれど、今の御時世、通信販売が一番早いよね。
その日の注文で、翌日には新作を手にすることができたよ!

今回のタイトルは「天災は忘れる前にやってくる」だという。
天災って自然災害のことだよね?
光文社の紹介ページからあらすじを紹介させて頂こう。

眉唾の噂やホラばなしをネット配信して生計を立てている「特ダネ ゴーダニュース」の目玉企画は、社長の郷田とバイトの智己の災害現場への突撃ルポだ。
しかし、二人の行くところ、なぜかいつも災害の陰に怪しい事件が待っている!
ブラックなギャグとダークな欲望が軽快に展開し、意表を突くトリックと鋭い推理もたっぷり盛り込んだ、サービス満点の傑作。

有料会員向けのネット配信だけで生計を立てる人物が主人公とは、今どきだよね。(笑)
「眉唾の噂やホラばなし」とは、例えば「目から鱗、夜尿症にはナマズエキスが効く!」や「不忍池に半魚人が出現!!」といった類のものらしい。
「絶対うそでしょ」と思ってしまうヘッドラインだけど、お金払っても読む人がいるみたいなんだよね。
この手の会員費って月額いくらなんだろう。
例えば月額100円で3万人の会員なら月収300万円!
「特ダネ ゴーダニュース」には、それくらいの読者が存在しているとの記述があるので、そこまで違った数字ではないよね。
取材費とアルバイト代を支払ったとしても、良い収入になりそうだよ。
よし、これから当ブログも有料にしてみるか。(笑)

冗談はさておき、鳥飼先生の新作に話を戻そう。
「特ダネ ゴーダニュース」の社長である郷田俊男とアルバイトの三田村智己が、災害地域を取材中、事件に遭遇する。
それらの事件を連作短編にした小説が、「天災は忘れる前にやってくる」なんだよね!
さて、彼らはどんな事件に遭遇したのか?
小説の順番通りに感想をまとめていこう。
※ネタバレしないように書いているつもりですが、未読の方はご注意ください!

天網恢々疎にして漏らさず

いきなり難しい文章から始まったけど、「天災は忘れる前にやってくる」では、タイトルに名言や格言が採用されている。
最初のタイトルは中国の思想家である老子の言葉だという。

天網は目があらいようだが、悪人を漏らさず捕らえる。
天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある。

こんな意味だったんだね。
恥ずかしながらSNAKEPIPEは初めて知った言葉だよ。
鳥飼先生のデビュー作「中空」でも老子や莊子の思想について触れられているので、特に違和感もなくすんなり本文を読み進めることができた。
画像は牛に乗った老子だよ。(笑)

第1インシデントは地震!
震度7の地震が発生、死者・行方不明者合わせて約2,300人、負傷者は7,000人以上の甚大な被害が報告されたのである。
そんな被災地にネタ探しに乗り込む「郷田プロダクション」の郷田とアルバイトのトモミ。
ボランティアとして活動するため、ではないんだよね。
あくまでも「特ダネ ゴーダニュース」のネタを探すため、ジャーナリストとしての使命だ、と主張する郷田だけれど、実態は行き当たりばったり。
眉唾もののフェイク・ニュースで、読者の興味を煽る文章を捏造するのが得意な郷田は、地震からどんなニュースを創り出すんだろうね?
胡散臭い人物だけれど、何万人もの人が食いつく記事を書くことができるというのは、やっぱり才能だろうなあ。(笑)

2人が足として使用しているのは「ジムニー」だという。
SUZUKIのジムニーって名前は聞いたことあるけど、どんな車だったかな?
おお、改めて検索してみると、とってもカワイイじゃない!(笑)
色によっては軍用車両にも見えそうで、ちょっとジープっぽい感じ。
ミリタリー好きのROCKHURRAH RECORDSでは大好評だよ!
ただし大の男2人、しかも少し太り気味の郷田が隣では、窮屈になるかもしれないね。

郷田の年齢は50代のようだけど、トモミはいくつなんだろう。
郷田にコキ使われているアルバイトなので、20代から30代だと思われる。
南国生まれで、現在は一人暮らしをしているとのことだから、アルバイトでもそれなりの収入を得ているんだろうね。
こんなデコボココンビだけど、一応「阿吽の呼吸」で行動しているみたいだよ。

郷田の小さな「気付き」から犯人が割れる。
タイトルの「天網恢々疎にして漏らさず」と絡んで、見事にまとまったよ!
それにしても郷田が探偵役とはね?
己の欲を優先させる、いかにも人間臭い人物で、今までの鳥飼先生の著作では見かけなかったタイプなんだよね。

大山鳴動して鼠一匹

事前の騒ぎばかりが大きくて、実際の結果が小さいこと

これよくあるよね!
鳴り物入りで登場したけど、結果はまるでダメダメっていう話ね。
ラテン語のことわざが元になっているようだけど、この文言も初めて知ったSNAKEPIPE。
こんなところで無知を自慢してどうする。(笑)
ROCKHURRAHが「ことわざ」を分かりやすく画像にしてくれたよ。
あの山からこのネズミが!
なんてキュートなんでしょ。(笑)

第2インシデントは浅間山の噴火!
浅間山と聞いて連想するのは「浅間山荘事件」だね。
1972年2月、長野県北佐久郡軽井沢町にある河合楽器の保養所「浅間山荘」において連合赤軍が人質をとって立てこもった事件(Wikipediaより)である。 
あまり事件について詳しくないSNAKEPIPEは、だいぶ前にROCKHURRAHと一緒に「光の雨(2001年)」という映画を観て、連合赤軍について少し知ったくらい。
私刑による支配での団結は難しいこと、そして人間の残酷さを見たことを覚えている。
そんな浅間山が噴火し、その現場にネタ探し目的で訪れる郷田とトモミ。
命の危険を顧みず、よく頑張るよね。(笑)

郷田は一応(?)ジャーナリストなので、ドキュメンタリー映画も観ているんだね。
感銘を受けた映画としてヴェルナー・ヘルツォークの「ラ・スフリュール(原題:La Soufrière 1977年)を挙げる。
ヘルツォークといえば、2019年5月に「デヴィッド ・ リンチ_精神的辺境の帝国展 鑑賞」の中で、「狂気の行方(原題: My Son, My Son, What Have Ye Done (2009年)」の感想をまとめたっけ。
デヴィッド・リンチが製作総指揮だったために鑑賞したんだけどね。(笑)
記事にも「そんなに詳しくない監督」と書いているヘルツォークなので、「ラ・スフリュール」も知らなかったよ。
映像があったので、載せておこうか。(29分)

郷田とトモミ以外にも、命知らずの登山家がいる。
台風で波が大荒れの時にサーフィンやるような人がいるけど、似た感じかな?
そこで事件が起きるのである。

まさかそんな動機だったとは!
あっさり郷田が解き明かしたのは、年の功か?
そしてあんな結末とは、ね。
それにしても特に女性にとって、1歳の年齢間違いは大問題よねっ!(笑)

我が物と思えば軽し笠の雪

自分の利益になることならば、苦労を苦労と思わない。

これは松尾芭蕉に弟子入りした其角の句「わが雪と思へば軽し笠の上」からできた「ことわざ」だという。
この画像が其角のようだけど、ほとんど漫画だね。(笑)
酒豪だったという俳人だけれど、芭蕉からも才能を認められていたという。
なんだかドラマの主人公になりそうなタイプじゃない?

第3のインシデントは豪雪!
雪で閉ざされた地域での事件といえば、やっぱり映画「シャイニング」を思い出してしまうね。
建物に取り憑いている霊的な存在もさることながら、精神に変調をきたしたジャック・ニコルソンが怖くて!
あ、ジャック・ニコルソンの演技が素晴らしくて、に変えないとおかしな文章になってしまうね。(笑)

新年早々、豪雪地帯に取材に行く郷田とトモミ。
孤立した集落を目指して、雪道を車で移動する。
いわゆるジャーナリズムの精神を持つ人であれば、「眼の前にある現実」を報道したい、いやしなければならないという正義感が原動力になり、どんなに危険な場所にでも赴くだろう。
郷田の場合は動機が不純で、災害をネタにした記事を書き、会員数を増やし利益アップを狙っているにもかかわらず、目的地は正統派ジャーナリストと同じように危険な地域、というところにギャップを感じるんだよね。
ガセネタを書くなら、そこまでやらなくても良いような?(笑)

「我が物と思えば軽し笠の雪」は、またもや郷田が犯人を特定し、事件としての決着はついているけれど。
犯人の心境が腑に落ちないんだよね。
珍しく「おあとがよろしくなかった」作品かな。

善人なおもて往生をとぐ

善人でさえ救われるのだから、悪人はなおさら救われる。

親鸞の「歎異抄」に出てきた、非常に解釈が難しい言葉なんだよね。
タイトルでは「善人なおもって往生を遂ぐ」までだけれど、親鸞は「いわんや悪人をや。」と続ける。
意味を調べると「逆じゃない?」と感じてしまう不思議な言葉、どうやら「善人」と「悪人」の定義から勉強したほうが良さそうね。
しっかり文章にする力がSNAKEPIPEにはなさそうなので、親鸞について詳しい方のサイトをご参照くだされ!(笑)

第4のインシデントは離島での台風と火事。
郷田とトモミの当初の目的は、島で目撃されたジュゴンを撮影する、というものだった。
ジュゴンは人魚のモデルとされているので、眉唾もののニュースを発信している「特ダネ ゴーダニュース」では、格好のネタだろうと容易に推測できるよね。
ところが予想に反して、ジュゴンは現れず、郷田とトモミは火事の現場を撮影することに成功するのである。

臨場感あふれる動画をアップロードすると、たちまちアクセス数が増える。
「特ダネ ゴーダニュース」のフェイクではないニュースも人気があるんだね。(笑)
現場にいたからこその成果だけど、災害と聞くと「ほいきた!」とばかりに喜ぶ郷田は、非人道的とも言える。
そしてまた事件に遭遇するのである。

人それぞれに理由があるので、コメントが難しい事件だったね。
なんともやりきれない気分になってしまったよ。

株を守りて兎を待つ

古い習慣にとらわれて、時の変化に適応しないこと。
また、偶然の幸運を当てにする愚かさ。

中国春秋時代、ひとりの農夫が目前で木の切り株にぶつかって死んだウサギを手に入れ、それから毎日その切り株のところで見張りをしたという故事からできた中国のことわざみたいだね。
こういうタイプの人、今でもいるだろうな。
そんな話をしていると、急にROCKHURRAHが歌い出すではないの!

北原白秋作詞、山田耕筰作曲の歌だったとは!
静止画像がうさぎになってるし。
それにしても子供の頃の記憶により、ROCKHURRAHが2番まで歌い続けることに驚いたよ。(笑)
SNAKEPIPEは習った全く覚えがないんだけど、九州地方とは音楽の教科書が違ってたのかもね。

第5のインシデントは豪雨による川の氾濫である。
災害を取材し、有料サイトの会員数を増やすことで収入をアップさせた実績を持つ郷田は、新たな災害ネタを求めて水害に見舞われた地域に赴いていた。
自然災害が利益を生み出すことってあるんだけど、これを特需と言ってはバチが当たるよね。
郷田のような「人の不幸をネタにした記事を書く」タイプは気にしないどころか「ラッキー」くらいに思っているんだろうけど。

人間的には疑問を感じることが多い郷田だけど、推理力はあるんだよね。(笑)
かなり複雑なシチュエーションだったのに、今回の事件も見事に解決!
郷田はここまででいくら稼いだんだろう?

前門の虎、後門の狼

一つの災いを逃れても別の災いにあうたとえ。

中国の元代の学者である趙弼が記した書「評史」に書かれている「ことわざ」だという。
「ことわざ」に因んだ画像をROCKHURRAHが用意してくれたんだけど、なんてカワイイんでしょ!(笑)
こんな虎と狼だったら、大歓迎じゃない?
子供の頃から一緒にいたら、ずっと仲良しのままなのかな。
なんでこんなにカワイイ画像を選ぶか、ROCKHURRAH?(笑)

第6のインシデントは竜巻!
銀行強盗事件を取材するために訪れたのに、竜巻に遭遇する郷田とトモミ。
竜巻を間近で撮影した緊迫の動画だったら、かなりのアクセス数を稼げるだろうね。(笑)
郷田とトモミが乗っているジムニーまで、竜巻で車体が浮くほどの威力だったというから、自然の力は本当に恐ろしいよ。

この章では、なんと猟奇殺人を連想させる死体が登場する。
現場を想像すると、かなり怖い状態だよ。
郷田とトモミは平然と観察しているようなので、肝が据わってるのかな。

郷田の推理により、いくつかのパーツがカチッとはまりパズルが解けた。
人は土壇場になると、思いもよらない大胆な行動に出るのかもしれないね。
SNAKEPIPEにはできないだろうな。(笑)

同じ穴の狢

一見関係がないようでも実は同類・仲間であることのたとえ。
多くは悪事を働く者についていう。

さすがにこの「ことわざ」は聞いたことも、使ったこともあるよ。
「ことわざ」は知っていても、ムジナってどんな動物なの?
どうやらアナグマのことをいうんだね。
画像で見る限りでは、ハクビシンと区別がつかないよ。
「ことわざ」に動物が入っていることが多くて、今回の記事の画像だけみると何の記事を書いているのか不思議に思うかもね。(笑)

第7のインシデントは台風。
丁度この記事を書いている頃、台風6号が関東地方を直撃すると予想されていた。
現在では熱帯低気圧に変わったため、局地的な大雨に警戒する必要があるという。
ほとんど東京近辺から出たことがないSNAKEPIPEは、台風による被害という経験がないんだよね。
もちろん台風直撃で電車が動かない、ということはあるけれど、家の屋根が飛んだり窓ガラスが割れるというレベルの被害はないね。 
北九州出身のROCKHURRAHも、ほとんど被害に遭ったことがないという。

小説本文中の台風は猛威を振るっていて、傘が全く役に立たないほどの大雨と暴風の中、撮影に挑む郷田とトモミ。
「郷田が歩けば二次災害が起きる」じゃないけれど、 土砂崩れまで経験することになる。
これをまた好機と考え、取材を開始する郷田の根性は見上げたものだよ。

スクープを物にするために危険と隣合わせの行動をするジャーナリストといえば、戦場カメラマンなども同じだろうね。
SNAKEPIPEも写真の勉強をしている頃、その手の本を読んで刺激を受けたことがあるので、気持ちは分かる。
実際に行動に移すことができるかどうかが、ジャーナリストとしての資格だろうから、郷田は合格だね。(笑)

ペットのヨークシャーテリアが機動隊員によって助け出されるシーンがある。
ヨークシャーテリアといえば、鳥飼先生の「人事系シンジケート―T-REX失踪」 にも社長夫人のペットとして登場しているね。
好き好きアーツ!#44 鳥飼否宇 part18−激走&T-REX失踪−」 として感想をまとめているので、ご参照あれ!

まさかそんな展開になるとは!
そして「同じ穴の狢」がそういう意味で使われることになるとは思ってもみなかったよ。
「そんな」とか「そういう」といった「濁した」物言いしかできないのが歯痒いけど、仕方ないね。(笑)

鳥飼先生の新作は、今までの先生の著作である「逆説的」、「ブッポウソウは忘れない」や「激走」と上にも登場した「人事系シンジケート―T-REX失踪」などと同様、「実際に起こり得る状況」を背景にした小説だったね。
語り部であるトモミに関する記述があまりなかったので、特徴を捉えることが難しかったかな。
ROCKHURRAH RECORDSが得意としている、マニアックなミュージシャンから名付けた登場人物当てや、アート系の話題を見つけることができなかったのは残念。

天災をキーワードにした小説とはどんな感じだろう、と少し不安を感じながら読み進めた。
どうして不安だったかというと日本で実際に起こっている災害なので、被害状況を生々しく感じてしまうのではないか、と想像したからなんだよね。
郷田の視点が、有料会員獲得に向けスクープを狙っているという、ヒューマニズム寄りではないのは前にも書いたよね。
それが冷静なカメラのレンズ的な役割を果たしていたようで、被害が甚大であっても重たい文章になっていなかったように感じる。
読むのが辛い小説になっていなかったのは、さすがに鳥飼先生だよね!
最近の鳥飼先生の著作は「〜シリーズ」ではないので、また懐かしい登場人物に再会したいと思ってしまうのはSNAKEPIPEだけかな?(笑)

収集狂時代 第13巻 ウォッチ編

【007のスパイ用腕時計を紹介するビデオ】

SNAKEPIPE WROTE:

人は国や地域、貧富の差や容姿の違いをもって、生まれてくる。
大金持ちで美貌と才能に恵まれる人も多いことだろう。
そんなキラキラ輝く人生を満喫する人も、理不尽で不平等な出自を恨み、この世に生を受けたことを呪っている人にも、平等なことがある。
それは時間だ。
地球上での1日は24時間であり、長短は違えど命あるものはいつか滅びる運命なのだから。

などと普段のSNAKEPIPEとは違う口調になってしまったね。
大真面目に書いてるつもりでも、やっぱり陳腐かな。(笑)
本日のテーマは時計、と思ったら、急に別人格に乗っ取られてしまったよ。
最近は時間を確認するのは、専らスマートフォン。
仕事中はパソコンで時間を知ることが多く、全く腕時計をしていない。
昔は必ず腕にはめていたのにね?

ROCKHURRAHは子供の頃、トミーの「ウォッチマン」というゲームができる腕時計を所持していたそうだ。
「ウォッチマン」には、釣り、プロレス、ボーリングなど、いくつか種類があったみたい。
ROCKHURRAHはゴルフ・ゲームの「ウォッチマン」で遊んでいたという。
こう聞くとROCKHURRAHのゴルフ歴は長いんだね。(笑)
ゲームとは言っても、非常に簡単な作りだと思うけど、この当時、腕時計型で持ち運べるのは画期的だっただろうね!
ギミックが好きと話すROCKHURRAHは、カシオの「データバンク」も持っていたんだって。
電話帳機能を搭載した腕時計が発売されたのは、検索したら1984年と出てきたよ。
今みても「データバンク」のデザインは面白いと思うけど、80年代にはもっと斬新に映り、当時流行していたカタカナ職業の方々はこぞって購入したんじゃないかな?
現在でも「データバンク」は販売されているというので、調べてみるとAmazonでも購入可能なんだね!
逆輸入品で約4000円とのこと。
SNAKEPIPEも違うカシオのデジタル時計を持っているけれど、「データバンク」も欲しくなってしまったよ。

見やすいのはデジタル時計だけれど、SNAKEPIPEがかつて所持していたのは巨大な正方形の手巻き式腕時計だった。
これは80年代、表参道にあった「ゼクトアー」で購入したもの。
大きさは6cm☓6cmで厚みが2cmほどだったろうか。
文字板にはフランス国旗がデザインされていた。
SNAKEPIPEの手首よりも大きくて、時計としての機能よりもブレスレット感覚で着けていたことを思い出す。
ああ、なつかしきゴールデン80’s!(涙)
どのタイミングで手放したのか覚えていないけど、今でも鮮明に記憶に残っているよ。

まるで「ふたりのイエスタデイ」の特集のようになってしまった。
今回は「収集狂時代」にしようと思ってるんだよね。(笑)
驚きの逸品を紹介していこうか。

ROCKHURRAHが所持していた「データバンク」にちょっと似たタイプを発見。
シンセサイザーの世界的なメーカーであるKORGの「KRONOS WRIST WATCH」という。
「データバンク」で数字が配置されていた場所に鍵盤があるね。
これがどんな機能を果たしていたのか、調べてみたけどよく分からなかったよ。
ちゃんと音が鳴ったら面白いよね。(笑)
販売時期や値段その他も分からず、 ただデザインの面白さだけの紹介になってしまった。
所持している方がいらっしゃったら、詳細を教えてください!

続いても音楽関係ね。
今では全く見かけなくなってしまった、カセットテープをデザインに使用している「EOS Mixtape Watch」だよ!
どうやらテープの部分が循環するらしいんだけど、左に巻き戻った状態のまま回転するだけなのかよく分からなかったよ。
画像で見る限り、右のディスクに針があるので、ディスクはこのまま回るんじゃないかな?
実際に時間を見るのは大変そうだよね。
こちらの商品は$135、日本円で13,500円くらい。
レトロ趣味にはたまらない逸品だよね!

これも一種のデジタル時計か。
Biegert & Funkの「QLOCKTWO」は、文字盤に110の文字があり、ボタンの操作により浮かび上がる文字が変化するという。
画像に出ているのは「7時半を過ぎました」という文章だけど、 これは正確な時を知らせているのかどうかは不明だよ。
「時間を説明する言葉が予期しない場所に表示され、あなたにその瞬間を知らせます」
「お昼ぐらい」とか「 明け方」のような曖昧な表現に近いのか。(笑)
ちなみにお値段は$850、日本円で約91,500円。
この時計を持てば、時間に追われず心にゆとりが持てるかも?(笑)

好戦的になりそうなのがこの時計かな。
「F-15」ってはっきり書いてあるよね。
これはアメリカ空軍の戦闘機「F-15イーグル」をデザインしている腕時計だね。
画像がこれだけしかないので、戦闘機部分の下がどうなっているのか不明だよ。
戦闘機が蓋で、横にズラす、もしくはパカっと開けて時計が現れるのではないか、と想像する。
時計は文字盤の時計かデジタルか、どっちが似合うのかなあ。
ネックレスタイプの時計で「F-18ホーネット」バージョンでは、パカっと蓋が開いて下には丸い文字盤が見えていたよ。
腕時計も同じタイプかもしれないね。
気になるお値段は$48、日本円で約5,200円!
ミリタリー好きは揃えておきたいアイテムだね。(笑)

これも時計なの?
Devonはアメリカのメーカーで、この時計は「The Tread 1」というらしい。
中身が見える作りで、4本のベルトを確認することができる。
このベルトが時間を表しているようで、ケース内で回転していて、アメリカで唯一の独自のムーブメントとのこと。
時計の構造について詳しくないけれど、独自の技術を使用するということは、発明したってことだろうからね。
ビジュアル的にもオシャレだし、興味深いよね。
お値段は$18,450、日本円で約198万円!
ベルトがどんな動きをするのか、ずっと見ていたくなる時計だよね。

これもまた不思議なデザインの時計だね。
スイスのメーカーURWERKが販売している「The UR-1001」だよ!
なんでしょうか、この重量感は。(笑)
上にカレンダー、下が時計になっていることは分かるけど、一体どうやって装着するの?
時計の説明をしている動画があったので、載せてみようか。

こんなに巨大だったとは! 
ビデオに登場している男性の腕でも、時計とのバランスが取れてないくらい。
この時計が似合うのは、マッド・マックスとかターミネーターみたいな近未来系肉体派かな?
気になるお値段は$400,000、日本円で約4,300万円!
使う(使える)人も選ぶけど、購入できる人も選ぶ時計ですな。
お金持ちで肉体派のあなたにお勧めね!(笑) 

MB&Fというメーカーは、非常にユニークなデザインを採用していて、見ているだけで楽しくなってしまう時計がたくさんあるんだよ。
どうしても1つだけに絞れなかったので、一挙に3つ紹介してみよう。
まずは「HM3 frog」だよ。
見た目がカエルに似てるから、この名前がついたんだろうね。
左目にあたる部分が時間(hour)で右が分(min)を表示しているね。
お値段は$92,000、日本円で990万円だよ!
このデザインが突然袖口から覗き見えたら、ギクッとしそうだよ。
何か腕に生物が寄生しているみたいだもんね。(笑)

同じくMB&Fから「HM4 Thunderbolt」のご紹介。
サンダーボルトとは雷って意味だよね?
まるで飛行機のエンジン部分を腕にはめているような感覚で、このまま空を飛べそうじゃない?(笑)
ツインポッドの右側が時間で、左はパワーメーターみたい。
さて気になるお値段は?
$134,239って随分半端な金額だけど、日本円で約1,445万円!
それでも飛行機好きやパイロットに憧れている人にとっては、垂涎の的だろうね!
まさにコレクターズ・アイテムといえる逸品だよ。

MB&Fは本当に面白いデザインが豊富だよね。
蜘蛛を形どった「Arachnophobia Black Model」だよ!
SNAKEPIPEはこの時計に一目惚れ。(笑)
六本木ヒルズに鎮座まします「ママン」みたいだよね。
どうやらこれは腕時計じゃなくて、壁に這わせるタイプみたい。
オブジェとして使用できるってことだね!
お値段は$12,742って、またもや半端なんだけど、日本円で約1,370万円!
実用的なアート作品と考えたら、そこまでの金額じゃないかも?
SNAKEPIPE MUSUEUMでの購入を検討してみようか。(うそ)

このデザインもかなりインパクトあるよね。
スイスのメーカー、Cabestanが製造販売している「Winch Tourbillon Vertical Watch」というらしい。
時計のサイドにあるレバーとウインチを手動で操作することで、ロープやチェーンをドラムに巻きつけ動力にしているとのこと。
そんなにシンプルな作りに見えないんだけど、自分で動かすというのも魅力につながるよね。 
どうやら宝石もあしらわれているようなので、きっと高額なんでしょう。
$275,000、日本円で約2,960万円!
ひゃー、マンションが購入できる金額になってきたよ。
本当にカッコ良いデザインなので、思い切って購入するか!(笑)

最後はこちら!
スイスの高級時計ブランドRichard Milleの「RM50-02」だよ!
厚みのある、ずっしりした重量感。
そして文字盤の下に見える複雑なぜんまい仕掛けの数々。
このデザインを見るだけでも興奮気味のSNAKEPIPE。(笑)
インダストリアル好きにはたまらないね。
30本限定で販売されたという、こちらのお値段$1,000,000、日本円でなんと1億770万円!
ついに億超えの時計になっちゃったよ。
この時計を手に入れた30人って一体誰なんだろうね?(笑)

今回は「収集狂時代」で時計を特集してみたよ。
世界には様々な逸品があることを再認識したね。
時計はまだ他にも素敵なデザインがあるので、またいつか紹介してみよう! 

ビザール・チャーチ選手権!35回戦

【チャーチが入ったタイトルの曲といえばこれかな】

SNAKEPIPE WROTE:

先日電車の中吊りに目をやると、飛び込んできたのは「BIZARRE」の文字。
ビザールと聞くとつい反応してしまうSNAKEPIPE。
それは雑誌「BRUTUS」の広告で「BIZARRE PLANTS」を特集しているというものだった。
「BRUTUS」とは、1980年から現在に至るまで刊行されている男性向けの雑誌のこと。 
「都市で生活し、時にはアウトドア・ライフをも楽しむ大人の男の雑誌」というスタンスらしいので、自宅で変わった植物を育てる、というのもアリなのかもしれない。
都会のベランダで植物に熱中する男といえば「植物男子ベランダー」を思い出すね。
田口トモロヲ主演の面白いドラマなんだけど、何故だかDVDになってないの。
こういう作品を商品化して欲しいんだけどねえ。
「BRUTUS」に話を戻すと、そんなアーバンライフを満喫するシティ派(死語の連発)の雑誌で「ビザール」なる言葉が採用されるとは意外だよ。
ビザール系の記事ならROCKHURRAH RECORDSが得意だからね。(笑)
今週は絶対、「ビザール・グッズ選手権」の記事を書こうと心に決めたSNAKEPIPEである。(おおげさ) 

「BRUTUS」への対抗意識から、記事を書くことに決めたけれど、さて題材は何にしようか?
ここで思い出したのが、先週書いた「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」で印象的だった祭壇である。
祭壇から連想したのは教会。
もしかしたらビザールな教会、あるんじゃないかな?

なんでしょうか、このカラフルな動物たちは!
これはモロッコのユスーフィーアにある教会で、スペインのアーティスト、Okuda San Miguelによって描かれたらしい。
ストリート・アーティストを支援して、古い教会を一新させるというブリティッシュ・カウンシル(英国文化振興会)によるプロジェクトだったようで。
サンミゲルのアートワークによって、教会は以前とは大きく見目姿を変えたことだろうね。(笑)
SNAKEPIPEが持つ教会のイメージは慎ましやかで清貧なんだけど、これは全く趣が違うよ。
恐らく現在も教会としての役割を果たしているようだけど、ポップな教会でも礼拝が行われるんだろうか。
いつでもカーニバルが開催されそうな雰囲気だよ。(笑)
オクダ・サンミゲルというアーティストは、こういった色とりどりの幾何学パターンを使用した作品が有名なようだね。
それにしてもどうして「オクダ」なのか、よく分からなかったよ。
本名ではないみたいなんだよね。

動物つながりで選んだのがこれ!
鳥の形をしている教会があるなんてびっくりだよね。 (笑)
インドネシアのジャワ島中部、ジャワ州の都市マゲランにあるという。
1990年に神の啓示を受けたダニエル・アラムシャなる人物が建造したという話だよ。
啓示によってこのデザインに決めたのか、調べてみたけどよく分からなかったよ。
現在は教会としての機能はなく、観光名所になっているらしい。
森の中に巨大な鳥モチーフの建造物があるなんて、廃墟マニアだけじゃなくても観てみたいもんね!
HPもあり、ツアーまで組まれているので人気がある場所みたいだよ。
ボロブドゥール遺跡の近くのようなので、ちょっと足を伸ばしてみるのも良いかも。(笑)

チキン・チャーチに続いて紹介するのは、こちらも驚きの場所にある教会だよ!
なんと地下にあるんだよね!
これはフィンランドのヘルシンキにあるテンペリアウキオ教会で、スオマライネン兄弟の設計により、1969年に完成したものだという。
岩をくりぬいて建てられていて、音響効果が抜群なのでコンサート会場にもなっているとは驚きだよね。
上からみると、あまり教会の雰囲気はないけれど、内装をみると荘厳な雰囲気がよく分かるよ。
色合いの美しさも際立っているね。
かなり有名な観光地らしく、ひっきりなしに観光客の出入りがある、なんて記事を発見したよ。
そう聞くと、ちょっと興醒めしてしまうけど、ユニークな教会であることは間違いないね。

こちらもかなり個性的な教会ね!
1400年に建造されたチェコ共和国プラハにあるKostnice Sedlecという教会なんだよね。
ここは元々墓地で、教会は墓地の中央に建てられたらしい。
1870年に教会を購入したシュヴァルツェンベルク家は木彫家フランティシェク・リントに人骨を使用した内装を依頼したという。
1万人分の人骨が使用されているという、この建造物、ゴシックだよねえ!
シュヴァルツェンベルク家の紋章まで骨で作られていて、人骨使用の意図が読めないよ。
こちらもプラハからのツアーが組まれていて、観光地になっているみたい。
フランスのカタコンベ同様、怖いもの見たさの人が多いんだね。
SNAKEPIPEもちょっと興味あるけど、悪夢にうなされるかもしれないな。(笑)

最後はこちら!
なんと、戦車の上に教会が建っているよ。
これはアメリカ、ミズーリ州出身のChris Kuksiというアーティストの作品なんだよね。
1973年生まれというから、現在46歳くらい?
「Church Tank」という作品は2007年頃から制作しているみたいだね。
4×12×10という大きさだとすると、約10cm×30cm×25cmなので、置物サイズ。
今回の特集に入れるのには少し無理があるみたいね。(笑)
バロック様式の教会と重装甲戦車を組み合わせることで、どんな印象を受けるかな。
相反するイメージのミクスチャーは、違和感があって印象に残るよね。
どんなメッセージが込められているかは分からないんだけど。
Chris KuksiのHPで、人物をゴシック調に仕上げた彫刻を見ることができる。
かなりグロテスクで、良い感じ!(笑)
ギーガーみたい、というROCKHURRAHの感想もよく分かるね。
SNAKEPIPE MUSEUMのコレクションに加えたい作品だよ!

今回はビザールな教会を集めてみたよ!
検索したのは「church」なので、別の機会に「temple」とか「shurine」のビザールも探してみようかな。
今度はどんなビザールに出会えるのか?
次回もお楽しみに!

クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime 鑑賞

20190707 top
【国立新美術館前の看板を撮影。ワンパターン!】

SNAKEPIPE WROTE:

7月5日はROCKHURRAHの誕生日!
おめでとうございます!(笑)
プレゼントはもう渡してあるので、当日には何かイベントにご招待してみようかな。
現在開催されている展覧会の中で、面白そうな企画を探してみる。
せっかくなので、今まで目にしたことがない作品を鑑賞してみよう、と提案したのが国立新美術館で開催されている「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」である。
SNAKEPIPEは初耳のアーティストだけど、世界的に有名な方のようだね?

1944年 パリで生まれる
1968年 短編映画を発表
1972年 ドイツのカッセルで開かれた国際現代美術展のドクメンタに参加
1990年代以降 大規模なインスタレーションを数多く手がけるようになる
1990–91年 ICA, Nagoyaと水戸芸術館で個展を開催
2010年 「瀬戸内国際芸術祭」(香川)が開かれた折には《心臓音のアーカイブ》を豊島に開館する
2001年 ドイツでカイザーリング賞を受賞
2006年 高松宮殿下記念世界文化賞を受賞
現代のフランスを代表する作家として知られる。 (展覧会HPより抜粋)

1944年生まれというと、今年75歳。
3週間前に書いた「B29と原郷-幼年期からウォーホールまで」の横尾忠則も82歳だし、皆様年齢に負けず現役を通しているアーティストなんだね。
さて、今回のボルタンスキー、一体どんな作品を制作しているんだろうか。

自他ともに認める雨男のROCKHURRAHには珍しく、六本木に向かうROCKHURRAHとSNAKEPIPEは傘をさしていなかった。
この日は風もあり、少し涼しく感じる気温。
夏生まれなのに夏が苦手なROCKHURRAHにとっては、最高のお出かけ日和だったよね。
少し早めの夕食を取り、「おめでとう」の乾杯はスパークリングワイン。
美味しいご飯の後、美術館に到着したのは18時半頃だった。
美術館によっては週末の閉館時間を遅らせているので、夜でも大丈夫なんだよね!
こんな時間から美術館に行くのは、ROCKHURRAH RECORDには珍しいことだよ。
国立新美術館前の看板を撮影するのが定番なので、同じような角度から撮影しておく。
おや?同時開催されているのはエゴン・シーレなんだ?
上野の東京都美術館では、7月10日までクリムト展やってるんだよね。
なにこれ、突然ウィーン・ブーム到来なの?(笑)
それにしてもこれで雨だったら、ヒカシューの「雨のミュージアム」がぴったりだったのになあ! 

♪エゴン・シーレのポーズを真似て、首をかしげた〜♪
TOP画像で人物の首が傾いてるの、分かるよね?(笑) 

夜のせいか、美術館内は普段よりもずっとお客さんが少ない。
館内の照明が最小限しか点いていなかったため、ガランとした空間が余計にひっそりとしている印象だよ。
受付の女性、怖くないのかな?(笑)
ボルタンスキー展は2階展示会場で開催されていた。
チケット売り場の脇に撮影に関する注意があった。
エリアによって撮影が許可されているらしい。
まずは入ってみよう!

最初に展示されていたのは「L’homme qui tousse」、「咳をする男」という1969年のビデオ作品だった。

本当に延々と咳をしているだけの作品とは!
泥をぬりたくったような顔が、まるでデヴィッド・リンチの娘、ジェニファーが監督した「サベイランス」(原題:Surveillance 2008年)に出てきたのに似てる!
世界一カルトな親子の作品!Surveillance鑑賞」で確認してちょ。
この作品を観た時、これから先の作品鑑賞に不安を感じたSNAKEPIPE。
果たしてこの予感は正しかったのだろうか?(笑)

撮影ができるエリアは、会場の終盤近くだけだったため、自分で撮影した画像以外も載せているので、よろしくね!
洋服の周りにライトを配置した作品を何点か確認したよ。
遠くから見ると矢印(↑)みたいなんだよね。
この作品で思い出したのは、オノデラユキの「古着のポートレート」。
オノデラユキについての解説を載せておこうか。 

モンマルトルのアパルトマンから見える空を背景に、約50点の古着を撮影した初期の代表作品。
古着は、クリスチャン・ボルタンスキーが1993年にパリで開催した個展「Dispersion (離散)」で展示されたもので、来館者は山積みされた古着を10フラン払って袋一杯持ち帰ることができた。
オノデラは、ボルタンスキーが大量死の象徴とした古着を、一点ずつ窓辺に立たせることで、個としての存在に引き戻し、身体なきポートレートとしてまるで空に飛び立つように軽やかに提示した。

ここでつながるとは思ってなかったのでびっくり!
実を言うとオノデラユキの作品がどうして評価されるのか不思議だったんだよね。
今になって初めて意味がわかったよ。(笑)

家に欲しくなるほど気に入った作品がこれ!
「Théâtre d’ombres」、影の劇場とでも訳すのか、 1985-1990の作品である。
インドネシアの影絵芝居「ワヤン・クリッ」のような、ぺったんこのモビールが揺れる作品で、光の当たり方で影に変化が起こる。
1つ1つのモビールが面白くて、観ていて飽きない。
どうしてこのモビールをミュージアム・ショップで販売しないのかなあ。
チープな紙製だったとしても、欲しいと思う人多いだろうけど。
毎度のことながら、ショップには似たようなアイテムが揃っていたよ。
作品の動画があったので、これも載せておこう。

祭壇をイメージしている「Monument」、モニュメントは1986年の作品で、この手の人の顔と電球を組み合わせた作品が続いている。
いくら笑顔の写真が飾られていても、これらの人達が現在も幸せに生きているようには見えないんだよね。
供養しているにも見えるし、猟奇殺人犯が勲章のごとく誇らしげに 戦利品として飾っているようにも思えてしまう。
これはきっとSNAKEPIPEがつい、シリアルキラー系に結びつけてしまうせいだろうね。

人の顔と電球で構成されている作品から感じるのは、強烈な死のイメージ。
最初にも書いたけれど、ROCKHURRAHとSNAKEPIPEは、ボルタンスキーについて何の知識も持たないで作品鑑賞をしている。
そのためボルタンスキーが、ナチスの影に怯えた少年時代を過ごしていたことを知らなかった。
使用されているのは当時の人々の写真なのかな。
たくさんの死者に囲まれている気分がして、なんとも言えない居心地の悪さだよ。
電球のコードが人物の顔にかかっているところが、不気味さを増している。
コードまで含めて作品なんだね。

画像は実際に展示してあったのとは違うバージョンだけど、1996年の「Veroniques」(ヴェロニカ) という作品は、まるで「ツイン・ピークス」のローラ・パーマーみたいだったよ!
ローラはビニールにくるまれていたけど、こちらは薄衣で包まれている死体のようだったね。
ずっとこの調子で展覧会が進行していくんだろうか。
喜怒哀楽でいうと「哀」で、生老病死だったら間違いなく「死」なんだよね。

ずっと照明が落とされた会場を歩いていたので、カラーの大型画面が登場すると、急に目の前がパッと開けた状態になる。
3つの映像で構成される「Misterios」(ミステリオス)は2017年の作品とのこと。
大型スクリーンは撮影可能エリアに指定されているので、ROCKHURRAHがパノラマ撮影してくれたよ。
左には横たわったクジラの骨、中央にボルタンスキーが作成したラッパのようなオブジェ、右には海上の様子が映し出されている。
このラッパのオブジェが展覧会のフライヤーでも使用されていたんだけど、一体何なのか不明なんだよね。
どうやらクジラを呼ぶための装置で、「世界の起源を知る生き物とされている、鯨とのコミュニケーションを図ろうとする試み」だという。
意味が不明でも、巨大ラッパのフォルムの美しさだけで十分アートだと思ったよ!

2013年の作品「Les Esprits」 の邦題はスピリット。
魂、ということで良いみたいだね。
天井から吊るされたヴェールにプリントされた顔は100枚以上とのこと。
これもまた死者のイメージだよね。
「さまよえる霊魂を呼び起こす」と解説に書いてあるし。
撮影可能な作品だったので、何枚か撮影してみたけれど、画像からスピリットを感じることはできるかな?

「白いモニュメント、来世」は、今回の展覧会用に制作されたという。 
まあね、思いっきり漢字で「来世」って書いてあるし。(笑)
前に立った時、「プッ」と吹いてしまったSNAKEPIPE。
日本の盛り場で見かけるネオンのようで、「スナック 来世」とかありそうじゃない?
ボルタンスキーが、ウケを狙って制作したとは思えないけど、ROCKHURRAHと笑ってしまったよ。
2012年に鑑賞した「好き好きアーツ!#16 DAVID LYNCH—Hand of Dreams」では、リンチが空中に「愛」と「平和」を漢字で書いている個展を案内する動画があったことを思い出す。
何故外国人が漢字を使用すると、本人がいかに大真面目であっても、コミカルに映ってしまうのか。
不思議だよね?

「来世」を抜けたら「黄昏」が待っていたよ。
ここで撮影をしようとスマホを構えた瞬間、係員が駆け寄ってきた。
「撮影できるのは『来世』までです」
作品名を言っているのは分かるけど、言葉として捉えると変だよね。(笑)
電球が床に置かれた作品で、じっくり観ると消えている電球がある。
ははーん、これは生と死だな、と単純に想像してみた。
あとから解説を読むとその通りだったようで、毎日3つずつ電球が消えるようにしているらしい。
死に向かっている状態を表しているというのは、よく分かった。
電球しか使用していないのに、SNAKEPIPEにも分かる表現だったのは、「黄昏」に至るまでの作品展示だろうね。

ここまで死を意識させられる展覧会を鑑賞したのは初めてかもしれない。
まさにメメント・モリ(死を忘れるな)のオンパレード!
ナチス・ドイツによるホロコーストが作品の根底にあるテーマだと知らなくても、濃厚な気配や深い静寂から死の世界を垣間見た気がする。
それは錯覚だと分かっているけれど、今まで経験したことのない「ぞわぞわ」した居心地の悪さは恐怖だよ。
現代アートを鑑賞して、怖いと思うことは少ないよね。(笑)
こんな作品を制作しているボルタンスキー本人のポートレートが、笑顔だと違和感あるなあ。

ボルタンスキーがフランスを代表する現代アーティスト、というのは何故なんだろう。
強烈な印象を残すことは確かだけど、好き嫌いが分かれるアートのように感じたからね。
フランス人はよくシニカルで気取り屋と聞くし、美の意識が特殊なのかもしれないと思ったことが度々ある。
SNAKEPIPEが知っているのは、マルキ・ド・サドやアルチュール・ランボーのような文学だったり、ゴダールやトリュフォーといった映画監督の作品かな。
学生時代から親しんできたのは、フランスの古典(かな?)なんだよね。
もちろん現代アーティストの作品にも触れているはずだけど、独自の文化を持つ国というイメージがある。
その中にボルタンスキーが入ると、「すんなり」受け入れることができる気がするんだよね。
SNAKEPIPEの勝手な解釈だけど、芸術の許容範囲が広いように思うから。

ROCKHURRAHの誕生日に、「死」を意識する展覧会を鑑賞するとは。(笑)
また色んな展覧会、一緒に行こうね!