好き好きアーツ!#34 鳥飼否宇 part12 –桃源郷の惨劇&密林–

【ROCKHURRAH作。桃源郷の惨劇(上)と密林(下)のイメージ画像】

SNAKEPIPE WROTE:

鳥飼否宇先生の旧作を再読し、感想をまとめていくシリーズ第3弾!
「桃源郷の惨劇」と「密林」はどちらも2003年発表の「観察者シリーズ」である。
今までに何度か説明させて頂いているけれど、「観察者シリーズ」とは大学サークルの野生生物研究会に所属していた4人が、卒業して20年近く経っても連絡を取り合い、奇妙な事件に巻き込まれる話である。
ところが今回登場するのは「観察者シリーズ」での探偵として活躍している鳶山久志、通称トビさんだけ!
読み慣れている「観察者シリーズ」とは違った雰囲気だよね。
「桃源郷の惨劇」が「観察者シリーズ外伝」として位置づけられているのはそのせいかな?
それでは「桃源郷の惨劇」の感想をまとめていこう!

「桃源郷の惨劇」は鳥飼先生の作品の中で、かなり短い小説である。
文庫本でページ数が137ページ!
日本を飛び出して海外を舞台としているため、内容的にはスケールの大きな作品なんだけどね!

簡単にあらすじをかいてみよう。
テレビ局の制作会社が、イギリスの新聞に載った新種の鳥「ミカヅキキジ」の記事を発見したことから、未知の生物を追う企画を発案する。
未知の鳥が発見されたのはパミール高原近くの、昔ながらの生活を守っている人々が暮らすトクル村。
春になるとトクル村には一面花が咲き誇り、天国かと見間違うほどの美しさだという。
更に住人達の顔が日本人に似ていることも含めて、企画はすんなり通り、
テレビ番組として放映すべく、スタッフがその村に向かうのである。

そのトクル村を表現するのにパラジャーノフの名前が出ていたことに驚く。
つい先日のブログ「映画の殿 第16号」でタルコフスキーについて書いた時に、パラジャーノフのことも書いていたからね。
以前もブログで「東京グラン・ギニョール」について書いたのと同時期に、鳥飼先生の新作に「東京グラン・ギニョール」の創始者である飴屋法水の名前があってびっくりしたっけ。
こういうシンクロはとても楽しいよね!(笑)

「観察者シリーズ」の主メンバーであるトビさんは、今回の番組制作を請け負った制作会社の代表でありディレクターの肩書きを持つ男の知り合い、という役どころ。
野鳥に関する知識の豊富さから、同行することになったのである。

通常の「観察者シリーズ」では、ネコこと猫田夏海の主観が文章化されて話が進んでいくけれど、「桃源郷の惨劇」に猫田夏海は登場していない。
そのためクルーの一人が思ったことや、「○○はそう思った」のような状況説明している三人称の文章になっているんだよね。
以前からトビさんと面識があるのはディレクターだけで、他のクルーとは初対面なので、「なにこのボサッした人は?」程度の印象しか持たれていない。
文体のせいもあって、余計にトビさんらしさが見えてこないみたいね。
確かに「桃源郷の惨劇」のトビさんは、「中空」で登場して以来、すっかり知り合いの気分になっている人物とは別人のようである。
もちろん生物に関する知識は豊富だし、大抵の物事に動じない姿勢は相変わらずだけど。
今回はクルーに同行している脇役だし、登場するシーンも喋っている場面も少ないので仕方ないかな?
生物研究会のメンバー達と接している時とは違うトビさんは、クルーが感じたような「正体不明のボサッとした人」になっちゃうんだろうね。
「観察者シリーズ」ファンから見ると、少し物足りないけどね!

テレビクルーは、村人に対しては村の生活を紹介するための取材と偽り、本当の目的はミカヅキキジの撮影だったため、秘密裏に行動していた。
そこで惨劇が起こるのである。

それにしても!
ミカヅキキジがクルーの想像に反して、ものすごく地味で華やかさに欠ける種類だったというところで笑ってしまった。
未知のものに対して、きらびやかで美しい想像をしてしまうのは何故だろう。
実際、読み進めていたSNAKEPIPEも、手塚治虫の「火の鳥」や極彩色の孔雀のような鳥を想像してたもんね。(笑)
ROCKHURRAHはあえてTOPの画像で鳥を極彩色にしたらしい。
「こうあってほしい」という願望なのかな?(笑)

「桃源郷の惨劇」でもう一つ興味深かったのは、辺境の村では新しい血を求めているという箇所。
自分が考える常識とは明らかに違う物であっても、土地によって知恵や習慣があるからね。
この手の話を聞くと、つい「エル・トポ」の洞窟の中を思い出してしまうね。
濃すぎる血がもたらす結果が、あの状態だからね。

「桃源郷の惨劇」は「観察者シリーズ」の中では今のところ唯一の海外を舞台とした小説で、今まで知らなかったトビさんの一面を垣間見ることができるという点が特徴かな。
トビさんが小説を書くところなんて、本当に意外だからね!(笑)
トビさんの小説、面白かった!
あの小説の部分はどのようにして組み立てられるんだろう?
鳥飼先生のご苦労が偲ばれます!

続いては「密林」について感想をまとめてみよう。
こちらの舞台は沖縄の「やんばるの森」。
「やんばるの森」というのは、アメリカ海兵隊の基地である「北部訓練場」を含む森林地帯だという。
ROCKHURRAHの故郷である九州に上陸したのですら2007年であるSNAKEPIPEにとって沖縄は全く足を踏み入れたことのない場所で、地名やら場所についての知識も皆無なんだよね。
そのため「やんばるの森」というのも初めて目にした次第、米軍基地の具体的な場所についても知らなかった。
狭い日本、なんて言われていても実際に行ったことのない知らない場所がたくさんあるよね。

「密林」は昆虫採集を目的とした2人組、松崎と柳澤が「やんばるの森」で悪戦苦闘しているシーンから始まる。
必死に探しているのはオキナワマルバネクワガタ、通称オキマルの幼虫。
昆虫ブリーダーとして生計を立てるため、なるべくたくさんの幼虫を見つけようとしているのである。
うーん、これは危機!「幼虫の危機」だね!(笑)

危機に陥るのは幼虫だけじゃなくて採集していた2人組も、なんだよね。
前述したように「やんばるの森」には米軍基地があり、松崎と柳澤が米兵に遭遇してしまうのだ!
実は2人が幼虫採集していたのは米軍基地内の森だったんだよね。
不法侵入していた松崎と柳澤は米兵に追われ、逃げることに。
他にも「やんばるの森」には違う目的を持った人物がいた。
イノシシ猟の狩人、渡久地である。
渡久地の目的は一体何なのか?
米兵に追われた松崎と柳澤の運命はどうなっていくのか?!

最後のほうは駆け足で簡単なあらすじにしてみたんだけど、Amazonの商品説明のほうがもう少し突っ込んだ内容になってるみたいだね。(笑)
コピーして貼付けるのは安直過ぎるので、自分の言葉にするとこんな感じかなあ?
ただし、「宝」や「暗号」というキーワードを全く入れないのは、「密林」の魅力を伝え切れていないことになりそうだよね。
そうです、「宝」があるんですっ!
そして「宝」の場所を示す地図と共に「暗号」があるんですっ!
更に追加するならミステリーでお馴染みのダイイング・メッセージも出てくるんですからっ!(はぁはぁ)
更に更に渡久地の猟犬は名犬ノブヒデの息子との記述もあるんだよっ!
ノブヒデ!
「中空」では飼われていたイノシシの名前だったよね。
鳥飼先生にはノブヒデに関する思い出があるのかもしれないね?(笑)

「密林」は自然界を舞台にしたミステリー、「観察者シリーズ」の醍醐味を存分に発揮した小説なんだよね!
SNAKEPIPEが強烈に恐怖を感じたのは、その自然。
気象条件、生物、地形に加えて、迷ったら出られない迷路のような状況。
何度かブログには書いているけれど、かなり重症の方向音痴のため、手に汗握る気分で読み進めていたんだよね。
他人事とは思えない臨場感があったのは、鳥飼先生の文章力はもちろんだけど、方向音痴で道に迷ったことがあるからだと思う。(笑)
以前ROCKHURRAHと雪が積もった青木ヶ原樹海を歩いたことがあった。
あの時は全てが真っ白に覆われていて、見えるはずのロープが全く見えず、ものすごく不安になったことを思い出す。
遠くに駐車していたトラックが見えた時の安堵感。
ああ、人がいるところに出た、と緊張がほぐれったっけ。

「自然を守ろう」というスローガンは聞き慣れているけれど、「守る=人間が近寄らない」という意味ではないんだよね。
自然に関する正しい知識を得て、ルールを守ってこそ「自然を守ろう」になるはずなのに、その部分は割愛されてることが多い。
先日観た「キングスマン」には、「自然を守ろう」の極論が提出されていて、大きく頷いてしまったSNAKEPIPE。
映画の中では「悪」とされていたアイデアだけど、現実に選択肢として入っていても良いように思ったよ。
未見の方、意味不明な文章でごめんなさい。
DVDになったら是非観て、感想をお寄せください!(笑)

トビさんの登場はかなり後になってからなので、途中で「密林」が「観察者シリーズ」だったことを忘れてしまった。(うそ)
トビさんは相変わらず物事に動じることなく、アマミヤマシギの観察をしている。
「密林」で大笑いしてしまったのが「名もなき花」に関するトビさんの見解だね。
「名もなき花」は新種だ、という。
だからそんな言い回しはおかしい、というのである。
おっしゃる通り!(笑)

もう一つはトビさんの先端恐怖症を表す箇所。
「中空」で明らかになっていたナイフ類が大の苦手という特徴は、「密林」でも怒りの形で表現されていた。
トビさん、嫌いなものがあると気が立つんだね。(笑)
怒りにまかせてまくし立てるトビさんは、かなり迫力あるだろうね。

「暗号」も「ダイイング・メッセージ」もトビさんが解いてしまう。
途中でネコこと猫田夏海に電話をして、ヒントを調べてもらうシーンがあったね。
そのおかげで「宝」のありかも判明。
最後はめでたし、で終わりになるんだけど、ちょっと不満も残る。
運命と言ってしまえばそれまでだけど、かわいそうに感じてしまったからね。

2作品とも読んだのはかなり昔、調べてみたら2007年「4冊でもご本」に写真を載せてたね。(笑)
8年も前だとぼんやりとした記憶しか残っていなくて、読み進めていくうちに「そうだった」と思い出していたSNAKEPIPE。
次は「樹霊」の予定だけど、こちらもまた薄い記憶!
また感想をまとめたいと思っている。

2 Comments

  1. 鳥飼否宇

    いやあ、懐かしいですねえ(遠い目)、『桃源郷の惨劇』。タジキスタンを舞台にしたのは、そんなとこ行ったことのある日本人はほとんどいないだろうから、少々記述があやふやでも、読者に指摘されることはないだろうと考えてのことでした。まさか安倍首相が訪問する時代が来るとは思いませんでした。資料も乏しく、ええい、グルジアだってそんなには変わらないだろうと、パラジャーノフ映画のシーンを援用したのでした。しかし、最後のバカミス的な趣向は蛇足でしたね。『密林』の暗号もちょっとねえ……。ポーの「黄金虫」へのオマージュとはいえ、オチがまんまコガネムシですからねえ。

  2. SNAKEPIPE

    鳥飼先生、いつもコメントありがとうございます!
    とても嬉しいです。(笑)

    先生の旧作、楽しく再読しています。
    今まで一度読んだ本を再読したことは少ないのですが、鳥飼先生の著作はやっぱり特別なんですよね!(笑)
    また感想書かせて頂きたいと思います。
    今後ともどうぞよろしくお願いします!

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