好き好きアーツ!#44 鳥飼否宇 part18−激走&T-REX失踪−

【今回のブログ用にROCKHURRAHがプロモビデオを作成(意味不明)】

SNAKEPIPE WROTE:

大ファンであるミステリー作家、鳥飼否宇先生の作品を再読し、感想をまとめていく「トリカイズム宣言」!
前回は鳥飼先生の綾鹿市シリーズより「逆説的」を書かせて頂いた。

「綾鹿市シリーズ」で、まだまとめていないのは「本格的」と「官能的」だね。

と最後に書いていたけれど、今回は鳥飼先生の「ノンシリーズ」から2作品について書いていきたいと思う。
「ノンシリーズ」とはシリーズの名前ではなく、シリーズ化されていない=単独作品という意味なんだよね。
「ノンシリーズ」では例えば「昆虫探偵」や「異界」など、鳥飼先生の世界観を満喫できる素敵な作品があって、以前感想をまとめさせて頂いている。
鳥飼先生の「ノンシリーズ」も大好きで、どの作品も続編を待ち望んでいるSNAKEPIPEなんだよね。
はっ、続編ができたとしたらもう「ノンシリーズ」とは言えなくなるのかっ! (笑)

では「 激走 福岡国際マラソン」から始めようか。
2005年に発売された時には副題として「42.195キロの謎」が入っていたけれど、文庫化された2010年には現在のタイトル「激走」になっているようだね。

2007年師走、福岡国際マラソン。
トップランナーの思惑、ペースメーカーの野望は交錯していた…。
マラソンを舞台に駆け巡るノンストップ・ミステリー。

販売しているページから簡単なあらすじを引用させてもらったよ。
福岡国際マラソンの間に事件が起こるなんて、前代未聞のミステリー小説だよね。
テレビ中継もされているし、沿道には人が大勢いる場所で?
そんなあり得ないような状況を舞台にしたのが「 激走」なんだよね!

ちなみに左の画像が「福岡国際マラソン」のコース。
昔ROCKHURRAHが住んでいたという姪浜や、SNAKEPIPEも多少は知っている地名が並んでいるね。
きっと鳥飼先生にも馴染みのある場所がたくさんあることでしょう!

SNAKEPIPEは学生の頃から運動が苦手で、できれば体育の授業は見学していたいタイプだった。
子供の頃から読書や絵を描くのを好む、いわゆるインドア派!
そんなSNAKEPIPEが唯一(?)運動で賞を獲ったことがあるのが、マラソンだった。
SNAKEPIPEが通っていた小学校では、毎年冬にマラソン大会が行われていた。
完走するのが目的の、心身を鍛えるのが目的の恒例行事だ。
何故だか覚えていないけれど、その年のSNAKEPIPEはアイデアがあった。
スタートの合図でダッシュし、先頭のチームに入り、そのままゴールまで走る作戦である。
走り続けるのは誰にとっても苦しいもの。
途中からスパートをかけて先頭集団に追いつくのは難しいけれど、最初から先頭にいれば多少の遅れは取り戻せると考えたのである。
結果は10位以内に入る自己ベスト!(笑)
家の中にいるのが好きな子にしては、上出来だよね。

子供だったSNAKEPIPEが考えついた作戦だけれど、実際に同じように考えるランナーもいるようだ。
「激走 」はマラソンを題材にしたミステリー小説だけれど、SNAKEPIPEが感じた一番の醍醐味はランナー達の思惑だった。
自分の体調とペース配分のバランスを取りながら競争相手との駆け引きを考える。
それぞれのランナーが考えていることが文章化されているのが、非常に興味深かった。

テレビのアナウンサーがランナー達の状況を伝える。
実際にレースを観戦しているような気分でページをめくっていく。
思惑を覗かせてくれるのは市川尚久、ペースメーカーとしてレースに参加している。
「激走 」を読むまでペースメーカーの存在を知らなかったSNAKEPIPE。
「高水準かつ均等なペースでレースや特定の選手を引っ張る役目の走者のこと」とWikipediaに書いてあるように、先頭を走る目的で採用されているんだよね。
もちろんそれなりの実績がないと採用されないし、そのまま走って優勝しても良いらしい。
ペースメーカーの市川は「ある思い」を持って走っている。

2人目は小笠原寛明、日本期待の優勝を狙うランナーである。
この小笠原は学生時代にアイアンマスクと影で呼ばれていたほどの冷酷無比な人物だ。
自分のことしか考えない利己主義な性格のため、どんな手段を使っても他人を蹴落とし自分の利益を優先させる。
この小笠原の思惑も描かれていて、こうした人物の物の考え方を知るのは興味深かった。
これくらい強気じゃないと世界に立ち向かえないだろうな、と思ったよ。

ここまで利己主義を全面に打ち出す日本人は少ないし、かなり極端な例だから全面的に賛成するとまでは言わないけれど、実はSNAKEPIPEは小笠原の気持ちが分かるんだよね。
例えば駅伝だったら、メンバー全員の総力で100にしようと考える日本人が多いんじゃないかな?
小笠原の考えでは各メンバーがそれぞれ100を出し合って、総計で600にしようとする「個人の力」重視なんだよね。
チームプレーの考え方自体が違うので、小笠原が浮いてしまうのは理解できる。
そしてSNAKEPIPEもROCKHURRAHもこのタイプなので、幼少期から単独行動派!
個人作業を好む傾向にあるので、「みんなで頑張ろう」のようないわゆる日本人的な集団とはソリが合わないことが多いかも。(笑)
何年か前にサッカー選手の本田圭佑が似たコメントを話していたように記憶しているけれど、本田圭佑の意見に同意できない人が多数いたもんね。
小笠原や本田に共感できる人は、なるべく個人で行動したほうがベターだろうね。
小笠原は駅伝をやめて正解だったみたいね。(笑)

日本人選手の中では他に優勝候補として、ナルキッソス化粧品の二階堂公治がいる。
まるでアイドルのようなルックスで、女性ファンが多いらしい。
ちやほやされる様子は、他の選手には苦々しくうつっている。
福岡出身、地元の谷口鉄夫にも声援が多い。
全国的には二階堂ファンが圧倒的に多いだろうけれど、さすがに地元では谷口が優位に立っている。
「谷口、男ば見せちゃらんね」
さすがに博多らしい応援だよね。(笑)

市川尚久の後輩である在日韓国人の洪康彦も良い位置で走っている。
国籍の問題で、日本でも韓国でも差別やいじめを経験してきたらしい。
どこの国の人間か、なんて問題じゃない。
「俺は俺なんだ」というアイデンティティも欲しかっただろうし、市川尚久への憧れもあり、洪は厳しい練習に耐え実力を付けて福岡国際マラソンに臨んでいるのである。

一般参加の選手もいる。
ペースメーカーを希望したけれど、過去の実績と面接で落選した岡村雪則である。
応募の動機が「目立ちたい」だったという、これまた変わったタイプの日本人。(笑)
人それぞれ何かしらの理由を持って大会に参加していると思うけど、ここまで単純な理由を軽々しく口にするとは!
岡村は我流走法でレースに臨んでいて、走り方に特徴があるという。
苦しそうな顔をして、隣を走るランナーの邪魔になるくらい肘を左右に振る独特のスタイルだという。
この特徴から、ROCKHURRAHが「ザトペック走法」を連想したという。
はしるーはしるー おれーたーちー!(爆風スランプ)
そして「ザトペック」というノイエ・ドイッチェ・ヴェレのバンドの曲をチョイスした、オリジナルのビデオを制作してくれた!
ザトペック走法というのが「人間機関車」と呼ばれていた、というところからビデオにはROCKHURRAHが連想した意味不明の映像も混ざっているんだよね。
ROCKHURRAHの連想だから、「これは何?」と聞いてやっとザトペックとのつながりが分かったシーンもいっぱいだよ!
オリジナル・ビデオ、短時間で良く出来てるよね。
さすがROCKHURRAH!(笑)

日本人選手だけでも、これだけの顔ぶれだけれど、実力が上なのは海外勢だ。
特にアフリカ勢には、過去にも好成績を獲得している最有力候補がいる。
緊迫するレース展開にどんどん引き込まれていく。

「激走 」はミステリー小説として括られているし、実際に事件が起こる。
ミステリー小説は謎の解明と共に犯人探しをするのが目的の場合が多いと思うけれど、この小説に関しては選手それぞれの思惑と、目が離せないレース展開が魅力だ。
もちろんミステリー部分も、ラストの大どんでん返しも見逃せないけどね!

続いては「人事系シンジケート―T-REX失踪」をまとめてみよう。
韻を踏んだタイトルは、まるで1つの決まった単語のように発音しやすい。
そしてそのタイトルが表している通り、主人公はおもちゃメーカーの人事部に所属する物部真治。
入社して3年の、まだ経験の浅い社員である。
人事部に所属しているとはいっても、実際には何でも屋のような仕事がほとんど。
その日も部長に呼び出された物部は、ある指示を受ける。
無断欠勤している総務部の女性社員、田尻優についての調査だった。
その司令が、あんな事件に発展するとは!

大手玩具メーカー・トリストイに勤める物部真治の名刺には、「人事部」としかない。
それは、普通の社員には解決できない特殊事案を「秘密裏に」担当するためだ。
そんな彼のもとに、社の命運を賭けた新商品<ハイパーT-REX>が盗まれたとの報告が!
極秘に捜索を進めるうちに、関係者の1人が謎の転落死を遂げる……

講談社ノベルスのあらすじを引用させてもらったよ。
特殊案件を処理できる能力を保持している物部だけれど、外見的に際立った特徴はないみたい。
人当たりは良いけれど、あまりパッとしない地味な男、という印象を持ったSNAKEPIPE。
物部は福岡県の大牟田の出身だ、というところが鳥飼先生の作品だよね!
不遇な子供時代の影響で、特殊能力が身に付いたらしい。
その物部を自分の部下に抜擢した、人事部の部長峯岸史子の能力もすごいと思ってしまったけどね!(笑)
部長である峯岸はショーカットに縁無しメガネをかけ、正義感に溢れた人物だという。
公正な判断力がある女性の上司というのは、あまり聞いたことがない気がするよ。
どうしても女性の場合は個人的な感情によって、相手に対して態度が変化することが多いようなイメージがあるんだよね。
SNAKEPIPEの偏見かもしれないけどね。(笑)
そんな上司の元で働ける物部は、恵まれていると思うよ。

この小説の魅力の1つは、キャラクター設定だと思う。
物部の先輩であり、社内一の美女とされる坂巻亜季は見た目とは裏腹に短気で勝ち気な性格だという。
凛とした美人というのならハンサム・ウーマンとして評価されるけれど、怒りっぽいだけの女性だと敬遠されちゃうだろうね?
何か心に問題があったり、ストレスを抱えているのかもしれないね?(勝手に分析)

調査対象である田尻優の同僚で、物部の調査に付き合うことになった東郷麻紀も総務部所属だ。
田尻も東郷も物部の一つ後輩にあたるという。
田尻は「令嬢」と呼びたくなるようなお嬢様タイプ、それに引き換え東郷はまるでキャバクラに勤めているような派手な出で立ち。
休日にはコスプレまでしてるという、目立つのが好きなタイプなんだね。(笑)
軽そうな雰囲気だと思っていたのに「人事系シンジケート」の名付け親は、彼女!
物部を中心とした謎の解決に当たるチーム、という意味なんだよね。

派手な東郷の出番が多いのでどんな人なのか良く分かるんだけど、物部がほのかな想いを寄せている今井佳子の登場が少なかったかな?
物部と同期で第二営業部に所属しているセミロングの美人で、高校時代は弓道部だったサッパリした性格、くらいか。
あまり物部には関心がない様子だけど、恋の行方はいかに?って感じだね。

物部の同僚として登場する総務部の常呂政臣はトトロの愛称で親しまれている。
ラグビーをやっていただけあって、背が高くガタイも良いけれど、性格がおっとりしているらしい。
物部のことをモン、と呼んでいて仲の良さが分かるよね。
優しい力持ちだから、どこの会社にも一人いて欲しいと思う人物だよね。
何かお願いしたら、すぐに引き受けてくれそうだもん。(笑)
ROCKHURRAHは「痙攣的 モンド氏の逆説」「このどしゃぶりに日向小町は」に登場するバンド「鉄拳」のメンバーのザッポを思い出したらしい。
体が大きくて面倒見が良いところが似てる感じだもんね!

無断欠勤の話以外に、会長夫人からペットの捜索を依頼されてしまう展開も面白かったね。
ポチという名前のヨークシャーテリアを休日返上で探すことになるんだけど…。
この犬の捜索を手伝ってくれたのは、人事部の物部の先輩で社内一の変わり者と称されている清水竜一。
休日に清水と待ち合わせた物部は、清水のファッションに愕然とする。
鋲ジャン、革パン、ツンツンヘアとくればパンクの正装なんだけど、物部には分からなかったみたいだね。
この清水が良い味出してるんだよね。
清水と物部のコンビが「観察者シリーズ」でいうところのトビさんとネコみたいな関係になるのかな。

鳥飼先生の著作で東京の企業が舞台になっている作品はこれだけでは?
会社員の会話のせいか、普段に比べると生物に関する記述も少なめだったのも特徴だと思う。
おもちゃのメーカーという設定も良かったし、50分の1の大きさで再現されたティラノサウルス・レックスがリモコンで動くおもちゃなんて興味をそそられるよね。
そしてなんとティラノサウルス・レックスもプロモーション・ビデオに取り込んでしまったROCKHURRAH!
様々なレックスが入っているね。
これにより更に意味不明のビデオになったことは間違いないね!(笑)

新作のティラノサウルス・レックスが盗まれだけでなく、無断欠勤の女性社員の話、会長夫人のペットの失踪といった問題が発生するけれど「人事系シンジケート」が活躍するところが見どころなんだよね!
登場人物のキャラクターがはっきりしていて想像しやすかったし、実際にいそうなので親しみを感じやすいと思った。
会社内での事件というのは、まだ他にもアイデアが浮かびそうだし、清水と物部コンビで続編読みたかったなあ!

次回の「トリカイズム宣言」は何にしようか?
今度こそ「本格的」かな!(笑)

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