鴻池朋子 ちゅうがえり 鑑賞

20201018 top
【会場入り口を撮影】

SNAKEPIPE WROTE:

ROCKHURRAH RECORDSにとって特別な日が10月にある。
この日はお祝いをかねて、何かしらのイベントを計画するのが毎年恒例なんだよね。
「ここに行ってみない?」
とROCKHURRAHから提案されたのが、アーティゾン美術館の展覧会だった。
初めて聞く美術館だよ!

調べてみると2019年にブリヂストン美術館から、ART(アート)とHORIZON(ホライゾン)を合わせた造語であるアーティゾン美術館に改称したという。 
そもそもブリヂストン美術館に聞き覚えがないし、訪れたこともないんだよね。
もしかしたら今まで興味を引く展覧会がなかったのかもしれない。
アーティゾン美術館は日時指定の予約制で、WEB予約での受付と当日窓口での受付では料金が異なるという。
早い時間に予約し、ゆっくりランチを楽しむことにしようか。

当日は台風が関東地方を直撃か、という予想が外れた雨空だった。
それほど雨風は強くなかったので、展覧会の鑑賞には丁度良かったかもしれない。
日本橋から徒歩5分という案内通り、駅からそんなに遠くない場所に「BRIDGESTONE」の文字がガラス越しに見える。
そういえば高校時代は自転車通学をしていたSNAKEPIPE。
買ってもらったのは赤い車体に黒文字で「BRIDGESTONE」のロゴが入った自転車だったことを思い出す。
他の自転車より高い位置に展示され、お値段も高めだったけれど、一度の故障もなかった優秀さ!
さすがブリヂストンだな、と思ったっけ。(笑) 

ビルの建替えが2019年7月に完了し、2020年1月からオープンしたというアーティゾン美術館は、さすがに新築でピカピカ!
手指の消毒や体温測定に加え、入場は一人ずつ間隔を空けるなど、コロナ対策も行われている。
それにしても美術館のスタッフの方々が制服として着用しているのが、まるで作務衣のようで見慣れない感じ。
「こちらへ」
なんて手招きされると、美術館にいるというよりは旅館かと錯覚しちゃう。(笑)

今回は「3展覧会同時開催」として3フロアの展覧会を1枚のチケットで鑑賞できる企画だった。
「6Fからご鑑賞ください」
6F→5F→4Fと下っていくことになるんだね。
最初は鴻池朋子の「石橋財団コレクション×鴻池朋子 ちゅうがえり」。
展覧会名の前に「ジャム・セッション」という言葉が付いている。
どうやら石橋財団のアート・コレクションとのコラボ企画ということらしいけど、いまいち意味不明だよ。
それにしても鴻池朋子というアーティストは初めて聞くなあ。
少し調べてみようか。

1960年秋田県生まれ。
1985年東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業後、玩具、雑貨などのデザインに携わる。
現在もその延長で、アニメーション、絵本、絵画、彫刻、映像、歌、影絵、手芸、おとぎ話など、様々なメディアで作品を発表している。
場所や天候を巻き込んだ、屋外でのサイトスペシフィックな作品を各地で展開し、人間の文化の原型である狩猟採集の再考、芸術の根源的な問い直しを続けている。(オフィシャルサイトより)

1960年生まれといえば今年60歳、還暦?
とてもお若い見目姿に、うそでしょーと驚いてしまう。
芸大の日本画といえば、松井冬子の先輩にあたるんだね。
国内外で数多くの展覧会に参加しているようだけど、今まで一度も出会ったことがないみたい。
一体どんな作品なんだろう?
会場入口で撮影に関しての文章があった。
「撮影禁止」と表示されている以外はすべてオッケーとのこと!
アーティゾン美術館いいねー!
バシバシ撮らせてもらおう。(笑)

会場に入ってすぐ、目に飛び込んできたのは「皮トンビ」という大型作品だった。
横12m、高さ4mという大きさは、少し離れないと全体を鑑賞することが不可能だね。
遠目から、更に近付いて鑑賞してみる。
タイトル通り、レザーを革紐でつなぎ大きな一枚の皮にしている。
その上にアクリル絵の具とクレヨンで描いているという。
この作品は瀬戸内国際芸術祭 2019で発表されたらしい。
オフィシャルサイトに載っていたその時の様子をROCKHURRAHが観て、展覧会行きを決めたらしい。
面白そうだと感じた直感は正しかったね!
瀬戸内国際芸術祭で展示されていた森の中に静かに佇むトンビ、迫力あっただろうな。
その時に観たかったな、と思う。
レザーをキャンパスとして使用する作品を観たのは、初めてじゃないかな。

「竜巻」は2020年の作品だという。
作者の趣向なのか、タイトルが作品の近くに提示されてなかったため、タイトルを知ったのは帰宅後なんだよね。
鑑賞している時点では、何を表しているのか不明だった。
複数枚の謎の黒いラインが並んでいる様は、とても好みだよ。
これらの作品は、石版石を用い伝統的な方法で制作したリトグラフ版画とのこと。
「皮トンビ」とは違った雰囲気だったね。

「ドリームハンティンググランド」も大型作品だったよ。
シナベニヤに水彩で描かれているのは、原始の森のような不思議な情景だった。
その上に毛皮が貼り付けられているんだよね。
調べてみると「クマ、オオカミ、シカ、テン他」の毛皮を使っていたようだけど、全部は確認できなかった。
色合いが美しくて、存在感があったね!

「カレワラ叙事詩」はオオカミとヒグマの毛皮を使用した作品だった。 
上の作品にも毛皮を貼り付けていたけれど、鴻池朋子は毛皮やレザーを使用することが多いみたいだね。
キャンバスに毛皮を貼り付けたといえば白髪一雄を思い出すよ。
どうやら鴻池朋子は「害獣として駆除」された獣の毛皮を入手して、作品に取り入れているらしい。
大きなヒグマの毛皮を広げ、お腹の部分にオオカミをお腹合わせに合体させているんだね。
これもいわゆるキマイラか?
タイトルの「カレワラ」は、フィンランドの民族叙事詩のことみたいね。

会場の中央に設置されていた円形の展示は、襖絵と滑り台だった。
滑り台の意味は不明だったけれど、ROCKHURRAHと共に子供さながらに滑ってみたよ。(笑)
そして襖絵を鑑賞する。
石が貼り付けられたもの、地球が描かれたもの、竜巻が描かれたものなど、いくつかのパターンがあった。
鴻池朋子が芸大の日本画出身と聞くと、襖絵は納得しちゃうね。
いわゆる日本画とは違う襖絵といえば、爆撃の様子を描いた会田誠の「たまゆら(戦争画RETURNS)」があったね。
伝統的なイメージとは、かけ離れて新鮮に映るよ。

「影絵灯篭」は自転車の車輪を組み合わせた仕掛けに、紙でつくったモチーフを吊り下げ、ライトを当てグルグル回した作品なんだよね。
次々と形を変える影絵が面白い。
どの瞬間を捉えたら良いのか迷いながら、複数回撮影する。
人間から動物に移り変わっていくかのような奇妙さ。
また人間に戻り、そして動物になる無限ループ状態なのか?
奇妙なモチーフを影絵で見せたクリスチャン・ボルタンスキーの作品を思い出す。
ボルタンスキーの場合は、風で揺らぐことで影の大きさを変化させていたね。
影絵をモーターで回す鴻池朋子の作品、とても良かったよ!

「こっ、これはっ!」
思わず声を発してしまったSNAKEPIPE。
本物のオオカミの毛皮が天井から吊り下げられているんだもん。
2015年に横浜美術館で観た「蔡國強展」を彷彿させる作品だよね。
会場の入り口に「毛皮が肌に触れる作品があります」といった注意書きがあったのは、この作品のことだったのかと納得。
この「毛皮カーテン(SNAKEPIPE命名)」をくぐらないと、通路は通れないからね。
好き嫌いは分かれるかもしれないけれど、インパクトが強かったよ。

順路を進んでいくと、まるで別の作家のような作品群が登場する。
これは様々なエピソードを、布で立体的に作った絵本なんだよね。
人から聞いた話をもとに、鴻池朋子が下絵を担当。
その下絵から話をした本人が手芸で立体絵本を制作したプロジェクトだという。
一つの絵にそれぞれ物語があるので、全部を読むことはできなかったよ。
どちらかというと他愛のない、子供時代のお話なのかな。
立体の絵本がとてもかわいらしくて、それまで観てきた作品とは全く違う雰囲気に驚く。
このシリーズは、とても女性的で一般受けしそうなんだよね。(笑)

例えば狩猟時代に男が狩りをして獲物を捕らえて帰ってくる。
獲物の皮を剥ぎ、肉を焼いて食べる。
家を守る女は毛皮で衣服を作り、肉を調理する。
人間が自然の一部として、循環の中に組み込まれ共存していた時代を、アートとして提示しているのが鴻池朋子なんじゃないか、という感想を持ったSNAKEPIPE。
そう考えると「害獣として駆除」された動物の毛皮の意味も違ってくるように思う。
何が一番の「害」なんだろうね?

鴻池朋子の作品に満足しながら5Fに降りる。
次のフロアは「第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示 Cosmo-Eggs|宇宙の卵」の展示だった。
2019年に日本館のパビリオンで発表された作品の帰国展とのこと。
大きなスクリーンに映し出されるモノクロの風景映像に、音楽や効果音(?)が加わる。
会場の中央には、オレンジ色の丸いソファ(?)があり、座ることができた。
少しの間鑑賞していたけれど、あまり意味が分からなかったよ。
とても静かな空間だったね。

続いて4Fへ。
このフロアでは「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー」が展示されていた。
ここでも撮影が許可されていて驚く。
モネやルノワールの作品までオッケーとは。
ROCKHURRAH RECORDSの好みとは違うけれど、石橋財団太っ腹だよねー!
載せた画像はカンディンスキー、1924年の「自らが輝く」。
 同じ並びにはジャコメッティ、ポロックと続き、石橋財団お金持ち!(笑)

石橋財団コレクションからスポットを当てて特集されていたのが、パウル・クレーだった。
パウル・クレーといえば、ROCKHURRAH RECORDSが大好きなドイツの美術と建築に関する総合的な教育を行った学校、バウハウスで教鞭を取った人物だよね! 
今年2020年7月に鑑賞した「開校100年 きたれ、バウハウス」の記事にも書いているよ。
ROCKHURRAHと「これが一番だね!」と声を揃えたのが、1929年の作品「羊飼い」だった。
その時期は丁度、バウハウスの時代ということになるんだね。 
クレーの作品については、そこまで詳しくなかったので、今回鑑賞することができて良かった!

初めて訪れたアーティゾン美術館の3つ展覧会はボリューム満点!
これでチケット代金が1,100円とは驚きだよ。
入場者数を制限していることもあり、ゆっくり鑑賞することができたのも良かった点だね。
素敵な企画があったら、また足を運びたい美術館だよ! 

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