映画の殿 第38号 ハネムーン・キラーズ

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【ハネムーン・キラーズの犯人と俳優をコラージュ】

SNAKEPIPE WROTE: 

1947年、今から70年以上前のアメリカでの出来事である。
1通の手紙から男女が知り合う。
今で言うところの「出会い系サイト」だろう。
女はすっかりのぼせ上がるけれど、男の正体は結婚詐欺師!
それでもいいわ、一緒にいたいから。
女は男の「仕事」を手伝うことになる。
そんな2人は、いつしか殺人まで犯すことになっていた。
当時のアメリカを震撼させたシリアルキラーが誕生する。
男はレイモンド・フェルナンデス、女はマーサ・ベックという。
載せた画像は本物の犯人2人なんだよね。

その2人を主人公にした映画が1970年に製作される。
タイトルは「ハネムーン・キラーズ(原題:he Honeymoon Killers)」。
当初はあのマーティン・スコセッシが監督する予定だったはずが、早い段階で解雇されてしまう。
撮影したフィルムを確認したいというスコセッシの主張が認められなかったのが理由みたい。
スコセッシが監督していたら、また違う雰囲気だったのかな?
後任として監督したのが、オペラ作曲家のレナード・カッスル。
後にも先にもカッスルが監督したのは「ハネムーン・キラーズ」一本のみ、とのこと。 

トレイラーを載せてみたよ。
1970年というと、「2001年宇宙の旅(原題:2001: A Space Odyssey)」の2年後、「ピンク・フラミンゴ(原題:Pink Flamingos)」より2年前ということになるね。
この比較はSNAKEPIPE独自のものなので、気にしないでね!(笑)
1940年代を設定しているから、あえてモノクロームにしたのかもしれない。
「ハネムーン・キラーズ」はWikipediaなどには「カルト映画」と書かれているけど、どうだろう。
SNAKEPIPEの持つ「カルト」のイメージとはちょっと違うんだけどね。
フランスの映画監督であるフランソワ・トリュフォーが「favorite American film(お気に入りのアメリカ映画)」と言ったとか?
トリュフォーが好きなら、カルトじゃないわ。(勝手な思い込み!)

それでは感想を書いていこうか。
※ネタバレしているかもしれないので、未見の方はご注意ください!

トリュフォーにも大絶賛された「ハネムーン・キラーズ」の成功は、配役にあると思うよ。
先に載せた実物のマーサ・ベックを見て、どんな印象を持ったかな?
マーサはかなりの肥満体だったため、職に就くのもままならないほどだったという。
強いコンプレックスを持っていたようなんだよね。
実際には未婚で1児もうけ、別の男と結婚し更に1児をもうけた後、離婚しているらしいので、全く男性に縁がなかったわけではないみたい。
結局シングルマザーとして生きていたというマーサが「lonely hearts(私寂しいの!)」という文通クラブに入会するのはうなずける。
映画でのマーサは、未婚で子供がいない設定になっていたよ。

実際のマーサが看護婦だったので、映画でも同様に婦長として登場する。
マーサを演じているシャーリー・ストーラーは、この映画がデビュー作だというから驚いちゃうね。 
これ以上ない、というほどピッタリの役どころ。
この女優なくして、映画の成功はなかったんじゃないかな?
肥満によるコンプレックスの強さから、他人に厳しく、打ち解けて話せる友人は数少ない。
「失うものはないじゃない。試してみたら?」
その友人から勧められて文通を始めることになるマーサ。

一方こちらがレイ・フェルナンデスです!(笑)
どうしても「メガデスです」などと言いたくなるんだよね。
「ハネムーン・キラーズ」のすごいなあ、と感心するところ『その1』は、話の展開が早いところ。
2人が手紙を書いているシーンに、かぶせるようにセリフが入り、あれよあれよと言う間に実際に会うことになってるんだよね。
ここまでで映画が始まってから、たったの5分!
昔の映画は説明が長いと思ってたのは、SNAKEPIPEの偏見なのかな?(笑)

レイ・フェルナンデスを演じたのはトニー・ロビアンコというイタリア系アメリカ人俳優。
実際のフェルナンデスはハワイ生まれのスペイン系アメリカ人だったらしい。
いかにも女性をだます詐欺師らしい風貌で、役にぴったり!(褒め言葉だよ)
トニー・ロビアンコは俳優でもあり、ボクサーでもあったというので、肉体派なんだね!
「情熱のラテン男」とマーサの母親から呼ばれ、まんざらでもなさそう。

恐らく最初はマーサのことも、金を巻き上げるカモと考えていたに違いないレイ。
マーサの「あなたがいないと死ぬわ!」という肉弾攻撃に心が揺らいだのかな。
それともレイも本気でマーサを好きになったのか?
「実はたくさんの女性を騙して金儲けしてて」
とマーサに告白!
画像は、かつてのお相手女性だろうね。
最初に書いたように、マーサは事情を承知し、仕事を手伝うことにしちゃうから驚くよ。
そこまでレイにぞっこんで、善悪なんか二の次だったんだろうね。
同居してた母親のことも置き去りにして家を出ちゃうし。

そして早速2人でターゲットとなる女性に会いに行く。
映画では5名の女性が登場したけれど、お金だけ取って帰してしまったこともある。
全員を殺害したわけじゃないんだよね。
次々と登場するレイのお相手に、どれだけ結婚を夢見ている妙齢女性が多いかを知る。
文通だけのやり取りで、初めて会ったのにすぐに結婚を口にするんだもんね。
同行しているマーサのことは妹とか姉などと偽り、堂々と部屋に連れて行くところに違和感があったSNAKEPIPE。
まず似てないし。(笑)
それでも文通だけの知り合いであるレイ以外に、同性がもう一人いる、ということが安心感につながったらしい。
本当はレイの愛人で、共犯者なのにね!
画像は結婚できるとウキウキの女性(ややマライア・キャリー似)を、冷ややかに見つめる怖いマーサの姿だよ。

「一緒に行く」「手伝う」と決意した時点で、マーサは腹をくくる必要があったはずなのに。
胸をかきむしられるほど嫉妬するタイプのマーサには、苦しい時間だったはず。
女性を相手にする職業、例えばホストクラブに勤務する恋人や夫がいるとしたら、「仕事中の顔」は見ないほうが良いように思うんだよね。
自分以外の女性に優しくしている恋人(夫)を見て、平気な顔をしていられる女性なら問題ないけれど。
それでもマーサを同行させていたレイの気持ちが不明だよ。
レイもマーサと一緒にいたかったのかな。

避暑地で民宿を営んでいる女性もターゲットだったね。
ちなみにこの女性はローラ・ダーン似。(笑)
この時、レイはボクサーらしく自慢の肉体を披露していたよ。
腕立て伏せもやってたしね。
ターゲット女性とレイが良い感じになっているのを見て、マーサは「死んでやる!」とばかりに海に飛び込み、遠泳により溺れることになる。
マーサ、肉弾攻撃得意だなあ。(笑)
助けに行くレイの様子を見ると、やっぱり本当にマーサのことを愛していたようだね。

「ハネムーン・キラーズ」で最も印象に残るターゲットがこの方かな。
帽子を作るのが趣味の、御年66歳。
かなりの節約家なので、そのため貯蓄がある。(笑)
結婚相手のレイを完全に信用できなかったことが、命を縮めることになる。
この女性については、SNAKEPIPEもイライラさせられたので、映らなくなったらホッとしてしまった。
ギャーギャーうるさかったんだよね、なんて書くとシリアルキラーを擁護してるみたいに聞こえてしまうかな?

最後は子持ちの女性だったね。
この人はかとうかず子似だった。(笑)
みんなある程度裕福なんだよね。
だからこそターゲットになっちゃうんだけど。
実はこの方とレイは一線を超えてしまったらしく、マーサは激怒!
マーサの嫉妬心により犠牲者となってしまうんだよね。
その犯行の時、カメラは女性の目線だけを追う。
ここが「ハネムーン・キラーズ」のすごいなあ、と感心するところ『その2』。
レイとマーサはこの時、一切写ってないの。
女優さんの演技もさることながら、的確に恐怖を表現しているからね!
かなり印象的なシーンだったよ。

ROCKHURRAHは「ハネムーン・キラーズ」と聞くと、1980年代前半に日本でも少し話題になったベルギーのニュー・ウェイブ・バンドを真っ先に思い出すという。 

The Honeymoon Killersの「Decollage」だよ。
きっとマーサとベックに影響されたバンド名なんだろうね。

話を映画に戻そうか。
マーサ・ベックとレイモンド・フェルナンデスを主人公にした映画は、実は「ハネムーン・キラーズ」だけではない。
何本も同じテーマの映画が作られているらしいけれど、ROCKHURRAH RECORDSが注目したのは、「地獄愛(原題:ALLELUIA  2014年)」である。

「地獄愛」ではマーサはグロリアに、レイはミシェルと名前が変更されている。
この映画はベルギーのファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督作品なので、設定が少し変わったんだね。
グロリアを演じているのは、アルモドバル監督作品の常連、「スペインの室井滋(SNAKEPIPE命名)」ことロラ・ドゥエニャス
どちらかというとコミカルな役が多い印象なので、「地獄愛」でのグロリアはイメージと違うような?
しかもフランス語だよ!
ロラ・ドゥエニャスの新たな挑戦だったのかもしれないね。

ミシェルを演じたのは、フランス人俳優ローラン・リュカ。
同じ監督の作品「変態村(原題:Calvaire 2004年)」でも主演していることが有名らしいけれど、SNAKEPIPEは未見なんだよね。
この作品の存在は知っていたけれど、あまりに邦題がえげつなくて…。
タイトルが違ったら見ていたかもしれない人、大勢いるんじゃないかな?

実は「地獄愛」の後に「ハネムーン・キラーズ」を鑑賞したROCKHURRAH RECORDS。
ロラ演じるグロリアの存在が鬱陶しいし、何故ミシェルと惹かれ合うのか理解できず。
単なる猟奇的な映像が撮りたかったのかな、という感想しか持たなかった。
どうしてもロラ・ドゥエニャスがグロリアを演じる必要もなかったように思ったし。
「地獄愛」の元祖である「ハネムーン・キラーズ」を鑑賞するのに躊躇したほどである。
ところがぎっちょん!(笑)
「ハネムーン・キラーズ」の素晴らしい出来に大満足だよ。
この映画の監督であるレナード・カッスル、どうして1本しか作らなかったんだろうね?

実際の事件では、近隣住民の通報によって逮捕されたという。
映画では、その部分は違っていたね。
電気椅子による死刑が1951年3月8日に執行された、と映画でクレジットが出ていたよ。
マーサとレイは同日に死亡したんだね。
20人以上が犠牲になったとも言われているけれど、有罪が確定したのは3人の殺害だったという。
「ハネムーン・キラーズ」はかなり忠実だったわけだ。
今から50年前の映画だけど、カットやセリフなど、古さを感じなかったよ。
そして見方によっては「純愛映画」とも言える。
2008年11月の「DOUBLE MAX」や2018年5月に書いた「映画の殿 第30号 Pedro Almodóvarマタドール」と同じ理由でね!

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