百年の編み手たち〜ただいま/はじめまして 鑑賞

20190519 top2
【「太陽のジャイロスコープ」も「ただいま」】

SNAKEPIPE WROTE:

リニューアルのため2016年から休館していた東京都現代美術館が、3年の時を経てようやくオープンしたのが今年3月下旬のこと。
オープニングの日は無料開放される情報も知っていたけれど、人でごった返している中での鑑賞は避けたほうが無難と判断し、GW中に出かけることにした。
開館の時刻に合わせて出かけ、お昼前には鑑賞を終えることが多いROCKHURRAH RECORDSだけれど、今回は珍しく閉館2時間前に入館してみる。
お客さんが少ないんじゃないか、と予想してのことだ。

リニューアル・オープン記念展の企画展として「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」、コレクション展として「MOTコレクション ただいま / はじめまして」が開催されている。
ROCKHURRAHはコレクション展だけの鑑賞を希望したけれど、「せっかくだから」と両方の展覧会を観ようと言ったのはSNAKEPIPEである。
入り口が近かった「百年の編み手たち」から鑑賞する。
チケットもぎりのところに、カメラに斜線が引かれた「撮影禁止のサイン」が目に入る。
ここは撮影禁止の美術館だったっけ?
東京都現代美術館に最後に行ったのは2015年8月で『「オスカー・ニーマイヤー展」と「ここはだれの場所?」鑑賞』として記事にまとめているね。
SNAKEPIPE自身が撮った画像を載せているけど?
展覧会によって撮影の可否が決まるのかなあ。
少しがっかりしながら会場を進む。

「百年の編み手たち」というタイトルにあるように、1910年代からの作品を年代別に紹介している。
ほとんどが日本人の作品なので、あまり馴染みのない名前が多い。
ROCKHURRAH RECORDSが大好きな1920年代のシュルレアリスムなどは、あまり浸透していなかったのか?
プロレタリア美術として雑誌やポスター類があったけれど、ロシア構成主義ほどの完成されたアートの域には達していない。
やっぱり気になったのは2008年にも「大道・ブランコ・コーヒー」の中で書いている白髪一雄!
あの迫力は日本人離れしていて、潔さが素晴らしいんだよね。
どうやら2020年1月にオペラシティで個展が開催されるらしいので、とても楽しみだ。

部屋をいくつか通り過ぎたところで、「撮影オッケー」の「サイン」がある。
ここからは撮影オッケーなんだ!
実を言うとそこまで感銘を受けたわけではないんだけど、撮影が許可されるとつい撮ってしまうんだよね。(笑)
次の部屋に入って、またパシャッ。
すると係員が飛んでくるじゃないの!
「撮影可能なのは前の部屋だけなんです」
次の部屋は撮影不可なら、撮影禁止サイン出しておいてよー!
お客さんで来ていた外国人も同じように指摘されていて、「どこが良くてどこがダメなのか教えて」と係員詰め寄っていた。

結局SNAKEPIPEが本当に撮影したいと思って撮った撮影オッケーな作品は、会田誠の「たまゆら(戦争画RETURNS)」 だったよ。
これは2013年に森美術館で開催された「会田誠展~天才でごめんなさい~」で鑑賞したことがある作品で、台になっているビール・ケースも同じだったように記憶している。
ということはビール・ケースまで含めて作品だったんだね。(笑)
東京都現代美術館は、以前会田誠の作品を展示したことで、物議を醸した経験があったことを思い出す。
あの時のキュレーターさんは今も在職されているのかしら?
今回の企画展が、全体に平均的で丸みを帯びた作品が多かったように感じたのは、SNAKEPIPEだけだろうか。
はっきり言ってしまえば、あまり特徴がなくて面白みに欠けていたってことなんだけどね。(笑)
そこでキュレーターさんが変わったのかな、と勝手に推測したわけ。

ワクワクする作品に出会うのなら展覧会のハシゴは全く問題なくて、気力も体力も充実した中で2つ目に行くんだけど。
今回の「百年の編み手たち」では、それらが充足されることなく、疲労だけが溜まってしまった。
コレクション展は後日にしよう、とROCKHURRAHと帰路につく。
「だからコレクション展だけにしようと提案したのに」
確かにそうだけど、観たから言えることだからね!

そして2週間後、コレクション展鑑賞のため再び美術館へ。
今回は開館時間に合わせて出かけてみる。
おや、人が少ないよ!
これはとても鑑賞しやすいね。
チケットもぎりの女性から「背中のリュック」についての注意を受ける。
前にかけるか、手に持つかするようにって。
今まで言われたことないんだけど、何か事故でもあったのかな?
コレクション展のほうは、撮影に関しての注意は3作品だけが撮影禁止と提示されていた。
ということは、それ以外はオッケーってことだよね!
これはバシバシ撮影しないと。(笑)

最初の作品はアルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」!
以前は屋外にあったっていうけど、どこだったか覚えてないよ。(笑)
3年の閉館の間に、こういった作品の修復作業をしていたとのこと。
インダストリアル好きには「たまらない」作品だよね!
重さ5トンって、部屋に運び込むのに苦労しそうだよ。
購入を考えていたんだけどね。(うそ)

今回の展覧会は「ただいま/はじめまして」なので、今までのコレクションと休館中の3年間で新たにコレクションに加わった作品が展示されているという。
ヂョン・ヨンドゥの「古典と新作」は2018年の作品なので、今回初お披露目だね。
紙に煤が材料として書かれているんだけど、煤を使った作品はあまり聞いたことないかも。
まるで写真に見えてしまうようなスーパーリアリズム!
昭和初期を感じさせるタッチは見事だったよ。

展覧会情報を調べた時にも出ていた作品。
中園礼二の「無題」、2012年の作品である。
なんとこの方、2015年に25歳で亡くなっていると知り、びっくり。
今回鑑賞したすべての作品のタイトルが「無題」だったのにも驚いてしまう。
タイトルを付けることで、鑑賞者の自由を縛ると考えているのか。
説明文によると、どうやら「付けられない」というのが真相のようだけど。
シンディ・シャーマンの作品もほとんどが「Untitled」だけど、シンディ・シャーマンの場合は架空の映画のスチール写真を捏造しているので、タイトルなくて良いのかなと思っている。
絵画の場合には、そういった匿名性ではなく、自我や意識を表現したものではないだろうか。
そして、その「思い」を抽象的にでも文字に表したのがタイトルだと考えているんだけど、どうだろう?

荻野僚介の「w1122×h1317×d49」は2016年の作品。
白と黒とグレーという3色だけを使用した、ミニマル・アート。
シンプルなのに、強烈な印象を残すこともできるジャンルだけど、それはなかなか難しいだろうね。
川村記念美術館にあるフランク・ステラのコレクションを鑑賞すると、その存在感に圧倒されるんだよね。
あれほどまでのダイナミックさはないけれど、黒とグレーのバランスが面白い作品だと思った。
写真の影部分を切り取ったような感じがするんだよね。 

シンプルなシリーズが続くよ。
五月女鉄平の作品「Pair」(2014年)。
色がとてもキレイだったので、撮らせてもらったよ。
こんなに簡単な図形なのに、タイトル見なくてもアベックだな、と分かるところが秀逸!
この場合は、もしかしたらタイトルが違っていたほうが面白かったのかも?
それにしても青い人のほう、顎あたりが「ぴゆん」って尖ってるのはヒゲなのか。
後ろ向きの女性で、毛先のハネを表しているのか。
どっちだろう、と悩みながら鑑賞していたよ。(笑)

似たタイプの絵が3枚展示されていて、どれを撮影しようと迷って決めた一枚がこれ。
あとから聞いてみるとROCKHURRAHも「これが良い」と思っていたそうで。
気が合いますなあ。(笑)
今井俊介の「Untitled」は2017年の作品ね。
出たっ、「Untitled」!(笑)
この作品もフランク・ステラを彷彿させるんだよね。
派手な色彩と強めのボーダーで不協和音を引き起こすはずなのに、そこまでクレイジーになっていないんだよね。
本当はキャンバス飛び出すくらいの勢いで、こじんまりまとまらないほうが良いんだろうね。

オランダ人のマーク・マンダースは世界が注目するアーティストなんだって?
やや、お恥ずかしながらSNAKEPIPEは初耳!
確かにこの「椅子の上の乾いた像」は、怖くて印象に残った作品だったよ。
この作品にたどり着くためには、ビニールシートで囲われた通路を歩いていく必要がある。
最初に制作途中のような男性の胸像を観てから、更にビニールシートの空間を進んでいくと、この少女の像が広い空間に鎮座している。
かなり犯罪めいた雰囲気で、ドラマ「ハンニバル」の殺人現場を思い出してしまう。
ROCKHURRAHも同じような感想を持ったようで、首の位置が怖いと言う。
そこですかさず横から撮ってみたんだけど、いかがでしょう。
やっぱり怖いよね?(笑)

アラブ系インドネシア人、サレ・フセインの作品「アラブ党」。
インドネシアにアラブ系の人がいても、おかしくないなあとぼんやり思う。 
多分どちらも同じ宗教なんじゃないかな?
そうは言っても、やはり1930年代には外国人扱いされていたマイノリティだったという。
当時の写真を元ネタとした絵画が並んでいた。
小さい絵画をたくさん並べる手法は今までにも観ているけれど、SNAKEPIPEは政治的なメッセージが絡む作品に、あまり興味が湧かないんだよね。
2014年に東京都現代美術館で開催された『「驚くべきリアル」展鑑賞』で出会ったエンリケ・マルティのような毒気が欲しいのよ。(笑)
個人的な好みだと思うけど。

手塚愛子の「縦糸を引き抜く(傷と網目)」は2007年の作品。
これは、遠目で見たり、引いた画像ではあまり意味が分からないかもしれないな。
アンティーク調のゴブラン織りから、赤い糸だけを引き抜いている作品なんだよね。
ゴブラン織りって、ほら、よくカーテンとかになってるアレよ!
赤が消えた部分の布地は、青ざめていてまるで死人状態。
布の途中からは、出血したかのように赤い糸がドヒャッと流れ落ちている。
単なる布地のはずなのに、痛々しく見えてくるよ。
これは根気の要る、職人的な仕事だよね。
既製品をほぐし、解体するという不思議な作品で、とても印象に残ったよ。
非常に女性的な作品だと思った。 

関根直子の「差異と連動」(2011年)が紙に鉛筆だけで描かれているのには驚いた!
この作品も上の手塚愛子同様、根気がないと続かない作業だよね。
抽象的な鉛筆の濃淡だけで構成されているのに、心象風景画に見えてくる。
ひっかき傷のような白い線が、心の傷のように思えるんだよね。
日本画の松井冬子も、心の痛みや悲しみのようなネガティブな感情を表現していたけれど、現代の日本女性アーティスト達は心に闇を抱えていることが多いのかなあ。
陰鬱とした重さを持った作品を気に入っている、SNAKEPIPEも同類ってことになるのか?
鏡面仕上げのようになっていた三幅対の作品も、重厚でカッコ良かったね。
家が広かったら、購入して飾りたいくらいだよ!(笑)

最後は「ただいま」の作品になるんだね。
宮島達男の「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」は、東京都現代美術館のために1989年に制作されたという。
20年間、赤色発色ダイオードが光り続けていたために、修復が必要だったらしい。
SNAKEPIPEはあまりじっと見つめているとクラクラしちゃうので、何度か鑑賞している作品の光が鈍っていることに気付いてなかったけどね。(笑)
そういえば、北浦和にある埼玉県立近代美術館で遭遇した、荷物を入れるロッカーにあった謎の物体!
この作品に似てるよね?
ROCKHURRAHと話しながら検索すると、やっぱり宮島達男の作品だったことが判明!
何のクレジットもされてなくて、ロッカーに放置されてるだけなんだよね。
動画を撮っていたので載せておこうか。


3年ぶりの東京都現代美術館、リニューアルというので期待していたけれど…。
SNAKEPIPEが勝手に想像していたリニューアルとは違っていたみたい。
施設(例えばトイレなど)は、全く変更はなく前のまま。
あまり美しいとは言えない状態だったし。
先にも書いたように撮影の可否が分かりづらかったし。
ボールペンを持っただけで係員が飛んできたのには驚いた!
ボールペン使っちゃいけないなんて知らなかったよ。
荷物も注意を受けちゃったしね。
そんなに注意事項がいっぱいなら、HPに載せておいて欲しいよ。
それなのに、子供が展示作品の台に乗った時には注意してなかったけどね?
この差は一体なに?と聞いてみたいもんだ。
ちょっとお怒りモードのSNAKEPIPEだよ。

コレクション展は満足だったけれど、企画展にはガッカリだった。
リニューアル・オープンを期待して待っていただけに、企画にも美術館側の対応にも「前より悪くなった」感が否めない。
不手際が多くて申し訳ない、と謝っていた係員は、恐らく多くのお客さんから説明不足を指摘されていたに違いない。
嫌な気分が続くと、次回の来館を控えたくなるほどだよ。
大好きな美術館だったのに、残念でならない。

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