好き好きアーツ!#23 Pedro Almodóvar part2

【赤色が目に焼き付く2本の映画のポスター】

SNAKEPIPE WROTE:

ROCKHURRAH RECORDSがこよなく愛する80年代、同性愛をテーマにした映画が話題になっていたことを思い出す。
1983年公開の「戦場のメリークリスマス」、坂本龍一作曲の有名なテーマソングも懐かしいねえ!
「戦メリ」って言ってたよね。(笑)
1984年に公開された「アナザー・カントリー」は、略して「アナカン」などと呼ばれてたっけ。(笑)
1987年公開の「モーリス」も同様に男性の同性愛をテーマにした作品だった。
パッと思いついた80年代の作品を挙げてみたけど、それ以降の年代にも似たテーマの映画はたくさんあるよね。
少女漫画の世界では、例えば竹宮 惠子の「風と木の詩」などが代表的だと思うけれど、少年達の同性愛の世界が美しいものとして描かれているのを読んだ経験のある女性は多いと思う。
SNAKEPIPEの子供時代から、意外と慣れ親しんでいる同性愛というテーマ。
ペドロ・アルモドバル監督の2004年の作品「バッド・エデュケーション」(原題:La Mala Educación)も、前置きと同じように同性愛がテーマになっているのである。
※鑑賞していない方はネタバレしてますので、ご注意下さい。

まずはあらすじから書いていこうか。

若き映画監督エンリケのもとに、かつての親友・イグナシオを名乗る男がやって来る。
舞台俳優だというその男は、自らがしたためた脚本を手渡して去っていった。
幼い頃の面影が全くないイグナシオに、エンリケはとまどいながらも脚本を読み進める。
そこには、エンリケが少年時代を過ごした神学校での悲しい記憶が描かれていた。

この映画はかつて保守的な神学校で少年時代を送ったペドロ・アルモドバル監督の自伝的映画と称されているらしい。
映画の舞台は1980年のマドリードで監督役のエンリケの年齢が27歳、そして16年前には神学校にいた設定になっているので、 1964年に10歳の少年だった計算だね。
ペドロ・アルモドバル監督は1951年生まれとのことなので、1964年には12、3歳だったのかな。
完全に一致はしていないけれど、ほぼ体験した年代と同じ時代を舞台にしていると言って良いだろうね。

「バッド・エデュケーション」の見どころの一つは主役のイグナシオを演じるガエル・ガルシア・ベルナルの七変化だと思う。
ガエル・ガルシア・ベルナルは「アモーレス・ペロス」や「ブラインドネス」で観たことのある俳優だけれど、今回の変身ぶりには驚かされる。
上の3枚の写真はいずれもガエル・ガルシア・ベルナル。
一番左は女装して、クラブでショーを行っているシーン。
言われなければ分からないほど、本当に女性に見えてしまう完成度の高さ!(笑)
真ん中も女装で、ハイヒールを見事に履きこなしているのがすごい!
SNAKEPIPEはヒールの靴って履かないから、感心してしまったよ。(笑)
後ろ姿は完全に女性そのものだけど、正面からだとちょっとゴツいかな?
一番右は学生役なので、少年っぽさを残したような雰囲気に変えている。
本当はもうひとつスッピンの(?)青年役があるんだけど、それは普段通りなので写真掲載にはしなかった。
よくもここまで1本の映画の中でスタイルを変えて演技したよね!
ガエル、頑張ったで賞って感じだね。(笑)

もう一人の主演は映画監督のエンリケ。
この設定は前述したように、ペドロ・アルモドバル監督の分身的な存在だと思われる。
3本の映画により成功している27歳の映画監督という役柄。
最近引っ越したという自宅が素晴らしいのよ!
プール付きの一軒家で、一人で住むには広すぎる程の贅沢な空間が羨ましかった。
演じていたのはフェレ・マルティネスというゴヤ賞新人賞を獲ったことのあるスペインの俳優である。
この俳優がノン気なのか、そうじゃないのかは不明だけど、映画の中では目つきやしぐさがそっち系になっていて、本物の同性愛者に見えたよ!
ペドロ・アルモドバル監督の前作「トーク・トゥ・ハー」にも出演してたみたいだけど、どのシーンに出演してたんだろうね?

本筋にはほとんど関係ない役だけれど、SNAKEPIPEが最も注目してしまったのが、パキートという役を演じていたハビエル・カマラ
「トーク・トゥ・ハー」では療養士の役だったのに、今回は女装姿で登場よ!(笑)
アラブっぽい音楽に乗ってダンスしてるんだけど、全然リズム感がなくて、ショーとはいえない出来栄えなのに拍手を強要するパキート。
そのムチムチした肉体を強調するように、ピチピチした服を着ているところも素晴らしい!
ニューハーフのお姉さん達がいるクラブに、必ず存在するお笑い担当みたいな感じね。
さすがはハビエル・カマラ、おネエ役も上手に演じていたよね!
こっそりと応援してます!(笑)

「バッド・エデュケーション」は16年前の神学校での出来事が発端となっている映画なので、過去に遡った映像も出てくる。
写真左が少年時代のイグナシオ。
ボーイソプラノの美しい歌声を披露する。
色白でお目目パッチリの少年で、おとなしい性格である。
神学校の神父から思いを告白されてしまう、という役である。
写真右がエンリケの少年時代。
ワンパクで元気な男の子らしい少年である。
27歳のエンリケは「イグナシオは初恋の相手」と語っていたので、目と目で通じ合い、一目で恋に落ちたようだ。

「バッド・エデュケーション」は1980年の現在、新学校時代、フィクションのシーンと、それぞれの映像がバラバラに組み合わされているので、ちょっと戸惑うこともある。
何が本当なのか解らなくなっちゃう感じなんだよね。
サスペンス的な要素も含まれている映画なので、ネタバレしないようにここまでしか書かないことにしよう。(笑)

最後にもう1点だけ。
「バッド・エデュケーション」はオープニングのタイトルバックがとてもカッコ良いの!
いくつかのシーンを切り取って、少し細工したのが上の画像。
赤と黒と白の3色だけを使った、印象的な映像でうっとりしてしまうよ!(笑)

続いては2006年の「ボルベール(帰郷)」(原題:Volver)について書いてみよう。

スペイン中部に位置する乾燥していて東風が強いラ・マンチャで、火事により両親を失ってしまったライムンダ。
普段はマドリードで生活しているライムンダは姉ソーレと娘のパウラとともに、両親のお墓の掃除のため定期的に地元に戻り、伯母の家に立ち寄るのが習慣になっている。
里帰り以外の日は、夫と娘のために日々忙しく働いている。
ある日、失業してしまったライムンダの夫パコは、情緒不安定になり事件を引き起こすきっかけを作ってしまう。
一方そのころ、ライムンダの姉ソーレの元には伯母の急死の報が届く。
葬式のため亡き伯母の家に到着したソーレは、信じられない光景を目の当たりにするのだった…。

「ボルベール」は主演のライムンダ役を演じたペネロペ・クルスを含む女優6名に対してカンヌ国際映画祭女優賞が贈られた映画だという。
1950年代には1本の映画に出演した女優複数人が女優賞を受賞したこともあるみたいだけど、60年代以降にはなかったみたい。
それぞれの女性を演じ切った賜物だろうね!
それでは、その6名の女性にスポットを当ててまとめていこう。

「ボルベール」の顔、主演のライムンダ。
気性が激しく自己中心的な性格。
家族のために空港で掃除を一生懸命やるようながんばり屋でもある。
もし本当にペネロペ・クルスが空港で掃除してたり、食堂で働いてたらびっくりしちゃうだろうね。(笑)

夫と娘との3人暮らしだけれど、夫への愛情は薄い。
ラ・マンチャで一人暮らしをしている、母親の姉である伯母のパウラを引き取って面倒をみたいとまで思っているような優しい一面も併せ持つ。
「そのためには夫が邪魔だわ」
なんてセリフもあったしね!

ご近所付き合いも良好で、気軽に頼み事ができる女性達が何人もいる。
買い物してきたばかりの食材を譲ってもらうエピソードが面白かった。
事後処理もご近所さんの協力で一件落着!(笑)
観ているほうがハラハラしてずさんに感じたんだけど、スペインではアリなのかな?(笑)

演じていたのはペネロペ・クルス。
「オール・アバウト・マイ・マザー」でのほとんどすっぴんだった役とは違い、ライムンダ役は化粧や胸の谷間バッチリの女っぷりを意識してまるで別人だね!
映画の中でタンゴの「Mi Buenos Aires querido(ボルベール)」を歌うシーンがあるんだけど、ちょっとハスキーなペネロペ・クルスの歌声はなかなか良いね!

ライムンダの姉、ソーレ。
「隠れ美容室」を自宅で行っている。
そのため様々な人の出入りがある家で、またここでもペドロ・アルモドバル監督お得意の女同士の他愛のない会話を聞くことができるんだよね。(笑)
ソーレは温和で責任感が強く、いわゆるお姉さんタイプの性格である。
妹であるライムンダの我儘も充分知った上で、うまく付き合っているんだよね。
どうしてこんなに良い女性なのに、夫に逃げられてしまったのか不思議!
この女優は、「トーク・トゥ・ハー」でも夫に逃げられた看護士の役だったんだよね。(笑)
ソーレを演じていたのはロラ・ドゥエニャス
たまに室井滋に似て見えてしまうのはSNAKEPIPEだけかな?(笑)
ロラ・ドゥエニャスは他にもペドロ・アルモドバル監督作品に出演していて、新作「I’m So Exiited」にも登場しているみたいだね。

ライムンダの娘、パウラ。
15歳の女の子なので、携帯電話を手放さないイマドキの子である。
反抗期でも母親のライムンダになついていて、手伝いもするし、お墓の掃除も一緒に行く良い子である。
もしかしたら母親よりも常識人かもしれないと思うほど、大人びてもいる時もある。
それなのに、まさか人生が変わってしまうほどの大事件を起こすことになろうとはね!

演じていたのはヨアナ・コボ
1985年生まれとのことなので、「ボルベール」の時には実際は19歳か20歳だったみたいよ。(笑)
確かにそう言われてみれば、落ち着いていて、あまり少女らしくなかったような気もしてくるよね。

ライムンダとソーレの母親、イレーネ。
ライムンダの娘パウラからみたらお祖母ちゃん。
「お母さんはお父さんの腕の中で死ねたんだから、幸せだったのよ」
とライムンダが墓参りの時に言ったセリフである。
夫婦のことは夫婦にしか分からない、というのは世間で言われることだけど、母イレーネの本心はどうだったんだろう?

演じていたのはカルメン・マウラ
ペドロ・アルモドバル監督作品の常連とのこと。
残念ながらアルモドバル監督の初期の作品は今のところ未鑑賞のため、今回が初カルメン・マウラとなった。
目鼻立ちがハッキリしていて、舞台でも映えそうな顔立ちだね。

イレーネの姉、パウラ。
ライムンダとソーレにとっては伯母である。
若い頃のライムンダと一緒に暮らしたことがある。
そのためライムンダのことだけは認識できるけれど、ソーレや娘のパウラのことは忘れてしまうほど、認知症が進行している。
目もほとんど見えず、杖をついても歩くのが困難なほどに体調も悪い。
墓参りに来た姪を迎え、お菓子のお土産を用意している。
「パウラ伯母さん、見えない目でどうやって作ったの?」
ライムンダが疑問に感じるのも無理はないよね。

演じていたのはチュス・ランプレアベ
1930年生まれというから「ボルベール」の時に76歳くらいなのかな。
初期の頃からのアルモドバル監督作品の常連で、「トーク・トゥ・ハー」にも出演していたみたいだよ?
どのシーンだったんだろう?

パウラ伯母さんの家の向かいに住んでいるアグスティナ。
6人の中でアグスティナだけが血縁者ではないけれど、ずっと同じ土地に住んでいて、親戚以上にお互いを知り尽くしている関係である。
一番初めに墓掃除のシーンでアグスティナが登場した時には「5分刈りの女性!」とびっくりして、目が釘付けになってしまった。
いやあ、憧れるなあ!
一度はやってみたい髪型なんだよね。(笑)

アグスティナは、母親が村で唯一のヒッピーで高級プラスチックでできたアクセサリーを身に付けていたことを自慢する。
プラスチックに高級ってあるのかな?(笑)
そしてアグスティナ自身も、自宅で大麻を栽培しマリファナを吸ってるんだよね。
マリファナ吸うと食欲が出るらしく、アグスティナにとっては健康法らしい。
もっと特徴的なのは、挨拶として頬をよせると、
「チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、チュッ」
って大きな音を出しながらキスをするところ!
熱烈さを表現しているのかもしれないけれど、びっくりしちゃうよね!(笑)

なんとも印象的なアグスティナを演じていたのはブランカ・ポルティーヨ
次回取り上げる「抱擁のかけら」でも重要な役を演じている女優である。

以上の6名がカンヌ国際映画祭女優賞を受賞した女優陣である。
祖母、母、娘という3代に渡る女達の歴史を、日常的な視線でみせながらも人間ドラマに仕上げた作品という感じかな。
どうやらラ・マンチャというのは田舎なので、昔から迷信が信じられてきたような土地らしい。
迷信深い田舎で起こる不可解な事件といえば、横溝正史などが有名だけど、閉鎖的な土地での人間の行いというのは、世界各国共通なのかもしれないね。

憎しみや愛情は特に血縁関係者だからこそ余計に強く感じるのかもしれない。
近親憎悪という言葉もあるくらいだからね。
その憎しみが溶解した時、感情はいっぺんに愛情へと向かうようだ。
今まで理解し合えなかった、空白の時間を取り戻そうとするのかのように。

アレハンドロ・ホドロフスキーの著書「リアリティのダンス」の中にサイコ・セラピーを行う時、悩みを抱えている人の家系図を描かせると記述されている。
自分の両親、またその両親や兄弟について名前や性格など分かる範囲の、できるだけ細かい情報を持ってくるようにと言うらしいのだ。
これは、その家系で代々伝わっている(意識・無意識両方共の)信念や教育方針などを知り、それらを分析することで悩みの解決につながるというものだった。

家庭内暴力を繰り返す父親を持った娘が、同じ傾向の男性と結婚してしまうような話はよく耳にする。
家族の環境、習慣や教育が子供の成長過程に重大な影響を及ぼしている結果、ということになるのかな。
そういった血縁同士の濃い因果関係を、性と生と死を通して描いたのが「ボルベール」なんだね。
女性の強さやたくましさが充分に表現されていたと思う。
「ボルベール」もまた「女性賛歌」の作品だね!

ペドロ・アルモドバル監督の第2回目は以上の2本にしておこう。
残り2本はまた次回に特集する予定。
どうぞお楽しみに!

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