白髪一雄 a retrospective展 鑑賞

20200209 top
【白髪一雄展の看板を撮影】

SNAKEPIPE WTOTE: 

2019年5月に書いた「百年の編み手たち〜ただいま/はじめまして 鑑賞」 の中で、2020年1月に開催予定の白髪一雄について触れた文章がある。
ついにその時が来たのだ!
とても楽しみにしていた展覧会の鑑賞をする、その時が!(急に倒置法?)

会場になっているのは東京オペラシティアートギャラリー。 
このギャラリーは2019年6月に「トム・サックス ティーセレモニー」で訪れて以来になるのかな。
ROCKHURRAHは初めての訪問だね!
東京オペラシティアートギャラリーでは、1月11日より白髪一雄展を開催している。

白髪の没後10年以上を経て開催する本展は、東京で初の本格的な個展として、初期から晩年までの絵画約90点をはじめ、実験的な立体作品や伝説的パフォーマンスの映像、ドローイングや資料も加え、総数約130点で作家の活動の全容に迫ります。

展覧会HPから抜粋した文章を載せてみたよ。
それにしても一文が長いね。(笑)
没後10年以上って書いてあるけど、白髪一雄はいつ亡くなったのかな。
年表を調べてみようか。 

1924年 兵庫県尼崎市に生まれる
1942年 京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)日本画科に入学
1948年 京都市立美術専門学校(1945年4月改称)を卒業し洋画に転向
1954年 初めて足で描く
1955年 吉原治良率いる「具体美術協会」(具体)の会員となる
1958年 批評家で「アンフォルメル芸術」の提唱者ミシェル・タピエと、絵画を欧州に送る契約を結ぶ
1971年 比叡山延暦寺で得度、天台宗の僧侶となる
1999年 文部大臣から地域文化功労者を表彰
2008年 敗血症のため尼崎市にて死去

この年表の中で、一番驚いたのは1971年の僧侶になる、の部分かな。
荒々しい絵画を描く人が僧侶になるというのが、SNAKEPIPEにはイメージし辛いんだよね。
そして洋画に転向して10年で、批評家の目に留まっている点にも注目だよ。
50年代に、どれだけの日本人アーティストが海外で評価されていたのかは分からないけれど、決して多くはないだろうね。
生前は全く評価されず、亡くなってから評価されるアーティストの話はよく聞くけれど、バイタリティ溢れ脂が乗っている活きが良い時に、ドンピシャのタイミングで評価を受けるのは、素晴らしいことだと思うよ。
そんな白髪一雄の個展、非常に楽しみだよね!(笑)

ROCKHURRAHとSNAKEPIPEが会場に向かったのは、展覧会開催からおよそ3週間後のこと。
白髪一雄の展覧会が注目されている、という情報をROCKHURRAHが仕入れていたので、混雑を避けるために少し間を置いていたんだよね。
その甲斐あってか(?)選んだ日にちが良かったのか、会場は驚くほど空いていて、全くストレスなく作品を鑑賞することができた。
ストレスを感じたことは、撮影できる作品が制限されていたこと。
何を基準に許可がされたり、されなかったりするのか不明だけど、もう少し緩めてくれても良いのになあと思ってしまった。
今回は自分で撮影できた作品に加え、気になった作品についても画像と共に紹介していくよ!

展覧会は8つの章で構成されていたようだけど、章のキャプションや説明文が一切展示されていない。
HPに簡単な説明はあるけれど、こんなにあっさりした展覧会は観たことないかも。
SNAKEPIPEは不親切に感じたけれど、このギャラリーの方針なのかな?
最初の章は初期の作品が展示されていて、キュビズムの影響を受けたものや、モチーフを決めて描かれた油絵などを鑑賞することができる。
初期作品の中で気になったのは「文B」(1954年)かな。
まるでゲルハルト・リヒターの絵画を部分的に切り取ったように見えるんだよね。
夜の水辺を連想させる静謐さに加え、風や波のような動きも表現されているのかもしれない。

初期作品のエリアを抜けると、現れるのは「天異星赤髪鬼」(1959年)。
来た来た〜!(笑)
このどす黒い赤色が厚みを持って盛り上がったり、血飛沫のようにうねっている様は迫力満点!
日本人離れした大胆さが素晴らしいんだよね。
これは確かにフランス人批評家ミシェル・タピエが気に入るのも納得しちゃうよ。

「地暴星喪門神」(1961年)も上の作品同様、「水滸伝豪傑シリーズ」とされている。
どうやらタピエの依頼で制作されたらしいんだけど、108点の作品を区別するために「水滸伝」の登場人物の名前を作品名にしたという。
だから長い漢字が連なるタイトルになっているんだね。(笑)
「地暴星喪門神」は赤、黒、緑、紫という4色が使用されている。
間の取り方が日本画的だし、SNAKEPIPEには絵画というよりは書道的な構成美を感じるよ。
驚くほどの躍動感、観ていると心がウキウキしちゃうよね!

白髪一雄が足で描く「フット・ペインティング」という技法を編み出しているためか、床に直置きする展示方法も採られていた。
「貫流」(1973年)は、まるで大きな滝が流れ落ちているかのような動きを感じる作品。
白から黒へのグラデーションは、スキージという長いヘラを使って描いていたらしい。
アクション・ペインティングの様々な可能性を探っていたことが分かるね。
それにしても床置の展示方法については、意図は理解するけれど、鑑賞には不向きじゃないかな?

白髪一雄が密教に傾倒し、天台宗の僧侶になったのは1971年。
「密呪」はそれから4年後、1975年の作品である。
実は白髪一雄の経歴については何の知識も持たずに参上した展覧会だったけれど、この作品を観た時に「曼荼羅っぽいね」とROCKHURRAHと語り合っていたんだよね。
この作品を鑑賞したエリアでは、呼応する作品がシンメトリーになって展示されていた。
「密呪」と対になっていたのは「あびらうんけん」だったかな?
胎蔵界と金剛界という2つを表現した作品のようだったよ。
2枚は別の美術館に所蔵されているようなので、同時に鑑賞できたのはラッキーだったね!(笑)

2008年11月東京都現代美術館で鑑賞した、森山大道とミゲル・リオ=ブランコの写真展について「大道・ブランコ・コーヒー」というブログ記事を書いた。
「ダイドー・ブレンド・コーヒー」をもじった、失笑もののタイトルは良しとして。(笑)
そのブログの中に白髪一雄についての記述があるんだよね。 
常設展を観た後の感想を以下のように述べている。 

SNAKEPIPEが非常に気になったのは「白髪一雄」という画家。
前にも観ていたのかもしれないけれど、今回観た中では一番迫力を感じた好みの画家だ。
日本でのアクションペインティング創始者とは!
猪の毛皮の上に赤黒い絵の具を塗りたくった絵が素敵だった。
もっとたくさんの作品を観てみたいな!

昔から好みが変わっていないと自覚していたけれど、12年前に書いた記事に自分でびっくり!
はい、12年経ってその願いは叶ったよ。(笑)
そしてやっぱり今回の展覧会でも「ピカイチ!」と思ったのは、猪の毛皮の上に赤黒い絵の具を塗りたくった「猪狩壱」だった。
目にした瞬間に「うわっ!」と驚く作品だからね。
かなり猟奇的なので、好き嫌いが分かれるかもしれないけど。
この作品は東京都現代美術館に所蔵されているのを知って安心したよ。
海外に出ていたら、なかなかお目にかかれないもんね。
ありがとう!東京都現代美術館!(笑)

白髪一雄が実際、どのように作品を制作していたのかを紹介するビデオ上映もあったんだよね。
同じものではないけれど、似たタイプの動画がYouTubeにあったので載せておこうか。
これはフランスで制作された「具体美術協会」を紹介するビデオのようなので、白髪一雄以外のメンバーも映っているのかな?

まるで曲芸師のように、ロープにつかまり、キャンバス上をつるつる滑る白髪一雄!
会場でビデオを観ながら、思わず笑ってしまったSNAKEPIPE。(笑)
制作する時は、元画家だった白髪一雄の奥さんがサポートしていたというから驚いてしまう。
富士子夫人は着物姿だったり、白髪一雄と同じように黒い全身タイツのような姿で、絵の具を渡したりする。
作品は夫婦の共同作業によって生まれていたことを知り、50年代の日本も進んでいたなあと感心してしまったよ。

姓が白髪なので、SNAKEPIPEは勝手に「よかいち」の莫山先生みたいな風貌だと思っていたんだよね。(笑) 
わざわざ画像載せなくても良いんだけど。
他の連想としては、江戸川乱歩の「白髪鬼」 かな。
恐らく珍名さんになるんじゃないかと思ったけど、調べてみると岡山県や兵庫県など全国で約900人はいるらしいね。

白髪一雄ご本人は、まるで自衛官を演じた「野性の証明」の時の高倉健かといった雰囲気で、アーティストには見えないよ。
猟友会にも入っていたようで、銃の手入れをしている写真もあったし。
恐らく「猪狩壱」の猪も、ご本人が仕留めたんじゃないかと予想する。
調べてみると、どうやら猪を仕留めることができず、買ってきた皮を使用した作品だという。
猪の皮、買えたんだ?
真相が分かってスッキリ!(笑)

白髪一雄の作品は海外でも大人気のようで、2014年の記事によればサザビーズのオークションで5億4,590万円で落札されたという。
これが5億円超えの「激動する赤」(部分 1969年)。
赤、白、黒、黄色という4色を大胆に使用したインパクトのある作品だよね。
展示されたのは大阪万博のみだというので、ずっと大事に保存されていたのかな。
一体誰が購入したんだろう。
気になるところだよね。(笑)

今回の白髪一雄展はボリュームがあり、大満足の展覧会だった。
人が少なかったのも、ゆっくり鑑賞できて良かったよ。
残念だったのは、展覧会の図録が後日発送になってしまったこと。
3月初旬になるというので、予約してきたんだよね。
図録の到着を楽しみにしていよう。

いつか白髪一雄のオマージュ作品にチャレンジしたいと思ってしまうのは、SNAKEPIPEだけではないだろう。
足を絵の具まみれにして制作するのってどんなだろう?
ぎっくり腰に注意が必要だけどね!(笑)
 

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