Naonシャッフル 第1夜

【スティッフ・レーベルの看板娘二人。絶対話が合わなさそう】

ROCKHURRAH WROTE:

あまりにも歴史が長く深遠な世界だったので今まで語る事をしなかったが、今回は女性のロック特集でもしてみようか。 地球上の人類の半分くらいを占めているはずの女性がロックをすなるのは当たり前の現象で、正統派もいれば変わり者もいるのはどこの世界とも共通している。

そういうわけで何回になるか見当もつかないが、女子ヴォーカルという大まかなテーマ以外は特に決めずに気ままに書きたい事だけ書いてゆこう。ROCKHURRAH RECORDSの一大理念(大げさ)というかお約束で、やはり70年代パンクから80年代ニュー・ウェイブの時代限定でね。

Lene Lovich & Rachel Sweet

おっと、いきなりこれ持ってくるか?パンク、ニュー・ウェイブで女性シンガーと言ったらまずはスージー&ザ・バンシーズあたりじゃないのか?という意見は多いはずで、確かにそれが第1回目に相応しいかも。がしかし、なぜか今回のROCKHURRAHのくくりは「強くて張りのある歌、そして時々ダミ声」というテーマに先程決定したんだよね。その辺の気まぐれ心情は本人以外誰にもわかるまいて。だから今日はこういう感じにさせてくんなまし。

70年代、パンクの時代にとても有名だったスティッフ・レーベルはラフ・トレードやチェリー・レッドなどと共にインディーズ・レーベルの先駆け的な存在だった。ここに書くだけで数十行にはなるだろう(だから敢えて書かないが)有名アーティストを数多く抱え、音楽ファンの熱い視線を受けていたのがスティッフだったのだ。 そのスティッフが同じ年、1978年に対照的な二人の女性シンガーを世に送り出した。 それがリーナ・ラヴィッチとレイチェル・スウィートだ。

リーナ・ラヴィッチは現在ウィキペディアで調べると生い立ちとかすぐにわかってしまうけど、彼女がデビューした78年には当然インターネットもなく、ほとんどの雑誌メディアとかではハッキリした事がわからないミステリアスな女性シンガーというような扱いだった。デビュー・アルバムも「Stateless(国籍ナシ)」だし。 美人と言えるのかどうかの判断は見た人の感想にお任せするとして、かなりハッキリした顔立ち、そして三つ編みがトレードマークだった。東欧系、あるいはジプシーの占いばあさんを思わせるようなルックスですな。というか東欧系は実際なんだけど。

パンク以降の女性アーティストの特色としてはまず、目立つ事とファッショナブルである事が話題になる条件だったと思う。ジャニス・ジョップリンの時代ならまだしも、いくら歌がすごくてもニュー・ウェイブ世代でジーンズにTシャツ一丁で熱唱するヴォーカリストはこの時代には皆無に近かったんじゃなかろうか? そういう時代も踏まえて、このリーナ・ラヴィッチの謎めいたスタイルはそこそこ成功したと思える。強烈にヘンな部分はないけど無理やりイメージ作りしましたという感じはしなかったからね。 ROCKHURRAHは歌ってる映像もリーナ・ラヴィッチのハッキリしたルックスも良く知らなかったけど彼女のアルバムを聴いて「これぞ確かにニュー・ウェイブ(それ以前のロックにはなかったもの、という意味で)」だと狂喜したものだ。何もかも終わってしまった時代の人にはかわいそうだが、何か新しいものが生まれる瞬間に居合わせた興奮や高揚感はこの時代の誰もが感じた事だろう。

リーナ・ラヴィッチを聴くと、当時のパンク、ニュー・ウェイブをアイワのカセットボーイ(ウォークマンの亜流みたいなもの)に入れて原付バイクに乗り、小倉の埋立地に一人で行ってはずっと聴いていた我が少年時代を思い出す。ターンテーブルでもなく自宅のステレオでもなく、アウトドアで聴く90分の音楽トリップ、これが生活の基本だったなあ。

話が逸れてしまったが、リーナ・ラヴィッチの歌い方には結構強烈なものがあって、ロカビリーでよく使われるヒーカップ唱法をうまく取り入れているのが特徴。声が途中で裏返ってしゃっくりみたいになる歌い方ね。この歌い方は可憐な声よりは野太いダミ声にやはりピッタンコなので、彼女は自分の声の特色を最大限に活かす事に成功したわけだ。演奏や曲にはロカビリー色はなく、シンセサイザーやサックスなどを導入してはいるが、いわゆるパワーポップ的なノリで小難しい部分はない。

「Lucky Number」は1stの一曲目で初期の代表曲と言える。この後、髪型や服装が多少変わったりするけど、彼女の歌い方や奇抜な表情とアクション、それらの全ての基本形は既に完成されている。数々のアート・スクールを渡り歩き、サルバドール・ダリの家にまで押しかけたという過去を持っているらしいが、確かにダリ直伝のビックリしたような表情の影響が感じられる(なわけないか)。

「Say When」も同じ1stアルバムに入っている大好きな曲。後の時代のカウパンクと呼ばれるような音楽の原型とも言えるべき見事なヒーカップ。この時代からROCKHURRAHはこういう傾向が好きだったんだな。途中にビートきよしの「やめなさい!」みたいなポーズが多用されていて一体何を表現したいのかわからないが、とにかくヘンなのは確か。しかも後にトイ・ドールズが確立した体操アクションまでやっているよ。

この手のキワモノ路線は最初のインパクトが強いけど飽きられるのも早いのが世の流れ。リーナ・ラヴィッチは後からどんどん出てきた女性シンガーの中であまり目立たなくなってしまったが、手を変え品を変え生き延びてメジャーにならなかったから、それがまた尊いんじゃなかろうかとROCKHURRAHは思うよ。

レイチェル・スウィートについては最初、リーナ・ラヴィッチほどにはインパクトを受けなかった、というのが正直なところで、彼女について思い出したのは他の事がきっかけとなった次第だ。

このブログでも前に書かれているが、SNAKEPIPEは悪趣味映画の帝王、ジョン・ウォーターズ監督の映画が大好きで、ほぼ全作品を観ている。ROCKHURRAHは「ピンク・フラミンゴ」とか「クライ・ベイビー」「シリアル・ママ」などは観ていたんだが、監督について何かを知って観ていたわけではなく、たまたまの偶然。で、SNAKEPIPEと知り合い一緒に何本か観たわけだが、その中の有名な一本が「ヘアスプレー」だった。数年前に別の監督がリメイクしているが、オリジナルはこのウォーターズ版というわけ。

ブロンディのデボラ・ハリーやカーズのリック・オケイセックが俳優で出てるし、音楽はウォーターズの趣味を全面的に反映した50’s〜60’s調。ミュージカルとしても大変面白い映画だったが、そのテーマ曲を歌っていたのがレイチェル・スウィートだったのだ。レイチェル・スウィートを知らなかったSNAKEPIPEと「ヘアスプレー」を知らなかったROCKHURRAHが一緒に観た事によって、数十年ぶりにこの名前が浮上したというだけの話なんだが、こんな事でここまで長く書けるのもなかなかすごいな。

さて、レイチェル・スウィートはオハイオ州アクロンの出身で顔立ちもアメリカのアイドル風、無国籍で怪しいリーナ・ラヴィッチとはとにかく対照的だった。1stアルバムのジャケットを見る限り、どう見てもニュー・ウェイブ系の女性シンガーとは思えなかったんだが、なぜかイギリスのスティッフ・レーベルから売りだしたのがミスマッチ。同郷の偉大なバンド、DEVOがヒットしたもんだから「何かわからんがアクロン、すげえ」などと思って一緒くたに輸出されたのか?えっ、違う? しかし歌を聴いてみると納得、かわいい顔立ちからは想像つかないような、結構コブシの効いた歌いっぷりは堂々としてるもんだ。 まあ、天才子役シンガーみたいなもんで子供の頃から既にカントリーの世界で歌っていたらしい。50年代に活躍したぶっ飛び姉弟ロカビリー・デュオ、コリンズ・キッズなどの前例もあるし、珍しい事ではなかろう。 それがティーンエイジャーになってスティッフから売りだされた時は、アメリカ伝統のガールズ・ポップ要素のある女性ロック・シンガーという路線だったんだろうけど、とにかく当時はニュー・ウェイブの新奇な部分を追い求めていたROCKHURRAHにはその路線があまり興味なかったわけだ。 2ndでは1stのかわい子ちゃん(死語?)っぽさをバッサリ切り捨てて突っ張った女を演出してみたが、これもまた何だか中途半端だと思えた。ダムド「New Rose」のカヴァーとかは良かったけどね。 結局、このレイチェル・スウィートはかなりパンチのある(またまた死語)歌声の持ち主だから、ロックでもR&Bでもカントリーでも何でもこなせただろうし、見た目と声のギャップで損してるタイプなのかもね。

そんな伸び悩みタイプのレイチェル嬢が一番自然に見えたのがこの「ヘアスプレー」だ。映画本編には出てなかった(と思う)んだが、このプロモ映像を見る限りでは出演者でも充分いけたんじゃなかろうか。ニュー・ウェイブ世代でもトレイシー・ウルマンやマリ・ウィルソンなど60年代っぽさを取り入れたシンガーはいるから、その路線に徹底すればあるいはビッグになれたかもね。しかし88年の映像(この時、たぶん26歳くらいだと思うけど)なのに、ティーン時代よりもさらに子供っぽい顔立ちになってるよ。まさに女は深遠。

というわけで今回はスティッフ・レーベル初期の女性シンガーに焦点を当ててみた。 やってる事や展開は「時に忘れられた人々」シリーズと全く同じという気がしないでもないが、たぶん気のせいでしょう。ではまた来週。

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